剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 前回のあらすじ

 サンタアイランド仮面「もしも、私の計画が神に背くモノであれば。私はこの戦場で必ずや討ち果たされるでしょう」

 剣キチ「やあ、ばい●んマンだよ」

 サンタアイランド仮面「Holy shit! 」



剣キチさん一家ルーマニア滞在記(7)

 混迷を極める戦場の中、勝敗の決した戦いが一つあった。

 巨大な空中庭園を構える赤のアサシンに対して、ヒポグリフ単騎で挑んだ黒のライダーが撃墜されたのだ。

 庭園の防衛機構が放った紫電によって騎馬を失い、地上へと堕ちたライダー。

 騎乗兵が乗騎を失うという事は剣士が剣を失うと同義。

 それが一時的なものにせよ、今のライダーは英霊としては紛れも無く無力であった。

 そんな彼に更なる災難が降り掛かる。

 戦場の荒れた道を爆走して、乗用車が一台突っ込んできたのだ。

 間一髪で人身事故を免れたライダーだったが、大きくヘコんだドアを蹴り飛ばして降りてきた人物がまた最悪だった。

 少し癖のある金糸の髪を一つに纏めた勝気そうな少女。

 赤のセイバーである。

 あまりの暴走っぷりに文句を漏らすマスターへ軽口を返して、彼女はライダーにむけて剣を構える。

 聖杯戦争に用いられる七つのクラスの中でも最優と言われるセイバー。

 その中でも上位の力を持つ彼女に対して、ライダーの白兵戦能力は決して高くない。

 だがしかし、勝算の薄い勝負でも彼は諦めを選ぼうとしなかった。

 数ある宝具の一つである騎乗槍を手に立ち上がるライダー。

 戦意を見せた事で凄絶な笑みを浮かべたセイバーが襲いかかろうとしたその時───

 猛烈な勢いで突っ込んできた何かに2人は吹き飛ばされた。

「クソッたれ! なんだよいったい!?」

 悪態をつきながらセイバーが土煙の先に目を凝らすと、そこには顔面を腫らした2人の男が互いに拳を振るい合っていた。

「ざっけんじゃねえぞ、シャバ僧がぁぁぁ!?」

「テメエだ、バカヤロウ!?」

 どこぞのヤンキーとしか思えない台詞を叫びながら無防備で殴り合う2人。

 緑の髪を逆立てた男の蹴りが相手の脇腹を抉れば、金髪を短く刈り上げた巨漢の鉄拳が対面にある顎を跳ね上げる。

 拳、蹴り、頭突きに体当たりに至るまで。

 その一挙手一投足の全てが衝撃波を伴う暴威となって、周辺に被害を振り撒いて行く。

 そんな傍迷惑な破壊の徒だが、セイバーにはその双方に面識があった。

 互いの打撃によって顔面のいたる所が腫れ上がっているので、一目見ただけでは分からなかったが間違いはあるまい。

「ライダーにガヘリス!? なにやってんだ、お前等!!」

 思わず素っ頓狂な悲鳴を上げるセイバー。

 勢い勇んで戦場に出てみれば、自軍の仲間と異世界とはいえ血縁者が大喧嘩しているのだから、そんな声も出るというものだ。

「あん? なんだよ、デカい方のモードじゃねーか」

「セイバーか。なにやってんだ、お前」

 彼女の声にピタリと拳を止めた2人が、同時に顔を向けてくる。

 元は整った容姿なのだろうが、今はボコボコに腫れ上がった上に血塗れである。

 はっきり言って色々な意味で怖い。

「きったねえツラ、向けんじゃねーよ! つうか、何でお前等が殴り合ってんだ!?」

「こいつがケンカを売ってきた」

「オレがこいつにケンカを売った」

「戦場で何やってんだ、バカかっ!!」

 異口同音で答える2人に頭を抱えるセイバー。

 武器を手に打ち合うならまだわかるが、どこでどうなったら殴り合いになるというのか。

「ところでセイバー。お前さん、そいつの知り合いか?」

「まあな」

 腫れ上がった瞼の奥で光る赤のライダーの視線に、何とも言えない表情を浮かべるセイバー。

 だがガヘリスはそんな彼女の頭に手を置いて、おたふくの様になった頬でニヤリと笑って見せた。

「可愛い妹だ。やらんぞ」

「誰がだ!? テメエの妹はあのチンチクリンだろーが!!」

 置かれた手を払って吼えるセイバーに、ガヘリスは不思議そうに首を傾げる。

「なに言ってんだ。お前はモードレッドで母ちゃんの子なんだろ。だったら、オレの妹じゃねーか」

「世界が違うだろうが、世界がっ!!」

「世界だの何だのと小難しい事はわからんし、細けえ事はいいんだよ。オレがお前のことを妹だって思ってんだから、それでいいじゃねーか」

「この脳筋バカが……ッ!」

 抗議の声など何処吹く風と大笑するガヘリスに、セイバーは思わず頭痛を覚えた。

 彼女の知るガヘリスも大概バカだったが、ここまで頭を使わない男ではなかったはずだ。

 それにモルガンを嫌っていた彼等は、ここまで公然と自身を兄妹扱いすることも無かったので、どうも気恥ずかしい。

 妹、すなわち女扱いされるのは気に入らないが、目の前のバカに言ったところで理解しないだろう。

 それにあの『母上』の息子なのだから、この程度は見逃してやってもいい。

(まあ、赤の連中と揉めてる理由については、キリキリ吐いてもらうけどな!)

 これはこれ、それはそれの精神で口角を釣り上げるセイバー。

 その顔は見る者が見れば「あくの笑み」と称するだろう。

「ふむ……なんか冷めちまったな」

「どうした、アキレス腱?」

「アキレウスだ! ソッチで憶えてんじゃねーよ!!」

「いやぁ、すまんすまん。なんか憶えやすかったから、ついな」

 赤のライダー・アキレウスの猛抗議を呵呵と笑い飛ばすガヘリス。

「いや、さっきまで殴り合ってたくせに、なんでそんな気安いんだよ」

「なんつうか、ケンカしてるうちに親近感が湧いたんだ」

「それな」

 アキレウスの言葉にうんうんと頷くガヘリス。

 『タイマン張ったらダチ』という不良漫画にありがちな謎理論を実践する男2人に、セイバーは呆れの感情を多分に含んだ半眼を向ける。

「で、ガヘリスよ。まだ続けるか? 俺としては一端仕切りなおしたい所なんだが」

「それでいいぞ、オレが頼まれたのはお前の足止めだし。それだってもう十分やったしな」

「頼まれた、ね。お前にもなにか裏があるみたいだが、詮索は無粋か」

 そう呟いたアキレウスは、天に向けて口笛を鳴らす。

 すると、流星の様な速度で現れたのは四体の神馬が引く戦車だった。

「ならば、この勝負は預けよう。次こそは貴様を倒して、勝利をオリュンポスの神々に捧げてみせるぞ!!」

 高らかとした主の宣言を乗せて、走り出す戦車。

 その速度は凄まじく、セイバー達が瞬きをする間に姿が見えなくなってしまった。

「すっげえ早いな、あの馬車。俺の車もアレくらいの速度で走れねーかな」

「あれ、馬車じゃなくて戦車だろ。それよりもやるじゃねえか」

「なにが?」

 疑問符を浮かべるガヘリスの背を、セイバーは少年の様な笑みと共に叩く。

「とぼけんなよ。アキレウスといえばギリシャでも指折りの大英雄だぜ。そんな奴と正面切って殴り合えるなんざ、流石は円卓の一員だな」

「なんかそんな事言ってたな。ケンカする相手の前評判なんて気にしたことねえけど。それよりモードレッド、お前はここでなにしてんだよ?」

 セイバーからの賞賛の声をあっさり流し、ガヘリスは自身の問いを返す。

「決まってんだろ、この聖杯大戦で手柄を上げるんだよ。あと、真名で呼ぶな」

「そう言えば、お前達って名前隠してんだったな。悪い悪い」

 ガヘリスの気の抜けた謝罪の言葉に軽く手を振って答えながら、セイバーは周囲に視線を巡らせる。

「何を探してんだ?」

「さっきまで黒のライダーがここにいたんだよ。ピンク色の髪した女なんだけど、その辺にいねえか?」

 言われたガヘリスが視界と共に義体に備わったセンサーで周囲を探ると、ちょうど視界を塞ぐように盛り立った土のむこうに2人分の気配を見つけた。

 気配の一つはサーヴァントのモノ、もう一つは人間によく似た何かだ。

 素直に居場所を口にしようとしたガヘリスだったが、『C』から聞いた今回の目的を思い出して寸でのところで言葉を飲み込んだ。

(母ちゃん達は黒の陣営に肩入れしてるみたいだからなぁ。ここでモードレッドが黒のライダーを殺っちまったら、オレがアキレス腱と殴り合った意味が無くなっちまう)

 珍しく頭をフル回転させたガヘリスが探すフリをしていると、大きい方の末の妹は相当気が短いらしく、不満の声を上げながら土の塊を蹴り上げた。

「チックショー! オメー等が周りも見ないで暴れまわるから見失ったじゃねーか! せっかく労せずに一騎堕とせるチャンスだったのに!!」

「悪かった。けど、代わりに兄ちゃんの強い姿が見れたんだからいいだろ」

「うっせ、バーカ! そんな台詞吐くんなら、ちゃんと勝ちやがれってんだ!!」

 八つ当たり気味に突っかかってくるセイバーの頭にポンポンと手をやりながら宥めていると、ツッコミと共にガヘリスのボディに拳が突き刺さった。

 もっとも、魔力放出や雷撃が無い拳ではアキレウスの全力攻撃に耐えうるタフネスを突き破る事ができず、セイバーが殴った手を痛そうに振るだけだったが。

「それで、これからどうすんだ?」

「イテテ……。どうって、黒の奴等を探して戦場を巡るに決まってんだろ」

「それって行き当たりバッタリってことだよな。予定が無いなら、一度母ちゃん達と合流するか? さっきのおっさん拾ってよ」

 ガヘリスの提案にセイバーは考えを巡らせる。

「…………そうだな。赤の陣営って言っても、あの胡散臭せー神父と毒婦の為に働く気は起きねーし。それに『母上』が何を企んでんのかくらいは掴んどく必要はあるか」

「決まりだな。それじゃ、おっさんと合流するか」

「ああ。念話でマスターを呼び戻すから、少し待ってろ」

 そう言って、来た道を戻るように指示を出すセイバー。

 獅子劫がブツブツと愚痴っているようだが、彼女が気にすることは無い。

(あの時、マスターが『母上』に手を貸すって約束してたからな。事と次第によっちゃあ、向こうに付くのも悪くねえか) 

 そんな考えを巡らせる彼女の口元には、自分でも気付かないうちに笑みが浮かんでいる。

 モルガンに続いてガヘリスにも忌憚なく家族扱いされたことが、生前心の奥底で家族の温もりを求めていた自身に、ボディブローの如く地味に効いている事を彼女はまだ知らない。

  

 

 

 

 一方、マスターであるシロウ・コトミネを回収した赤のアサシンは、怒りに身を震わせていた。

 突然乱入して彼の右手を切り落とした仮面の男、そして『受肉した英霊たるマスターならば』と戦場に出ることを許可したおのれの認識の甘さに。

 あの状況でマスターを助け出せたのは、完全に運がよかっただけである。

 あの時、黒のバーサーカーが男に襲い掛からなければ、マスターはキャスター諸共男の振るう剣の錆となっていただろう。

 マスターの持つ朽ちぬ信念や理想には好感を抱いているが、こんな厄介事を起こされてはこちらの心臓が持たない。

 胸に渦巻く様々な感情をため息と共に吐き出したアサシンは、玉座の前に映し出された仮面の男を睨みつける。

 月明かりに光らねば目に映らないほどに細い糸でこちらのキャスターを絞首刑さながらに吊り下げ、魔力も無しに跳ぶように夜空を駆ける男。

 魔力で映し出されたその姿を見るだけで、胸の奥に煮えたぎるような怒りが湧いてくる。

 当初は計画に邪魔なルーラーを排除するつもりであったが、この男の姿を捉えたからにはそうはいかない。

 自身の恋焦がれる者を傷つけた罪人を何もせずに見逃すほど、アッシリアの女帝は甘くは無いのだ。

 彼女は魔力の篭った手を振るえば、宝具である空中庭園の防御機構が紫電を纏う。

 先程、黒のライダーを打ち落とした時とは倍するほどの雷撃。

 直撃すれば耐魔力に優れた三騎士のクラスであろうとも、重傷は免れぬ一撃だ。

「薄汚い罪人が。我がマスターを傷つけた罪、このセミラミスが裁いてくれる」

 主の怒りに応じて収束する紫電。

 一度放たれれば回避は不可能。

 何かを防壁にしようにも、宙に身を躍らせている奴を護る遮蔽物は存在しない。

 さらに彼我の間には数キロに及ぶ距離があるので、発射前に阻止するという事もできはしない。

 まさに状況は仮面の男にとって詰みと言える。

 吊り下げられてもがいているキャスターも巻き込まれるが、その辺は些細なことだろう。

 計画に必要な駒であったが、あの演出過剰な物言いも自己中心に過ぎる性格も鼻に付いてきた。

 さらに戦闘力も無いのに戦場に出た挙句、敵に捕らえられるなどという醜態を晒しているのだ。

 こちらの情報を吐かされる前に切り捨てたところで問題はあるまい。

 計画に必要なキャスターについては、黒のマスターから令呪を奪った後に再度召喚でもすればよいのだ。

「消え失せよ、痴れ者がッ!!」

 十分な魔力が充填されたのを知ると同時に、雷撃の発射を指示するアサシン。 

 同時に防衛機構は自然の雷霆に匹敵する一撃を解き放つ。

 この時、怒りと胸に溜まった憎悪を晴らせる事への喜悦で玉座を立った女帝は気付かなかった。

 彼女が発射を指示するよりも早く、仮面の男が豆粒程度にしか見えない空中庭園の方を向いていた事を。

 そして、腰に差した一刀にその手が掛かっていた事にも。

 夜空を切り裂き、大量の空気を焼き焦がしながら男へと奔る紫電の群れ。

 瞬きするほどの時間で彼我の距離を踏破したヒュドラの如き光の竜が、男をその顎に捕らえようとしたその瞬間───

 凛、と涼やかな音が鳴った。

 次に起きたことをアサシンは理解できなかった。

 まるでコマ落としのように振り抜かれた男の刀と、初めから無かったかの様に姿を消した紫電の群れ。

 それから一呼吸遅れて、雷撃を放った防衛機構が真っ二つに両断されて地面へと落下したのだ。

 突然のことに混乱しながらも修復の指示を出そうとしたアサシンは、思わず目を剥いた。

 何故なら断たれた防衛機構は、彼女の宝具の中から存在その物が消滅していたのだから。

『ハッヒフッヘホー!! このオレ様を暗殺しようなんて百万年早いんだよぉーー!! っと、『A』からの通信か』

 勝利宣言を伴って悠々と姿を消す仮面の男を、女帝は玉座の上で呆然と見上げるしかなかった。

  

 

 

 

 今聖杯大戦のルーラーであるジャンヌ・ダルクがその場に到着した時、3騎の英霊と一人の仮面の騎士は眼前で暴れまわる異形を見上げることしか出来ていなかった。

 赤のバーサーカー、反逆の剣闘士スパルタクスの宝具『疵獣の咆吼』は自身の肉体に強烈な再生能力を与えると同時に、受けた損傷を魔力に変換して体内に蓄積するという機能を持つ。

 そして魔力が満ちたその時に、強烈なしっぺ返しとしてその全てを破壊力に変換して相手へと放つのだ。

 両生類を思わせる巨大な目玉と顔の半分を占める口。

 ミレニア城砦ほどに巨大化した巨躯には、背中から生える左右四対の八本の豪腕。

 さらには千切れとんだ下半身の断面に朽ちかけた自身の下半身をはじめ、無数の人間の足が生えている。

 ここまで人の形から逸脱してしまったバーサーカーの体内には、いったいどれほどの魔力が蓄積されているのか?

 そして、あとどのくらいのダメージで自爆してしまうのか?

 ここにいる者達が暴走するバーサーカーに手を出せないのは、これ等を図りかねているからである。

「赤のランサー、生きていたのですね」

「ルーラーか」

 数日前に命を狙った相手を言葉少なに迎え入れる赤のランサー。

 相手に向けた互いの目には、含むものは何一つ見当たらない。

 殺し殺されが当たり前の聖杯戦争においては、命のやり取りなど日常茶飯事でしかないのだ。 

「アーチャー、そしてランサー。赤の陣営はあのバーサーカーへの対策はあるのですか?」

「ないな」

「あっても、このまま暴れさせて少しでも魔力を抜いて、暴発する機を見切って安全圏に離脱するというくらいだ」

 ルーラーの問いかけにランサーは簡潔に答え、アーチャーは消極的解決策を提示する。

「黒のランサー、貴方はどうでしょうか?」

「残念ながら妙案は浮かばん。奴の周りに余の杭を障壁として配置する事も考えたが、トゥリファスの街を飲み込むほどの爆発を押さえ込む事は不可能だろう」

 表情を変えずに淡々と応える黒のランサー。

 しかし震えるほど力が篭った拳から堕ちる赤い雫が、彼の心情を如実に表している。

 ルーマニアはかつて彼が治めた国なのだ。

 数百年の時が流れたとはいえ、そこを荒らされて怒りを感じないわけが無い。

「では、そこの騎士の方───」

「私は『あん●んマン』といいます。呼びにくければ、『A』とでも」

 死ぬほど安っぽい面を付けた男に、思わず引きそうになるルーラー。

 憑依元であるレティシアの知識で、着けている面が幼児用のジャパニメーションのヒーローだと分かれば尚更だ。

「あ……あん●んマンさん、は何か案がありますか?」

「ありますよ」

「そうですか。やっぱり無理ですって───ええっ!?」

 まったく期待していなかった方向からのアイデアに、思わず声を上げるルーラー。

「あのバーサーカーは私の手に余るようなので、対処できる人員を呼んでおきました。あの人が来れば、問題なく事を収めてくれるでしょう」

「その人員とは……」

 ルーラーが再び問いかけようとするのと同時に、宙から舞い降りる一つの影。

「待たせたな、『あん●んマン』」

「よく来てくれました、『ばい●んマン』」

 月明かりに浮かび上がったのは、幼児用にデフォルメされた悪魔の面を被った男。

 彼は群がる竜牙兵の攻撃を受ける度に再生増殖を繰り返す赤のバーサーカーを睨みつける。

「あれが問題の化け物か」 

「ええ。通信で伝えたとおり、あれは生きた不発弾です。ヘタに攻撃を加えてしまえば、この辺いったいを吹き飛ばすほどの威力で自爆をしてしまう」

「わかった。何とかしてみよう」

 『あん●んマン』の言葉を受けた男は、ルーラーが止める間もなくバーサーカーに向けて疾走する。

「おお、圧政者よ! そこにいたか!!」

 幾度もの肉体の再生増殖によって三階建ての建物に匹敵する巨体となったバーサーカーは、身体の側面に発生した眼球で男を見ると歓喜の声を上げる。 

 人の体を保っていた時は独特の感覚で権力者を嗅ぎ分けていた反逆の英雄も、今や向かってくる物全てを圧政者と認識してしまうほどに狂気に呑み込まれていた。

「圧政者よ! 振り上げた私の拳、この鉄拳こそが愛なのだ!!」

 絶叫と共にバーサーカーは背中に生えた腕の内三本に巨大な拳を構えて、高々と天に掲げる。

 そして───

「我が愛を受けよぉぉぉぉぉぉっ!!」

 降り注ぐ三本の巨大な肉塊。

 それはさながら砲弾の如く大地を砕き、そこにいた竜牙兵を瓦礫と共に粉々に吹き飛ばす。

 だが、三つの鉄拳のいずれも男を打ち据える事はできない。

 拳が地面を抉るよりも早く宙に逃れた彼は、舞い散る瓦礫たちを足場にバーサーカーへと迫る。

 仮面の奥に光る目が捉えているのは異形の肉の中に浮かぶバーサーカーの本来の顔。

 その奥にある存在の因果だ。

「まぁだだぁぁぁぁ! まぁだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 反抗の声と共に、身体の至るところから生えた腕が男に殺到する。

 しかし軽功術の妙によって、瓦礫はおろか砂粒すらも足場に変える男は、腕の群れに影さえも掴ませることは無い。

 肉の防壁を抜けてようやく巨獣の懐に飛び込んだ男は、体を弓に見立てるようにして腕を引き絞ると、目標の中枢に向けて刺突を放つ。

 風を巻いて疾る切っ先はバーサーカーの眉間に音も無く突き立ち、奥にある霊核と存在の因果を容赦なく貫いた。

「……あ?」

 小さく漏れ出たバーサーカーの声と共に抜き取られる一刀。

 動きを止めた異形の庇獣は、地面に降り立った男が血振りをして剣を鞘に収めると同時に、光の粒子へと還って行った。

「終ったぞ。これでいいな?」

「はい。お見事です、ち……じゃなかった。『ばい●んマン』」    

 仮面の騎士の賞賛を受け取った男が踵を返そうとすると、彼の目の前に立つ者が居た。

 旗を手にした聖女、ルーラーだ。

「俺に何か?」

「私はルーラー、この聖杯戦争の公平性を司る審判者のサーヴァントです。まずは暴走した赤のバーサーカーを止めてくれたこと、感謝します」

「『A』からの要請があってのことだ、気にすることは無い」

 頭を下げようとするルーラーを仮面の男は手振りで留める。

「ありがとうございます。唐突で申し訳ないのですが、私は貴方に問わねばならないことがあるのです」

 軽い会釈の後に、ルーラーはまっすぐに『ばい●んマン』の仮面を見据えた。

 否、仮面の奥にある男の瞳を、である。

「それは何かな?」

「貴方は何も「ナァアアアアアァァァァァァァッ!! 見ツケ……タ」」

 ルーラーの口を衝いて出ようとした質問は、突然の咆哮によって破られた。

 全員が目を向ければ、そこには無骨なメイスを持った花嫁衣裳の少女が息を切らせて立っている。

「あれは……バーサーカーか。何故このような場所に?」

 突然現れた自軍のサーヴァントに驚く黒のランサーと、彼女の出現と同時に武装を手にする赤の陣営のサーヴァント達。

 そんな周囲など気にも留めずに、バーサーカーはトコトコと仮面の男の前に移動する。

 少し前に突然殴りかかられたことを思い出して『ばい●んマン』は警戒を強めたが、少女の口から出たのは予想もしない言葉だった。

「バイ…バイ……キン、言って……ない。ばい●ん…マンが…逃げるとき……言わないと……ダメ」

 怒りを表現しているのか、頬をぷーと膨らませるバーサーカーに、仮面の男はバツが悪そうに頭を掻いた。

「なるほどな。確かにコレは俺が悪いな」

 そこまで言った男は自身の喉に軽く何度か指を這わせると、一度深く息を吸う。

『忘れ物を教える為にここまでくるなんて、オレ様感動した! その真面目さに免じて、今日はオレ様の負けにしといてやる!!』

「うおっ!? 声まで『ばい●んマン』に!」

「うぅ~~~~♪」

 突然男の声が変わった事に仮面の騎士は驚き、『ばい●んマン』の声が聞き慣れたモノに戻ったバーサーカーは喜びの声を上げる。

『というワケで、そのメイスでオレ様と『あん●んマン』を吹っ飛ばしてくれ!!』

「あん…●ん……まんも……?」

『そうだ。こいつはオレ様が作った偽者なんだ。ほら、マントが青いだろ?』

「う!」

 仮面の男の言に納得したのか、バーサーカーは力強く頷くとメイスを思い切り振りかぶる。

「……はっ! ちょっ、ちょっと待って───」

『よし来い!!』 

「ウウウゥゥアアアァァァァァァァァッ!!」

 会話についていけずに唖然としていたルーラーの制止の声もむなしく、渾身のフルスイングを放つバーサーカー。

 それを見切っていた仮面の男は、軽功術を使って力が乗り切る前のメイスに乗ると、抱えた『あん●んマン』と共にバーサーカーの腕力を利用して天空高く飛んでいく。

『それじゃあ、バイバイキーン!!』

「う……。ばい…ばい……きん」

 仮面の男が飛び去った方向に手を振ったバーサーカーは、黒のランサーを見つけると足早に駆けていく。

「う!」

 そして未だ唖然としているランサーに、期待に満ちた表情で頭を差し出した。

 バーサーカーの行動に周囲が疑問符を浮かべる中、子育て経験があるランサーだけは彼女が何を望んでいるのかを理解した。

「ああ、うん。よくやった、褒めてつかわす」

「う~~~~♪」

 何故こんな事になったのか、と首を捻りながらも取りあえずバーサーカーの頭を撫でるランサー。

 いったい何が『よくやった』かは言った本人も分からない。

 しかし、行動からして目の前の少女は中身が幼児並みだと言う事は分かった。

 ならば、褒めて伸ばすのもありだろうと考え直すことにした。

 それを見ていた赤のアーチャーはため息と共に手にした弓の弦をそっと外す。

「いいのか?」

「ああ。あのバーサーカーは見た目は兎も角、中身は子供なのだろう。私は子供を射る矢は持ち合わせていないのでな。汝はどうする?」

「俺もこの場は退こう。闘争の空気では無いし、アサシンの計略も成功を見たようだ」

 言葉と共に赤のランサーは視線をミレニア城砦の方向へと向ける。

 赤と青の瞳の先、黒く染まった空には確かに空中庭園の姿があった。

 同時刻、奇しくも空を飛ぶこととなったアルガ達もまた、ミレニア城砦の近くを横切っていた。

 かつては難攻不落と言われた砦も、空中庭園が生み出す竜巻に全てを吸い上げられ、今は見る影も無い。

 そうして見ていると、半ば半壊した砦の奥から黄金に光る亀裂の入った巨大な岩の様なものが浮き出てきた。

「あらやだ、お久しぶり」

 その光景を目の当たりにしたアルガはポツリと呟く。

 そう。

 それはまさしく冬木の大聖杯だった。




 グダグダ英霊剣豪七番勝負(2)


説明


剣キチ  『英霊剣豪七番勝負とな?』
ドーマーン『そうよ! 貴様に拙僧が作り上げた英霊剣豪の恐ろしさ、とくと味あわせてくれるわ!!』
剣キチ  『そういう事なら、先手必勝の連環套路!!』
サンタ仮面『負けたッス~! 負けたッス~! 負けたッス~! 負けたッス~! 負け負け負け負け負けたッス~!!』
プーサー 『ああっ! 天草が地味なムエタイボクサーみたいな断末魔を!?』
剣キチ  『そりゃ~! しつこい斬撃だーーー!!』
サンタ仮面『負けたッス~!!』
ドーマーン『開始の合図も無いのに、なんたる卑怯!? というか、ゲームは説明書を読んでからというでしょうが!!』
剣キチ  『すんまそん』
インシュー『謝罪の意思がゴマ粒ほども感じんな』
ドーマーン『おのれ~! 天草だって在庫が無いんですよ!! え~と『天草(ノッブ)』は死んだし『天草(侍魂)』もダメ。後は『天草(ジ●リー)』と『天草(窪●)』に……『天草(ケン・イシカワ)』?』
剣キチ  『それだけはいけない』
ドーマーン『うむ……。コレを使ったら何もかもが虚無に還ると拙僧のカルマも申しておるわ。封印しとこ』
プーサー 『ところで変態。ルールがどうこうと言った話はどうなったのだ?』
ドーマーン『うむ、それを今から説明しよう。この英霊剣豪七番勝負は互いが『拳魂復活の術』を使い、蘇った英霊剣豪同士が戦うのだ! つまり、術者が闘っちゃダメ!!』
剣キチ  『ちぇっ、つまんねーの』
プーサー 『師範が闘うと、それだけで終ってしまいますから』
インシュー『その前にこちらに術者がおらんのだが』
ドーマーン『心配無用! この秘術は三十分あったら憶えられるのだ!!』
剣キチ  『秘術とはいったいなんだったのか』



訓練


ドーマーン『では、早速始めましょう。先ずは両手を合わせて氣を集中する』
剣キチ  『うむうむ、この辺は大丈夫だな』
ドーマーン『そして、復活のために必要な呪文を唱える。リピート・アフター・ミー!』
プーサー 『ヤケに英語の発音いいですね、あの変態』
インシュー『人は見かけによらんな』
ドーマーン『行きますよ、ハイ! サッテンピッテンロッテンサッテンピッテンロッテンサッテンピッテンロッテン……』
剣キチ  『サッテンピッテンロッテンサッテンピッテンロッテンサッテンピッテンロッテン……』
ドーマーン『氣が頂点に達したら、両手から放ちつつ! 蘇れ、英霊剣豪!!』
剣キチ  『シェヤーーー!! 蘇れ、英霊剣豪!!』
プーサー 『これは成功するか!』
インシュー『だが、剣キチ殿の氣が『天草(ケン・イシカワ)』に!?』
剣キチ  『あっぶねぇ!? あ……』
プーサー 『誰の位牌に当たったんでしょうか?』
?????『我こそは英霊剣豪が一人…………柳生如雲───』
剣キチ  『ワッシャーーーー!!』
?????『ウギャーーーーーッ!!』
剣キチ  『危ない危ない。ただでさえシナリオが被ってるって言われてるのに、ソッチ方面を出したら洒落にならなくなる』
プーサー 『何のことですか?』
剣キチ  『こっちの事だから気にしないように』
ドーマーン『うむ。拙僧も危ないかなーと思ってはいたのだが、コレクター魂的なアレで集めてしまったのだ。他にもキャスター森宗意───』
剣キチ  『おいやめろ』


配牌


ドーマーン『さて、これで拳魂復活の術は大丈夫ですな』
剣キチ  『モーマンタイ』
インシュー『いやはや、本当に半刻で憶えてしまうとは』
プーサー 『インスタントすぎますね』
ドーマーン『では次に、術者の座席兼位牌の置き場所である櫓を組んでもらいましょう』
剣キチ  『何気に手順が多いな』
ドーマーン『この勝負、古代中国では龍神に捧げる祭事でもありますからな』
インシュー『思ったよりも由緒正しいのだな』
プーサー 『そういう事ならば仕方ないか』
ドーマーン『よしよし、櫓の方も完成しましたな』
剣キチ  『竹と木の板を組んだものだけど、結構上手くできたな』
インシュー『これはこれで趣があってよかろう』
ドーマーン『では、お互いに位牌を取ろうではありませんか。ここから好きなデッキを選びなされ』
剣キチ  『仮にも位牌なんだから、デッキとか言うな』
プーサー 『師範が選んだのは『すたんだーどぱっく』ですか』
インシュー『対するリンボは『暗黒ぱっく』と書いてあるな』
剣キチ  『というか、エミヤとデミヤの位牌があるんだけど』
プーサー 『どうやって手に入れたのでしょうか?』
ドーマーン『では始めるとしましょう!』
インシュー『あ! あやつ、もう櫓に座っておる!!』
プーサー 『師範も早く早く!』
ドーマーン『遅いわ! サッテンピッテンロッテン……以下略! 出でよ、英霊剣豪『アサシン・パライソ』!!』
パラちゃん『召喚に応じ参上しました、お館様』
インシュー『なんと、小さな女子が出てきたぞ!』
プーサー 『というか、子供になんて格好をさせているんだ、あの変態!!』
ドーマーン『こ奴の召物に関しては冤罪でござる! それはさて置き、やれ!!』
パラちゃん『承知! 三郎!!』
プーサー 『ああ、師範の櫓の下半分が巨大な蛇に食われた!』
インシュー『だがあの御仁は無事だ! 支柱の一本の上に立って微動だにしておらん!』
剣キチ  『不意打ちとはやるじゃないの。ならばこっちもエミヤで対抗って……これはッ!?』
プーサー 『ゲェーーッ! エミヤとデミヤの位牌が割れている!!』


奇策


剣キチ  『活躍する事無く位牌が破損するとは、これが幸運Eの力か!』
インシュー『どうするのだ? パックから他の位牌を出しておる時間は無いぞ!』
プーサー 『とはいえ、双方共に割れた破片は砕けてしまってます。この場で修復はできそうにありません』
ドーマーン『はははははっ! 出せる位牌が無ければゲームオーバーですぞ』
剣キチ  『待てよ。エミヤは左半分、デミヤは右半分が無事……! やってみるか』
インシュー『なんだ、良い案が浮かんだのか?』
剣キチ  『おう! ニカワはどこだ!』
プーサー 『ニカワですか? 確か櫓を組むときに……ありました!』
ドーマーン『ニカワとな? あ奴め、何をするつもりか』
剣キチ  『よし。コレを塗りこんで、エミヤとデミヤの位牌を接着合体!!』
インシュー『だ……大丈夫なのか、これは? 他人同士の位牌をくっ付けたところで、使い物になるとは思えんのだが』
剣キチ  『大丈夫だ! エミヤとデミヤは元は同一人物、きっと上手くいくさ!! というわけで、出でよ英霊エミヤ!!』
プーサー 『こっ、これは!!』


奇怪


剣キチ  『……』
プーサー 『………』
インシュー『…………なあ。あの御仁、おかしくないか?』
プーサー 『左がエミヤ氏で、右がデミヤになってますね』
剣キチ  『ヤベェ……。髪の毛のボリュームとかの関係で、キカイダーみたいになってるんだが』
インシュー『奇怪だ?』
プーサー 『誰が上手いこと言えと』
剣キチ  『とにかく、ちゃんと闘えるかどうか試さねば。エミヤ、アサシンを向かい打て!!』
エミヤ  『まmゆltyえびz……』
プーサー 『ダメだ、バグッてる!!』
インシュー『いかんぞ、これは!?』
プーサー 『やはり、キカイダー的に良心回路がいるのでは!?』
剣キチ  『位牌を確かめたら、キアラというものがな……』
プーサー 『誰が快楽天ビーストと言いましたか!? 良心回路ですよ、良心回路!!』
インシュー『というか、何故それを呼びださなんだ!?』
剣キチ  『これを呼んだら、何もかもが終る気がしたんだよ! 姉御的意味で!!』
ドーマーン『ふはははははっ! 愚かなリ!! 止めをくれてやれい、パライソ!!』
パラちゃん『では、覚悟めされい!!』
剣キチ  『これってもしかして、ピンチ!?』

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