12話の完成です。
ZEROもあと少しで終了。
枯渇するネタと足りぬ文才に七転八倒していますが、なんとか完走したいと思います。
セイバーの魂切るような絶叫と共に放たれた黄金の極光。
それはこの星で最強の一指に入る聖剣の力の発露だった。
不意を付く形で放たれた為に、それを回避する猶予はこちらには無い。
魔術的常識で考えるならば、この時点で俺達は詰み。
『
防具にいたっては、言わずもがなだ。
当然、そんなレアアイテムが偶然にも手の中にあるという、ご都合主義もあるワケがない。
故に打てる手はゼロ、完全無欠のお手上げ状態と言う奴だ。
───もっとも、俺がいなければの話だが。
口角を吊り上げると同時に、俺の体は『意』に先んじて抜き放った刀を、峨眉万雷に構えている。
眼前にまで迫った光がこちらを呑み込むまで、2秒も無いだろう。
だが、『浄の境地』に足を踏み入れた者にとっては、余裕すぎて釣りが来る。
我が意は刀であり、そして意に先んじて鞘走るそれは、刹那よりもなお疾い。
「アグラヴェイン、よく見ておけ」
呟きと同時に振り上げられた刀身は練り上げられた内勁に満ち、そして我が心眼は既に星の聖剣の因果をも捉えている。
「ハッ!!」
裂帛の気合と共に振り下ろされた白刃が極光に触れた瞬間、まるでガラスを裂くような甲高い音と共に、黄金のヴェールが真っ二つに割れた。
こちらの刃に触れて二つに分かれた極光は、背後にいる姉御達の前に届く前に、光の粒子となって次々と消えていく。
「ふむ……刀身に歪み無し。刃
聖剣のオーラの影響か、いつもより銀色に輝く倭刀にゆっくりと目を走らせたあと、俺は騎士王の手の中にある聖剣を見て取った。
こちらの得物など比較にならない輝きを放つ刀身には、薄くその身を分かつように傷が奔っている。
「馬鹿な……」
「『
翡翠色の瞳を見開いて呆然と言葉を漏らすセイバーを他所に、俺は自嘲の笑みを浮かべる。
うーむ、手応え的にはいけたと思ったんだが、同じ聖剣でも王権を示す儀礼剣とはワケが違うようだ。
というか、アグラヴェインに『よく見とけ』なんて格好付けといて、この体たらくだとマジで立つ瀬ないんじゃね?
「聖剣の真名解放を……信じられん」
「話には聞いてたけど、実際に目の当たりにしたら凄いわねぇ。これはアルトリアも泣くはずだわ」
「あり得ない……。おかしいだろ、こんなの……。相手は最強の聖剣だぞ、極上の神秘を刀の一振りで叩き斬るとか、どうなってるんだよ……」
「いいのか、征服王? お主のマスターがえらい事になっているようだが」
「放っておけ、そのうち元に戻る。それにしても流石はディフェンダーの師父といったところよな。あのようなマネ、我が臣下の中にも出来る者はおらぬぞ」
……皆様、止めていただけません?
失敗したのにそういうリアクションされるのって、罵倒されるよりキツいんですが。
「…………チャッ」
「うん?」
微かに聞こえた声に目を向けると、先程まで何のリアクションも取っていなかった遠坂が、まるで
なにかあったのか? と内心首をかしげたのも束の間───
「チャチャチャチャチャチャチャッ! チャァァァァァァァァァァッ───クロス・アウッ!!」
謎の叫びを上げて、眼前の男はワイン色のスーツを撒き散らした。
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……チャッ!!」
この寒空の中、腰ミノ一丁という男らしいスタイルに変貌した遠坂改め土人は、一声気合を入れると物凄い勢いで駆けて行く。
走りながらステップ踏んだり無駄にキレのある腰つきで踊ってるにも関わらず、並みの自転車なんてメじゃない速度で奇怪な男の背中は暗がりに消えていく。
あれだけ無駄な動きをしてるのに、あのスピードが出るって普通に凄いな。
…………いやいやいやいや、ちょっと待て。
ボケてる場合じゃない、遠坂が走っていった先って妙な魔力が上がった方向じゃねーか。
「大将。セイバーの相手は俺がするから、遠坂の後を追ってくれ」
「え、えぇっと……。いったい、何がどうなってるんだっけ?」
「しっかりしろ、小僧。あの奇妙な男が向かった先は、妙な魔力の出所であったな」
「ええ、場所はアインツベルンが拠点にしていた城よ。セイバーの態度からして、そこに聖杯があるはずだわ」
「周辺に隠れていたアサシンの気配が消えているところを見ると、遠坂は聖杯の確保に向かったんだと思う。だから、姉御とアグラヴェインを連れて奴を追ってくれ」
「成る程……空けられた距離を覆すには、騎兵たる余が適任か。───心得た。だが、余の最初にして最後の戦場を託すのだ、負けたら承知せんぞ」
「心配するな。あっちの世界でだが、聖剣の鞘に聖槍を身に付けたアルトリアを完封したことがある」
「マジで何者だよ、あんた!」
なんとか再起動を果たしたウェイバー君のツッコミをよそに、姉御はこちらに
「気をつけてね。あの娘もテンパると無茶苦茶する癖があったから」
「今の不意打ちカリバーで身に染みてわかってる。アグラヴェイン、母さんを頼んだぞ」
「はい。父上も御武運を」
「剣士殿、他の百貌の居場所は私が掴める。奇襲は完全に封じて見せよう」
「ああ。マクール君もビアンカとの新婚生活はまだ続くんだから、『いのちだいじに』で頼むな」
「いい感じに話進めてたのに、そういう事をデカイ声で言わないでくれますぅ!?」
素に戻ったマクール君の叫びに、思わず噴出すウチの面子。
よっしゃ、いい感じに肩の力も抜けただろ。
「オチもついたところで行ってくれ、大将」
「願いは叶えずに待っておく、貴様も必ず来るのだぞ!」
雷鳴と牡牛の
目を向ける事無くそれを見送った俺は、改めてセイバーと対峙する。
「待たせたな、セイバー」
「デスクィーン師匠、貴様は……」
頬から冷や汗を一粒流しながら、風の結界で隠した切っ先をこちらに向けるセイバー。
仮面被ってないのにその名前で呼ばれると、なんか微妙な気分になるな。
そういえば、まともに名乗った事なかったっけか。
「ランサーとの立ち合いで仮面が割れたんでな、その名は廃業だ。俺の事はアルガと呼ぶがいい」
「アルガ……!? モルガンの語った旧ブリテンの第一王子か!」
「そうらしいな。もっとも、俺はこちらほど上品じゃないが」
「……ッ! 例え、貴様が何者だろうと、私が聖杯を手にする事を阻むならば……ッ!!」
吼え立てる様な声と共に、不可視の刃を八双に構えながらセイバーは地を蹴った。
全身から放出した魔力によって強化された踏み込みは、さながらジェット噴射だ。
瞬きする間に間合いを殺し切って振るわれる、大上段からの唐竹割り。
人外となった
打ち合い、もしくは鍔
その様子を宙から目に収めていた俺は、セイバーの一刀の勢いのままに回転し、変形の沙羅断緬を放つ。
内勁に遠心力を加味した斬撃は、甲冑を切り裂いてセイバーの背の右肩から左脇腹へと紅い線を残す。
「ぐぅっ!?」
苦鳴を上げながら、もんどり打つ様に地面に倒れるセイバー。
だが浅い。
刃が当たるよりも少し早く奴が足を滑らせた所為で、深手となるはずの一撃が
運がいいのか、それともアレ以外に防御系の何かを持っているのか。
どちらにせよ、用心するに越した事はない。
「その無様な剣はなんだ、セイバー。騎士王の名が泣くぞ」
「…………ッ、舐めるなぁ!!」
右肩の負傷を庇いながら立ち上がるセイバーに挑発の言葉をかけると、奴は顔を再び紅潮させて襲い掛かってきた。
平行世界とはいっても流石は同一人物、
だから『コンウォールの猪』って言われるんだ。
「はあああああああああっ!!」
土を蹴りながら振るわれる横薙ぎの一撃を後ろに跳んで
それを輝線を絡ませて受け流せば、大幅な踏み込みと共に地面へと向かっていた聖剣の切っ先を膂力によって持ち上げ、胸を狙った刺突を放ってくる。
その一手を身を逸らして躱すと、今度は詰めすぎた距離を軽く後ろに跳んで調整してからの、唐竹が待っている。
三手目までは様子を見ていたが、流石にその隙を見逃すつもりはない。
「魔力放出に頼りすぎだ」
セイバーが放とうとした四手目を、太刀筋に力が乗る前に面打ちで打ち落とした俺は、返す刀で体勢の崩れたセイバーの胴を薙ぐ。
「ガッ!?」
内勁の篭った一撃は白銀の鎧を容易く断ち斬り、セイバーは左脇から大量の血を飛沫かせて地面に崩れ落ちた。
地面に紅い水溜りを作りながらうめき声を上げるセイバーの姿に、自然と目が細まる。
中身は赤の他人と分かっていても、身内と瓜二つの人間を斬るのはいい気がしない。
まあ、この程度で刃が鈍るほどかわいい性格をしているわけではないが。
聞けば、サーヴァントは頭部と心臓部の霊核を破壊しなければ、致命傷になり得ないという。
とはいえ、肉体構造的には生前と変わらないそうなので、今のが戦闘不能レベルの深手であることは間違いない。
もっとも、これには『相手が普通であれば』という前提が付くが。
「四手全てが殺し技……。いや、フェイントも駆け引きも考えていないというのが正解か。力に任せたチャンバラ崩れの戦場剣術では俺には勝てんぞ、セイバー」
「お…おのれ……」
こちらにいいように言われている現状に、予想通りにわき腹を押さえながら立ち上がったセイバーは、
わき腹の傷口は手で押さえられていると言っても、明らかに出血量が少ない。
右肩に視線を移せば、背中の出血はすでに止まっているようだ。
「その異常なまでの回復力……。やはり『
「そうだ。アイリスフィールが私に返してくれた聖剣の鞘、これがある限りはいかにその剣技が神域にあろうとも、貴様に勝利は無い!」
明らかな劣勢の中にあっても闘志でギラギラとした光を放つセイバーの瞳に、俺は目を細める。
なるほど。
致命傷をも覆す鞘が懐にあるのは、さぞや心強いことだろう。
だからといって、こちらに打つ手が無いと思うのは早計だ。
「そう思うならば、吼えていないでかかって来い。我が剣がどれほどのものか、見せてやろう」
「ほざいたな……。我が絶対守護、断ち斬れるものなら、やってみるがいい!!」
裂帛の気合と共に大地を蹴るセイバー。
魔力放出で踏み砕いた土くれを吹き飛ばしながら間合いを詰めた奴は、加速と全身の力を込めて刃を振り下ろす。
余波だけで地面を抉り、軌跡を残すほどの風圧を備えたそれを、俺は刃で絡め取りその力を奪っていく。
嵐さながらに周囲の物を薙ぎ倒して吹き荒れる剣風は、秒間十手に届く。
先のランサーとは比べるべくもない少なさだが、精妙を旨とする二槍とは違い、セイバーのそれは全てが渾身の力を込めた一撃必殺。
一度でも受け損なえば、風を纏った聖剣の刃は容易くこちらを両断するだろう。
だがしかし、その一度こそが果てしなく遠い。
セイバーから放たれる剣戟は殆どが亜音速を誇り、中には本物の音速に達するモノもある。
しかし、その全てが騙しの無い真っ直ぐな太刀筋なのだ。
それに『意』の先触れが付くのであれば、音速が光速になったとしても、捌くのは欠伸が出るほど簡単だ。
次々と襲い来る不可視の剣を釣り、払い、逸らし、そして跳ね上げる。
振るわれる剣を凌げば凌ぐほどセイバーの身に纏う魔力は濃さを増し、同様に隙もまた増えていく。
先程まで腕力で剣の切り返しが出来ていたのに、今では振るった剣の勢いに引きずられて歩幅を整えてから放っている。
これは魔力放出の弊害だ。
いかに魔力で身体能力を強化しようと、セイバーの身体は十五歳の少女なのだ。
強大な力を振るった反動を受け止めるには、重量が決定的に足りていない。
だからこそ、使う力が強まれば強まるほど、振るった力に今度は己が振り回される事になる。
か弱い身体で戦場を駆けるにはこの技術は必須だったのだろうし、相手になる者に力によるゴリ押しが通用するならそれでいい。
しかし、相手がセイバー以上の力を誇っている場合、もしくは全力を御せるほどの技量の持ち主ならば、これは致命的な弱点となってしまう。
俺の世界では、アルトリアに歩法や体捌きを徹底的に叩き込んで、剣や槍を振るう際の隙を無くすように努力した。
その甲斐あって、ブリテン後期には聖剣と聖槍を両手に持った状態でも隙は無く、見違えるほどスムーズに連撃を放てるようになった。
今、目の前で剣を振るっているセイバーは俺と出会う前のアルトリアと同じだ。
エクターとマーリンに教えられた戦場剣術を、人外の力で振りまわすだけ。
速さ・重さにのみ目が行き、巧さを蔑ろにした剣では俺の身には届くはずがない。
そうして刃を合わせた数が三桁を越えた頃、セイバーの動きに決定的な隙が生まれる。
連撃というのは、つまるところ無酸素運動だ。
元が霊体であるサーヴァントに酸素は必要か、などという疑問はあるが、肉体のつくりが生前と同じであれば不要とは言えまい。
息を止めるという行為を行ったものならわかると思うが、呼吸の無い状態ではただ突っ立ってるだけでも、常人なら1分少々が現界。
これが攻撃という激しい運動を伴ったものならば、鍛えぬいた武術家でも1分半行くかどうか。
ましてや、セイバーは剣を振り回しながら魔力も放出しているのだ。
掛かる負担たるや、上記の事柄など比ではない。
紅潮したセイバーの顔に玉の汗が浮かび、その口元が小さく開くのを見て取った俺は、攻防の最中に構えを変える。
全身を弓の弦とし、引き絞った剣柄を番えた矢と見なす戴天流・竜牙徹穿の型。
そして酸素を求めたセイバーが間合いを取ろうと後ろに跳んだ瞬間、俺は軽身功を全開にして地面を蹴った。
爆音を思わせる震脚と共に放たれた体は一足で音速を超え、歩法によって更なる加速を孕むとその身は三つの残像を共にする。
これぞ兄弟子
音速など遥か後方に置き去ったこの動きは、英霊であろうとも見切ることが容易ではない。
現にセイバーは突如として4体に増えたこちらの姿に目を見開いている。
真っ直ぐにセイバーを捉える切っ先の狙いは、眉間、喉、心臓、そして肝臓。
全てが穿てば致命傷へと至る箇所だ。
眉間ならば脳を破壊されて即死、喉でもそのまま首を薙げば同様だ。
心臓と肝臓は『全て遠き理想郷』の加護の前では決定打になり得ないだろうが、それでも破壊されれば動きを止める事はできる。
ならば、そこから改めて首を
真名開放の入り込む隙を与えぬままに刺突を放とうとしたその瞬間───
『アルガ、セイバーを倒してはダメ! これ以上、英霊の魂が注がれれば聖杯は使い物にならなくなる!!』
こちらの脳裏に姉御の声が木霊した。
突然の念話とその内容によって割り込んだ一瞬の空白、それはセイバーの起死回生の一手を許す隙となる。
「『
言霊を引き金にしてセイバーの懐から飛び出した無数の小さなパーツ。
微細に分解した聖剣の鞘は己が担い手を包み込み、その加護により妖精郷へとセイバーを
これが聖剣の鞘の真価。
現世と隔絶した世界の壁は、如何なる物も遮断する絶対の護りとなる。
だが───
「なっ!?」
次の瞬間、眼前で起こった事にセイバーは驚愕の声を上げた。
それも仕方の無い事だろう。
絶対の障壁と思われた『全て遠き理想郷』の壁を、俺の身体は何も無いかのようにすり抜けたのだから。
事態が飲み込めぬままに身体を硬直させるセイバーにむけて、俺は容赦なく手にした刃を
狙いは両肩と膝。
用心を思えばダルマにするくらいが正解なのだろうが、こちらの精神衛生的に勘弁していただきたい。
「うあああああああっ!?」
懐かしさを感じる常春の空気を切り裂いて奔る刃は、狙い違わずに四肢へ喰らいつく。
そして、セイバーは紅い飛沫を上げながら華が咲き乱れる大地へと倒れ伏した。
それと同じくして、流れ出る鉄錆の匂いを嫌うかのように、常春の世界は寒々しい冬の夜へと姿を戻す。
「馬鹿な…、何故……」
うつ伏せで手足を投げ出しながらも、こちらを見上げるセイバー。
「俺が何処から来たと思っている。現住所なんだから、帰れないわけがないだろう」
弱弱しい問いにキッパリと答えを返してやると、セイバーは打ち上げられた魚の様に口を開閉させたあと、ガクリと地面に頭を落とした。
実は『全て遠き理想郷』が俺に通用しないと言うのは、ブリテン時代に実証済みだったりする。
休日にアルトリアを家に招いていた時、あの愚妹が突然こちらに挑戦状を叩きつけてきた事があったのだ。
『兄上を倒せる奥義を編み出しました!!』と自信満々に言うので、受けて立ったのだが結果は散々だった。
アルトリア曰く『アーサー三連殺』とやらは、相手の攻撃を『全て遠き理想郷』で防ぐところから始まるらしいのだが、その第一段階で俺の身体は障壁をすり抜けてしまったのだ。
むこうもそんな事は予測していなかったのだろう、無防備に振るわれた木刀を頭に受けて、あっさりとKO負けしてしまった。
その後、姉御や鞘を渡したランスロットの養母であるヴィヴィアン女史に話を聞いたところ、『全て遠き理想郷』は本来『訪れるに相応しい者を妖精郷に誘う為の門』なのだという。
俺達が思っていた絶対守護というのは、担い手を妖精郷に
だからこそブリテンの管理者であり、当時は自力で妖精郷の扉を開くことができた(今でも姉御のサポートがあれば可能)俺には効果が無かったそうだ。
とは言うものの、今回は平行世界の事だから上手く行くかどうかは賭けだったりする。
まあ、世界の裏側にある妖精郷は他の世界との障壁とかそういうのが結構ガバガバなので、全く勝算が無かったわけではないが。
ダメだった場合は『全て遠き理想郷』斬りを試すつもりだったので、どちらでもよかったんだけどね。
『姉御、こっちはカタがついた。俺も合流しようと思うんだが、セイバーはどうしたらいい?』
『大丈夫? 怪我はしていない?』
念話を繋ぐと、けっこう切羽詰った感のある姉御の声が脳内に響いた。
ゴメンね、心配かけて。
『心配御無用、パーフェクト勝利だ』
『よかった。もし貴方になにかあったら、そこのセイバーには二度と解けないものゴッッツい呪いを掛けるところだったわ』
『ものゴッツいって……。え~と、具体的には?』
『額に穢れたバベルの塔が生えるとか。あとは聖剣の加護を逆手にとって、三日に一回老衰寸前まで老いるとか。他には竜の因子を暴走させて、生き腐れのドラゴンゾンビにするとか』
『……止めてあげなさい』
本気で洒落になってないッス、姉さん。
『ま、今となっては冗談事よ。それでセイバーなんだけど、こっちに連れてきてもらえるかしら?』
『そりゃ構わんけど、いいのか?』
『妙な動きをされるよりはね。それにセイバーのマスターはもう亡くなってるから、そのまま行くと魔力切れでリタイヤしちゃうし』
『じゃあ、魔力を補給せんとならんのか。具体的にどうやるの?』
『夜のプロレス』
『……妹と同じ容姿の女とヤルとかナイワー』
『冗談よ。貴方は魔力垂れ流しだから、身体に触れてるだけで補給できると思うわ』
『タチの悪いジョークは止めてください。あ、ソッチは大丈夫だったのか?』
『大丈夫……よ。ちょっとウェイバー君が、変態ダンサーの投石を食らって気絶しただけだから。アサシンもマクールを除いて全滅したし』
『そ……そうか』
少し戸惑うような姉御の声に、俺も疑問の言葉を飲み込んだ。
変態ダンサーって土人にジョブチェンジした遠坂の事だよな?
何があったのか、スッゲー気になるんですけど。
『それじゃあ、ソッチに向かうから。少しだけ待っててくれ』
『ええ。気をつけてね』
念話を切って、俺は転がっていたセイバーの元に足を運ぶ。
「……早く止めを刺せ。敗者を
虎の子だった『全て遠き理想郷』が通用しない事で敗北を認めたのか、覇気の無いセイバーの声を耳にしながら、彼女の両手足に目を走らせる。
……出血量は先程と変わらず。
鎧に阻まれて傷口自体は見えないが、セイバーから手足を動かそうとする『意』を感じるところを見ると、治癒はされていないと思われる。
咄嗟に『全て遠き理想郷』とセイバーの繋がりに刃を走らせたのだが、効果はあったようだ。
「……なんのつもりだ?」
持ち上げて小脇に抱えると、セイバーは不機嫌な声で問うてくる。
「向こうで何かトラブルがあったらしくてな。これ以上、聖杯に英霊の魂をくべるわけにはいかんらしい。というわけで、お前さんも一緒に来てもらうぞ」
「……好きにするがいい」
どこか捨て鉢のような感が在るセイバー。
まあ、国の存亡が掛かった戦いに負ければ、そうもなるか。
そう思いなおした俺は、遠坂邸の中庭を後にした。