剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 お待たせしました。
 
 旦那がいないと話が作りにくいよぉぉぉ。

 旦那、旦那ぁぁぁぁッ!

 グロとネタ枠じゃなかったんですね!!

 ヒゲの旦那の偉大さを思い知った回でした。


冬木滞在記(1994)03

 どうも皆様。

 デスクィーン師匠こと剣キチです。

 秋の夜長と言うように、冬を目前にした太陽は沈むのが早い。

 辺りはすっかり夜の帳が降りて、街には色とりどりのネオンや気の早いサンタクロースの装飾が道行く人たちの目を奪う。

 そんな冬木の町並みから離れた小さな森林地帯。

 所有者が外国人とか怪しい雰囲気が漂っているとかで、地元民も寄り付かない一種の心霊スポットみたいな場所に俺は来ている。

 今の格好は安定のデスクィーン師匠。

 今回の目的は色々とあるけど、優先すべき事はアルトリアについての確認だ。

 倉庫街で見たあいつは、ブリテンの時では考えられなかったような事が多々あった。

 先ずは聖剣の鞘を持っていなかったこと。

 セイバーとして召喚されたから槍はないってのは分かる。

 けど、剣を収める鞘まで無いというのは変だろう。

 次に、このデスクィーン師匠スタイルを見ても俺と気付かないのも妙だ。

 実はアルトリアは選定の剣が折られた時のことが半ばトラウマになっていた。

 その所為で剣術指南の時でも、俺とは模擬戦すらしていなかったのだ。

 それだけの衝撃を受けたというのに、この格好を見て俺と気付かないどころか元気いっぱいで聖剣をフルスイングしてたんだから、どう考えてもおかしい。

 姉御もアルトリアの様子に違和感を感じていたらしく、倉庫街の次の日には『アーサー王』関連の書籍を買ってきて片っ端から読んでいた。

 それで分かったことは、この世界のアーサー王の伝説は俺達が体験したものと大きく食い違っていると言う事だ。 

 姉御とアルトリアが敵対してるとか、うちの子がマジにロット王の子だった、なんていうのはまだ序の口。

 酷いところになるとガレスやギャラハッドが円卓入りして死んでるわ、モードレッドがアルトリアと姉御の子でブリテンを滅ぼすわ、ともう滅茶苦茶だった。

 読み終わった後、親子三人でマヌケヅラを(さら)したのも仕方が無いと思う。

 そこまでの情報を集約した姉御の出した推測は『ここは俺達の世界ではなく、平行世界なのではないか』ということだった。

 妖精郷は現実世界と星本体の間に存在する、言わば世界の裏側と呼べる場所だ。

 当然、現実世界に比べれば世界の壁というのは薄いわけで、地脈というのも混線しがちになる。

 今回、俺が縮地法をしくった所為で、平行世界の壁を越えて別の現実世界に来てしまったのではないか? ということらしい。

 ちなみに姉御が平行世界の壁を越えられたのは、単純に俺をガイドビーコンにしたからだ。

 この仮説が事実だとすると、次の疑問になるのは『なんで俺達の世界のアグラヴェインが出てきたのか』という事になる。

 コレに関してはアグラヴェインから説明された。

 聖杯戦争の英霊召喚で任意の英霊を呼び出そうと思ったら、呼び出す対象に強いつながりがある触媒が必要なんだとか。

 で、あの殺人犯の兄ちゃんは召喚陣に何も置いてはいなかった。

 しかし召喚儀式中に俺が陣に現れたことによって俺自体が触媒となり、結果アグラヴェインが召喚されたということらしい。

 ここまでツラツラと説明したが、これらは全て仮説でしかない。

 それが真実かを確かめる為に、こんな人気のない場所に来たのだ。

 骨董品屋で買った黒塗りの鞘に収まった日本刀を手にブラブラと歩いていた俺は、手頃な切り株の上に座り込んだ。

 目を閉じて意識を集中すると、現在この森にいる者達の動きが手に取るように分かる。

 アルトリアはこちらに向かって爆走しており、その後ろをランサーが追っている。

 ランサーのマスターは森の中心部へと歩を進め、それを待ち構えるのは倉庫街にいた狙撃手の片割れ。

 そして、セイバーのマスターを演じていた女性は、もう一方の狙撃手と共に中心部から離れようとしている。

 予定外なのは、偽マスター達の元へ感じた事の無い気配が近づいていることか。

 場の状況はいい感じに混沌としている。

 仕込みの方も順調のようだし、後はこちらがサーヴァント二体を()き付けて置けば問題は無い。

 俺は仮面の下で薄く笑みを浮かべ、ゆっくりと腰を上げた。

 それと同時に前方の落ち葉が舞い上がり、風を巻いて目の前に現れた者がいる。

 白銀の鎧を纏った少女騎士、アルトリアだ。

「デスクィーン師匠! 何を思って現れたかは知らんが、貴様はここで討たせてもらう!!」

 威勢のいい言葉と共に、風によって隠された切っ先をこちらに向けるアルトリア。

 サマにはなっているのだが、こちらとしてはブリテン時代のイメージが先行するので違和感が凄い。

「血気盛んなのは結構だが気を静めるがいい、騎士王よ。私に交戦の意思は無い」

「戯言をっ! ならば、何故ここに現れた!?」

「かつてブリテンの地に生きた者として、貴公に聞きたいことがあってな」

「なんだと……」

 こちらの言葉に(いぶか)しげな表情を浮かべるアルトリア。

 まあ、いきなりこんな事を言われても『はい、そうですか』とはいかんだろうな。

「信用できない、という顔だな。ならば、貴公が存命の時に花の魔術師から聞いたであろうブリテンの状況について語ろうか」  

「いいだろう。だが、偽りだった場合は貴様の首を貰うぞ」

「嘘だと断ずれば、(いく)らでも打ち込んで来てくれて構わん」

 そう前置きをして、俺はかつてのブリテンの状況を口にした。

 初めは胡散臭(うさんくさ)そうな視線を送っていたアルトリアも、神代から人理へと世界が移行した事によるブリテンの神秘とエーテルの枯渇。

 その影響によって続く凶作や、対策としてフランスにあるランスロットの領地からの輸入に頼っていた事を口にすると、どんどん顔が強張っていく。

「大まかに言えばこんなところだが、間違いはあるかね?」

「……いや。マーリンから聞いた事も、ブリテンを取り巻いていた状況も誤りは無い。しかし、本当に貴様はブリテンの民だったのか?」

「半ば世捨て人として山に住んでいたが、一応はブリテンに根を張っていた。長寿については、彼の魔術師と似たような存在だと思ってもらえればいい」

 そう言うと、アルトリアは構えていた剣を下に下げた。

 ようやく話し合いに応じる気になってくれたらしい。

「貴殿がブリテンの民であった事は認めよう。そしてそちらの問いに答えるのも(やぶさ)かではない」

「感謝する。では、一つ目の問いと行こう。貴公はアルガという男の名を聞いたことがあるか?」

「いいや」

 俺の言葉にあっさりと首を横に振るアルトリア。

 身内と同じ姿の人間に自分の事を知らんと言われるのは、分かっていても結構クルものがあるな。

「……二つ目、ブリテンが滅んだ原因は?」

「…………モードレッド卿の反乱だ」

 顔を(しか)めながらも、こちらの質問に答えるアルトリア、いやセイバーと呼ぶべきか。

 これは姉御の予測が当たっていたと考えていいだろう。

 同時に目の前の騎士もこの世界のアーサー王という事になる。

 これで彼女を生かしておく理由はなくなったワケだが、どうしたものか。

 一応、予定ではマクール君の仕事が終るまでは陽動という事になってるしなぁ。

 ここでセイバーを脱落させて段取りが狂うと、彼の身も危うくなるかもしれんし。

 ……取りあえずは時間稼ぎを続けるか。

「これが最後の問いだ。騎士王よ、貴公が聖杯に掛ける願いは何か?」

「決まっている。我等が祖国、ブリテンの救済だ」

 迷う素振りも見せずに己の願いを言い切るセイバー。

 そのハードルの高さに俺は思わず(うな)ってしまった。

「どうした。我が願いにおかしいところでもあったか?」

「おかしい、というよりも厳しいだな。騎士王よ、貴公はどのようにしてブリテンの救済を願うのだ?」

「どのように?」

 意図せぬ質問を受けたかのように目を(しばた)かせるセイバー。

「ブリテンを救済する為にどのような手段を講じるのか、ということだ」

「手段も何もない。私は聖杯を手にし、ブリテン救済を願うだけだ。聖杯が真に万能の願望器ならば、具体的な指示を下さなくても祖国の救済は成るだろう」

 そういうものなのだろうか?

 剣キチにはとんと分からぬ以上、こういう時は専門家に判断を任せるのが妥当だろう。

(姉御、姉御。今、大丈夫か?)

(問題ないわよ。そっちの状況も渡した礼装でモニターしてたから、大体は掴んでるわ。それで、セイバーの言っていた事が可能かどうか聞きたいのね?)

(さすが、話が早い)

(結論から言うと不可能よ。セイバーのブリテンの状況が私たちと変わらないのなら、世界が滅ぼしに掛かっていた事になる。聖杯という魔術式を利用してその状況を覆すのなら、等価交換の法則から世界と同等の規模の力が必要になるわ)

(一地方都市の地脈を利用して成り立っている、ここの聖杯じゃ全然力不足って事か)

(そういう事)

(サンキュー、助かった)

(どういたしまして。魔術は素人なんだから、ボロがでないようにね)

 姉御とのテレパシーを打ち切った俺は、改めてセイバーに意識を向ける。

 いやはや、こういう時は仮面って便利だよな。

 虚空に向けてマヌケ面晒しててもバレないし。

「騎士王よ。その方法では願いをかなえる事はできぬかもしれんぞ」

「なんだと!?」 

「冬木の聖杯は本物の聖遺物ではなく、この地を走る龍脈を利用した魔術式だ。例え本来の聖杯と同じく奇跡を再現できたとしても、等価交換の法則から蓄えられた魔力を超える願いは叶えられない。我々の知るブリテンは世界から滅びを定められていた。その運命を(くつがえ)すには冬木の聖杯では力不足となる可能性がある」

 理路整然と説明してやると、セイバーの顔色が怒りの赤から蒼白へと切り替わっていく。

 他人の(フンドシ)で相撲取ってるというのに、我ながら態度がデカいものだ。

「私を(たばか)るつもりか!? そのような言葉で揺れるほど、我が決意は(やわ)ではない!!」

 顔色を悪くしながらも、こちらの言葉を跳ね除けようと声を荒げるセイバー。

「そのような意図は無い。ブリテンの(ろく)()んでいた者として貴公の願いは興味深かったのでな、不測の事態に至る可能性を示唆(しさ)したまでのこと。本当にブリテンを救いたいのなら、その大望とは別に次善策を用意すべきだと思うぞ」

「次善策……」

「一つ例に挙げるとすれば、貴公の意識そのもの。もしくは経験と知識を過去のブリテンに飛ばして、当時の騎士王に融合させるという手だ。これが成功すれば、未来を知った状態で再度治世に(のぞ)める訳だから、ランスロットとグィネヴィアの不倫やモルガン───ッ!」

 頭に浮かんだ思い付きを口にしていた俺は、刺すような殺気にその場を飛び退いた。

 すると次の瞬間、さきほどまで頭があった場所を紅い閃光が突き抜けていく。

「我が一撃を(かわ)すか。アーチャーを仕留めバーサーカーを退けたのは、やはりまぐれではなかったようだな」

 暗がりから姿を見せたのは、二槍を手に緑の装束に身を包んだ優男、ランサーだ。

「緑の猟犬が追いついて来たか。狙いは私か貴公かはわからんが、どちらにしても話は終わりだな」

「待て、デスクィーン師匠! 貴殿との話はまだ……ッ!?」

 セイバーの制止の声をよそに俺はゆっくりとランサーと対峙する。

 マクールからの終了連絡は無い。    

 ならば、二騎はここに押し留めていなければなるまい。  

「その剣、抜かぬのか?」

「ああ」

 槍を持った両手を左右に広げ、まるで翼を広げた鳥のような構えを見せるランサーとは裏腹に、こちらは手をだらりと下げたままの自然体。

 そのうえ手に持つ段平(だんびら)は鞘に収まったまま、と十人が見れば全員がこちらに戦意がないと判断するだろう。

 現にランサーもこちらの態度に不快げに表情を歪めている。

「随分とこちらを()めてくれるな……」

 奴の足が土を噛む音が響き、臨戦状態に入ったことで漲っていく全身の筋肉。

 同時に押し寄せる槍兵から(にじ)み出た濃密な剣氣と殺気が、俺達の間の空間をグニャリと歪ませて行く。

「気に入らんか? ならば、貴様の力で抜かせてみるがいい」

「そうさせてもらおうッ!!」

 こちらの言葉を合図にして、槍兵のいた場所が弾けた。

 半ば音を置き去りにした踏み込みと共に放たれる刺突、紅の閃光と化したそれを黒塗りの鞘が次々と絡め取っていく。

 数発目の今までより深い踏み込みから放たれた紅槍をいなしながら懐に飛び込むと、今度は第二陣である黄の短槍が待っている。

 一瞬でスタンスを入れ替えたランサーの手から放たれる黄の連撃。

 しかし、それ等も波濤任櫂によって木を打つ軽い音と共に次々と捌いていく。

 亜音速の攻防の中、さらに一歩を踏み込んだ瞬間に短槍を持つランサーの腕に迷いが見えた。

 咄嗟(とっさ)に放とうとしたのは突きではなく横薙ぎ。

 だが、今のタイミングではこちらの身を穂先で捉える事はできない。

 それ故に慌てて突きに変更しようとしたのだが、それよりも早く黒塗りの鞘で奴の手の甲を打ち据える。

「っ……!?」

 短い苦鳴と共に黄の槍を取り落とすランサー。

 同時に身を(ひるがえ)した俺は、そのまま奴の頭部に向けて廻し蹴りを放つ。

「ぐはっ!?」

 翻ったコートの裾を目晦(めくら)ましに氣を込めた踵がランサーのコメカミを捉え、緑の槍兵は生い茂る樹の幹にその身を叩きつけられた。

 戴天流剣法・臥龍尾。

 剣撃への繋ぎとして使用する体術の一つで、衣服の裾を使って相手の視界を(ふさ)ぐと同時に急所へと脚打を叩き込む技だ。  

 本来ならここからさらに回転して遠心力を込めた刀を放つのだが、今は必要あるまい。

「身体に染み付いた癖が抜けぬようだな、ランサー」

 こちらの言葉に歯噛みしながらも短槍に手を伸ばすランサー。

 その間に斬り捨てる事もできたのだが、あえてこちらは手を出さない。

 倉庫街ではまともに切り結ぶ事も出来なかったのだ、時間稼ぎをしている間なら遊んだっていいだろう。

「本来の貴様の闘法は一剣一槍。長槍なら短剣を、短槍なら長剣を選んで中・近距離を網羅(もうら)する戦い方だ」

 『違うか?』と投げかければ、ランサーは苦笑いと共に再び構えを取る。

「よくぞ見抜いた。モラルタとベガルタがあれば、貴様の言うような闘い方をしていただろう」

(うつ)け。真の剣士は得物を選ばぬ。愛刀が無くば闘えぬなど、甘えに過ぎん」

 そう言って、俺は鞘に入ったままの刀を傍にあった樹に(はし)らせた。

 放った斬撃は鈴鳴りのような音と共に、綺麗に幹を両断する。

「私に剣を抜かせたければ、この位は出来るようになるがいい」

「なんと……」

「バカな、鞘に入ったままの剣で───」

 絶句する二人に俺は先程と同じく自然体で向き直る。

「さて、まだ続けるかね? こちらとしてはセイバーに確認したい事があっただけで、戦う意思はないのだが」

「当然だ。貴様は監督役が定めた聖杯戦争での排除目標、我が主の為にも見逃すわけには───主!?」

 こちらに向けて闘志を漲らせていたランサーだが、突然森の中心部へ向くと叫びと共に全速力で駆けて行った。

「むこうで何かあったようだな」

「彼の騎士のマスターが、我が陣営と刃を交えていたはずです。恐らくはそのマスターの身になにかあったのでしょう」

「貴公は出向かなくていいのか?」

「私は───キリツグ!?」  

 何か口にしようとして、先程のランサーのように森の中心部に目をやるセイバー。

「行くがいい。先程の件は機会があれば話す事もあろう」

「すまないっ!」 

 ランサーの姿を追うように、全身から魔力を迸らせて地面を蹴るセイバー。

 その姿が見えなくなると同時に、耳に入れていた小型通信機からマクールの声がした。

 「任務完了」と。 

 

 

 

 

 冬木滞在記(1994) 7日目

 

 

 昨夜は色々とあったが、一応当初の目的は果たせた。

 セイバーは俺達の知っているアルトリアではない事が分かり、衛宮切嗣も命までは取れなかったものの、戦線離脱確実の重傷を負わせる事ができた。

 今回の手口は単純だ。

 ランサーのマスターによるセイバー陣営への襲撃に合わせて俺が姿を見せる事で二騎のサーヴァントをおびき寄せ、確認がてらにセイバー達を足止めしている間にマクール君が衛宮切嗣を殺害するというものだ。

 マクール君が衛宮を襲ったのは、ランサーのマスターを倒した直後。

 強敵を倒して気を抜いた瞬間に後ろから肝臓を一刺ししたらしい。

 直後にランサーが現れた為に(とど)めを刺すことは断念したそうなのだが、それでもほぼ致命傷の傷を負わせたのは確実だとか。

 姉御の話では代を重ねた魔術師には魔術刻印と言う物があるらしく、そう簡単には死なないとのことなので油断は禁物か。

 というか、あの時ランサーを引き止めてたら止めさせたのね。

 マクール君、ヘタ打たせてすまない。

 ともかく、期日不明とはいえ衛宮切嗣の戦線離脱はありがたい。

 俺は大丈夫だとしても、姉御にとっては狙撃は脅威だったし。

 アルトリアの件がなかったら、俺が奴の首を刈りに行っていたのだ。

 あと、ランサーのマスターが衛宮切嗣によってリタイヤさせられた。

 マクール君が持って帰ってきた空薬莢を調べたところ、魔術によって防御した場合、対象の魔術回路を滅茶苦茶にするという術式が弾丸に込められていた事が判明。

 正直、その話を聞かされたときは肝が冷えた。

 さすがは魔術師専門の殺し屋、これは確実に消しに行っておくべきか?

 姉御が対策を編み出したと言っていたから大丈夫だと思うけど……。

 次にミス報告だが、俺達がセイバー陣営の陣地に向かっている間に、姉御とアグラヴェインの姿がアサシンとライダーにバレた。

 なんでも、ライダーのマスターが俺を探す為に街中で魔術が使われた痕跡を地道に洗っていた際、認識阻害で隠れていた姉御とアグラヴェインが察知されたらしい。

 姉御曰く『あんな非効率的なことを延々とやり続けるとかありえない』だそうな。

 とはいえ、むこうはまだまだ学生。

 使われている箇所は分かっても姉御達の位置までは掴めてなかったそうなのだが、そこであのゴッツいおっさんが『わからぬのなら、範囲全てを蹂躙すればよい!!』などという脳筋思考で姉御たちの周辺を戦車で爆走したそうだ。

 これには(たま)らず姉御たちも飛び出てしまい、ライダー陣営に見つかったんだとか。

 俺から言う事は一つ。

 怪我が無くてよかった。

 もしここで姉御達が怪我をしていたら、あのおっさんを牛ごと三枚に(おろ)すところだった。

 その後勧誘云々と言っていたライダーを魔力弾の雨霰で追い返した姉御たちだが、今度は闇に潜んでいたアサシン数匹から襲撃を受けた。

 とはいえ、分裂し弱体化したアサシンなどアグラヴェインと姉御の相手にはならず、あっさりと蹴散らして帰ってきたそうだ。

 姉御とアグラヴェインの顔バレは仕方ないとして、どうも見つけた両陣営から姉御がマスターだと勘違いされているらしい。

 倉庫街で狙撃手が二人いたことを思えば、衛宮の他にもう一人厄介な相手がいる事になる。

 マクール君情報ではアサシンのマスター権はアーチャーの元マスターに譲渡されているそうなので、当面は姉御から離れないようにしよう。

 

 冬木滞在記(1994) 8日目

 

 

 衛宮切嗣が復活していた。

 姉御がアインツベルンの森に放った使い魔からの映像で、確認したから間違い無い。

 どういうことなのか?

 マクール君も、背後から肝臓を突いたのは間違いないと言っている。

 彼を疑うつもりは無いから、セイバー陣営に強力な治癒手段があると見るべきだろう。

 しかし、コレは厄介な事になった。

 こうなったら俺が直接奴を消しに行くべきだろう。

 セイバーに関しても邪魔なら斬り捨てるまでだ。

 取りあえずはマクール君に奴の捜索を任せて、俺は姉御のガードに入るとするか。

 

 

 

 

 深い森の中に建つアインツベルン城は重苦しい雰囲気に包まれていた。

 セイバーの正式なマスターである衛宮切嗣は、ランサーのマスターケイネス・エルメロイ・アーチボルトを打ち破った際の一瞬の隙を突かれて、アサシンに重傷を負わされた。

 背後から肝臓を一突き。

 通常なら確実に致命傷となる傷だったが、彼が受け継ぎ戦闘用に改造した衛宮家の魔術刻印によってセイバーが駆けつけるまで持ちこたえ、その後アイリスフィールに預けられていたアーサー王の不死を齎す鞘によって一命を取り留めたのだ。

 しかし命が助かったとはいえ、衛宮切嗣というセイバー陣営の要が死に(ひん)した事は変わらない。

 今回の切嗣の負傷は、他の誰でもない単独行動を行った本人に責任がある。

 しかし、セイバーもアイリスフィールも、彼の助手である久宇舞弥(ひさうまいや)も自責の念にかられていた。

 彼はランサーのマスターを討ち取ったのに、自分たちは何をしていたのか?

 アイリスフィールや舞弥は襲い掛かってきた言峰綺礼に二人して打ちのめされ、セイバーに至ってはデスクィーン師匠と言葉を交わしただけだ。

 もっとも、謎が多い仮面の男の正体に一端とはいえ触れたのは、成果と言えば成果であろうが、マスターを危険に晒しては誇れるものではない。

「ねえ、セイバー」

 耳が痛くなるような沈黙の中、アイリスフィールは口を開く。

「あの仮面の男と何を話していたの?」

 アイリスフィールにセイバーを責める意思は無い。

 彼女に出撃を許可したのは他でもない自分なのだ。

 戦果が無くても、不思議な縁で出来た友人が無事ならばそれでよかった。

 しかしセイバーはそうは取らない。

 騎士である為に戦果を重視する彼女は、ただ言葉を交わしただけの自身を恥じていた。

 しかし、同時に仮面の男が口にした可能性についても心の中に棘の様に引っ掛かっていた。

 これがキャスターや他の魔術師の言葉なら、一笑に伏していただろう。

 だが、遥か未来で出会った同胞。

 そして自身の師であるマーリンと同じような男の言葉は、セイバーには無視できなかった。 

「彼は私と同じブリテンの民であると言っていました」

「それは本当なのですか?」

「ええ、間違いありません。彼は当時のブリテンの様子を驚くほどに詳しく知っていました。あれ程、かの地を把握していたのは、当時でもマーリンくらいでしょう」

 舞弥の言葉に確信を持って頷くセイバー。

 瞳に宿る強い意志の光からは、魔術によって操られている等の可能性は微塵も感じられない。

「彼はこうも言っていました。この地の聖杯では、私の願いであるブリテンの救済は叶わない可能性があると」

 トーンダウンしたセイバーの言葉に、アイリスフィールの視線がキツくなる。

 彼女は冬木の聖杯を手掛けた三つの魔術大家の一つ、アインツベルンによって作られたホムンクルスだ。

 同時に今回の聖杯の担い手でもある。

 そんな彼女だからこそ、万能の願望器たる聖杯へ疑いを掛けるセイバーの言葉は自身とアインツベルンへの侮辱に聞こえた。

「セイバー。貴女は私達の言葉よりも、あの得体の知れない仮面の男の言葉を信じるというの?」

「そうは言っていません。この聖杯戦争に掛けられた聖杯は万能の願望器なのでしょう。ですが、それにも限界があるのでは、と思ったのです」

「限界ですって?」

「ええ。聖杯戦争とはいえ、これも魔術儀式の一つ。等価交換の法則からは逃れられない。そうですよね?」

「……そうよ」

 魔術の基本について口にするセイバーの言葉に、アイリスフィールははっきりと頷く。

「ならば、この冬木という一地方都市の地脈から吸い上げ聖杯に蓄えられた魔力は、世界を改変するに足るものなのでしょうか?」

「どういうことでしょう?」

 世界の改変などというあまりにも突拍子のない物に飛んだセイバーの言葉に、舞弥は疑問の声を上げる。

「我が祖国は世界に滅びを定められました。そんなブリテンを救うには世界の決定を覆すことが必須。果たしてこの聖杯にそれだけの力があるのか、と疑問に思っているのです」

 セイバーの問いに、アイリスフィールも舞弥も顔色を無くした。

 セイバーの抱えた疑念は、そのまま衛宮切嗣の願いである『恒久的世界平和』実現の可能性を疑問視するものだからだ。

 何故、気付かなかったのか?

 何故、疑問に思わなかったのか?

 聖杯戦争が魔術儀式である限り、等価交換の原則からは逃れられない。

 それは万能の願望器にとって、有限という鎖になりうるものだ。

 ならば冬木の聖杯は……。

 自分たちにとってのこの聖杯戦争の意義は……。

 先程とは倍する程の重圧の中、アインツベルンの夜は更けていく。

 

 肌を撫でるような冷たい夜気の中、月からの青い光が照らし出すのは廃棄されて久しい工場の跡。

 その中で、簡素なパイプベッドの上に寝かされた包帯だらけの白人男性の(そば)に、男は(ひざまず)いていた。

 何らかの手によって魔術師として致命的なダメージを受けた病床の主を救出して丸一日。

 彼のマスターであるケイネス・エルメロイ・アーチボルトは目覚める気配を見せない。

 隣で微動だにしない従者ディルムッド・オディナは、胸中で己の不甲斐なさを叱咤し続けていた。

 あの時、もっと早く主の下に辿りついていれば……。

 それ以前に、セイバーや仮面の男を討ち取ろう等と思わなければ……。

 頭の中をグルグルと回る後悔と自身への罵倒の中、たった一つだけ別の物が浮かんでいた。

 それは仮面の男が放った斬撃の記憶だった。

 最速のランサーの目を以てしても残像しか見えなかった。

 そして断たれた木の断面はまるで綺麗に磨き上げられたかのように凹凸(おうとつ)が全く無かったのだ。

 達人と呼ばれる者が名剣を携えても不可能と思える妙技。

 それを鞘に収まったままの剣で成し遂げるのだから、あの男の剣腕は計り知れない。

 ともすれば、魔剣カラドボルグで三つの丘を断ち切ったと言われるアルスターサイクルの大英雄、フェルグス・マック・ロイに匹敵するのでは無いだろうか。

 軋む音に目を向けると、ディルムッドは我知らずに打たれた右拳を硬く握り締めていた。

 彼の心の奥、騎士道の中に封じ込んでいた戦士としての本能が叫ぶ。

 あの漢と戦いたい!

 黒塗りの鞘に入った剣を抜かせてみたい!

 そして白刃から放たれる神技を己の槍で乗り越えてみたい!

 あの男に勝ちたいッッ!! 

 気付けば、二槍の騎士は跪くのをやめていた。

 風を切るような体捌きから放たれる刺突は、音すらも置き去りにする。

 だが、騎士は満足しない。

 コレでは届かない。

 この程度ではあの鞘を打ち破る事はできない。

 召喚されてからたった一度も行わなかった鍛錬。

 英霊として最盛期に固定された己には不要と思っていた物を、男は一心不乱にこなしていた。

 はじめて槍を握ったときに憶えた型から、戦場で磨き上げた必殺の連携まで。

 己の槍術の集大成というものを何度も何度も繰り返す。

 この時のディルムッド・オディナは騎士ではなかった。

 ギラギラと光を放つ目と優男などとは到底呼べない好戦的な笑みは、まさにケルトの戦士そのものだった。

 そんな騎士の演舞を暗闇から見つめる一対の瞳。

 情欲に塗れたその瞳の主は、彼の主であり自身の婚約者でもある男の手を握っていた。

 病床の男を慰める為?

 それとも、男の快復を共に神へ祈る為?

 否、全て否。

 女の手に握られた大振りのナイフの光が、そんな甘い展開を全て否定していた。

 彼女は小さく舌をなめずり、紅い文様が刻まれた男の手の付け根に冷たい刃を当てる。

「ケイネス、ランサーの令呪は貰うわね。ああ、貴方の答えは聞いてないから」

 一方的な宣言と共に、女は花開くような笑みを浮かべた。 





後書きオマケ

ゆるゆる第五次聖杯戦争

ライザップ

モル子 「詳しい説明、いる?」
雪ん子 「いるわ! いるに決まってるじゃない!!」
剣キチ 「何という食いつき。よほど今の体型が気に入らんと見える」
バサカ 「お嬢様、おいたわしい……」
モル子 「かくかくしかじかうまうま……、というワケで貴女の体を再調整すれば、魅惑のセクシーボディに早変わりよ」
雪ん子 「なるほど、神代の魔術師じゃなければ出来ない業ね。それで副作用とかは無いの?」
モル子 「健康上は問題ないはずよ。ただし、小聖杯としての機能はアウトだけど」
雪ん子 「OKだ、ドク。今すぐ始めてくれ」
剣キチ 「一瞬の躊躇もありませんでしたな」
バサカ 「そんな……声まで変わって……」
モル子 「それじゃあ、若奥様呼んで来るわね」
剣キチ 「あいよ、気をつけて」
雪ん子 「フフフ……。これでお母様みたいな大人の女性になって、シロウをメロメロにできるわ。これからは妹ポジじゃなくて、包容力のある姉ポジで行くのよ!」
バサカ 「しかしお嬢様、本当によろしいのですか? アインツベルンの悲願を捨てる事になりますが」
雪ん子 「バーサーカー、アインツベルンの悲願は犠牲になったのよ。私のセクシーボディーの犠牲に……」
剣キチ 「この家の悲願の軽さよ……」

異議あり

雪ん子 「さあ、もうじきこのロリッ子ボディともおサラバよ!!」
バサカ 「おめでとうございます、お嬢様。このヘラクレス、お嬢様が健やかに成長する事を思うと目頭が……」
雪ん子 「泣かないで、バーサーカー。今日は私の新しい門出の日なんだから」
バサカ 「すみません、お嬢様」
剣キチ 「ええ話や……」
??? 「話は聞かせてもらいました。イリヤスフィール、貴女は間違っている」
バサカ 「む!? 何奴!!」
メーちん「その可愛らしい身体を捨てるなんて、とんでもないことです。考え直しなさい、イリヤスフィール」
剣キチ 「おや、馬主さん」
メーちん「違います」
雪ん子 「なによ! 私が大人の身体になる事の何がいけないのよ!!」
メーちん「イリヤスフィール、貴女は殿方というものを分かっていない。男にはロリコンという、幼い少女しか愛せない性癖があるのです」
雪ん子 「知ってるわよ! でもシロウはそんな異常性癖じゃないもん!」
メーちん「いいえ。私やさくらんのムチムチボディを前にしても手を出さない朴念仁なのですよ、シロウは! となれば、それしか可能性は考えられません!」
剣キチ 「馬主さん、えみやんに怒られるぞ」

代償

雪ん子 「ライダー! 貴女がどう言おうと、私は大人ボディを諦めはしないわ!!」
メーちん「クッ……! このままではさくらんルートが、雪ん子ルートになってしまう」
剣キチ 「ルートってなんやねん」
モル子 「お待たせ、お嬢さん。準備が整ったわ」
雪ん子 「ようやくね! きっと声だって子供声から淑女に変わるんだわ!」
バサカ 「ファイトですぞ、お嬢さま!!」
若奥様 「施術の前に確認するわ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、貴女は今回の施術に関して代償が発生するのは分かっているわね」
雪ん子 「馬鹿にしないで、キャスター。私も魔術師よ、等価交換の原則くらいは弁えているわ。私の身体に宿った小聖杯の秘儀、存分に調べてもらって構わないわよ」
若奥様 「勘違いしているようね、アインツベルン。私が欲しい代価はそんな物ではなくってよ」
雪ん子 「なんですって?」
若奥様 「私が欲しいのは……これよ!!」
バサカ 「こ……、これはぁぁっ!?」
剣キチ 「どう見ても撮影スタジオですな」
メーちん「普通の服から怪しい服まで、山のような衣装も用意されてますね」
若奥様 「貴女にはこの専用スタジオで、私の気が済むまで着せ替え人形になってもらうわ! もちろん撮影付きで!!」
モル子 「若奥様、若奥様。マダムに鼻血はタブーよ」
雪ん子 「~~~~ッッ、我が悲願、ここに潰えたりッッ!! 」
バサカ 「おいたわしや、お嬢さま」
メーちん「近年稀にみるほどの_| ̄|○ ですね」
剣キチ 「これはヒドい」

改造失敗
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