気づいたら、後書きオマケも佳境に入ってました。
ケイネス先生がエライ事になってしまってますが、キャラ改変のタグが必要かしら?
波乱に満ちた宴の後、招かれざる客達が立ち去った冬の城の地下室は痛いほどの静寂に満ちていた。
冷たく張り詰めた空気の中にあるのは、セイバーと正式なマスターとなったアイリスフィール。
そしてホムンクルス用のメンテナンスベッドに冷たく横たわる、彼女の夫とその相棒の姿のみ。
「体の内外共に損傷は無く、呪術や魔術による干渉の跡も無し。二人ともただ心臓だけが止まっていた……。死因として最も確率が高いのは急性の心不全による自然死、か」
「……」
城に配された医療用のホムンクルスたちからの診断結果に目を落とし、アイリスフィールは沈んだ声を漏らす。
「ねえ、セイバー。今まで隠していたのだけれど、キリツグは聖剣の鞘を持っていたの」
「『
「鞘は貴女を召喚する触媒として、アインツベルンがコンウォールから探し出した。最初は聖杯の運び手たる私を保護する為に使われていたのだけれど、アサシンの一件があってからは別行動を取る彼を護る為に預けていたの」
「そうだったのですか……」
「今まで隠していてごめんなさい。キリツグは貴女が鞘の存在を知れば、取り返そうとすると思っていたみたい」
「いいえ。サーヴァントである私よりも、マスターや貴女の身を優先するのは当然です。……こちらにも一言あれば、言う事はなかったのですが」
「あの人は、貴女との距離を測りかねていたみたいだから……。それでね、貴女に一つ聞きたい事があるの」
「なんでしょうか?」
「何故、聖剣の鞘はキリツグを護ってくれなかったのかしら?」
自分の方を振り向く事なく放たれた問いに、セイバーは思わず口ごもってしまう。
アイリスフィールに、彼女にこちらを責める意図は無いと思う。
しかし先程まで夫の身体に縋って号泣していた様を見ていた側としては、どうしても戸惑いを拭い切れない。
「……私も『全て遠き理想郷』の全てを知るわけではないので、私見になりますがよろしいですか?」
2、3度逡巡して出した前置きに、アイリスフィールは顔を向ける事なく頷いてみせる。
「『全て遠き理想郷』は担い手である私が持てば、不老不死と絶対防御という二つの加護を発揮します。そしてその加護は私との繋がりがあれば、『致命傷からも回復するほどの治癒』という形で鞘を持つ者へも向けられます」
「そうね。だから、キリツグは私に鞘を持たせた」
「今回の場合ですが、キリツグを護る事ができなかったのは、単純に鞘の加護が対処できる事象ではなかったのだと思います」
「どういう事なの?」
「鞘の治癒力は強大です、適性が高ければ身体を上下に両断されても再生するほどに。ですが、それは不死を与えるモノではない。そして、どれだけ優れた治癒の力でも壊れていない物を治す事はできません」
「それは……」
セイバーの返した答に今度はアイリスフィールが言葉を詰まらせる。
「担い手である私が同じ状態に陥ったなら、『全て遠き理想郷』はこの身を万全な状態にする為に心臓を動かそうとしたでしょう。ですが、キリツグに与えられたのは治癒能力のみ。どのような原因があったとしても、身体が傷つかねば鞘は彼に干渉しない」
セイバーは自分が相当に残酷な事を告げているのを自覚していた。
遺体を目の前にした妻に夫の死因についての考察を聞かせるなど、墓を掘り返すのと大差は無い。
それが頼まれたが故でも、言葉を紡ぐごとに自身の心が軋んでいく。
だが、それでもセイバーは言葉を吐くのを止めようとしない。
再契約を結んだとはいえ、彼女にマスターとしての自覚は薄い。
当然だ。
彼女にとって聖杯戦争の主役は夫のキリツグであり、自分など舞台袖の脇役でしかないのだから。
だが状況は変わった。
これからは彼女が中央に立たねばならないのだ。
マスターという主要メンバーとして、聖杯戦争という闘争の舞台へと。
「アイリスフィール、貴女に叶えたい願いはありますか?」
セイバーの問いかけに、アイリスフィールは言葉を詰まらせる。
『自分がそんなものを抱えてよいのか』という疑問が頭を過ぎるが、右手に刻まれた紅い文様を目にしてそれを振り払う。
最初に浮かんだのはキリツグの蘇生、しかし彼女はそれを打ち消した。
もちろん、夫を愛していないわけではない。
しかし、聖杯を使用して彼を蘇生させた場合、イリヤスフィールを託す事が出来ない事を彼女は知っていたのだ。
正義の味方を志し、9を生かすために1を斬り捨て続けた彼は、その犠牲が無駄でなかった事を証明するまでは、世界平和という見果てぬ理想を実現するまでは止まる事はない。
自分がこの聖杯戦争に身を捧げるのは、世界平和を齎す事で彼が背負っていた重荷を下ろし、一人の父親としてイリヤと暮らす事を信じているからだ。
もし、聖杯を使って彼を蘇らせれば、彼は贖罪と救済を求めて世界中を彷徨う事だろう。
娘をアインツベルンに置き去りにして。
───それでは意味が無い。
そこまで考えて、アイリスフィールはようやく自分の願いを知った。
彼女が抱いたのは、多くの母親が持つ当たり前の願い。
『娘が幸せな人生を歩めますように』
自身の想いに至った彼女は、ブルブルと痙攣する手でカルテが挟まれたバインダーを思い切り握り締める。
最初に脱落したアーチャーは相当な大物だったのだろう。
通常の英霊の2倍、いや3倍の大きさを持つ彼の魂を取り込んだ彼女の身体は、人としての機能の大半が失われていた。
その喪失度はプラスチック製のバインダーを少し持つだけで腕が悲鳴を上げるほど。
セイバーに魔力を供給する事で身の内にある小聖杯を満たす魔力を少しは軽減できているが、これが無かったら最早動く事もままならなかっただろう。
それでも芽生えた彼女の決意は揺るがない。
『ごめんなさい、キリツグ。貴方の願いを受け継ぐ事も、再び機会を与えることも私には出来ない。その代わり、どんな手を使ってでもイリヤを呪われた運命から解放してみせる』
心の内で夫に別れを告げ、聖杯の運び手は振り返る。
その紅い瞳は夫の言いなりになっていた妻のものではなく、娘を護らんとする母親のもの。
「セイバー。これから私は貴女のマスターとして闘う。それに知りうる限りの聖杯戦争の裏事情を貴女に教えるわ。だから、イリヤを呪われた運命から解放するのに手を貸してちょうだい」
征服王に負けない程の強き意志を示す白き姫に、セイバーは風王結界を解除した聖剣を掲げる。
「わかりました、アイリスフィール。護れなかったキリツグの分まで貴女を守護し、聖杯と共にイリヤスフィールの元に帰すことを誓いましょう」
闇を裂くように差し込む月明かりの下、立てられた騎士の誓いが護られるか否かは誰にも分からない。
ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが目を覚ましたのは、使い魔である槍兵が冬の城から戻って少しした頃だった。
近代兵器に頼る下賤の魔術使いに敗北した事に始まり、自身の魔術回路の大半が壊滅的な打撃を受けているという事実。
そして右手首から先が無くなっており、そこに宿っていた令呪が失われた事に取り乱していた彼は、雰囲気が明らかに変わったランサーが放つ圧に動きを止めた。
頭が追いつかない中で、ランサーの口から紡がれる冬の城における一幕。
中でもディフェンダーのマスターがアーサー王伝説の魔女モルガン・ル・フェイだったことは、彼に降りかかった不幸の全てを吹き飛ばすほどの衝撃だった。
大魔術師マーリンの弟子にしてアーサー王の姉。
さらには妖精郷という現世とは比べ物にならないほどの神秘溢れる場所で、千年以上もの間魔術の研鑽を続けてきたという。
彼の魔女の魔術の手腕を、千年以上にわたる神秘の探求の成果を見てみたい。
そう思い描く彼は、時計塔にてロードの称号を手にした若き天才ではなかった。
はじめて魔術を知った時のような、未知への探究と冒険心に心を満たした少年へと立ち戻っていたのだ。
だが、心がときめくような瞬間も全身を貫くような痛みによって終わりを告げた。
今の彼は回路を破壊されて魔術を行使することもままならぬ、哀れな落伍者にすぎない。
「ランサー! この無能めぇ!! 貴様の所為で私は───ッッ!?」
非情な現実を受け止められず、心を渦巻く鬱憤のままに使い魔へと当たり散らそうとしたケイネスは、自身を見下ろすランサーの目を見て言葉を失った。
目の前の男はかつての騎士道かぶれの愚か者ではなかった。
研ぎ澄まされた刃物のような眼光に、体から滲み出る覇気。
細身ながら漲る筋肉と拭い切れない血臭は、召喚当初の涼やかさなど欠片も残っていない。
そこにいたのは戦士。
強者と戦い、それを討ち取る事を至上の喜びとする闘争者だった。
「何か言ったかな、ケイネス殿?」
倉庫街の会戦の後に行った叱責の時とはかけ離れた慇懃無礼な態度に、ケイネスは歯を食いしばる。
怒鳴り散らしたいのはやまやまだが、目の前の漢には今の自分が放つ声など微風にもならないだろう。
「ランサー、貴様に何があった? なにがそこまで貴様を変えた?」
「貴方と同じだ、ケイネス殿」
「なに?」
「貴方がモルガンの名を聞いて武者震いをしたように、俺にもこの身が震えるほど武を持って挑みたい者ができたのだ」
「英霊たる貴様が挑む相手だと? 何者だ、それは」
訝しげに尋ねるケイネスに返ってきたのは、獣を思わせる笑みだ。
「───俺はその男の名も顔も知らぬ。だが、奴が持つ剣腕の一端はこの身で味わった。鞘に収まった一刀で我が槍を凌ぎきり、容易く巨木を両断する。その手腕はまさに神域のもの。奴がその気だったならば、俺はとっくに座へ還っていたことだろう」
ランサーの語る剣士の荒唐無稽さに思わず罵声を浴びせそうになったケイネスだが、脳裏に閃いたモノによって喉元まで来ていた言葉を飲み込む。
「それはもしやアーチャーを討った剣士のことか?」
「そうだ。奴は魔女の夫にしてディフェンダーの父と言っていた。ディフェンダーが奴の剣技を使っていたのを見るに、かの太陽の騎士もまた奴に剣を教わったのだろう」
「……その男はロット王ではないのだな」
「そうらしい。だが、そんなものは些細なことだ。あの千年もの間研鑽を重ねてきた武に挑めるならな」
そう言って嗤う男の顔を見たケイネスは、全身の血が沸騰しそうなほどの激情を憶えた。
『自分と同じ』
ランサーがそう言った理由がようやく分かった。
奴もまた、己が道の遥か先を行く者に挑まんとする喜びを知っているのだ。
だからこそ、だからこそッ! ケイネスは自分をくびり殺したくなるほどに悔しくなった。
なぜ……なぜッッ!?
奴には挑戦権があるのに、自分には無いのだッッ!!
どうして自分が魔術師殺しなどというクソ蟲の為に、このチャンスを棒に振らなければならない!!
私の魔術回路も月霊髄液も、彼の魔女と相対するのが相応しいというのにッッ!!
奥歯が砕けんほどに歯を食いしばり、ランサーを睨みつけるケイネス。
悔し涙をたたえた目に宿る感情は唯一つ、嫉妬だった。
全身を焼き尽くさんとする激情の中、ケイネスの脳裏に疑問が過ぎった。
本当に自分は魔術師として終ったのか?
……魔術師殺しに嵌められた時の全身が裏返るような苦痛は今でも憶えている。
感じ取れる魔術回路に重大な欠陥があるのも事実だろう。
だが、これだけで魔術師として終わったなどと信じられるほど、ケイネスは物分りが良くなかった。
産まれた時から魔術とともに歩んできた彼にとって、魔術師として終るという事は鳥が翼を捥がれるのと同じだ。
もしかしたら、まだ生きている魔術回路があるかもしれない。
地獄に垂らされた蜘蛛の糸のような淡い期待、それを得る為にはグチャグチャになった魔術回路を起動させなければならない。
それはあの悪夢のような苦痛をもう一度味わう事と同義……。
間を置いた事で頭をもたげてきた理性が制止を掛けようとするが、彼は刹那の間でそれを握り潰した。
再び地獄の苦痛を味わう?
それがどうした。
期待も空しく魔術回路は全滅しているかもしれない。
それがどうしたッ!
仮に残っていたとしても、それは全体から見れば雀の涙。
それがどうしたッッ!!
良く回る頭が捻り出す悲観的な予測を捻じ切りながら、自身の胸中でケイネスは吼える。
産まれて今まで魔術師一本で生きてきたのだ、魔術が使えないのならば死んだも同じ。
ならば、一縷の可能性に命を掛けるのは至極当然である。
激情のままに月へ吼えながら、ケイネスは体に残った魔術回路を起動させる。
瞬間、思考の全てが死に絶えるほどの苦痛がケイネスを襲った。
魔術師殺しの弾丸を受けた時と同じくまるで身体中が捲れ返るような痛みの中、血泡を吹きながらもケイネスはそれに堪えた。
地獄もかくやと言わんばかりの責め苦の中、ケイネスを支えたのは神代の魔女が操る魔術への好奇。
そして魔術師として稀代の魔女の前に立ちたいという、煮えたぎるようなチャレンジスピリッツだ。
ケイネスが身体を反らせながら苦痛を噛み潰すようになって数刻、数分、いや数秒だったかもしれない。
ほんの少し痛みに慣れてきたケイネスが内側に意識を向けると、魔術回路の躯の中から正常に魔力が流れるものがあることに気付く。
その数、僅か二割弱。
だが、それはケイネスにとっては福音だった。
どん底に落ちてはじめて分かった。
自分は魔術というものが心底好きなのだと。
いかに醜く無様であろうと、自分が未だ魔術師であるという事は、千年の魔女への挑戦権を失ったわけではないという事実は、こんなにも自分を奮い立たせる。
値千金といえる生き残った魔術回路のみを開いたケイネスは、自身の魔術礼装である『
かつては金剛石をも両断した攻防一体の礼装も、今は不定形の車椅子。
だが、それでいいとケイネスは笑う。
今の彼は絶望的と言われていた魔術を再び使える事が、この上なく嬉しかったからだ。
だが、彼の喜びに水を差す者がいた。
「ケイネス、気がついたのね」
掛けられた声に視線を向けてみると、そこには自身の婚約者であるソラウが立っている。
少し前までは声を聞くだけで天上に上るような気持ちになったが、今では何も感じる事は無かった。
異性への慕情など、燃えるような魔術への探求の前に跡形も無く吹き飛んでしまったのかも知れない。
何より、彼女の右手の甲に刻まれたランサーのマスターを示す紅い文様が、ケイネスの心を極寒にまで冷めさせた。
色に狂い、昏睡状態の人間の右手を切り落とすような女など、まさに百年の恋も冷めるというものだ。
「貴方が敗北してからランサーの様子が変になってしまったわ。それまでは流麗たる騎士だったのに、今では粗野な蛮族のよう」
『してもらって当然』と言わんばかりのソラウの態度に、ケイネスの額に青筋が浮かび上がる。
「ケイネス、礼装を呼び出せるならそのくらいはできるでしょ? 降霊科のロードと言われた知識と魔術刻印を使えば、魔術師として終わった貴方でも」
「黙れ、売女ぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
『魔術師として終った』
この言葉を聴いた瞬間に、ケイネスの頭の中で何かが千切れる音がした。
それと同時に、主の激情に反応した月霊髄液がソラウの右頬に突き刺さる。
本来なら人の頭など容易く粉砕できるはずが、女一人殺せないなど弱体化も甚だしい。
だがしかし、ケイネスは誇りと共に堂々と胸を張る。
彼の中に譲れぬ矜持がまだ残っているからだ。
「ソラウ、貴様は私が魔術師として終わったと言ったな」
月霊髄液が襟首を掴みあげると、ケイネスは頬を押さえて呆然としているソラウの目を覗き込んだ。
「私を誰だと思っている!? 私はケイネス・アーチボルトだ! たとえこの身が砕けても、一本でも回路が残っている限り探求を諦めない、それが私だ!! 貴様程度の矮小な頭で測れると思うな!!」
廃工場の中に満ちた夜気をビリビリと振るわせる一喝に、開放された後もソラウはへたり込んだまま動けなかった。
今までは惚れた弱みもあって、ケイネスがソラウに本気で怒りを向ける事は無かった。
だからこそ女帝気取りのソラウが優位に立てたのだが、その前提が崩れれば力のバランスは一気に覆る。
魔術の名門であるソフィアリ家の令嬢とはいえ、ただの小娘でしかないソラウが、ロードの名を冠する若き魔術の天才であるケイネスに勝てるわけが無いのだ。
再び月霊髄液に身体を預けたケイネスは、ソラウを見下ろしながらこう言い放った。
「ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ、貴様との婚約を解消する。その程度の魅了に溺れるような無能は、我がアーチボルト家には不要だ」
明らかに無価値なものに向ける目でソラウを見るケイネス。
ソラウが歯を食いしばって睨み返してくるが、そんな物は意も解さないと言わんばかりにケイネスは彼女に背を向ける。
「お見事」
「黙れ」
廃工場の入り口に立っていたランサーの賞賛の言葉に吐き捨てるように返すと、ケイネスは工場の外に向けて水銀を移動させる。
「何処へ行く気だ、ケイネス殿?」
「魔女の魔力を辿る。この小さな都市の中でそれだけの魔力を放っているとすれば、必ず痕跡を残すはずだ」
「なるほど。ソラウ殿は?」
「好きにするがいい。私はあんな女に構っている暇は無い」
うんざりした様子でため息と共に言葉を吐いたケイネスは、一度も振り向かずに工場を後にするのだった。
冬木滞在記(1994) 11日目
昨日はお楽しみでしたね、と息子に言われた。
……死にたい。
『戦争中に何を盛っているのか』というお叱りはごもっともなのだが、一つ言い訳をさせていただきたい。
昨日は姉御がこちら側のモルガンの記憶を見た影響で、精神的に不安定だったのである。
だからこそ求めてくる彼女に応じて、甘やかすだけ甘やかしたわけだ。
これは夫として、家族としての重要な責務なわけで、若い蕾状態の嫁さんを抱けてラッキー! だなんて、断じて思っているわけではない。
さて、これ以上書くと腹を掻っ捌きたくなるので、話を変えよう。
昨日の家族会議で征服王との同盟を結ぶ事が決定した。
そこまではよかったのだが、むこうとコンタクトの取り様が無い。
仕方がないので前回よろしく、姉御と街中を散策していると、買い物帰りのライダー主従と普通にエンカウントした。
こうも簡単に出会うのは如何なものかと思わなくも無いが、こちらに害があるわけでもない。
征服王がむこうのヤサに案内してくれるというので同行すると、なんとそこは普通の民家だった。
確認したところ、ウェイバー坊やは拠点を得る財力が無い為に、在日外国人の老夫婦に暗示を掛けて孫として潜り込んでいるのだという。
ロット王という前例もあったので俺的にはギルティ案件だったのだが、コレを理由に同盟を拒否るというわけにもいかない。
他の代案も無い事だし、不満は飲み込んでおくのが大人の対応という奴だろう。
その後は条件云々の話になったのだが、聖杯に関しては双方の願いが受肉なので飲み会での征服王の意見を採用。
連絡手段は姉御のマジックアイテムで取り合う事になった。
同盟と言ってもピンチになったら助け合うくらいの事しかすることが無いので、決めるのもザクッとした大まかな事だけだ。
事が決まったところで、ウェイバー坊やの下宿先であるマッケンジー家をお暇したわけだが、帰り道で姉御が調べたい事があると言い出した。
地脈を辿って円蔵山という山に入っていく姉御。
獣道を抜けて中腹辺りで足を止めたその先には、呪詛塗れになった場所があったのだ。
姉御がこっちに来た当初、地脈のバックアップを受けようとした際に呪詛に汚染されていると言ってたことがあったが、その源がここらしい。
姉御が言うにはアグラヴェインから伸びた術式のパスもこっちに繋がっているらしく、この先にある洞窟に聖杯戦争関連の何かがあるのは間違いないそうだ。
とはいえ、ここまで呪詛に汚染されていると俺達のような存在でも入るのは厳しい。
浄化しようにも地脈を通して次から次へと汚染が湧き出す状況では、術式を仕込む程度では焼け石に水でしかない。
ではどうするのか?
こういう時の為に剣キチ君はいるのである。
久々登場の真打君で空気中の呪詛という概念をバッサバッサと斬り伏せて進んでいくと、洞窟の奥で気持ち悪いオブジェに出くわした。
この紫色をした肉と目玉と触手が悪魔合体したような物体は、姉御曰く『超級の魔力炉心』らしい。
地脈から魔力を吸い上げてるところから見て聖杯戦争の大元だそうなのだが、見事なまでに呪い塗れでございます。
これって聖杯アウトなんじゃね? と口に出すと、姉御はとってもイイ笑顔でこう言った。
「バッサリ」
なるほど、汚染原因を斬れと申すか。
コレしか能の無い身としては、リクエストに応えないわけにはいかない。
刃を通そうとした途端に現れる影が凝り固まったような獣共。
姉御の援護射撃を受けて炉心とやらの中にある呪詛の因果を一閃すると、光と断末魔を放った後でキモイ軟体動物みたいだった炉心は、中心に光が漏れ出す亀裂の入った黒い岩のようなものに変化した。
呪詛やらなにやらが綺麗さっぱり無くなっているところを見ると、これが本来の形なのだろう。
戻ってくると姉御が呆れ半分感心半分な顔で『ここまで綺麗に原因を取り除けるとは思わなかった』などと言っていた。
……やらせといてそれはないんじゃね?