剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 お待たせしました。

 旦那と我様がいない為に、駆け足になりそうな予感。

 幾つかのイベントがすっ飛んでいきそうですが、その辺は何とかしようと思います。

 あと、面倒が嫌いな人様。

 貴重な意見をありがとうございます。 

 こちらの構想の参考にさせていただきます。


冬木滞在記(1994)02

「シリリリ・プン・プン・プン……チャッッ!! ケチャケチャケチャケチャッ! チャチャチャッ! チャチャチャッ! チャッッ!!」

 荘厳な雰囲気をかもし出す礼拝堂にそぐわないオリエンタルな音楽と共に、男の叫びが木霊する。

 この神の家を管理しているであろうカソックに身を包んだ屈強な老神父、そして彼に似た若き神父の隣では、腰ミノ一丁の男が一心不乱にインドネシア・バリ島名物『ケチャ・ダンス』を踊っている。

 ステンドガラスから差し込む光の中でひたすらに踊り狂う男、その光景はまさに異様の一言だった。

「…………時臣君」

「ご迷惑をおかけします、璃正(りせい)神父。ですが、もう少し。もう少しで何かに届きそうなのです」

 この街で行われている聖杯戦争の監督役である老神父、言峰璃正が戸惑いがちに出した声に、中年ケチャダンサーと化した男、遠坂時臣は額の汗を拭いながら答える。

 君はいったい何処に行くつもりなんだ?

 口を突きそうになったツッコミを、老神父は慌てて飲み込んだ。

 冬木の聖杯戦争における『始まりの御三家』の一角、遠坂家の当主である彼は今回の聖杯戦争に必勝を賭していた。

 隠れキリシタンであった祖先と父の縁故を頼りに監督役である聖堂教会を味方に付け、璃正神父の息子であり執行者と呼ばれる教会の武力要員であった息子の綺礼(きれい)がマスターに選ばれたと聞けば、率先して魔術の弟子に取った。 

 そしてアサシンのマスターとなった綺礼と同盟を結び、諜報と実戦の二つに役目を分ける事で情報戦において優位に立つ基盤も築き上げた。

 さらには自身のサーヴァントとして、人類最古の英雄王であるギルガメッシュの召喚にも成功した。

 世界中の財を集め、後の神話や英雄譚に現れるあらゆる武具や道具の原典を持つと言われる英雄。

 それは即ち、如何なる英霊の弱点を突くことが可能なサーヴァントキラーというべき規格外の英霊だ。

 そうやって入念な準備を重ねた彼は、まさに磐石(ばんじゃく)というべき体制で今回の戦争に臨んだはずだった。

 しかし現実は非情である。

 そこまでの努力を重ねたにも(かかわ)らず、英雄王は序盤にて敗退。

 遠坂時臣の聖杯への、そして一族と魔術師の悲願である■■■■への道も絶たれた。

 英雄王の敗北が他のサーヴァントによるものならば、屈辱と涙を呑んで彼はそれを受け入れただろう。

 しかしバーサーカーとの戦闘中に英雄王を暗殺したのは、仮面を着けた謎の男。

 そう、英霊ではなく人間だったのだ。

 そのあまりにも予想の斜め上すぎる事態に、遠坂家の家訓である『どんな時でも余裕を持って優雅たれ』などというモノは完全に消し飛んだ。

 時臣はもがき苦しみ世の不条理へ呪いの言葉を吐いた後に、このような事態に陥った原因を探求しようとした。

 その結果がコレだ。

 彼の思考回路の中で何がどうなったのかは分からないが、襲撃者が着けていたのがバリ島の名産品である魔女『ランダ』の面であったという理由で、昨夜から延々と『ケチャ・ダンス』を踊り続けているのだ。

 なぜダンス衣装一式を持っているのか、どうしてそんなに踊る姿が堂に入っているのか、等々ツッコミどころは満載だったのだが、老神父は傷心中である親友の息子に掛ける言葉を持たなかった。

『彼も一流の魔術師、時が経てば現実を受け入れるだろう。せめて、せめて、それまでは好きにさせてやろう』

 そんな慈悲とも同情ともつかない心と共に十字を切る老神父は知らない。

 神に祈りを捧げる父親の隣で、息子が師の醜態に我知らず口角を吊り上げている事を。

 

 間桐雁夜は使い物にならなくなった半身を引きずりながら、監督役のいる教会へ向かっていた。

 深手を負ったもののバーサーカーは健在なのだから、脱落者として保護を求めてではない。

 彼の目的はアーチャーを失って保護されているであろう怨敵、遠坂時臣を抹殺する為だ。

 言うまでも無いが、監督役の保護を受けているマスターを狙うのは違反行為である。

 しかし、遠坂時臣のサーヴァントである黄金のアーチャーを自身のバーサーカーが討った以上、そのマスターの生殺与奪の権利は自分にある。

 雁夜はそう信じていた。

 そのアーチャー討伐についても現実は大きく違うのだが、彼は間桐臓硯による魔術師への肉体改造によって常に苦痛を味わっている為、事実を正しく認識する事が出来なくなっていた。

 教会の入り口に辿り着いた雁夜は荒くなった息を整えながら、重厚な扉のノブに手を置いた。

 時臣を討つとなれば、当然教会関係者から妨害があるだろう。

 ターゲットも一流の魔術師なのだから、無抵抗に死を受け入れる訳がない。

 しかし、それもバーサーカーに任せれば一切合切が解決する。

 昨夜の傷が完全に回復したわけではないが、それでも人間の魔術師相手なら遅れは取るまい。

 バーサーカーによって無残に討たれる怨敵の姿を夢想して、雁夜は引き()った笑みを浮かべる。

 ようやく、今までの雪辱を晴らす時が来た。

 未だに身体を苛む苦痛の借り。

 桜ちゃんを地獄に突き落とした事。

 葵さんから子供を取り上げて悲しませた事……ッ!

 全ての悪行のツケをここで払わせてやるッ!!

「とぉぉきおみぃぃぃぃぃっ!!!」

 絶叫と共に扉を開け放った雁夜が見た物は、

「チャッッ!?」

 腰ミノ一丁で優雅に舞い踊る怨敵の姿。

 ……その瞬間、教会の空気が死に絶えた。

 

 セイバーのマスターである衛宮切嗣は、購入したハンバーガーで栄養補給を行いながら、昨夜の事を思い返していた。

 初戦における戦果は、とてもではないが(かんば)しいとは言えない。

 自身のサーヴァントは右手に癒えぬ傷を受けた事で切り札の聖剣が封じられた。

 その傷を与えたランサーを討つ事も出来ず、さらにはバーサーカーにまで押される始末。

 自身も死んだはずのアサシンが現場にいたことにより、他のマスターへの暗殺を実行に移せなかった。

 唯一の朗報と言えば、規格外と思われていたアーチャーのサーヴァントが脱落したことだが、それも彼のサーヴァントを暗殺しうる謎の男が暗躍しているという事実を思えば帳消しだ。

 最強のゴーストライナーと言われる英霊を倒しうる存在。

 あの男がただの協力者ならまだ救いがあるが、万が一にも最後のクラス(恐らくはキャスター)のマスターだとしたら、事態は最悪といえる。

 自身の工房に潜み、強力な魔術を行使し続けるサーヴァントと、そのバックアップを受ける英霊殺しのマスター。

 ある意味で言えば、あの黄金のアーチャーよりもタチが悪いと言えるだろう。

 背中に圧し掛かる未知の敵へのプレッシャーと、ロクな戦果を上げられない自身の従者への苛立ちから、切嗣は手にしたハンバーガーを乱暴に噛み千切る。

 今はアサシン以上に危険かもしれない、謎の男についての情報を得るのが先決だ。

 サーヴァントも姿を見せず、例の仮面のせいで肝心の当人の風貌も不明。

 手がかりなど殆どありはしないが、座して待っているよりはよっぽど建設的だ。

『僕は負けるわけにはいかない。抱き続けた願いの為、身を(てい)して理想に賛同してくれているアイリの為。なにより、残して来たイリヤの為にも絶対に聖杯を手に入れなければ……』

 決意を新たにした切嗣は、懐から取り出した写真を睨みつける。

 そこには、昨夜隠し撮りした仮面の男が映っている。

「デスクィーン師匠、何者なのだ……!?」

 

 冬木滞在記(1994) 4日目

 

 

 昨夜、倉庫街の一件のあとで冬木市の有名な高級ホテルが倒壊したらしい。

 マクール君の話だと、そのホテルの最上階をランサーのマスターが拠点にしていたのだとか。

 という事は他のマスターからの攻撃か? と確認すると下手人はセイバーのマスターだそうだ。

 『アルトリアの聖剣を封じている不治の傷の解除の為に、マスターを狙ったのでは?』とは姉御の弁である。

 で、そのセイバーのマスターだが、なんでも『衛宮切嗣』とかいう魔術師専門の殺し屋だそうだ。

 過去の事例ではターゲット一人を殺る為に、旅客機を堕として乗客全員を巻き添えにするなど過激な手を厭わない男で、今回の件もそいつの仕業に違いないとのこと。

 だとすれば、外を出歩く際には姉御の恰好に注意する必要があるな。

 胸や令嬢然とした雰囲気という違いはあるものの、今の姉御はアルトリアの色違いと言ってもいいくらいに容姿が似ている。

 アルトリア本人に見つかるのはもちろん、そいつに知られても聖杯戦争関係者とバレるのは間違いない。

 拠点云々という事もあるが、昨夜のように罪のないホテルが犠牲になるのは拙い。

 こっちだって堅気(かたぎ)の衆に迷惑をかけるのは、流石に心が痛むのだ。

 まあ、姉御にイラン事したら即座にブチコロスけどね。

 しかしそうなると分からんのが、あの白いご婦人である。

 アルトリアは彼女がマスターのように振る舞っていたが、もしかしてダミーなのか?

 なるほど、そう考えれば倉庫街の狙撃手たちも納得がいく。

 おそらくアルトリアと彼女を囮にして、自身は油断している敵マスターを狙うという算段だったのだろう。

 なかなか合理的な手である。

 これは早めに始末しておいた方がいいか?

 姉御を狙われたら厄介だし。

 姉御の護衛をアグラヴェインに任せて、俺とマクール君が手分けをすれば見つけるのは難しくないだろう。

 取り敢えず、マクール君にはカメラを渡してその男の写真を撮ってもらうようにお願いしておいた。

 色々と働かせてすまないが、無茶はしないように気を付けてもらいたい。

 

 冬木滞在記(1994) 5日目

 

 

 監督役である教会から招集があった。

 マスター本人が行く必要は無いらしいので、姉御の使い魔である鴉の三郎に代役をお願いしたところ、なんと『デスクィーン師匠』の討伐を言い渡された。

 監督役の老神父曰く『サーヴァントを撃破しうる謎の人物の存在は、聖杯戦争を根底から破壊する可能性がある』とのこと。

 マクール君の話では、あの黄金のアーチャーのマスターは教会と裏で繋がっていたらしいから、その辺の兼ね合いもあるのだろう。

 あと、彼はアサシンのマスター権も本来の人物からアーチャーのマスターに引き継がれたのではないか、と予想を立てている。

 マクール君達の主がどんな男だったのか、という話題には興味が無いワケではないが今は置いておこう。

 ちなみに、今回の狩りの報酬は監督役がため込んでいた予備令呪一画だそうな。

 アグラヴェインを戦わせる気はないが、有って邪魔になるものでもなし。

 貰っておくに越した事が無いだろうが、どうしたものか。

 お面を持っていったら、倒した証拠になったりしないだろうか。

 …………ダメ? 

 

 冬木滞在記(1994) 6日目

 

 

 マクール君から報告があった。

 なんでもランサーのマスターが、セイバー陣営の本拠に攻め込んだらしい。

 教会から『デスクィーン師匠』を討つまで交戦禁止令が出ていたのだが、どうやら目撃情報をでっち上げて攻め込む理由にするハラのようだ。

 自分の本拠を爆破された報復なのだろうが、なんともガッツのある魔術師である。

 こちらをダシにされるのには思うところは無くもないが、この状況は放置するには少々惜しい。

 上手く立ち回れば、衛宮切嗣の事や倉庫街で感じたアルトリアへの違和感等が纏めて片づくかもしれない。

 幸い、マクール君も姉御が作った気配遮断強化の礼装のお蔭で、他のアサシンには見つからないようだし。

 ここは一丁、ランサー側の嘘を誠にしてやろうではないか。

 そうと決まれば、姉御と打ち合わせと行こう。

 うむ、今夜は忙しくなるぞぅ!




雪娘

剣キチ 「ハサーン氏が採用されたようです」
モル子 「初め見たときは、若奥様が青い顔で『何だか首を刺された後で滅多刺しにされそう』とか言ってたんだけど、上手く行って良かったわ」
剣キチ 「というか、この聖杯戦争ってまだ誰も脱落してないんだよね」
モル子 「あら? さくらんに金ぴかっぽいの食べられてなかった?」
剣キチ 「……モル子、藪を突いてはいけない」
モル子 「OK、サー」
モル子 「でも、あの筋肉ダルマって貴方斬り殺したんじゃなかったかしら?」
剣キチ 「ああ、ヘラの栄光さんね。彼って自動蘇生とかいうのがあったから、復活してると思うよ」
モル子 「得意の因果の破断で斬らなかったの?」
剣キチ 「幼子との思い出は斬れませぬ。具体的に言うと『冬の城』」
モル子 「まあ、あんなちっちゃい子の思い出を消しちゃうとか、どう考えても外道のやり口だもんね」
雪ん子 「誰がちっちゃいのよ!?」
バサカ 「お嬢様! 人様の家に上がる時には挨拶からですぞ!」
剣キチ 「またしても来客が」

紳士

剣キチ 「前回までは裸の蛮族だったのが、タキシードを着こなす紳士になっている件について」
モル子 「本当。肉密度300%とは思えないくらいに紳士だわ」
バサカ 「照れますな」
雪ん子 「照れてる場合じゃないでしょ!!」
モル子 「それでどうしたの、お嬢ちゃん。パパと遊びに行くなら遊園地の方がいいわよ?」
雪ん子 「心の底からバカにしてるでしょ! あんた達のせいでバーサーカーがこうなったんだから、責任取りなさいよ!!」
剣キチ 「冤罪です」
モル子 「エンザイムです」
雪ん子 「バッチリ有罪でしょうが! それとそこっ! 私のジャパニメーションのトラウマを抉らないでよ!!」
バサカ 「お嬢様、あのようなバイオレンス溢れるアニメは見てはいけないと何度も……」
雪ん子 「私が悪いんじゃないもん! 『マジカルムサシ』を見ようと思ったら、リズが勝手にDVDを入れ替えてたのよ!!」
剣キチ 「あの歳でガイバーを見るとは……あの娘っ子、出来ておる」
モル子 「ガレスとニニューさんの所為で、私達も随分とアニメに詳しくなったものね」
剣キチ 「アマゾネスは禁止にしようかな……」

罪状

雪ん子 「話を戻すけど、そこの剣士に斬られてから、バーサーカーの狂化が外れちゃったのよ……」
剣キチ 「……ああ」
モル子 「心当たりあるの?」
剣キチ 「なんか、宿業か因果かを斬っちゃったような気がする」
モル子 「あらやだ、ギルティ?」
バサカ 「裁判員としてノット・ギルティに一票を。狂化が解けたお陰で、こうしてお嬢様にお仕え出来るのはとても素晴らしいと思うので」
モル子 「いい人じゃない。どうしてイヤなの?」
雪ん子 「イヤじゃないわよ。けど、今まで吼えて暴れるのがバーサーカーだったから、いきなり紳士っていうのは慣れないというか……」
剣キチ 「そういう時は考えるんじゃない、感じるんだ」
雪ん子 「ことの元凶が偉そうに言わないでよっ!!」
モル子 「怒りっぽいわね。そんなんじゃ大きくなれないわよ?」
雪ん子 「私はもう18よ!!」
剣キチ 「マジでか」
バサカ 「お嬢様は特殊な出生ゆえに、成熟した身体にはなれないのです。うっうぅ……」
雪ん子 「泣かないでよ、バーサーカー! 私は今の身体、気に入ってるんだから」
剣キチ 「随分と業の深そうな一族だな。宿業斬っちゃろか?」
雪ん子 「絶対イヤ!」
モル子 「ふむふむ……なるほどね」
バサカ 「どうかしましたか? マダム」
モル子 「解析完了っと。貴女、もしかしたらバインバインになれるかもしれないわよ?」
雪ん子 「なん……だと……」

結果にコミットするか? 

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