剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

52 / 135
 お待たせしました。

 今回はヤマもオチも無いグダグダな幕間です。

 うーむ……やっつけ仕事で書いてはいるが、そろそろネタも尽きてきたか。

 ラスボスを主軸に書くというのはなかなか面白いのですが、頭に渦巻くのはバッドエンドの嵐とはこれ如何に……。

 とりあえず、おき太オルタガチャも二度目の爆死を迎えた事ですし、お竜さんに喰われてきます。


異聞『剣キチが第五次聖杯戦争に転生していたら(6)』

「よう、お疲れさん」

 大空洞に帰還した陣を迎えたのは、ソファーに腰を沈めてゲームパッドを手にしたアンリ・マユだった。

「……何をしている?」

「いや、お留守番してるのもヒマでさ。金ピカの(のこ)した金でゲームとテレビ買って来たんだ」

 言われて視線を巡らせれば、コントローラーから伸びるコードの先には箱型のゲーム機と家庭用にしては大型のテレビが置いてある。

 何故か電源アダプターが大聖杯に繋がっているのだが、それでどうやって電力を供給しているのかは聞かないことにした。

「ところで、キャスターがくたばったんだけどよ。オタクなにかしたか?」

「別に。帰り道でセイバーに会ったから、奴が殺ったんだろう」

「ふーん。アサシンはワザワザ倒しに行ったのに、セイバーには手を付けなかったんだな」

「高級レストランのフルコースを喰った後で、ファミレスのステーキを喰う気になどならん」

 陣がそう答えると、アンリ・マユはコントローラーを放り出して大笑いを始める。

「一級サーヴァントの騎士王様の剣を、ファミレスのステーキ扱いかよ! オタク、本当に飽きないわ!!」

「それで、キャスターが死んだと言ったな。その割には力が増したようには思えんのだが?」

「おっ、『この世全ての悪(アンリマユ)』の恩恵を受け入れる気になったか?」

阿呆(あほう)。こっちに害が来ないか、気になっただけだ」

 冗談めかしての言葉をあっさりと切って捨てる陣に、アンリ・マユは肩を(すく)めながら答えを返す。

「それな、オレ勘違いしてたんだよ。あの時はサーヴァントがくたばったら、オタクの力が増すって言ったじゃん。実はそうじゃなくて、オタクがサーヴァントを倒したら『この世全ての悪』に栄養が行ってパワーアップが起こるみたいなんだわ」

「成る程な。それで、『この世全ての悪』はあとどれくらいで産まれる?」

「え~とな……あと、サーヴァント一騎か二騎与えればOKな感じだ」

 脈動を続ける変質した大聖杯。

 パスを使って中身を確かめたアンリ・マユは、予想以上に早い熟成具合に感嘆の声を上げた。

 恐らく、通常の英霊よりも霊格が高いギルガメッシュやヘラクレスを取り込んだのが原因だろうが、これは彼にとっても想定外だった。

「一、二騎か、それは見過ごせんな」

 そう呟いた陣は大股で大聖杯へ歩み寄ると、生物の表皮のような外殻に手を当てる。

(はや)るな、耐えろ」

 次の瞬間、アンリ・マユは思わず目を()いた。

 なんと陣の言葉に従うかのように、大聖杯はその脈動を沈静化させたのだ。

「…………」

「良い子だ、坊や(バケモノ)

 言葉も出ないアンリ・マユを余所(よそ)に、陣は満足げに口元を吊り上げながら大聖杯から手を離す。

「これで問題はあるまい」

 パイプ椅子に乱暴に腰掛けての言葉に、背筋を奔る戦慄によってアンリ・マユは返事を返せなかった。

(おいおい……。意思疎通どころか、言葉だけで従えちまったよ)

 予想を遥かに上回る陣と『この世全ての悪』の繋がりの深さに、悪神の名を冠するはずの少年は驚きを通り越して呆れてしまう。  

 彼に端を発しているとはいえ、大聖杯の中で胎動しているのはとある世界線では英雄王自ら人類悪と言わしめた、正真正銘の『この世全ての悪』だ。

 ならば、そうあれと小さな村で呪いを掛けられた平凡な青年よりも、悪徳渦巻く黒社会でアウトローをしていた陣の方が適性が上でもおかしくはない。

 だとしても───

(いくらなんでも相性良すぎだろ。これじゃあ、こっちの立つ瀬がねえぜ)

 画面越しに世界一有名な配管工を操りながら、アンリ・マユは密かにため息をついた。

 陣がここに住み着いた当初は、彼も何とか奪ってしまった人間性を回復させようなどと思っていた。

 しかし自らが呼び出したシャドウサーヴァントと刃を交え、日に日にその剣腕を高めていく陣を見ている内に、彼の中で別の願望が頭をもたげてきたのだ。

 『目の前の規格外の少年がどこまで行けるのか、見てみたい』

 こんな願望を抱いた背景には、個性や人格を打ち消された彼がコミュニケーションを取る為に被っていた陣の殻の影響もあったのだろう。

 結果、この五年の間でアンリ・マユの目的は大きく変わった。 

 自分と同じく『この世全ての悪』の具現と化した少年が行く末を見届ける事。

 そして結末がどうであれ、最後まで彼と共に進む事だ。

 もちろん、陣とは違って倫理や善性は残っている彼は、無関係な人間が犠牲になるのは好まない。

 しかし必要ならば、顔を(しか)めながらでも冬木の街や人を犠牲にするだろう。

 抱く目的は彼の願いであると同時に、少年への贖罪でもあるのだから。

 

 

 

 

 

 

「シロウ。昨夜、キャスターの討伐に成功しました」

 午前6時。

 冬の太陽がノロノロと顔を出し、夜の寒さがほんの少し和らぎ始めるそんな時刻。

 台所で朝食の準備をしていた士郎は、セイバーから掛けられた言葉に唖然(あぜん)とすることとなった。

 喧嘩別れに近い形で話を打ち切ったとはいえ、こちらに一言も無しの独断専行。

 聖杯の汚染の可能性を示唆(しさ)されている中で、聖杯戦争を続行しようとする姿勢。

 その他にも色々と言いたいことはあったが、口をつきそうになるそれらを士郎は一端(いったん)飲み下した。

 何故なら昨夜一晩考えた結果、彼はセイバーとの主従関係を続けることに決めたからだ。

 マスターである自分が未熟とはいえ、セイバーが自分たち同盟の主力である事は紛れもない事実。

 これからの聖杯戦争や陣の救出に際して、彼女の有無はまさに天と地の差と言えるだろう。

 ならば桜を巻き込んだ以上、こちらの都合などで切り捨てるわけにはいかない。

 信用ならない事に変わりはないが、彼女が聖杯を求めているのならば、それに際して決定的な仲違いさえ行わなければ裏切られる可能性はそう高くないはずだ。

「そうか。詳しい事は食事の時、みんなと一緒に聞くことにするよ」

「わかりました。あと、出来れば二人で話す時間を取っていただきたいのですが……」

「わかった」  

 短く答えを返し、手際よく配膳を済ませていく士郎。

 セイバーは彼の様子からキャスター討伐に喜んでいない事を察したが、それでも対話の機会を得られた事で満足して自身の席に腰を下ろす。

 終始徹底して無視された切嗣の事を思えば、こちらの言葉を聞いてくれるだけ百倍マシというものだ。

 そうしている内に桜とライダー、凛とイリヤも居間に顔を出してくる。

 朝晩と衛宮家の食卓の常連である大河は、今回は不参加である。

 昨日、出勤する際に『陣を探してから出勤するので、朝ご飯はいらない』と本人から申し出があったのだ。 

 皆が(そろ)ったところで『いただきます』の号令を合図に朝食が始まり、セイバーと何気に桜の健啖さもあって時計の長針が半周する頃には皿の(ほとん)どが空になった。

「それじゃあセイバー、さっきの話を聞かせてくれるか?」

 食器を片付け全員分のお茶を用意したところで、士郎はセイバーを(うなが)す。

「はい。昨夜、私は敵サーヴァントを探して街に出ました」

「ちょっと待った。どうして私達に一言も無しにそんな事をしたの?」

「昨夜の会話で確執が出来てしまった士郎と再び対話をするには、戦功をあげる必要があると判断したためです」

 不機嫌さを(あらわ)にする凛に対して、セイバーは冷静に答えを返す。

 独断専行ではあるが、凜自身も戦略上の事から士郎たちの関係修復を願っていたので、そう言われては強くは出られない。

「続けます。───街を回っていた私は、山の方角にサーヴァントの気配を感じました。急行してみると、山の中腹にある寺院を拠点としたキャスターの姿があったのです」

「ちょっと待ってくれ! 山の寺院って、ひょっとして柳洞寺(りゅうどうじ)の事か!?」

「寺院の名前までは分かりません……。ですが、キャスター主従を討った後に確認したところ、住人の僧侶達に異常は見当たりませんでした」

 友人宅が聖杯戦争に巻き込まれていると聞いて士郎は思わず腰を上げるが、セイバーの返答を聞いて座り直した。

 正直イマイチ信用できないが、セイバーとの主従関係を続ける以上はここでそれを口にしても仕方がない。

 士郎は友人の柳洞一成の安否について、後ほど電話で確認することを心に決めた。

「しかし妙ですね。キャスターは計略・謀略も()ることながら、自身の工房に潜んで相手を迎撃するのを常道とするクラス。何の策も無いままに相手に自身の拠点を掴ませるようなヘマは犯さないと思うのですが」

「それはセイバーより先にキャスターの拠点に襲撃を掛けた者がいたからだ」

 ライダーの上げた疑問の声に答えたのは、霊体化を解いたアーチャーだった。

「アーチャー。何故貴方がそれを知っている?」

「私はこの家の警戒を任されている。夜更けに出て行く君に気づいていないワケがないだろう」

 向けられたセイバーの胡乱(うろん)げな視線に肩をすくめるアーチャー。

「それで、その襲撃者が誰かは分かっているの?」 

「ああ。セイバーに先立ってキャスターの根城に手を出したのは、衛宮陣だ」

「陣が!?」

「またサーヴァントを狙っていたのね、彼」

 赤い弓兵の言葉に士郎は声を荒げ、凜は口元に手を当てながら頭の回転をさらに上げる。

「でも、セイバーさんがキャスターを倒したという事は、陣さんの襲撃は失敗だったってことですよね」

「いいえ。戦闘の際にキャスターが漏らしていたのですが、どうやらジンはキャスターの召喚したアサシンを撃破したそうなのです」 

「なんですって!?」

「……そうか。キャスターは魔術師のサーヴァント。その身に令呪を持ち召喚されたクラスに空きがあるなら、英霊にまで昇華された魔術の手腕でサーヴァントによるサーヴァント召喚も不可能じゃない」

 セイバーの報告を聞いた凜は声を荒げ、イリヤは重箱の隅をつつく様にルールの盲点を突いたキャスターの手腕に感嘆の声を上げた。

 そうしてイリヤは自分の心臓の上に手を当てて何かを確認するかのように目を閉じた後、鋭い視線をセイバーに向ける。 

「確認するわ、セイバー。貴女が倒したのはキャスターのみ、アサシンを討ったのは陣。───間違いないわね?」

「はい」

 威圧すら感じるほどのイリヤの問いに頷くセイバー。

 その答えに白の少女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

「どうしたんだ、イリヤ。大丈夫か?」

「シロウ。ジンは私達が思っている以上に危険な状態なのかもしれない」

「どういうことなんだ?」

 表情を強張らせる士郎に、イリヤは懐から切嗣の手記を取り出した。

「キリツグの手記を見てから、私はずっと疑問に思っていたことがあったの」

「それは?」

「どうしてキリツグは『この世全ての悪』の呪いで命を落としたのに、一般人であるジンが死なずにすんだのか?」

 答えながら、イリヤはその件について父が疑問を書きなぐっていたページを開く。

「キリツグの疑問は当然なの。魔術師と一般の人間では、神秘に対する耐性に圧倒的な差が生じるものだから。だからこそ、キリツグの魔術回路を壊滅させ寿命を大きく削る程の呪詛に、回路を持たないジンが耐えられるはずがない。キリツグは引き取った際のジンの寿命を一年と見ていたけれど、一流の魔術師にこれだけの影響を与える呪詛を受ければ、一般人なら即死するのが普通だわ」

「だったら、なんで陣は生きてるんだ?」

「これは私の推測だけど、生きているんじゃなくて『生かされてる』んだと思う」

「生かされている、ですか?」

 桜の言葉に小さく頷いて肯定の意を示すイリヤ。

「前回の聖杯戦争で『この世全ての悪』はキリツグが小聖杯を破壊した事によって、生まれ出る機会を失った。この時、奴は学習したんだと思うわ。大聖杯の底で小聖杯の完成を待っていたのでは、このように『この世全ての悪』の気配を察した勝者によって、復活を妨げられる可能性がある事を」

「えっと……待ってくれ。小聖杯と大聖杯って、聖杯は二つあるって事なのか?」

 疑問符を顔に張り付けたような士郎の問いに、イリヤは小さくため息をつく。

「そこから説明しないといけないんだった。聖杯戦争の術式には二つの聖杯があるのよ。一つは地脈から魔力を吸い上げて、サーヴァントの召喚や令呪の配布などの儀式の根幹を為す大聖杯。もう一つは脱落したサーヴァントの魂を保管し、その魂を魔力に変換して願望器としての役目を果たす小聖杯。通常、聖杯戦争において聖杯と呼ばれ、勝者に与えられるのは小聖杯の方なの」

「つまり、爺さんが壊したのはその小聖杯ってことなのか?」

「その通り。本来の儀式なら願望器の役目を果たした小聖杯は、魔力という形でその身に納めていた英霊の魂を座へと開放する手はずになっている。そして『この世全ての悪』はその際のエネルギー、もしくは英霊の魂自体を利用して現世に現れようとしていたんだと思う」

「最高峰のゴーストライナーである英霊の魂、その秘めたる力は莫大なものだ。それが七騎集まったなら、神を誕生させることも不可能ではない、か」

「なに言ってるのよ、アーチャー。聖杯戦争が順当に終わったのなら、その小聖杯ってのに収まってるのは六騎分のはずでしょ」

「ふむ、そうだったな」

 主のツッコミを受けて、その貌に皮肉気な笑みを張り付ける赤い弓兵。

 そんなアーチャーにイリヤは氷のような眼差しを向ける。

「……話を戻すわね。前回の失敗から小聖杯を利用する事を悪手と判断した『この世全ての悪』は、より復活を確実なものにする為に対抗策を練り上げた」

「それは?」

「自分の意のままに動く傀儡(かいらい)を造り出し、それにサーヴァントを撃破させることで直接英霊の魂を取り込むというものよ」

 イリヤの発言によって、居間の空気は凍り付いた。

 その傀儡に該当する人間は一人しかいないからだ。

「───それが陣だっていうのか?」

「恐らくは」

「随分と突飛な推理だけど、証拠はあるのかしら?」

 凛の言葉に首肯(しゅこう)し、ポケットから小さな宝石の嵌ったブローチのようなものを取り出すイリヤ。

「これは魔術による記録媒体、魔術版ビデオカメラだと思えばいいわ。これにバーサーカーとジンの戦闘の様子が保存されているんだけど───見て」

 宝石を起点にして小さく浮かび上がる、バーサーカーと陣の剣戟の様子。

 その中で陣が斬り飛ばし再生したバーサーカーの右腕、拡大映像で映し出される肘の下から上腕部は鉛色の周囲とは一線を画するほどにドス黒く染まっている。        

「バーサーカー・ヘラクレスの持つ『十二の試練』を貫くほどの呪詛、私はこれを『この世全ての悪』の呪いだと判断したわ。それに彼の持つ剣、これも呪いを帯びているけれどサーヴァントの宝具に負けないくらいの神秘を秘めていた」

「つまり、どういうことなんですか?」

「あくまで可能性の話だけど、彼はその身を依り代に英霊を憑依させられているのかもしれない。そしてそんな真似ができるとすれば、間桐の蟲怪が死んでいる以上『この世全ての悪』だけよ」

「ふむ。イリヤスフィールの推測が正しければ、サーヴァントに対抗できることも納得がいきます。尤もヘラクレスを倒すほどですから、他にも色々と弄られているでしょうけど」     

「ライダー!」

 つい口を出た失言を桜に諫められ、士郎へ謝罪するライダー。

 しかし、士郎は顔を強張らせたまま言葉を返す事は無い。

「そう言えば、キャスターを攻める前にジンと出会いました。その際に士郎について言及したのですが、彼は『誰だ、それは』と……」

「洗脳の効果か、もしくは改造の負担が精神と記憶に出ているのかもしれないわ」

「陣……」

 呆然と呟く士郎に痛ましげな視線を向けたものの、イリヤは話を進めていく。

「もう一つの証拠は、私が管理している小聖杯にキャスター一騎分の魂しか溜まっていない事よ」

「小聖杯って、貴女が管理していたの?」

「そうよ。アインツベルンの役割は聖杯の器の作成と保護だもの。セイバーも知っているわよね、前回の担い手はお母様だったのだから」

「…………イリヤスフィール、貴女はアイリスフィールと同じなのですか?」

「ええ。でも、私はこの役目に殉ずるつもりはないわ。アインツベルンの悲願なんてクソ食らえよ」

 雪の妖精のような可憐な容姿を持つイリヤからは想像もできないような下品なセリフ。

 それに呆気に取られる周囲など気にもせず、彼女はさらに口を開く。

「現状で討たれたサーヴァントは私達の知る限り三騎。アサシンについてはキャスターのブラフだったとしても、私の小聖杯に一騎しか収められていないのはおかしいわ」

「成程。これだけの証拠が揃っていては、妄言と切り捨てる訳にはいかんな。それで、何か対抗策はあるのかね?」

「陣を『この世全ての悪』の呪縛から解放して保護。それから大聖杯を調べて、汚染されているようなら破壊する、と言いたいところだけど……」

「現実的じゃないわよね。サーヴァントに勝てる能力を持っている上に、全身最悪レベルの呪詛塗れ。無力化する方法なんて正直思いつかないわ」

 勢いを失ったイリヤの発言を引き継ぐように言葉を紡ぐ凛。

 それを受けてイリヤも再びため息と共に否定的な意見を放つ。

「小聖杯に英霊の魂が溜まっていない事から、ジンの状態についてはそこまで的外れじゃないと思う。でも、仮に当たっていたとして『この世全ての悪』とどういう形で繋がっているのかも定かじゃないわ。囚えている相手を考えれば、既存の解呪法ではまず歯が立たないでしょうし」

「ちょっと待ってくれ! じゃあ、陣を助ける方法は無いってことなのか!?」

 漂い始めた諦めの雰囲気に堪らず声を上げる士郎。

「今のままだとお手上げね」

「せめて魔術的契約を破棄する強力な礼装があればいいんだけど、都合よくそんなものがあるワケがないもの」

 しかし、二人の女性魔術師から帰ってくるのは残酷な現実だ。

「……ッ くそっ!?」

 言い募ろうとする士郎であったが、二人の浮かべる暗い表情を見ては言葉を吐くことができず、歯を食いしばりながら乱暴に腰を下ろした。

「結論から言えば、現状では見つけ次第排除という事になるか。聖杯戦争は兎も角として、イリヤの推測通りなら奴がサーヴァントを倒す度に『この世全ての悪』が生まれる可能性が高まるのだから」

「テメェッ!?」

「聞き分けろ、衛宮士郎。貴様の言う兄弟一人と冬木に住む全ての人間。天秤にかければどちらに傾くかなど、考えるまでもあるまい」

 冷徹なアーチャーの言葉に、士郎は反論する術を持たなかった。

 家族である事を盾に我を通すのは容易い。

 アーチャーの口にした天秤など、士郎の中では陣に傾くのは当然なのだから。

 しかし具体的な代案も無しにそれを口にしたところで、だたの子供の我儘と変わらない。

 下手に騒げば、信用と共に協力してくれる人間を失うのがオチだ。

 背筋に冷たいものが走る中、無いに等しい魔術の知識を総動員して必死に思考を巡らせていると、脳裏で甲高い耳鳴りのような音が鳴った。

「姉さん、これって……」

「監督役からの呼び出しね。タイミングからすると、衛宮陣の事についてかしら。───衛宮君。話はここまでにして、一先ず教会に向かいましょう」

「……ああ」 

 自分たちを取り巻く状況の悪さや兄弟の状態、そして自身の無力さ加減など。

 詰め込まれた情報が頭の中をぐるぐると回る中、士郎はノロノロとジャケットに袖を通すのだった。 

 




 …………先生、そろそろギャグが書きたいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。