ありがとうございます!!
皆様の声援が凄くて、ピクルと闘う時の愚地克己みたいになってます。
へへ……ッ、息抜きのはずがこっちがメインになってやがる。
こうなったら、ネタが尽きるまで書き続けるしかないか!?
あ、とりあえずメカエリチャンは迎えにいこう。
夢を見た。
いる場所はどこか分からないけど、俺は女を抱いていた。
自慢にならないが、人生三回分経験無しだったから『初めてを捨てる時は本気で好きになった娘と』って決めていた。
だから、顔を見ようとしたんだ。
でも見えなかった。
身体の柔らかさや甘い匂い、抱いている暖かさも全部分かるのに顔だけ分からない。
顔だけが切り取られたようになにも無い。
不意に意識が引き上げられていく感覚がした。
同時に彼女を抱いている感覚の全てが薄れていく。
のぼりのエレベーターに乗っているような感覚の中、俺は必死に彼女の顔を見ようともがいた。
それでもやっぱり見る事はできない。
ただ、最後に彼女が言ってた言葉は聞こえた。
『また楽しみましょう、アルガ』って。
◇
三度目人生記(15年7ヶ月15日目)
起きたら涙が止まらなかった。
理由はさっぱり分からない。
ただ、何かは分からないけど、大切なモノを無くしたというぽっかりとした穴が胸の中に広がってた。
ずっと、ずっと、大事にしまっていた。
何時かは捨てるのだと分かっていても、何処にも捨てられなかった。
そんな大きくて大切な物。
剣以外にそんなモノがあったのは自分自身で驚いたけど、それがまた喪失感に拍車を掛ける。
ああ、何か分からない宝物。
知らない間に落としてしまった大切な荷物。
ゴメンよ……ちゃんと捨てられなくて、ゴメンよ……。
三度目人生記(15年10ヶ月18日目)
この頃妙に鍛錬に気合が入っている。
『六塵散魂無縫剣』の完成がもう一歩のところまで来ている所為か、それとも音速斬撃を習得したお蔭で因果律の破断に指が掛かったからか。
ともかく、奥義開眼も目の前だ。
しっかり腕を磨いていくとしよう。
めでたいニュースとしては、姉ちゃんが待望の第一子を妊娠した事が判明した。
国中上げてのお祭り騒ぎの中、おめでとうと祝いの言葉を掛けると姉ちゃんは嬉しそうに微笑んでいた。
この頃、姉夫婦の仲が冷めてるように見えたので、この子が間を取り持ってくれればいいと思う。
とりあえずは安産祈願をしようと思うのだが、ヨーロッパの安産の神って誰だっけ?
え、ギリシャ神話のヘラがそう?
あ~、それはパスで。
下手に祈ったら下半神に目を付けられたり、因縁つけられて呪いを食らったりしかねん。
あと同時によくないニュースも幾つかある。
最近、この辺りにも異民族であるサクソン人やピクト人が出没するようになった。
一兵士である俺は結構な頻度で討伐に駆り出されるのだが、その姿を見たときには思わず吹きそうになった。
まずはサクソン人。
特徴を一言で表すなら『北斗の拳』の『牙一族』だ。
白人、ムキムキ、毛皮を被ってヒャッハーと共通点あり過ぎて困る。
見た目はシュールな笑いを誘うのだが、決して油断が出来る相手じゃない。
元々卑王ヴォーティガーンが傭兵として入植させているので、戦闘能力は並みの兵士より上だ。
さらに気性も荒いので町や村に入られると略奪や虐殺、強姦なんかを平気でやりやがるのだ。
俺にしてみればザコだし庄之助にとってもオヤツ同然なのだが、ロット王の兵力だと被害ゼロはなかなか難しい。
現状で打てる手は、前線を押し上げて民間人の被害を極力抑えるくらいか。
そして次にピクト人。
カニみたいな外骨格を纏ったプレデター、これ以上の表現は無いと思う。
よくこれを異民とか蛮族で片付けてるな、ここの領主たちは。
どう見たって地球上の生物じゃねー。
奴等の攻撃方法はいたって単純、五体と爪牙を使った暴力である。
実にシンプル、蛮族の鑑と言いたいところだが、身体能力が一般兵に比べて頭二つほど飛び抜けているので、これだけでもかなりの脅威だ。
こっちは武器や戦術を使えないお蔭で、何とか戦線を保ててるってところだな。
首領が分かれば潜入して首を取るんだが、現状では情報が少なすぎる。
姉ちゃんの子が生まれるまでには解決したいもんである。
三度目人生記(16年8ヶ月22日目)
姉ちゃんが子供を生んだ。
なんと一発目から世継ぎとなる男子である。
名前は『ガウェイン』。
姉ちゃんの占いだと太陽の加護を授かるらしい。
なんだろう、太陽の加護と聞くと『太陽万歳!!』と変なポーズを取る騎士が頭を過ぎったんだが。
……あれだな。
きっと憶える必要ない知識って奴だ。
忘れよう、わすれよう。
さて、剣の方だがついに前の全盛期と同等まで上り詰めた。
『六塵散魂無縫剣』だって完全習得した。
え、ピンチとかそういうイベントで憶えるのが王道じゃないかって?
それは初めて開眼する場合だな。
俺はほら、二回目だしさ。
あと今まで使えなかったのは、あれだ。
身体が十分じゃなかったからだ。
今の俺は身長180オーバーだし、ムキムキとはいかなくても筋肉も十分にある。
経絡だって今まで以上にガンガンに内勁を練れるようになった。
さて、ようやく前世に追いついたワケだが、ここで足を止めては意味がない。
もう一回人生やってんだから、こっから先に行かなくちゃ勿体無いだろ。
『六塵散魂無縫剣』を改良して、音速斬撃がどんな体勢でも出せるようになって、因果律の破断も任意に使える様になって。
目標もやる事も盛りだくさんだ。
幸い、ピクト人だのサクソン人だの、そこら辺にいるキメラだのと練習台には事欠かん。
さあ、めくるめく屍山血河の剣撃ワールドにGOだ!
三度目人生記(16年9ヶ月3日目)
なんだろう。
今日は朝からだるい。
気温も低いはずなのに寝汗凄いし、風邪でも引いたかな?
……今日は鍛錬を休もう。
この時代って風邪でも十分死病だし。
とりあえず、お袋さんより先に死ぬなんていう親不孝は避けないと……
三度目人生記(17年10ヶ月13日目)
姉ちゃんが二人目を出産した。
名前はガへリス。
ガウェインに比べて、よく動いてよく泣いて、そんでもってよく漏らす。
将来はなかなかのヤンチャ坊主に育ちそうだ。
それとは別に困った事もある。
義兄であるロット王が育児に関心を示さないのだ。
ガウェインの時からそうなのだが、連れて行っても抱く事はおろか目に入れようともしない。
さすがに見かねて文句を言ってしまったのだが、それを見ていた宮廷貴族共が我先にとこっちを責めてくる。
なにが「外戚だからってデカい態度をとるな」だ。
俺はこっちに来て一度も権力なんざ使ったことねーよ!
ずっと一兵士として前線にいたわ!!
そう反論したのだが、それが気に入らなかったのか貴族共が裏で手を回した命令で、ピクト人の集落を一人で攻めさせられた。
こっちとしては一人の方が気楽でやりやすかったから、荷車に集落にいた全ピクト人の首を積んで帰ってきてやったんだけどな。
ピクト人の首の山を見せてやった時の貴族の顔は凄かったわ。
その件以来、姉ちゃんからもロット王には育児で意見しないようにって、釘を刺されてるんだよなぁ。
ガへリスが生まれた事で、むこうが子供に興味を持ってくれればいいが。
俺も親父の愛情が無かったから分かるけど、やっぱり子供には両親はいたほうがいいって。
三度目人生記(18年7ヶ月11日目)
この頃、甥たちからパパって呼ばれます。
……どうしてこうなった!?
取り合えず呼ぶ度に訂正しているのだが、一向に直る気配がない。
いや、二人ともウチの家族メインで育ててるから、勘違いしても仕方ないんだけどさ。
遊んだり、飯食わしたり、風呂に入れたりと親父の役目は全部俺がしてるし。
まったく、ロット王も、何を考えてこんなお触れを出したのやら。
お蔭で次代の権力狙っていた宮廷貴族たちの恨み、ガンガンに買ってるんですけど!
今日だって俺とお袋さんに向けて刺客が来たし。
まあ、あんな隠行で俺の目を抜けることなんてできないので、チャッチャと捕まえて姉ちゃんが魔術でゲロさせたけど。
審議20分というスピード裁判の結果、下手人は外戚とはいえ王の親戚を狙った罪で死刑、家族は王都から離れた僻地へと島流しになった。
外敵がいるのに内輪揉めとか、国が滅ぶ常套パターンじゃないの。
今回の事が抑止になって、馬鹿な連中の暴走を止めてくれるのを切に願う。
でないと、今度は暗殺業まで復活させないといけなくなるし。
兵士に育児に王族の護衛って、働きすぎじゃね?
三度目人生記(19年8ヶ月14日目)
姉ちゃんが三人目を出産した。
そして生まれたのはまたしても男。
年子で三連発とか、王様頑張りすぎである。
腰痛設定どこに行ったよ。
さて、三男の名前はアグラヴェイン。
前二人に比べるとかなり大人しい。
辺りをジッと観察してるみたいだから、大きくなると知的な男になるかも知れん。
兄貴二人が脳筋の兆しを見せているので、是非ともストッパーになっていただきたい。
さて噂の兄貴達だが、大きくなった影響か超ヤンチャになった。
ガウェインもガヘリスも目を離したらすぐにどっか行こうとしやがる。
兵士の鍛錬場に紛れ込んでるの見たときは、目玉が飛び出そうになったわ。
そろそろちゃんと怒っていく必要があるとみた。
可愛い甥っ子を怒鳴るなんてしたくは無いが、ここは心を鬼にして躾を行おうではないか。
がおー!!
めっちゃ笑われてしまった……。
三度目人生記(24年9ヶ月18日目)
早いもので、ガウェインが生まれてもう10年である。
この頃はガヘリスと一緒に剣をブンブカ振り回してる。
つーか、なんであいつ等剣をバットみたいにフルスイングしてるの?
戴天流は無理だけど、ちゃんと剣術の基礎は教えたよね?
まったく、パーフェクトなまでに脳筋になりおって。
俺の教え守ってるの、アグラヴェインだけじゃねーか。
あ、ウチの紅一点であるガレスちゃんにはそういった事はさせてませんよ。
小さい時は兄弟の真似したがったけど、今はお袋さんがしっかりと淑女教育してますから。
俺の剣術の方はと言うと、目標の一つである因果律の破断が任意で出せるようになりました。
ただこれを行うには最大レベルで内勁を込めないといけない為、連発が難しいのが欠点か。
事実上防御不可能なので、使いどころを間違えなければ必殺の一撃となるだろう。
あと、姉御(もう姉ちゃんって歳じゃないからね)がどこからかリスか猫か分からないモコモコの生物を捕まえてきた。
なんでもキャスパリーグという生き物らしい。
ウチの家族ではガレスちゃんがお気に入りらしく、いつも一緒に行動している。
つーか、何故か俺を見ると「フシャーーッ!!」って威嚇して来るんだが。
あ、ペテン師の使い魔を潰す時だけは、妙に息が合うなぁ。
というか『マーリン、シスベシ』ってめっちゃ喋ってたように聞こえたのは、俺の気のせいなんだろうか?
三度目人生記(27年6ヶ月28日目)
なんかウーサーの後継者を名乗る奴が現れたらしい。
名前はアーサーなんだが、姉御曰くアルトリアなんだってさ。
これってあれだよな。
間違いなくペテン師絡んでるわ。
ペテン師キラーのフォウ君(ガレスちゃん命名)もすっげえ毛を逆立ててるから間違いないと思う。
今更ブリテン復興とか、なに考えてるのか。
一遍ダメになった国を立て直すのって、一から作るのより大変なんだぞ。
だから、中興の祖って敬われるんだし。
こりゃ一度は様子を見に行ったほうがいいかもなぁ。
タネ違いで殆ど関わった事がないとはいえ、一応は妹だし。
あとはあれだ。
あのペテン師には17年前のリベンジをせんといかんし。
つーか、何度潰しても懲りずに使い魔送ってきてるからな、あいつ。
姉御が覗き見対策(奴は千里眼とかいう能力で、世界中のことが見れるらしい)してるからって、ムキになり過ぎだろ。
今までの借りを返す意味も込めて、『プライバシー侵害滅殺剣』を叩き込まねばなるまい。
三度目人生記(28年5ヶ月19日目)
人間性が足りない……。
少し前から疑問に思っていた『ウチの家族が全く老けない』という事実について、その理由が判明した。
俺、知らない間に人間辞めてたらしい。
姉御曰く、仙人になってるんだそうな。
『俺の何処に仙人要素があるのか』と笑い飛ばそうとしたのだが、原因が内家の氣功術だと言われてはそうはいかない。
何時の間にやら氣功術の腕が上がりすぎて、小周天(体内で生み出した氣を練り上げて氣を使う事)を使ってるつもりが大周天(自然の氣を取り込んで、自身の氣と共に練り上げる超高等技術)を使っていたらしい。
なるほど、言われてみれば氣功術の反動とか負担がなくなってたわ。
本来なら軽功術でも足腰にクルもんだしな。
ちなみに、魔術的には今の俺は高位精霊の亜種なんだそうな。
もしかして、ネビス山のギリーさんってこの事に気付いてたのか?
だから別れ際にあんな台詞を残したんじゃ……。
なんにしても、俺が仙人とか世も末だわ。
こんな剣術キチな奴、どう考えても邪仙ですから!
あ、お袋さんと姉御だけど、なんか儀式で女神の分霊になったらしい。
説明を受けてもチンプンカンプンだったが、要は女神の末裔だったお袋さんの血筋を利用して、魔術儀式で先祖がえりしたって事だ……多分。
俺的にはそんな儀式何時の間にやったのって感じなんですが。
姉御よ、この頃隠し事が多いぞ。
俺に内緒でなんかヤバい事してないか?
危ない事をするつもりなら、俺も一枚噛むから声を掛けるように。
万が一姉御が死んだら、皆悲しむんだからな。
三度目人生記(29年7ヶ月20日目)
近頃、城の兵士達はアルトリアの噂で持ち切りだ。
むこうの目的はイギリス全土の統一のようで、近隣諸侯を破竹の勢いで攻め落としているらしい。
部下の方も武芸百般と名高いランスロットを始めとして粒ぞろいとの事。
これはロット王の領地に手を伸ばしてくるのは時間の問題だ。
近頃は王もめっきり老け込んでるし、度重なる異民族との闘いで兵力も豊富とは言えない。
もし負けたとしたら、お袋さんの存在がヤバすぎる。
ゴルロイスの子である俺達はともかく、お袋さんはウーサーの正妻だ。
あの人がアルトリアの事を否定したら、程度はどうあれペンドラゴンの後継者という立場に揺らぎが生じる。
あのペテン師なら姉御共々秘密裏に消しにかかるくらいはしかねない。
こうなったら、奴等の勢いを削ぐ為に一発キャンと言わすしかないか。
と言っても、俺がまんま出て行ったら色々と面倒な事になる。
こんな事もあろうかと、姉御に変装道具を頼んどいてよかった。
取り敢えず、明日にはこっちを出るつもりだから、今から貰ってこよう。
あ、王に有給申請しないと。
三度目人生記(29年7ヶ月20日目)
さて、今から16年ぶりに妹の顔を見に行ってきます。
姉御の遠見によると、アルトリア達はここから30キロほど離れた泉で野営してるらしい。
水晶越しに見せてもらったが、あそこって『唸る獣』がいたところじゃないか。
頼んでいた変装道具なんだが、こっちは
これはデスクィーン島で暗黒聖闘士を支配しろ、と言ってるのだろうか。
いや、せっかく用意してくれたんだから使うけど。
形はこんなだが、付けるだけで認識阻害の魔術が自動でかかるっていう優れモノらしいし。
後はいつもの黒ずくめにナマクラ君(13代目)と、二十年以上愛用している名刀真打を持って出発だ。
足はこの十年でさらにデカくなった庄之助を使えば大丈夫だろう。
というワケで、ちょっくら行ってきます。
◇
その男は音も無くアルトリア達の前へ降り立った。
全身黒づくめでありながら、原色をふんだんに使った悪魔を象った異様な面を付けた剣士。
「ふむ、お邪魔だったか」
彼は食事の準備をしている騎士見習い達に目をやって、バツが悪そうに後頭部を掻く。
数多の兵士や騎士に囲まれてもなお、自然体を崩さない男は新生ブリテン軍の面々には異様に見えた。
「貴様、何者だ」
囲みの中央に座っていたアルトリアは、口を付けていた椀を置いて聖剣を手に立ち上がった。
それに続くように、親衛隊が盾としてアルトリアの前に立つ。
「そうさな……。田宮坊太郎、とでも名乗っておこうか」
どう聞いても偽名にしか思えない異国の名を口にする男に、殺気立つ周囲の騎士達。
血気盛んな者が今にも飛び掛からんとする中、アルトリアは厳しい口調を男に向けて放つ。
「ならばタミヤとやら。我々の前に現れたのは何ゆえか?」
「噂に名高いアーサー王の姿を見に来たのが一つ」
常人なら竦み上がるであろう若き王の威圧を前にしても、男の態度は変わらない。
「もう一つは、陛下の隣にいる魔術師の首を獲りに」
まるで庭の果実を取るかのように、なんの気負いもなく口にされた言葉に野営地を包む空気が軋みを上げた。
魔術師マーリン。
アルトリアの師であり、新生ブリテン最初期から王を陰日向に支えてきた忠臣。
その男を害すると口にした怪人に、我慢の限界に達した一人の騎士が雄叫びと共に飛び掛かる。
だが、男は宙で剣を振り上げる騎士に目もくれぬまま、王から視線を離そうとしない。
そして、騎士の剣が男に振り下ろされようとしたその時、二人の間を一陣の風が吹き抜けた。
地に降り立った騎士が、渾身の力を込めた筈の剣に手ごたえがない事を不審に思って目を向けると、彼の愛剣は根元から綺麗に切断されていた。
その事に狼狽しながら一歩後ずさると、身に着けていた装備が全てバラバラに切り裂かれてその身から離れた。
自身の鎧だった物が地面で甲高い音を立てる傍らでへたり込む騎士。
恐る恐る黒ずくめの男に目を向ければ、彼の手には自分達が使うような無骨な剣が握られていた。
「下がれ、騎士達よ。卿達では歯が立たぬ」
「待つんだ、王よ」
聖剣を抜き放って前に出ようとするアルトリアの肩にマーリンの手がかかる。
「なんだ、マーリン。今はランスロット達は狩りに出て不在なのだ。あれほどの剣士、私しか相手にできんだろう」
「王よ、貴方でも相手が悪い。彼は『剣魔』アルガだ」
マーリンの言葉にアルトリアは息を呑み、仮面の男は不思議そうに首を傾げる。
「『剣魔』 ウーサー健在の際には貴方の命を狙い、先王が崩御した折は城に残って国を支えようとした忠臣の悉くを斬殺した外道……!」
「そうだ。当時でさえ、悪魔憑きである彼の剣の腕は異常だった。年月が経ってさらに修練を積んでいたとすれば、聖剣の加護があっても一人では危険すぎる。ランスロットが来るまで待つんだ」
そう説得する師であり腹心でもある魔術師の手をアルトリアは払い除ける。
「だとするならば、なおさら奴は私の手で討たねばならない。先王の時代に災禍を振り撒いた者を討ち取るのはブリテンを受け継ぐ私の義務だ」
その言葉と共に自身の前に立つアルトリアに、仮面の男は深々と溜息を付く。
「そこのペテン師の首を刎ねさえすれば、こちらは大人しく引き上げるんだが?」
「彼は我が王国に必要な者だ。させる訳にはいかん」
「ならば仕方が無い。王には少々痛い目を見てもらおう」
「ほざけ!」
全身から魔力を漲らせ、仮面の男に襲い掛かるアルトリア。
砲弾もかくやという速度で迫る王を前に仮面の男は左足を引いて半身になり、剣を持つ右手を曲げて剣の切っ先が顔の延長線上に来るように構える。
戴天流剣法・雲霞渺々
攻防、どちらの始動ともなりうる構えだ。
「はぁぁっ!!」
裂帛の気合と共に男の首筋に振り下ろされる聖剣。
武装した人間はおろか丸太をも一刀に切断する一撃は、舞うような軌道を描く刃に絡め捕られてあらぬ方向に流される。
「……ッ!?」
打ち合うのでも防ぐのでもない、体験した事のない技に息を呑むアルトリア。
しかしそれも一瞬の事。
持ち前の負けん気で魔力で強化した身体能力に物を言わせた彼女は、地に着かんとしていた切っ先を無理やり振り上げる。
魔力で強化された膂力と選定の聖剣の切れ味があれば、明らかに数打ちの粗悪品である男の剣など細枝も同然に叩き折る……。
そう確信した一撃も、再びあらぬ方向に逸れて空を切る。
こちらの剣が当たる寸前に男が振るった剣閃に触れた瞬間、なんの手応えも無く……。
「このおぉぉぉっ!!」
怒声と共に、アルトリアは我武者羅に剣を振るう。
唐竹・袈裟・胴薙ぎに斬り上げ……。
離れた木々すらも傷つける剣風の嵐も、男を一歩も動かすことはできない。
凪いだ湖面のように掲げられた切っ先が銀閃を描く度に、彼女の斬撃は主の意図せぬ方向に流れ空を切る。
今まで数多の戦場で敵を倒してきた自慢の剛剣が通用しない。
力で逸らされているのではなく此方の剣の腹を触れる僅かな力で、ベクトルを狂わされた斬撃は役に立たなくなる。
力と重さで勝る武器を術理で制する技こそ、戴天流剣法が妙。
アルトリアのように、力を重きに置く者には決して真似できぬ境地である。
「くぅ……っ!?」
剣撃が三桁に昇ろうとするなか、小さな苦鳴を上げたのはアルトリアの方だった。
攻めているはずのアルトリアは赤くなった顔で額に汗しているにも拘らず、防戦に回っている男の動きには微かな乱れもない。
それどころか、襲い来る剣を捌く間に周囲からの横槍を牽制する余裕まである始末だ。
甲高い刃鳴と共に渾身の胴薙ぎを捌かれ、アルトリアは後方に跳んだ。
荒い息を吐きながらも正眼に剣を構えるその顔は、先程までの覇気は薄らいでいる。
(まさか、ここまでとは……)
悲鳴を上げる肺を酷使して必死に呼吸を整えながら、アルトリアは内心で歯噛みする。
『剣魔』の事はマーリンから耳にしていた。
齢10に届かない幼少の身でかの大魔術師の目と腕を奪った事や、屈強であった旧ブリテンの騎士達を一人で殲滅した事など。
それでも、目の前に現れたならば打ち勝つ自信はあった。
竜の因子を持つ我が身と選定の剣があれば、と。
しかし、それがどれほどの思い上がった考えかを嫌というほど感じ取った。
アレだけの攻撃を息一つ乱さずに捌き切る技術、そして───
歓声を上げる周りの騎士達は、こちらが押しており相手は防戦が精一杯などと思っているようだが、それは勘違いだ。
こちらが攻めている間、むこうは此方を何度も斬り捨てていたのだ。
周りの騎士達のてまえ退くようなことは無かったが、あの仮面の奥の視線を感じる度にまるで斬られたような衝撃と熱さが、何度も身体を襲っていたのだ。
あれは、その気になれば何時でもこちらを剣の錆にできるという、意思表示だったのだろう。
「随分と息が上がっているようだが、まだやるかね?」
挑発するような言葉に頭に血が上がりかけるが、言葉を返す事なくアルトリアは目の前に剣を掲げる。
(あの男には剣では勝てない。倒すには別の手段を使うしか……)
ようやく整い始めた息をゆっくりと吐きながら、選定の剣の刀身へと全身の魔力を込めていく。
幸いなことに剣魔に動きは無いし、奴の背後には騎士はいない。
これならば、全力で真名解放を放つことが出来る!!
「選定の剣よ、力を! 邪悪を断て! 『
気合一閃、突き出された切っ先から放たれる黄金の光。
「ビームだとっ!?」
ここに現れて初めてとなる剣魔が上げた驚愕の声に、アルトリアは勝利を確信する。
しかし、その確信はすぐさま覆された。
大気を焼きながら突き進む魔力光を前にしながら、男は正眼に剣を構え直したのだ。
そして聖剣の光がその身を飲み込まんとしたその時───
「
気合と共に鉄を断つような甲高い音が鳴り響くと、同時に勝利すべき黄金の剣から放たれた光が真っ二つに両断されたのだ。
そしてその傷は聖剣の極光を遡り、アルトリアの手にある選定の剣に襲い掛かると、その刀身を二つに切り裂いた。
光の奔流が収まった先にアルトリアが見た物は、縦一文字に振り下ろした剣を戻す無傷の剣魔の姿だった。
「あ…あぁ……」
アルトリアの口から出た絶望の呻きを耳にしながら、マーリンは目の前の事に背中をぐっしょりと冷や汗で濡らしていた。
自身が千里眼なんて持っている事を心底後悔した。
あの時世界を俯瞰する彼が捉えたのは、真名解放を
こんな事はありえない。
アルガの持つ剣がアロンダイトのような聖剣かそれに匹敵する魔剣ならば、百歩譲って納得しようと努力しただろう。
だが、彼の手に収まっているのは一山いくらの鈍らだ。
魔剣も、魔眼も無しに技量だけで因果を断つ。
それはつまり、彼の振るう剣の前では如何なる物も破壊は免れないということだ。
「化け物め……ッ!?」
我知らずにそんな悪態が口を突く。
剣才が有ったのは認めるが、まさかこんな怪物に化けるとは……。
13年前のモルガンの覚醒といい、誤算などと言うレベルではない。
このままではこの大陸の統一など不可能になってしまう。
「ふむ……、刀身が半ばまで熔けちまってるな。俺もまだまだ未熟という事かねぇ……」
そんなブリテン側の絶望など知らぬと言わんばかりに、大きく変形した自身の剣を顔の前に持ってきて唸っていた仮面の男は、突然後ろに視線をやると振り向きざまに剣を一閃させる。
次の瞬間、湖の湖面を揺らす程の鋼の咆哮が辺りに響き、仮面の男の背後に一人の騎士が降り立った。
「ランスロット卿!」
「ランスロット卿だ!!」
「メインアタッカーキタ! これで勝つる!!」
王の前に立つと手にした剣を油断なく構える
「ご無事ですか、王よ」
「ランスロット卿……すまない」
「王はお下がりください。ここは私───」
そこまで口にして、紫紺の騎士ランスロットは言葉を失った。
自身の手に有った聖剣アロンダイトが、その刀身の半ばから断たれて落ちたのを目にしたからだ。
「やれやれ、ナマクラ君13号が昇天しちまったか。今回は負けを認めるしかないかねぇ」
絶対に刃が
ランスロットが顔を上げると、刀身が砕けて
「アーサー王よ。今回は退かせてもらうが、お前さんがロット王の領地に手を出すなら、今度はそこのペテン師ともども首を貰いに行くからな」
そう言い残すと、仮面の男は宙を舞う木の葉を足場として舞い上がり、空中を旋回していた龍に乗って姿を消した。
「マーリン、私はどうすれば……」
意気消沈する騎士達を他所にアルトリアを王の天幕まで送ったマーリンは、専用の椅子に腰かけて項垂れる自身の王に掛ける言葉を持たなかった。
人生墓場
アルガ「すまない、ドクター・ボンベを呼んできてくれないか?」
孔濤羅「諦めるがいい」
湊斗景明「ここも、慣れれば気持ちがいいですよ。心を無にするのがコツです」