剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 お待たせしました、本編インターバルです。

 最初はギャグにするつもりが何故か中途半端にシリアスに……。

 これも映画を見た影響かしら?

 ヘブンズフィール第二章ですが、本当に良かったです。

 というか、セイバー・オルタってあんなに強かったんスね。

 原作だとわりとアッサリ目なのでド肝を抜かれました。

※ 後書きの小話には映画『ヘブンズフィール第二章』のネタバレが入っています。

  まだ見ていない人はご注意ください。



閑話『騎士王の帰還』

妖精郷日記 ■月×〇日

 

 

 朗報である。

 

 今日、行方不明だったアルトリアが帰ってきた。

 

 めでたい事なので思いっきりベソをかいていたのと、迷子になっていたあの子を回収したのが7歳の女の子だという事実には目を(つむ)ろう。

 

 さて、我が妹がどのような道行きをたどったかを述べる前に、今回の功労者について少し語りたいと思う。

 

 アルトリアを連れて帰ってくれたのは、ミユという幼女だ。

 

 彼女は妖精郷のすぐ近くに存在する異郷『常若の国(ティル・ナ・ノーグ)』を統べるダーナ神族の母神、ダヌーの神使(しんし)を務めている。

 

 現世では神代の終わりと共に神々は地上から手を引いたことになっているが、完全に興味を失ったわけではない。

 

 人の事を未だ愛しく思っている者や多大な信仰を得ている大神などは、自ら手を下す事はなくとも神使を介して何らかの干渉を行っているのだ。

 

 星の内側に築いた各々の異郷に住んでいる為か、神々にとっては世界を隔てる壁は酷く薄い。

 

 彼等にとっては自身が信じられている他の世界、いわゆる『並行世界』もテリトリーに入っており、世界間の行き来も結構簡単に行われている。

 

 なんて事情から彼女は数多の世界を股に掛け、日々務めを果たしながら修行に励んでいるワケだ。

 

 そんなミユちゃんと俺達の付き合いは7年前、あの子がダヌー神に保護されて間もない頃から始まった。

 

 こう言っては少々語弊(ごへい)があるが、ミユちゃんは少々特殊な生まれだ。

 

 彼女は日本で天正時代から続いていた『朔月(さくつき)』という名家、その最後の一人を元にしたクローンなのである。

 

 造り出したのはとある魔術の大家。

 

 奴らが何故に彼女を手掛けたのかというと、朔月家にある隠された力ゆえだ。

 

 朔月一族に代々生まれ出る紅い瞳の女児、彼女達は願いを叶える力を持っている。

 

 ぶっちゃけて言えば、天然物の生きた聖杯なのである。

 

 当然ながらその力は無制限に使えるモノではなく、代価として力を使えば使うほどに死期が早まり、その力も七歳を迎えれば失われてしまう。

 

 それ故に朔月家では生まれた紅目の女の子を安易に利用される事がないよう結界の中に隔離し、力が失われる七歳までは母親以外とは接触させないように育てるようになったという。

 

 こういった育て方を朔月家は、乳幼児の死亡率が高かった時代における「子供は神と人の中間にあるもの」と捉えて人前に出さない習慣、即ち神稚児(かみちご)信仰の形を借りて綿々と続けてきたのだ。

 

 だが、その朔月家も今や無い。

 

 俺たちの世界における冬木の聖杯戦争、その余波によって一家ともども犠牲となってしまったらしい。

 

 ダヌーの話では、その聖杯戦争の勝者となった魔術師は偶然見つけた朔月の家から、瀕死の状態だった紅い瞳の女の子を発見した。

 

 彼女から現代に似つかわしくない神性を感じたその男は、彼女に治療を施すことなく血と細胞を採取。

 

 その後家に残された文献から紅い瞳の女児が持つ力を突き止めた事で、クローンによって朔月の神稚児を再生しようとしたらしい。

 

 そんな奴等の間違いは、他の魔術師に邪魔されたくないという意図から海底油田プラントの最下層に築いた特殊工房でミユちゃんを創り出したこと。

 

 深海という地球の中心にほど近い場所で事に及んだ為に、『常若の国』にいたダヌー神は神稚児の神氣をキャッチすることが出来た。

 

 使い捨ての願望器として生み出された彼女を憐れんだ彼の神の手によって赤子は救い出され、研究所に残された遺伝子サンプルや試作体は文献諸共完全に処分されたらしい。

 

 そんな経緯もあって彼女はダヌーの神使として育てられる事となったのだが、ここで問題が発生した。

 

 ダーナ神族の母神とはいえ、彼女には人間の養育経験などない。

 

 願いを叶える力の封印は完了したものの、相手は生まれながらに完全体である神ではなく赤ん坊である。

 

 知識なしで立派に育てようなど、たとえ神といえど自信を持つことは出来なかった。

 

 ならば経験者をと、かつてディルムッド・オディナを育てた事がある妖精王オェングスや海神マナナン・マクリルに振ったものの、「男ならともかく、繊細な女の子を育てるとか無理!」と拒否られてしまった。

 

 そんなこんなで白羽の矢が立ったのが、ウチのお袋さんと姉御という訳だ。

 

 いきなり子供を育てろとか無茶ぶりもいいところなんだが、ダヌーは姉御とお袋さんの本霊の母神である。

 

 当然ながら断るわけにはいかず、乳母的役割を引き受ける事となった。

 

 最初は命令だからと預かっていたものの、元々情の深い姉御とお袋さんは赤子のミユちゃんにあっという間に絆され、ギャラハッドの前例もあって子供達もあっさりと彼女を受け入れた。

 

 殊更彼女の世話を焼いたのはモードレッドで、早期に成人してしまったギャラハッドと違って普通に大きくなるミユちゃんの姉代わりに、何くれと構い倒していた。

 

 そうして5年の歳月が過ぎ去り、当初の約束通りに彼女はダヌーの神使として仕える事となった。

 

 まあ、送り出すときにはウチの女性陣と一つどころか六悶着くらいあったのだが、その辺は割愛させていただく。

 

 彼女は神稚児であった事からか、はたまた常若の国と妖精郷の環境になれた賜物か。

 

 魔術回路が無くても呼吸によって無制限に魔力を生み出し、神の権能を人間が使えるように落とし込んだ神通力を操ることが出来た。

 

 その力は超一流のドルイドクラスらしく、姉御の教えもあって戦闘から陣地作成まで難なく熟せるそうな。

 

 さて、ここいらで話を元に戻そう。

 

 そんなワケで今日も今日とてダヌーからの使いを終えて常若の国に帰還しようとしていたミユちゃんであったが、ゲートを開こうとした際に大きな時空間の揺らぎと泣き声を聞いた。

 

 興味を惹かれて行ってみると、そこには聖剣の鞘を両手で握り締めながら泣いているアルトリアの姿。

 

 話を聞いてみると、聖剣の鞘『全て遠き理想郷(アヴァロン)』が機能不全を起こしているのか、妖精郷へ帰れないというのだ。

 

 妖精郷という言葉に加えて、アルトリアがウチの女性陣にそっくりである事に気づいたミユちゃんは俺達の関係者かと確認を取った。

 

 返ってきた答えはもちろんYES。

 

 そういう事ならばと、帰りついでに彼女はアルトリアを送って来てくれたらしい。

 

 次にアルトリアがどうしてカムランの丘でベソを掻いていたのかについてだが、本人の許可を得て記憶を見せてもらったところ、これがまた波乱万丈だった。

 

 ブリテン崩壊の直後、阿頼耶識(あらやしき)の甘言に乗った妹は聖杯を求めて時空を飛んだ。

 

 アルトリアの望みは、英霊の座に奪われた甥っ子三人を俺達の元に帰す事。

 

 そんな切なる願いを胸に彼女が召喚されたのは、俺達が体験したのとは異なる時空の第四次聖杯戦争。

 

 その世界におけるアインツベルン陣営だった。

 

 ドイツにあるアインツベルンの本拠で呼び出されたアルトリアは、聖杯戦争が始まる数日の間をそこで逗留する事になった。

 

 本来であればそのモラトリアムの間に主従の絆を少しでも深めるべきなのだが、アルトリアのマスターとなった衛宮切嗣は最初に挨拶をしただけで、後は終始あの子の事を無視した。

 

 なんとか妻であるアイリスフィールがフォローを入れようとしていたのだが、ここで彼等との関係に決定的な亀裂が生じる出来事が発生する。

 

 その原因は衛宮切嗣夫妻の娘であるイリヤスフィールだった。

 

 無邪気に衛宮切嗣と遊ぶ幼子の様子を窓から見ていたアルトリアは、夫婦そろって聖杯戦争に参加すると言うアイリスフィールに『娘はどうするのか』と問いを投げた。

 

 聖杯戦争は英霊という化け物を使った魔術師同士の殺し合いだ。

 

 それに参加する以上は命の保証などどこにも無いのだから、この問いかけは当たり前の物であろう。

 

 それに対して、アインツベルンの実家に残していくから大丈夫と答えるアイリスフィール。

 

 だがしかし、その答えはアルトリアに不信感を呼ぶだけであった。

 

 幼少期に両親がいないという事がどれだけ子供にとって負担になるか、妹は身を(もっ)て知っている。

 

 聖杯戦争の術式を構築した三家の一つとして不参加は許されないとしても、『せめて片親だけでも残るべきではないか』と提案したのだが、アイリスフィールは『切嗣の理想をかなえてやりたい』と首を横に振るだけ。

 

 この時点でアルトリアのマスター夫妻への信頼は底辺へと暴落した。

 

 アルトリアが最も嫌うモノの一つは『子を産みながらも親の責務を果たさない愚か者』だからである。

 

 そういう意味では子を成しておきながら理想を追い求める衛宮切嗣も、子供より夫の理想を優先するアイリスフィールも完全にアウトだったのだ。

 

 王様時代に身に着けたネコ被りで表面上は取り(つくろ)いながらも、内心では完全に両者を見限ったアルトリア。

 

 その不信度は生きたまま英霊として召喚された影響で、セイバークラスでありながら聖剣の鞘と聖槍を持っている事も話さない。

 

 さらには理不尽な令呪をレジストする為に、聖剣の鞘の抗呪効果を常時ONにする徹底ぶりだ。

 

 そんなこんなで始まった聖杯戦争。

 

 孤立無援であると自覚したアルトリアの容赦の無さは苛烈を極めていた。

 

 初戦であるランサーを、開幕エクスカリバー・オーバーロードによって朱槍の防御ごと両断。

 

 一手で一騎を墜とした後は、倉庫街に集う参加者の手札を冷徹に観察し、その後に遭遇したキャスターらしきカエル面は土下座状態から頭を上げさせる事無く斬殺。

 

 俺達の時と同じくライダー主催の酒宴に参加した時は、酒には口を付ける事無く王道を問われても『国が滅んだ時点で自分は王ではない』と塩対応で通す始末。

 

 まあ、自身が臨んで王座に就いたわけではないアルトリアにしてみれば、日々の国家経営に必死で拘りなぞ持つ暇も無かったのだろう。

 

 そしてライダーの宝具でアサシンが脱落した後、解散する流れに油断しきったライダー主従を不意打ちカリバーで吹き飛ばしたアルトリア。

 

 その蛮行に激昂した金ピカアーチャーが放った武器をアヴァロンで防ぐと───

 

『私をただのセイバーと思ったうぬの不覚よ』

 

 と返す刀でロンゴミニアドをどてっ腹に叩き込み、ゼロ距離真名開放で跡形もなく粉砕した。

 

 姉御が映した記憶映像を共に見ながら、アルトリアが『これって卑怯じゃないですよね?』と確認していたが、もちろん卑怯でも何でもない。

 

 もとより『酒宴の間は休戦だ』などはライダーが勝手に言っていた事で、アルトリアは一度も同意していない。

 

 にも拘わらず、敵が目の前で酒をかっ喰らって隙を晒しているのなら、それを突くのは当然であろう。

 

 俺としては卑怯うんぬんよりも、アルトリアがブリテン時代に考案した宝具のコンビネーションに感心した方が大きい。

 

 こっちには通じなかったけど、聖剣の鞘による絶対防御からのカウンターって、あんなにエグかったんだなぁ。

 

 ライダー達を倒して残るはバーサーカーだけとなったのだが、ここでアインツベルン陣営に予期せぬことが起きた。

 

 なんと敵対する6騎全てを倒す前に聖杯が降臨したのだ。

 

 聖杯の運び手として心臓に小聖杯を宿していた為に、聖杯降臨と共に死亡したアイリスフィール。

 

 妻であった女の成れの果てである聖杯に接触しようとした衛宮切嗣であったが、願いを叶える寸前になってアルトリアに令呪三画を使って命令を出した。

 

 曰く『宝具を以て聖杯を破壊せよ』

 

 突然の事に驚愕で目を見開くアルトリア。

 

 あらゆる呪いを弾く筈の聖剣の鞘の守りが何故か役に立たず、アルトリアの抵抗も空しく聖杯はエクスカリバーの極光の中に消えた。

 

 視界を焼く極光が治まると、アルトリアが立っていたのはカムランの丘だった。

 

 聖杯を目前としながらも、マスターの裏切りによって手に出来なかったことに悔し涙を流すアルトリア。

 

 妹は衛宮切嗣の行動も、鞘の効果を通り抜けて令呪が作動した理由も皆目見当が付かなかったようだが、事件の裏を知っている俺達には大体の予測が出来ていた。

 

 聖杯を手にしたにも拘わらず衛宮切嗣が破壊を命じたところを見ると、あの冬木は未だ大聖杯が呪詛に汚染されている可能性が高い。

 

 俺達が参加した第四次聖杯戦争において、大聖杯をグロ肉に変えていた『この世全ての悪』

 

 並行世界のセイバーから聞いた衛宮切嗣の理想である『恒久的世界平和』がこの世界の奴にも当てはまるなら、そんな聖杯を使おうなどとは絶対に思わないだろう。

 

 また、鞘の抗呪が効かなかった事に関しては一つの仮説が立つ。

 

 それは舞台となったあの世界が、俺達の世界から続く延長戦ではなく並行世界である事。

 

 その為、アルトリア召喚の触媒としてその世界の聖剣の鞘を衛宮切嗣が所持しており、呪詛を掛ける者と防ぐ者の双方が鞘を持っているという事から、効果が大きく相殺されたというものだ。

 

 アーチャー戦までは『全て遠き理想郷』が使用できたことを思うに、おそらくは小聖杯が降臨した際に衛宮切嗣がアイリスフィールの亡骸から回収したのだろう。

 

 他の触媒を用いて呼び出された可能性も考えたが、ライダーとアーチャーを葬った宝具三連発の後でもマスターが生きているところを見れば、上記の結論に間違いはないだろう。

 

 あれだけの超ド級の宝具を続けざまに使われれば、普通の魔術師は魔力の枯渇で早々に干乾びてしまうだろうからな。

 

 嘆いていたアルトリアであったが、この程度で潰れていてはブラック国家ブリテンのトップなど張ってはいられない。

 

 再度聖杯戦争へと赴いたあいつを召喚したのは、橙色の髪が特徴の少年だった。

 

 彼の名前は衛宮士郎。

 

 なんと、前回壮大にアルトリアを裏切ってくれた衛宮切嗣の義理の息子である。

 

 サーヴァントの襲撃を受けた事で士郎少年が自己防衛の為に自身を召喚した事を知ったアルトリアは、召喚の舞台となった土蔵の外にいた下手人と交戦を開始。

 

 ランサー、アルスターの大英雄であるクー・フーリンの宝具である『突き穿つ死棘の槍』によって負傷するも、退ける事に成功したアルトリアはある違和感に気づいた。

 

 ランサーの宝具は『因果の逆転の呪い』による心臓への必中の槍。

 

 他のサーヴァントなら兎も角、聖剣の鞘を持つアルトリアには通じないはずなのだ。

 

 だが、現実はそうではなかった。

 

 急所は外れたものの深手を負い、さらには傷が治る気配も無い。

 

 ここまでくれば、聖剣の鞘が動作していない事は明白であった。

 

 直後に襲来してきたアーチャーを不意打ち(『兄上直伝の卑怯殺法!!』という発言については後で説教)で戦闘不能に追い込んだものの、状況を理解していない士郎少年に戦闘を止められアーチャーのマスターと話し合う事に。

 

 その話し合いの際に、アルトリアは自身の願いよりも士郎少年に対して彼とその家族の安全の為に聖杯戦争を辞退するように説得していた。

 

 前回の裏切りから願いに固執しているのではと思っていたので、その場面を見た時は正直言ってホッとしたものだ。

 

 結局士郎少年はアルトリアの説得に応じず、彼等は主従として聖杯戦争を戦う事となったのだが、その行く先は前途多難であった。

 

 上記の聖剣の鞘の使用不能に加えて、正規の召喚でない為にお互いのパスが繋がっておらず魔力が足りない。

 

 次に士郎少年が魔術に関して素人に毛が生えた程度の物なので、知識や術の援護は期待できない。

 

 結果、圧倒的魔力不足の為に聖槍は事実上封印。

 

 アルトリアはクラス通り聖剣一振りでの戦闘を余儀なくされてしまった。

 

 その後、バーサーカーやライダーとの戦いを何とか切り抜けた二人であったが、キャスターの根城であった山頂の寺を訪れた時に破局が訪れた。

 

 士郎少年と別れて探索している時にアサシンと謎の影の襲撃を受けたのだ。

 

 いかに魔力が足りないとはいえ、本来であればアサシンなどアルトリアの敵ではない。

 

 だが、あの子を阻害した影は聖杯の呪われた中身と同じ性質を持つサーヴァントにとっての天敵だった。

 

 戦闘中に池の中から忍び寄ってきた影に捕らえられたアルトリアは、魔力放出の衝撃を利用して脱出しようと試みる。

 

 しかしその隙を突かれたあの子は、アサシンの宝具によって敗れ去ってしまった。

 

 聖杯戦争に参加する以上は負ける危険性が常に付きまとうモノだが、妹が討たれる場面を見るのはやはりキツイ。

 

 本来なら敗北したアルトリアは前回と同じくカムランの丘に戻るはずなのだが、此度はそうはならなかった。

 

 何故なら影によって捉えられたあの子は、聖杯の呪詛に侵されながらも生きていたからだ。

 

 その後、聖杯の泥の意思によってアルトリアが再び現世に現れたのは、バーサーカーと雌雄を決する時だった。

 

 黒の甲冑を纏い俺達と同色の髪と瞳の色をしたあの子は、聖杯から供給される無尽蔵の魔力に物を言わせて聖剣と聖槍の連打によってバーサーカーを撃破。

 

 バーサーカーが影に呑まれたのを確認すると自身もまた影の中に消えたアルトリアは、アンリ・マユの依り代となったサクラという少女の指示によって大聖杯の警護に付いた。

 

 そして、かつてのマスターである士郎少年と矛を交える事となる。

 

 真に迫った投影魔術による武器の生成と英霊顔負けの身体能力を駆使して立ち向かう士郎少年だが、ベストコンディションとなったアルトリアには届かなかった。

 

 彼の奥の手と思われる中華刀6振りによる多重同時攻撃も聖槍の暴風によって弾かれ、カウンターで突き出された穂先に心臓を貫かれた事で士郎少年は絶命した。

 

 唯一止めうる可能性持った少年をその手に掛け、そのまま『この世全ての悪』の手先となるかと思われていたアルトリアだったが、ここで思わぬ奇跡が起きた。

 

 士郎少年を貫いた槍の穂先が、彼の身体からある物を押し出したのだ。

 

 それは中ほどからひび割れた聖剣の鞘。

 

 おそらくはこの世界における鞘だと思われるそれが光の粒子となって消えると、アルトリアの腰に下げた鞘が起動し始めた。

 

 姉御の見解では、アルトリアの鞘が起動しなかったのは世界に二つの聖剣の鞘があるという矛盾と、あの子がサーヴァントとして士郎少年に縛られていた為に体内にあった鞘が優先されたからだという。

 

 今まで沈黙を守っていた鞘の再起動。

 

 これによって聖杯の呪いから解放されたアルトリアは、士郎少年を殺した事で罵声と共に殺意を向けて来るサクラを打倒し、呪いの壺と化した大聖杯を聖剣によって破壊した。

 

 そうして再びカムランの丘に戻ったアルトリア。

 

 その手には腰に下げた鞘に収まった聖剣とは別に、何故か呪詛に侵されていた時に振るっていた黒い聖剣が握られていた。

 

 思わぬ形で二本目の聖剣を手にしたアルトリアであったが、二度目の失敗に加えて憎からず思っていた少年を手に掛けた後悔は強く、三度の聖杯戦争に行く気力は無かった。

 

 心身共に打ちひしがれたあの子が取った行動は、妖精郷に帰るというものだった。

 

 王様のガワを被っている時はともかく根は甘えん坊なアルトリアは、限界寸前のストレスから(かつ)ての習慣のように家族のぬくもりを欲したのだろう。

 

 泣きそうな顔で『全て遠き理想郷』を起動させようとしたアルトリアだったが、二度の並行世界での機能不全と『この世全ての悪』の呪詛によるダメージからか、鞘はうんともすんとも言わない。

 

 家に帰れないと絶望したあの子はその場で泣き始め、それをミユちゃんに見つかったというワケだ。

 

 現在、アルトリアは記憶を見た姉御とお袋さんに思い切り甘やかされている。

 

 上記の出来事による精神的ショックに加えて、帰って来たガウェイン達を見た事で自身の願いが叶っていた事を知った為に、その嬉しさとがゴッチャになってギャン泣きしてしまったからである。

 

 少し落ち着くと本人は恥ずかしがっていたが、誰もそんな事を気にする者はいない。

 

 今まで頑張って来たのだから思う存分泣けばいいさ。

 

 そんなワケでお袋さん達の手が塞がっているので、今日は俺が晩飯を作ろうと思う。

 

 とりあえず、ワームの肉でも焼くか。

 

 

妖精郷日記 ■月×▼日

 

 

 アルトリア帰還から一週間が過ぎた。

 

 姉御達の手厚い看護が功を奏したようで、聖杯戦争のダメージから立ち直ったあの子は立派なニートと化している。

 

『これが私の夢にまで見た理想郷(アヴァロン)です!!』

 

 と言いながら菓子を片手にベッドに潜り込み、ガレスから借りた漫画やPCを(いじく)る姿はある意味堂に入っている。

 

 本来ならば喝の一つでもくれてやるのが家長の務めだろうが、俺としては10年くらいはこのままでいいかと思っている。

 

 ブラック国家元首からの二度の修羅場巡りなんて人生を送ったのだ、たまには息抜きしても罰は当たるまい。

 

 アマゾネス.COMの使用頻度もかなりのものだが、その辺も目を瞑ろう。

 

 ガレスも似たようなもんだしな。

 

 ただ、一言言わせてもらえるなら、せめて二日に一回は風呂に入って部屋の掃除をしなさい。

 

 妖精郷は自然の宝庫だから、食べかすなんか放っておくとすぐに蟲が沸くんだぞ。

 

 話は変わるが、近頃例のミュータントミミズの発生件数が増加している。

 

 ウチは独力で駆除できているが、近所の畑などはニョキニョキと地面から生えて奇声と共にビームを撃つこの害虫に苦心している者も多い。

 

 まあ、近所付き合いでチョコチョコ始末はしているのだが、これが妖精郷全域となると流石に手に余る。

 

 偶に顔を出す大型以外は腕に覚えがあれば駆除できるので現在は被害は広まっていないが、このまま数が増え続ければその限りではない。

 

 ともかく早急に根絶する必要があるのだが、本格的な対応は『フェアリー・ブレイバー』の解析を待たなくてはならないだろう。

 

 余談だが、少し前にミミズの死体から作った堆肥を使ってみた結果、ウチで作っていたキャベツが『キャベーッ!』『キャベーッ!!』と鳴き声を上げながら跳ね回る様になった。

 

 変異キャベツの中に『メェエエリィイアメェェエンッ!!』と叫んでいる個体もいた事から、原因はあのミミズ肉と見て間違いないだろう。

 

 あと、この空飛ぶキャベツはやたらと美味い。

 

 バッタ、ラット、ウサギ、塔の上に引きこもってるクズと試食実験を繰り返して安全性を確認してから食べたのだが、初めて食った時はマジで涙が出た。

 

 甘みも歯ごたえも普通のキャベツとは段違いで、ウチの家族にも大好評。

 

 アルトリアなど生で一玉喰ったほどである。

 

 現段階では商品化するかは思案中だが、それよりも収穫の時に襲い掛かってきたり、隙あらば脱走しようとするキャベツ共をどうするか考えねばなるまい。

 

 妖精郷名物『飛び跳ねキャベツ』

 

 どうだろうか? 




 オマケ『ニートリアHFルートを見た際の剣キチ一家』

 アサシンに敗北

モードレッド「ぎゃああああああっ!? 叔母上ぇぇぇぇぇぇっ!!」

ガレス   「いやああぁぁっ!? アル姉さまが!!」

モルガン  「アルトリアッ! 胸は大丈夫なの!? ケガはない?」

イグレーヌ 「ああ……アルトリア」

ニートリア 「最初にグロ注意って言った……みんなで…抱き着かないで……苦しい……」

 ニートリア・オルタ登場

ガレス   「そんな、アル姉さまが悪堕ちするなんてっ!?」

ニートリア 「待ちなさい、ガレス。貴女の言い方は何故か卑猥に聞こえるんですが」

モードレッド「伯母上が悪者になった!?」

モルガン  「悪者って……まあ、たしかに悪の騎士っぽいけど」

剣キチ   「なあ、あれってホントに悪なのか?」

ニートリア 「いや……狂暴性は増したと思いますけど、そこまで悪って感じじゃなかったですよ」

剣キチ   「なるほど、見た目に反して影響はソフトなんだな。俺も泥を被ったら悪になるのかな?」

モルガン  「そうなったら私も悪の魔女ね」

ニートリア 「二人が悪になったら、この世の終わりでは……」

 オルタVSバサクレス

モードレッド「叔母上、スッゲーーー!!」

ガレス   「ビームがいっぱいでロボットアニメみたい……」

モルガン  「こんな滅茶苦茶な宝具の使い方して大丈夫だったの?」

ニートリア 「聖杯から魔力がガンガン送られてくるんで、使わないとやってられなかったんですよ。魔力放出もかつてない程に上げまくりましたし」

剣キチ   「だからあんなゴッツな奴と真正面からやりあってたのか。つーか、攻撃マトモに食らってるけど痛くなかったのか?」

ニートリア 「滅茶苦茶痛かったですよ。けど、魔力放出がキツすぎて細かい動きが出来ないから躱せないし、ケガをしても余剰魔力で勝手に治ってましたからね。冷静に対処してるように見えるでしょうけど、あれって実はヤケクソだったんです」

剣キチ   「なるほど。俺はてっきり魔力放出が一定を超えると防御力も爆上げされるものかと……」

ニートリア 「そんな便利な技じゃないの、兄上だって知ってるじゃないですか」

モルガン  「もしそうだったとしたら、どうしたの?」

剣キチ   「いっぺん真剣に闘らないかと……」

ニートリア 「やめてください、しんでしまいます」

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