剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 お待たせしました、ニートリアです。

 剣キチの方は鋭意執筆中なので、もう少しお待ちを。

 今日の早朝ですが、ほとんど意識の無いままに10連ガチャを引いていたようで、目が覚めたら剣ディルが当たってました。

 無我の境地でなかったら、☆4すら当たらない私っていったい……。


【ネタ】ニートリアのサバフェス旅行(3)

 

 現世歴2018年 8月 16日

 

 

 今日は決戦日!!

 

 というワケで、サバフェス本番に行ってまいりました。

 

 南国の暑さとウ=ス異本の即売会独特の怪しい熱気に包まれ、出展ブースの面々はテンションMax。

 

 入場待ちのお客さんの整理を任されているレオニダス王など、兜のトサカが炎になる勢いでした。

 

 しかしウ=ス異本の即売会とスパルタ兵の組み合わせは、某笑顔動画にうPされていた『300』のMADを思い出しますね。

 

 あんな風に走り込み客を盾で押し返して、槍で反撃するなんてことがなければよいのですが……。

 

 さて、ウチはリツカのサークル『ゲシュペンスト・ケッツァー』の好意によって委託販売が(かな)いました。

 

 その代わりに売り子としてブースに座る事になったのですが、家族と即売会場を回るという『地獄巡り』を思えばむしろバッチコイです。

 

 今回売り子を務めるのは私、ガレス、リツカに彼女の後輩であるマシュ・キリエライトの4名。

 

 他の面々は各々用事があるようです。

 

 全員でいても手狭なだけですし、会場を巡るにしても交代という手があるので、その方がいいでしょう。

 

 用意された長机にクロスを敷き、その上に作り上げた本を並べる。

 

 出展ブースの用意はこれで完了。

 

 他のサークルは装飾を付けているのもありますが、初参加である彼女達はシンプル・イズ・ベストを選んだようです。

 

 私達が出すのはガレス著である『円卓の影の騎士』なのですが、奇遇な事にリツカ達が手掛けたのも円卓をモチーフにしたものでした。

 

 題名は『ウチの円卓』。

 

 11人家族の中に引き取られた幼い獅子王ちゃんと、顔だけはいい兄弟を題材にしたホームコメディ。

 

 私も読ませてもらったのですが、登場する円卓諸氏の性格も掴めていて面白かったです。

 

 起こる事件がだいたいマーリンの所為というのも核心を付いてますしね。

 

 そんな具合で作業もスムーズに進み、こちらの準備は開場時刻である9時に一時間ほど余裕を残して終えることが出来ました。

 

 緊張でガチガチになったリツカとガレス、そして私達の本を物凄い速度で読んでいくマシュ。

 

 各々が開催の合図を待つ中、出店関係者という事で早めに会場入りしていた兄上が差し入れのドリンクを持ってきたところで、アクシデントが発生しました。

 

 なんと、ロボ子こと『謎のヒロインXX』が上空から会場に向けて突撃してきたのです。

 

『邪悪なサバフェスを撲滅し、それに関わるサーヴァント達も殲滅します!!』

 

 と、パワードスーツのデュアルアイを光らせるXX。

 

 リツカやレオニダス王が慌てて迎撃態勢を取ろうとする中、私の視界は一つの影を捉えていました。

 

 そう、音も無く背後に回り込んだ兄上が、XXの後頭部に掌を当てているのをです。

 

『ほい、紫電掌』

 

 やる気の感じられない声と共に電流がショートするような音が鳴ると、XXが纏うパワードスーツの眼から光が消えました。

 

『あれ? アーヴァロンの調子が……。ちょっ! 過電流で補助AIが死んだってどういうことですか!? このままだと分離どころか動くことも……ダレカタスケテー!!』

 

 ロボ子の中から響く私の声によく似た悲鳴が涙を誘います。

 

 結局、XXは兄上によって救助(パワードスーツは例によって真っ二つ。それを見た彼女は『これ備品なのに、クビ確定じゃないですか……』と崩れ落ちていました)されたXXは、やはり私と瓜二つでした。

 

 『わっ! アル姉さまとそっくり』と驚くガレスは置いておくとして、私がキャメロットの舞台から飛び降りるつもりで買ったのと同じ白のビキニというのは、どういう了見なんでしょうか?

 

 被っているキャップと青のマフラーが完全に浮いてますし、なによりようやく成長を始めた私の胸とトントンというのも納得いかない。

 

 某電波ソングのようにモいでやろうかと思いましたが、生憎と下手人は兄上による事情聴取中。

 

 下手に手を出すと怒られそうなので、断念せざるを得ません。

 

 彼女の話は固有名詞がポコポコ出てくる所為でわかりにくかったものの、(おおむ)ね事情を把握することができました。

 

 XXがサバフェスを妨害していた動機は『自分が働いている中で、バカンスを楽しんでいた他のサーヴァントへの嫉妬』だったようです。

 

 聞けば、元ニートだった彼女は周りの仲間がドンドン就職していくプレッシャーに耐えかねて、銀河警察というブラックな民間企業に飛び込んでしまったそうです。

 

 治安を守る職ですからブラックなのは分かりますが、司法機関を民間が担うというのはヤバいのではないでしょうか。

 

 で、邪神ハンターとして身を粉にして働いていた彼女は、休暇もロクに取れないままに邪神反応に引かれてルルハワに来訪。

 

 しかし、そこで待っていたのは思い切り夏季休暇を満喫するサーヴァント達の姿だった。

 

 幸せそうに遊ぶ彼等の姿に、長いニート生活でさらに短くなった彼女の堪忍袋の緒がプッツン。

 

 邪神反応を言い訳に、ルルハワ最大のイベントであるサバフェス撲滅に乗り出したという事だそうです。

 

 テロ活動の理由としては何ともアレですが、同じ元ニートとして気持ちはよく分かります。

 

 涙目になりながらも全てを話し終えたXXですが、最後のオチと言わんばかりに会場中に響きわたるような腹の虫を鳴らしてしまいました。

 

 羞恥とあまりの情けなさに丸まってしまった彼女は、鼻をすすりながらもこう供述します。

 

 曰く昼はバイトの金で最安値のランチ。

 

 夜は銀河カップメンで、朝は経費削減の為に水だけという食生活を送っていたのだとか。

 

 さすがにこれを哀れに思ったのでしょう、兄上と母上はとても優しい笑顔でXXの肩を叩くと、そのままレストランへと連れて行ってしまいました。

 

 なんでも、私と同じ顔の女の子が飢えているのを見るのは忍びないとか。

 

 私を大切に思ってくれている証拠なんでしょうけど、真の妹としては少々複雑な気分です。

 

 ぶっちゃけ、彼女に奢る飯があるのなら私にもご馳走してほしい。

 

 閑話休題

 

 直前にとんだアクシデントに見舞われましたが、サバフェスは問題なく開催されました。

 

 某ヲタクの祭典には程遠いとはいえ、開催の合図と共に雪崩込んでくる人の数はかなりのもの。

 

 安全委員のレオニダス王もてんてこ舞いだったようです。

 

 我等が『ゲシュペンスト・ケッツァー』ですが、開始から結構な数の客を集めることに成功していました

   

 その理由は何と言ってもガレスです。

 

 本日のあの子のお召し物は、葛木夫人渾身の一作である純白のドレス。

 

 なんでも、私達が必死に原稿と戦っている間に手掛けていたそうです。

 

 夏を意識してか気品の中にもどこか涼やかさを感じさせるレースやフリルマシマシの生地の内側には、着ている者の体温を適温に保つ術式がこれでもかと組み込まれているのだとか。

 

 夫人曰く『美少女は汗一滴かいたら負けよ』だそうです。

 

 どこの漂流物な第六天魔王なんですかね、彼女。

 

 私のような武骨者はもちろん、普通の女性なら気後れするような代物ですが、ガレスは問題なく着こなしています。

 

 元姫君の経歴に加え、母上から休まず淑女教育を受けているのは伊達ではないという事でしょう。

 

 スタッフ・来客ともにサーヴァントなので、王族なんて結構な数で存在するのですが、可愛いモノに目が無いのは女性の性。

 

 ガレスは多くの女性のお客から声をかけられたり、一緒に写真を取ったりしていました。

 

 そういえば、お客さんの中に全身フルプレートのガレスによく似た少女が居たのですが、もしかして彼女は並行世界のあの子だったりするのでしょうか。

 

 ナイフより重いモノは持てない深窓の令嬢たる我が姪と、並の騎士では動けないであろう重装備を纏う彼女。

 

 同一人物と呼ぶには余りにもかけ離れていますが、私の直感がそう(ささや)くのです。

 

 とはいえ、こうまで道が違っていれば当人たちに気づけと言うのは酷な話。

 

 二人のガレスは『貴女のような姫君なら守り甲斐があります』や『貴女のような騎士様なら、きっと頼りになりますね』とお互いにこやかに話しただけでした。

 

 騎士の道を進んだガレスは気になりますが、それを調べるのはまたの機会に取っておきましょう。

 

 話は変わって、私のもう一つの所属サークルである『衛宮家警備隊』ですが、なんと『ゲシュペンスト・ケッツァー』の隣にいました。

 

 黒のゴシックロリータに身を固めたセイバーと、魔眼殺しの眼鏡に薄紫のTシャツにデニムという出で立ちのライダー。

 

 そして、赤い彗星のシャアのコスプレに身を包んだボブ。

 

 というか、彼は自分の容姿をもう少し客観的に見るべきでしょう。

 

 チョコレート色の肌にたらこ唇のシャアなんて、例の『アゴい彗星』よりもアウトです。

 

 実写版ガンダムが気に入ったのは分かりますが、どうして彼は同じ肌の色であるリュウ・ホセイにしなかったのでしょうか?

 

 もう怪しさが爆発しすぎて、誰のコスプレかもわからない状態になってますよ。

 

 一際(ひときわ)異彩を放つ変人の事は置いておくとして、むこうの集客率は実はこちらよりも多かったりします。

 

 大半は500ページ越えのア=ツ異本と化した『ブリタニア列王記』のファンなのですが、どうもチラホラとクソゲーマニアも居た模様。

 

 オッキーから聞いた話なのですが、あの二人ってWeb界隈では結構名の知れた存在だそうです。

 

 セイバーは10年以上も『ブリタニア列王記』一本を書き続ける奇特な作家として、そしてボブはKOTY(クソゲー・オブ・ザ・イヤー)の主催者兼伝説のクソゲーバンカーとして。

 

 最近のスマッシュヒットは『新世黙示録-Death March』とかいう18禁のゲームだそうで、『ボリュームも十分なのに、見渡す限りクソ要素しかない』や『クソなところを見つけたと思ったら、その中に更なるクソが隠れていて、クソのマトリョーシカ状態』などと、その道のマニアを悶絶させているそうです。

 

 そんなボブはセイバーとライダーがお客さんを捌いている(かたわ)らで、実機を展示してクソゲーを客に味あわせていました。 

 

 まあ───

 

 『アッセイッ!!』

 

 『ぎゃあああああああッッ!?』

 

 という具合に、スパルタクスに『いっき』をさせた所為で、ミニファミコンのコントローラーを握り潰されたんですけどね。

 

 そんなこんなでお客や周りと話して本を捌いていると、気づけば時刻はお昼を過ぎていました。

 

 ロビンや姉上からの差し入れのドリンクや軽食でお昼を済まし、もうひと頑張りと気合を入れていると見知った顔が現れました。

 

 白い競泳水着に王冠にマントというエキセントリックな出で立ちをした『私』を先頭に、水着姿のガウェイン、トリスタン、ベティヴィエールにランスロットです。

 

 ツッコミどころ満載なのであえて言わせてもらいましょう。

 

 マジでどれだけいるんですか、『私』。

 

 セイバー、イロモノと来て、次はアーチャーですか。

 

 この分だとランサーはもちろんとして、ライダーにキャスター。

 

 下手したらアサシンやバーサーカーまでいるかもしれません。

 

 あと、ランスロット。

 

 貴方が私の世界の者でないのは直感でわかりましたが、その紫ラメのブーメランパンツはダウトです。

 

 無駄に際どいラインも、もっこりしている股間も殺意しか沸きません。

 

 正直『私の姪に汚いモノを見せるな!』と叩っ斬りたいところですが、生憎とサバフェスでは戦闘はご法度。

 

 好意で他人のブースを間借りしている以上、問題行動を起こすワケにはいきません。

 

 深呼吸で心を落ち着かせた私は、隣でランスロットを睨みつけていたガレスを(なだ)めておきました。

 

 並行世界の同一人物とはいえ、彼は私達の世界のランスロットとは別人です。 

 

 身に覚えのない罪で糾弾したところで、こちらに正当性などあるワケがない。

 

 そんな事を口にしたところで、無駄に(いさか)いが起こるだけです。

 

 さて私の知らない騎士王様一行ですが、こちらのブースを見つけると迷うことなく立ち寄ってきました。

 

 弓の私改め『アーチャー』は、リツカ達の本を見るとクスリと小さく笑って1冊購入。

 

 すると後ろのお供達は我先にと競い合って五冊十冊と買っていきました。

 

 同じ本を何冊も買ってどうするというのでしょうか、彼等は。

 

 というか、改めて第三者の目で見ると鬱陶(うっとう)しいことこの上ないですね、こういうの。

 

 一冊で留めたベティヴィエールを見習いなさい。

 

 私の所感はさて置き、『アーチャー』は私達の委託ブースの方にも目をやります。

 

 私の顔を見て微妙な表情を浮かべた彼女は、ペコリと頭を下げる姪の姿に小さく笑みを浮かべました。

 

 そして私達の本を手に取る『アーチャー』。

 

 パラパラと斜め読みをしているように見えますが、あれは速読術です。

 

 手法を見るに、あれはブリテン時代の政務で身に着けたものでしょう。

 

 なにせ王をやっていたころは、処理すべき書類は山のようにありました。

 

 あんなの一々まともに読んでいては、仕事なんて永遠に終わりません。

 

 そういう事情から、あの手のテクニックは必須と言えました。

 

 もちろん、私やアグラヴェインもできますよ。

 

 ガレスの原稿をチェックする際にも使ってましたし。

 

 さて、黙々と本を読む主の傍ら、教養に関心が持てないお供達(一名を除く)の興味は私とガレスへと向います。

 

 ウチの甥よりも筋肉質でゴリラ度1.3倍増しのガウェインは、いきなり私の手を握ってこう言いました。

 

『結婚を前提にお付き合いしてください』

 

 はっきり言ってドン引きです。

 

 よくもまあ仕えるべき王の前で、全く同じ顔をした女を口説けますね。

 

 しかも胸をガン見してというオマケ付きで。

 

 もしかして、ただの他人の空似だとでも思っているのでしょうか。

 

 ニートを経由しているとはいえ、これでもまだ国王時代の威厳とかそういったモノは薄れてないと思っていたのですが、正直ショックです。

 

 返事はもちろん決まってます。

 

 引き離した親指を下にしながら、笑顔で『ブリテンの森に帰れ、ゴリラ』と返した私は悪くない。

 

 というか、あれです。

 

 甥と全く同じ顔をした男と付き合うとか、どんな罰ゲームですか。

 

 並行世界だろうがなんだろうが、私がガウェインに抱く感情なんて親愛が精一杯ですよーだ!

 

 ガウェインが崩れ落ちる中、他の二名はガレスにコナを掛けていたようです。

 

 もっとも、両名共に興味すら持たれない結果に終わったみたいですけど。

 

 トリスタンは得意の竪琴を鳴らして相手を口説く作戦に出たものの、『会場で演奏してはダメですよ』と(たしな)められて沈黙。

 

 ランスロットは、ガレスから向けられた魔眼もかくやの絶対零度の視線に凍り付き、口を開くことなく終了と相成りました。

 

 その様子に『馬鹿ばかりですみません』と頭を下げて来たベティヴィエールは、こちらと同じく円卓の良心なのでしょう。

 

 さて、私達の本を読み終えた『アーチャー』は、小さく息をつくとこう言いました。

 

『モルガンを味方につけ、モードレッドは円卓に参加すらしていない。それにも関わらずブリテンは滅びの道を(まぬが)れないとは、創作とはいえ悲しいモノです』

 

 やるせない表情と共に首を左右に振る『アーチャー』

 

 身も蓋も無い話ですが滅びを終幕とするアーサー王伝説を基にしている以上、最後の大崩壊はセットになっているのが普通です。

 

 まあ、そんなセオリーなど銀河の彼方に吹っ飛ばした作品が隣にあったりするんですけどね。

 

 ブリテンが滅ぶのが気に食わないのなら、『ブリタニア列王記』を読むといいでしょう。

 

 むこうは現代にあってもブリテン(のようなもの)が存続してますし、さらにはアメリカや日本まで占領してますからね。

 

 直近の話だと謎の有人ロボットまで出てくる始末です。

 

 ぶっちゃけ、ネタが切れたなら別の話を書いてもいいのですよ、セイバー?

 

 私の感想は脇に置いておくとして、本筋に戻りましょう。

 

 著者であるガレスは、落胆する彼女を見てこう返しました。

 

『騎士王様、この話は創作ではありません。私の世界で起きた事実を(まと)めたものなのです』

 

 その言葉に『アーチャー』は伏せていた顔を上げますが、私の方を見ると得心が言ったような表情を浮かべました。

 

『そうですか。では、この話の騎士王は貴殿なのですね』

 

 確信を込めて紡がれた言葉に、隠すことでもなかったので私は頷きます。

 

『ならば、この影の騎士も狂気に染まらなかったモルガンも実在するという事か。子を討たれても憎しみに染まる事無く、ランスロットとそのグィネヴィアを許した義の騎士夫妻。機会があれば会ってみたいものです』

 

 そう目を輝かせる彼女に、私達はそっと目を背けました。

 

 すまない、『アーチャー』。

 

 現実だとランスロットは脳みそパーン、グィネヴィアは蟲の餌という末路なんだ。

 

 まあ、物語には綺麗に見せる為のフィクションも時には必要ですよね。

 

 機嫌を持ち直した彼女が私達の本を買って移動するまで、いたたまれない空気の中にいた私達。

 

 傍から見れば、さぞかし死んだ目をしていた事でしょう。 

 

 ようやく『アーチャー』達が立ち去ってしばらくすると、兄上達が戻ってきました。

 

 兄一家や母上がいるのはいいのですが、何故かヘラクレス一家と一緒でした。

 

 あと、お腹がぷっくりと膨らんだXXは兄上に背負われて夢の国を訪問している模様。

 

『お疲れ、これ差し入れのオヤツな。それで調子はどうだ?』

 

 にこやかにドライアイスが入ったビニール袋を渡してくる兄上。

 

 中を調べると、ダイヤモンドストリートにある有名スイーツ店のアイスが入っていました。

 

 とりあえず、作った分の七割が売れたというと兄上達は感嘆の声を上げます。

 

 ガヘリス曰く『自分の書いた文章を金に出来るって凄いな』とのこと。

 

 これにはアルケイデス(ヘラクレスは生前に捨てた名なので、こっちで呼べと言われました)とメガラ夫人もうんうんと頷きます。

 

 アルケイデス家の子供達は、モードレッドと共にウチのブースの裏で買って来た本を読書中。

 

 意外な事に子供でも読める童話なども売っていたようです。

 

 子供たちの事で頭を下げる兄上達の手にも、ウ=ス異本が入ったビニール袋が下がっていたので見せてもらう事に。

 

 兄上とアルケイデスは武術やサバイバル、その他実用書ばかり。

 

 『明日から出来る太陽王の建築テクニック』や『ジェロニモが教えるモカシンの作り方』はいいのですが、『柳生新陰流』や『李氏八極拳』の指南書はヤバイでしょう。

 

 アルケイデスの『誰でもできる突き穿つ死棘の槍(ゲイボルグ)』という本はシャレになりません。

 

 ワイキキビーチの激闘を見るに、この二人だと『射殺す百頭(ナインライブズ)死棘の槍(ゲイボルグ)』とか普通にできそうです。

 

 因果の逆転で心臓目掛けてカッ飛んでくる九連撃なんて、悪夢以外にどう表現しろと言うのでしょう。

 

 それと、兄上の『吉野御流合戦礼法指南』と書かれたジャパン的巻物は何なんでしょうか。

 

 聞けば、金属製の蜘蛛のガイノイドを連れた警官風の男性に貰ったといいます。

 

 なんでも『近親相食む修羅場を犠牲無しで切り抜けた腕前、誠に御美事(おみごと)。そんな貴方がこの先に進む一助になればと、これを(したた)めました。どうぞ、お納めください』と渡されたそうです。

 

 ちなみに蜘蛛からも『姉に惚れられて、それを受け入れるとかナイワー』なるコメントを貰ったとの事。

 

 あと、男の特徴は自分と(わら)い顔がよく似ていたそうです。

 

 え~と、それってあれですか?

 

 モードレッドに見せた途端、ギャン泣きされた悪鬼スマイル。

 

 あんな邪悪な表情を兄上以外にできるニンゲンがいたとは驚きです。

 

 コホンッ、妙な話題はその辺にして本題に戻りましょう。

 

 母上をはじめとした女性陣はお菓子のレシピに家庭菜園、ルーン魔術や錬金術の解説書等々とこちらも実用書が多いです。

 

 まあ、魔術関連はだいたい姉上の物なんですけどね。

 

 子供たちの方は娯楽書がメインでした。

 

 ガウェインは騎士や戦士が活躍する軍記ロマンな漫画、ガヘリスは何故かヤンキー系学園モノばかり。

 

 アグラヴェインは剣術書と日本の時代劇、ギャラハッドは楽譜や詩集でした。

 

 なんというか、個人の趣味がよく分かるラインナップです。

 

 さて、各自の戦利品確認も済んだところで一番のツッコミどころにメスを入れるとしましょう。

 

 兄上、何故にウエポン……じゃなかったXXを背負ってるんですか?

 

 私の問いかけにため息交じりで帰って来た兄上の答えはこうです。

 

 あの後街に繰り出した兄上達ですが、飢えに飢えたXXは普通の店に入らず、ダイヤモンドストリートの大食いチャレンジメニューに突撃。

 

 総重量2㎏のロコモコをあっという間に平らげるも、それだけでは飽き足らずに次のチャレンジ店でステーキ1㎏、さらにはジャンボパフェまで完食したそうです。

 

 で、腹がくちくなった彼女は本能の赴くままに睡魔に身を委ね、仕方が無いので兄上が背負ってきたと。

 

 何とも呆れた話ですが、さすがは並行世界の私と言うべきか。

 

 空腹とはいえ総勢3㎏強の食料を食らうとは思いませんでした。

 

 こんなだから『アルトリア顔は総じて腹ペコキャラ』だ、なんてレッテルを張られるんですよ。

 

 状況を理解したところで、次に上がってくるのはXXの処遇です。

 

 ぶっちゃけ並行世界の私っぽいというだけで、ウチがこの娘の世話を焼く必要はこれっぽっちもありません。

 

 XXはテロ未遂犯ですし、管理者であるBBに引き渡すのが本来の筋なのでしょう。

 

 しかし、それはそれで気が進みません。

 

 正直言って胡散臭すぎるんですよね、あのサクラもどき。

 

 これについては兄上達も同じらしく、リツカ達からも信用しすぎない方がいいと助言をいただきました。

 

 というワケであーでもないこーでもないと話し合っていると、件のXXが目を覚ましました。

 

 むにゃむにゃと再び夢の世界へ旅立とうとする彼女を、額にアイスをくっつける事で阻止します。

 

 『飯を奢ってやったんだから、とっとと帰れ』と主張すると、むこうは『ここはとても居心地がいい。支給品を壊したからには銀河警察もクビだろうし、何でもするので雇ってくれ』などと(のたま)う始末。

 

 この発言には、さしもの私も呆気に取られました。

 

 あまりにも要求が斜め上すぎます。

 

 兄上達もこれには難色を示したのですが、むこうは『この年で無職になったら生きていけません! 助けてください!!』と母上に縋りついてのガチ懇願。

 

 ここで兄上ではなく母上の情を狙うあたり、ずるいと言うか見る目があると言うか。

 

 何だかんだと修羅場を体験している兄上や姉上は、少々の情であれば切る事に慣れています。

 

 しかし、母上は非戦闘員な上に激動の人生を歩んではいるものの、そういったことには免疫がありません。

 

 私と同じ顔のXXが身も世も無く泣いて助けを求めれば、身内に甘い母上は無下にその手を振りほどく事はできないでしょう。

 

 予想通り、XXに根負けした母上が兄上に執り成ししたことで『従業員一人くらいなら』と兄上もそれを了承。

 

 XXには『無断で逃げるのではなく、ちゃんと正規の手続きを踏んで銀河警察を退職すること』という条件が下される事となりました。

 

 そんなワケでXXが持っていた通信機で本部に連絡を取ろうとしたのですが、アグラヴェインがそれに待ったを掛けました。

 

 曰く『こっちのミスで退職を願い出る場合、懲戒解雇にされて賃金が出ない可能性が高い。さらにXXの言う通りのブラック企業なら、備品の弁済を求められる事も大いに考えられる。ここは我々も銀河法とやらを知った方がいい』との事。

 

 そうしてXXから端末を借り受けた甥は、猛烈な勢いで画面をスライドさせていきました。

 

 そうして30分後、アグラヴェインからGOサインが出た事で本部に通信開始。

 

 案の定、『銀河警察は退職するなら備品を一括弁償してからにしろ。出来ない場合は給料から天引きするんで、支払いが終わるまで退職は認めない』とのお言葉が。

 

 非情の決定にXXは涙ながらに頭を抱えましたが、そこにアグラヴェインが立ちはだかります。

 

 我が甥は『彼女の労働環境が銀河法における労働基準法に違反している』ことを付いたり、『刑事という危険を伴う職業ならば、戦闘などで装備品が破損するのは当然の事。会社はそれを前提に保険などを掛けているのが常識であり、犯罪行為や違法な使用方法を取っていない以上は従業員に弁済を要求するのはナンセンスである』と反論。

 

 さらにはこれ以上無理難題を押し付けるならば労働基準監督署に駆け込むという警告と、破壊されたパワードスーツに残っていた記録媒体には過剰労働の記録が残っている事実を突き付けました。

 

 結果、銀河警察は未払いの賃金と退職金を支払わない事を条件にXXの退職を承認。

 

 今回の邪神討伐を最終任務とするので、終わり次第壊れたパワードスーツを除く支給品と退職届を郵送するように、との指示を残して通信は切れました。

 

 さすがはケイと双璧を成すブリテンの頭脳であったアグラヴェイン。

 

 法律について語らせれば、右に出る者はいませんね。

 

 XXも脱ブラック企業及び弁済を免れた嬉しさから、アグラヴェインに泣いて抱き着いていました。

 

 まあ、鼻水が出てる所為で、水着姿にも拘らず全く色気がありませんでしたが。

 

 さて、成り行きで背負ってしまった厄介事ですが、我々には強力な助っ人がいます。

 

 同人委託先であるリツカ達『ゲシュペンスト・ケッツァー』。

 

 私の腐れ縁である『衛宮家警備隊』

 

 さらにはアルケイデスも力を貸してくれることとなりました。

 

 このルルハワに邪『神』がちょっかいを掛けようとしてると聞いた際の彼の気迫は、思わず私もブルってしまうほどでした。

 

 その後、『用がある』と兄上とアルケイデスは会場を離れたものの、サークル売り子はウチの家族にアルケイデス一家も手を貸してくれました。

 

 黒髭の現地人やリツカの知人のサーヴァント、さらにはこちらの作品に興味を持ってくれた人たちまで。

 

 様々なお客さん達と話し、感想を聞き、同じ趣味で語り合う。

 

 そんな濃密な時間はあっという間に過ぎ、気が付けばサバフェス終了のアナウンスが流れていました。

 

 終了後は各自後片付けを行って流れ解散となると思っていたのですが、意外な事に閉会式があると言うではありませんか。

 

 聞けば、このサバフェスは参加サークルによる売り上げ競争があり、1位には賞金と記念品が与えられるとか。

 

 我等が『ゲシュペンスト・ケッツァー』の売り上げは、私達の委託販売の追加があったものの惜しくも10位。

 

 優勝は自撮り写真集なんて、某ヲタクの祭典に参加したどこぞの芸能人のようなキワモノを出品していた女王メイヴでした。

 

 どこかで見た様な黄金Pなスポンサー曰く、『メイヴに支払う予定だった賞金はワイキキビーチ保全費用に消えた』そうです。

 

 閉会式でBBが不満タラタラのメイヴに妙に魔力の籠ったカップを手渡そうしていると、彼女を見たXXが声を荒げました。

 

『この反応、間違いありません! ついに見つけましたよ、邪神!!』

 

 XXがこの会場にいるとは思っていなかったのか、BBは驚きの表情で手にしたカップを落としました。

 

 このルルハワの管理者である彼女が邪神、この事実を飲み込めずに戸惑う私達。

 

 しかしリツカ達は別のようで『───なるほどね。ループなんてモノを仕込んできたあたりから、怪しいと思ってたのよ!!』というジャンヌ・オルタのセリフと共に迎撃態勢を整えます。 

 

 というか、どうしてXXの言う事をこうも簡単に信じているのでしょうか?

 

 そう疑問を漏らすと牛若丸から答えが返ってきました。

 

『BBもXXも共にイロモノ、蛇の道は蛇ということです!』

 

 なるほど、もの凄い説得力です。

 

 騒めくお客たちの中、リツカ達に続いて我々も武具を構えたのですが、その様子を紅く染まった目で見ていたBBはニヤリと笑みを浮かべます。

 

『そのフォーリナーが会場にいるとは思いませんでした。なにせ、アルトリア顔なんて掃いて捨てるほどいますから、賢いBBちゃんでも見分けがつきません。とはいえ、センパイ達が優勝する前にバレるとは予想外の事態です。こうなったら次の手を打たないといけませんね』

 

 そう言い残すと、BBはマウナケア山で待つと言い残して姿を消しました。

 

 混乱を避ける為に騒然とする会場を抜け出した後、リツカ達に事情を聴いたところ意外な事が判明しました。

 

 まずは私達が『バカンスだー!』と喜び勇んで飛び込んだ特異点。

 

 実は人類史、延いては世界にとって害になるモノだったらしく、放っておくと人理を破壊してしまう危険物だそうです。

 

 南国万歳! とゲートを潜った身としては、何とも耳が痛い話です、ハイ。

 

 そして、リツカ達はただのサークル参加者ではなく、カルデアという特異点を専門に対処する機関から派遣されてきたエージェントだそうです。

 

 当初はフォーリナー、即ちXXが原因ではないかと思われていたのですが、ルルハワの管理者がトラブルメーカーのBBであること。

 

 さらにはリツカ達がサバフェスで1位を獲れないと、島に到着してからイベント開始までの7日間が延々と繰り返されるという絡繰りを彼女が仕掛けている事から、特異点の原因として浮かび上がったそうです。

 

 というか、延々とバカンスが繰り返されるなんてサイコーじゃないですか!

 

 何故にそれを正そうとするのか、私にはイマイチ分かりませんが、ここは空気を読んで本音は封印しておきました。

 

 『なんでエージェントがサークル活動して漫画書いてたの?』という疑問も同様ですが、直感的にメンドクサイ事になるのが分かったのでこれもポイ。

 

 席を外していた兄上達に事の顛末をLINEした後、子供達を始めとする非戦闘員をホテルに返した私達はBBの待つマウナケア山へと向かう事に。

 

 バカンスのはずが何とも妙な事に巻き込まれてしまいました。

 

 とはいえ、XXを身受けすると決まった以上、他人事ではありません。

 

 ここは『アーサー三連殺』の10年間の封印を解くべきでしょう。

 

 よーし、久々に(くわ)(かま)じゃなくて、剣や槍を持てるぞー!


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