きっと続きません。
明日は普通に本編をば
……ほんと、すんませんっしたっ!!
ブリテンでの日々が終わりを告げ、妖精郷に居を移して幾星霜。
季節に関係なく色取り取りの花が舞う常春の世界での時は穏やかに過ぎていく。
英霊に召し上げられた事でガウェイン達が此方に転生する事が出来なくなった事実も、時と共に受け入れられるようになった。
知った時は本当に悲しかったが、今では場所は違えどあの子達があの子達のまま過ごせるならば、それでよいと考えられるようになった。
お袋さんと姉御はスローライフを満喫しながらアルトリアが帰ってくるのを待っている。
娘二人も元気で、ガレスはその癒しオーラでそこいらの動物や妖精たちを集めてのんびりと暮らしている。
こっちに来てからあの子の親衛隊も規模が増え、ブラックハウンドの他にビーバー(アーヴァングというらしい)、梟頭の熊や犬の妖精クー・シーに猫の妖精ケットシー、火竜であるファイア・ドレイクまで。
あと、何故かデュラハンの群が守護騎士みたいに付き従ってる。
ガレス曰く、歌を歌っていると懐かれたらしい。
今のマイブームはグエルン・アブイという鷲の賢者に聞いた出来事を書物にする事だそうな。
モードレッドはむこうにいた時と同じで、俺の周りをチョロチョロしている。
剣の腕に関してはまだまだだが、唯一氣功の才があるのでゆっくりそれを伸ばしている。
個人的にはそろそろ親離れしてほしいものだ。
俺は相変わらずで、近所付き合いをしながらトラブル等を解決しつつ、剣の修行を続ける日々だ。
さて、そんなスローライフの極致ともいえる妖精郷だが、つい最近事件が起きた。
魔神柱という良く分からん触手が二匹攻めてきたのだ。
それについては俺とヴォーティガーン陛下で何とかしたのだが、こいつ等がこの二匹だけとは限らない。
第二、第三の魔神柱が出てこられても困るので、原因を究明しようという事になった。
で、姉御に人界の様子を見てもらったのだが、なんと人類史が焼却されて人間が滅んでいるというではないか。
脱人間した俺達だが、こうまで事態が大きいと何らかの悪影響が無いとも限らない。
というワケで、人類の生き残りであり人理修復を目指す人理継続保障機関フィニス・カルデアにやってきた。
うん、どうやってだと?
俺だって妖精郷の中で遊んでいたわけじゃない。
武術としての歩法の他に、神仙術としての縮地法を修得したのだ。
仙術としての縮地法は地脈に乗って移動する一種の瞬間移動で、大地に接している場所ならばどこでも行けるというトンデモ技法だ。
今回俺に同行するのは次女のモードレッド。
ガレスと同じく妖精郷に入ってからまーったく育ってない永遠の12歳である。
パパは精神年齢くらいは育ってほしいと切に願っているぞぅ。
さて、いざ縮地で移動してみると、よく分からない魔法陣の上に出てしまった。
研究室っぽい部屋に、目の前にはオレンジの髪に白を基調にした少女と薄紫の髪に眼鏡をかけた少女。
眼鏡ちゃんの方からはギャラハッドに似た気配を感じるのだが……。
「はじめまして、貴方が新しいサーヴァントかな?」
目を輝かせてこちらに問いかける燈色の髪のお嬢さん。
期待を裏切るのは心苦しいが、事を偽る訳にはいくまい。
「すまないね。俺はそのサーヴァントではないんだ」
そう答えると、彼女の顔が見る見るうちに曇っていく。
う~む、申し訳ない。
「では、貴方方はいったい?」
「妖精郷からの調査員、といったところかな」
ヘコんでしまった少女と代わった眼鏡ちゃんの問いに答えていると、背中に張り付いたままのモードレッドがクイクイと襟を引っ張る。
「父上、父上! なんか後ろから出てくるぞ!!」
エーテルの流れを感じて目を向けると、そこには黒のキャップを被ったジャージ姿のアルトリアが。
「コードネームはヒロインX。昨今、社会的な問題となっているセイバー増加に対応するためにって、兄上ぇっ!?」
ふむ、なかなかはっちゃけてるな、妹よ。
「叔母上だ! 叔母上ー!!」
俺の背中から飛び降りて、アルトリアに抱き着くモードレッド。
そういえば、この子って俺の次にアルトリアが好きだって言って姉御をヘコましてたな。
「モードレッドまで!? いったいこれはどういうことですか!?」
いや、それはこっちのセリフなんだが……まあいい。
「あ~、簡単に言うとな。魔神柱とかいう触手野郎に妖精郷が襲われたので、原因を探る為に来た」
「妖精郷が!? それで姉上たちは無事なんですか?」
「俺と陛下で対処したから問題ない。ただ、あんなのがポコポコ生えてくると困ると思ってな」
「いや、そんなタケノコみたいに言わなくても」
俺の答えに呆れた顔をするアルトリア。
そう言われてもなぁ……俺は一撃でぶった切ったし、陛下のほうなんてヒーローショーの悪役みたいな扱いだったんだぞ。
もしかして、あれって強敵だったりするのか?
「叔母上、叔母上! あのイカ野郎ってそんなに強いのか?」
「召喚時に与えられる知識だと、サーヴァントが複数で当たる必要があると」
バカな、そんなに強いとはとても思えんのだが……。
「ふ~ん。けど、父上は一発で倒したぞ? バサーって」
「いいですか、モードレッド。何度も言っているように、兄上の剣を普通だと思ってはいけません。ブリテンにいた時ですら、因果律の破断なんて領域にいたんです。あれから修行を重ねたとしたら、どんなトンデモレベルになっているのか……。想像もつきません」
「この前、母上に言い寄って来た神をぶった切ってた!」
「もうだめだぁ……おしまいだぁ……」
我が妹よ、何故頭を抱えるのかなぁ?
「だって、兄上はもう『ザ・化け物』じゃないですか」
「ふははははは、愛い奴、愛い奴」
「痛いッ、痛いですっ! 拳で頭を挟んでグリグリしないでください!!」
さて、ぽんこつモードだった妹へのお仕置きも済んだ俺達は、召喚ルームとやらを後にしていた。
燈色の髪の少女、藤丸立香ちゃんに聞いた話では、あの魔神柱は『魔術王ソロモン』の配下らしい。
そして件の人理焼却の下手人も奴だという。
ソロモン、か。
個人的には水木しげるの『悪魔くん』をうろ覚えしているくらいしか知らんのだが……。
まあ、別にいいか。
どうせ目の前に出たらぶった切るんだし。
「完全に思考停止してますね」
「妖精郷に来てから頭を使う必要が無くて楽だって、この前言ってたぞ!」
黙らっしゃい。
「ところで、お前はどうしてそんな恰好をしてるんだ? 謎のヒロインXとか訳の分からん事言ってたし。というか、そもそも聖剣の鞘持ってるから、お前まだ死んでないだろ」
「はい、私はまだ生きてます」
「じゃあ、どうやって聖杯戦争に参加してたんだ? あれって俺みたいなイレギュラー以外は死んでないと参加できないんだろ?」
「あれはアラヤの力で幽体離脱してです。まあ、それも兄上に関りを根こそぎ断たれた所為で出来なくなりましたが」
「当たり前だ。誰が好き好んで妹を世界の奴隷なんかにするか。で?」
「あ、この格好ですね。なにか、私の直感が囁くんです。平行世界の堅物の私や黒く染まった私、母上みたいに胸が豊かに育った私がいると。そんな輩に紛れたら没個性になると思ったので、インパクトを狙ってみました!」
……妹が何を言ってるのか分からない。
「叔母上、王様モードにならないな」
「もう王じゃありませんからね。これからは一人の女の子、アルトリアとして生きます!」
某人気格ゲーの中華娘のエンディングみたいな台詞を吐きおったぞ、この娘。
というか、アラフォーが迫りつつある奴が女の子とか……。
いや、やめておこう。
姉御も言っていたじゃないか、年齢は禁則事項だと。
「あのさ、アルガさんだっけ」
「なにかな、立香ちゃん」
「えっと、貴方はアルトリアのお兄さんでいいのかな?」
「不本意だが、そこのヒロイン(笑)の兄だな」
「不本意ってどういう意味ですか!?」
シャラップ! 自分の事をヒロインとかいう奴の兄なんざ名乗りたくないわ。
「では、そこの女の子は?」
「次女のモードレッドです。はい、ご挨拶」
「オレ、モードレッド! 夢は二代目『剣魔』になることだ!!」
「『剣魔』?」
「兄上のブリテン時代の二つ名です。まあ、ブリテン最強の剣士の称号だと思ってもらえれば」
「ブリテン最強ですか。ランスロット卿とどちらが……」
言葉を紡ごうした紫の髪の少女マシュ嬢は、背後から立ち昇る殺気に息を呑んだ。
「すまない、奴とギネヴィアの名は二人の前で出さないでもらえるかな。……二人共、いい思い出が無くてね」
「は、はい」
少々どころではなく重くなった空気の中、白く塗装された廊下を歩いていると、見慣れた少女が現れた。
後ろのエセスポーツ少女ではなく、王時代の恰好をしたアルトリアだ。
「おぉ~、叔母上が二人だ」
感嘆の声を上げるモードレッド。
しかし、彼女の方は霊体が魔力で疑似的な肉体を得た正真正銘のサーヴァントだ。
生者の妹とは明らかに違うんだが、どういうことなのだろうか?
「お疲れ様です、マスター。ところで、後ろにいるのが今回新たに戦列に加わるサーヴァントでしょうか?」
「え? ……えーと、今回は少しややこしい事情があってね」
言葉に詰まる立香ちゃんに小さく首を傾げるアルトリア2号。
まあ、妖精郷から人が来たとか、もう一人アルトリアが増えたなんて、流石に言えんわな。
仕方ない、ここは年長者として助け舟を出すか。
「お初にお目にかかる。私はアルガ、しがない剣客です。故あってこの地に足を運んだ次第、今後ともよろしくお願いします、アーサー王」
こちらが名前を言い当てると、アルトリア2号の顔に驚きの表情が過ぎる。
「私の事をご存じか?」
「生前はブリテン島にいたのです。と言っても、ロット王に仕える一兵士でしたが」
うん、嘘は言ってないぞ。
何もかもをほったらかしてトンズラこいたけど。
「なるほど。ならば、私を知っていてもおかしくはありませんね」
此方の弁に、アルトリア2号は得心を得た顔で頷いた。
ふむ、どうやら彼女は俺の事を知らないらしい。
愚妹が言っていた戯言、もしかしたら真実なのかもしれないな。
「ところで、後ろの子は誰なのですか?」
再び俺の背中によじ登っていたモードレッドに指を射すアルトリア2号。
自分に話が向いたのが嬉しかったのか、肩にかかっていた腕の力で宙に跳んだモードレッドは、そのまま俺の首に着地して肩車の体勢になる。
「オレはモードレッドだ! よろしくな、もう一人の叔母上!!」
少し長目の八重歯をキラリと光らせて満面の笑みを浮かべる我が娘に、何故か2号の顔が大きく引き攣った。
ふむ、これはどういう事だ?
むこうにしてみれば見ず知らずの娘なので、いきなり叔母上呼びは失礼だと思うが、彼女の表情から感じる嫌悪感は尋常ではない。
「マスター、どういう事でしょうか?」
とってもイイ笑顔で立香ちゃんを見る2号。
その眼光からは『絶対逃がさない』という意思が容易に読み取れる。
「……説明させていただきます」
項垂れながら、面談室と書かれた部屋を指差す立香ちゃんの背中には、何とも言えない哀愁が漂っていた。
ウチの娘がすんません。
「なるほど。にわかに信じられませんが理解はしました」
結構長時間の説明のあと、アルトリア2号改めセイバーは深い溜息を吐いた。
お互いの話を擦り合わせて分かったのは、
1.セイバーの世界に俺はいなかった事。
2.むこうのモードレッドはセイバーと姉御の子? であり、ブリテン崩壊の直接的原因である事。
3.ガウェイン達はロット王と姉御の子であること。
大きいところはこれで、あとは細々としたところも違っているらしい。
ちなみに、ランスロットとギネヴィアはやっぱり不倫をブチかましていたらしい。
まったく、業の深い事である。
アルトリアは二つの世界の違いに額を押さえ、モードレッドは話が良く分からないのか、腕を組んでウンウン唸っている。
「しかし妖精郷にまで魔術王の手が伸びているとは。むこうは大丈夫なのですか?」
「早期発見できたから、大した被害は出てない」
「ヴォーティガーンの爺ちゃん、凄かったんだぜ! 胸から炎出したり、角から雷だしたり! あと、『ヴォーティガーン・クラッシュ!!』って、剣でスバーってイカ野郎を斬ったんだ!!」
身振り手振りを交えながら、興奮気味に陛下の活躍を語るモードレッド。
まあ、陛下は妖精郷の子供たちのヒーローだからな。
「ヴォーティガーンまで生きているのですか……」
「というか、どういう戦い方をしたのかサッパリなのですが……」
何かを悟ったような顔で虚空を見つめるセイバーと、首を捻るアルトリア。
自分の説明が伝わっていないのに気づいたモードレッドは、頬を膨らませながらポケットから水晶玉を取り出した。
嫌な思い出しかない、姉御特製の記録媒体だ。
「だったら見せてやるよ! オレの説明が正しかったってわかるから!!」
何をムキになっているのか、そう言って水晶玉に魔力を流すモードレッド。
こいつは氣と魔力の双方を使えるハイブリッドなのだ。
水晶に虹色の光が走ると、魔力による投影型ディスプレイが展開する。
そしてそこに映るのは、妖精郷を侵そうとする異形の触手だ。
身体のいたる所にある深紅の目をギョロギョロと動かす魔神柱。
奴が見つけたのは、草原で遊んでいた妖精や獣人の子供たちだ。
異形が放つ邪気に当てられて悲鳴を上げる子供達。
そして魔神柱の目から魔力が迸ろうとした瞬間───
「ドラゴン・ファイアーッ!!」
黒い炎の奔流が魔神柱に直撃した。
全身を焼かれ、悲鳴を上げる魔神柱。
奴の視線から子供達を護るように降り立ったのは、身長4メートルほどの胸に龍の顔が付いた全身鎧だ。
「妖精郷の未来を担う子供達を傷つける事は、このヴォーティガーンが許さん!!」
子供たちの歓声を背に、魔神柱に指を突き付ける全身鎧。
動く度にメカ音が鳴り響くとか、ニニューさん達の力の入れどころが間違ってる。
しかし、そんな陛下の言葉も魔神柱には届かない。
謎の鳴き声から連続して放たれる魔力弾が、子供達を庇って動けない陛下を襲う。
2発、3発と直撃する度に上がる子供たちの悲鳴と陛下への声援。
それに応えるかのように兜の目の部分を光らせて、陛下は叫ぶ!
「まだまだぁ! ヴォーティガーン・サンダー!!」
裂帛の気合と共に兜の角飾りから放たれた紫電は、魔力弾を貫いてそのまま魔神柱に突き刺さる。
身体の目を潰されて悲鳴を上げる魔神柱、それをチャンスと見た陛下は勝負を決めに掛かる!
「今だっ! ヴォーティガーン・ソード!!」
彼の呼び声に答えて背後から両手剣が飛び出す。
正眼に構えると同時に胸にある竜の意匠が口を開き、黒い炎で剣を炙る。
黒い炎の中で黄金色に染まっていく刀身。
「ぬぅおおおおおおおおっ!!」
それが切っ先にまで達すると同時に、陛下は折りたたんでいた翼を広げて魔神柱に突撃する。
舞い散る花びらの中、刃圏に相手を捉えると同時に大上段に剣を振り上げる黒い巨兵。
「ヴォーティガーン・クラッシュ!!」
気炎と共に振り下ろされた刃は、すれ違いざまに魔神柱を捉えた。
斬痕に沿って小さく炎を吹き上げる魔神柱。
血振りのあと、陛下が剣を収めると同時にその醜悪な姿は爆散した。
「な! 俺の言った通りだろ!!」
映像が終わると同時にドヤ顔で胸を張るモードレッド。
というか、陛下がまた進化してるんですけど。
前に見た時って、あんな放電機能とかブースターとかなかったよね?
「あ、兄上。今のが卑王ヴォーティガーンなのですか?」
アルトリアが信じられないというような顔でこちらを見た。
セイバーに至っては、ショックがキツかったのか白目を剥いてしまっている。
「今は妖精郷の勇者ヴォーティガーンな」
言うまでも無いが、最初はあんなじゃなかった。
竜の身体を失い、魂だけになった陛下はニニューさんが持って来た魔法の鎧に入ることになった。
当初は防御力が高いだけで他はいたって普通の鎧だったのだが、二人が近所の子供たちのリクエストに応えて火炎放射機能を付けたのがウケた事で歯車が狂った。
子供たちの要求はエスカレートし、元が子供好きで面倒見が良かった陛下がこれを受ける。
それを聞いたニニューさんは、自身がマジックアイテム職人である事に加え、伝で集めたドワーフと共に実現に向けて邁進。
竜のキャパシティを持つ陛下の魂の出力もあって次々に新機能が付与されていった結果、こうなってしまったのだ。
皆さん、はっちゃけ過ぎである。
しかし、なんだ。
これってそのうち、トレーラーかなんかと合体して『超巨大合体 グレート・ヴォーティガーン』とかになるんじゃねーか?
「えーと、これで俺達が君とは違う世界から来たってわかったと思う。これからよろしく」
明らかに意識のないセイバーに言葉を捲し立てて、俺はモードレッドを連れて早々に部屋を出る。
それに釣られてセイバーを除く面々が退出したあと、立香ちゃんはゆっくりと面談室の扉を閉めた。
すまんな、セイバーさん。
画像の選択を間違えたようだ。
だが、君の犠牲は無駄にはしない、俺達のカルデアデビューはしっかり成功させて見せる。
扉越しに冥福を祈った(まだ死んでません!!byセイバー)俺は、逃げ去るように早足でその場を後にした。