剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 後書きの文字数5000越え……
 いったい何があったというのだ。
 これはアレか?
 エレやん爆死の影響なのか?

 注)今回の後書きには、『異端なるセイレム』の重大なネタバレがございます。
   まだクリアしていない方は、ご注意ください。


冬木滞在記(1994)08

 冬の夜気の中、刃鳴と共に火花が散る。

 振るわれるは目にも鮮やかな紅と黄の槍、そしてそれを迎え撃つのは無骨な黒塗りの鞘。

 攻める槍は人の放つ限界を容易く超え、切っ先に裂かれた空気は波となって地面を抉る。

 そして護る木彫りの鞘はそんな剣呑な穂先を緩やかに押さえ、そして受け流していく。

 見かけはランサーの猛攻に仮面の男が押されているようにしか見えないが、実のところ状況は真逆である。

 ランサーの動きが激しさを増せば増すほどに、彼の身体に刻まれる傷は増えていく。

 有り得ない精度の後の先。

 ゲイ・ボウによる牽制(けんせい)は全て捌かれ、本命の一撃であるゲイ・ジャルグによる薙ぎ払いも下から跳ね上げられた。

 そして、ガラ空きになったわき腹へと鞘の一閃が食らい付く。

 刃を引かずに打ちぬく一撃だった為、身体へのダメージはそれほどでもない。

 それでも上半身を覆っている戦装束には切れ目が入り、中の肉は赤い傷口を見せている。

 薄手ではあるものの魔術的な加護で並の金属鎧など比較にならない強度を誇るスーツが、こうも容易く切り裂かれる事実。

 これが鞘をつけたままの刀剣の為せる業なのだから堪らない。

 背筋を(はし)る戦慄とは裏腹に、ランサーの口角は吊りあがったままだ。

 この程度は想定の内。

 この数日間の間は鍛錬と実戦を繰り返していたが、そんな物で差が埋まるほど目の前の男は甘くは無い。

 騎士王には通じたゲイ・ボウを取り落とすと見せかけて足で跳ね上げるという奇策は、短槍ごと跳ね上げようとした足を払われ、さらには(つか)で側頭部を殴られた。

 距離を取ってゲイ・ジャルグを投擲してみても、穂先を切っ先で合わせられてそのまま絡め取られてしまった。

 スピードに物を言わせた連撃は全て払われ、全力の一突きも流水の如き動きで受け流される。

 刃を交えてから数分間で三桁以上の手を合わせたが、この時点でランサーに打つ手は無くなった。

 身体能力は恐らく互角、武器の性能は圧倒的にこちらに分がある。

 にも関わらず、ここまで一方的に押し込まれているのは、偏に隔絶した技量の差ゆえだ。

 二槍を油断無く構えながら、ランサーは荒くなった息を吐く。

 城の森で手を合わせた時は大人と子供ほどの差と思っていたが、その見積もりすらも甘かった。

 現状で感じるのは赤子と達人ほどの開きがあるだろう。

 だが、それでもランサー、いやディルムッド・オディナは楽しんでいた。

 本来、この男は槍兵であると同時に剣士としての性分も持つ。

 だからこそ合理の極みと言うべき未知の剣技には、どうしても心を惹かれるのだ。

 一手、また一手と合わせる度に心の奥で(くすぶ)る欲求は強くなっていく。

 この男と槍ではなく剣で戦いたい。

 二槍ではなく、本来の型である一剣一槍で闘いたいと。

 この手に剣があれば、猿真似と言われようと奴の技を盗もうとしただろう。

 自身の持つ剣技はもちろん、頭の中に収めたままの空想の産物すらも全て出し切って、通じるか試してみた筈だ。

 実戦において武器や環境の差を嘆くなど愚の骨頂。

 そんな事は分かっている。

 しかし、恥を忍んででもそう言ってしまうほどに、目の前の男は強烈過ぎる。

 千年の研鑽(けんさん)の果てに在る神域に至りし剣士。

 それを目の前にすれば、自分の全力で挑みたいと思うのは当然と言えよう。

 なのに、己が手の内にあるのは長短二つの槍。

 圧倒的強者にハンデをつけて挑むなど、阿呆のすることだ。

 強者に挑戦すると言うのは、自身の持つ全てを全身全霊でぶつけて、その上で相手の強大さを知るという事なのだから。

 ランサーは脳内に滾る激情のまま、手にした槍を握り締める。

 いつもなら心強い手応えが、今はなんと頼りないことか。

 自身の未熟ゆえだとは十二分に理解している。

 それでもなお、戦士としての本能が叫ぶのだ。

 モラ・ルタが欲しい、ベガ・ルタが欲しいと。

「これ以上、手は無いようだな。ならば、決めさせてもらおう」

 激情を感じさせない言葉と共に、仮面の男は一歩前に踏み出す。

 思えば、むこうから仕掛けてくるのはこれが始めてだった。

 雑念を追い払って構えた手に力を込めたランサーは、すでに自身の懐に入り込んでいる男の姿に固まってしまった。

『なぜッ!?』

『いつの間にッッ!?』

 混乱する思考が無意味な言葉を弾き出す中、胴薙ぎの体勢を取る仮面の男の声がランサーの耳を打った。 

「これが縮地法。特殊な歩法によって人間の持つ視界・意識の死角を通って、気取られずに間合いを詰める技だ。冥土の土産に憶えて逝け」

 言葉を終えると共に迸る圧倒的な殺気。

 それだけで、目の前の男が自身の『死』であることは痛いほどに理解できた。

 迎撃しようにも、短槍を以てしても距離が近すぎた。

 長槍に至っては、完全に死角に入られてどう振ろうと当たるわけが無い。

 間合いについては相手の得物も似たようなものだが、甘い考えも溜めの無い状態から巨木を両断したのを思い出し、空しく消える。

 絶体絶命の窮地(きゅうち)、そんな中でランサーの脳裏に過ぎるのは、諦めではなく怒りだった。

 初めて見る業、初めて知る技法! 奴はそんなものを山と持っているに違いない。

 なのに、一つ。

 たった一つしか見ることができないで、俺は死ぬと言うのか!?

 ふざけるな! フザケルな!! ふざけるなっ!!!

「おおおおおおあああああああああああっっ!!!」

 咆哮と共にランサーは右手に持っているものを振り抜いた。

 胴へと一撃を放とうとしていた仮面の男は、脳裏を過ぎった警鐘のままに後ろに飛ぶ。

 顔の手前に軽い衝撃を受けながらも間合いを広げた男は、ランサーの姿に目を見開いた。 

 先程まで右手に収まっていたはずの朱槍が姿を消しており、代わりに銀の柄に翡翠の刀身を持つ長剣が握られていたからだ。

「ランサーが、剣だと……!?」

 モルガンの背後に現界したアグラヴェインが、驚きの声を上げる。

「あのランサーって、剣士としても有名なはずよ。だったら、剣を持っていても可笑しくないでしょう?」

 傍らから掛けられた母の言葉に、アグラヴェインは厳しい顔のまま首を横に振る。

「たしかに、あのランサーには剣士としての逸話がありますが、聖杯戦争のルール上ありえないのです」 

 その言葉を前置きにして、アグラヴェインは母に聖杯戦争のルールを説明する。

 曰く、聖杯戦争においてセイバー・アーチャー・ランサーの三騎士と呼ばれるクラスは、特殊な英霊で無い限りは該当クラスの宝具しか持つ事はない。

 つまり、例えランサーに剣士としての逸話が合っても、槍兵として現界している以上は剣を出すという事はありえないのだ。

 これは対魔力等の高い能力を持つ三騎士と、他の4つのクラスとの差を埋める為のハンデなのではないか、との事である。

 息子の説明に、自身の目に魔力を通してランサーを解析したモルガンは、肩を竦めながらため息を付く。

「なるほど、随分と無茶をしたものね」

 魔眼となった彼女の視界に映っているのは、胸の霊核に亀裂が入ったランサーの姿だった。

「見事」

 男の小さな呟きと共に、仮面の額の中央から右目の下に掛けての部分が地面の上でカランと音を立てる。

 先程の無念無想の一撃もそうだが、剣を隠し持っていた事や武器のスイッチなどの技術への賞賛が男の口を衝いた。

「……その賛辞、素直に受け取っておこう。だが、勝負はここからだ。これより先はランサーではなく、本当の俺として挑ませてもらう!!」  

「───来い」

「オオオオオオオオオオッッ!!」 

 地を蹴り、雄叫びと共に仮面の男に襲い掛かるディルムッド。

 長剣モラ・ルタの振り下ろしを鞘で(みどり)の光を発する剣の平を叩く事で逸らし、そのまま袈裟斬りに鞘を振り下ろす。

 しかし、それは右手に握る物とよく似た翡翠の短剣によって阻まれた。

 ディルムッド・オディナの伝承に記される短剣、ベガ・ルタだ。

 短剣の刃が鞘に食い込むのを見て一度剣を引く仮面の男、それを待っていたかのようにディルムッドが放ったのは翠ではなく真紅の突きだ。

「……ッ」

 短い呼気と共に、仮面の男が空を裂くゲイ・ジャルグをいなすと、間髪入れずに左のベガ・ルタが胴を薙ごうと襲い掛かる。

 土煙を上げて跳躍した男は、襲い来る刃を踏み台にして大きく後方に距離を取る。

 宙を舞う羽毛の如き身のこなしは、軽功術の為せる業だ。

 しかし、易々と逃すほど今のディルムッドは甘くはない。

 仮面の男が着地するタイミングを見計らって、短剣をゲイ・ボウに持ち替えて突貫。

 乾坤一擲である胴狙いの一撃だが、足が地を噛む寸前で放った唐竹に打ち落とされ、続けざまの掌打を腹部に受けたディルムッドは大きく後退する。

「……こうまで二剣二槍を巧みに操るか。予想していたと言え、間合いに(こだわ)らない変幻自在さは厄介だな」

「流石……と、言って…おこうか。俺の…闘法を初見でここまで…躱した男は貴様が…初めてだ」

 喉元からせり上がる血反吐を飲み下しながら、それでもディルムッドは不敵な笑みを浮かべる。

 ランサーというクラスに当てはめられた召喚で、モラ・ルタとベガ・ルタを呼び出した反動は決して軽くは無い。

 武器を入れ替える度に身体を引き裂くような痛みが走り、頭の中には心臓部にある霊核により深く亀裂が刻まれる音が聞こえる。 

 霊核の破損状況は思ったより深刻で、このまま続ければ今日の内にも座へ還る事になるだろう。

 だが、ディルムッドに迷いは無かった。

 仮面の男ほどの偉大な剣士ならば、命を捨てて挑むのは当然だからだ。

 ギラギラと眼を光らせるディルムッドを安全圏で見ていたソラウは、令呪から返ってくる情報に絶望を抱いていた。

 自身の心を奪った男が、己に見向きする事も無くその命を散らそうとしている。

 それは心に燃え盛る慕情の炎が反転するには十分すぎる理由だった。

 彼を愛する為に、実家から(あて)がわれた婚約者と破局したのに……。

 込み上げる悲しみと怒りに、涙を堪えようと歯を食いしばるソラウ。

 ケイネスとディルムッドが聞けば鼻で笑うような妄想だが、彼女にとってはそれは真実であった。

 私がこんなに愛しているのに、こちらを見向きもしないのなら……

 彼が血に飢えた獣から、出会った頃のような涼やかな騎士に戻らないのなら……! 

 私のモノにならないのなら……!!

 心の中で渦巻く感情の(よど)みは回路を辿って魔力となり、右手の令呪を怪しく光り輝かせる。

 愛情転じて憎悪となる。

 こと男女間にあっては良く耳にすることだが、今回ばかりは具合が悪かった。

「ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリが令呪を持って命じる……」

 呟くように紡がれた言葉。

 剣を交えてる最中ならば聞こえないそれは、互いに緊張を高め合っていた両者の耳を逃れる事はできなかった。

「貴様……ッッ!?」

 勝負に水を差されると直感したディルムッドは、己がマスターである女を仇を見るような目で睨みつける。

 だが、それは彼の視界に映ることを望んでいた女にとっては、歓喜の材料にしかならない。

「私のことを想いながら自害なさい、ランサー」

 べったりと張り付いた情欲塗れの笑みと共に、右手の紅い文様が一画消えうせる。

「うあああああああああっ!?」

 パスを通して下された絶対命令によって、ディルムッドは頭を押さえながら絶叫した。

 唾棄すべき事だが、心の中であの女への思慕の情に火がつくのがわかる。

 湧き上がるのは強烈な嫌悪と不快感。

 心を塗り替えられると言うのが、ここまで下劣な行為だったとは。

 ならば、自身の黒子によって魅了された女性達もこんな思いだったのだろうか?  

 やられる身になって初めて、己の所業の悪辣さが身に染みた。

 セイバーとの戦いのときに口にした『女性に生まれたことを恨め』など、これを知れば絶対に口に出来ない。

「ぐぅがあぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?」

 半ば白目を向きながら、頭を押さえつけて必死に抵抗するディルムッド。

 だが、聖杯を寄る辺に現界するサーヴァントにとって、令呪の命令はほぼ絶対だ。

 このまま行けば、数分のうちに彼はソラウへの愛を語りながら自刃するだろう。

 しかし、この絶望的な状況であってもディルムッドは諦めていなかった。

 彼は震える手で真紅の槍を掴むと、その切っ先を霊核の上に押し付ける。

「オオオオオオオオオオオッ!!」

 そして悲鳴とも怒号とも付かない咆哮と共に、穂先を胸に押し込んだ彼は血反吐と共にこう呟いた。

穿(うが)て……破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)……」

 宝具の真名開放。

 胸に突き刺さった槍から放たれた赤い光は主の身体を駆け巡り、光が収まると彼はゆっくりと身体を起こした、

 その身は血に塗れているが、令呪による影響を受けたときの様な弱弱しさは微塵も無い。

 目の前で起こった惨状にへたり込むソラウの前に立つディルムッド。

 その琥珀色の双眸には何の感情も浮かんでいない。

 それは少し前にケイネスがソラウに向けた瞳、彼女が最も嫌う『向けた対象を無価値と断ずる眼』だ。

「どうして死んでないの!? 令呪の命令はどうしたのよぉ!?」

「貴様の下らん命令なら、ゲイ・ジャルグで解除した。令呪とはいえ所詮は魔力の流れ、命令を受ける霊核に槍を打ち込めば無効化できる、という読みは当たったようだ」

 ヒステリックに叫ぶソラウに、ディルムッドは普段なら浮かべないであろう嘲笑と共に絶対零度の言葉を浴びせる。

「霊核に槍って……」

「モラ・ルタやベガ・ルタの召喚でひび割れていたからな、割れ目に穂先を刺し込むだけで事は済んだ。不幸中の幸い、と言うべきなのかもしれんがな」

 そう笑った後、ディルムッドは彼女の右手を斬り飛ばし令呪にゲイ・ジャルグを叩き込んだ。

「失せろ、女。貴様など殺す価値も無い」

 令呪が消滅した右手と、悲鳴を上げてのた打ち回るソラウに吐き捨てると、ディルムッドは再び仮面の男と向き合った。

「仮面の男よ、貴様との勝負はまだ終わりでは無いだろう?」

 血塗れの顔に凄絶な笑みを浮かべて、ディルムッドは長剣と長槍を構える。

 魔力補給は途絶えて霊核の損傷は致命的、さらには胸に大穴も空いている。

 その身はもう、コンディションも何もあったものではない。

 だが、彼は諦めてはいない。

 ()き止めた令呪が魔力に還元されて体内に残っている今なら、一度は宝具を放てるはず。

 それに全てを掛ける算段だ。

「ああ、まだこれからだ」

 男はそう答えながら、身につけていた仮面を外す。

 そして、欠けた面が地面を叩くのと同時に、傷だらけになった黒鞘からゆっくりと刃を抜き放った。  

「貴様……」

「ランサー……いや、ディルムッド・オディナよ。貴殿の他者に屈せぬ誇りと、飽くなき闘争心に敬意を示そう。───内家戴天流剣法『剣魔』アルガ、奥義を以てお相手する」

 月明かりを返す刃を正眼に構えるアルガに、ディルムッドもまた長剣と長槍を構える。

「心遣い感謝する。───フィオナ騎士団一番槍、ディルムッド・オディナ。我が至高の一撃を以て貴殿を討つ!」

 互いに名乗りを上げた二人の闘氣は、互いにぶつかり合って場の景色をグニャリと歪ませる。

 泣き叫んでいたソラウすらも声を出せないほどの緊張感の中、先手を取ったのはディルムッドだった。

 死に体である彼に残された時は無い。

 ならば、真正面から自身の放ちうる最強の一撃に勝負を掛けるのみ。

「我が最大の一撃、受けてみるがいい! 『猛者の大怒(モラ・ルタ)』!!」

 長剣モラ・ルタから放たれた極光。

 それは騎士王の聖剣に勝るとも劣らない力を秘めて、アルガへと襲い掛かる。

 自身の破滅が迫る中、アルガは刀を正眼、戴天流・峨眉万雷(がびばんらい)に構えたままゆっくりと眼を閉じる。

(この極光を制すには、剣の因果を断つ他に方法は無い。───因果とは眼に捉えられぬ物、ならば、視界を失う事に何の不都合がある)

 深く息を吸い、そして(はら)に溜めて吐く。

 調息によって練り上げた氣は経絡を通して全身を駆け巡り、内勁として刀へと宿る。  

(───眼だけで見るな、音だけを聞くな。六塵の全てに魂を散じ、剣は迷わず、囚われず、無縫を取る)

 そして研ぎ澄まされた感覚は刀と一つになり、その意識を更なる高みへと押し上げる。

(この一刀の切っ先に、刹那よりもなお疾く、六徳よりもなお細く…… ───『虚』よりなお『空』 ───『空』よりなお『静』───『静』よりも、その果ての『浄』の境地)

 限界まで研ぎ澄まされた『意』は、天眼・神眼を超えて天地万物の因果すらも掌握する。

 同時にアルガは迫り来る魔剣『猛者の大怒』の因果を捉えていた。

「六塵散魂───無縫剣!!」

 瞬間、極光は十に寸断されて姿を消した。

 驚愕に見開いたディルムッドの目に映るのは、輝線としか捉えられない何か。

 それが剣撃であったと知ったのは、自身の得物が両断され胸を穿たれた後だった。

「───見事」

 血反吐と共に言葉を搾り出すディルムッド。

 『猛者の大怒』の真名開放で限界だったのだろう、その身体は光の粒子となって消滅していく。

「我が第二の生に一遍の悔い無し」

 そう言い残すと、ケルトの戦士は満ち足りた表情のまま逝った。

 

 

 

 

 冬木滞在記(1994) 13日目

 

 

 ランサー主従との闘いが終った。

 ディルムッドの兄ちゃんもいい根性していたし、久々にビームも斬れたから余は満足である。

 さて、残ったケイネス氏と地雷女だが、女の方は最低限の止血をして放置。

 救急車は呼んでやったから、死ぬ事はないだろう。

 ケイネス氏は、ホテルに運んで姉御が治療を施した。

 落とされた右手以外の怪我はあっさり治ったが、問題は魔術回路だ。

 姉御曰く、彼の魔術回路は一度切断された後、出鱈目に繋ぎ直されているらしい。

 しかも繋ぎ目もちゃんと治癒したのではなく、例えるなら紐を切って団子結びで結び直す的な縫合なので、このままではまともに機能はしないんだとか。

 というワケで、俺にお鉢が回ってきた。

 起源弾の空薬莢から衛宮切嗣の起源への対抗術式は出来ているらしいので、あとは繋ぎ目を綺麗に切断するだけの簡単なお仕事。

 施術は数時間で終わり、ケイネス氏にベッドを譲った俺達はソファで一夜を明かした。

 翌朝、手足の麻痺が治ったことに驚いていた氏に、姉御が現在の身体の状態とリハビリが必要な旨を伝えた。

 むこうは完治しないと思っていたらしく、その場で号泣するほど喜んでいた。

 落ち着いた氏が治療費を払うと言ってきたが、あいにく妖精郷暮らしの俺たちには金銭はあまり意味がない。

 姉御は現代魔術師の意地を見せたことへの報酬だと返し、後は家で休みなさいと転移陣でケイネス氏をイギリスに送ってしまった。

 イギリスに送られるまで礼を言い続けていた彼は、きっと悪い人ではないのだろう。

 さて、これで残りは五陣営。

 動きの無いバーサーカー陣営が気になるが、その辺は征服王と何がしか策を立てることにしよう。

 あと、夜中にアグラヴェインがこっそり抜け出してたので後を追ってみたところ、ホテルの屋上で六塵散魂無縫剣の練習してました。

 いやぁ、血は争えないねぇ。


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