剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 お待たせしました、アポ3話完成です。

 剣キチ一家の参戦理由が少々苦しい、かな?

 まあ、その辺はおいおい死ぬ気で頑張るということで。

 惜しむらくはアッセイさんが出せなかったことくらいか。


剣キチさん一家ルーマニア滞在記(3)

ルーマニア旅行記 3日目

 

 

 今日は聖杯大戦(サーヴァントによる7対7の団体戦を魔術師はこう呼んでいるらしい)の一派である黒の陣営こと、ユグドミレニアの本拠に行って来た。

 理由はもちろん、ウチの娘を荒事に巻き込んだ事への落とし前を付けさせるためだ。

 相手は偏屈・変人・外道の三拍子揃った魔術師である。

 こちらへの迎撃の三つ四つはあるだろうと覚悟して出向いたわけだが、当主であるダーニックという男が妙に物分かりが良いポーズを取っていた所為で、すんなり謝罪を受け取って手打ちになった。

 プライドの塊みたいな魔術師が行きずりの観光客に頭を下げたのだから、確実に裏があるんだろうが生憎とそれに付き合う義理はない。

 金銭など後を引きそうな物は何一つ貰わずに席を立った俺と次男が城を出ようとしたところで、予想外の厄介事が待っていた。

 廊下で行き倒れていたホムンクルスの少年に出くわしてしまったのだ。

 城砦の中で横たわる全裸の少年という、どう考えても部外者はアンタッチャブルな状況を目の当たりにした俺達が、手を出すかスルーかを思案していると、今度は黒の陣営に属しているライダーのサーヴァントが現れた。

 都合よく意識を取り戻した少年が夢うつつでライダーに助けを求めた結果、何故か俺達も巻き込まれて城の一室に彼を(かくま)う事となってしまった。

 床に就かせたものの容態が安定しない少年を案じたライダーが連れてきた助っ人は、黒に属するアーチャーのサーヴァントだった。

 なんとこのアーチャー、その正体はギリシャ神話に名高いケイローンだったのだ。

 ケイローンとは、かの大英雄ヘラクレスに四十八の殺人技と五十二の関節技からなる闘技『ケイローン百手』を叩き込んだ、射手座の黄金聖闘士という傑物である。

 …………なにか違うような気もするが、おおむねこんな感じだったはずだ。

 ちなみに、ライダーの方の真名はアストルフォ。

 シャルルマーニュ十二勇士とかいうのの一人らしいが、知らんと言ったらショックを受けていた。

 だいたい、こちとらブリテン末期からずっと妖精郷暮らしなのである。

 後世の英雄なんぞ、よっぽどのメジャーどころじゃない限り知ってるわけがない。

 診断したケイローンによれば、少年はサーヴァントの維持や宝具の使用の際に消費する魔力を、マスターに代わって捻りだす電池のような役割で生み出されたらしい。

 そんな出自故に自分で歩いた事が無く、暴走していた魔力回路に安置所から見つけた場所まで移動した事による過労も相まって、行き倒れになっていたそうな。

 そこまで聞いた後、現状で命に別状がない事を確認して俺達はその場を辞した。

 サーヴァントとはいえ保護者となる者が現れたのだから、部外者が首を突っ込む理由も無くなっただろう。

 あの少年の寿命が残り三年だとしても、それは彼の運命というモノだ。

 俺達が手を差し伸べてやる義理はない。

 帰りに『世界を壊し、世界を創造する男だ!!』的な中二病じみた台詞を吐きそうな変態仮面を連れた少年に、『ホムンクルスを知りませんか?』と尋ねられたのでシラを切っておいた。

 十中八九あの少年だと思うが、この位の手助けは許されるだろう。

 で、帰ってみると魔女モードの雰囲気を漂わせた姉御が、何やら水晶玉を覗き込んでいた。

 何をしているのかと盗み見てみると、そこにはあの青いワカメヘアーを見事にハゲ散らかして、ヨボヨボのジジイと化したダーニックと思われる人物が映っていた。

 帰って来て早々だが取り調べ案件である。

 膝を付きあわせてやらかした事を吐かせたところ、オレに魅了を仕掛けられた事を感知した姉御が、下手人に向けて何時ぞや平行世界のアルトリアに使うと言っていた急速老化の呪いをぶっ放したらしい。

 何故に俺へ掛けられた魔術を感知できるのか、と問うても帰ってくるのは『愛よ』の言葉。

 おのれ、またしても愛かッ!?

 あとダーニックに関してだが、奴は百年以上を生きる老獪な魔術師であの若々しい姿は他者の魂を喰らって得たモノなんだそうな。

 姉御曰く『他者の魂を己が糧にするというのは、とてつもなく危険な行い』だそうで、一級と言える魔術手腕を持つあの男でもそこを突けばこのザマだという。

 しかし、一時はペテン師と軽蔑していたがこうなると哀れである。

 勇者王というイメージを起こさせる声も、今は長澤君チックになってしまった。

 まあ、あれだ。

 恨むのなら自身の迂闊(うかつ)さにしていただきたい。

 お袋さんとガレスの要望で、もうすぐこのトゥリファスを発つことにきまった。

 ルーマニアを出た後は気を取り直してヨーロッパの国々を見て回る事になっているし、聖杯戦争の事など忘れるに限る。

 何せ、俺達は人畜無害な観光客なのだから。

 

 

ルーマニア旅行記 4日目

 

 

 もしかしたらこの旅行は呪われているのではないだろうか……。

 昨夜、ガヘリスのダンプ(キャンピングカーモード)に乗ってトゥリファスを出ようとしたのだが、その道すがらでサーヴァント同士の戦闘に巻き込まれた。

 刃を交えていたのは、何処かで見た事がある大剣使いと炎槍の担い手だ。

 妖精郷驚異の技術力で造られたダンプのお蔭で大事には至らなかったのだが、運転席にいたガヘリスが怪我をしてしまった。

 怪我自体は頭を軽く切った程度のモノだったのだけど…………

 ごめんなさい、白状します。

 それを見て剣キチとモル子はキレました。

 こっちを巻き込んだ事を屁とも思っていないような炎槍使いは、気配を殺して背後を取ったうえで相手のコメカミを挟む形で両手から『黒手裂震破(こくしゅれっしんは)』を叩き込むという殺し技、『菩薩掌』の餌食にした。

 挟み込むことで頭蓋の中で共鳴増幅した浸透勁に脳を液化された槍男は、七孔からピンク色のナニカを噴き出して崩れ落ちた。

 見た目・手応え、どっちを取っても即死である。

 で、大剣使いの方は姉御が魔力弾を雨霰と叩き込んでいた。

 最初の内は直撃しても物ともせずに突っ込んでいたのだが、途中からガンガンダメージが通るようになり、最後には腹を押さえながら(うずくま)って嘔吐と共に消えていった。

 後で確認した事だとこういうカラクリらしい。

 最初の魔力弾で足止めしている際に相手の属性をサーチし、竜属性を持っていることが判明するとニニューさんから提供された対竜特攻を付与。

 そしてトドメに魔女仲間と共同で開発した新型術式を実験を兼ねて使用したらしい。

 剣士が消えた後で妙に念入りに剣士がいた周辺を焼却していたところを見ると、新型術式とやらは相当にヤヴァイ代物なのだろう。

 さて、公道で闘り合っていたDQN紛い共を退治した俺達は、端にいた鎧姿の女とこの頃よく見かける白の制服を着たデブのおっさんから事情聴取を行った。

 鎧姿の女はルーラーのクラスのサーヴァントで真名はジャンヌ・ダルク。

 たしか火炙りにされたフランスの聖女だったと思う。

 で、デブはやはりユグドミレニアの縁の者だった。

 事情としては炎槍使い(赤のランサー)がルーラー抹殺の為に襲い掛かって来たところで、デブことゴルド・ムジーク・ユグドミレニアが大剣使い(黒のセイバー)を伴って乱入。

 ルーラーを救援すべく赤のランサーに戦いを挑んだそうな。

 まあ、ゴルドはここでルーラーと共闘して確実に赤のランサーを倒そうという腹積りだったらしいが、その辺は中立を保つというお題目でルーラーに拒否されたらしい。

 で、赤黒双方が白熱していたところに俺達が迷い込んで来たという訳だ。

 ピーピー喚き散らすおっさんは兎も角、ルーラーはこちらが被害者である事を考慮に入れているようで、知っている事を隠そうとせずに教えてくれた。

 その後はガヘリスの治療もあり、今日はここに立ち往生となってしまった。

 これからの方針に関してはガヘリスが復帰してからという事になるだろう。

 どうにかして聖杯戦争から逃れたいものである。

 

 

 

 

 トゥリファスを発った翌日、アルガ一家はルーマニア中部にある街シギショアラに足を踏み入れていた。

 先日傷を負ったガヘリスは、モルガンの治療のお蔭か翌日には傷も半ば塞がり、何の問題も無くここまでキャンピングカーを走らせる事ができた。

 街に着いたのが夜半であることから、観光地とはいえホテルを取るのは無理と判断した一行は、生活必需品や消耗品を補充する為に買い出しへと繰り出すことになった。

 そのメンバーはガウェインとアルガ、そしてモードレッドだ。

「モードレッド、我儘(わがまま)もほどほどにしないといけませんよ」

「ゴメンな、ガウェ兄! ちょうど前に買ったお菓子とジュースが切れたんだ!」

 各種お菓子とジュースが詰められた袋を大事そうに抱えた妹にガウェインが注意すると、彼女は苦笑いで小さく舌を出す。

「ガウェイン、その辺でいいさ。モードレッドも反省してるし、俺達が一緒なら身の危険も無いんだ」

「しかし、父上。この国では聖杯戦争が起こっています。ともすれば、この街も戦場になるかもしれないのですよ」

「たしかにその辺の心配はある。けど、獅子劫の情報だと今回の主戦場はトゥリファスだって話だ。この街はむこうからかなり距離があるからな、そうそう巻き込まれる事は────」

 そこまでで言葉を止めたアルガは、鋭さを増した視線を周囲に走らせる。

 先程まではまばらにあった人の気配が消え去り、周囲には薄く霧が立ち込めて始めていた。

(ガウェイン、モードレッド! この霧を吸うな!!)

 素早く二人に念話を送るアルガ。

 この霧の放つ薄く酸味がある臭いには心当たりがあった。

 前世の環境汚染が激化した地球において、地面へと頻繁に降り注いでいた高濃度の酸性雨。

 この霧に立ち込めるモノはそれに酷似していたのだ。

 自身も口元を塞ぎながら抜き打ちで剣を一閃させると、剣の軌跡を基点として霧は一気に掻き消される。

 そして、彼の研ぎ澄まされた感覚は霧に紛れてこちらを狙っていたモノを見逃しはしなかった。

「ガウェイン!!」

 父の鋭い声と共に反応したガウェインは即座に聖剣を抜き放ち、頭上から自身に襲い掛からんとしていた影を弾き飛ばす。

 甲高い金属音と共に街灯の前に降り立ったのは、銀髪にアイスブルーの瞳を持つ10歳くらいの少女だ。

 特徴的なのは両の頬に奔る傷痕と身に纏った黒のボンテージを思わせる露出の高い服、そして手にした大振りのナイフだろう。

「子供!?」

「油断するなよ、ガウェイン。見た目はああだが、あの嬢ちゃんはサーヴァントだ。中身は別物の可能性は高い」

 驚愕の声を上げる長男に素早く釘を刺すアルガ。

「もう少しでご飯が食べられるところだったのに、ヒドいことするね」

 子供特有の甲高い声で不満を口にする少女。

 その様子から目を切らずに、アルガは問いを放つ。

「お前さん、聖杯戦争に呼ばれたサーヴァントだろ。何故、無関係な俺達に襲い掛かる?」

「あのね、わたしたちおなかがすいてるの。おかあさんはおいしいご飯を用意してくれるけど、魔力が無いからペコペコなんだ。でね、魔術師って人達を倒したら魔力がもらえるし、おかあさんも魔術師は悪い人だから倒していいよって言ったから、お兄さんたちを襲ったの」

 舌足らずなたどたどしい口調で少女は言葉を紡ぐ。

 最初は擬態を疑ったアルガも、その声に全く邪気が籠っていないところからその線は無いと判断する。

 目の前のサーヴァントは姿のまま子供なのだ。

 そして空腹という本能を満たすために、こうやって出歩く魔術師を狩り殺しているのだろう。

(やれやれ。いい歳こいて子供の振りをしている馬鹿ならまだしも、本物の子供じゃ斬るわけにはいかんな)

 深々と溜息をついたアルガは、警戒させない様に表情を和らげながら少女に声を掛ける。

「それで俺達を襲ったわけか。けど、俺達は魔術師じゃないぞ?」

 アルガの言葉にクリクリとした目を大きく見開く少女、その反応はまんま子供のそれだ。

「え!? でも、おかあさんは魔力を持ってる人は魔術師だって……」

「お前さんのおかあさんは普通の人なんだろ。だから、魔術師とそうでない人の見分け方が分からないんじゃないか?」 

 そういうと少女は目じりに涙を溜めながらうー、うーと唸り始める。

「どうしよう……。おかあさんは魔術師や悪い人以外は襲っちゃダメって言ってたし、でもおなかはすいたし……」

 今にも大泣きしそうな顔で途方に暮れる少女、それを見たモードレッドはポケットから何かを取り出すとスタスタと少女に近づいていく。

「なぁ、これやる」

「え……」 

 少女に差し出した小さな手の上には、琥珀色の飴玉が一つ。

「これ、なに?」

「妖精郷で取れた蜂蜜を使って作ったキャンディだ。お前、魔力がいるんだろ? だったらそれを舐めてみろ」

 言われるままに飴玉を口に含む少女。

 カラカラと乾いた音を立てて口の中で飴玉を転がしていると、沈んでいた顔がみるみるうちに満面の笑顔へと変わっていく。 

「あまくておいしい! それにおなかもふくれてきた!!」

「だろ! これはオレのお気に入りなんだ!!」

「ありがとう! え~と……」

「オレはモードレッド! お前は?」

「わたしたちはジャック・ザ・リッパーだよ」

 子供同士のフィーリングなのか、仲良くなった二人を見てガウェインは胸を撫で下ろす。

「ジャック・ザ・リッパー、ですか。あんな幼い少女が連続殺人鬼だとは……」

「事実は小説よりも奇なりって奴だな。それよりもモードレッドがあの子の警戒を解いてくれたんだ、俺も親としてむこうの親御さんに話をしなくちゃな」

「むこうの親、ですか?」

「あの子のマスターの事だよ。魔術師や裏社会の人間だけを狙ってたところを見ると、最低限の倫理観は持ってるんだろうさ。けど、流石にこれだけじゃ拙い。状況を正しく認識していなけりゃあの子達に待つのは破滅だ」

「何故、彼女たちの世話を焼こうとするのです。聖杯戦争に関わらないがためにトゥリファスを出たのでは?」  

「親ってのになるとな、目に見える場所で子供が不幸になるのを見過ごせなくなるもんなのさ」

 そう言いながらモルガンへ念話を繋ぐアルガの姿に、ガウェインは小さく笑みを浮かべる。

 少し偽悪的で家族が平穏であれば他はどうでもいいというポーズを崩さないが、口ではなんだかんだ言ってもお人好しなのが父という男だ。

 そして、そんな父だからこそガウェインは主であった叔母とは別の意味で尊敬しているのだ。

「さて、ジャックちゃん。悪いが君のお母さんのところに案内してくれるかな?」

「え?」

「お母さんから君達の事情を聞いて、上手く行けば君達の魔力不足を解消できるかもしれないからさ。それに、今のままで君が魔術師を襲っていたらお母さんの身が危なくなるしな。その辺も相談したいと思うんだ」

「どうして、お兄さんがそんな事するの?」

「ジャックちゃんはモードレッドと仲良くなったからな。娘の友達が困ってるなら、手助けしたいと思うのが普通だろ」

 アルガの言葉を受けて、ジャックは何故か考え込む。

「ともだち……。モードレッドはわたしたちのともだちなの?」

「ん? お前と話してると面白いし、剣の稽古も付き合ってくれそうだ。オレは友達だといいと思う。というか、なろーぜ!」

 目の前に勢いよく出された手をおっかなびっくり握り返すジャック。

 それを見たモードレッドは、ニカッと女の子が浮かべるにはいささか男前すぎる笑顔を浮かべる。

「じゃあ、モードレッド達をおかあさんの所に案内するね。おかあさんに酷い事したらダメだよ?」

「大丈夫だ。そんなことしたら、お兄さんはお嫁さんやお母さん、モードレッドのお姉さんに殺されてしまう」

「父上がそれだと、私など塵も残さず消し飛ばされますね」

 苦笑いを浮かべるアルガ達を一瞥すると、ジャックは帰路に足を踏み出した。

 

 ジャック達、黒のアサシンの潜伏場所はシギショアラではありふれたホテルの一室だった。

 当初、アルガの姿にジャックのマスターである六導玲霞(りくどうれいか)は警戒の色を見せていたが、ジャックと仲良く話しているモードレッドの存在に少しだけ態度を軟化させた。

「それで、仮にあの子への魔力の供給が可能になったとして、貴方達は私達に何を求めるのですか?」

「要求というか……。まあ、ウチの娘がそちらのお嬢さんと仲良くなったので、見捨てるのが心苦しくなったというのが理由でして。なので、要求する事があるとすれば『殺人を止めて大人しくしておいてください』ですかね」

 アルガの提案を聞いた玲霞の顔に苦い物が混じる。

「魔力供給の問題が解決すれば、殺人を犯す必要はありません。ですが、大人しくするのは難しいです」

 小さくついたため息の後で言葉を紡ぐ玲霞。

 燭台の光に照らされたその横顔は、見る者に蠱惑的な色気を感じさせる。

 もっとも、目の前の男には全く効果は無いようだが。

「それは何故?」 

「私は聖杯戦争を勝ち抜き、あの子の願いを叶えてあげたいと思っているからです」

 そう発した彼女の目は、先程までのどこかボゥとしたものではなく確固たる決意が宿っている。

「差し支えなければ、その願いというのをお教え願えますか?」

「……あの子は、母親のお腹に還りたいのです。」 

「それは、母親の胎内にという事でしょうか?」

 彼女が告げた願いの意外さに、アルガの隣に腰かけていたガウェインは驚きの声を上げる。

「はい。あの子は親から捨てられた子や、生まれる事の出来なかった赤子の霊の集合体なんです。だから母親を、自分を庇護する者から離れない事を求めているんです」

「その結果が母親への胎内回帰か。それはあの子自身、もう一度ちゃんとした形で生まれ直したいという事なのでしょうか?」

「おそらくは。母親のお腹の中に還る事が出来たとしても、永遠にいられる訳がありません。だからこそ、この願いの根底にはちゃんと自身を愛してくれる親の元に生まれて、幸せになりたいという意味も込められていると思います」

 ジャックの抱いた願いを聞いたアルガは深々と溜息を吐いた。 

 今までは魔力供給をどうにかしたら手を引くつもりでいたのだが、この話を聞いてはもうそういう訳にはいかない。

(水子霊達が抱いた『ちゃんと生まれて幸せになりたい』って願いか……。これは叶えさせなきゃならんだろ。一度しっかり生き抜いた英霊の未練なんぞよりも、よっぽど聖杯へ掛けるに値する願いだわ)

 モードレッドの友人という事や子供を持つ親の贔屓目というのもあるが、その願いの純真さにアルガは協力することを決めた。

「ところで彼女の願いが成就された際ですが、ジャックちゃんが宿る母体は貴女が?」

「……わかりません。聖杯というモノがどのように願いを叶えるのか、私には見当もつきませんから。ですが、そうなればよいとは思っています」

「分かりました。────姉御!」

 アルガの声に応えるように部屋の一角に魔力が吹き上がり、次の瞬間にはそこにモルガンの姿が現れる。

「「母上!」」

「まったくお人好しね」

「すまんね。せっかくの家族旅行だったんだが」

「いいわ、気持ちは分かるもの。子供を持つ親として、あんな願いを聞かされたら放ってなんておけない。お母様も同じ気持ちよ」

「理解ある家族を持って幸せだよ、俺は」

 肩を竦めるアルガに小さく笑みを返すと、モルガンは玲霞の方を向き直る。

「貴女は……?」

「初めまして。私はそこにいるアルガの妻、モルガン・ル・フェイよ」

「モルガン・ル・フェイ……。アーサー王伝説の魔女……」

「同姓同名ではないわよ。ちゃんと本人だから安心なさい。それはそうと話を聞かせてもらったわ。貴女、あの子の親になるつもりらしいけど、覚悟は出来ているの?」

 呆然と己を見上げる玲霞の目を見据えながら、その心根を問うモルガン。

「子供を育てるという事は決して楽な事じゃない。産む時は地獄の苦しみだし、育児だって忍耐の連続。ましてや貴女は父親がいないというハンディキャップの中、一人であの子の全てを背負わなくてはならない。生半可な気持ちだともう一度あの子を地獄に突き落とす結果になるわよ」

 その眼光と放たれる威圧感は魔女ではなく母親となった者として、相手に偽る事を許さない。

「…私は今まで流されるままに生きてきた、自分の命も他人の命にも価値を見出すことが出来なかった。でも、今は違う! あの子が、ジャックが私を変えてくれた! 価値なんて無いはずの私を求めてくれるあの子の為なら、私はなんだってできる!! どれだけ辛く苦しくても、泥を啜ってでも生きようと思える!! だから、だからっ! 私はあの子と幸せになりたい!!」

 鬼気迫る表情で自身を睨み付ける玲霞に、モルガンは小さく笑みを浮かべる。

「……貴女の覚悟は見せてもらった。なら、私も貴方達が聖杯を手にするのに力を貸しましょう。───同じ母親として」

 宣言の後、モルガンの目配せを受けたアルガは、自身の手に嵌めたブレスレットをジャックに譲り渡した。

「すごいよ、おかあさん! このキラキラから魔力がいっぱい流れ込んでくる!!」

「本当なの?」

「うん! これなら悪い人たちを襲わなくていい!!」

「ああ……よかった」

 感極まってジャックを抱きしめる玲霞。

 アルガが渡したのは、ニニューから貰った妖精郷からのエネルギー供給を行う礼装だ。

 環境に順応する技を修めていた彼には、あれば便利というだけで必要不可欠という訳ではない。

「六導さんやジャックちゃんの事を思えば、黒の陣営に参加するのは愚策だな」

「魔術師の中に一般人が紛れても、いいように利用されるだけでしょうからね」

「なら、我々は赤と黒双方を敵に回すことになりますね」

「冬木の時から敵の数が倍近くなってるけど、勝算は?」

 少し呆れた様子でため息を吐くガウェインと楽しそうに問いを投げるモルガン。

「任せとけ。大体のメンツは一回勝ってるみたいだからな、今回も何とかするさ」

 その二人にアルガは自信を込めた答えを返すのだった。  

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