異聞、第七話です。
とりあえず、一段落するまではこっちを書こうかな。
FGOのぐだぐだ帝都聖杯奇譚も何とかクリア。
坂本さんゲットしました。
しかし、わがカルデアはライダー枠が一番☆4の多いクラス。
使いどころががががががが……。
呼び出しから約一時間の後。
時計の短針が間もなく12を指し示す頃、士郎達は監督役の拠点である言峰教会に足を踏み入れた。
湾岸都市という特性上、他の都市と比べて少なくない数の一神教の信者が住まう冬木市にある唯一の教会。
信者たちが腰を下ろすためのベンチが並ぶ礼拝堂を、壁に掛かる十字架の上に備え付けられたステンドグラスから差し込む光が
士郎達が付いた頃には監督役のカレン・オルテンシアはもちろん、ランサーとそのマスターと思われる男装の麗人の姿もあった。
「ようこそ、言峰教会へ。急な呼び出しに応じてくださって感謝します」
入り口付近に立ったまま動こうとしないランサー主従以外の参加者が腰を下ろすと、壇上の上からカレンは皆に向けて頭を下げる。
感謝と口にしているが、彼女の言葉は接客業のマニュアルに乗っている定型文のように情が感じられない。
「無駄な前置きは必要ありません。監督役が全マスターを呼び寄せた理由、それを簡潔に伝えてください」
それに気づいているのだろう、ランサーのマスターはカレンの言葉を遮る形で自身の要求を突きつける。
「おいおい、バゼット。あんな年端も行かない嬢ちゃんが頑張ってんだ、口上くらいは聞いてやってもいいんじゃねーか?」
「必要ありません。こうして他のマスターに我々の姿を
楽しげに口元を吊り上げる蒼い槍兵の意見を、バゼットと呼ばれた麗人は一考だにせず切って捨てる。
「たしかに、むこうの坊主たちは同盟を組んでるようだしな。袋叩きにされちゃかなわねぇ」
口ではそう言うものの、ランサーの眼は笑っている。
ギラついた真紅の瞳はまるで『やれるものならやってみろ』と言わんばかりであった。
「ランサーのマスター、貴女の意見は
そう前置きし、カレンは一呼吸置いて言葉を紡ぐ。
「───今回の聖杯戦争には異物が紛れ込んでいます。その者はサーヴァントを打倒し得る力を持ち、現にバーサーカーと柳洞寺を拠点としていたキャスターが反則召喚したアサシンを手に掛けている」
監督役の説明に、士郎はギクリと背中を
覚悟はしていたとはいえ、義兄弟が槍玉に上がるのは心臓に悪い。
「監督役としては秩序ある聖杯戦争を求めます。参加資格を持たない野良犬によってご破算にされる事も、それだけの力を持つ存在が野放しにされている事も
一度言葉を切ったカレンに、士郎は思わず息を飲む。
「監督役の名の下に各マスターには一時休戦を命じます。そして、聖杯戦争参加者は各自協力体制を取り、イレギュラーを排除してください」
「ふざ───、~~~ッッ!!」
カレンの命に激昂し、言葉を荒げようとする士郎。
しかし、ソレよりも早く右手に走った握り潰されるような激痛が彼の声を封じてしまう。
痛みに歯を食いしばりながら視線を走らせると、そこには指先が白くうっ血する程に自身の手を握り締めている手甲に覆われた手があった。
「シロウ、堪えてください。ここで迂闊な行動を取れば、私達まで殲滅対象と
周りに聞こえない程度の声量で下手人のセイバーが
「セイバーのマスター、なにか?」
「いえ、なんでもありません」
こちらの様子など毛の先ほども表すことなく平然と答えを返すセイバー。
士郎としては当然納得などいくはずがないのだが、声を上げようとする度に骨に異常が出ないレベルの絶妙な力加減で手を締め上げられる為、反論が出せない。
「ところで、そのイレギュラーについての情報はないのですか?」
「それなら、そこにいるバーサーカーの元マスターに聞くといいでしょう」
バゼットの質問によって、話の矛先が士郎からイリヤへと移る。
二人の視線を受けたイリヤは、深くため息をついてベンチから腰を上げた。
「それは監督役からの命令かしら?」
「はい。討伐対象の情報は全員で共有する必要がありますから」
「そう。───歳のころは十代後半の男、白髪で全身に黒の装束を纏っていたわ。あと、手にした剣はサーヴァントの宝具レベルの業物よ」
「それだけですか?」
「ええ。言葉なんてほとんど交わしていないもの、見た目以上の事なんて分かるワケないでしょ。それより、私の方からも監督役に伝えたいことがあるんだけど」
バゼットの追及を軽く
「なんでしょうか?」
「独自ルートで冬木の大聖杯が呪詛に汚染されているって情報を掴んだんけど、聖堂教会は何か知らないかしら?」
「聖杯が汚染されている? 随分と突飛な話ですが、情報ソースはどちらから?」
「第四次聖杯戦争の勝者、衛宮切嗣の手記からよ」
懐から黒革の手帳を取り出したイリヤはカレンへと近づくと、監督役の祭壇の前にそれを置いた。
「───なるほど。確かに聖杯の汚染が言及されていますね。汚染源は『
「…………悪いけど、わからないわ。大聖杯については遠坂の文献では言及されていなかったもの」
「では、マキリ。……いいえ、間桐の方は?」
「すみません。そういったモノについては死んだ祖父ならば詳しいのでしょうが、あの人はそれらを私達へ残す前に他界してしまったので」
凛、桜共に
「…………わかりました。これについては聖堂教会から調査隊を派遣します」
「よろしく頼むわ。それと、事の真偽が判明するまでは聖杯戦争に関する行動を自粛すべきじゃないかしら?」
イリヤの意見にカレンは考える素振りを見せたものの、結局は首を横に振る。
「確かに一考すべき案ですが、それはまだ早いかと。事の真偽がはっきりしないからこそ、時間をイレギュラー排除に使用したほうが効率的だと判断します」
「そう」
小さな呟きと共に、手帳を回収して席に戻るイリヤ。
その苦い表情には、思惑が外れたという思いがありありと浮かんでいる。
ここで聖杯戦争を押し留めれば、汚染の発見によってなし崩しで聖杯戦争も中止となり陣の命も助かると踏んでいたのだが、そう上手くは転ばなかったというところだろう。
「話が逸れましたね。今回の討伐に関してですが、イレギュラーを討つ事ができた主従には報酬を用意しています」
そう言うと、カレンは着ている修道服の右手の袖をまくって見せる。
「これは第四回までの脱落者から監督役が回収した令呪です。前回の聖杯戦争の際、暴走したマスターによって監督役が襲撃されて大半のモノは強奪されましたが、未だ十二画は残っています。見事イレギュラーを討つ事の出来た者には、これを一画差し上げます」
カレンの言葉に、聖杯戦争における令呪の重要性を知る者は驚きの表情を浮かべる。
令呪はサーヴァントの絶対命令権という首輪であると同時に、最大の切り札になり得るものだ。
令呪によってマスターの下に来るように命令すれば、空間転移を利用してそれを果たすので戦闘で窮地に立たされた際の緊急離脱に利用できる。
その他にも宝具の使用や能力の底上げ等々、その利便性は多岐に渡る。
たかが一画と甘く見るには、その力は大きすぎると言えるだろう。
その後、当たり障りのない報告がニ・三あり、カレンの解散の合図によってマスター達は教会を後にした。
停戦指示の直後に仕掛けるような者はこの四組の中には存在せず、彼等は何の問題も無くそれぞれの帰路に付く事ができた。
◇
時刻は夕暮れ。
衛宮邸に戻った士郎は、離れのすぐ傍にある小さな庭を訪れていた。
教会からの帰り道、彼は凛やセイバーからその
彼女たちの言は理解できないワケではない。
あそこで感情のままに騒げば、下手をすると陣と共に殲滅対象にされていた可能性もあるのだ。
一蓮托生であるセイバーはもちろん、同盟相手の凜が怒るのは当然と言える。
しかし、だからと言って納得がいかないのもまた事実だった。
こんなイカレた殺し合いの審判が、化け物を従えた参加者に義兄弟を殺せと命令を出しているのだ。
だからこそ『貴方も魔術師なら、自他の命を冷徹に見れるような視点を持ちなさい』と凛に言われた際には、反射的に『だったら、お前は桜が同じ状況になったら見捨てるのか!?』と突っかかってしまった。
尤も『必要があれば見捨てる』と返された為に、彼女に抱いていた淡い憧れをはじめとする諸々の感情は粉微塵に吹き飛ぶ事となったが。
余談ではあるが、この時魔術師としての顔を前面に押し出していた遠坂凛は、一つ大きな思い違いをしていた。
三流でへっぽこだとはいえ、衛宮士郎は魔術師としての心構えくらいは教え込まれていると
だからこそ魔術師の道を歩むであろう彼の将来を思い、非情に徹しきれない甘さを捨てさせねばと苦言を
しかし、現実は違う。
士郎は魔術師としての教育など欠片も受けてはいないのだ。
裏社会や魔術の凄惨さを嫌というほど知っていた衛宮切嗣は、あの災害から生き残った士郎が魔術の道を歩むことに反対だった。
その為、士郎から魔術を教えてほしいと強請られた際には、頑として首を縦に振らなかった。
しかし、何度断っても諦めようとしない士郎の強情さは相当なもので、ほとほと困った彼は大河との会話の教訓で『実際に体験させて、つらい事を分からせ諦めさせる』という手に出た。
それは実用性の無い解析と基礎の基礎である強化、そして苦痛を伴う魔術回路の生成のみを教える事で、士郎が挫折し魔術への興味を失うように仕向けるというもの。
魔術の鍛錬とは苦痛と死が付き物である。
幼い士郎がそれに耐えられるとは露ほども思っていなかった切嗣は、これ以降は魔術に関する事は何一つ口にする事は無かった。
そういう背景から士郎は魔術師としての常識など知る由も無く、彼の価値観や常識は一般人と同じ物になっていたのだ。
だからこそ、士郎は教会でのやり取りや凜の苦言を拒絶した。
彼等の掲げる神秘の秘匿等々の魔術師の常識が通用するのは、同じ者達が集う限られた狭いコミュニティのみ。
世間一般から見れば、紛れも無く狂人のそれだ。
もしも陣が存在せず、彼が大火災の生存者という罪科を一身に背負ったならば。
切嗣とその言葉を心の拠り所にし、理想を実現する事を生の目的と定めていたのならば。
士郎は魔術世界のルールを苦虫を噛み潰しながらも受け入れようとしただろう。
何故なら、彼の理想は切嗣のように魔術で人を救う正義の味方なのだから。
しかし、この士郎は違う。
『命の恩人』というフィルターで見ていた魔術。
この数日間に知り得た情報は、幼い理想など粉微塵に打ち砕くには十分な威力を持っていた。
養父の裏の顔やイリヤスフィールへの杜撰な対処、さらには大火災の真実を知った事で彼への憧れは薄れ、受け継いだ理想も色あせてしまった。
今まで人生の目標としていた事が音を立てて崩れ落ちる中、自然とこの庭に足が向いたのは必然と言えるだろう。
ここは士郎にとって忘れる事の出来ない思い出の場所だ。
引っ越してきた当初、記憶の全てを失った事で自分に自信が持てずに塞ぎ込みがちだった士郎。
そんな彼を見かねた陣は『いい物を見せてやる』と、この場所で舞い落ちる木の葉を足場に宙を舞って見せたのだ。
今思えば、それこそが士郎にとっての衛宮家での第一歩となった。
魔法使いの切嗣、そして軽業師のような陣。
『こんな凄い人達と家族になるのだから、自分も下を向いてはいられない』と奮起する事で、彼は自失の虚脱感から立ち直る事ができたのだ。
(ここに来たのは、あの時とよく似た気持ちだからかもしれないな)
そんな事を考えながら周囲を見回すと、屋根の下に設置された棚の中にある古びた木刀が目を引いた。
そういえば、この場所は陣の剣術の鍛錬の舞台でもあった。
何故か道場を使うのを嫌った義兄弟は、この場所で日が暮れるまで剣を振るっていたのだ。
「……懐かしいな。そういえば、気まぐれで剣を教えてくれって言った事もあったっけ」
そう呟きながら、士郎は木刀を手に取った。
小学生が振るうには大きすぎる成人用に誂えた木の刃。
10年近く前、陣に教えられた型を取ってみるも、どうもしっくりこない。
(そういえば、あの時って呼吸を整えて肚の底にある力を感じろって言われたっけ)
当時の事を思い出し、深い腹式呼吸から臍の下にあるという力に向けて意識を集中させてみる。
すると、士郎はぬるま湯に浸かった様に身体が少しだけ温かくなるような感覚を覚えた。
魔術回路を精製する時に感じる死の冷たさとは違う、少しづつ身体が火照るような独特な感じ。
そうして二度、三度と振るってみると、風切り音を伴って思った以上に剣は奔った。
自分の無力さを痛感していた士郎にとって、その感覚は新鮮なものだった。
超常の存在たるサーヴァントには及ばないが、明らかに高校生レベルとは違う一刀を自分が放っているという事実は、今の彼を夢中にさせるには十分な刺激だったのだ。
そうして無我夢中で剣を振るっていた士郎は、不意に何時もの癖で木刀に解析の魔術をかけてしまう。
次の瞬間、莫大な量の情報が流れ込んできた。
言うまでもないが、競技目的に量産された木刀自体の情報など微々たるものでしかない。
士郎の脳を焼き切らんほどの濃密さを醸し出しているのは、担い手の経験である。
中国武術の最奥である内家拳、その中でも殺戮に特化した戴天流剣法。
その絶技の数々が木刀を通して士郎の頭を直撃したのだ。
一瞬にして白に染められる視界と、次に訪れるブラックアウト。
士郎が再び意識を取り戻した時には、先ほどよりも夕闇が周りを覆っていた。
火照りが消え、節々が軋み始めた身体を起こした士郎は、再び木刀を手に取った。
そうして振るうは大きく踏み込んだ大上段からの一刀。
速度も無く剣閃も拙いが、それは紛れも無く戴天流剣法が一手、放手奪魂であった。
そうして士郎はまるで憑りつかれたかのように、夢中で木刀を振るう。
貫光迅雷、鳳凰吼鳴、沙羅断緬…………
次々と繰り出される戴天流の技の数々。
それは一つの技の終わりが次の技の始動となり、途切れる事無く延々と続いていく。
これこそは戴天流剣法が誇る連環套路に他ならない。
何故、士郎は見た事も無い技をこうも振るうことができるのか?
それは彼の使う解析の特性『憑依経験』によるものだ。
士郎が刀剣を解析しようとする時、骨子や構造はもちろんのこと製造工程や経過年月、そして振るう担い手の経験までも読み取ってしまう。
そうして士郎は木刀に染み付いた陣の経験をなぞりながら剣を振るっているのだ。
当然、この能力には限界がある。
担い手本人ではない以上は身体能力や技量、そのほか色々な矛盾によって綻びが生じることは避けられない。
その為、実質的に模倣できるのは本物の三割程度がリミットと言える。
だがしかし、それを差し引いてもこの経験は強力だ。
百聞は一見に如かず、そして百見は一つの経験に勝ちえない。
如何に優れた指導者も、自身の経験や感覚を他者に伝えることは困難を極めるだろう。
だが、士郎の能力はそれを可能とする。
しかも模倣しているのは戴天流剣法の免許皆伝者である。
一手振るうたびに剣腕が上がっていくのは当然と言えた。
そうして夜の帳と共に月が顔を出すまで剣を振るい続けた士郎は、体力の限界と同時に全身から湯気が立つほどに火照った身体を地面に横たえた。
荒くなった息はなかなか収まらず、時折乾いた喉によってむせてしまう。
しかし、それも今の士郎には心地よいものだった。
何故なら、彼は数刻前の自分より確実に強くなっているという確信があったからだ。
「まったく……最高の置き土産だよ」
ニヤリと笑みを張り付かせながら、士郎は手にした木刀を月に掲げる。
読み取った経験から分かるが、自分の腕などまだまだ至らないものだ。
しかし、それを覆す術はすでに手の内にある。
この木刀の中に眠る経験の全てを自分のモノにすれば、もしかしたら陣を止める力になるかもしれない。
「となると、実戦経験が必要だよな……。明日、セイバーと手合わせしてみるか」
そう心に決めた士郎は、ようやく動くようになった身体をゆっくりと起こした。
離れを出ると自分を呼ぶ桜の声が耳に入ってくる。
「そういえば、飯食ってなかったか」
剣に夢中になっていた時は気にもならなかったが、意識しだすと途端に抗議の声を上げ始める腹の虫。
自身の身体の現金さに小さく苦笑いを浮かべた士郎は、再び母屋へと足を運ぶのだった。
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