剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

33 / 137
 筆が乗り申した。

 なんというか、剣戟ばっかり書いてたから、今度は格闘が書けなくなって来た。

 ちょっとMUGENで極限流百人組み手してきます。


冬木滞在記(1994)11

 深山町にある遠坂邸。

 古い洋風建築が目を惹く地元の名士に相応しい広い敷地に、鋼を打ち合う音が響き渡る。

 手入れされた中庭で対峙するは、紫紺と漆黒二つの鎧を身に着けた騎士だ。

 片や黒く染まった立派な騎士剣、もう一方は反りのある片刃が特徴の細身の剣。

 音に匹敵する速度で振るわれる両者の得物、それらが十合、二十合と噛み合う度に、宙空に火花が散っていく。

 英霊同士の身体能力を全力で使った攻防の中、アグラヴェインの顔に浮かぶのは焦りの表情だ。

 一刀如意(いっとうにょい)の域に達した彼の読みに(かげ)りは無い。

 未だ黒い魔剣の直撃を許していないのが何よりの証拠と言えよう。

 だがしかし、稀代の騎士であるランスロットとの(せめ)ぎ合いの中で、内家拳士としての彼の欠点が次第に顔を見せ始めていた。

「はぁっ!!」

 裂帛(れっぱく)の気合と共に振るわれる、ランスロットの胴薙ぎ。

 すかさずアグラヴェインの手にした切っ先が輝線(きせん)を描く。

 しかし、その動きはランスロットの剣の後塵(こうじん)(はい)している。

「ぐっ……!?」

 金属の削れる音に続いて、吹き出る血飛沫。

 アグラヴェインの受けをすり抜けてきたランスロットの剣戟が、(まと)った漆黒の胴を斬り裂いたのだ。

 雲霞渺渺の構えを崩す形で身を捻った事で直撃は避けられたが、刻まれた傷は楽観視できるほど浅くはない。

「おのれ……ッ!」

 口を衝いた悪態の矛先は、眼前の騎士ではなくアグラヴェイン自身へ向けられていた。

 ランスロットは無念無想の境地を経て『意』を消していたわけでも、ましてや『意』に先んじていたわけでもない。

 相手の『意』に遅れて放たれた剣を防げなかったのは、単純に自身が(いた)らないためだ。

 一度退いて体勢を立て直そうとする彼に、ランスロットはより深く踏み込んで追撃を放つ。

 脳天目掛けて振り下ろされる黒い魔剣に、アグラヴェインの手元からも迎撃の剣が(はし)る。

 しかし、白刃は相手の攻撃を(しの)ぎきる事ができず、切っ先は鎧を切り裂いて鎖骨と胸の肉を削った。

 喉まで競り上がった苦鳴を噛み潰して、アグラヴェインは再び剣を構える。

 先の剣も今の一撃もそうだ。

 父ならば鼻歌交じりで応じられた攻撃も、自分ではこのザマだ。

 理由は剣腕の未熟さももちろんあるが、それだけではない。

 攻防に関して氣功術を使用することができない。

 それが(くつがえ)されつつある戦況を招いた大きな要因だ。

 内家拳とは体の内側、すなわち経穴や氣脈、そしてそこを流れる氣を鍛えて、超常の力へと至るのを極意としている。

 アルガの振るう万物を断ち斬る剣や驚異的な身のこなしも、氣功術によるものが大きい。

 当然、アグラヴェインも戴天流の修行の一環として氣功術は学んでいる。

 しかし、不運なことに彼は氣功術の才が乏しかった。

 それ故に高い技術と精密さを要求される戴天流と併用することを、アグラヴェインは諦めていたのだ。 

 それが内家拳士として片手落ちである事など、彼自身が痛いくらいに理解している。

 それでも堅実さを求める気性から、彼は生の終わりまで更なる一歩を踏み出せなかった。

 英霊の座に召し上げられ、己の宝具が『雲霞渺渺』の防御である事を知ったアグラヴェインは、画竜点睛(がりょうてんせい)を欠く技がそのような扱いになった事を心の底から恥じた。

 だからこそ、座でも戴天流の鍛錬に打ち込んで剣腕を磨いてきたというのに……。

 数十手の打ち合いの後、勢いに乗ったランスロットの一撃に迎撃の刃を弾かれ、アグラヴェインの右の二の腕に剣の痕を付ける。

 『柔よく剛を制す』はずが『柔よく剛に断たれる』など、笑い話にもならない。 

 それに魔剣に堕ちたとはいえ、アロンダイトは星の聖剣に比肩する神造兵器。

 その一撃を喰らえば、急所を外したとしても彼の身体では致命傷になる可能性は高い。

 一度たりとも取り落とす事ができないという重圧の中、冴えを見せる相手の剣によって彼の精神は削られ続けていた。

「観念しろ、アグラヴェイン! 奇妙な剣術に惑わされていたが、それとて最早(もはや)通用せんぞ!!」

「ほざくな! 世迷い言は我が戴天流を破ってからにするがいい!!」 

 憎悪や苛立ち、己の世界での敗北に起因する劣等感など、負の感情が(こも)った剣でアロンダイトを弾き飛ばしたアグラヴェインは、荒くなった息を整えながらも己が剣を恥じた。

 『意』に先んじて放たれ、無心の内に敵を斬る事を肝要とする内家剣士にとって、私怨に塗れた剣などあってはならない。

 師である父を前に、なんたる無様な剣を振るっているのか。

 やはり、凡人の自分では天賦の才を持つ者には及ばないというのか……?

 湧き上がる自己嫌悪を噛み締めた時、アグラヴェインの脳裏に過ぎったのは遠く幼い記憶だった。

 

 生前オークニーの城にいた頃、幼いアグラヴェインは父に問うた事があった。

 『何故ガウェインやガヘリスではなく、何の力も持たない自分に流派の技を教えるのか』と。

 物事を正しく捉えようとする気質を持っていたアグラヴェインは、剣に(たずさ)わってすぐに自分の教わっているモノが兄達とは違う事に気がついた。

 最初は疑問に思えど口にはしなかったが、氣功術や戴天流の有用性を実感すると、尚更(なおさら)にそれが気に掛かるようになったのだ。

『私ではなく兄上達に教えたほうが、きっと強い剣士になると思います』

 内から湧き出る悔しさを(こら)えて、アグラヴェインは父に進言した。

 本心を言えば、筋力と直感重視の戦場剣術でしかなかったブリテンの剣よりも、合理を突き詰めた戴天流のほうがアグラヴェインの肌に合っていた。

 先天的に強力な力を得ていた兄達を差し置いて自分だけが学ぶことができるのは、我知らず2人にコンプレックスを抱いていた彼にとって大きな慰めにもなっていたのだ。

 しかし、アグラヴェインはその全てを捨てるような決断を下した。

 これは彼なりに『凡人の自分よりも、伸び代の大きい兄達が学んだほうが国や家族の利になる』と考慮した為であった。

 今思えば、自分より周りの利を優先するという癖は、このときから始まったのかもしれない。

 だが、父はそんなアグラヴェインの言葉に応じようとしなかった。

 彼は幼いアグラヴェインに目線を合わせると、ゆっくりと胸の内を聞かせてくれたのだ。

『戴天流を教えるのは、お前が一番学ぶ才を持っているからだ』

 言葉の真意が分からずに泣きそうになった自分の頭を撫でながら、父は幼い自分にも理解できるように言葉を選んでいく。

『アグラヴェイン、たしかにお前にはガウェインの持つ太陽の加護も、ガヘリスの様な剛力もない。けどな、お前には物事を正しく捉えようとする姿勢と、一つの事を極めんとする情熱がある』

 母には魔術に向いていると教えられた自身の長所、勘や精神論が幅を利かせていた武術で評価された事には本当に驚いたものだ。

『理と技によって剛を制する内家拳を修めるには、それがもっとも必要な素養なんだ。日々修練を積みながら己を省み、更なる高みを目指す。そういったコツコツ積み上げる努力は、ガウェインもガヘリスも持っていないからな』

 自分に正直な次兄はもちろん、礼儀を重んじる長男も実は飽きっぽい事をアグラヴェインは気付いていた。

 それが生まれつき持っている能力から、ある程度の事は簡単に出来てしまうが故である事も。

『アグラヴェイン。生まれつきの能力が無い事を、自分の弱さを卑下してはいけない。武術は弱者が強者を倒す為の術。己が弱さを認めて乗り越えようとした時に、初めて真価を発揮するものなんだ』

『叔父上も弱かったのですか?』

『もちろん。おじさんは、自分の弱さをどうやったら乗り越えられるかって事ばかりを考えてきた。だから、お前の前を歩けているんだよ』

 そこで一度言葉を切った父は、笑みを少し真剣な表情に変えてこう言った。 

『───アグラヴェイン。俺達が学んでいる内家拳は、自身の氣を()って世界と合一する事を極意としている。故に深遠無縫(しんえんむほう)、奥深さに果ては無い。人の弱さや小ささなんて、簡単に飲み込んでしまうほどにな。もし上手く行かない事があったら、調息して氣を整えるんだ。そうして氣も心も落ち着いたら、もう一度考えてみるといい』

『そうすると、答えが出るんですか?』

『さて、どうだろうな。出るかもしれないし、悩む事が馬鹿らしくなるかもしれない。ただ、頭の中でグルグル堂々巡りをするより、少しはマシな考えが浮かぶはずさ』

 ニカッと笑みを浮かべる父の姿を最後に、アグラヴェインは思考の渦から現実に立ち戻った。

 随分(ずいぶん)と懐かしい情景に、アグラヴェインの顔に張り付いていた渋面が剥がれ落ち、口元に笑みが浮かぶ。

「……何がおかしい?」

「───さてな」

 訝しむランスロットの言葉に、笑みを隠すことなくアグラヴェインは答える。

 2人の兄に劣等感を憶えなくなったのは、あれが切っ掛け(きっかけ)だった。

 己の捻くれた性根を思えば、あの会話が無ければ家族に心を開くこともなく、人間嫌いの厭世家にでもなっていただろう。

 ほんの少しだけ力が抜けたアグラヴェインは再び雲霞渺渺の構えを取り、深い調息と共に(つたな)いながらも氣を練り始める。

(都合のいい話もあったものだ、この局面であの時の事を思い出すとは……。だが、お蔭で踏ん切りが付いた) 

 朧気にしか感じられない自身の氣に手を伸ばしながら、アグラヴェインはさらに集中を深めていく。

 一歩踏み出したものの内心の不安は拭えない。

 父と共に行った修練でも様になったのは軽身功のみで、内勁を武具に込めることは(つい)ぞ出来なかった。

 そんな有様にも関わらず、ぶっつけ本番で戴天流と組み合わせようというのだ。

 自信を持てるほうがどうかしているだろう。

 だが、泣き言を言ったところで意味は無い。

 このまま流れを変える事が叶わなければ、己が死因の二の轍を踏むだけだ。

 親よりも先にこの世を去った身としては、父母の見ている前でそんな姿を晒す事だけは、絶対に避けねばならない。

 その為には記憶の中で父が口にしていた内家拳の極意、それに指の先だけでも掛ける必要があるのだ。 

 確固たる決意の下、アグラヴェインは練習の際に感じていた父の補助を思い出しながら、ゆっくりと経絡に氣を巡らせる。

 すると下腹部、丹田と呼ばれる氣の溜まりを中心にして、全身を暖かく力強い流れが循環するのを感じる事ができた

 氣は手足を走る三陰三陽十二経、そして全身にある654の経穴を巡る事で内力となり、そして全身を巡る中で洗練され内勁へと昇華される。

 体内を巡る力の流れをはっきりと感じられるようになると、今まで感じていた刀や鎧の重さが消えていた。

 自重で足の裏が土を噛む感覚も酷く軽い。

 内家氣功術の一つ、軽身功が発動した証拠だ。

「何を企んでいるかは知らんが……思うようにはさせん!」 

 明らかに雰囲気が変わったアグラヴェインに、ランスロットが襲い掛かる。

 トップギアへと至ったその腿力(たいりょく)は、残像を置き去りに相手との間合いを殺し切る。

 そしてそこから放たれるは、数多の蛮族や円卓の騎士達を退けた一撃。

 当人はもとより、固唾を呑んで見守っていた騎士王にも勝利を確信させた一刀は───

 先程より倍する速度の白刃によって絡め取られ、見当違いの場所に流れてしまった。

「なっ……!?」

 驚愕の声を放つランスロットの視界の隅を、先程までとは打って変わった斬撃の輝線が(かす)める。

 慌てて飛び退く事で難を逃れた彼は、再び正眼に構えようとして瞠目(どうもく)した。

 なんと右手の甲から肘にかけて、籠手がザックリと切り裂かれていたのだ。

 いつ斬られた……ッ!?

 己の渾身の一手を防ぐと同時に、刃を奔らせたとでもいうのか!?

 戦慄するランスロットを他所にアグラヴェインもまた、自身が感じる奇妙な感覚に戸惑いを覚えていた。

 軽身功を使えば体術の速度が格段に跳ね上がるのは知っていた。

 だがしかし、自身の感覚まで変わるなどとは想定外である。 

 先の一手は、主観によって相手の動きを捉えていたこれまでとは違い、空から戦場を俯瞰(ふかん)するかのようにランスロットだけでなく自分の動きまで手に取るように分かったのだ。

 お蔭で以前とは比べ物にならないほどに受けが冴え、ランスロットの腕に刃を当てる余裕まで生まれた。

 もしかしたら、これが(かつ)て父が口にしていた『空位』と呼ばれる境地なのだろうか。

 愚にも付かない想像に浮かべた自嘲を戻し、アグラヴェインは峨眉万雷の構えを取ると同時に地を蹴った。

 サーヴァントの脚力に軽功術を併用した事による踏み込みは、ランスロットの全力に迫るものがあった。

 懐に飛び込むと同時に放たれた貫光迅雷の刺突を心臓寸前で切り払うランスロット。

 だが、跳ね上げられた白刃は担い手の体捌きによって、弧を描きながら今度は首筋に喰らいつかんと奔る。

 咄嗟に鍔元で跳ね返せば胴薙ぎ、さらに防げば斬り上げと、まるで数珠のように次から次へと斬撃が繋がっていく。

 その手数によって、ランスロットは守勢に回らざるを得なくなる。

 しかし連環套路(とうろ)と呼ばれる技法で放たれる戴天流の技の数々は千変万化。

 戦意や殺気といった予兆に先んじて放たれる亜音速の斬撃、それを防ぐのは困難を極める。

 このままでは凌ぎきれないと判断したランスロットは、傷を負うのを承知で強引に攻めに転じた。

 巧みに継ぎ目や隙間へと刃を奔らせる相手の剣の前には、礼装であるフルプレートはあまり意味を成さない。

 急所は外しているものの、刃を交えるごとにランスロットの身体には次々と傷が刻まれていく。

 相打ちに持っていければ救いもあるが、例の神がかった防御によって、こちらの攻撃はほぼ封殺されている。

 一度退いて体勢を立て直すべき状況だが、彼にとってそれは出来ない相談だった。

 何故なら、彼の背後にはアーサー王の姿があるからだ。

 不義を働いたうえにブリテンの終焉に間に合わなかった己を信頼し、御身の為に剣を振るう事を許可してくれた。

 ならば、騎士たる者に示された道は前進制圧し、王へ勝利を献上する他に何があろうか。

 それに目前の敵がアグラヴェインであることもまた、彼の足を縫い付ける一因となっている。

 モルガンの指示により、円卓へと潜り込んだ獅子身中の虫の一匹。

 奴が自身と王妃の密会を暴かねば、モードレッドの反乱の際もブリテンに籍を置き、故国の崩壊を未然に防ぐ事も可能だったかもしれないのだ。

 もちろん、八つ当たりだとは理解している。

 だとしても、目の前の男から退く事はランスロットの矜持が許さなかった。

 吹き荒れる剣風と響く刃鳴(はな)

 巻き上がる土煙が2人の視界を遮った瞬間、ランスロットは強引な一撃でアグラヴェインを弾き飛ばした。

 自分で跳んだのだろう手応えの軽さに舌打ちをしながら、彼は黒く染まったアロンダイトを眼前に掲げる。

 目を閉じて意識を集中すると、真名開放によって極光となるべき力はオーラとなって刃を纏っていく。

 剣が纏った光が湖を思わせる蒼では無く黒である事には思うところはあったが、それを振り切ってランスロットは大きく跳躍する。

縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)

 ランスロットが放つ宝具にして不破の奥義である。

 アロンダイトの刀身を覆った聖剣の波動はその威力を格段に引き上げ、如何(いか)なる物も断ち斬る防御不能の一撃へと昇華させる。

 如何にアグラヴェインの防御が卓越していたとしても、この一撃の前では意味を成さない。

 対するアグラヴェインもまた、土煙の先に感じたオーラによって迎撃態勢を整えていた。

 放たれようとしているのは、自身の死因となった技。

 聖杯からの知識が確かであれば、己の命を奪った要因はサーヴァントにとってこの上ない弱点になるという。

 ならば逃げに徹して、相手の魔力が尽きたところを突くのが賢いやり方なのだろう。

 だが、アグラヴェインはその道を選ぶつもりは無い。

 元の世界で雪辱を晴らす為には、この技を乗り越えねばならないのだ。

 前哨戦であるこちらで尻尾を巻いていては、その目的は夢物語と成り果てるだろう。

 愚か者の(そし)りを受けようとも、これだけは譲れない。

 これこそがアグラヴェインの剣士としての矜持なのだ。

 再び峨眉万雷へと構えを戻した彼は、その両眼を閉じて意識を研ぎ澄ます。

 思い浮かべるのは、ランサー戦で父が放った秘剣。

 魔剣の極光を断ち切り、相手の得物と命脈を斬った十条にも及ぶ絶対不可避の斬光だ。

 父曰く『空位』の二つ先の領域『浄の境地』に立たねば放てないという。

 その絶技に、『空位』へとどいたかも定かでは無い男が挑もうというのだ。

 その無謀さは推して知るべし、と言ったところだろう。

 だがしかし、それでもアグラヴェインはこの業を選んだ。

 手持ちの技に『縛鎖全断・過重湖光』に対抗しうるモノがないのもあるが、あの輝きに魅せられた彼としては未完成でも命を掛けるに足ると決意したのだ。

 片や最高の騎士が放つ不敗の奥義。

 片や未完成なれど、神域の名に恥じぬ絶技。

 英雄相打つ聖杯戦争を舞台に、二つの技が激突する。

縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)!!」

「六塵散魂無縫剣!!」

 放たれる黒い斬光とそれを向かい撃つ7条の銀閃。

 アグラヴェインの放った高速の刺突は、黒い斬撃を弾き飛ばさんとアロンダイトの刀身に次々と牙を剥く。

 しかし、魔剣のオーラを(ともな)った全霊の兜割りがそう易々と道を譲るはずがない。

 一撃、二撃、三撃と群がる剣を弾き飛ばし、アグラヴェインの脳天へと突き進む。

 そして放たれた四手目、これが両者の命運を分けた。

 刀身を狙ったはずの突きは、担い手の未熟さゆえにその標的を大きく外したのだ。

 逸れた一手が向かった先はアロンダイトの柄。

 本来であれば相手の剣戟の届くはずがない場所だが、頭上から襲い来るランスロットを迎撃するという位置関係から、刃は必殺の威力を伴って突き込まれた。

 そしてこの一撃は、ランスロットの右の人差し指から薬指までを根元から斬り落としてしまったのだ。

「うがぁッ!?」

 堪らず悲鳴を上げるランスロット。

 同時に右手からの支えの殆どを失ったアロンダイトに五・六撃目が突き刺さり、ランスロットの斬撃は大きく本来の軌道を外れてしまう。

 そうして放たれた最後の七発目と聖剣の剣戟。

 両者は甲高い金音と共に、互いの主の肉体に喰らい付いた。

 周囲を揺さぶる衝撃と、再び巻き上がる土煙。

 もうもうと立ち昇る粉塵の奥から現れたのは、背中から血に塗れた刀身を生やしたランスロットと、黒い刃に左肩を断ち割られたアグラヴェインの姿だった。

「───私の勝ちだ」

「……無念」

 言葉を残して崩れ落ちるランスロット。

 アグラヴェインはその姿を残心を維持したままで見ていたが、敗者に闘う力がないと判断すると一言も無く己の陣営へと立ち去った。

「見事な───ぬおっ!?」

「アグゥ!!」

 労いの言葉をかけようとした征服王を押し退けて、息子へ飛びつくモルガン。

「身体中傷だらけになって……ッ! このおバカ!!」

「……申し訳ありません」

 感極まったのか、ポロポロと涙を流しながら治癒魔術を掛ける母に、アグラヴェインは素直に頭を下げた。

 思えば自分は2人よりも先立つという、最大級の親不孝を犯しているのだ。

 それがどれだけ彼女を傷つけたかを思えば、今回の事はあまりにも軽率だった。

「アグラヴェイン」

 治療が終っても離れないモルガンの背中を軽く叩いてあやしていると、苦笑いを浮かべたアルガが現れる。

「よく頑張ったな。氣功術も使えるようになったし、空位の域にも足を踏み込んだ。六塵散魂無縫剣は要修行だけど、剣士としての階位は上がったと思うぞ」

「……手放しには喜べませんよ。今回の勝ちは半ば運で転がり込んできたモノです」

「無縫剣の四手目か」

「はい。あれが奴の指にあたっていなければ、地に()っていたのは私だったかもしれません」

 そう言って(うつむ)いたアグラヴェインの頭を、アルガはワシワシと乱暴に撫で始める。

「ちょっ!? 父上!」

「そんな顔するな。勝負事なんて、運否天賦(うんぷてんぷ)が少なからず絡むものなんだ。過程はどうあれ、お前は勝ったんだから胸を張ればいいんだよ」

「ですが……」

「どうしても納得がいかないんだったら、こっちのランスロットに完勝できるようになれ。妖精郷に戻ったら修行に付き合ってやるからさ」

「はい」

 ようやく口元に笑みを見せたアグラヴェインに、アルガもまたニッと笑みを浮かべた。

 一方の敗者であるランスロットは、王であるセイバーに頭を抱きかかえられ、光の粒子へと還り始めていた。 

「ランスロットッ!!」 

 腕の中の友へ必死に呼びかけるセイバー。

 その後ろではマスターである時臣が驚愕の表情のまま頭を抱えている。

「馬鹿な……ランスロットはアグラヴェインの死因ではないか……。それが何故このような結果になるのだ……」

 熱病に(うな)されているかのように、(うめ)きにも似た言葉を紡ぐ時臣。

 何だかんだ言いつつも背広とシャツのボタンを外し始めているところが、彼の精神状態をよく表している。

 そんなマスターを他所に、ランスロットは慙愧(ざんき)の念が刻み込まれた顔で口を開く。

「申し訳ありません、王よ。貴女に聖杯を捧げる筈が、このような無様を……」

「何を言うのだ! (けい)はアグラヴェインとの決闘を立派に戦い抜いたではないか!! そんな貴方の姿を無様と笑う者など、どこにもいない!!」

 もはやセイバーの声が聞こえていないのか、裏切りの騎士と言われた男が吐き出すのは後悔の言葉のみだ。

「私は貴女の元を離れたくはなかった。叶うならば最後まで付き従い、剣を捧げたかった……」

「ランスロット……」

「しかし私はグィネヴィアを選び、貴女と国に多大な痛みを強いてしまった……。だからこそ……再び同じ戦場に立てた今度こそは……貴女に忠を尽くして役に立ちたかったのに……」

 光の粒子へと変換されながらも大粒の涙を流すランスロットに、セイバーは掛ける言葉が見つからなかった。

「お許しを…アーサー。……やはり私は…最高の騎士などでは……なかった………」

 自己否定と悔いの言葉を残して姿を消す湖の騎士。

「ランスロット……何故だ…」

 彼がいた場所に視線を這わせながら、呆然と言葉を紡ぐセイバー。

 不幸な行き違いで袂を分かったとはいえ、武勇に優れ礼節を重んじていた友が、何故あのような台詞と共に消えねばならないのか?

 世の無情さに言葉を失うセイバーだったが、彼女を襲う悲劇はまだ終らない。

『……さようなら、セイバー。……ありがとう』

「アイリスフィールッ!?」

 突如として脳裏に響いたか細い声と、流れ込む莫大な魔力を最後に途切れたパス。

 この時、セイバーは己を友と呼んでくれた主が消えた事を理解した。

 直後、魔術に携わる者は冬木の郊外から強大な魔力が吹き上がるのを感じた。

「これって……!」

「これだけの魔力……もしやっ!?」

「ウソッ! もう出現したの!?」

 ウェイバー、モルガン、時臣の各々が驚愕の声を上げる中、場にいる人間の目を縫うような形でセイバーは立ち上がる。

 能面の様に無表情でありながら、その目は狂気をも感じさせる強烈な意思に灼かれており、右手には風のヴェールを脱ぎ去った黄金の剣が握られている。

「私とアイリスフィールの願いが篭った聖杯は誰にも渡さん……。───あれは私達のモノだ!」

 漏れ出る『意』に気付いたアルガが視線を走らせた先には、黄金の燐光の中で眼前に剣を掲げるセイバーの姿。

「ッ!? みんな伏せろ!!」

約束された勝利の剣(エクスカリバー)ァァァァァァァァッ!!」

 アルガの警告と同時に、黄金の聖剣から破壊の極光が放たれた。

 




 今日の時臣さん

時臣さん「アサシン。聞いたところによると、どこかの平行世界では凛や桜が神霊の依り代となって、擬似サーヴァントとして活躍しているらしい」
アサ子 「はあ……」
時臣さん「我が家の跡取りである凛だけでなく、間桐へ養子に出した桜までもが依り代に選ばれるとは……。これはもしかしたら、遠坂の血が成せる業なのかもしれん」
アサ子 「そうですか……」
時臣さん「そこで私も擬似サーヴァントとやらになってみようと思う」
アサ子 「…………ファッ!?」
時臣さん「凛はイシュタル、桜はパールヴァティ。フッ、ならば私には知識や魔術の神が降りてくるかもな」
アサ子 「…………アサシン、しゅーごー!」
アサ子 「今の主の話、どう思う?」
ゴズール「あのオッサンに憑くのって、笑いの神じゃねーの?」
A41号「つーか、神霊なんてポンポン降りてこねーだろ」
A32号「でも、あのオッサンってケチャダンス踊ってる時、めっちゃキマってる顔してるじゃん。あの状態だったら、何かの霊が降りてくるかも」
A35号「それでも英霊はナイワー。タヌキか犬がせいぜいじゃないか?」
時臣さん「アサシンよ。思い立ったら吉日という言葉もあることだし、さっそくやってみようと思う。上手く行けば、ディフェンダー陣営への切り札になるやもしれん」
アサ子 「あ、主。止めておいたほうが……」
時臣さん「告げる───以下略!!」
アサ子 「はえーよ!! あと、なんで腰ミノ一丁!?」
ゴズール「ダイジョウブだって。あんなので来るわけねーべ」
時臣さん「お…お……。うおおおおおおおおおおおおっ!!」
A35号「え! マジで来たの!?」
A32号「うそぉ!?」
時臣さん「この魔力! この万能感! 素晴らしいぞ、この力!! おおおおおおおおおおっ!!!」
アサ子 「なんという力の迸り! これはひょっとしたらひょっとするかも!?」












時臣さん 「───オクレ兄さんッッ!!??








ゴズール「やっぱりダメだったかぁ」
A42号「普通に考えたら、これが当たり前なんだけどな」
A35号「つーか、オクレ兄さんってなんだよ?」
A32号「オレ、バカの背後にメチャクチャ貧相なおっさんが見えた」
アサ子 「主、だから言わんこっちゃない」


続かない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。