さて、自分の広げた風呂敷の中で最も悩んだカルナVSガウェイン戦。
剣キチならともかく、金ピカ並みのチートサーヴァント相手にガウェインが戦うとなると、本気で悩みました。
ええ、対魔忍RPGに逃げるくらいに。
何とか収束させましたが、ぶっちゃけ長男の強さが6章のバスターゴリ並に……。
強いって難しいなぁ。
ガヘリスとアキレウスが決戦場でぶつかり合ったのと同時刻、ミレニア城砦と庭園跡の中間に位置する平原では赤のランサー・カルナとガウェインが
「ふっ!!」
幾度目かの打ち合いによって弾かれる穂先。
カルナは槍を風車のように回転させて勢いを削ぐと、踏み込みと共に突きを繰り出す。
火の粉を残して空を裂く黄金の切っ先、それをガウェインは聖剣の腹で防いだ。
否、ただ防いだのではない。
刃を絶妙な角度で傾ける事で穂先を滑らせると、そのまま槍をなぞる様にして間合いを詰めたのだ。
聖剣と神槍が擦れ合い火花を散らす中、相手の意図を察して
「はぁっ!!」
しかし、一瞬早く剣の間合いに飛び込んだガウェインが袈裟斬りの一撃を放つ、
だがそれも精妙な操作によって跳ね上がった柄によって阻まれる。
一手毎にぶつかり合う互いの宝具から炎が舞い上がり、相乗効果で放たれた熱波が辺りを嘗め尽くす。
互いに太陽の加護を持つ者同士が競い合う舞台となった平原は、今や爆撃跡もかくやといった焦土と化していた。
「ぬんっ!」
刃を押し込もうとするガウェインだったが、纏う炎の勢いが増したカルナが槍を一閃すると大きく
カルナの全身から噴き出す炎は只の太陽神の加護ではない。
あれは彼自身の魔力を放出した証であり、その力は炎熱の付与だけでなく武器の威力向上や身体能力の強化も司る。
義体の効果によって常に太陽の加護を受けているガウェインに力で勝る事を見ても、その効果の強大さは折り紙付きだ。
「やはり、その魔力放出のスキルは厄介ですね」
「この炎は我が父スーリヤより授かりしもの。封じる術など無いと知れ」
宣言と共に焼け焦げた大地を飛び立つカルナ。
背面から放出される魔力炎はさながら戦闘機のアフターバーナーのように黄金の鎧を纏った痩身を加速させ、勢いのままに振るわれる槍は赤熱化した穂先によって大気すら焼き払う。
しかしガウェインも負けてはいない。
太陽の聖剣の刀身から炎を吹き上がらせると、亜音速で降り注ぐ槍撃を次々といなしていく。
(この動きは……)
烈火の如く槍を振るいながらもカルナはガウェインの剣技にその目を細める。
こちらの炎熱に力負けしないように炎を纏っているが、彼の騎士が振るう剣はこちらの槍を正面から受けることはない。
その切っ先を合わせると同時にこちらの穂先を絡め捕り、巧みな剣捌きで相手の力に逆らわずに穂先をあらぬ方向へと誘う。
対するガウェインは二桁目に達した斬り降ろしの一撃を剣の腹を滑らせる形で受け流すと、再び構えを取りながらも息を吐く。
(流石に、父上のようにはいきませんか)
内心の苦笑いが示すようにガウェインの身体は無傷ではなかった。
直撃こそ受けていないものの、流す過程で引っ掛かった切っ先や刃によって、白銀の鎧にはいたる所に浅く溶切された跡が刻まれている。
現在のガウェインの鎧はニニュー手製の魔法金属にモルガンが各種加護を授けた逸品だ。
しかし、それもカルナの炎熱を纏った神殺しの槍を耐えることは出来なかった。
尤も、この鎧だからこそこの程度の被害で済んでいるのであり、並の物なら槍の余波だけで溶解は免れない。
カルナはガウェインの剣にアルガの姿を見たようだが、彼は父の剣である戴天流を学んではいない。
聖なる数字によって太陽の加護を得たガウェインの身体には高濃度の魔力が満ちており、内家拳の根幹と言うべき氣功術には不向きと判断された為だ。
ではアルガはガウェインに何の手ほどきもしていなかったのかと言えば、それも否である。
自身の剣を伝えはしなかったが、彼はその知識を総動員してガウェインが加護を十二分に使えるように様々な事を教え込んだ。
増大した身体能力に振り回されないように身体操作や歩法を始めとした体術を、膂力を活用する為に動きや太刀筋から無駄を省いた『実』の剣を、そして加護による慢心を突かれない為に戴天流を基にした防御技術を。
カルナがガウェインの剣に既視感を感じたのはそれが理由だ。
「見事な腕だ。────だが」
言葉を呼気にして放たれたカルナの突き。
炎熱すらも置き去りにした高速の穂先は、甲高い
『意』による高精度な先読みを誇る戴天流とは違い、太陽の加護による3倍の身体能力を担保としたガウェインの防御には弱点がある。
それは己を超える速度と膂力を持つ者が相手では、防御が間に合わなくなるという事だ。
利き腕と共に聖剣を大きく跳ね上げられるガウェインの姿は、その弱点を突かれた結果だった。
がら空きになった太陽の騎士の胴へ向けて、再び槍を引き絞ったカルナの刺突が襲い掛かる。
通常ならば回避はもちろん防御も間に合わない絶体絶命の窮地。
もしギャラリーがいたのならば、白銀の鎧を紅く染めて串刺しになっているガウェインを幻視したことだろう。
しかし────
瞬間、特大の刃鳴に続いて爆音が響いた。
互いの得物から吹き上がる炎を避けるように後ろに跳ぶ両者。
十分に間合いを取った位置に着地したカルナは、重く痺れた両腕に鉄面皮をほんの少しだけ歪める。
自身の勝利を確信したあの一瞬、跳ね上げられたはずのガウェインの両腕が通常とは倍する勢いで降って来た。
そして振るわれた聖剣は主の心臓近くまで来ていた槍の鎌首に食らい付き、そのまま諸共に地面へと叩きつけたのだ。
「……やはり、か」
渦巻く炎が消えた先、白銀の騎士を見据えながらカルナは呟く。
「炎熱による魔力放出、それで俺に立ち向かうとはな」
赤と蒼の双眼に映るのは、魔力と共に鎧の継ぎ目から炎を立ち昇らせるガウェインの姿。
「使いたくなるんですよ。───新しい技を憶えるとね」
普段の紳士的な態度とは打って変わって、獰猛な笑みを浮かべるガウェイン。
生前聖なる数字の力を極めんとしていた彼は、とある理由により太陽の加護によって身の内に蓄えられた膨大な魔力を活用する方法を模索していた。
そんな彼が目標としていたのが主君であるアルトリアの魔力放出だった。
戦場ではその動きを観察し時に直接指導を乞い、さらには魔術のならと母にも相談した。
だが、彼は魔力放出を体得することが出来なかった。
理由は属性の違いというシンプルかつ尤もな物だ。
竜の心臓が生み出す純粋な魔力と太陽の加護によって生成される炎熱属性、その差はモルガンやアルガを
しかし、今ガウェインの前にはこれ以上ない程の理想的な見本がいる。
赤と黒による会戦のおり、初めて見た時からガウェインはカルナの魔力の流れや運用を刃を交えながらも
ただ見ているだけと思う事なかれ。
騎士として身を立ててはいるが彼は稀代の魔女の息子、魔術は使えなくとも魔力の流れを掴む事には長けているのだ。
でなければ、星の聖剣の一振りを担う者にはなり得ない。
そうして積み上げて来た努力達が、今ここに実を結んだ。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
気炎と共に襲い掛かるガウェインの速度は今までとは比較にならないものだった。
鎧の継ぎ目からブースターのように放出される炎が、彼の踏み込みに爆発的な勢いを与えているのだ。
袈裟斬りの一撃を防ごうとするカルナだったが、魔力放出をしているにも拘らずガウェインの振るう剣の重さに後方へと吹き飛ばされてしまう。
聖者の数字に加えて魔力放出で跳ねあがった膂力がカルナの力を上回った証拠である。
押し勝った事でガウェインはさらにカルナを攻めたてる。
カルナも巧みな槍捌きで凌ぐものの、反撃の機会を掴めないでいる。
それもそのはず、ガウェインの攻撃には無駄がない。
放つ斬撃全てが必殺の威力を秘めていながらも力自慢のありがちなオーバースイングはなく、歩法や体捌きで無駄を省き最短距離を最速で飛んでくる。
さらには成否に関わらず撃った後も
それは皮肉にもカルナが振るう槍術の理に酷く似ていた。
撃ち込まれる一刀の重さにカルナの表情も厳しさを増し、聖剣の力に加えて炎熱の魔力を纏った刃は掠めるだけでスーリヤから与えられた鎧を削り取る。
苦し紛れに突き出された突きを危なげなく躱したガウェインは、このまま押し切らんと聖剣を握る手に一際力を籠める。
「貰ったッ!」
そうして振るわれた渾身の一撃。
しかし、それがカルナの掲げた槍に触れた瞬間、驚くほどの手ごたえの無さと共にガウェインの身体が大きく前方に泳いだ。
「~~~~~~ッッ!?」
その感覚に覚えがあるガウェインが声にならない悲鳴と共に強引に体を反らせると、それに一瞬遅れて赤熱化した石突がガウェインの前髪を数本斬り飛ばして眼前を通り過ぎた。
背中が汗で濡れるのを感じながら間合いを広げたガウェインは、槍を旋回させているカルナを睨みつける。
「今のは……ッ!?」
「お前の言う通りだな。───新しい技を覚えると使いたくなる」
自身が放った言葉をそのまま返すカルナにガウェインの背筋に冷たいモノが走った。
眼前の男はこの手合わせの中で自身の防御法を盗んだ……否、それだけではなく槍の技として再構成までやってのけたのだ。
今の一撃、ガウェインは父に散々同じ形で返しによるKOを受けて来たから分かったが、何も知らないものならば顔を半分に割られていたことだろう。
「盗んだのはそちらが先だ、卑怯ではあるまい」
「────まさか。戦場では技を盗まれた方が間抜け、称賛こそすれ咎めるなどという恥知らずな真似はしません……よッ!」
その言葉を皮切りに再び間合いへ踏み込むガウェイン。
迎撃の刺突を切っ先を下になるように胸から脇腹へ構えた聖剣で受け流し、刃圏に入ると同時に斬り上げる。
火の粉を残しながら跳ね上がってくる一撃を半身で躱したカルナはそのまま旋回。
柄の半ばを掴んで遠心力を込めた横薙ぎを放つが、伸び上がった勢いのまま地面を蹴ったガウェインは紙一重で迫り来る穂先を回避する。
そのままトンボを切ると、ガウェインは魔力放出で落下位置を補正して全体重を乗せた唐竹割を放つ。
しかしカルナも然る者、大きく後方へ跳んで聖剣の間合いを外すと────
「真の英雄は目で殺す……ッ!」
右目に魔力を集中させて圧縮したそれを破壊の光として撃ち放った。
『
元は弓矢を用いて放たれる奥義というその超高温の魔力光線は、射線上の大気を焼き払いながらガウェインへと迫る。
「吼えろっ、ガラティーン!!」
それを見た太陽の騎士は聖剣を下段に構えると、光線の到着に合わせて低い姿勢から大きく切っ先を振り上げた。
聖剣の軌跡をなぞるように現れたのは炎の蛇、それは太陽の表面を泳ぐプロミネンスの縮小版だった。
必滅の魔力光に食らい付く炎蛇。
両者共に拮抗したものの、蛇によって押し上げられた光は空の彼方へと消えていく事となった。
だがしかし、太陽の申し子達の戦いがこれで終わった訳ではない。
余人が吸えば即座に死に絶える程の濃密な魔力が晴れるのと、両者が地を蹴るのは同時だった。
互いに炎を纏って牙を向くガウェインとカルナ。
聖剣と神槍が咬み合う度に爆炎が舞い、一合ごとに周辺温度が跳ね上がる。
熱せられた空気は天へと昇りながら炎を飲み込み、火災旋風となって周囲を薙ぎ払う。
大地は焼け焦げて炭化し、岩すらも沸騰を始める。
戦場は今や、刃を交える二人以外は生存を許さない焦熱地獄と化していた。
それでも両雄は止まらない。
文字通り灼け付く息を吐きながら、一心不乱に手にした得物を振るい続ける。
より疾く。
より鋭く。
より正確に。
より最短で。
時間と共にコンディションは悪化しているにも拘わらず、一太刀・一閃ごとに互いの攻撃は精妙さを増していく。
最初は防ぐことが出来た相手の攻撃も、今や肉を切らせる覚悟で急所を外すしかない。
もしアルガ、そしてカルナの終生の宿敵であったアルジュナがこの光景を見たならば、恐らく固唾を呑むだろう。
二人は武器を合わせるごとに確実に強くなっているのだから。
同じ半神、同じ太陽の申し子。
ガウェインはカルナから魔力放出を始めとした炎熱の用い方を学び、カルナもまたガウェインを通して彼の父が教え込んだ理合を読み取る。
これが武術大会のような終了に命を用いないのであれば、どちらが倒れても健闘をたたえ合うことが出来ただろう。
だがしかし現実は違う。
これは聖杯大戦の一端であり、互いに譲れぬ事情があるからには決着は相手の死以外にあり得ない。
それを示すかのように、己が一撃が弾かれるのに合わせて両者は大きく間合いを開けた。
互いに満身創痍。
切り傷火傷は数知れず、身に纏った黄金・白銀の鎧も傷付き一部は融解している部分もある。
それでも共に最大の一撃を放つ余力を残しているのは流石と言うべきか。
「見事です、施しの英雄カルナ。貴方の力は伝承に謳われた以上だ」
「それはこちらのセリフだ、太陽の騎士。騎士王の率いた円卓の騎士の筆頭格は伊達ではないな」
相手への賛辞を送りあうガウェインとカルナ。
穏やかなその言葉とは裏腹に視線と闘氣が絡み合う両者を挟んだ空間は、陽炎を移す灼熱の空気を巻き込んで軋みを上げる。
「貴方と鎬を削るのは楽しいが、私にはすべきことがある。───決着を付けましょう」
「宝具の真名開放か。いいだろう、受けて立つ」
カルナの返答を受けて、ガウェインは聖剣を構える。
それは『
「我が聖剣は太陽の
ガウェインの
今までであればこのまま横薙ぎに熱波、それに続いて業火を放つのが『転輪する勝利の剣』の真名開放だ。
「───されど、その力は陽炎に
気炎と共にガウェインの身体から放たれた炎熱の魔力が刀身の炎へと纏わりつく。
そこで行われているのは言わば精錬。
聖なる数字による太陽の加護、その発露である炎熱の魔力をくべる事で『転輪する勝利の剣』の力をさらに研ぎ澄ましているのだ。
「我が一刀に宿るは日輪の真価! 星々の王の威光!
ガウェインが紡ぐ言葉が終わった時、刀身が纏っていたものは炎ではなかった。
それは白い極光。
『転輪する勝利の剣』の力を太陽の加護によって乗算・精錬し、極限まで圧縮することによって出来た威光。
太陽核が持つプラズマである。
常識外れの高温を持つこの光に耐え得るものは、地球上には存在しない。
まさに必殺の一撃である。
「……見事だ。その剣に宿るのは正しく太陽の威光、我が父スーリヤの名を以て認めよう」
そう言うとカルナは身を低くしながら大きく手にした槍を引いた。
「お前がそこまでの一撃を放つのならば、俺もまた最大の奥義をもって応えるのが礼儀。雷帝から借り受けし神殺しの槍、その威を知るがいい」
すると次の瞬間、纏っていた黄金の鎧が彼の身を離れて槍へと融合していく。
「神々の王の慈悲を知れ。絶滅とは是この一刺し───」
カルナの呪に合わせるように巨大化した槍、その漆黒の先端に雷光が集っていく。
膨大なエネルギーを宿す槍を生身で構えるカルナを見たガウェインは、蜻蛉の構えを崩さずに脳内で念じる。
すると纏っていた傷だらけの鎧が全て剥がれ落ちて光の粒子と共に姿を消した。
「どういうつもりだ?」
「その宝具の威力では鎧など重石にしかなりません。ならば、纏う必要はないでしょう」
「そうか」
短く言葉を放つとカルナは更に強く槍を引き絞る。
すでに眼前の雷球はもちろん、神殺しの槍自体もとてつもない程の魔力を宿している。
これから放たれるのは、この聖杯戦争最大の一撃である事が間違いない。
ガウェインは覚悟を決めると束を握る手に一際力を籠める
「インドラよ、刮目せよ。焼き尽くせ───」
神槍から漏れ出た魔力が周囲に雷霆を振らせる中、カルナは自身が持つ最大の一撃を放つ。
「
真名開放と同時にカルナが槍を突き出すのと、ガウェインが大地を蹴るのは同時だった。
雷球を貫いた穂先から放たれる超高熱の魔力の奔流。
人間など易々と飲み込む紅い河を前に、ガウェインは灼けた大地を踏み割る程の震脚で周囲を震わせると───
「チェェェェストオオオオオオオォォォォォォォォォッッッ!!」
渾身の力を込めて剣を振り下ろした。
瞬間、ガウェインを全身がバラバラになるかと思うほどの衝撃が襲った。
紅い魔力流が吹き付ける熱波は、太陽の加護を得ているはずのガウェインの身体を容赦なく蝕んでいく。
肌の焼ける痛み、髪が焦げる悪臭、そして気を抜くと潰されそうなほどの圧力。
それでもなお、ガウェインは命脈を繋いでいた。
彼が振り下ろしたガラティーン、その刀身に宿ったプラズマが拡散していく最中にバリアーとなって、ガウェインをギリギリのところで生かしているのだ。
同時に振るわれた剣はゆっくりではあるけれど、紅の流れを斬りつつあった。
太陽の加護、魔力放出、義体の性能、その全てを使ってもスローモーションのようにしか進まない切っ先。
だとしても、ガウェインは歯を食いしばって全霊の力を剣に込める。
この一刀は自分の全て、ようやく辿り着いた己が理想なのだ。
ガウェインに『転輪する勝利の剣』を渡すとき、アルガは一つの事を口にした。
『聖剣だろうと所詮は器械、人の手がなければ意味を為さないものだ。だからこそ武具に使われるな。武具を支配できるようになれ』
父の言葉に最初は首を傾げていたガウェインだったが、それが何を意味するのかはすぐに分かった。
叔母であるアルトリア、そしてランスロットが振るう聖剣の姉妹剣である『転輪する勝利の剣』。
それは手にしたからと言って十全に扱えるものではなかったのだ。
最初は鈍らかと思うほどに切れ味が悪く、市販の数打ちの剣並になるまで半年を要した。
あまりの使い勝手の悪さに送り返そうかと思ったが、父からの贈り物に加えて当時のガウェインはその身体能力の高さから真面に振るえる武器が無かった。
そんな彼にとって『転輪する勝利の剣』は全力で振るっても壊れる事がない唯一の武器だった。
何より途中で放り出したら、この剣に負けた様な気がしたのだ。
そうやって一年二年と使っていく内に切れ味が増し、刀身に炎を宿せる様になり、ついには真名開放まで成し遂げることが出来た。
しかし、それでもガウェインは納得していなかった。
自らの相棒となった太陽の聖剣、それが炎を巻き上げるだけだとはどうしても思えなかったのだ。
アルトリアやランスロットは自身を聖剣の担い手と称した。
しかしガウェインからすれば、それは到達点ではなく通過点でしかない。
担い手ではなく支配者。
余すことなくその性能を引き出し、己を真の主として聖剣に刻み込む。
それこそがガウェインの目指す聖剣使いだった。
故に彼は騎士業の合間を縫ってガラティーンの研究を熱心に行った。
ある時は真名開放に指向性を持たせられないかと試み、またある時はランスロットの真似をして刀身に聖剣の力を集中させる。
そうした努力の末、ガウェインは漸くこの領域に辿り着いた。
鍵は所持者の持つ太陽の加護で聖剣の力を増幅させてやる事。
生前では揃えることが出来なかった最後のピースである魔力放出、それを得る事で初めてガウェインは相棒を更なる高みへと導くことが出来た。
ならば、この程度の事で膝を折るわけにはいかない。
星々の王たる恒星の力を宿す聖剣が神殺しの一撃程度に敗れるなど、笑い話にもならないではないか。
「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっ!!」
裂帛の気合と共に力を籠めるガウェイン。
振り下ろさんとする手は義体の人工皮膚がめくり上がり、赤黒い筋繊維と有機フレームが顔を覗かせている。
それでもガウェインは聖剣を放さない。
奥歯を砕ける程に食いしばり、この死の流れを断ち割らんと渾身の力を籠めるだけだ。
聖剣と神槍。
超常の力のぶつかり合いは荒れ狂っていた竜巻を吹き飛ばし、死んだ大地をめくり上げ、周辺に雷とプラズマの乱舞を引き起こす。
全身を炙られるような灼熱の中、永遠とも感じた苦難は唐突に終わりを告げた。
眼前を染めていた紅い奔流は徐々に勢いを弱め、消滅した時には寄り掛かるように立っていたガウェインは前につんのめりそうになった。
一瞬、何が起こったか分からなかった彼だが、視界の先にカルナの姿を見ると残りカスのような力を振り絞って大地を蹴った。
如何に太陽の加護によって熱に耐性を持つガウェインと言えど、先ほどの一撃は堪えていた。
症状の重軽に関わらず全身を火傷に覆われ、手と腕は皮膚がめくれて筋繊維が剥き出しになっている。
それでも彼は足を止めない。
つい数刻前と比べれば見るに堪えない速度だが、それでも確実に好敵手へと近づいていく。
対するカルナもまた、ガウェインの存在を見定めると膝を付いた状態から槍を杖代わりに立ち上がる。
こちらもまた満身創痍。
自身を保護していた太陽の鎧を失い、一度しか使えぬ神殺しの槍を放ったカルナに余力はない。
そうして互いが刃圏に飛び込んだ瞬間、カルナは槍を突き出しガウェインは切っ先を引き摺るように運んでいた剣を跳ね上げる。
瞬間、肉を断つ音が辺りに響いた。
血飛沫すらも瞬間的に蒸発する高温の中カルナの槍はガウェインの肩を抉り、対するガウェインの剣はカルナの身体を右の脇から左の肩にかけて切り裂いていた。
血塊を吐き出しながら膝を折るカルナと、笑う膝に喝を入れながら聖剣を杖代わりにして立つガウェイン。
これこそがこの一戦の結果を表す構図だった。
「───見事だ。俺の槍は終ぞ届かなかったな」
首を垂れ、炭と化した大地を見つめながらカルナは小さく呟く。
先の一撃が胸の霊核を砕いたのだろう、その身は少しずつ光の粒子に還元されていく。
「あり…がとう……。貴方の…おかげで……強く…なれた……」
青年とは思えない程にしゃがれた声で、ガウェインは消えゆくカルナに礼を述べる。
口の中どころか喉の水分まで失われて声を出すことも重労働な状態だが、ガウェインは一言だけでも眼前の好敵手に声を掛けたかった。
彼に出会わなければ、自分はガラティーンを更なる極みに引き上げられなかったのだから。
「礼は不要だ。お前から学んだ技、記録だとしても座へと持ち帰るのだから」
俯いていた顔を上げたカルナは口元に薄く笑みを浮かべた。
「悪くない召喚だった。マスターの命を救うことが出来、新たな武を学ぶ機会を得た。俺にしてみれば出来過ぎだ」
その言葉を残して、熱風と共に施しの英雄は姿を消した。
しばらく余韻に浸っていたガウェインだったが、当たりの温度が下がり始めるのを感じるとゆっくりとその場を後にし始めた。
とはいえ、その身は満身創痍。
常人であれば死んでいないのが不思議なほどの怪我だ。
剣を杖に進んでいた彼だったが、100mも進まない内にグラリとその身を傾けてしまう。
そのまま灼けた地面に叩きつけられるのを覚悟した彼だったが、それよりも先に彼の身体を支える者がいた。
「よう、兄貴。随分とやられちまったな」
そう言って血塗れのままニカリと笑うのは弟のガヘリスだった。
「貴方も…人の事……」
「いいって、無理すんな。声も出せないくらいにヤバイんじゃ、母ちゃんたちのカミナリを気にしてる場合じゃねーな」
そういって素早く携帯電話をダイヤルすると、ガヘリスは通話先に向けて二人を回収するように依頼を掛けた。
「もう少し頑張れよ、兄貴。すぐに母ちゃんたちに診てもらうからな」
自分達の義体は妖精郷の技術によって有機体と無機質の二つによって構成されている。
中枢機能に致命的なダメージを負わない限りは、治療魔術や霊薬も充分に効果を発揮するのだ。
母ならば自分達が負った傷も上手く治療してくれるだろう。
沸き起こる安堵からガヘリスのこちらを気遣う声を聴きながら、ガウェインは少しずつ瞼を閉じていった。
観戦していた人たち(異世界)
某龍座の聖闘士 『男の戦いは鎧を脱いでからが本番』
某天秤座の聖闘士『背中に入れ墨があれば、なお良し』
某ふたご座の教皇『全裸スタートが何故流行らない……?』