剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 お待たせしました。

 アポ編十話の完成です。

 FGOのアポコラボ、初日のアヴィケブロン先生は寝て起きたら死んでました。

 まあ、かく言う私も先日は『オレのヒポぐるみぃぃぃぃぃぃっ!!』と言いながら、先生を轢き殺したり、『モルガーン』したり、パイルドライバーで叩きつけたりしてたんですがね。

 まあ、それもこれもジーク君を育成している最中に来たケイローン先生が悪いという事で。


剣キチさん一家ルーマニア滞在記(10)

 ルーマニア旅行記 6日目 追記

 

 赤と黒の全面衝突へ介入する前に日記をつけたが、今日の夜は長くなりそうなので後の事をつけ足しておく。

 赤の陣営の拠点である空中庭園から脱出した後、ケイローンと別れた俺達はルーラーと離反した赤のアーチャーを(ともな)ってキャンピングカーへと帰還した。

 出迎えた姉御はこちらの事情を把握していたようで、怜霞さんからジャックちゃん用の令呪を一画譲り受けていた。

 さすが姉御、話が早い。

 そこからトントン拍子で話し合いが進み、道中で赤のアーチャーが口にしていた通りに俺は彼女のマスターとなった。

 空中庭園を脱出してから不思議に思っていたのだが、何故か彼女の中での俺の評価は高い。

 思い当たる節が無くて首を(ひね)っていると、それを察した彼女が理由を説明してくれた。

 アーチャーが言うには、ガウェイン達を取り戻す為に世界に喧嘩を売った時、彼女もむこうの戦力として召喚されていたらしい。

 彼女自身、男子ではなかったという理由で父親に捨てられた過去を持つ事もあり、子供の為と世界相手に必死こいていた俺に理想の父親像を見出したんだとか。

 なんというか、完璧に過大評価である。

 いきなり子供を(さら)われれば、普通の親ならあれくらいしますから。

 兎も角、紆余曲折はあったものの、晴れて俺も聖杯大戦に正式参戦である。

 聖杯戦争のマスターなんてアグラヴェイン以来だし、数か月と言うブランクもあるが何とかなるだろう。

 ぶっちゃけ、第四次の時ってマスターらしいことなんてしてなかったような気がするし。

 令呪だって一画も使わなかったもんなぁ。

 あと、アーチャー改めアタランテに『自身の聖杯に掛ける願いはいいのか?』と尋ねると、彼女からは『ジャックちゃんの願いを叶えるのは、自分の願いに通ずることだから構わない』という答えが返ってきた。

 気になったので確認したところ、彼女の願いは『全ての子供が両親や周りの大人達に愛されて幸せに生きる世界』だそうな。

 シロウ神父が掲げた『全人類の救済』に通ずるものがあるのだが、子供と限定しているだけマシかもしれない。

 もっとも、アタランテ自体に出産・育児の経験が無い事や、子供が生を受ける状況が千差万別であるという事も考慮に入れれば、仮に(かな)ったとしても相当歪な世界になると思うが。

 まあ一人の親としては、素晴らしい願いだと思ったのは確かである。

 彼女に『私の願いを笑わないのか?』と問われたので、姉御やお袋さんと共に思ったままに返しておいた。

 少々耳に痛い事も言ったかもしれないが、最後に『ありがとう』と笑っていたので大丈夫だろう。

 それからルーラーが『貴方達は何者ですか?』と問いを投げてきたが、黒の陣営と合流してから話すとはぐらかした。

 俺達の身の上はかなりややこしいので、説明は一括で行いたい所存です。

 さて、ある程度の状況の整理も付いた事だし、ここらで一度筆を置こうかと思う。

 夜も更けてきたのだが、これからルーラーを含めた黒の陣営との話し合いもあることだし、姉御特製の栄養ドリンクを飲んでもうひと踏ん張りと行こう。

 

 

 

 

 アタランテとの再契約も終わり、俺は長男次男、そしてルーラーを引き連れてミレニア城塞に足を運んだ。

 だが、難攻不落と言われていた城塞は見る影もなかった。

 破壊された城壁のむこうには野ざらしで治療を受けているホムンクルスのうめき声が上がり、主を失い土人形に戻ったゴーレム達は姿を維持できずに崩れ落ちている。

「酷ぇな。まるで負け戦の後みたいだぜ」

 城塞の中に漂う諦観(ていかん)の籠った空気にガヘリスは眉をしかめる。

 少々キツい言葉だが、こんな有様ではこの子がこう言うのも仕方がない。

「指導者であるランサーとダーニックが戦死して、虎の子の大聖杯も敵の手に堕ちたからな。今回の総力戦は完全に黒の陣営の負けだ」

「それに加えて、黒の陣営はアクシデントで最優と言われているセイバーを失い、兵力の半数を担っていたゴーレムの製作者であるキャスターが離反しています。士気が下がるのも仕方が無いでしょう」

 ヴラド三世の事を気にしてか、俺の言葉の後を続けるガウェインも表情は優れない。 

 こちらの見解を証明するかのように、城塞の頭上を占拠していた空中庭園はすでにその姿を消している。

 目的のブツを手に入れたこともあり、シロウ神父としては黒の陣営など眼中にないのだろう。

「しかし、現状は我々が協力を求めるに関しては有利であるともいえます」

 負傷したホムンクルス達の様子に痛ましげに眉を(ひそ)めながらも、ルーラーは強い口調で言葉を紡ぐ。

 彼女の言う事もまた間違いではない。

 いくら人間を辞めて妖精郷で暮らしている俺達や聖杯戦争の裁定役であるルーラーとはいえ、通常の状態では黒の陣営を運営するユグドミレニアと手を組むのは難しい。

 何だかんだと恰好を付けても、むこうは目的の為なら外道行為を平気で行う魔術師だ。

 そんな奴ら相手に正攻法で協力を求めたとすれば、どんな条件を吹っ掛けられるか分かったモノではない。

 だからこそ、弱り目になっている今が狙い時なのだ。

 赤の陣営と言う共通の敵があったとしても、最後に聖杯を奪い合う敵であることには変わりない。

 指導者を失ってむこうが混乱している今の内にアドバンテージを取らなければ、こちらが使い捨ての駒にされかねないしな。

「もう一度確認するが、黒のアーチャーを窓口にして対赤の陣営の協力関係を結ぶ。これで間違いないな?」

「ええ。その際には貴方達の正体を説明してもらいますよ」

「分かってるよ」

 ジトッとした目でこちらを見てくるルーラーにヒラヒラと手を振って歩いていると、ホムンクルスの中に見知った顔を見つけた。

「父ちゃん、あれって城塞の中でスッポンポンになってた坊主じゃねーか?」

 あの時一緒にいたガヘリスがこう言うのであれば、俺の見間違いではないようだ。

 声を掛けようかと思ったが、彼はあの時気を失っていたのでこちらの事を覚えていないだろう。

 特に用も無いし話しかける必要はないと思い直していると、額に青筋を浮かべたルーラーが(くだん)の坊やをこっちまで引きずってきた。

「ルーラー、その坊やと知り合いか?」

「私が保護しているホムンクルスの男の子です。ジーク君、何故貴方がここにいるのですっ!? それに貴方が黒のセイバーでライダーのマスターとは、どういうことですか!?」

 戸惑う少年に一気に(まく)し立てるルーラーって、ちょっと待て。

 今、聞き捨てならない言葉を吐いたぞ、あの聖女様。

「おい、旗持ちのねーちゃん。その坊主が黒のセイバーってのは、どういうこった?」

「今取り込み中です! 少し待っててください!!」

 頭上にハテナマークを浮かべるガヘリスの言葉に、これまた怒りのままに怒鳴り返すルーラー。

「やめとけ、ガヘリス。今は口出ししても相手を怒らせるだけだ」

「よくわかりますね」

「ギャラハッドの生みの親とランスロットのバカを別れさせる時に、嫌と言うほど味わったからな」

 もっとも、エレイン姫はあれより四段階ほど発狂具合が上だったが。

 さて、こちらが黙ったのをいいことに再び追及の手を強めているルーラー達の会話だが、聞き耳を立ててみると興味深い事実が判明した。

 ジークと呼ばれた少年だが、どうやら黒のセイバー・ジークフリートに肉体を変化させ、その力を使う事が出来るらしい。

 切っ掛けはジークフリートに心臓を譲り受けた彼が、前マスターに令呪で強要された黒のライダーに殺されかかった際、付近で闘っていた黒のバーサーカーの雷撃で蘇生した事。

 これにより彼の右手には黒い令呪が宿る事となり、これを消費する事で数分間だがジークフリートの能力を使えるようになったのだという。

 次にライダーのマスターとなった事についてだが、経緯はこうだ。

 死の淵から蘇生した彼は、令呪の効力によって襲い来るライダーを止める為に黒い令呪の力を使った。

 ジークフリートとなった彼の力はライダーを凌駕していたが、三画全ての令呪をつぎ込まれたライダーを命を奪わずに止めるのは容易ではない。

 また、ライダー側も(はかな)いながらも令呪の命令に抵抗していた為に、慣れない力で手加減をしていたジーク少年の隙を突けないでいた。

 両者互いに望まぬ闘いは長期戦の様相を(てい)していたが、それは唐突に終わりを告げる事となった。

 空中庭園へ向かっていた赤のセイバーが、行きがけの駄賃とばかりにライダーの元マスターの首を()ねたのだ。

 赤セイバーはマスターの首を刈り取ったあと、ジークとライダーに目もくれずに走り去っていったので直接的な被害はなかった。

 ジーク少年曰く『空中庭園へと走っていく彼女は、目の前にあるモノが何であれ問答無用で叩き斬っていた』らしい。

 恐らく『火●るの墓』に感動して泣いていたために、障害物が何かも分からないままに剣を振るってたのだろう。

 獅子劫が聞いたら胃を押さえそうな話である。

 その後、元の姿に戻ったジーク少年は、前マスター死亡により現界を維持できなくなったライダーを助けるために黒の令呪を用いて契約を結んだ。

 そして新たなる黒のライダーのマスターという立場を用いてユグドミレニアと交渉し、黒の陣営として戦う代わりに消耗品扱いだったホムンクルスの保護を認めさせたらしい。

「線が細く儚げに見えますが、なかなか気骨のある少年のようですね」

「たしかにな。敵に回ったとしたら、強い弱いとは別のベクトルで厄介そうだ」

 同じく聞き耳を立てていたガウェインの評価に同意していると、後方から近づいてくるサーヴァントの気配を感じた。

 目を向けた先に映ったのはピンクの髪の少女騎士、黒のライダーの姿だ。

「マスター! って、この前会った頭のおかしい人!?」

「誰がやねん」  

 こちらを見るなり目を丸くしながら指を指してくるライダー。

 つうか、いきなり失礼だな、この小娘。

「君達、こんなところで何してるのさ?」

「こっちは黒のアサシンの協力者でな。ルーラーと一緒にユグドミレニアの連中と手を組む為に交渉に来たんだよ」

「そっか。じゃあ、ボクたちの仲間ってことだよね」

「交渉が(まと)まれば、な。そうでなけりゃ敵同士だ」

「大丈夫だって、ボクがマスターに話を通してもらうから! 君は頭がおかしい位に剣の腕が立つし、それを言えば黒のマスター達もノーとは言わないはずだよ」

「それは重畳。こっちの知ってる窓口はアーチャーだけだったから助かる」

「任せてよ。って、なんでボクの頭を掴んでるの? イタッ! イタタッ!?」

「それは別として『頭がおかしい』を連呼するのはダメだと思わないかね? ジャッカー電撃隊のアス●ール君」

「誰それ!? ボクはシャルルマーニュ十二勇士のアストルフォだよ!? イタタタタタッ!?」

 『頭がおかしい』と言われ続けるのはムカついたので、小娘の頭を鷲掴みにしてプラプラとぶら下げてみた。

 こっちもむこうの名前を致命的なほどに間違えているが、まあ大した問題ではあるまい。

「イダダダダダッ!? 君って人間だよね! ボクが引き剥がせないなんて、どんな握力してるのさ!?」

「なに、こっちは英霊様と違って非力な仙人だ。ヤシの実を抉り取る程度が関の山だよ」

「ソレって絶対非力じゃないよね!?」

「さて質問タイムだ。失礼な物言いをした場合、相手になんて言えばいいのかな?」

「ごめんなさい! ごめんなさい!! ごめんなさぁいっ!!!」

 七割ほど泣きが入った声で謝罪を連呼したので放してやると、着地と同時に頭を押さえて悶絶するライダー。

「さて、ではこちらの番だ。先ほどは失礼した、アストルフォ殿。名前を間違えたことを詫びさせてほしい」

 へたり込む彼女に目線を合わせて頭を下げると、ライダーは涙を溜めた目を丸く見開いたまま虚を突かれたような表情を浮かべる。

「どうした?」

「いや、謝られるとは思ってなかったから……」

「こっちも失礼を働いたんだ。そちらが()びたのなら、頭を下げないとケジメがつかないだろ」

「あ……と、それもそうか」

 涙も引っ込んだので手を引いて起こしてやると、ライダーはニカッと笑って見せた。

「君って見た目と違って真面目なんだね。あの時に見せた鬼みたいな顔で剣を振るイメージが強かったから、想像できなかった」

「これでも親の端くれなんでな、子供に悪い見本は見せられんだろ」

 そう返すとライダーは『それもそうだね』と納得してくれた。

 しかし、英霊の座で戦った時ってそんな怖い顔してたのか、俺?

 必死だったことは否めないが、鬼みたいな面なんて浮かべた覚えはないんだが。

 そうこうしていると、むこうからルーラーとジーク少年も戻ってきた。

「お待たせしました」

「ライダー、君も来ていたのか」

「うん。マスターがルーラーと話している間に、ボクもこの人達とおしゃべりしてたんだ」

「彼らはルーラーの連れか」

「そうだよ。ホムンクルスの施設から逃げ出した君を、最初に見つけたのって彼等なんだよ」

「そうなのか!?」

 ライダーの言葉に目を丸くするジーク少年。

 黒のサーヴァント達が通りかかるまで保護もしなかったから、感謝される(いわ)れはないんだが。

「ずいぶんと遅れてしまったが、礼を言わせてほしい。ええと……」

「そういえば、君たちの名前って聞いてなかったよね。なんていうの?」

 今更といえば今更だが、こちらも名乗りを上げていないかったのは事実。

 ならば、ここはしっかりと伝えるべきだろう。

「私はムスカ大佐だ」

「では、私はサツキで」

「なら俺はメイだな」

「さらりと偽名を名乗らないでください! 貴方はガウェインでしょう!!」

 ハッ!? つい癖で偽名を騙ってしまった。

 これはルーラーが怒るのも無理はない。

 ガウェインは空中庭園で思いっきり本名暴露してたしな。

「しかしお前ら、そのナリでサツキとメイはないだろ」

「たしかに、こんな筋骨隆々なメイではトトロも恐れて出てこないでしょう」

「兄貴だけには言われたくねぇ。とはいえ、メイは流石に無理があるわな。ナウシカにするか」

「ナウシカも無理があり過ぎるわ」

「最後のシーンで王蟲の突進をガップリ四つで受け止めそうですね」 

「ええと、本当のところはどうなんだろうか?」

「悪いけど、ちょっと面倒な事情があるんだ。自己紹介は黒の陣営との話し合いまで待ってもらえないか」

「……わかった」

 ジーク少年の納得も得られたところで、サツキ(太陽)とメイ(ゴリラ)を連れた俺達は黒の陣営の元へと向かった。

 道の途中でバーサーカーのマスターである眼鏡君ことカウレス少年を捕まえた俺達は、彼の案内によって黒のマスター達がいる執務室へと辿り着くことができた。

 現状における黒の陣営の責任者は、アーチャーのマスターであるフィオレという車椅子に座った少女らしい。

「本当にそこの嬢ちゃんがトップなのか? 普通なら隣のおっさんがなるだろ」

「本来の当主であるダーニックを失った事による暫定的処置です。聖杯戦争が続いていることを鑑みて、年齢よりもサーヴァントを失っていない事と魔術の手腕を重視した結果、当主代行という大役を私が受け継ぐことになったのです」

 ガヘリスの遠慮のない物言いにも表情一つ変えることなく、フィオレ嬢はしっかりと答えを返してきた。

 なるほど、見た目と違って上に立つことに慣れているようだ。

「事の次第はアーチャーから(うかが)いました。先の戦いで赤のライダーやランサーを抑えた腕前に、妄執の果てにランサーへ寄生し吸血鬼に成り下がった前当主を討った力。貴方方は戦力が不足している我々にしてみれば、喉から手が出るほどに欲しい人材と言えます。ですが、今のままでは同盟を組むわけにはまいりません」

「何故か聞いてもいいかな?」

「ワシ達はユグドミレニアだぞ! 貴様らのようなどこの馬の骨とも知れない輩と同盟など組めるか!!」

 フィオレ嬢が口を開く前に、隣に控えていたゴルドというおっさんが唾を飛ばさん勢いで捲し立てる。

 居丈高ではあるが、言わんとする事は理に適っている。

「失礼しました。ですが、ゴルド叔父様の言った事は私達の総意でもあります。我々にすれば、皆さんは聖杯大戦に飛び込んできた異分子と言っても過言ではありません。そんな貴方方の素性も知らずに背中を任せるなど、さすがに無理な話だとは思いませんか?」

「つまり俺達について信頼……は無理でも、信用できるだけの情報を寄越せと?」

「ええ、同盟を組むのならば当然の条件かと」

「いいだろう。後生大事に隠すほどのモノでもないし、ルーラーにもこの場で話すと約束しているからな」

 そこから俺達は、こちらの素性について話せる範囲の事を黒の陣営へかいつまんで説明した。

 まず、俺達が並行世界のアーサー王の親族であることから始まり、ガウェインをはじめとして円卓の騎士三人がいる事。

 さらにシロウ神父側から離れた赤のアーチャーとセイバーが、こちらに付いている事を話した時の黒の陣営の驚きは凄かった。

 他にはキャスターが離反したばかりという事もあって、姉御が協力することも殊の外喜ばれたりした。

 こっちの世界ではドマイナーである俺は当然のごとく添え物扱いだったが、下手に警戒されるよりは色々と動きやすいので気にする必要はないだろう。

 あと、こちらの目的についてはアーチャーから報告が行ってるという事なので割愛させてもらった。

 協力の形態についてだが『大規模な作戦や戦場で出会えば協力する』という程度に抑え、どちらかがもう一方の指揮下に入るというモノは避けた。

 むこうはそういった形の条約を結びたがっていたようだが、大事な家族を魔術師の下に置くような真似は御免被る。

 その後三十分ほどで必要事項の擦り合わせも終わり、ミレニア城塞からお暇しようとしたところ、外から重い振動が響いた。

 慌てて外に出てみると、城塞へと歩を進める十メートルを超える巨大なゴーレムの姿が目に飛び込んできた。

 肩口に黒のキャスターを乗せた巨人は城門付近にたどり着くと、緩慢な動作で足元にいたホムンクルスの警備兵に手を伸ばす。

 途端にハルバードを放り投げて逃げようとするホムンクルス。

 しかし巨人の腕から逃れるには、その動作はあまりにも遅すぎた。

 動きが少々ぎこちないとはいえ、巨人の身長は十数メートル。

 必死に足を動かしたとしても、人の歩幅で逃れる事は容易ではない。

 その証拠に警備兵の男女二人の努力を嘲笑うがごとく、伸ばした指は彼等を射程圏内に捉えている。

 恐怖と絶望に歪む彼らの顔が土塊の指に呑まれようとしたその瞬間───

 けたたましいエンジン音と共に飛び出した漆黒のスポーツカーによって、巨人の腕は大きく弾き飛ばされた。

 体当たりの勢いそのままにこちらへ走ってきたスポーツカーは、土煙を上げながら俺達の目の前に停車する。

「マジでスッゲエな、この車」

「さすがジイチャンだ。あんなおっきいのと当たっても、全然大丈夫だったぞ」

「うん、すっごくはやかった」

 ガルウイングの扉が開くと、中から出てきたのは赤のセイバー、そしてモードレッドにジャックちゃんだ。

「おい、セイバー。なにチビ達まで連れてきてんだ」

 首をコキコキと鳴らしているセイバーに声を掛けると、奴は心外と言わんばかりに不機嫌な表情をこちらに向ける。 

「ガキ共を連れて来たのはオレじゃねーよ」

「なに言ってんだ。お前以外に車を運転できる奴なんて───」

『それは私だ、管理者よ』

 こちらに割り込むように発せられた威厳のある声に、俺は思わず固まってしまった。

 まさかと思って声のした方に振り返ると、そこにはヘッドライトをピカピカと点滅させているスポーツカーの姿が。

 このボンネットに描かれた黒竜の文様って、もしかして……

「えっと、陛下ですか?」

『うむ』

「何時の間に種族を『車』に変更なさったのでしょう?」

『ニニューの奴が、新型の義体と言ってな』

「OK、理解しました。大変ですね、陛下も」

『もう慣れた』

 陛下の義体のバージョンアップって何回目だったかなぁ。

 百から先は覚えてないや。  

「ところで、陛下。どうやってここまで来たんですか?」

『最初から貴様等といたぞ』

 これはまた異なことを言う。

 こんな車、俺達の荷物の中には無かったはずなのだが。

「あ! この車、ウチのキャンピングカーの格納庫にあったわ!」

「なにをやってるんですか、貴方は。見覚えの無い車が積んであったら、普通は私達に言うでしょうに」

「博士のことだから、キャンピングカーとは別に観光用に用意してくれてたと思ったんだよ」

 ああうん、後ろから聞こえる長男と次男の会話で謎は全て解けたわ。

『何事も無ければ、私も観光用の足として旅行を手伝うつもりだったのだ。だが、貴様等の近くで十メートルを超す動体反応を察知したのでな』

「それでスクランブル発進してくれたと」

『うむ』

 陛下って普通にいい人なんだけど、ニニューさんが絡むと行動がワケの分からない方向に飛んでいくんだよなぁ。

「ところで、どうして子供達まで?」 

『ニニューがどうしても必要だと言っていたのだ。私としても危険な場所に連れて行くのは(はばか)られたのだが、義体関係で彼女の忠告を聞かなかったらロクな事が起きんからな。一応、護衛も連れてはきたんだが……』

「ああ、セイバーの事っすね」 

『何にしろ、子供を危険な場所に連れて来たことは事実だ。その事については謝罪させてもらう。すまんな、管理者よ』

「いやまあ、いいっすよ。事情は分かったし、俺のところに連れて来てくれたんで」

『そうか。ならば、私は己が務めを果たすとしよう。───システム・チェーンジ!!』

 掛け声と共に光に包まれたスポーツカーは、あっという間に3メートルほどの鋼の巨人へとその姿を変えた。 

 それは現世(げんせ)では間違いなく見ることのない妖精郷の勇者、ヴォーティガーンだった。

「ゴーレムよ! 妖精郷の民に暴虐を働くことは、このヴォーティガーンが許さん!!」

 ゴーレムに指を突き付けながら、とっても渋い声で啖呵(たんか)を切る陛下。

 ああ、務めって俺らを護る事なんだなぁ。

「すごい、きょだいロボットだ!」

「おお! ジイチャンが変形したぞ!!」

「つーか、あれってマジで卑王ヴォーティガーンなのかよ!?」

 大喜びする子供達と混乱する赤セイバー。

 こちらの喧騒を他所に、陛下はキャスターの操るゴーレムに立ち向かっていく。

「うおおおおおおおっ!!」

 背中のバーニアによって加速した鉄拳がゴーレムの腹を捉える。

 しかし約5倍もの体格差があるために、陛下の一撃はゴーレムの身体を少し揺らす程度のダメージしか与えられない。

 反撃とばかりに振るわれる剛腕を掻い潜って更なる打撃を繰り出すものの、格闘戦では分が悪いのは明白だ。

「クッ、ガーンショット!!」

 接近戦では(らち)が開かないと判断した陛下は、腰のホルスターから取り出した銃を放つ。

 銃口から放たれたビームによってゴーレムの身体には小さな穴が開いたが、それもすぐに再生されてしまう。

『なんと、再生機能まで───ぐおぉっ!?』

 驚愕による一瞬の隙を突いた剛腕の薙ぎ払いによって、大きく吹き飛ばされる陛下。

「どこの誰が作ったのかは知らないが、僕の『王冠(ゴーレム)叡智の光(ケテルマルクト)』に挑むなど無謀と言う他ないな」

 ゴーレムの肩からその様子を見下ろす黒のキャスターの言葉に嘲りは無く、感じられるのはただただ呆れの感情だけだ。

 しかし妙である。

 俺の知る陛下の義体は、二ニューさんの暴走によって様々な兵装が組み込まれていたはずだ。

 格闘とビームガンだけなんて事はあり得ないはずなんだが。   

 それにデザインの方もシンプルで地味になってるし、いつもはヘルムで隠れている口元も見えてる。

 これはいったいどういう事なのか?

「なあ、ガウェイン。陛下って義体変えたか?」

「少し前に試作型に変わったと聞きました。しかし、これほどまでに性能が下がっているとは……」

 眉根を寄せながら戦場を睨みつけるガウェイン。

 こちらの違和感は気のせいではなかったらしい。

 とはいえ、今の陛下と黒のキャスターが操るゴーレムの差は歴然だ。

 陛下側の事情はどうであれ、このままやらせるワケにはいかん。

 幸いにも黒の陣営の面々はあまりの事態に呆然としていることだし、騒がれる前に手助けに向かうとしよう。

 鞘に収まった剣を手に地面を蹴ろうとすると、不意に携帯が振動した。

 こんな時にと思いながらも確認してみると、メールの差出人は陛下とニニューさんだった。

 この状況でメッセージを送るからには、なにかしら意味があるのだろうと目を通した結果、俺はこれから起こる事に頭を抱えたくなった。

 理由は分かった、必要があることも理解した。

 けどさ、子供が関わってるんだから、こういう事はもっと早く伝えてくれよ。

 まあ、あれだ。

 当の本人には事前に説明してあるって言うし、保護者の俺達にもギリギリとはいえ、事を起こす前に連絡したことは評価しよう。

 実際、ニニューさんの技術は信頼に値するし、陛下も子供が関わってるとなれば無茶はしないだろうからな。

 小さくため息をついて携帯を収めると、傍らで観戦していたジャックちゃんが声を上げた。

「モディ、モディ! ブレスレットがひかってる!」

「これは……ジイチャンからの合体要請信号だ!!」

 右手に巻いたゴツいブレスレットを見ながら、真剣な声を上げるモードレッド。

 事前にわかってるのに真剣にリアクションしてくれるんだから、子供って可愛いよなぁ……。

「でも、かくりつのところは90%ってかいてあるよ?」

「大丈夫! 『確率なんてただの目安! あとは勇気で補えばいい!!』って長官も言ってただろ!」

「そうだった!」

「ああうん、『ガオ●イガー』面白かったよな」

 子供達のセリフに遠い目をするセイバー。

 つうか、お前ら『アン●ンマン』とか『ジ●リ』見てたんじゃないのか。

 『勇者シリーズ』なんて、ジャックちゃんの教育に悪いじゃねーか。

 やっぱり、本気でアマゾネス禁止を考えるべきかもしれん。

「よし、行くぞ! 魔力回路全開! マジカル・チャージ!!」

「わたしたちも、おてつだいするよ!!」

 今回の旅行に出る際にニニューさんから渡されたブレスレットが、モードレッドの掛け声によって大きく光を放つ。

 分かってはいるけど、嫌な予感しかしねぇ。

「「ヴォーティガーン!!」」

『キング・アルビオォォォォォン!!』

 最高潮に達したブレスレットの光を浴びた陛下が天に手をかざすと、その後ろから土煙を上げて車両が現れる。

 全長15メートル以上というトレーラータイプの超巨大車両は、陛下の横を通り過ぎると同時に車両底部のバーニアによって宙を浮いた。

 そしてコンテナの部分が下になるように立ち上がると、瞬く間に人型へと変形していく。

 説明したいのはやまやまなんだが、変形プロセスが複雑すぎて理解できん。

「とうっ!」

 変形が大詰めになると同時に、巨大ロボへ向かって飛ぶ陛下。

 空中で車両に変形した陛下を開いた背面の装甲に格納すると内腕部の装甲が開いてそこから手が、そして胴体の首の部分からヘルムとマスクを装備した首が飛び出す。

 最後に胸の部分の装甲が裏返ると、そこにあるのは巨大な黒竜の顔。

 左右から挟み込むように展開する追加装甲が西洋の竜の顔を彩る(エラ)となり───

「ひゃあーーーー」

「はわーーーーー」

 最後に額に埋め込まれている宝石から延びる光が、まるで道のようにモードレッドとジャックちゃんを陛下の中へと導いていく。

「おい、子供達があの巨人に飲み込まれたぞ! 助けなくていいのか、マスター!!」

「心配すんな。開発者と本人から事前に説明はあった。あれは逆に子供達を保護してるんだよ」

 変形が完了しつつある陛下から視線を切らずに、俺は霊体化を解いたアタランテに言葉を返す。

 だいたい、そうでなかったらこんなノンビリ見てるワケがないだろうが。

『巨竜合体! ヴォーティガーーーーン!!』

 こうして、黒のキャスターが操るゴーレムに負けないほどの巨大勇者と化した陛下が、現世の大地に降り立った。

 その光景を見た俺の感想は、この一言に限るだろう。

 『妖精郷、驚異の技術力』と。 




 次回予告

 君たちに最新情報を公開しよう。

 ついに現世の姿を現した巨大勇者ヴォーディガーン。

 対する古代の叡智を結集した邪悪なるゴーレム、ケテルマルクトは大地の祝福による無限の再生能力で襲い掛かる。

 ルーマニアの地を揺るがす巨大対決。

 二人の幼女の心が一つになるとき、ヴォーディガーンの真の力が覚醒する!!

 次回『決戦! ケテルマルクト』にマジカルチャージ!  

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