剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 すまねえ、みんな。

 ニートリアさんの人気に図に乗っちまった。

 色々ネタを詰め込んでたら、一話で終わらなかったんだ。

 シリアスゲージはOKですが、後一話だけお付き合いください。



【ネタ】ニートリアさん、続き(中編)

 現世歴2004年 2月 8日(二章)

 

 セイバーが戦闘不能になってしまったので、仕方なしに私が代打を務める事になってしまいました。

 

 私聖杯戦争と何の関係も無いのに、なんでお鉢が回ってきたのでしょう?

 

 うん、セイバーを壊した責任を取れ?

 

 それを言われると辛いところですね。

 

 今やセイバーはホセと戦った後のカーロス・リベラみたいになってますから。

 

 どうやら私のトークはコークスクリュー以上の威力があったらしく、竜の一撃のようだった太刀筋は見る影もありません。

 

 その代わり、自分の妄想を叩き付けるタイプスピードはまさに神速と化してしまいましたが。

 

 ぶっちゃけ、王様からSSライターへの華麗な転身は予想していませんでした。

 

 時折聞こえてくる『グラン・エクスカリバー』などの呟きには不吉なモノしか感じませんが、何分脳内妄想なので止めることができません

 

 私にできるのは、あの名伏し難い怪文章達が世間に流れ出る事が無いよう祈るくらいです。

 

 さて、ヲタクと創作活動という名の無間地獄に堕ちた元英霊の事は置いておきましょう。

 

 私達が向かうのは、冬木市郊外の森にある場違いな城塞です。

 

 現代都市の中に西洋の城を建てたアインツベルンとかいう奴らは、絶対に頭がおかしいと思います。

 

 あんな場末のレジャー施設かニャンニャン専用のホテルみたいなもの、森の中にあったら目立って仕方がないでしょうに。

 

 そういえばアインツベルンという名、どこかで耳にしたような気がしますね。

 

 なんでしたっけ……アイスクリームのメーカー?

 

 うん、こんなどうでもいい疑問はポイするに限ります。

 

 正直、このクッソ寒い中で遠出なんて御免被りたいところでしたが、家主の命が掛かっているとなればそうも言っていられません。

 

 ツンデレからの情報では、アインツベルンのバーサーカーはかの有名なヘラクレスと言うではありませんか。

 

 いくらイラクからア・バオア・クーまで、液晶モニター越しにあらゆる戦場を駆け抜けた私でも大英雄の相手は容易ではない。

 

 というか、強敵と戦うとか疲れるし真っ平御免です。

 

 こういう時は、フレンド枠から凶キャラを呼ぶのが基本でしょう。

 

 というワケで笛を三回鳴らしてカモン、兄上!

 

 と、軽い調子で呼んだ兄上ですが、風呂上がりだった為に丸腰で来てしまいました。

 

 流石にこれは拙いので、アーチャーから剣を借りる事に。

 

 貸し出す際に彼は『嫌な予感がするんだが、大丈夫だろうか?』と言っていましたが、それについては太鼓判を押しましょう。

 

 少なくとも、兄上は貴方の百倍は強いです。

 

 用意も整ったところで、いざ潜入と意気込んだのですが、生憎と私達はお留守番をしただけでした。

 

 衛宮少年の特徴を聞いた兄上がサクッと忍び込み、あっさりと少年を回収してしまったのです。

 

 ……そういえば言ってましたっけ、兄上は暗殺者の経験があると。

 

 衛宮少年の容態も命に別状はない事を確認して撤収しようとしたところ、やはり追っ手を掛けられていました。

 

 現れたのは銀髪ロリを肩に乗せた鉛色のマッチョネス。

 

 肉密度300%のビジュアルに圧倒されていると、物凄く楽しそうな笑みと共に兄上が前に出ます。

 

 あ、これはあかん奴や。

 

 リンが『下がりなさい! 常人が戦える相手じゃない!!』とか言ってますが、私はむしろロリとマッチョネスの冥福を祈りました。

 

 ところでアーチャー、その踏み出そうとしてさり気なく戻した足は何ですか?

 

 そうして始まる大決戦。

 

 力任せに振り下ろされるゴッツい岩剣を、暴風に流れる柳の枝のように巧みに捌いた兄上は、ちょうど十合目に反撃を放ちます。

 

 バーサーカーを上回る速度で放たれた一刀は、カウンター状態で岩剣を持つ右手を斬り飛ばしました。

 

 たしかにヘラクレスは強力ですが、相性が悪すぎるうえに技量差があり過ぎますね。

 

 私の甥であるバスターゴリラ1号・2号のように、パワーファイターは戴天流のカモですから。

 

 正気だったならワンチャンあったかもしれませんが、狂ったまま本能で暴れまわるのでは、兄上の防御を抜く事はできません。

 

 ギャラリーたちが勝利を確信したのもつかの間、ここでアクシデントが発生します。

 

 なんと、兄上の持っていた剣がマッチョネスの腕を断つと同時に砕けて消えてしまったのです。

 

 『なに、(なまく)ら渡しとんじゃッ!』と思わず隣のドンファンにブラジリアン・ハイキックをかましてしまいましたが、そんな事をしている場合ではありません。

 

 私は四次元倉庫から使えそうな武器を探します。

 

 エクスカリバーが渡せればいいのですが、どうも兄上はあの剣と相性が悪いようで、使うと力量が下がるらしいのです。

 

 一秒がやけに長く感じるようなもどかしさが募る中、ようやく武器らしきものが手元に来ました。

 

 見れば、マッチョネスは右手を再生して兄上に襲い掛かろうとする寸前。

 

 『兄上! 新しい武器よ!!』

 

 もはや確認している余裕も無いと、掴んだモノを兄上に投げ渡す私。

 

 『殺る気百倍! 剣キチマン!!』

 

 激しく回転しながら飛んできた武器を受け取った兄上は、ジャンピングキャッチからの兜割りで防ごうとした剛腕ごとバーサーカーの頭を両断しました。

 

 土煙とサーヴァントの肉体が消滅する際のエーテルを撒き散らして地面に沈む鉛の巨人。

 

 その傍らに音も無く着地した兄上は、流れるような動作で血振りを行います。

 

 すると、刃が空を斬る音に交じって軽妙なファンファーレが流れたではありませんか。

 

 よく見ると、兄上の剣は私がアマゾネスで購入した『リアルサイズ・ロ●の剣・レプリカ』でした。

 

 そういえば模造刀だった事が気に入らなくて、使えるようにしろと近所にあるドワーフの鍛冶屋に持っていったんでしたっけ。

 

『アルガはレベルがあがった。ちからが3あがった。みのまもりが1あがった。すばやさが24あがった。HPが16あがった。MPが2あがった』

 

 流石は兄上。

 

 さっきのアン●ンマン的なやり取りといい、ノリの良さは一級品ですね。 

 

 というか、いい加減レベルカンストしてください。

 

 モードレッドやアグラヴェインが貴方を目標にしてるんですよ?

 

 『なんでよ!? バーサーカーはヘラクレスなのよ! 最強の英霊で、『十二の試練(ゴッドハンド)』であと11回は復活するはずなのに……ッ!!』

 

 『あ、すまん。それ、因果ごと斬ったから』

 

 癇癪をおこしていたロリは、兄上の一言で黙り込みました。

 

 そのハイライトが消えた目を見れば、気持ちは痛いほどに分かります。

 

 私もカリバーンを真名開放のビームもろとも両断された時は、思わず世の中を恨みましたから。

 

 まあ、あれですね。

 

 兄上の剣は天災とか悲運とか、そういった理不尽の権化と同じです。

 

 あらゆるバフを問答無用で無効化する鬼畜剣、敵に回したらクソゲー以外の何物でもありません。

 

 ロリっ子、野良犬に咬まれたと思って諦めなさい。

 

 その後、衛宮少年の頼みもあって銀髪幼女改めイリヤスフィールを回収した私達は、無事に衛宮邸に帰ることができました。

 

 兄上は『久々に強敵とやり合えたし、家に戻って寝るわ』とご満悦な様子で帰っていきました。

 

 傍から見てるとボロ勝ちだったのですが、強敵認定してたんですね。

 

 衛宮家最大の危機をなんとか乗り切って警備室に戻った私が見たものは、例のSSを投稿サイトにうPしているオルタ色に変色したセイバーの姿でした。

 

 アーサー王がアーサー王物語のご都合二次小説を書くというこの矛盾……。

 

 彼女の文章力のしょっぱさも相まって、涙が止まりません。

 

 読んでみると、小説の中のランスロットが『武に優れて礼節を重んじ、溢れんばかりの忠義を胸に秘めて友人関係も良好』と、バリバリに美化されているんですが。

 

 貴方、『空の物語』の同名の騎士と勘違いしていませんか?

 

『セイバー。貴方の小説は擬音が多すぎ───』

 

 ライダー、それ以上はいけない。

 

 彼女は気持ちよく創作活動をしているのですから、そっとしておいてあげましょう。 

 

 あと、本名で投稿するのは止めておきなさい。

 

 色々ヤバいですから。

 

 

 現世歴2004年 2月 9日

 

 

 先日は思わぬアクシデントに巻き込まれて、ニートらしからぬ働きをする羽目になりました。

 

 なので、今日こそは(ぬる)くまったりと過ごすつもりだったのですが、やはりと言うかちょっぴり面倒な事が起こりました。

 

 なんとキャスターがこの衛宮邸に乗り込んできたのです。

 

 普通ならば衛宮少年やリンを襲うのが常道なのでしょうが、何故か彼女が現れたのは我等が警備室。

 

 ニート、セイバー、ライダーの3クラスが揃った現状ではキャスターになす術はありません。

 

 警備室内に広がる怠惰の極みと言わんばかりの空気に固まっているところを取り押さえられた彼女は、あっという間にライダーの鎖でぐるぐる巻きにされました。

 

 捕獲も完了したところで尋問と相成ったのですが、私はどうも彼女のような理知的な女性魔術師に手荒な真似はできません。

 

 どことなく姉上が被ってしまって、つい手を緩めてしまうワケですね。

 

 もっとも、彼女の寄る辺たる魔術が我々には通じないので、キャスターに打つ手はないのですが。

 

 彼女がここに現れた原因は、サクラの対処で呼んだ際に姉上がこの家に転移阻害の結界を張っていたそうで、それに引っ掛かったのが原因のようです。

 

 彼女が衛宮邸を襲撃しようとした目的は、セイバーを自軍に引き入れる事だとか。

 

 セイバーが最優のクラスである事は理解していますが、今回の聖杯戦争では撃破数ゼロなうえに、たいした活躍もしていないはずです。

 

 それなのに、どうして危険を冒してまで手に入れようとしたのか?

 

 それを問うと、返って来たのは愛玩対象として、容姿がドストライクだったという業の深い答えでした。

 

 まあ、現在進行形で愛玩動物(扶養家族)な私ですから、自身の容姿がそういう方面に優れている事は把握しています。

 

 愛でる事が出来る上に前衛を任せられるならば、多少の無理をしてでも欲しがる……かもしれませんね。

 

 納得がいったところで、今のやさぐれたSSライターの姿を見せたところ、『これはない』と早々に諦めてくれました。

 

 ちなみに私はというと『そんなくたびれたジャージを着てる女の子はちょっと……』だそうです。

 

 いや、別にいいんですけどね。

 

 さて、敵対するサーヴァントであるキャスターは早々に排除すべき対象なのですが、そこは時間を持て余しているニート。

 

 関わり合いになれば、相手の真名や願いが知りたくなるのが人情というモノでしょう。

 

 命を保証するという条件で聞き出してみたのですが、なんというか余計に手が出せなくなりました。

 

 彼女の真名はメディア。

 

 古代ギリシャ地方にあったコルキスという国の王女で、イアソンというクズ男に騙された結果、何もかもを失ったという逸話を持つ女性です。

 

 聖杯に掛ける願いは一度でいいから故郷に帰る事と、マスターと夫婦となって幸せに暮らしたいというモノでした。

 

 さらに聞けば、マスターである男性は魔力回路を持っていないので常に魔力不足の危機にあるらしく、その辺も強引な手を使って戦力増強を狙った理由でもあるのでしょう。

 

 さて、ここからが我が頭脳のシンキングタイムでした。

 

 この衛宮邸警備隊は、幸いな事に聖杯を必要としている者はいません。

 

 そして集まった三人は近接戦上等の脳筋ばかりで、魔術に明るいモノが不足しています。

 

 一応は魔術儀式である聖杯戦争において、魔術師の存在は必須。

 

 対して、雇用主の衛宮少年は超が付くほどのへっぽこです。

 

 笛を二回吹けばバリバリのエキスパートが来てくれますが、先方も家事や兄上の手伝いなどがある事を思えば常駐は無理でしょう。

 

 衛宮家警備隊の今後を思えば、弱点克服の為にも彼女を取り込むべきではないでしょうか?

 

 幸い、姉上が第四次の事を憶えていれば、聖杯の制御も容易になるでしょう。

 

 聖杯にしても十年前に浄化されているはずですから、呪詛云々は問題無いはず。

 

 仮にまた汚染されていても、兄上がいれば何とでもなります。

 

 と言う訳で、聖杯の使用権を譲るという破格のギャラを提示したうえで警備隊にスカウトしたところ、キャスターから色よい返事をもらう事が出来ました。

 

 他の陣営からの襲撃対策として、彼女とそのマスターが衛宮邸に居を移す事。

 

 そして魔力の確保を条件に追加されたのですが、こちらはなんとかなりました。

 

 まず、住居については衛宮少年に事情を説明したところ、あっさりとOKが出て警備室の横の部屋を提供してくれました。

 

 居候四人目なんですが本当に良いんですか? と念を押したところ、なんと兄上から私の生活費が渡されていたようです。

 

 ちなみに渡されたのは現金ではなく貴金属。

 

 彼の姉貴分である藤村女史を通して査定したところ、相当な値が付いたとか。

 

 まあ、キャスターが根性で説得したマスターが彼の学校の教師であったことは見抜けず、『少しの間、世話になる』と言われた時には相当焦っていたようですが。

 

 あと、魔力供給については私が担当しました。

 

 なんと言っても、私には竜の心臓という破格の魔力生成能力があります。

 

 ニートをやっている今では完全に死にスキルですが、キャスターの魔力源としては十分と言えるでしょう。

 

 そう言えば、キャスターは裏技でアサシンを召喚していたそうなのですが、お世話になっている寺の山門から動けないらしいので、そのまま囮として置いておくそうです。

 

 普通に酷いと思いますが、こちらが言ったところで仕方がありません。

 

 流石にこれ以上居候を増やす事も(はばか)られますし、ここは顔も知らないアサシンには泣いてもらう事にしましょう。

 

 しかし、キャスターのマスターであるクズキという男、雰囲気がどことなく兄上に似てますね。

 

 兄上は私の引き籠り生活を温かく見守ってくれていましたが、彼がそうとは限りません。

 

 私のニートライフの妨げにならなければいいのですが……

 

 

 現世歴2004年 2月 10日

 

 

 今日は博徒な私です。

 

 え~、今日の昼過ぎにアーチャー陣営が脱落しました。

 

 事はリンが我が警備室に怒鳴り込んで来たことから始まります。

 

 聖杯戦争が始まって一週間。

 

 マッチョネスが脱落したこと以外にまったく進展しない中で、この警備室では3騎のサーヴァントがグダグダな日々を過ごしています。

 

 本気で聖杯戦争に臨んでいる彼女にはそれが許せないらしく、真面目にやれ! と発破を掛けにきたらしいのです。

 

 その時、私はセイバーと卓を囲んで二人マージャンを行っていました。

 

 なんだかんだ言っても平行世界の同一人物です。

 

 対局の方は一進一退の攻防が続いており、リンの言葉を頭に入れる余裕はありません。

 

 無視されたと感じたリンはヒートアップし、勢いを増して噛みついてきます。

 

 すると、その様を目障りと感じたセイバーがこう提案しました。

 

『文句があるなら牌で語れ。貴様がこの卓で私達を負かせることが出来たなら、聖杯戦争でも何でもやってやる。ただし、貴様が負けたなら相応の対価を払ってもらうぞ』

 

 シカトからの挑発と来れば、あのツンデレの性格から乗ってこない訳がありません。

 

 後ろで『こんなのは私のセイバーじゃない』などと、意味の分からない事を呟いているアーチャーを伴って参戦してきました。

 

 対局を開始する前にセイバーが突き付けたキャスターお手製の書類を、中身を見ようともせずにサインするリン。

 

 その迂闊さに、思わず可哀想なモノを見るような視線を送ってしまいました。

 

 こうして始まったマージャン対局ですが、思った以上にあっさりと終わりを迎えてしまいました。

 

 リンはそこそこ奮戦したのですが、アーチャーがダメ過ぎましたね。

 

 3局目に私の国士無双十三面待ち(ライジング・サン)に振り込んで、あっさりハコテンになってしまったのです。

 

 まあ、二巡目テンパイがデフォという私達の豪運がエグすぎたのもありますが。 

 

 対局は私が親の満貫ツモに子のダブル役満がアーチャー直撃のロン、セイバーが子の満貫ツモ、リン主従上がり無しという結果に終わりました。

 

 後は負け分の支払いとなる訳ですが、ここでリン達は大きな思い違いしていた事に気付きます。

 

 ここからはその後の会話をダイジェストで記載しましょう。

 

『ッ!? ……くやしいけど私達の負けね』

 

『……すまない、マスター』

 

『仕方ないわよ、マージャン勝負に英霊の力とか関係ないんだし。───それで、負け分は1点1円で計算したらいいのかしら?』

 

『何を寝ぼけている、魔術師。ここの相場は点1戦闘機だ』

 

『……………は?』

 

『わからないのなら、こちらからも説明しましょう。点1戦闘機とは1点につき戦闘機1台、もしくは相当分の現金を支払うという事です』

 

『戦闘機の相場は日本円にして1台300億は下らんそうだ。まあ、端数はややこしくなるのでマケてやる。1点300億で計算しろ』

 

『ふざけないでよ! そんな滅茶苦茶な値段、払えるワケないでしょうがっ!!』

 

『馬鹿め、私達を誰だと心得ている。元とはいえ、一国の王だぞ。遊戯にしても相応の品格が付くに決まっているだろう』

 

『それに最初の書類にも書いてありましたからね、条件。ちゃんと読まずにサインをした貴女が迂闊なのです』

 

『………………』(アーチャー、事の重大さに放心中)

 

『うるさいうるさい!? こんなの詐欺よ、無効よ! 私は絶対に払わないからね!!』

 

『それはやめておいたほうがいいですよ、リン』

 

『ライダーの言う通りよ、お嬢さん。貴女がサインしたのは私手ずからに作成した誓約書。違反した場合は、かなりキツいペナルティが課せられるわ』

 

()められた!? あんた達、最初から私達を嵌める気だったのね!!』

 

『いいえ、そんなつもりはサラサラありません』 

 

『その通りだ。そも、貴様等がくることなど私達は知らなかったのだぞ。それをどうやって嵌めることができる? 全ては俗人の身でありながら、王の遊戯に参戦した貴様の不明だ、(たわ)け』

 

 ボロクソに罵倒されて、揃って崩れ落ちるアーチャー陣営。

 

 ちなみに誓約書云々はまったくのハッタリです。

 

 だいたい、チラシの裏にプリンター印刷したようなモノに、魔術的拘束力なんて在るわけないじゃないですか。

 

 あと相場設定もギャグだったのですが、リン達が負けた時点でマジになりました。

 

 この辺の掌返しは、政治に関わった者ならでは。

 

 リンのような経験の浅い少女には考えもつかない手と言えるでしょう。

 

 加えて、上記の警備員達の連携も実は即興だったりします。

 

 後になって確認したところ、あの場所にいた全員が『聖杯戦争とか、ウゼェ』と思ったそうで、それがアイコンタクトも介さない超高度な連携に繋がったようです。

 

 さすがは自宅警備隊。

 

 そんな理由でチームワークが生まれるあたり、なんとも業の深い話だと思います。

 

 なにはともあれ、敗者となったリンとアーチャーに待っているのは負債の取り立てです。

 

 ニートは自身の自堕落な生活を脅かす者には容赦がありません。

 

 彼等に意見できるのは、その生活を支えている親兄弟のみ。

 

 赤の他人が口出しすれば、それはもう恐ろしい報復が返ってきます。

 

 というワケで、バブル期の堂島組も真っ青の取り立てが行われ、アーチャー陣営は文字通り身包みを剥がされてしまいました。

 

 リンは父の形見であるペンダント以外の宝石と共に着ていた衣服まで剥ぎ取られ、アーチャーも『ぶらっくすいまー』一丁にされたうえに、彼の使う投影魔術の異常さに気付いたキャスターによって、現界できるギリギリまで武具を造らされました。

 

 まさに悪辣と呼ぶ他ない手口ですが、これでも天文学的な数値に膨れ上がった彼等の負債の完済には程遠い。

 

 この事実に最もダメージを受けたのはアーチャーでしょう。

 

 ぶっちゃけ、彼がダブル役満に振り込まなければ、負債はもう少しマシだったでしょうから。

 

 まあ、基礎の金額が金額ですので、返すのは絶対無理でしょうけど。

 

 死人のような顔で床にへたり込む褐色のマッチョメンの前に立ったセイバーは、敗者を見下ろしながら語りかけます。

 

『アーチャーよ、さぞや苦しいだろうな。如何に英霊とはいえ、現世の金銭に関してはどうしようもない。貴様の中に根付いた主を借金地獄に突き落とした苦悩は、簡単には晴れる事はあるまい。だが、心配は無用だ』

 

 セイバーの優しげな言葉に、俯いていた顔をノロノロと上げるアーチャー。

 

 そんな彼の瞳に映ったのは────

 

『私がお前を救ってやろう!!』

 

 セイバーが浮かべた、それはそれは見事な『ワシズ・スマイル』でした。

 

 顔の濃さから胡散臭(うさんくさ)さまで、何から何まで完璧です。

 

 さすがは『我が王道を探す』なんて厨二病的なセリフと共に、『ワシズ 閻魔の闘牌』と『野望の王国』を読破しただけはあります。

 

 今の彼女に『王道とは?』と問いを投げたなら、『この世は荒野だ! 唯一野望を実行に移す事ができる者だけが、この荒野を制する事ができるのだ!!』という熱い答えが返ってくるに違いありません。

 

 さて、セイバー渾身の笑顔を見たアーチャーですが、魂抜けるような表情を浮かべた後、黒いエーテルを放ちながら姿を消してしまいました。

 

 その様を見たはセイバーは『私の笑みを手向けとしたのだ、奴も迷う事はないだろう』と満足げ。

 

 で、ワシズ様……もとい彼女の言葉を聞いた全員が『あんな手向けいらんわ』と心を一つにしたのは秘密です。

 

 『我々が座に帰るまで、侍女として働くなら負債は無しにしてやる』というセイバーの言葉を背負ったリンが部屋を後にすると、キャスターから本当に聖杯はいらないのか? と問われました。

 

 私は今が幸せですし、叶えたい願いもありません。

 

 ライダーは『サクラを怪物にしないために召喚に応じたので、それが叶った以上は聖杯は必要ない』との事でした。

 

 セイバーの返答は『聖杯など無くとも、我が神聖ブリタニア帝国は私の中で着々と繁栄を続けている』だそうです。

 

 ブリテンがえらい進化を遂げているようなのですが、彼女の妄想の中では何が起こっているのでしょうか?

 

 現世歴2004年 2月 11日

 

 またしても、我が警備室に新入隊員が現れました。

 

 昨日消えたと思われていたアーチャーですが、実はまだ現世にいるのです。

 

 リンが去ってから少しするとアーチャーが消えた場所から黒い魔力が立ち上り、そこから容姿が大きく変わった彼が再び現れたのです。

 

 どうも消滅と登場の間にキャスターと繋いだパスにバイパスを刺しこむ形で魔力供給がなされているらしく、何故か私のことをマスター認定してきます。

 

 そんな彼の真名はエミヤ。

 

 なんと衛宮少年の未来の可能性だと言うのです。

 

 聞かされた際は到底信じられない話でした。

 

 短く刈り込まれた白髪にコメカミに走る剃り込み。

 

 肌は黒人のようなチョコレート色だし、唇だってぽってりと厚い。

 

 もうエミヤというよりもボブじゃないですか、これ。

 

 そんな彼ですが、ふらりと何処かへ出かけたかと思うと、古いブラウン管テレビを持って帰ってきました。

 

 そして、それに私のレトロハードを接続して一心不乱にゲームを始めたのです。

 

 しかも本体の横に積んでいるのは、古今東西のクソゲーばかり。

 

 理由を問うと『心も身体も腐り果てた俺には、こういう奴の方が似合うのさ』とワケの判らない返答が返ってきました。

 

 セイバーやライダーは豹変した彼を不気味そうに見ていますが、私は気にしていません。

 

 彼の『デス様』こと『デス・クリムゾン』の全力全開ガンカタプレイを見た時に、すべてを許すと決めたのです。

 

 ええ、あのプレイは窒息するかと思うくらいに腹筋を鍛えさせてもらいました。

 

 だからボブ、いい加減気付いてください。

 

 『た●しの挑戦状』は、正規の手続きで飛行機に乗ってはいけない事を。

 

 ほら、また鳥が飛行機を…………。

 

 テーレーレ………。




 ニートリア、自分ではほとんど何もしていないのに『Fate』ルートに続いて『UBW』ルートも潰す。

 こいつは何時の間に黒幕系ニートになったのか?

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