聖杯問答のセリフが複雑なんで、アニメを見ながら四苦八苦してました。
次からバタバタ陣営が脱落、したらいいなぁ……。
滅びし故国の救済。
セイバーの口にした願いは、会場に沈黙を
征服王はその
ウェイバーとアイリスフィールはどう反応してよいか分からないといった態度で押し黙り、仮面の男とディフェンダーは眉一つ動かさない。
場の空気の変化に気付いたセイバーが戸惑いの表情を浮かべたところで、ライダーは言葉に迷いながらも切り出した。
「あぁ~……騎士王よ。それは何か? 自分の国が辿った過去の歴史を覆すという事か?」
「そうだ。私はあの滅びを受け入れるわけにはいかない。過去の改竄など奇跡を以てしても叶いはしないだろうが、聖杯が真に万能の願望器ならば可能なはずだ」
しかし、それに返されたのは納得や共感ではなく、哀れみと安堵の笑みだ。
「モルガンッ! 我が願いを聞いておきながら、その笑みはなんだ!?」
「不快にさせたのならごめんなさい。あの子が貴女の様にならなくて良かったと思ったらつい、ね」
口元に浮かべていた物を苦笑いに変えて頭を下げるモルガンに、セイバーは渋々ながら向けていた追求の矛を収めた。
「話の途中ですまんが確認させてくれ。騎士王よ、お前さんは自らが歴史に刻んだ行いを否定しようというのか?」
「そうとも。何故
モルガンの態度に加えてライダーの信じられないものをみるような視線に、セイバーは憤慨する。
自身の掲げる願いが間違っていないと信じている彼女にとって、このような態度を取られるのは侮辱以外の何物でもない。
「たしかに、滅びし祖国を悼むのは間違いではない。だがな騎士王、王が国に身命を捧げるなど大きな誤りだ。王が国に身命を捧げるのではない、国が、民が、王にその身命を捧げるのだ。断じてその逆はありえん!」
「馬鹿な!? それでは暴君の治世では無いか!!」
「
「イスカンダル! 貴方とて世継ぎを葬られ、築き上げた帝国は三つに引き裂かれて終ったはずだ! その結末に悔いは無いというのか!?」
「ないッ!! 余の決断と臣下達の生き様の果ての結末で在るのならば、それが滅びだとしても必定である。悼みもしよう、涙も流そう。だが、決して悔やみなどせんッ!!」
「~~~~ッッ!?」
丸太のような両腕を組みながら堂々と信念を語る征服王に、セイバーは反論する言葉が出なかった。
彼女には理解できない。
生涯を掛けて積み上げてきた国の滅びを受け入れられる精神が。
その過程で産み落とされた悲劇を知ってもなお、悔いは無いと言い切るこの男が。
「己が生涯を悔い刻んだ足跡を覆そうなどという愚行は、余と共に生きた全ての者達への侮辱である!!」
「……だがッ、滅びを華とする者は武人だけだ! 力を持たない民草を護らずしてなんとする! 正しき統制、正しき治世こそが王の本懐ではないか!!」
「そして王たる貴様は正しさの奴隷か?」
「……それでいい、理想に殉じてこその王だ」
「……そんな生き方は人ではない」
「王として国を治めるのなら、人としての生き方など望めない」
セイバーの放った言葉に、モルガンと仮面の男は小さく息を吐く。
自身の世界において王であった妹を人に戻した二人には、騎士王の言葉は何処か哀れに聞こえたのだ。
「征服王、たかだか我が身の可愛さに聖杯を求めるという、貴様にはわかるまい。飽くなき欲望を満たすために、覇王となった貴様には!」
だが、そんな無欲の献身に異を唱える者もここにはいた。
「無欲な王など、飾り物にも劣るわいッッ!!」
夜気全体をビリビリと震わせるほどの一喝が城全体に響き渡る。
手にした盃を地面に叩きつけて放った征服王の眼光に、セイバーは思わずたじろいでしまう。
「セイバーよ、理想に殉じると貴様は言ったな。なるほど、往年の貴様は清廉にして潔白な聖者であったことだろう。さぞや、高貴で侵し難い姿であったことだろう。……だがな、そんな殉教という茨道に誰が憧れる? 焦れる程の夢を見るというのだ」
自身の前に座る世界を手中に収めんとした王の放つ覇気に、セイバーの頬を汗が一粒伝い落ちる。
「王とは、誰よりも強欲で誰よりも大笑し、そして誰よりも激怒する。清濁共に呑み下し、人の臨界を極めし者を指す。故に臣下は王を羨望し、そして王に魅せられる。その庇護にある民草一人一人の心にも、憧憬の火が灯るのだ。」
征服王が示す『王道』
熱気すら感じさせるその自負と信念を前に、心に悔恨を秘めたセイバーは否定の言葉を吐けなかった。
「騎士道の誉れたる王よ。貴様の掲げた正義と理想は、一度は国と臣民を救済したのかもしれん。だが、ただ救われただけの者達がどのような末路を辿ったか、それを知らぬわけではあるまい」
「……なんだと」
擦れるような小さな声を絞り出す騎士王の脳裏に浮かんだのは祖国の終焉。
ブリテンの騎士達によって屍山血河が築かれたカムランの丘だ。
「貴様は臣下を救いはしたが導こうとしなかった。王の欲の形を示さず、道を見失った臣下に目を向ける事も無く、すまし顔のままで小奇麗な理想とやらを追い求めていただけよ」
征服王の言葉にセイバーの表情が凍った瞬間、周囲に手を打ち鳴らす音が響いた。
音の出所に目を向ければ、笑みを浮かべたモルガンが両の手を磨り合わせている。
「魔女よ。王たる我等の言を妨げるとは、どういう了見か?」
「その辺にしてあげなさいな、征服王。彼女は離島を必死に治めていた小国の主、大王となった貴方の様に振舞う事なんて出来はしないわ」
「モルガン、貴様……」
その言葉を侮辱と取ったのか、セイバーがモルガンを睨み付けるが彼女はどこ吹く風だ。
「あら、何か間違いがあったかしら? イスカンダル王の築いた大帝国に比べれば、ブリテンなんて砂粒ほどでしょうに。もっとも、征服王のやり方でブリテンを治めようとしたら、2年掛からずに破綻するでしょうけど」
「言うではないか。余にはブリテンは治められんと?」
「ブリテンは世界に滅びが確約された国。土地は痩せ細って収穫は上がらず、神代からの環境の激変により獣も姿を消した。食料供給の生命線としてフランスに飛び地の領地はあったけど、輸入の為の資金繰りもままならない」
挑発に乗るかのように凄んでみせようとしたライダーだったが、モルガンが上げていく騎士王治世のブリテンの惨状に言葉を詰まらせてしまう。
「さらに、ローマ帝国をバックに付けたサクソン人やピクト人等の異民族の襲撃と、それに対する防衛費によって国庫は常に悲鳴を上げている。民から兵を募れば募るほどに、農耕の機能が麻痺して国益が増えない悪循環。頼みの綱である円卓の騎士は、脛に傷や腹に一物を持ったものばかりで不和が絶えない」
そこで言葉を切ったモルガンは、誰もが見惚れるような綺麗な笑みと共にこう言い放った。
「さて、征服王。この惨状で王が欲など見せる余裕はあると思いますか?」
流石の征服王も、これには唸り声と共に口を噤むしかなかった。
「私はセイバーの願いを否定する気は無いわ。だって、征服王の生き方は敗北しても自分と付いて来た部下が死ぬだけで済むけど、彼女の場合は失敗は国の滅亡に直結してたもの。そりゃあ、やり直しもしたくなるでしょう」
「同じ国に住んでいた者故の同情か? それともあの娘に自分の妹を重ねたか?」
言いながら肩を
「冗談。ウチの妹はあんな可愛げの欠片もない堅物じゃないわ。あの罰ゲームみたいな王様職をやり直そうって意気込みを買っただけよ」
「その暴言は聞き捨てならんぞ、モルガン。ブリテンの王位が罰とはどういう事だ?」
「滅びが確定している国の王なんて、それ以外の何物でもないじゃない。王位に就いた瞬間に、国庫を
「王位に就こうという者にそんな下種がいるわけないだろう!?」
「いたわよ、旧ブリテンに。むこうでもこっちでも言動はまったく一緒だったわ。もっとも、むこうでは私の夫に首を刎ねられて、こっちでは辱められた私が起こした暴走に巻き込まれて、塵も残らず消滅したみたいだけど」
「あのクズ、こっちでもいたのか」
「まあね」
「母上、どういう事でしょうか?」
「貴方が生まれる前、旧ブリテン末期の話よ。ウーサーが死んだ事で有力諸侯が独立し、国がその体を成さなくなった頃のね。力の有る家臣が消えた王城で、欲に取り付かれた木っ端役人が城に残されていた王妃と王女を襲ったの。そいつの目的は国庫に残った僅かな財と高嶺の花だった女の身体。そのクズの言葉を借りるなら『次代を担う王女の純潔、それを奪う事こそが夫としての証』だそうよ。王女を穢した事で王位を詐称し、国庫を持ち逃げするつもりだったらしいけど、その末路はさっき言った通り」
「そんな事があったのですか。では、こちら側のお婆様は」
「亡くなったわ。病床で男達に凌辱されたもの、耐えられるわけがない。自身が穢された事に加えて、その様を目の前で見せられた事で、こちら側の私は激情と憎悪によって起源に覚醒してしまった。モルガン・ル・フェイの起源であるモリガンは、ケルト神話における破壊と殺戮、勝利を司る戦女神。不完全とはいえその神を身に降ろしたモルガンは、一夜で城内に残っていたブリテンの家臣達を皆殺しにして姿を消した。と、これ以上は蛇足になるかしら」
モルガンが語りを終えると周囲に静寂が満ちる。
アーサー王伝説の前日譚、歴史上にほとんど跡を残さないウーサー王治世の話だが、内容が凄惨すぎた。
直接的では無くとも関係者であるセイバーの顔色は悪い。
「魔女よ。お前さん、平行世界の存在なのだろう? なのに何故こちら側の自分の事を知っておるのだ」
「こっちのモルガンがブリテン崩壊に動いていたのが気になってね、起源を通じて彼女の記憶を調べてみたのよ。そしたらまあ、ひどいのなんの。正直、こっちまで鬱になりそうだったわ」
嫌な事を思い出した所為か、周囲の目も気にせずに仮面の男に抱き着くモルガン。
そんな妻の様子を嫌がりもせず、男は彼女の頭を撫でて宥め始める。
「あまり無理はするな」
「魔術師は探求の徒だから、好奇心が強いのよ。気になったら居ても立ってもいられなくなっちゃって……」
「君は専業主婦だったじゃないか」
「副業で魔術師もしてたの」
夫婦(モルガンの見た目が十五歳前後であることと、男の方は仮面で顔が見えない為に親子や兄妹にも見える)の仲睦まじい様子に頬を緩ませていたアイリスフィールは、副業で魔術師というフレーズに顔を引き攣らせる。
「ところで母上。こちら側のモルガンはそれほど酷い生涯を歩んでいたのですか?」
「まあねぇ。……ねえ、騎士王様。モルガンが何故ブリテンを滅ぼそうと思ったか、知りたい?」
「……もちろんだ」
魔女の向けた問いに、迷う素振りも見せずに頷くアルトリア。
彼女としても、同じ父が祖とする国を滅ぼそうとする姉の態度に、少なからず疑問を持っていたのだ。
「彼女が執拗にブリテンを滅ぼそうとしたのは、ブリテンという国家が彼女にとって家族の仇だから。貴女を憎んでいたのも、そのブリテンを中興してしまったからよ」
「ッ!? どういう事だ!」
「話はウーサー治世の旧ブリテンに
「なんと! 騎士王の前に男の嫡子がいたというのか」
「ええ。自分の息子に力が宿らなかった事に焦ったウーサーは、宮廷魔術師であるマーリンと相談して次代の王として人工的に神秘の力を持つ赤子を生み出そうとした。ブリテン王家と竜の血を受け継ぐ超越者。セイバー、貴女の事よ」
「私の竜の血にはマーリンが関わっていたのは聞いていましたが、そのような理由があったなんて……」
「計画は成功し、竜と王の血を引く子供が生まれたわ。しかし、誤算もまたあった。それは王となるべき子供の性別が男性ではなく女性であったこと。その事に焦ったウーサーは、生まれたばかりの子をマーリンに預けると嫡子であったアルガを剣の稽古と託けて殺害した」
モルガンの発言で、宴の場の空気は凍り付いた。
ウェイバーとアイリスフィールは理解できないという表情を浮かべ、王たる二人は苦々しくも納得の顔。
この事実は知らなかったのか、アグラヴェインと仮面の男にも驚きが見て取れた。
「なんでだよ! そのアルガって奴は自分の息子だったんだろ!?」
「息子だからよ」
憤慨するウェイバーに、モルガンは冷徹な声で返す。
「ブリテンが健在だった時代は男性社会。王侯貴族は長子を後継者に据えるのが基本だったの。アルガは神秘の力こそ持っていなかったものの、文武共に高い才能を示して王太子としては申し分ない子だった。そんな彼を押しのけて第三子、しかも女子であるアルトリアを後継者に据えるなんて王でも不可能。そんな事をすれば、家臣から乱心したと思われるのがオチよ」
「しかし、ウーサーは神秘の加護を持つ者を王位に据える必要があると感じていた。だから、私の即位の邪魔にならない様にアルガ王子を殺めた」
「その通り。本来、情の深い性分だったモルガンは下の兄弟に深い愛情を注いでいたわ。お母様の胎に貴女がいた時はよく話しかけてもいたの」
伝え聞く魔女とは懸け離れた行動に、騎士王は何とも言えない顔になってしまう。
「でも、貴女は生まれてすぐにマーリンによって隠されてしまった。失意の彼女にとって、『自分が王になって妹を連れ戻す』と約束してくれたアルガは大きな心の支えだったの。でも、その弟は父親によって殺されてしまった。今で言うところのブラコン気味だった彼女は、自分の部屋から弟の稽古の様子を見ていた事が災いして、殺害の瞬間も見る事になってしまった」
モルガンから語られる悲劇に、一同は言葉もなかった。
ちなみに、仮面の男である平行世界のアルガは『ウーサー程度に殺されるとか。どれだけ弱かったんだよ、こっちの俺?』などと考えていたりしたが。
「当然、彼女は父親に詰問したわ。でも王からの返答は『国の為だ』の一点張り。さらには納得しない彼女を部屋に幽閉してしまった。その後、フォローのつもりかマーリンから事情を説明されたのだけれど、それを聞いた彼女は怒りで己の中に眠る神秘を覚醒させてしまった。もう受け継がれないと思われていたブリテンを統べる超常の力は、皮肉な事に長女である彼女に宿っていたの。予想外の事に焦ったマーリンは、その場で彼女の力と記憶を封じてしまった」
「マーリンは何故モルガンの力を封じたのかしら?」
「さて、ね。あのクズの事だから、ウーサーがモルガンの力に気付いて、自分が手掛けたアルトリアじゃなく彼女に王位を譲る事を恐れたんじゃない? それじゃあ面白くないって理由で」
アイリスフィールに返したモルガンの答えに、セイバーは思わずコメカミを押さえた。
……あの魔術師なら十二分にあり得ることだから。
「その数年後、ウーサーは患っていた病によって本人の予想よりも早く没し、マーリンや養育役のエクターは幼い貴女を後継者として擁立しなかった。その為に有力諸侯の独立を契機に旧ブリテンは崩壊し、先ほど話した低級家臣の暴走によってモルガンは母と自身の純潔を失った」
先ほどモルガンから語られた女の地獄を想像してアイリスフィールは口元を押さえ、他の面々も顔を顰める。
「起源覚醒の際にマーリンの封印も解けた彼女は、自身の力があれば母を助けられた事に気づき絶望した。そして、絶望は時間と共に能力を封じたマーリン、この状況を作ったウーサー、そして全ての元凶たるブリテンへの憎悪になっていった」
「八つ当たりとは言えんな、これは」
「バカッ! ここの女性陣を敵に回すつもりかよ!」
自身のサーヴァントの迂闊な発言を慌てて
イギリス在住の彼は、権利関係で女性を向こうに回す恐ろしさをよく知っているのだ。
「いくら超常の力を得たとはいえ、当時のモルガンは後ろ盾を失ったただの小娘。それ故に彼女は、婚姻を約束していたオークニーのロット王の元に身を寄せた。ロット王は心優しい方で、穢されたモルガンを労り約束通りに正妃へと迎えてくれた。彼女もそんな王を愛し子宝にも恵まれて、幸せな時を過ごしていたの」
「……罪悪感、痛ミマセンカ?」
「……なんのことやら」
仮面の男から出された妙にカタコトな声に、モルガンとディフェンダーは母子揃って目を逸らす。
「……こほん。オークニーで穏やかな日々を送っていたモルガンだけど、それも長くは続かなかった。ある日、アーサーを名乗る少年がウーサーの後継者を宣言。王に即位してブリテン島の統一に乗り出したの。魔術で情報を集めようとしたモルガンは、アーサー王が貴女だと知って絶望したわ。当然よね、行方不明だった妹が家族を奪った忌まわしい国を背負って、自分の国を攻めようとしているのだから」
話題がセイバーへ移った事に、周囲の視線が集中する。
しかし、彼女は苦虫を噛み潰した様な顔で沈黙するだけだ。
「ロット王を始めとする11人の王がアーサーの即位を認めない事で始まった内乱の中、モルガンは必死に貴女へ接触を行おうとしたわ。ようやく所在が分かった妹と争うなんて、彼女にとっては悪夢以外の何物でもなかったもの。けれど会談を求める書簡を持たせた使い魔は、全てマーリンに阻まれてしまった。おそらく、王として未熟だった貴女がモルガンから旧ブリテンの事を聞けば、心に迷いが生じると思ったのでしょうね」
「ディフェンダーのマスターの話を聞いてて思ったんだけど、マーリンって本当に賢者なのか? そこいらの魔術師よりよっぽど外道なんだけど」
「……あのクズは夢魔との混血だった為に、人間の感情というモノが理解できないと言っていた。その言葉通りに空気の読めない発言や非常識な行動が多かったので、賢者と称すには少し違うかもしれない」
顔を
いかに英雄といえど、身内の恥を認めるのは堪えるようだ。
「それで、どうなったのだ?」
征服王に促されて、モルガンは再び言葉を紡ぎ始める。
「そうして手を
「待て、モルガン。その話が本当ならば、私の世界の貴様は廃人になっているはずだ」
「普通ならそうよ。けれど、彼女は普通ではなかった。その身の内に宿るブリテンの神秘と半端に覚醒した起源が、それを許さなかったの。二種の力は宿主を失わない為に砕けたモルガンの人格から最も強い感情、ブリテンとアーサーへの憎悪を核に自我を再構成しようとした。その過程でブリテン島を統べる者に宿る神秘と女神モリガンの力が混じり合い、疑似的な三重人格というべきものが形成されてしまったの」
「そう言えば、サー・ケイはモルガンの事を『妖精のように無垢かと思えば戦乙女のように壮麗、かと思えば魔女のように残忍』と評していた。まさか本当に三重人格だったとは……」
「この時点でモルガン本来の人格は存在しないわ。これ以降の彼女を支配したのは、力によって形成された疑似人格。王座への執着はブリテン島の神秘、戦乱を呼び寄せる為の謀略は女神モリガン。……ブリテンと貴女への憎悪に関しては言うまでもないでしょう」
「…………」
俯き言葉を返そうとしないセイバーの姿に、モルガンは小さくため息をついた。
「アルトリア、こちらのモルガンが狂った事は貴女に責は無いわ。結果的に最後の一押しを担ってしまったとはいえ、貴女は何も知らなかったんだもの。話しておいてなんだけど、ブリテンの救済を望むのなら今の話は忘れなさい」
「そういえば、魔女よ。お前さんの世界のブリテンはどうなったのだ?」
「滅んだわ。時期的にはこちらよりも早かったんじゃないかしら」
「その理由は? こちらの世界はモルガンが崩壊の原因だったけど、そっちじゃアンタはそういった事に関わってないんだろ」
「そうよ。こちらが滅んだ原因は、ランスロットの離反によって国軍と諸侯の半数がフランス側についた事。他には、ペレス王によるアルトリアの性別詐称の暴露による王権の失墜。そして、それに端を発する残留諸侯の反乱が、サクソン人を伴ったローマ侵攻に重なった為ね」
「随分とこちらとは違うのだな。共通点は湖の騎士が国を割った事だけか」
「こちらの直接の原因であるモードレッドはブリテンに関わらせてないもの、変わるのは当然じゃない」
モルガンが征服王に放った呆れの篭った返答を最後に、酒宴の場に沈黙が下りる。
そもそもからして親睦を深めるような和気藹々としたものではなかったが、話題に上がっていた内容が重過ぎた。
とくにセイバーは、王としての矜持比べでは征服王に押され、図らずながらも実の姉を狂気に陥れる最後の一押しをしてしまった事を知って、完全に意気消沈してしまっている。
誰一人口を開く事は無く、酒を飲める者がチビチビと杯に口を付けるという状況が続く事しばし。
杯の中身を減らす事無く、物思いに耽っていたセイバーが不意に口を開いた。
「……デスクィーン師匠。貴方に聞きたいことがある」
「ふむ、何かな?」
水を向けられた仮面の男は、ゆっくりと声の主である騎士王の方を向く。
「以前聞いた次善策の内容をもう一度教えていただきたい。あの時はランサーの襲撃によって中断してしまったから……」
酒宴開始の時よりも陰りが増した瞳に、隠しきれない期待を込めて放たれたセイバーの言葉。
しかし、仮面の男の答えはゆっくりと頭を振る事だった。
「セイバー、君に教えた案はあれが全てだ」
「!? 待ってほしい。貴殿はあの時、ランスロットやモルガンについても話そうとしたはずだ」
「たしかにブリテンで起こった諸問題について、私なりの考察が無いわけではない。しかし、それはあくまで私の世界の事。モルガンから聞いたように、多くの事に差異がある君の世界に当て嵌めようとしては、問題解決の助けになるどころかさらに悪化させる結果になりかねない。それに───」
言葉を切ると同時に、仮面の男が纏う雰囲気が一変した。
何処にでもいそうな凡夫のような気配から抜身の刀身のような鋭いものに。
我知らず固唾を呑んだセイバーを見据えながら、男は再び口を開く。
「我々とて聖杯を欲する理由をもつ者、そう易々と勝利の杯を譲るつもりは無い。まだ手中に無い物の使い道を考えるよりも、私達を打倒する術を考えたほうが建設的ではないか?」
「……そうですね。たしかに貴方の言うとおりだ」
男の言葉を受け止めた騎士王は、俯き気味だった顔を上げる。
その表情は未だ暗さは抜けていないが、目の奥には揺らめく闘志の炎が見て取れた。
「ならばサー・アグラヴェインを打倒し、敗者となった貴方に再び問いを掛けさせてもらう」
「いいだろう。その時は私の持つ情報の全てを君に渡そう」
騎士王の挑戦を真っ向から受け止める仮面の男。
「抜け駆けとは感心せんぞ、セイバー」
次の瞬間、ここにはいないはずの男の声と共に、一つの影が宴の席に飛び込んでくる。
紅と黄の槍を持つ軽装の偉丈夫、ランサーだ。
「仮面の男は俺の獲物だ。いくらお前とて譲るわけにはいかん」
「……ランサー、なのか?」
自身へと紅の切っ先を向ける男に、セイバーは戸惑うように声を掛ける。
「無論だ。よもやこの顔を見忘れたわけではあるまい?」
好戦的な笑みを浮かべながら答えるランサー。
だが、セイバーが戸惑うのも無理は無い。
姿形に変化は無いが、騎士の鑑と言うべき涼やかな男だったランサーと荒々しさを隠そうともしない目の前の男では、纏う雰囲気があまりにも違うのだ。
「さて、セイバーよ。何時ぞやの宣言通り、貴様の
ランサーの闘志を受けて、得物を手に立ち上がろうとするセイバー。
だが、それに待ったを掛ける者がいた。
「待て待て。ランサーよ、ここはこの征服王が催した宴の席である。断りも無く飛び込んできた事は不問にするから、お前さんも物騒な物は置いて参加せんか」
新たに注いだワインが入ったグラスをランサーに向ける征服王。
しかし、二槍の騎士はその申し出に否を突きつける。
「不要だ、征服王。強者と死合う前に酒精を取る趣味はないのでな」
「……どうあってもここを鉄火場にしようというのか?」
「そうだ。俺に必要なのは強者と
「セイバーだけでなく、この征服王とも矛を交える事になってもか?」
「───是非も無し」
ライダーが放つ目に見えるような重圧を前にしても、顔色一つ変えずに言い放つランサー。
それを受けてTシャツにジーンズという現代風の衣装から一瞬で戦装束へと姿を変えた征服王は、滲み出る覇気と共に立ち上がる。
「よかろう! ならば、貴様はここで朽ち果てるがいい!!」
手にした剣を虚空に振るい、現れた神牛に繋がれた戦車へと飛び乗るライダー。
酒宴から一転して一触即発の雰囲気へと変化した城内。
闇の中に身を潜めつつ機を伺っていた一団は、それを見逃しはしなかった。
感覚共有によって新たな主である遠坂時臣へと状況を送っていた女性のアサシン、百貌の一団を束ねる彼女に令呪の強化と共に指令が下る。
下された命は『三つ巴の乱戦に乗じて、いずれかの陣営のマスターを暗殺せよ』
身体を巡る令呪の魔力を感じながら、総勢二十余名のアサシン達は一斉に移動を開始する。
音も無く、気配や影すら残さない漆黒の集団。
ランサーとセイバーの得物が火花を散らしたのを合図に城内へと侵入した彼等であったが、着地と同時に一人が髑髏の面に何かを生やして崩れ落ちた。
傍らにいた者が驚愕と共に目を走らせると、消え行く同胞の眉間には黒塗りの短剣が突き刺さっている。
それは彼等が愛用する『ダーク』と呼ばれるものだった。
混乱する思考の中で短剣が放たれた先に目を向けると、そこには明らかにこちらを捉えている仮面の男の姿。
「あれはアサシンか」
「我等が剣を交えている間に、マスターを手に掛けようという魂胆のようだな。───坊主、こっちへ来い!」
「アイリスフィールもこちらへ!」
出鼻を挫かれたが為に、交戦状態に入っていたはずの三騎の目がこちらを向いたのを見て、女性アサシンは舌打ちを漏らす。
例え令呪のバックアップが有ったとしても、これではマスターを狙う事など出来るはずがない。
即座に全員へ撤退の指示を出した彼女であったが、それは遅きに
城の外へと逃げようとした者達が、見えない壁に衝突したかのように次々と落下しているのだ。
「ライダーが壊した術式を乗っ取って封鎖結界を張ってみたけど、即興のワリにはなかなか上手くできてるわね」
ワインで舌を湿らせながら自画自賛の言葉を吐くブリテンの古き魔女。
城の主であるアイリスフィールは、少しの素振りも見せないままにそれだけの離れ業をやってのける彼女の手腕に舌を巻いた。
「この戦が始まってから、延々と周りを飛び回っておった彼奴等も年貢の納め時のようだの」
「奴等には仲間が手傷を負わされている。今後の為にもこの場で全て討つべきだ」
「同感だな。奴等では闘っても巻き藁代わりにしかならん」
各々の武器を構える三騎に、ここが死地だと悟った女性アサシンは覚悟を決めた。
特殊な呼気で仲間に指示を出し、彼女もまた床を蹴る。
総員一丸となっての突撃に、捨て身の特攻かと警戒心を露にする三騎のサーヴァント。
だが、彼女に命を捨てる腹積もりはない。
ライダーに斬られ、ランサーに穿たれ、セイバーの不可視の刃に両断される同胞たち。
失った人員は5名。
残りの人数を思えば痛手だが、彼奴等の前を突破する為の犠牲と思えば安いものである。
セイバー達を無視して進むアサシンたちの標的は一つ。
後方でグラスを傾けるディフェンダーのマスターだ。
先程の結界から女が上級の魔術師である事は理解した。
しかし群体とはいえこの身はサーヴァント、人間の魔術師などに遅れを取るはずがない。
むこうに控えているディフェンダーは厄介だが、クラスからして防衛力に長けたサーヴァントだろう。
ならば、こちらを一網打尽にするような奥の手を持っているとは考え辛い。
それに自慢の防衛力も人間二人を後ろに庇っていては十分に機能すまい。
そこまで当たりをつけた女アサシンは、ゴズールという接近戦を得意とする分体をディフェンダーに
だが次の瞬間、女アサシンは仮面の内側で目を見張る事になった。
ディフェンダーは怪力自慢で鳴らしたゴズールの鉄拳を剣の腹を滑らせるようにして捌くと、一撃でその首を刎ねた。
そして、続いて飛んできた短刀の群れを孤剣一つで叩き落したのだ。
月光を浴びた切っ先が輝線を描く度に、漆黒の刃が弾かれ力を失っていく。
戴天流剣法・波濤任櫂。
腕の差はあれど、その動きはランサーを翻弄した仮面の男の技と同じであった。
十八番の連携を掠り傷一つ負う事無く切り抜けたディフェンダーに、黒衣の襲撃者達は思わず突進スピードを緩めてしまう。
それは彼らにとって悪手でしかない。
何故なら鉄壁の守りを敷く黒騎士の後ろで、魔女が身に纏う魔力を解き放とうとしていたからだ。
ガラス同士がぶつかるような甲高い音に続き、ディフェンダーの背後から放たれた百を優に超える氷の矢によって、次々と
彼女達にとって地獄の様相を呈してきた戦場の中で、女アサシンは主となった魔術師に念話を飛ばす。
その内容は任務の失敗と転移による撤退の要請。
それを受けた遠坂時臣は、即座に璃正神父によって移植された弟子の令呪の一画を切った。
効果は即座に現れ、ディフェンダーの刃が喉笛に食い込む寸前に女アサシン達は冬の城から姿を消した。
「お怪我はありませんか、母上」
「大丈夫、大丈夫。それよりカッコよかったわよ、アグゥ。若い頃のお父さんみたい」
「なんの。父上に比べればまだまだ未熟ですよ」
「いや、生前よりも腕は上がっている。波濤任櫂は綺麗に力を受け流してたし、
「ありがとうございます、父上。その言葉を聴けただけで、座での修練を欠かさなかった事が報われます」
「あら。英霊の座って、招かれた者は全盛期で固定されるから強くなれないって聞いたけど?」
「そうなのですか? 座での鍛錬は未熟な私の独学なので効率が良いとは言えませんでしたが、腕が上がった実感はありましたよ」
「お前が上達したのならば、それはめでたい事だ。多少の細かい事は置いておいても問題あるまい」
仮面の男が〆ると、家族の会話だと空気を読んでいたライダーが口を開いた。
「見事な剣であったぞ、ディフェンダー。その精妙にして堅牢な護り、貴様も我が配下に加えたくなったわ」
「私の希望は家族と穏やかに暮らす事だ。生憎だが、もう俗世の事に関わるつもりは無いぞ」
「なんの。ならば、貴様の父母も配下に加えるまでよ」
「ライダー! お前、なに無茶苦茶言ってんだよッ!?」
御者台の隣から怒鳴り声を上げるウェイバーに、征服王は心当たりが無いといったような顔で振り返る。
「何が無茶苦茶なのだ?」
「サーヴァントは兎も角、あいつ等はマスターじゃないか! そんなのどうやって部下にするってんだよ!?」
「そんな事は決まっておる、あの者達に余の王としての器を魅せてやればよいのだ」
「そういう事じゃない! あいつ等は聖杯に自分の息子の身柄を賭けてるんだぞ! そんな奴が諦めて僕たちの軍門に下るわけないだろ!!」
「頭が固い奴だな、お前さん。そんなものはこう願えばよいのだ、『余とディフェンダーを受肉させてくれ』とな」
ライダーの返した答えに、あんぐりと口を開けるウェイバー。
その反応に気を良くしたライダーは、嬉々として持論を続ける。
「そもそも受肉に定員があるなど、誰が決めたのだ。優勝者が叶える願いは一つ、しかしその一つに複数のニュアンスが入っていても問題はないはずだ。騎士王の願いなど、願いに混じるニュアンスは10や20では効かんだろうしの」
「いやはや、コレは盲点だった」
「『聖杯で願いを叶えるのは一人のみ』って言葉に惑わされてたけど、そういう手だって有りなのかもね。実際、受肉だったら聖杯戦争で蓄積した魔力が続く限りは可能でしょうし」
「ならば、ライダー陣営と同盟を?」
「それを視野に入れてもいいかもしれないわ」
ディフェンダー陣営は感心しながらも、目的を同じとする征服王と手を結ぶ事という選択肢を増やし、
「好きにするがいい。聖杯に掛ける願いなど、俺も主も持ち合わせていない。俺の目的は別にある」
ランサーは我関せずと言わんばかりに、セイバーと仮面の男に鋭い視線を向ける。
そして、彼等の発言を聞いたセイバー主従の顔には、くっきりと焦りが刻まれていた。
「セイバー……」
「拙いですね。彼らが手を組めば、この聖杯戦争で最大の勢力となってしまう」
「キリツグはどう考えるのかしら? 念話で聞いてみてくれる」
「彼が私の呼びかけに応えるとは───」
他に漏れないように密談を続けていたセイバーは、突如言葉を切ると愕然とした顔で膝をついた。
「どうしたの、セイバー!?」
「馬鹿な……。キリツグが、マスターが死んだ?」
「……え?」
呆然と呟くセイバーに、彼女の言葉が理解できないと言うように声を漏らすアイリスフィール。
「マスターが死んだって……なに言ってるんだよ! あんたのマスターは隣にいるじゃないか!?」
状況が飲み込めないウェイバーが呼びかけるも、二人に反応は無い。
「──なるほどのぅ、これはまた考えたものだわい」
「なんだよ、ライダー?」
「坊主、あの白い女は偽者だ」
「…………はあぁっ!?」
素っ頓狂な声を上げる己のマスターに頓着せず、征服王は言葉を進める。
「セイバー陣営はサーヴァントに偽のマスターを
「なるほど。我が主に手傷を負わせた近代兵器を使う男。それがお前のマスターだな、セイバー」
ランサーの詰問に青くなった顔を背けるセイバー。
言葉にはしていないが、その態度が是である事を雄弁に語っていた。
「それで、なんであいつ等の本当のマスターは死んだんだよ?」
「そこまではわからん。大方、先程のアサシンの襲撃にでも巻き込まれたのではないか」
「……こういうのを『策士、策に溺れる』って言うんだろうなぁ」
各々が口を開く中、セイバーはショックで気を失ったアイリスフィールを抱きかかえながら、打開策は無いかと頭を全力で回転させていた。
アイリスフィールには悪いと思うが、キリツグが死んだ事に関しては仕方が無い。
問題は魔力供給が断たれた所為で、現界出来るリミットが刻一刻と近づいている事だ。
皆に気付かれぬように目を走らせたところ、アイリスフィールの右手にキリツグの物であった令呪が宿っているのを確認した。
こうも素早く再分配が行われたのも、御三家の一つであるアインツベルンのホムンクルスであるが故だろう。
ならば、問題はここに集まった三陣営を振り切って撤退し、アイリスフィールに新たなマスターになってもらうしかない。
ハードルは高いが、やらなくては待っているのは敗北の二文字のみ。
そうなれば、誰が滅びしブリテンを救うというのか!?
歯を食いしばりながらアイリスフィールを抱きかかえ、周囲の者達を警戒するセイバー。
しかし他の陣営は、そんなセイバーなど気にもかけずに撤収の準備を進めている。
「貴様等、私の邪魔をしようと思わないのか?」
好都合なのだが何処か釈然としない気持ちに、セイバーは周りの者達に声を掛けてしまう。
「俺が刃を交えたいのは万全の状態の貴様だ。こちらに構わずにその女と再契約を交わすがいい」
「流石に今の貴様を襲う気にはならんわい」
「こちらも同じ。まあ、今回はみんなの厚意に甘えておきなさいな」
返って来た三者三様の答えに色々と言いたい事は浮かぶものの、それを飲み込んだセイバーは『感謝します』と短く残して城へと帰っていった。
月が雲に隠れ、闇と共に沈黙の帳が降りた中庭に、征服王のため息が大きく木霊した。
「やれやれ、トンでもない酒宴になってしまったな」
「これだけ闖入者があったのだ、仕方あるまい」
「流石にこれ以上は飲む気にならないわ」
「分かっておる、宴はお開きだ」
モルガンにそう言い捨てて、マスターを小脇に抱えて戦車に飛び乗る征服王。
軽く鞭を入れれば、スパークの音と神牛の嘶きを伴って戦車は宙を浮く。
「では、今宵は失礼するぞ。ディフェンダーよ、同盟の申し出はいつでも受け付けておるからな!!」
そう言い残すと、征服王は雷撃の音を残して夜空に消えた。
「俺も今宵は退くとしよう」
ライダーに続き、口を開いたのはランサーだ。
紅い槍の血振りを終えた彼は、自身の得物を収めてディフェンダー陣営に背を向けた。
「仮面の男よ、今の俺は貴様には届かん。だが、この戦争中に鞘に収めた秘蔵の刃を抜いてもらうぞ」
「出来るか、貴様に?」
「証明してやるさ。言葉ではなく武技でな」
甘いマスクと呼ばれるべき顔に血に飢えた猛獣のような笑みを貼り付けて、ランサーもまた夜闇に消えた。
「さて、俺達も帰るか」
ランサーが消えた闇に目を向けていた仮面の男は、気配が遠ざかったのを確認してから二人に声を掛ける。
「そうね」
仮面の男の声を合図に、アインツベルンの城を後にする三人。
森の中を抜け、新都の街並みへと足を踏み入れた頃、アグラヴェインは口を開いた。
「そういえば、セイバーのマスターはどうやって始末したのですか?」
「部下と二人で狙撃する気満々だったから、普通に暗殺したんだが。どうかしたのか?」
「いえ。セイバーがマスターの死に気付いたのは、父上が奴等を狩りに出て20分ほど過ぎてからでしたので、どのようなカラクリなのかと……」
「実はそれは俺も気になってた。俺がやった事は背後から経絡を弄くる事で痛覚を遮断して、浸透勁で心臓を止めただけだからな」
「心臓を?」
「そう。ボクシングには左胸を打つことで一時的に心臓を止めるって高等技術があるんだが、それの強化版だと思ってくれ」
「なるほど。それだと、あれだけ長く生きた理由が気になりますな……」
「それって多分、魔術刻印の所為だと思うわよ」
割り込んできた母に、魔術はからっきしな親子二人は目で説明を要求する。
「魔術刻印というのは、魔道の家が何世代もの間積み重ねてきた神秘よ。聞いた話だと、その中には知らない魔術を使えるようになったり、自動で治癒や蘇生魔術が発動するものもあるんだって」
「なるほど、便利だな」
「世代を重ねないといけないから、作るのは面倒みたいだけどね」
「その刻印とやらが、心停止したはずの衛宮切嗣を生かしていたと」
「セイバーに気取られない為に痛覚を麻痺させたんだが、やってよかったな。でないとあの兄やん、地獄の苦しみの中でのた打ち回って死ぬ事になってたし」
「眠るように死ねたのなら、それが慈悲かもね」
その後は他愛も無い会話をしながら、彼らは新都の人ごみの中に消えていった。
「与えられた任を果たせず申し訳ありません、主」
遠坂家地下の魔術工房。
古ぼけた燭台に点る
「気にしなくていい、あれは私の状況判断が誤っていた結果だ。セイバー・ライダー・ランサーの3騎が相争う状況になると踏んだのだが、まさか君達を見て結託するとはな」
「それにディフェンダーのマスター。あれだけの魔術を行使できる者等、私の生前でも殆どいませんでした」
「アサシンが脱出できない結界にあの攻撃魔術、在野の魔術師とは思えん。───そちらの残り人員はどのくらいになった?」
「今回の件で9人になりました」
「そうか……。君達はこれからは諜報のみに専念してくれ。戦闘に関しては私とバーサーカーで受け持とう」
「御意」
その呟きを残して影に消えるアサシン。
自分以外の気配が消えた部屋で、時臣は小さくため息を吐いた。
衛宮切嗣の敗退は朗報だが、セイバーはまだ健在。
それにライダー、ディフェンダー陣営という難敵が残っている。
特に英雄王を倒した仮面の男、あの男を下すにはどうすればよいのか。
思考が下降気味になっているのに気付いた時臣は、二、三度頭を振った後で自身の手に刻まれた令呪に目をやった。
一度脱落した自分が再び聖杯を巡る戦いに復帰できたのは、運命に違いない。
故に自分は聖杯を手にし、一族の悲願である『■■■■』へと手を伸ばすのだ。
間桐雁夜から奪ったバーサーカーは、戦力では英雄王に劣るものの使い勝手は格段に良い。
コレを主軸にアサシンの諜報と噛み合わせればイケるはずだ!!
未だAUOショックの後遺症を引きずっている時臣は半ば自己暗示と化したエールを呟きながら、聖杯戦争初勝利を飾った時の事を思い返していた。
「チャッッ!?」
その時、遠坂時臣は追い詰められていた。
自身のことを憎しみの篭った声で呼ぶ間桐雁夜と、その後ろに控える漆黒の騎士.
何故自分が憎まれているのかはさっぱりだが、超常の力を有するバーサーカーを嗾けられては、魔術師の時臣であってもひとたまりも無い。
アレから自身を護る手段である英雄王はついさっき失われたばかり。
これは詰んだか!? と半泣きになりながらも自身の死期を悟る時臣。
しかし次の瞬間、時臣の頭にかつて無いアイデアが閃いた。
これぞまさに天啓! いや、もしかしたら自分も小宇宙に目覚めたのかもしれないッッ!
テンパッた頭でそこまで考えた彼はそのアイデアを実行する為、思い切り息を吸い込んだ。
「ダァァァァイナモォォォォォォッッ!! ハッッッ!!!」
教会のステンドグラスをビリビリと振るわせる咆哮。
時臣が放った叫びに、雁夜はビクリと身体を震わせた。
「チャチャチャチャチャチャチャァァァッッ!!」
それを見て取った時臣は、ケチャダンスで鍛えた優雅なステップで間合いを詰める。
グングンと縮まる互いの距離。
その間にも時臣は狩りを行う猛禽類の様に、雁夜の様子を観察するのを忘れない。
完全にこちらに呑まれ、挙動不審にキョトキョトと動く瞳と驚愕に固まった顔と体。
魔道に身を投げても根は常識人な雁夜は、突然の事に事態の把握が追いついていない。
これならば───ッッ!!
捻り込むような腰のキレとステップを駆使して雁夜の懐に飛び込んだ時臣は、身を沈めながら固く拳を握りしめる。
「チャァァァァァァァァァァァァァッッ!!」
「うわあああああああああああああああっ!?」
低い体勢からこちらを睨み付けるギラリと剣呑な光を宿した青い瞳に、獲物となった男は思わず悲鳴を上げる。
『ドキドキ ☆ 魔女裁判!!(イケボ)』
「ぐわああああああああああっ!?」
星が砕けるビッグバンな背景と共に、極普通のアッパーを食らって吹っ飛ぶ雁夜。
あまり高く吹っ飛んだわけでもないのになぜか車田落ちで教会の床に叩きつけられた彼は、敷かれた赤い絨毯に顔を埋めながら動かなくなった。
突如として起こった奇々怪々な惨劇に呆気に取られていた綺礼だったが、横でワナワナと震える父に気がつき慌てて声を掛ける。
「よもや時臣君があの技の使い手とは……」
「父上、知っているのですか?」
「うむ」
息子の言葉に少し落ち着きを取り戻したのか、璃正は襟元を正して綺礼に語り掛ける。
「あれこそは虚拳の最異端として恐れられていた武術、その名を『セクシーコマンドー』!!」
「セ……セクシーコマンドー、ですか?」
「そうだ。セクシーコマンドーの真髄は相手の心の隙間を突く事にある。この教会に入ってきた時、バーサーカーのマスターは時臣君の姿に驚いていたな?」
「ええ。というか、いい年コイた大人が教会の真ん中で全力でケチャダンスを踊っていたら、誰だって驚くと思うのですが」
綺礼の放った至極真っ当なツッコミに、うんうんと頷く璃正。
「その通りだ。だが、この時点でバーサーカーのマスターは時臣君の術中に嵌っていたのだ」
「なんと……」
「驚愕に染まった心は意識の隙間を呼び、そして意識の隙間は身体の隙として現れる。その後も謎の叫びや怪しい動きで翻弄することで相手の思考能力を奪い、バーサーカーという切り札を切らせる事無く必殺の一撃を叩き込む。───その
「さすがは時臣師、感服しました」
その場の思いつきと勢いでやった事で父の友人にトンでもない勘違いをされている事に気付かない時臣は、璃正神父の助けを借りて即座に雁夜の令呪を剥奪。
自身へ移植するとすぐに一画を使ってバーサーカーを従える事で、聖杯戦争に復帰することができたのだ。
余談だが、敗者である間桐雁夜は教会に保護される事になったのだが、そのあまりの惨状に驚いた璃正神父の手によって治療が施された。
その結果、数日だった余命は大幅に伸び、数日後には彼の強い訴えによって姪の桜もまた保護される運びとなった。
自身の回想から現実に戻った時臣の顔からは迷いや恐れは消えていた。
長女の凛に『理想の父』と言わしめた自信と誇りに満ちた眼差しで、虚空を見つめる彼の脳裏には聖杯を手にした己の未来図しかない。
「そうだ、私に敗北は許されない。聖杯戦争の御三家最後の一人として、この冬木の管理者として、必ず聖杯は手にしてみせる」
強い宣言と共に立ち上がった彼の身なりが未だに腰ミノ一丁だったのは、きっと些細な問題なのだろう。
書き終わると、何故かセイバーが生き残っていた。
プロットではここで脱落していたはずだったのに……
というか、原作の切嗣ってアサシンのマスターが言峰じゃなかったら、あっさり脱落してそう。
狙撃を狙ってるところを後ろからブスリとかで。
オリキャラ図鑑 NO3
アルガ王子(平行世界)
平行世界のブリテン第一王子。
剣キチ世界とは違って正真正銘ウーサーの子なのだが、ブリテンの王に受け継がれる神秘の力を持たずに生まれ落ちる。
人柄も良く文武共に高い才を誇っていたので、次期王として多くの家臣から期待されていた。
しかしそのカリスマ性が仇となり、人工的に王の適性を植え付けたアルトリアの即位の妨げになると父であるウーサーの手によって殺害されてしまう。
ウーサーやマーリンは気づかなかったが、嫡子である彼が超常の力を備えていなかったのは、神代から人理に世界が移行した事の象徴であった。
ウーサーまでの王が超常の力で国を治める神秘の王ならば、彼は知恵と繋がりで国を動かす人の王。
正しい形で彼が王座に就いた場合は、ローマ帝国と国交を結ぶ事でヨーロッパ本州からの移民や交易を深め、輸入作物の栽培による生態系の変化によって島からの神秘の駆逐を早めることでブリテンを世界の流れに合わせる事に成功していたりする。
なお、アルトリア即位の際に最後まで抵抗した11人の王は、旧ブリテン時代の有力諸侯でアルガ王子の元後見人である。
彼女の即位に反対した理由は世界の流れに逆行しようとするブリテンを押し止める為だった。
ロット王がモルガンの保護に積極的だったのも、この縁ゆえである。
ちなみに剣キチは彼の持つスペックを剣術に全振りしているため、こんな手腕はまったくありません。
後書きオマケ
ゆるゆる第五次聖杯戦争
井戸端会議
若奥様 「モル子、モル子。なんだか聖杯が汚染されてるみたいなの」
モル子 「あ、やっぱりこっちもアウトだったんだ」
若奥様 「こっちも?」
モル子 「かくかくうまうま……ということなの」
若奥様 「やっぱり、貴女の旦那さんおかしいわ」
モル子 「身内だけど否定できない」
若奥様 「なら今回もバッサリいけばOKなのかしら?」
モル子 「多分それで大丈夫だと思うけど、若奥様ってそのままでも聖杯使えるわよね?」
若奥様 「いけるけど、バッチいのより綺麗なモノのほうがいいじゃない」
モル子 「たしかに……」
若奥様 「というわけで、旦那さんにお願いできないかしら?」
モル子 「……まあいいか。話してみるけど、何に使うの?」
若奥様 「万が一のためにヘソクリを、ね」
モル子 「気持ちは分かるけど、聖杯に願うのがそれって……」
報・連・相
剣キチ 「話は承った。でも、聖杯って脱落したサーヴァントの魂で動くんじゃなかったっけ?」
モル子 「そのはずなんだけど、今回って誰もリタイヤしてないわよね」
剣キチ 「オーナーや腹ペコみたいに、別の意味で戦線離脱したのはいるけど」
モル子 「叶える願いがなくなったら、こんな物騒なイベントには参加しないもんね」
剣キチ 「で、どうするの?」
モル子 「やってもいいけどさ、理由がヘソクリだもんねぇ」
剣キチ 「いい雇用主なんだけど、モチベがあがりません」
モル子 「というか、他の参加者ってカップばっちいの知ってるのかしら?」
剣キチ 「知らないんじゃね」
モル子 「この手の情報って、参加者に周知させとかないとヤバいわよね」
剣キチ 「うん。呪詛があっちと同じだったら、市街地にぶちまけられた場合、シャレにならない被害になる」
モル子 「こういう時って監督役に伝えるべきなんだけど……」
剣キチ 「なんとなくヤバい匂いがする。なんというか香辛料的な」
モル子 「じゃあえみやん君を通して通達する? たしか彼って弓・騎・狂に繋がりあったし」
剣キチ 「オーナーが術でハサーン氏が殺だっけ。じゃあ、残りは青槍さんだけか」
モル子 「その辺はみんなに伝えてから考えましょう。じゃあ使い魔を放つわ」
剣キチ 「よろしく」
会議
青王 「話は聞きました、姉上」
えみやん「聖杯が汚染されてるって本当なのか?」
剣キチ 「姉御と若奥様が確認しているから本当だよ。あれが街に流れたら特大レベルの災害になる」
りんりん「なによそれっ!? まったく、管理者は何をしてたのかしら!!」
さくらん「姉さん、ブーメランです」
雪ん子 「御三家が全員知らなかったって、間抜けの極みよね」
赤弓 「それでどうするのかね? このまま手をこまねいて見ているつもりではあるまい」
剣キチ 「取り敢えず大聖杯とかいう魔力炉に行って、汚染源をぶった斬るつもり」
メーちん「汚染源を斬る?」
バサカ 「斯様な事が可能なのですかな?」
青王 「兄上が本気で剣を振れば、因果律すらも破断できますから。物質も概念もなんでも斬れるんです。ですので、大聖杯の汚染源の因果を断ち切ればあるいは」
りんりん「えっと……それって宝具とか礼装とか?」
剣キチ 「そんな立派なものじゃない。ただの技だよ」
りんりん「そんな魔法を飛び越えたようなトンでも事象、技術でされてたまるかぁぁぁぁぁぁっっ!?」
さくらん「姉さん、落ち着いて!!」
剣キチ 「まあ、あれだ。魔術的視点だけでは到達できない場所があるってことよ」
赤弓 「まったく非常識な……」
えみやん「じゃあ、剣キチさんなら聖杯の汚染をなんとかできるんですか?」
剣キチ 「うん。以前にも成功させてるからね。大船に乗ったつもりでいなさい」
雪ん子 「アインツベルン的には物凄く複雑なんだけど……」
バサカ 「お嬢様、それは成長の代価に悲願を放り出した者のセリフではないかと」
雪ん子 「アダルトボディの前には必要な犠牲だった!!」
バサカ 「ブルマとチャイナ服、フリフリのドレス姿の撮影には勝てませんでしたな」
雪ん子 「ウェディングドレスもあったのよ……。ぐにゅう、無念」
障害
若奥様 「みんな、揃ってるわね」
モル子 「剣キチ、説明ご苦労様」
剣キチ 「なんの」
えみやん「事情は聞いた。それで何時やるんだ?」
モル子 「今からよ。脱落者はいないけど、魔力炉は今も地脈から魔力を吸い上げてるわ。最悪、聖杯戦争関係なしに爆発する可能性もあるから」
ハサーン「願いを叶えるという触れ込みに参加してみれば……。やはり異教の盃など信用が置けませんな」
剣キチ 「まあ、この手のイベントって大体が詐欺だからねぇ」
雪ん子 「失礼な事言わないでよ!!」
モル子 「それはさておき、みんな大聖杯に行くから準備してね」
若奥様 「参加者はこっちの呪詛防止のマスクをつけて。大聖杯がどういう状態になってるか分からないから、サーヴァントはマスターを護るように」
青王 「一騎も倒していないのに最終決戦みたいです」
えみやん「これが終わったら、冬木のピンチも聖杯戦争も解決すればいいんだけどな」
赤弓 「おめでたい男だ。サーヴァントがこれだけいるのだぞ、そう上手くいくわけあるまい」
えみやん「なんだよ、希望を口にしたら悪いのかよ」
赤弓 「聞いた者が不快になる。妄想は脳内に留めておけ」
りんりん「そこ、ケンカしない」
剣キチ 「これが終わったらどうなるかねぇ」
モル子 「モードレッド達も気になるし、妖精郷に帰らなくちゃね」
剣キチ 「若奥様達の件もあるし」
年末
えみやん「円蔵山にこんな洞窟があったなんて……」
剣キチ 「平行世界と変わってないな」
モル子 「お陰で探す手間が省けたわ。それに汚染もむこうほど酷くないみたいだし」
ハサーン「この先に大聖杯とやらがあるのですな」
赤弓 「リン、気を引き締めていけ。聖杯を前にした時、誰が裏切るか分からん」
りんりん「わかってるわよ」
さくらん「らいだー……」
メーちん「大丈夫です、さくらん」
雪ん子 「大丈夫だよね、バーサーカー」
バサカ 「ご安心を。お嬢様の身は私が護ります」
若奥様 「大聖杯の間に出るわよ」
????「ようこそ、参加者諸君!!」
えみやん「誰だ!?」
マーボー「私だ、衛宮士郎」
りんりん「綺礼っ! あんた、こんなところで何やってるのよ!?」
マーボー「監督役の決まっている。相争うべき参加者たちが結託するなど、あってはいかんのだからな」
雪ん子 「聖杯に異常があった故の緊急措置よ。監督役なら協力するべきじゃなくって?」
マーボー「なるほど。聖杯の汚染を知り、それを正そうという訳か。ならば、私も監督役ではなくプロデューサーとして立たねばなるまい」
剣キチ 「プロデューサー?」
マーボー「ふふふ……。こういう事だ!!」
青王 「なにぃっ!?」
バサカ 「大聖杯の前に巨大な城壁が現れただと……!?」
モル子 「なにか書いてあるわね。『風雲アンリ城』……なにこれ?」
マーボー「私が大好きだった伝説の番組、「風雲た●し城」を聖杯とアンリ君の協力の下に作ってみた! さあ勇者たちよ、正しき聖杯戦争を取り戻したくば、この難関を乗り越えてくるがいい!!」
剣キチ 「竜神池にキノコでポン、ジブラルタル海峡まであるのか。でも視聴者参加型番組の障害で、この面子を止められるかね?」
マーボー「心配いらん。見た目は同じでも難易度と屈辱性は『お笑いウルトラクイズ』並みに上げてある。思う存分、醜態をさらすがいい!」
剣キチ 「危険度十倍……だと……」