剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

74 / 137
 皆様、お待たせしました。

 久々の全編戦闘シーンだった為、なかなか筆が乗らずに四苦八苦するハメになりました。

 ええ、ギル杯でドルセントのおっぱい突きまくっていたわけじゃないですよ(目反らし

 最初の内は筆が乗っていたので第五次の前にこっちを書いてたのに、どうしてこうなったっ!?

 次こそは五次を書きたいと思います。

 余談

 ギル杯も佳境ですが、皆様ボックスガチャにかまけて素材を交換するのを忘れない様に。

 かく言うアキ山はC・K・T以外はまったく交換してません。

 このままボックスオンリーで駆け抜けるべきか……。


剣キチさん一家ルーマニア滞在記(14)

「さて、遊ぼうか」

 

 そう呟くと、俺を取り囲んでいた二人の顔が目に見えて強張るのが分かった。

 

 放っている気配や槍を持つ手に込められた力具合から、奴らの警戒度が一つ上がったのは間違いないだろう

 

 まあ、そうでなくては困る。

 

 こっちだって心構えを『手合わせ』から『戦闘』に繰り上げたのだ。

 

 その程度を察せられないなら、見込み違いもいいところだ。

 

 そうして静寂の中を左右の男達に目を走らせていると、突如赤のライダーであるアキレウスが大声で笑いだした。  

 

「フ……ハハ、ハハハハハ! この威圧感! 背筋に氷を入れられたような感覚! 流石はガヘリスの父親だ! 貴様もまた俺の好敵手に相応しい勇者のようだな!」

 

 予想の斜め上を行く反応に内心驚いていると、笑い終えた奴はえらく剣呑な瞳をこちらに向けて言い放ってきた。

 

 アタランテを引き抜いたことによる失恋のショックでテンパったのかと思ったが、そうではないらしい。

 

「我が名は赤のライダー・アキレウス! ギリシャに名を轟かせし大英雄だ!! さあ剣士よ、貴様も名を名乗るがいい!」 

 

 妙なテンションで名乗りを上げたうえに、それをこちらにまで強要してくるアキレウス。

 

 いやいや、君の厨ニ臭いノリについて行けるほど俺は若くないんだがなぁ……。

 

 とはいえ、水を向けられたのに応えないのはさすがに失礼というもの。

 

 ここは名乗るしかあるまい。

 

「アルガだ。ここまで来て口上も何も必要ないだろ、さっさとかかって来い」

 

「上等だ!」

 

 こちらの言葉に、旋回させた槍の穂先を向けて床を蹴るアキレウス。

 

 同時に逆方向にいるカルナもまた、逆巻く炎の中槍を構える。

 

「手を出すな、ランサー! 奴は俺の獲物だ!!」

 

「そうはいかん。ここが庭園の中である以上、この戦いは神父とアサシンも見ている可能性は高い。奴らの不興を買えば、マスターの命が危険に晒されるからな」

 

「……チッ! いいだろう、だが足手纏いになるなよ!!」

 

「善処しよう」

 

 二人のやり取りを耳にしながら、俺はゆっくりと調息する。

 

 鞘と刀を携えた手は構えを取らずに自然体のまま体側に垂らしている。

 

 もとより戴天流に二刀を使う技は無い。

 

 現状を省みると赤の主力である二騎を倒すのは少々都合が悪いので、攻撃に鞘を防御には刀を主して使う事になるだろう。

 

 鞘を攻撃に廻して大丈夫かという懸念はあると思うが、その辺は全く問題ない。

 

 得物を変えた程度で技が使えなくなるほど、軟な鍛え方はしていないのだ。

 

 さて、迎撃態勢が整ったところでこちらを取り囲む二人に意識を向ける事にしよう。

 

 先ほどの挑発に容易く乗りかけたあたり、アキレウスは大英雄を自認する割には随分と不用心な性格のようだ。

 

 とはいえ、だから制しやすいかと言えばそれは別問題である。

 

 ギリシャ神話最速の英雄と言われるだけあって、アキレウスの身体能力は群を抜いていた。

 

 その健脚は一歩目で床板を踏み抜き、二歩目にはこちらの動体視力は振り切られるほどの速度を発揮してみせたのだ。

 

 トップギアへと至ったのか、今の奴の存在を示すのは断続的に聞こえる風切り音と、踏み切りの際に砕いた壁や床の跡だけである。

 

 もっとも『意』や気配を察知できる俺には居場所など駄々洩(だだも)れなのだが。

 

 アキレウスが周りの壁やら何やらを蹴りつつ三次元機動で近づく中、カルナの方も動きを見せている。

 

 奴が取ったのは、槍の穂先に魔力を収束させてこちらに炎を波として放つというモノ。

 

「はっ!!」

 

 鋭い呼気と共に振り抜かれた黄金の槍の軌跡に沿って、2メートルほどの高さの炎の壁が押し寄せてくる。

 

 だが、この程度ならば剣を振るうまでもない。

 

 氣当たりの応用で練り上げた内勁を基に剣氣を放てば、目の前に起立していた炎が両断された。

 

 断面を起点として一気に姿を消す炎の壁、それをカモフラージュに二つの気配がこちらへと襲い掛かる。

 

 一つは業火を纏い、黄金の切っ先を先頭に突撃してくるカルナ。

 

 先ほどの壁とは比較にならない程の熱量を放つ奴は、回廊の大理石を次々と融解させながらこちらへと迫る。

 

 だが、まだ甘い。

 

 眼前へと迫った穂先に倭刀の刃を咬ませれば、甲高い音と共に奴の纏っていた炎は一斉にその姿を消した。

 

 刀に込めた内勁が奴と得物を包む魔力の因果を断った証拠だ。

 

 そして、力の流れに逆らわずに切っ先を軽く捻ってやると、魔力の推進力に任せて宙を駆けていたカルナの身体はグルリと反転した。

 

「な……ッ!?」

 

 炎も突撃の勢いも失い、天地逆となって無防備に腹を(さら)す赤の槍兵。

 

 俺はその鳩尾(みぞおち)目掛けて、床板を割る程の震脚と共に肘を叩き込む。

 

「がはぁ……ッ!?」

 

 肺の中の空気を吐き出しながら、身体をくの字に折ってカルナは吹き飛んでいく。

 

 器械(きかい)武術を主としている戴天流剣法であるが、内功掌法をはじめとして白打(はくだ)の技もしっかりと存在するのである。

 

 そして今見せた波涛任櫂も、通常のモノとは一味違う。

 

 20年ほど前に所用で日本に行った際、そこで知り合った周防某という柔術家から教わった合氣の技術を織り交ぜた『波涛任櫂・改』と言うべき代物だ。

 

 組み込んだ柔術は相手に投げた事すら気づかせない程の技なので、上手くいったのならカルナは刃を交えた感覚すら感じる事がなかっただろう。

  

「うおおおおおおおっ!!」

 

 そうしてカルナを退けると、もう一つの気配がこちらに襲い掛かってくる。

 

 相棒がやられた事でかく乱を止めたのか、左後方の壁が砕けるのとほぼ同時にアキレウスの気配は俺の背後へと現れる。

 

 なるほど、確かに速い。

 

 奴の生み出す速度は人間はもちろん、並の英霊やサイバネ武術家の追随を許さないだろう。

 

 だが、それだけだ。

 

 俺は振り返る事なくボクシングにおけるヘッドスリップの要領で背後から頭部を射貫かんと迫る青銅の穂先を躱すと、全力の一撃によって前方に身体が泳いだアキレウスの喉に黒塗りの鞘の先を打ち込んだ。

 

「ガッッ……!?」 

 

 ピンポイントで喉仏を押し潰されたアキレウスは、苦悶の声を上げることも出来ずに血反吐と共に吹き飛んでいく。

 

 やはりこちらもまだまだ青い。

 

 速度に偏重しすぎるあまり、技の入りがバラバラになってしまっている。

 

 如何に速度があろうとも、これではただの宝の持ち腐れだ。

 

 『気の抜けた技では子供すら倒せはしない』

 

 これは武術に措ける常識である。

 

 背中から地面に叩き付けられ、殺しきれない勢いから数メートルほど床を滑っていくアキレウス。

 

 これで終わればこちらも楽なのだが、相手は仮にも大英雄と呼ばれた男達である。

 

 双方とも、そんなに可愛いタマではないだろう。

 

 その思考が正しい事を証明するかのように、間を置かずに熱と共に次の『意』がこちらに襲い掛かってくる。

 

 感覚が鳴らす警鐘のままに素早くその身を屈めれば、目に映るのは先程まで首のあった場所を薙いでいく赤熱化した穂先。

 

 そして、その先で鉄面皮ながらに目を見開くカルナの顔だ。

 

 アキレウスを退けた事で、気が緩んだ一瞬を狙う一撃。

 

 タイミングも速度も申し分ない、奇襲としては最適なモノだった。

 

 だがしかし『意』に関しては仕方が無いにしても、魔力放出はいただけない。

 

 奴の魔力放出は炎を伴う。

 

 大気を伝わる熱や灼ける臭い、そして火の粉の爆ぜる音。

 

 その全てがカルナの攻撃を仕掛けるタイミングをこちらに教えていたのだ。

 

 そして、それが分かっているならば例え視覚外からの攻撃であろうと、躱すのは欠伸が出るほど簡単だ。

 

 槍が空を切るのを確認すると同時に、宙を舞う数本の薄い金糸の髪の切れ端を置き土産にして俺は床を蹴った。

 

 立ち上がる勢いを活かした踏み込みはカルナに体勢を立て直す暇を与えずに間合いを殺し、左手で放った抜き打ちは相手の胴を捉える。

 

 木を打ち付ける軽い音と共に腕を伝う感覚に、俺は自身の仕掛けた試みが成功した事を悟った。

 

「なんだと……ッ!?」

 

 長柄の間合いを確保しようと後方に跳んだカルナは、被弾箇所に視線を落とすと驚愕に目を見開いた。

 

 何故なら鞘で打たれたにも拘わらず、その部分は黄金の鎧がパックリと裂けて少なくない出血が見られたからだ。

 

 今の一撃の際に鞘に込めた内勁は全力の六割ほど。

 

 数打ちの刀で三割なら鞘でも抜けるかと思ってやってみたんだが、案外上手くいくものである。

 

 兎も角、この事でカルナの警戒度が目に見えて上がった。

 

 一粒とはいえ鉄面皮に冷や汗を掻いているあたり、奴の精神的衝撃が見て取れるというものだ。

 

 慎重さが増したカルナを視線による威嚇とフェイントで縛り付け、俺は右後方から振り下ろされる青銅の刃を半身を引いて躱す。

 

 振り向きざまに放たれた黒塗りの鞘は、カルナの鎧を破壊したのが偶然ではない事を示すように、今度はアキレウスの肉体にも袈裟斬り状の傷を刻みつける。

 

「馬鹿な! 鞘などで俺の身体に傷を……ッッ!?」

 

「なんだ、お前も身体に妙な絡繰りがあるクチか」

 

 驚愕の声を上げるアキレウスに追撃を掛けようとしていた俺は、足元に現れた『意』に振り上げていた脚で床を蹴って後方に跳んだ。

 

 すると次の瞬間には床に陣が現れ、楔付きの鎖の群れが吹き出してきた。

 

 表面に赤錆が浮かび、成人男性の腕ほどの太さを持つ鎖の数は10を超える。

 

 現れた瞬間に微かに肌がヒリつく感覚を覚えたところを見ると、表面を覆っている紫がかった靄は何らかの毒素だろう。

 

「女帝殿に感づかれたか。思った以上に遅かったな」

 

『我が庭園を傷つけただけに飽き足らず、またしても土足で入り込むとは……ッ! もはやその首を刎ねる程度では収まらぬ! その身体を千の肉に斬り刻んで、野鳥共の餌にしてくれるわッッ!!』

 

 おカンムリな女帝殿の声に合わせて、魔法陣から伸びていた鎖はうねり渦を巻くように回転を始める。

 

 周囲の大気を吸い上げながら猛烈な勢いで螺旋を描く鎖は、その身を一つに束ねて先の楔を巨大な穂先とした槍へと変化した。

 

 大蛇のように鎌首を上げて頭上から襲い来る槍鎖。

 

 もっとも、こちらからしてみればこの程度はこけ脅しにもならない。

 

 斬り上げた鞘で纏った毒素ごと鋼の蛇を斬り捨てると、その隙を突いてカルナの槍が背後から襲い掛かって来る。

 

「ほう……」

 

 迫りくる雷帝の槍を気取った際、俺は思わず感嘆の声を零してしまった。

 

 火の粉を零しながら突き出される黄金の切っ先からは、『意』がほとんど感じる事が出来なかったからだ。

 

 無念無想に限りなく近い一撃。

 

 これを任意で放てる事が出来るのならば、いっぱしの達人を名乗っても恥じない腕と言えるだろう。

 

 ───だが。

 

 呼気と共に床を蹴った俺は、一瞬前に場所を業火を纏った槍が穿つのを視界の端に納めながら、カルナに向けて鞘を振るう。

 

 戴天流・鳳凰吼鳴。

 

 天を舞う鳳凰が獲物に襲い掛かる際の爪を()した一撃は、雷霆(らいてい)の速度を以ってカルナの黄金の鎧を斬り飛ばし、その左肩を割った。

 

 先程の一撃は称賛に値するが、それだけでは俺を捉えるに足りない。

 

 そも、『意』の察知は内家拳や同門対決ではその意味を為さない技術だ。

 

 ならばこそ、一つの技術に傾倒する事なく他の手を身に付けねばならない。

 

 『意』が察知できなくとも相手の動きや氣の流れによって技を見抜き、身体の周りに意識の結界を張る事で攻撃が放たれる際の空気の動きや地面の振動などを掴み取る。

 

 それでもダメだった場合は防御勘や危険察知の直感等々の手札の出番だ。

 

 こちとら前世から一撃貰えばあの世逝きの条件で1500年以上も鉄火場に身を置いているのである。

 

 防御の手管だって、十重二十重(とえはたえ)と用意してあるさ。

 

「もらったぁっ!!」

 

 吹き上がる鮮血を背に音も無く歇歩(シェブ)の姿勢で着地を決めると、次に牙を剥くのはアキレウスの振るう青銅の槍だ。

 

 裂帛の気合と共に、薄闇を裂いて放たれる三条の直突き。

 

 軽身功を駆使して後方にトンボを切る事で一手、着地と同時に後ろに跳ぶ事で2手目をやり過ごし、3手目は身を捻りつつ踏み込んでアキレウスの身体側へ逃れた。

 

 しかし半神である奴の動体視力は、こちらの動きを見逃してはいない。

 

 引き戻しかけていた槍を途中で留め、身体の捻りと共に横薙ぎの一撃を放とうとするアキレウス。

 

 しかし、それよりも速くこちらの動きで(ひるがえ)った外套の裾が奴の視界を(ふさ)ぐ。

 

 目に自信を持っている奴ほど、それを潰された時の動揺は一入だ。

 

 奴の思考と動きが硬直した刹那の間に俺は身体の捻りを利用した廻し蹴りを放つ。

 

 戴天流・臥竜尾。

 

 遠心力と内勁が籠った踵にコメカミを抉られたアキレウスは二、三歩たたらを踏んだものの、槍を床に付いて転倒するのは免れた。

 

 だが、こちらの攻め手はこれで終わりではない。

 

 体勢が安定していない奴の懐に飛び込んだ俺は、その腹部に手を当てて一気に勁を叩き込む。

 

 黒手裂震破でも紫電掌でもない只の発勁、それでも今のアキレウスの身体を吹っ飛ばすには十分だ。

 

『おのれぇっ!!』

 

 女帝殿の怨嗟の声と共に飛んできたのは、紫電の弾丸と毒霧だ。

 

 ここはあっちの腹の中同然なので、罠を遠隔で動かせるのは当然だろう。

 

 しかし、ただでさえ仕掛けに『意』が沁み込んでいるのに激情のままに動かしては奇襲も何もあったもんじゃない。

 

 俺は鞘で雷弾を弾き返すと、返す刀でこちらを飲み込もうとする毒の膜を一刀で切り払った。

 

『馬鹿な…ヒュドラの毒がこうも簡単に……ッ!? ええい、貴様の剣はどうなっているのだ!?』

 

「悪いが企業秘密だ」

 

 やれやれ、ヤバそうな毒だと思っていたらヒュドラの代物か。

 

 姉御の特別講習で習った内容だと、たしかヘラクレスの死因になったとかいう猛毒だったな。

 

 そんなモノを食らったら、貧弱な俺など骨も残らんだろうに。

 

「ぐ……がは………ッ!?」 

 

 苦しげに喘ぎながらもアキレウスはゆっくりと身体を起こす。

 

 浸透勁による内臓への衝撃に加えて、横隔膜が収縮するような角度で打ち込んだのだ。

 

 普通であれば当面はまともに呼吸も出来ないはずなのだが、なかなか天晴な根性である。

 

 大英雄の称号は伊達ではないという事か。

 

 素早く目を走らせれば、逆の方では再び槍を構えているカルナの姿が見える。

 

 断ち割った鎧が修復されている様子が無いところを見ると、多少の損傷では治癒能力は失われないようだ。

 

 さて、ここまでで経過した時間は約30秒。

 

 三対一ということで攻防としてはなかなかに面白いのだが、大英雄相手と看板が付くにはやはり物足りない。

 

 こちらとしては呂布や趙雲みたいな卓越した技量を持った武人とガチャガチャ闘り合うのを期待していたワケで。

 

 生まれ付きの凄い特殊能力だの、神様から貰った槍や鎧だのが目当てではないのである。

 

 そういったモノを抜きにして見れば、この二人の技量は攻撃に関してはランスロットと同等。

 

 防御はベティヴィエールとトントンと言った具合だ。

 

 ここがむこうのアジトの中だという事情から最大火力の奥の手は封印しているんだろうが、それを考慮に入れても肩透かし感は否めない。

 

『姉御、いま大丈夫か?』 

 

『なにかしら?』

 

『いや、聞きたいことがあってさ。英霊の格って、宝具の性能で決まるモノなのか?』

 

『そうね……。普通は成した偉業が世界に与えた影響が重視されるわ。あとは年代が古く神代に近ければ近い程に格が上がるし、戦闘職に関しては宝具も重要視されるかしら。英雄と伝説の武具って切っても切れないものだしね』

 

『なるほど。やっぱ、武術の腕だけで登り詰めた奴ってのは少ないんだな』

 

『そうね。英雄譚でスポットが当たるのは功績と武具が主だから。アルガが望むような英雄は近代の日本や中国くらいにしかいないと思うわよ』

 

『そっか……。ありがとう、助かった』

 

『庭園の解析は8割がた終わってるわ。あと少しで転移術式を割り込ませられるから、もうちょっとだけ頑張ってね』

 

 念話が切れるのと同時に思わずため息が出た。

 

 どうやら俺の思っているような展開はあり得ないらしい。

 

 勝手に期待して勝手に失望するなんて失礼なのは分かってはいるが、こればっかりは武人の性なので如何ともしがたい。

 

「馬鹿な…このオレが……」 

 

 無理矢理に絞り出したのだろう、アキレウスの擦れた声が耳に入った。

 

 奴さんは大英雄なんて呼ばれていたくらいだ。

 

 順風満帆な生前では、一方的にやられるなんて経験はないんだろう。

 

 だがしかし、戦場でそういう声は漏らすべきではないな。

  

 自分の武力に絶対の自信を持つ者が弱気になっていると分かれば、相手が調子づくだけなのだから。

 

「信じられないか、大英雄?」

 

 こちらの声にアキレウスは脂汗が浮かぶ顔を上げた。

 

「まあ、無理もないか。力、速度、耐久性、戦闘に置いて重要視される物は全て勝っているのに、まったく優位に立てないんだから。けどな、そいつが武術の妙って奴だ」

 

「武術の妙、だと?」

 

 カルナから飛んだ疑問の声に、俺は白刃を肩に預けながら頷いて見せる。

 

「武術は弱者が強者を制する為の術。例えるなら、女子供が大の男を打倒する為の技術と言える。だからこそ、その神髄は技を以って力を制する事にある。今の攻防はまさにそれを表していたんじゃないか?」

 

「……ッ。 それは俺達が未熟だと言いたいのか……ッ!?」

 

「当たり前だろ。1500年もの間、ひたすらに剣を振り回して来た俺でもまだまだ至らないんだ。20年そこらしか武に関わってない洟垂れが一端なワケあるかよ」

 

 絞り出すような怒りの声にこう返してやると、言葉の主であるアキレウスはもちろん、カルナまでもが唖然となってしまった。

 

 2度の聖杯戦争や座で感じた事だが、英霊は技術的に未完成のままに終わってしまった者が多い。

 

 まあ、英雄というモノは得てして早逝するものなので、技が円熟するまで生き延びる者が稀というのが理由なのだろう。

 

 あとは特殊能力や宝具に至る武具の影響で伸び代が縮んでしまった奴とか。

 

 この二人の攻撃に大きく傾いていた技量を見れば、優れた武具や便利な能力が如何に成長を阻害するか良く分かるというモノだ。

 

『1500年だと……貴様、いったい何者だ?』

 

「神仙……いや、邪仙か。普通の仙人は武を極めようなんて思わんだろうしな」 

 

 女帝殿の問いに応えながら腕時計を見ると、タイムリミットまで残り15秒を残すのみになっている。

 

 このままトークで煙に巻くのもありなのだが、あれだけ啖呵を切っておいて『見つかったから逃げてきました』では格好が付かない。

 

 ここは最低限の仕事はしていくべきだろう。

 

 そう考えた俺は再度姉御に念話を飛ばして、あるモノの場所を確認した。

 

「さて……二人の程度も分かったし、時間も押してきてる。そろそろお暇しようかね」

 

『虚けがっ! 我に対して数々の狼藉を行っておきながら、無事に帰れると思っているのかッッ!!』

 

 姉御の間違いないというお墨付きの答えを耳に、周囲への警戒はそのままに気が抜けた素振りで首を鳴らしていると、案の定女帝殿が激発した。

 

 シロウ神父の右手切断に始まり、庭園の破壊に問答での無礼と来て今回の侵入事案だ。

 

 無個性モブ剣士にここまでされては、支配者層の人間ならキレてもおかしくはないか。

 

 女帝が放つ怒りの咆哮に応えるように、庭園中に響き渡るような鳴動と共に回廊を高濃度の魔力が走り抜けた。

 

 それらは俺達の前に収束し、薄紫色の影となって門を形作る。

 

 そしてゲートから現れたのは、青みがかった紫という毒々しい鱗を持つ巨大な竜だ。

 

 顔を覗かせただけで、露出している場所全てに肌を刺すような痛みが走った。

 

 あの竜が吐息と共に零している濃い紫の瘴気もまた強力な毒素なのだろう。

 

 奴がこの場にいるだけで襲い来る毒素を俺は白刃の一刀で切り払う。

 

 いくら世界最古の毒殺者だと言っても、ワンパターンすぎやしないか?

 

 あのトカゲモドキはいるだけで回廊内の大気をバンバン汚染しているみたいだし、こっちにはまだライダー達もいるというのに無茶をするものだ。

 

『こ奴はバシュム! 偉大なる創世の女神ティアマトが産み落とした毒の神竜よ!! いかに貴様の剣が優れているとはいえ、ヒュドラを上回る毒には勝てまい!』

 

「アサシン! 貴様、俺達もいるんだぞ!?」

 

『虚け! 貴様も英雄ならば、バシュムの攻撃を潜り抜けて奴を倒して見せよ!!』

 

 ヒュドラ以上という言葉に顔色を無くしたアキレウスが抗議の声を上げるが、女帝殿は一考だにもせずに無茶ぶりを押し付けた。

 

「アサシンのクソッタレがッ! いいだろう! 俺が真の英雄である事を、この竜と奴の首を獲る事で証明してやる!!」

 

 半ばヤケクソ気味に吐き捨てながらこちらへと駆けだす赤の騎兵。

 

 つーか、英雄への拘りがキツすぎだろ。

 

 韋駄天もかくやの脚力を活かした頭上からの突き降ろしを白刃で捌くと、奴は自身の身体を軸として青銅の槍を激しく旋回させた。

 

 遠心力を込めた穂先と石突の連続攻撃を時に鞘で弾き、時には刀で絡め捕る事で次々に捌いていく。

 

 横薙ぎの攻撃ばかりなら潜り抜けてアキレス腱に一撃を加えてやろうと思っていたのだが、生憎と絶妙なタイミングで突きを織り交ぜて来たためにそれは叶わない。

 

 数十手の薙ぎ払いを受けると同時に消力で後方に跳んで間合いを開けたところ、毒竜がその足をアキレウスに振り下ろすのが見えた。

 

 奴の動きはその巨体に反して素早いものだったが、アキレウスには及ぶべくもない。

 

「トカゲ風情が邪魔をするなっ!!」

 

 下がるのではなく前に出る事で回避と共に懐に飛び込み、槍を(かざ)して毒竜に飛び掛かるアキレウス。 

 

 少々気になるところであるが、のんびりと観戦している余裕はこちらにも無い。

 

 今度は背後から炎の壁、頭上からは拳大の魔力弾が降り注いできたからだ。

 

 俺は迷うことなく炎の壁を刀で切り拓くと、その向こう側に身を躍らせた。

 

 背後でマシンガンの着弾音もかくやという耳を(つんざ)く轟音が鳴り響く中、目の前にはこちらに穂先を向けたカルナの姿があった。

 

 特筆すべきは奴の身体を覆っていた黄金の鎧は姿を顰め、手にした得物も雷帝の槍ではなく壁に並んだ装飾の甲冑が持っていた素槍であるという事だろう。

 

「どういうつもりだ、ランサー?」

 

「大したことではない。オレは一人の戦士として、お前の持つ1500年の武の研鑽を感じたいと思っただけだ」

 

「その為に得物と鎧を捨てたと?」

 

「捨てたわけではない。だが、お前の言った武の神髄。弱者が強者を倒す術を学ぶには、あの鎧と槍は少々手に余る」

 

「いいだろう。英雄ではなくカルナという男の力、見せてもらおうか」

 

「是非も無し」 

 

 言葉と共にカルナは床板を蹴った。

 

 魔力放出を使っていないにもかかわらず、踏み込みの勢いは衰えが見えない。

 

 放たれる突きを弾けば石突が、石突をいなせばその反動を利用して頭上から踵落とし、それを躱せば蹴り足を踏み込みとして胴を薙いでくる。

 

「ほう……さっきよりも随分と技の鋭さが増したな」

 

「今、俺の手に有るのはインドラの槍ではない。急所を的確に捉える必要がある以上、精度を上げるのは必然だ」

 

「それ、槍の威力に頼ってるって事じゃねーか。武器の性能に感けて手を抜いてると、腕前なんてすぐに落ちちまうぞ」

 

「最適な力加減を考慮したつもりだったのだが……いや、お前の言う事は尤もだ。次からは注意しよう」

 

 反省の言葉とは裏腹に鋭くこちらの喉元を狙うカルナの突きをいなすと、俺は奴の射程外へと跳び退いた。

 

 間合いが離れた事で、カルナもまた槍術の基本である右前半身構えを取る。

 

「俺の研鑽が知りたいと言ったな。なら、面白いモノを見せてやるよ」

 

「それは願っても無い事だ。それで、何を見せてくれる?」

 

「今から狙う部位を宣言してから打ち込むから、それを防いでみな。出来たらこの首をくれてやるよ」

 

「ほう……」

 

 こちらの不敵ともいえる宣言にカルナの視線が鋭さを増す。

 

 侮辱と取ったか、それとも純粋に面白いと感じたか。

 

 まあ、どちらにしてもやる事は変わらない。

 

「じゃあ、始めようか。まずは上段からの唐竹割りだ」

 

 そう宣言した俺は一足で間合いを詰め、言葉通りにカルナの頭頂部にむけて鞘を繰り出す。

 

 もちろんカルナは防御の為に動くが、槍を頭上に掲げた頃には俺の鞘は奴の頭に軽く触れていた。

 

「なに……!?」

 

 驚愕に目を見開くカルナを他所に、俺は再度間合いを取った。

 

「一度目は失敗だな。それじゃあ、次は胴薙ぎだ」

 

 再び宣言どおりの部位に鞘を奔らせると、カルナは先ほどよりも険しい表情で槍を操る。

 

 だが、結果は同じだ。

 

 鞘は奴の防御の内側、普通の戦士よりも痩身である奴の脇腹に触れる寸前の位置で止まる事となった。

 

 その後、袈裟斬り、逆袈裟、逆胴、右切上、左切上と宣言した後に技を振るったが、その何れもカルナは防ぐことができなかった。

 

「馬鹿な……」

 

「面白いだろ。千年以上も馬鹿みたいに剣を振ってりゃあ、英雄相手でもこういう真似ができる。これが才能や血筋じゃ到達できない、武術に捧げた時間のみが可能とする深みってやつだ」

 

 打ちひしがれるカルナに、俺はニッと笑って見せる。

 

 カルナの防御が成功しなかった理由は、奴がこちらの攻撃に反応できなかったからだ。

 

 戦闘における防御というのは、相手が行動を起こしてから察知したのでは先ず間に合わない。

 

 では、どうやって察知しているのかというと、相手の拍子言い換えればリズムを読み取り、そこから攻防における起点を察知して相手が行動に映るよりも速く防御に入るのだ。

 

 先程の俺の攻撃は無拍子、即ちこちらのリズムを起こすことなく行動に移ったわけだ。 

  

 そうなれば相手は攻防の起点を探すことが不可能になり、こちらの行動を察知した時には既に手遅れ。

 

 放たれた攻撃は奴の身体に届いているという寸法である。

 

 当然、全ての動きを無拍子で行うなど、並大抵の事では到達しえない。

 

 最低限の動きで最大の効果を得るために、毎日鏡の前で型をチェックしながら千回素振りを繰り返すくらいの努力が必要なのだ。

 

 さて、カルナとのお遊びも一端の区切りが付くと、先程までアキレウスと戯れていた毒竜がこちらに狙いを定めたのが見えた。

 

 醜悪な声と共に回廊の天井まで届く巨体をグルリと旋回させる毒竜。

 

 そうして繰り出されるのは、遠心力の乗った尻尾だ。

 

 成人男性三人分もの太さのそれは、大きくしなりながら先端に付いた棘付きの瘤をモーニングスターのように振り下ろしてくる。

 

 だがしかし、その凶器が俺達の頭上に降り注ぐことはなかった。

 

「おおおおおりゃああああああああっっ!!」

 

 念のために退避した先で見たものは、自身が生み出した神速を込めた渾身の槍を竜の眼に突き立てているアキレウスの姿。

 

 悲鳴を上げながら、激しく頭を振る毒竜。

 

 その勢いに頭から振り落とされたものの、アキレウスは床を踏み砕きながら着地する。

 

「どうだ、今の一撃は! あの竜を討ったら、次は貴様の……ッッ」

 

 こちらを向いて戦意剥き出しの嗤いを見せていたアキレウスだが、その語尾が弱まったと思った途端にガクリと膝を付いた。

 

 見れば、竜の体液を浴びた背中や脇腹から刺激臭を伴った煙が立ち上っているではないか。

 

 どうやら奴はその体液に至るまで、毒素を帯びているようだ。

 

 ヒュドラのそれを上回るという猛毒は強烈らしく、アキレウスの顔面は蒼白で充血した両目からは薄く血涙が流れている。

 

 ここまでのダメージを負っても苦鳴一つ上げない意地と根性は天晴である。

 

 軽く息を付いた俺は体液が付着した箇所に刀を(はし)らせ、アキレウスを蝕む毒の因果を断ち斬った。

 

 別に助けてもらったわけでもないし、アキレウスだってこっちを助ける意図などなかっただろう。

 

 奴は最初に宣言した通り、英雄として俺と毒竜の首を上げようとしただけに過ぎないのだから。

 

 とはいえ、こちらを狙った竜の一撃をアキレウスが阻んだのもまた事実。

 

 ならば、毒を消してやるくらいはしても罰は当たるまい。

 

 なにより、ここでリタイヤされたら俺の苦労が無になってしまうではないか。

 

 身体を蝕む苦痛の元凶が消えた事で、その場に崩れ落ちるアキレウス。

 

 毒は消せても蝕まれた身体の損傷まではどうにもならない。

 

 確認するまでも無く、奴はこの戦いでは戦闘不能だろう。

 

「ランサー、ライダーの面倒を見ろ。一応、お前の仲間だろ」

 

「了解した。竜はどうする?」

 

「こっちで始末するさ。何だかんだ言っても、俺に嗾けてきた奴だからな」

 

 倒れ伏したアキレウスをカルナに任せ、俺は再び毒竜と向き直る。

 

『ライダーの愚か者め! 本当にバシュムに向かっていくやつがあるか!?』

 

 まったく以て御尤もな言葉と共に怒りを露にする女帝殿。

 

 施政者であり賢しい彼女には、馬鹿をやる男の心理など理解できないのだろう。

 

 ともかく、そろそろこちらもタイムアップである。

 

 ポカをやらかした身なのだから、ここは一発逆転といこうではないか。

 

 残された隻眼をギラつかせながら、毒竜は牙を剥き出しに唸り声を上げる。

 

 その様は飼い主の怒りを代弁するかのようである。

 

 とはいえ、こちらもトカゲ風情に構っている暇は無い。

 

 やるべきことは別に残っているのだ。

 

 こちらが臨戦態勢に入った事を察したのか、咆哮と共に鎌首を持ち上げて天井を仰ぐ毒竜。

 

 女帝殿の言葉が本当ならば、膨れ上がった喉袋に貯め込まれたブレスはヒュドラを超えるという猛毒のソレだ。

 

 その身から感じる威圧感、そして閉じられた口の両端から漏れる毒素はさらに強力になり、喉袋は臨界点と言わんばかりに真っ赤に染まる。

 

 そして奴の口から放たれる紫色の奔流。

 

 眼前から迫り来る死の爆風を前にしても、俺の心に恐怖などはない。

 

 全身の氣脈を巡り増幅・強化された内勁は両手を通り、数打ちの倭刀を必滅の刃へと変化させる。

 

 同時に鋭敏化した感覚が捉えるのは、瞳に映る全ての因果。

 

 ───この二つを極むるならば、至るは世界を断つ刃。

 

 それ即ち、天地万物絶対不可避の破壊なり。

 

()ッ!!」

 

 気合と共に大上段から振り下ろした白刃は、ガラスを断ち斬るような甲高い音を立てた。

 

 次の瞬間、こちらを飲み込もうとしていたブレスが太刀筋に沿って両断され、初めから存在しなかったかのようにあっさりと消滅した。

 

 そして毒竜バシュムもまた、中心から真っ二つに断たれ赤紫の血と臓物を撒き散らしながら巨体が回廊へと沈む。

 

「おし、なんとか上手くいったな」

 

 心の内でこっそりと安堵の息を付いた俺は、血振りした刃を鞘に納めた。

 

 同時に足元青い光によって描かれた魔法陣が展開され、転移術式用の結界がこちらを包み込む。

 

 流石は姉御、時間通りだ。

 

『馬鹿なッ!? 我が庭園に外部から術式干渉してくるだとッ!』

 

「幸いな事にウチの嫁さんは優秀なんでな。今回はこの辺で退かせてもらうぜ」

 

 混乱する女帝殿にドヤ顔で言い放つと、それに応えるように陣の光が勢いを増す。

 

 そんな中、意識の無いアキレウスを肩に担いだカルナが紅い方の瞳をこちらに向けた。

 

「いいだろう。だが、次に遭った時は俺の全てを以って相手をさせてもらう」

 

「その機会があれば、な」

 

 その言葉と共に光が視界を埋め尽くし、浮遊感と共に俺は庭園から姿を消した。 

 

 

 

 

ルーマニア滞在記 7日目(追記)

 

 

 赤のアサシン暗殺に失敗したダメ野郎です。

 

 姉御の助けを借りて庭園から脱出した俺は、家族が待つキャンピングカーへと転移した。

 

 どうも姉御が俺の様子をモニターしていたらしく、ジャックちゃんとモードレッドからは『すごくカッコよかった!』と飛び付かれ、お袋さんやガレス、ギャラハッドからは怪我は無いかと心配された。

 

 いつもはこう案じられる事は少ないのだが、今回は例の毒竜が居た所為で余計な心配をかけてしまったらしい。

 

 親として息子として反省してますです、ハイ。

 

 怜霞女史に陛下の闘いにジャックちゃんを巻き込んだことを謝罪したあと、俺は再度キャンピングカーを後にした。

 

 個人的には家族とまったりしたい所であったが、ミレニア城塞に息子たちを残していたし、一応は同盟関係なので事の次第を報告する義務があるのである。

 

 そういうワケで再度城塞にお邪魔すると、ルーラー・黒の陣営双方から奇異なモノを見る目を向けられてしまった。

 

 どうも女帝殿が半壊した城塞のセキュリティを逆手にとって、俺の様子を流していたらしい。

 

 奴さんには恨みを買っているようなので、アキレウス達にコテンパンにされる様を息子達に見せて、ざまぁと指でも指したかったのだろう。

 

 取りあえずは責任者であるフィオレ嬢に『失敗した、ゴメンね』と謝ると、物凄く歯切れ悪そうに生きててよかったという旨の事を言われてしまった。

 

 いったいこれはどうした事か? と首を傾げているとアストルフォ嬢から説明があった。

 

 どうも例の二騎を相手取ってまともに戦った事が信じられないそうな。

 

 こっちとしては、そんな事を言われても困るのだが。

 

 まあ、今回限りの縁だろうから仲を深める必要はないと頭を切り替えることにした。

 

 ちなみに、向こうにも態度を変えない人は存在したりする。

 

 赤のセイバーにアストルフォ嬢とジーク君、黒のアーチャーことアキレウスの師であるケイローン。

 

 後はゴルドのおっさんにカウレス君とそのサーヴァントであるバーサーカーだ。

 

 セイバーからは『やるじゃねーか! あの腕なら円卓の騎士としてもやっていけるぜ!!』との言葉を掛けられた。

 

 いや、ブリテン時代はその円卓の騎士を教導してた立場なんスけどね。

 

 ジーク君はキラキラした目でこちらを見ながら、『オレを助けてくれた黒のセイバーとどちらが強いだろう?』という何ともコメントしづらい言葉を投げかけてくれた。

 

 ケイローンにはアキレウスと戦った感想を聞かれたので、『槍を振るう時の型がブレてる。多分、敵の攻撃を軽減か無効化する特殊能力に頼って、攻撃を食らいながら無理やり反撃していた為に、変な体勢で槍を振るう癖が付いたのでは』と所感を返しておいた。

 

 それを聞いて『機会があれば一から鍛え直すことにしましょう』と口にした彼は、もの凄まじくイイ笑顔であった事をここに記しておく。

 

 他には陛下のインパクトが強かったのか、カウレス君からは『あの勇者ロボどこで買えますか!?』という笑えない質問が。

 

 妖精郷産だけど、手に入れるには人の身を捨てるという多大なリスクが存在します。

 

 購入を希望する前に、是非とも親御さんと話し合ってもらいたい。

 

 バーサーカーに至っては未だに俺をばいきんマン呼ばわりである。

 

 その辺は別に構わないのだが、ドキンちゃんの所在を聞くのは勘弁してほしい。

 

 ウチのドキンちゃんは俺と違って壊れ物なのである。

 

 ゴルドのおっさんからは『あれだけ圧倒していたなら、どうして倒してしまわなかったのだ!?』という詰問が来た。

 

 なるほど、言っている事は至極真っ当である。

 

 けど、あそこで赤の主力を墜としたら、お前等ウチの息子襲うじゃん。

 

 そう指摘してやると、フィオレ嬢達は『そんな事はしない』と反論してきたが、肝心のゴルドのおっさんは脂汗をかいて目を逸らしていた。

 

 別に怒っているワケじゃない。

 

 同盟と銘打っているが、もとより弱小同士の寄り合い所帯。

 

 ここに集まる三つの陣営は最終的には聖杯を求めて争う事になるんだ。

 

 互いが互いを利用しているだけで、信頼などある方がおかしいのだ。

 

 そして赤の陣営の力が削げれば、次に力があるのはウチの家族である以上、そっちに矛先が向くのは戦略的には当然と言えるだろう。

 

 まあ、万が一にも実行に移したらどんな手を使ってでも皆殺しにするけどね。

 

 雑談も一段落ついて、次はどうするのか? という議題に移ろうとしたとき、姉御から念話が来た。

 

 狙い通りに空中庭園が地上に落下したとの知らせである。

 

 毒竜をぶった斬った際に使った『次元斬』は何も奴だけを標的にしたワケではなかったのだ。

 

 『次元斬』とは対水晶蜘蛛用に開発していた、『世界斬り』を実戦使用に耐えうるようにマイナーダウンさせた技である。

 

 その効果は次元の因果を断つ事によって、その太刀筋に沿って進行方向にあるもの全てを両断するというモノ。

 

 これのミソは次元干渉という手法を取る事で、物質強度とは別のアプローチで対象に斬撃を掛けられるという事だ。

 

 ニニューさんの協力のもと何度か実験を行った結果、水晶蜘蛛の残した装甲を断てることが実証されている。

 

 じゃあ何故最初から使わなかったのかというと、不安定すぎるからだ。

 

 水晶蜘蛛襲来後に手を付け始めたモノなので付け焼刃感が否めないし、練度不足なため成功率は50%前後と頼りない。

 

 一応は範囲攻撃に分類されるために、大聖杯の場所が分からないと巻き込む危険がある。

 

 さらには失敗した場合は不発で効果がでないのならまだマシなほうで、下手をするとこちらの制御を外れて毒竜や庭園どころか前方数キロに渡ってあらゆる物体が真っ二つになる可能性もあったのだ。

 

 妖精郷に帰ったら早急に鍛え直したいと思います、ハイ。

 

 閑話休題。

 

 話を戻すとして庭園が落ちた絡繰りだが、これはあの宝具が持つ『逆しまである』という概念を断ち斬った事が起因している。

 

 あの空中庭園はラピュタのように飛行石が仕込んであるわけでも、バーンパレスのように主の魔力で『トベルーラ』しているわけでもない。

 

 姉御曰く『逆しまである』という概念を付与した事によって、あの大質量を浮遊させているだけなのだそうな。

 

 で、俺がやったのは中枢に『次元斬』を打ち込むことで、庭園を支えていたそれをバッサリいったというワケだ。

 

 これもオレをアンカーにして庭園の事を調べてくれた姉御のお蔭である。

 

 アサシンの排除とは行かないモノの、庭園を引き摺り下ろすという最低限の仕事を果たすことが出来た。

 

 ここで一気呵成に攻めるという案も出たのだが、フィオレ嬢やルーラーに却下された。

 

 フィオレ嬢曰く『あまりに想定外の事が起こり過ぎて、こちらも浮足立っている。攻めるにしても、一度体勢を立て直したい』とのこと。

 

 それって相手も迎撃態勢を整えるのでは? というツッコミが頭をよぎったが、空気を読んで口に出すことは無かった。

 

 必死に当主代行をやってる子供に、大の大人がアラを探して反論するなんてカッコ悪いじゃないか。

 

 それに、ヤバくなったらもう一遍俺がカチコミかければ済む話だしな。

 

 後の話し合いで庭園に乗り込むのは翌朝という事に決まり、今日のところは解散となった。

 

 ルーラー達はミレニア城塞に泊るとのことで、こちらにも誘いが来たが辞退させてもらった。

 

 休むのなら、家族と一緒の方がいい。

 

 そんなこんなでキャンピングカーに帰って来た俺は、チビッ子達の世話をアタランテやセイバーに任せて姉御に膝枕を借りて日記を書いている。

 

 普段はやらない膝枕をお願いした理由はふて寝である。

 

 ぶっちゃけ、カルナに隠形が見破られたのはショックだ。

 

 あの時は感心しきりだったけど、時間を置いてみるとだんだん悔しくなってきた。

 

 妖精郷の暮らしだとあんまり使う機会がなかったとはいえ、いくら何でも(なま)り過ぎじゃないでしょうか。

 

 ……いや、言い訳はすまい。

 

 理由はどうあれ、隠形の腕が衰えたのは(くつがえ)しようのない事実。

 

 ならば、後退した以上に鍛え直せばいいだけの話だ。

 

 俺、この聖杯戦争が終わったら各国の首相官邸に忍び込んで国家主席の額に『肉』って落書きをするんだ……。

 

 




 今回のまとめ

 剣キチ

 最低限の任務を果たしたものの、隠形を破れてご立腹。 

 本当は次元斬を使う気は無かった。

 額に肉特訓はネタじゃなくてガチの模様。


 ギリシャ最速の英雄

 強者と出会えたのは嬉しいが、良い様にあしらわれたのが許せない。

 戦闘ではあまりいいところが無かったが、ヒュドラ以上の竜に一矢報いたので良しとした。

 今回の横槍でセミ様への不信感が大幅アップ。

 これ以上ヘイトが堪ると赤の陣営を離脱する可能性大。

 ガヘリス、ケイローンを倒した後で剣キチにリベンジを誓う。


 施しの英雄

 剣キチを仕留められなかったのは残念だが、武の境地というべき技術を見れて割と満足。

 宝具をすべて捨て、自らの力のみで戦うというスタイルに戦士として興味が沸いた。

 機会があるなら出し惜しみ一切なしで剣キチに挑みたい。

 その前に元マスターの安全を確保するつもり。


 女帝様

 庭園を堕とされて呆然自失していたものの、剣キチ一人に引っ掻き回された事に気付いてガチで暗殺計画を練り始める。

 ただ、例のイカレた剣術に加えて優秀な魔術師のサポートが発覚したので、ワリと手詰まり感がある。

 黒の陣営との決戦前には排除したいが、どうしたものか……。


 モル子

 剣キチを基点として、庭園の構造は大体把握した人。

 宝具ではあるものの全て女帝様の魔力由来のものではなく、現実にある素材を使用して建造されていたモノである為、そこを突いて介入した。

 剣キチが甘えてくれて嬉しいが、不穏な事を考えているのは察知している。 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。