剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 皆さま、大変お待たせしました。

 本編18話の完成です。

 いやはや、本当に難産でした。

 ここまで製作が難航したのは、天草君の性格が掴みづらかったのと私のスカウターgポンコツな為。

 ぶっちゃけ、どう頑張っても剣キチ相手に天草君が善戦する未来が見えなかった!!

 例えるなら、如何にして旧ピッコロ大魔王でフリーザ様を倒すか、というシュミレーションをするかのような難行。

 途中、対魔忍に逃げたり、一周回って楽しくなってきたり、サンバサンタ育てたりと色々ありましたが、何とか年内に間に合いました。

 アポも予定では後2話、このまま頑張りたいと思います。 

 少し前に遡りますが、これを書いている時にSINピックアップ2を40連廻しました。

 結果はアキレウス、ケイローン、カルナ、馬。

 書いたら出るが時間差すぎませんかねぇ……。


剣キチさん一家ルーマニア滞在記(18)

 半壊した庭園の内部、中枢へと続く薄暗い回廊を俺達は進んでいた。

 

 最初に来た時には古代美術の粋を集めた様な彫刻や植栽が目にも鮮やかだった廊下も、今ではその全てが見る影もない。

 

 芸術にはとんと興味は無い我が身ではあるが、この光景には少し罪悪感も湧いてくる。

 

 さて、当初黒の陣営のバーサーカー主従やルーラーチームと一緒に突入した俺達だったが、現在は別行動を取っている。

 

 これは今なお活きている庭園の防護設備に分断されたわけではない。

 

 こちらが意図的に彼等を撒いたのだ。

 

 そういうワケなので、俺の後ろにいるのはアタランテと首輪で引っ張られているシェイクスピアだけである。

 

「今、赤のアサシンが脱落したらしい」

 

 インカムから聞こえるギャラハッドからのナビを改めて口にすると、アタランテは表情を変えず首肯する。

 

「そうか。これで赤の陣営に残るのはマスターである天草四郎だけだな。ところで汝の息子達は大事ないのか?」

 

「ああ。ガヘリスは左腕が潰れかけてたのと、あとは少し肉を抉られたくらいだ。ガウェインの火傷は重傷だったけど、姉御とお袋さんの魔術で快方に向かっているらしい」

 

「しかし、マスター。大英雄二人を涼しい顔で制した汝があれほどの焦りを見せるとは、こちらとしては少々驚いたぞ」

 

「覚悟は決めてるつもりなんだが、息子が重傷を負ったと聞くとやっぱダメだな。これなら自分一人で修羅場に飛び込む方がよっぽどマシだ」

 

 指摘された気恥ずかしさから肩をすくめると、アタランテに笑われてしまった。

 

 ハタから見れば無様だったかもしれんが親なんてこういうもんだぞ。

 

「古今無双の剣士と言えど、やはり人の親。名誉の戦死を遂げた息子によくやったと笑いかける事は出来ぬようですな」

 

「当たり前な事ぬかすな、阿呆。こっちは一度息子を死なせてるんだ。あんな思い、二度としてたまるか」

 

 後ろから煽ってくるシェイクスピアに返しながら、俺は軽く息を吐く。

 

 武人の父親としては奴が言うような対応が正しいんだろうけど、ガウェイン達の死に顔を見た事がある身としては絶対に無理だ。

 

 第四次のアグラヴェインもそうだったが、あの子達の矜持や成長の為と分かっていても危険な事に関わらせるのは心苦しい。

 

 正直、こういうのは今回限りにしてほしい物である。

 

「ところでマスター。吾等は何故ルーラー達と別行動を取ったのだ?」

 

 生き残った罠や迎撃用の魔法生物を破壊しながら進んでいると、アタランテが声をかけて来た。 

 

 戦力の分散なんて、普通は愚策以外の何物でもない。

 

 理由を問いたくなるのも無理はないだろう。

 

「黒の陣営に後ろから刺されるのを防ぐためだよ」

 

「なに?」

 

「ほう! 貴殿は彼等が裏切ると考えているのですかな?」

 

 訝しげに表情を歪めるアタランテに代わって、シェイクスピアが問いを続ける。

 

 というか、なんでお前はそんなに嬉しそうなんだよ。

 

「裏切るって表現は少し違うな。そもそもこの同盟は二大英雄に空中庭園と、抜きんでた戦力を擁する赤の陣営に対抗する為に組まれたものだ。その要因がすべて消えた今、どの陣営にしても同盟を続ける理由がない。そして赤の陣営が衰退した現状で最も戦力を持っているのは俺達だ。聖杯を求めていないルーラーはともかく、この戦争に一族の命運を賭けている黒の陣営ならその位はするだろうさ」

 

「だが、一度は正式に結ばれた同盟なのだぞ。宣言も無しに一方的に破棄などするだろうか?」

 

「一緒に来ているカウレス少年なら戸惑うかもしれん。が、後ろにいるゴルドのおっさんならしてもおかしくない。俺達の目的がジャックちゃんの願いを叶えるだけって説明した時も、あのおっさんは信じてなかったようだし」

 

「しかし、貴方ならば黒のバーサーカーに遅れは取らないのでは?」

 

「たしかにあのバサ子ちゃんなら御せる自信はあるさ。けど向こうが事を起こしたら、黒の陣営というかユグドミレニアは全滅しちまうんだよ」

 

「裏切り者には非常なる裁きを。戦争における鉄則ですな」

 

「だから裏切りじゃないっての。前に庭園に忍び込んだ時もそうなんだけど、こういう鉄火場に足を踏み入れてる時は大抵姉御のサポートがついてる。自慢じゃないけど、姉御は俺にベタ惚れだからな。黒のバーサーカーがこの首を獲ろうとすると、間違いなく姉御はユグドミレニアの人間を皆殺しにする。姉御は俺を通してむこうの名前や魔力波長まで全部握ってるんだ、どんな呪いだってかけ放題なんだからな」

 

 俺の返答にシェイクスピアの顔色が一気に青くなった。

 

 直接死呪を刻まれた身だけあって、マジになった姉御がどれだけヤバいかは十二分に分かっているらしい。 

 

「ゴルドのおっさんはともかく、フィオレちゃんやカウレス少年がそうなるのは流石に忍びない。あと、メタルになったロシェとかいう子もな」

 

 というか、あのロシェ少年はどこに行ったのだろうか?

 

 黒のキャスターの薫陶に加えて陛下のロボット魂を間近で見せられた事を思えば、さらに斜め上の道に迷い込みそうで心配なんだが……。

 

 などと考えていると、通路の奥から動く石像が複数姿を現した。

 

 防衛機構の生き残り、主が没したというのに何とも律儀なモノである。

 

「やれやれ、また雑魚か」

 

「仕方あるまい。ここは敵陣の内部、迎撃の手がこの程度で済んでいるならば幸いと思うべきだ」

 

「吾輩、剣士殿の細君に掛けられた呪いで戦闘は出来ませぬ。そういう事なので、露払いはよろしくお願いしますぞ」

 

 いけしゃあしゃあと言い切るシェイクスピアを敵の真ん前に蹴り出したくなったが、そんな事をしても意味は無いと思い直して改めて迎撃に移る事にする。

 

 初手を仕掛けたのはアタランテだ。

 

 彼女のスタイルは弓兵でありながら止まっての射撃や狙撃ではない。

 

 その健脚を最大限生かしての移動射撃だ。

 

 回廊の壁面にある亀裂につま先を掛けるとそのまま壁を疾走し、駿馬もかくやと言う速度で次々に矢を放っていく。

 

 放たれる矢は狙い違わずに石像の頭部や心臓へと吸い込まれ、何もする事無く二桁以上の敵が沈黙した。

 

 そしてアタランテの射撃が止むと同時に飛び込んだ俺は、鞘に収まったままの倭刀の一閃で残りの石像を切り捨てる。

 

「先ほどから疑問に思っていたのだが、汝は何故剣を抜かないのだ?」

 

 宙から地上に降り立ったアタランテが首を傾げながら問うてくる。

 

 この手の質問、以前にもされたような気がするな。

 

「鍛錬の一環。鞘で斬れるのなら、本身になったらもっと切れ味が増すからな」

 

「これは訓練ではなく実戦なのだが?」

 

「わかってるよ。だから鍛錬って言ってるだろ」

 

「うん?」

 

「なるほど。訓練は一定の目標に到達させるための実践的な教育活動を指し、命を懸ける類のものではない。転じて鍛錬は厳しい訓練や修養を積む事で、技芸や心身を強靭に鍛えることである。命に危険がある程度で止めるなら鍛錬とは言わないという事ですな」

  

「……難しいものなのだな」

 

 シェイクスピアの補足にアタランテは小さく唸りを上げる。

 

「武術家ってのは一芸を極める為に生きている人種だからな、普通の人間に理解しろっていうのが無理な話だろうさ。ま、そういう輩もいるって程度で覚えておけばいい」

 

 眉根を寄せているアタランテにそう告げた俺は再び回廊を歩き始める。

 

 自分で言うのもなんだが、俺のやってる事は狂気の沙汰の類だからな。

 

 余人に理解を求めようなんて、考えるほうが間違いだ。

 

 さて、庭園に入ってから結構な時間が経つのだが、未だ大聖杯が安置されている中枢にはたどり着けない。

 

 まあ、あれだけの規模の建造物なのだから迎撃機能の対処も含めて移動に時間がかかるのは仕方がないことだろう。

 

「ところでマスター」

 

 生き残った罠を斬り落としていると、アタランテが声をかけてきた。

 

「なんだ?」

 

「汝はあの時、天草四郎の願いを否定していたな。やはり、奴の願いは間違っているのか?」

 

 こちらに問いを投げるアタランテの表情の真剣さに俺は改めて考えを整理する。

 

「というよりも、段取りが間違ってると思うがな」

 

「段取り?」

 

「シロウ神父が言っていた救済を行うなら、最初に世界中の人間に説明して説得しなきゃ筋が通らん。今の人間は誰もシロウ神父に救済なんて求めてないし、神父に無断で他人を不老不死に改造する権利がある訳がないからな」

 

「たしかに現世の人間はマスターの存在を知りませぬからな、救済など求めようがない、しかし不老不死は人類が長年追い求めて来た夢、それを望まない人間がいると?」

 

「大多数の人間は死にたくないと思っているだろうさ。けどな、世の中には生きる事に絶望している奴もいれば、死が救いになる環境に置かれた奴だっている。そいつ等にとっては、シロウ神父の救いは永劫の地獄への片道切符でしかない」

 

「ふむ。吾輩も生前は才能の無さや生まれ育ちによって苦悩し、自らの命を絶った者を見た事がある。その者たちにとっては、マスターの救済は耐えがたい現実からの逃避手段を奪う事になるか……」

 

「それに肉体が不老不死になっても人間を壊す手段なんていくらでもある。専門家が拷問に掛ければ、常人程度なら精神崩壊で簡単に廃人になるしな。あとは濃硫酸や溶鉱炉に叩き込めば、無限に再生する不老不死も生き地獄に早変わりだ。仮に全人類が不老不死になれば、今までとは世界がガラリと変わる。死が抑止にならない以上、権力者たちは己が既得権益を護る為に大衆への威嚇としてその手の公開処刑はするだろうさ」

 

「そこまでやりますかな?」

 

「おそらくな。この社会において『死』への恐怖が歯止めになってる事は膨大だ。それが覆ったとすれば、起こるであろう混乱は途轍もない物になる。それを治める為なら各国政府はどんな非情な手も断行するだろうな」

 

 そう考えるなら、シロウ神父の救済には腑に落ちない事が出てくる。

 

 仮にも60年の間現代社会で生きて来たのなら、その間に学ぶであろう一般常識からこの程度の事は簡単に予想は付くはずなのだ。

 

 なのに、彼はそういったリスク面を一考だにしない。

 

 まるで、自身が行う救済が現代人の為ではないかのように。

 

 この事がもしかすると姉御が語った『天草四郎はルーラーたり得ない』という言葉に関連するのか?

 

「マスター、汝は人間の善性というモノをあまり信じてはいないのだな」

 

「これでも長生きした分は社会の汚いモノを色々と見てるんでな。人類全てが悪とは言わんが、性善説を信じる程純真でもないのさ」

 

 前世の上海の裏を見れば、人間を信じる心なんぞコンマ秒で吹っ飛ぶこと請け合いだ。

 

 スナッフムービーに児童ポルノ、酷いところでは人体改造とあの街の孤児はゴミ溜めのウジ虫以下の扱いだった。

 

 子供大好きの彼女が見たら発狂するんじゃなかろうか。

 

「……ところで天草四郎はどのような手を残しているのだろうか? 自身が受肉したサーヴァントとはいえ、これだけの数の差を覆すのは難しいと思うのだが」

 

 重くなった空気を換えようと思ったのか、唐突なアタランテの問いに俺は頭の中に考えられる可能性を羅列していく。

 

 現状に於いて、シロウ神父単体では黒の陣営だけならまだしも、俺達や離反した赤のサーヴァントを相手に出来るとは考えにくい。

 

 虎の子であった空中庭園も、彼のメインサーヴァントであった赤のアサシンが敗れたのでは瓦礫と化すのは時間の問題だ。

 

 この窮地にあって一発逆転の目があるとすれば────

 

「……拙いな。最悪の可能性が残っていた」

 

「最悪の可能性?」

 

「シロウ神父が聖杯を使って願いを叶えるって可能性だよ」

 

 俺が返した答えに場の空気が固まった。

 

 いや、シェイクスピアだけ物凄く嬉しそうな顔してるわ。

 

「いくらなんでも、それはないだろう。サーヴァントはまだ六騎残っているのだぞ、この状況で小聖杯が使用できるはずがない」

 

「通常の聖杯戦争ならそうだが、今回は違う。聖杯大戦という形式上、赤黒合計十四騎のサーヴァントが召喚されているんだからな。そして現在で脱落しているのは八騎。これは小聖杯が願望器として起動するには十分すぎる数だ。仮に緊急システムによって余剰に呼び出された七騎分が大聖杯に直接貯蔵されたとしても、先ほど脱落した三騎の霊核を考えれば願望器と成り得る魔力は溜まってもおかしくない」

 

 サーヴァントはその格によって魂が魔力に変換された時の貯蔵量に差がある。

 

 これは以前に参加した並行世界の第四次聖杯戦争で明らかになった事だ。

 

 姉御の話では、あの時に召喚された金ピカアーチャーの魂は通常のサーヴァント三騎分の魔力量になったらしい。

 

 そして今回脱落したカルナとアキレウス、そしてケイローンは何れも神格を備えた大英雄だ。

 

 例のアーチャーほどでないとしても、通常のサーヴァント以上の魔力になってもおかしくはない。

 

 そして女帝殿とシロウ神父なら、大聖杯を手にしておきながらユグドミレニアが用意しているであろう小聖杯を奪取していない、なんてポカはしないはずだ。

 

「まさか、戦っている他の参加者の漁夫の利を奪うような策が……」 

 

 戦慄するアタランテを尻目に、俺は速度を上げる。

 

 これは発想の転換であり、聖杯戦争の仕組みを知る物と知らない者の認識の差だ。

 

 『聖杯戦争は最後の一人になるまで戦うサバイバル』

 

 『聖杯は勝ち残った勝者の前に降臨する』

 

 こういったルールを信じている者では絶対に思いつかない裏技である。

 

「急ぐぞ。ここまで来て願いが叶えられないなんて事になったら、怜霞さんとジャックちゃんに会わせる顔が無い」

 

 こちらの言葉に首肯して足の回転速度を上げるアタランテ。

 

「ちょっ!? 吾輩、走るのは得意じゃな───ぐぇぇっ!?」

 

 後ろから某作家殿のくぐもった悲鳴が聞こえたが、きっと気のせいだろう。

 

 

 

 

 速度を上げた事で思った以上に早く回廊は終わりを迎え、次に俺達を出迎えたのは柱が立ち並ぶ広々とした部屋だった。

 

 今までの装飾豊かな内部とは違って調度品一つ無い武骨な部屋。

 

 乱立する石柱の先には、巨石と妙にデカい馬のロボットの傍らに立つ人物がいた。

 

 あの妙に目線を奪うユニコーン型ロボは非常に気になるが、今は空気を読んで置いておく事にする。

 

「ようこそ、皆さん。我が悲願成就の場へ」

 

 こちらを見つめながらにこやかな笑みを浮かべるシロウ神父。

 

 その表情からは敵愾心を感じないものの、同時にその真意を読み取ることが出来ない。

 

「どうやら俺達が一番乗りみたいだな」

 

「ええ。他の皆さんはこの空中庭園に残っていたギミックに引っ掛かっているようです」

 

 言葉を交わしながらも視線を室内に走らせてみたが、肝心の小聖杯が見つからない。

 

 この場で侵入者を迎撃するのだと決めているなら、過去の失敗から安全な場所に保管していると考える方が自然か。

 

「お久しぶりですな、マスター。キャスター・シェイクスピア、ただいま帰還しましたぞ」

 

「おや、わざわざ連れて来てくれたのですね。貴方に拉致されてから令呪すら届かない状況で正直途方に暮れていたんですよ」

 

「本人がどうしても来たいって言ってたからな。ウチに置いとくと子供の情操教育に悪いし、このおっさん」

 

 こちらの言葉にウンウンと頷いて同意するアタランテ。

 

 ジャックちゃんに自分の作品、しかも悲劇を薦めるわ。

 

 道徳を学ぶ一環としてアンパンマンやディズニーに、悲劇性が足りないだのマンネリだのとケチをつけまくるわ。

 

 捕まっている間、コイツは本当にロクな事しなかった。

 

 お袋さんがブチ切れるの久々に見たわ、マジで。

 

「随分と迷惑をかけたようですが、彼を拉致したのはそちらが先。謝罪はしませんよ」

 

「別に構わんさ。ウチの家族が二度とシェイクスピア作品を見ないようになっただけだし」

 

 『そんな殺生な!』と叫ぶ怪人髭男を無視して、アタランテが前に出た。

 

「天草四郎。汝はその救済を諦める気はないのか?」

 

「ええ。アーチャー、貴方も全ての子供が救われる世界の理想を捨てる事が出来ないでしょう? それと同じですよ」

 

 彼女からの問いかけに笑顔を崩さないままに言葉を返すシロウ神父。

 

 アタランテの方も大概無茶な理想を抱いているので、ブーメランが帰って来るのも仕方がないと言えよう。

 

「シロウ神父。以前に俺が指摘した問題点、解決策は見つかったか?」

 

 仄かな期待を込めて聞いてみたものの、彼は浮かべていた笑みを少し曇らせて首を横に振る。

 

「……残念ながら」

 

「そうか。じゃあ仕方ないな」

 

「止めろとは言わないのですね」

 

「言って聞くような信念なら、ここまでの大風呂敷は広げないだろ」

 

「たしかに」

 

 こちらが笑うとシロウ神父もまた苦笑いを浮かべる。

 

「ならば、これ以上の言葉は不要。後は己が悲願の為に剣を取るとしましょう」

 

 言葉と共にカソックを脱ぎ捨てる神父。

 

「『大聖杯(ユスティーツァ)』同期開始」

 

 彼が傍らの大聖杯に手を掛けると、その掌が大聖杯に沈み込み同時に膨大な魔力が吹き上がる。

 

「驚いたな。大聖杯から直接魔力をくみ上げているのか」

 

「我が両手に宿る宝具『右腕・悪逆捕食(ライトハンド・イヴィルイーター)』そして『左腕・天恵基盤(レフトハンド・キサナドゥマトリクス)』は刻一刻と姿を変える魔術回路。言わば如何なる魔術基盤にも適応する万能鍵です。貴方にキャスターを奪われた為に大聖杯の全てを支配するには至りませんが、この程度なら造作もありません」

 

「それはまた、便利なものをお持ちで。───アタランテ、そこのおっさんを見張っててくれ」 

 

「なにを言っているのだ、マスター! あの魔力は神霊にも匹敵する! ここは二人一斉に掛かるべきだろう!?」

 

「我が剣は内家戴天流。相手が徒党を組むことはあれど、こちらが複数で一人に襲い掛かる道理は無い。……なんてのは建前でな。ウチは聖杯に選ばれてもいない横紙破りのイレギュラーだ。そんな奴が他人の悲願を潰してテメェの都合を押し通すんだ、サシで闘わないと筋が通らないだろう」

 

 そう返せば、アタランテはこちらの顔を凝視したあと、深い深いため息と共に引き下がった。

 

「剣士としての矜持という奴か。私にはイマイチ理解できんがいいだろう。だが、危険になったら必ず呼べ。モードレッドの悲しむ顔は見たくないからな」

 

「あいよ」

 

 アタランテを軽く手を振って送ったあと、俺は腰に差した無銘の倭刀を鞘ごと引き抜いた。

 

 視線を戻せば渦巻く魔力の中、鋼の決意が籠った鈍色の瞳が真っ直ぐにこちらを見ている。

 

 さて、こういう時は何て言うんだったかな。

 

 たしか────

 

「シロウ神父、聖杯大戦最強は目の前だ。死力を尽くせ、あるいは届くかもしれん」

 

 こちらの言葉に応じるかのように、シロウ神父もカソックの内側から刀身のない束を取り出す。

 

 両の指の間に挟むようにして持たれた束は合計6本、それは神父が構えを取ると同時に鋼の刃が姿を現した。

 

「行くぞ!」

 

 声と共に空を裂いてこちらに飛来する6本の細身の剣。

 

 莫大な魔力が込められたその速度は、弾丸とまではいかないものの並の投擲術など比較にならない。

 

 だが甘い。

 

「シッ!」

 

 呼気と共に金属が砕ける甲高い音が響く。

 

 自然体からこちらの切っ先が描いた輝線が、ひと振りで向ってくる剣の(ことごとく)くを両断したのだ。

 

 前世に置いて、サイバネ武術家が放つ投げ暗器は対物ライフルの威力と速度を持っていた。

 

 それを相手取っていた身としては、最低限弾丸レベルに届いてくれなければ当たるワケにはいかない。

 

「ッ!? この程度では子供だましにもなりませんか!」

 

 部屋に生えた石柱の間を縫うように走りながら、二度、三度と投擲を繰り返すシロウ神父。

 

 だが一手目を見たならば、それらをあえて迎撃する必要はない。

 

 軽い歩調で床を蹴った俺は、襲い掛かる剣を躱しながら軽身功の応用で一気に加速する。

 

 一歩目の踏み込みで最速へとギアを上げ、相手の刺客を突きつつ最短距離で間合いを詰めた。

 

 第四次のランサーに使用した転移ではなく歩法としての縮地。

 

 一瞬で懐を取った俺は、剣を持っていない方の手を拳に変えて彼の脇腹に添える。

 

 この時点で神父はこちらの存在に気づくが、もう遅い。

 

 つま先から足首、膝に腿、腰の回転までの全ての力を拳に収束させ、神父が間合いを取ろうと踏ん張った瞬間に放つ。

 

「ガァッ───!?」

 

 炸薬を破裂させたような音と共に大きく後方に吹き飛んでいく神父。

 

 追撃を試みようとしたが、彼から感じる『意』と魔力の高まりを察知した俺は、踏み出した足をそのままに横へと飛び退いた。

 

「堕ちろ、『天の槌腕(ヘヴンズ・フォール)』!!」

 

 シロウ神父が掲げた左手を覆うかのように展開する、魔力によって形成された巨人の腕。

 

 紙一重でこちらの横を抜けたそれは、一撃で広間の床を広範囲に粉砕した。

 

 神父の攻撃で生じた衝撃波を軽身功で相殺した俺は、空中に舞い上がっている瓦礫を蹴って神父へと肉薄する。

 

「させるか!」 

  

 物質でない為に攻撃の反動が少ないのか、神父は腕を形成していた魔力を転換して自身を覆うように障壁を展開する。

 

「フッ!」 

 

 呼気と共に剣を振り下ろすと、黒塗りの鞘は障壁の半ばまで斬り込んだところで弾かれてしまった。

 

「うおおおおおおおおおっ!!」

 

 シロウ神父の咆哮と共に再び収束する魔力。

 

 それは左に形作られた手刀のままに巨大な魔力刃となってこちらに降り注ぐ。

 

 豪風のような魔力の奔流の中にあって『意』と共に力の流れを読み、練り上げた内勁の宿った一閃を()って誘い、導き、襲い来る威を逸らす。

 

 『軽きを以って重きを凌ぎ、遅きを以って速きを制す』という戴天流の神髄は、聖杯戦争の根幹たるエネルギーを前にしても健在だ。

 

 五手、十手、二十手とシロウ神父が振るう一手ごとに石柱は崩れ床は寸断され、撒き散らされた高濃度の魔力によって空気は灼けついていく。

 

 しかし、それでもこの身には彼の攻撃は届かない。

 

 何故ならシロウ神父の振るう技が未熟だからだ。

 

 彼の剣腕は二流半、下手をすれば三流程度の代物でしかない。

 

 さらには刃を形成している魔力の膨大さに明らかに振り回されており、その所為で振り下ろしと横薙ぎしか出来ていないのだ。

 

 これでは如何なる威力を秘めていようと宝の持ち腐れでしかない。

 

「何故だ! 何故そんな鞘に収まった細身の剣でこの攻撃が受けられる!?」

 

 血を吐くかのようなシロウ神父の声に応えず、俺は右からの横薙ぎを跳躍して回避すると同時に練り上げた内勁を一刀に込めて振り下ろす。

 

 戴天流・鳳凰吼鳴。

 

 先ほど障壁へと放ったものよりも更なる練氣を加えた一撃は、凜という涼やかな音と共に巨大な魔力刃を両断した。

 

 ブンブンと太い音を立てて宙を旋回し、床に突き立つと同時に砕け散る魔力刃。

 

 その光の飛沫の中、縮地法で間合いを詰めた俺は抜き打ちの胴薙ぎを放つ。

 

 瞬間、金属を斬るような甲高い音と共に赤い飛沫が宙を舞った。

 

 こちらの一撃に神父は魔術障壁を張る事で対処しようとしたが、魔力刃を断たれた後の不完全な状態では防ぎきることが出来ず、切っ先は彼の腹を一文字に断ち割った。

 

 しかし、こちらの一刀は致命には届いていなかった。

 

 咄嗟に後方へと飛び退いた神父の腹を覆うカソックの下衣の裾、切り裂かれたそれから零れ落ちる投剣の束達が刃を鈍らせたのだ。

 

「……まだ終わっていない! 60年にも及ぶ我が情熱を! 執念を舐めるな!!」

 

 神父が血反吐交じりに吼えると、それに呼応するかのように大聖杯が鳴動する。

 

「『天の杯(ヘヴンズ・フィール)』起動」

 

 大聖杯を通して先ほどまでとは比較にならない規模の魔力が送り込まれ、逆巻く暴風となって神父の身体を持ち上げていた魔力はその両手へと収束されていく。

 

 この部屋どころか庭園跡全てを吹き飛ばすほどの魔力を前にして、俺は鞘に収まった切っ先を眼前に持ち上げた。

 

 戴天流・峨眉万雷の構え。

 

 ここまでの規模の魔術を相手に、本身を抜かないというのは正直不安もある。

 

 しかし、この一撃を鞘のままで凌ぐことが出来れば俺の剣は更に鋭さを増す事だろう。

 

 ならば、試してみる価値は十二分にある。

 

「赤のキャスターに令呪を以って命じる! 宝具を展開し奴の隙を作れ!!」

 

 こちらが覚悟を決めたと同時に、神父の命と共にその背中から令呪行使の紅い魔力光が放つ。

 

 しかし、この令呪の使用が齎した結果は彼が望むものではなかった。

 

 辺りに響いた破裂音に目を向けると、血肉を撒き散らせ心臓の位置に大きく風穴が開いたシェイクスピアの姿があった。

 

「……わたしは…この物語…の……結末…を……」

 

 胸を押さえながら崩れ落ちたキャスターは血反吐と共に未練の言葉を吐き出すと、金色の粒子となってこの世から消えた。

 

「なんだ……なんだ、これは!?」

 

「あの男は魔女モルガンから死の呪いを受けていた。貴様の命じた宝具発動はその禁則事項に触れていたのだ」

 

 愕然とする神父に、何時の間にか入り口付近に避難していたアタランテが言葉を返す。

 

 今の状況で発動したのは、四つの条件の内の『赤の陣営に協力しようとしたら死』『魔力を使おうとしたら死』だろう。

 

 もしかしたら『姉御をムカつかせたら死』も当て嵌まったかもしれないが、なんにせよ容赦が無い。

 

「認識が甘いぞ、シロウ神父。俺がこちらへの実害があるままに奴を連れて来るわけがないだろう」

 

「クゥッ!?」

 

 こちらの言葉に苦虫を噛み潰すシロウ神父。

 

 切り札を切るタイミングとしては悪くなかったし、もちろん卑怯だなんて言うつもりもない。

 

 そも、俺が勝手にサシで闘っているだけで一対一と約束を取り交わしたわけではないのだ。

 

 キャスターにしてもこっちが勝手に連れて来たのだから、神父が活用しようとするのは当然である。

 

 もっとも、それに関してはしっかりと対策を立てさせてもらっていたが。 

 

「さて、続きと行こうか。如何に受肉したサーヴァントとはいえ、そこまでの魔力を貯め込んでいてはそう長く保たんだろう」

 

「いいだろう! そこまで言うなら、こちらも遠慮なく行かせてもらう!! 万物に終焉を―――『双腕・零次集束(ツインアーム・ビッグクランチ)』!!」   

 

 シロウ神父の両手から放たれた二つの魔力塊、それは俺の前で混ざり合うとゆっくりと渦を巻きながら周りの物を吸い込み始めた。

 

「こいつは驚いた。魔術でマイクロブラックホールなんて作り出せるとはな」

 

 小さく呟いた後、俺は虚無へと誘わんとする力に抗いながらゆっくりと息を吐いた。

 

 深い調息を起点として丹田で練られた氣は手足を走る三陰三陽十二経、そして全身にある654の経穴を巡る事で内力となり、そして全身を巡る中で洗練され内勁へと昇華される。

 そうして練り上げた内勁が刀身を通して鞘へと宿るのを確認すると同時に俺は床を蹴った。

 

 抗う為の足場を失った事で急速に近づいてくるブラックホール。

 

 浮き上がった身体がその中心へと来た瞬間―――

 

()ッ!!」

 

 裂帛の気合と共に剣を一閃させた。

 

 振り抜いた剣から黒点の因果を断つ感触が伝わると共に、こちらを引き込んでいた力がピタリと止まる。

 

 そして地球の引力に引かれて地に足を付けるのと同時に、眼前に渦巻いていたブラックホールは断末魔の軋みを上げてその姿を消した。

 

「馬鹿な……」

 

 魔力制御の過負荷によるものだろう、両の腕と眼から血を流しながら呆然と言葉を漏らすシロウ神父。

 

 彼の意識に生じた空白を突く形で間合いを詰めた俺は、無防備なその身に袈裟斬りの一刀を叩き込んだ。

 

 血飛沫と共に限界を迎えた鞘の破片が宙を舞う。

 

 肺腑と心臓を断ち割った一撃は間違いなく致命傷。

 

 それを受けてもなお、神父は二、三歩後ろに下がったものの、笑う膝を無理やり手で押さえつけて踏みとどまってみせた。

 

「私は…俺は……ッ、諦めるわけにはいかない! 島原で…あの地獄で俺を聖人と信じて逝った同胞が間違いでなかった証の為にッ! 人類救済の奇跡を成し遂げなければならないんだ!!」

 

 血反吐と共に吼える神父、いや天草四郎時貞。

 

 だが、彼の抵抗はそこが限界だった。

 

 意志の力が通りやすいエーテル体であれば、最後の一撃を放つこともできたやもしれない。

 

 だが、今の天草四郎を形作っているのは肉の身体だ。

 

 この地に一個の生命として根を下ろしている以上、いかに強固な意志を持とうとも生物の限界はついて回る。

 

 最後までこちらに鋭い視線を向けたまま、彼の体は前のめりに崩れ落ちた。

 

「終わりだ、天草四郎」

 

 本身を現した刀を突きつけると、か細いうめきと共に仰向けになった神父は小さく息を付いた。

 

「───そのようですね。大聖杯のバックアップがあれば、もしやと思ったのですが」 

 

 先ほどの鬼気迫る形相とは一転して、穏やかな表情を浮かべる天草四郎。

 

 常人よりは保つだろうが決して長くない彼の時間を無駄にしない為に、俺は言葉を紡ぐ。

 

「さっきの叫び。あれが本当のお前さんの願いなんだな」

 

「ええ。あの一揆に参加した島原のキリシタン達は、少し珍しい魔術の素養があるだけの餓鬼だった俺を『デウスの子』だと『聖人』だと信じて死地へと飛び込みました。だから俺は彼らに報いたかった。救いの道を示せず、ただ死なせるだけしかできなかったからこそ、せめて彼等の信じた物だけは偽りでないと証明しようと思ったんです……」

 

「人類救済を強行しようとしたのはその為か」

 

「その通りです。……知っているでしょうが、俺は世界では聖人と認定されていない。島原のみんなの信仰は本物だった。兵糧攻めの飢餓地獄の中、仲間を犠牲にしようとせずに神に祈りを捧げ続けた彼らの想いが偽りであろうはずがない。……あの戦いで偽物だったのは俺だけだった。だから俺は救済を完遂せねばならなかった。全人類に不老不死を齎せば、俺は聖人となって彼らに胸を張れる。…………そう思ったから」

 

 泣くのを必死に我慢している子供のような表情で独白を続ける天草四郎。

 

 彼の言葉で、俺はある事を思い出していた。

 

 この戦いの前、天草四郎の事を調べていた俺に姉御は一つの事を伝えてきた。

 

 それは冬木の聖杯のシステム上『天草四郎時貞がルーラーとして召喚されるのはあり得ない』というものだった。

 

 元来、冬木の聖杯はアインツベルンを中心として造られており、聖杯自体が西洋の概念なので召喚されるのは基本的に西洋の英霊のみ。

 

 それ故、日本を始めとする東洋の英霊が呼び出される事はシステム上不可能なのだ。

 

 さらに言えば、天草四郎時貞はルーラーとしての要件を満たしていない。

 

 裁定者とは聖杯自身に召喚され、『聖杯戦争』という概念そのものを守るために動く絶対的な管理者である。

 

 その役職上選定条件は『現世に何の望みもない事』『特定の勢力に加担しない事』『自身が聖杯を求めない事』と厳しく、そういった事から召喚されるのは「聖人」と認定された英雄が多いという。

 

 上記の条件と照らし合わせれば、天草四郎という英霊は全てにおいて該当しないのが分るだろう。

 

「だから前回の聖杯戦争に参加した。そのルールの多くを捻じ曲げて」

 

「ルール違反をしたのはアインツベルンですよ。彼等は中立たる裁定者のクラスを自身の手駒として召喚しようとし、俺はそれに乗っただけです」

 

 そこで言葉を切って口角を吊り上げる天草四郎。

 

 その笑みは己の所業を嘲笑っているように見えた。

 

「同胞が信じる聖人たらんと臓腑を焼き尽くすほどであった徳川への恨みを捨て、自己暗示によって心を改造する事で聖杯を謀り『ルーラー』としてこの世に降り立った。全ては我が大願の為……だったんですがね」

 

 ため息のつもりなのか、小さく息を付いて目を閉じる天草四郎。

 

 その顔に映る死相を見るに、常人よりもはるかに保った彼の体力も尽きかけているようだ。

 

 姉御曰く、逸話からすれば天草四郎は並行世界でアインツベルンが召喚したという『復讐者』のクラスに該当するのだと言う。

 

 彼は聖人とは認定されておらず、マルタや聖ジョージ、ジャンヌ・ダルクのように偉業によって人々を救ったわけではない。

 

 島原キリシタン衆の首魁として幕府に戦いを挑み、返り討ちにあった歴史の敗者である。

 

 ゆえに徳川幕府、そこから続く現世の人々への憎悪を滾らせる怨霊、『復讐者』となっても『裁定者』にはなり得ない。

 

 そんな己の理を捻じ曲げ、燃え滾る憎悪を捨てる。

 

 その難行を成し遂げたのは、散っていた同胞たちの名誉と信仰を護ろうとする彼の苛烈なまでの意思だったのだろう。

 

「凄いな、お前さんは」

 

 俺が漏らした言葉に、天草四郎は閉じていた瞳をうっすらと開く。

 

「俺も子供を殺された経験があるからさ。大切な者を奪われた恨みを捨てるのがどれ程大変か、少しは分かるつもりだ。同胞の為にそれができるお前さんは十分聖人だよ」

 

「そう思うのなら、こちらに手を貸してくれれば良かったのに」

 

「そこはあれだ。お前さんが同胞を優先したように、俺も家族が可愛いって事さね」

 

「フフッ……なら仕方ないですね」

 

「ああ、仕方ない」

 

 小さく笑い声をあげた後、天草四郎はスッと息を吸った。

 

 おそらく、次が彼の最後の言葉になるだろう。

 

「……付き合ってくれてありがとうございます。身の上話なんて自分でも似合わないと思いますが、協力してくれたアサシンの為、そして俺の中から消してしまった憎悪の為に誰かに聞いてほしかった」

 

「気にしなくていいさ。イレギュラーの乱入代だと思ってくれればいい」

 

「今回は俺の負けです。小聖杯は大聖杯の床下にある隠し扉の中に保管してありますので、この戦争の勝者に渡してあげてください」

 

「了解だ」

 

「あと小聖杯に蓄積された魔力量ですけど、願望器として機能するには後サーヴァント一騎分足りませんから」

 

「なんだと?」

 

 予想外の言葉にこちらが驚くのを尻目に、天草四郎はしてやったりと言う表情を浮かべて息を引き取った。

 

 あの野郎、曲者だと思っていたが最後の最後で爆弾を落として逝きやがった。

 

「マスター、どうするのだ?」

 

 こちらの会話に聞き耳を立てていたアタランテの問いに頭を回転させていると、入り口から飛び込んでくる複数の気配。

 

「天草四郎ッ! って、これはいったい……」

 

「あれ。もしかして、もう終わっちゃったの?」

 

 言うまでもなく、こちらと逸れたルーラー一行と黒のバーサーカー達である。

 

 部屋の惨状と天草の遺体を交互に見て戸惑いの声を上げるルーラーに、なんとも軽いノリでこちらに問いを投げてくるアストルフォ嬢。

 

 願いを叶えるには聖杯の餌として、むこうのサーヴァントを一人間引く必要があるのだが……

 

 さて、どうしたものか。

 


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