剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 感想欄でリクエストが多かったのと、もう一方の作品での初代様の戦闘描写の練習として書いてみた。

 己の力不足に血反吐が出そうです。

 偉大な、偉大な、初代様。

 スキルマックスにしたいので、『愚者の鎖』をください。


FGO『アズライールの霊廟にて』

 冥府の如き死の静寂が支配する寺院に轟音が響き渡る。

「ごめん……なさい………」

「静謐ちゃん!!」

 初代『山の翁』が座するアズライールの廟。

 その祭壇を背にして崩れ落ちる静謐のハサンを、藤丸立香は慌てて抱きとめた。

 第六特異点に根を下ろした獅子王とその円卓の騎士達に対する助力を得る為、呪腕のハサンの先導でカルデアの面々はこの地を訪れた。

 しかし彼等を待っていたのは、主である初代『山の翁』による試練だった。

 山の翁の傀儡となって、カルデアメンバーに襲い掛かる静謐のハサン。

 激闘の末、命を奪う事無く彼女の無力化に成功した立香達の前に、それは現れた。

「……生をもぎ取れと言ったが。どちらも取るとは、気の多い娘だ」

「これが私達の選んだ道よ! 文句ある!?」

 若干震えながらも毅然とした響きを見せる立香の声に、祭壇の前の空間がグニャリと歪んだ。

「否。結果のみを見るとはこちらの言、過程の善し悪しを問う事はすまい。───解なりや」

 死の気配を引き連れて現れたのは、一言で表せば髑髏の騎士だった。

 胸元に人の頭蓋を思わせる意匠を施した漆黒の鎧に、闇色のフードから覗くのもまた髑髏の兜。

 立ち昇る鬼火の如き死のオーラをその身に纏い、無骨な両刃の剣を地面に突き立てている。

 ハサン達の言が無くとも、その場にいた全ての者が理解した。

 目の前の死の具現というべき男が、この霊廟の主である初代『山の翁』だという事を。

「よくぞ我が廟に参った。山の翁、ハサン・サッバーハである」

 眼窩(がんか)に紅い光を灯した山の翁の言葉に、呪腕のハサンはその場に平伏する。 

「先の戦いの様子は見せてもらった。魔術の徒よ、汝らは死者として戦いに打ち勝ち、そして生を手にした」

「なら、私達の話を聞いてくれるの?」

「そうはいかん。汝らの試しは終ったが、そこの剣士の見極めが済んではおらぬ」

 山の翁の視線の先にいるのは、一行の保護者役であるアルガだ。

「そういえば、アルガさんはさっきの戦闘に参加していませんでした」

「え!? どうしてなんですか、アルガさん」

 立香の少しだけ非難の篭った視線に、苦笑いを浮かべる。

「すまない。俺が手を出したら、そこの初代殿も参戦してしまうからね」

「然り。その男が加われば、先の戦いは試練たりえぬところであった」

「初代様、それはどういう……」

「試練とは受ける者の限界をもって乗り切る物。大人が足元で震える子猫を討つ事を呼ぶものではない」

 呪腕の問いに帰ってきた山の翁の例えに、立香達は小さく顔を引き攣らせる。

 自分達が苦労して倒した限界突破の静謐もアルガにかかれば子猫同然と言われたのだから、さもありなんである。

「で、俺にはどのような試しを?」

「汝の試練の相手は我が勤めよう。世の(ことわり)を超えた者が相手では、呪腕を使ってでは(はか)る事はできまい」

 言葉と共に突き立てた大剣を引き抜く山の翁。

 それだけで、廟の空気は一気に冷たさを増す。

 これは気温の所為ではない、生物の終焉たる死の気配、髑髏の剣士が放つ濃密すぎるそれによって、魂が凍てついているからだ。

 山の翁の大剣が全貌を見せるのと同時に、アルガも手にした倭刀を鞘走らせる。

「父上が最初から剣を抜いた……」

 驚愕の声を上げるモードレッド。 

 アルガは修行の一環と称して、相応しいと認めた相手でなければ白刃を見せる事はない。

 名だたる英霊が集うカルデアでも、彼に剣を抜かせたものは片手に数える程度しかいなかった。

 ましてや最初から鞘を捨てるなど、影の国の女王であるスカサハでも有り得なかった事だ。

 皮膚を切るような緊張感の中、祭壇を前に両者の視線が交錯する。

 奇しくも双方の構えは同じ、剣を持つ手をだらりと下げた自然体。

 自身の心音が大音量に聞こえるような静寂の中、剣舞の始まりは唐突なものだった。

 かすかに響いた立香の固唾を呑む音を合図にして、両者の間に火花が散った。

 奏でられた刃鳴は七つ。

 金属が喰い合う甲高い音を残して間合いを取る両者の頬や鎧に薄く刻まれた傷が、初手は痛み分けであることを表している。

「なんと! 初代様と正面から打ちあうとは!!」

「兄上が傷をッ!?」

 驚愕の声を上げるヒロインXと呪腕のハサン。

 特にヒロインXこと平行世界のアルトリアは、ブリテン時代を通しても兄が血を流す場面を見たことが無い事から、その衝撃はひとしおだ。

「シャアッッ!!」

 蛇の威嚇のような気合と共に、山の翁の眼窩が赤く光る。

 咄嗟に後ろへ跳んだアルガのいた場所に、蒼白い炎の柱が立ち昇る。

 見ているだけで心胆を凍てつかせる冥府の轟炎を前に、アルガは空中で戴天流・峨眉万雷の構えを取る。

 そして着地をそのまま踏み切りとした彼は、矢のような速度で立ち昇る蒼炎を突き抜けた。

 戴天流剣法が一・貫光迅雷

 軽功術の妙によって一足でトップギアまで加速したその刺突は、まさに雷の如し。

 だが必殺の一刀が牙を立てたのは、翁の左手に現れた漆黒の盾だった。

 盾の表面を(えぐ)りながら受け流される必殺の牙。

「では、死ねぃ!!」

 無防備となったアルガの延髄へと死神の刃が迫る。

 理想的な形のカウンター。

 例え一角の達人だとしても、その一撃からは逃れられないだろう。

 ───もっとも、それは普通の達人の場合だ。 

()ッ!!」

 迫る断頭の刃を察知していたアルガは、不安定な体勢を押して地面を蹴った。

 軽功術によって無理な体勢からでも通常と変わらぬの加速を得た彼は、空中で身体を地面に平行にしながらコマのように回転し、遠心力を加味した一刀を降り掛かる剣に叩き込んだ。

 刃が噛み合う甲高い音が響き、弾かれる形で翁の刃圏(じんけん)から逃れたアルガは、何事も無かったように地面へと降り立った。

「うわ~! あそこから切り返すとか。すっごいわね、アルガさん。ねえ、トータ」

「…………」

「トータ?」

「三蔵。悪いがこの立合いが終るまで、静かにしてくれぬか」

「え?」

「目の前で刃を交えているのは、双方共に世界最高峰の剣士よ。俺も武士の端くれ、この立ち合いは一瞬たりとも見逃すわけにはいかん」

 ギラギラとした眼光で二人の様子を見る俵藤太に、三蔵の負けん気も鳴りを潜め、言われるままに口を噤んだ。

 再度の立ち上がり、その初手を取ったのは山の翁だった。

 観戦していた者全ての認識を振り切ってアルガの頭上に現れた翁は、両手で支えた剣に全体重をかけて相手を串刺しにせんと急襲する。

 しかし髑髏の剣士の動きを捉えていたアルガは、刹那の間で石畳を蹴って宙へと飛び出した。

 翁の突きとアルガの放つ斬り上げ。

 必殺を期した一撃が交差した瞬間、互いの身体に袈裟懸けに傷が刻まれる。

「むぅっ!?」

「チィッ!?」

 血の糸を残しながら先程まで相手が立っていた場所に着地した二人は、息を吐く間もなく刃を振るう。

 大上段から振り下ろされる死のオーラを纏った漆黒の刃は、白刃が描く輝線に絡め取られてあらぬ方向へと導かれていく。

 『軽きを(もっ)て重きを凌ぎ、遅きを以て速きを制す』

 内家拳の真髄を体現するかのような剣腕に、翁の体勢が大きく崩される。

 だが、山の翁もいい様に制される器ではない。

 大剣が受け流される刹那に逆の手に携えた盾でのシールドバッシュを放つことによって、カウンターの一刀を狙っていたアルガの動きを牽制する。

 対するアルガも、振るわれる盾の衝撃を軽功術の応用で自ら跳ぶ事によって最小限に押さえ、翁が体勢を戻す前に空中から戴天流剣法が一・鳳凰吼鳴を放つ。

 音も持ち主の意思すらも置き去りにして、死の具現たる魔人へと迫る白刃の煌き。

 それもまた漆黒の大剣によって撃ち落されていく。

 翁の剛剣が唸ればアルガはそれを巧みに受け流し、カウンターを狙ってアルガが迅剣を放てば翁もまた剣と盾で凌ぎ切る。

 互いの殺意に満ちた一刀は、跳ね上げられ、或いは打ち落とされて、すべて虚空に流される。

 白と黒の鋼が噛み合い、静寂であるはずの寺院に刃鳴が響いた。

 その度に生み出された剣風は、二人の周囲に吹き荒れながら周囲の物を容赦なく裁断していく。

 互いに刃を掠らせもしない攻防は、千日手の様相を(てい)してきたかに思われた。

 しかし均衡を保っていた天秤はゆっくりと動きを見せ始める。

 打ち合いが百手を超えた頃、不意にアルガの顔色が変わった。

 突如として濃密な殺意が自身の知覚を覆ったのだ。

(拙い、これは……!!)

 慄然(りつぜん)となった時にはもう遅い。

 深淵の闇を連想させる死の気配に感覚が次々に塗り潰される中、放たれた翁の刃がついにアルガの身体を捉える。

「ぐぅっ!?」

 寸でのところで急所は外す事は出来たが、逆袈裟に刻まれた一撃は決して浅くはない。

 一歩退いたアルガに畳みかけるように放たれる追撃は、次々とその身にその跡を残していく。

 朧気にしか感じる事の出来なくなった感覚を総動員し、辛うじて致命傷は避けながらアルガは舌打ちを漏らす。

 剛柔の差は有れど、眼前の魔人は自身と互角の剣腕を持つ。

 その男の剣撃を前にして攻防の要というべき感覚を潰されては、とてもではないが凌ぎきれるものではない。

 死線に晒された血塗れのアルガに、山の翁が振るう凶刃が迫る。

 その時、彼が取ったのは後退ではなく前進。

 戴天流剣法・放手奪魂

 脇腹に灼熱感を感じながらも、肉を切らせて骨を断つ一撃で翁の盾を断ち割ったアルガは、鋭い呼気と共にさらに地面を蹴る。

 同時に取るは、身体を弓の弦とし矢を引き絞るが如く剣柄を引いた戴天流・竜牙徹穿の型。

 次の瞬間に起こった事を、先の一撃によって後退を余儀無くされた山の翁は、順序だてて把握することが出来なかった。

 爆音。

 踏み砕かれた石畳と吹き上がる砂埃。

 立ち籠る粉塵の中、山の翁の眼窩に灯る光は前後左右から襲いかかる四人のアルガを見て取った。

「ぬぅっ!?」

 驚愕の声を上げる間はあれど、眼前の魔技に応じ得る術など無い。

 山の翁は、成す術もなく四方から閃いた刃線に両手と右足、そして脇腹を深々と抉られていた。

「ぬおぉっ……ッ!?」

 思わず苦悶の声を漏らしながら、刻まれた傷口から一斉に血飛沫を撒き散らす翁。

 対するアルガは、まるで一歩も動いていないかのように元の立ち位置に佇んだまま、荒い息を吐いている。

 アルガが与えた傷は普通の者ならば致命傷、並外れた頑強さを持っていたとしても戦闘不能になってもおかしくはない深手だった。

 しかし、山の翁は幽谷の境界を歩み続ける者。

 その意志は肉体の限界など容易く凌駕する。

 髑髏を模した兜、その眼窩の光に陰りが見えない事を読み取ったアルガもまた、傷を押して剣を構える。

 互いに相手の刃圏へと踏み込み、再び刃鳴が響く。

 剛柔が噛み合い、極限まで高められた技量同士が行きついたのは、つまるところ先の読み合いだった。

 受け手の剣は、攻め手の剣戟が重さ迅さが乗るのに先んじて封じにかかる。

 攻め手もまた絡め取られまいと、型や呼吸を変えていく。

 こうして両者の刃は技の出始めで切っ先が触れ合えば、すぐさま次手へと移るため、軽く鋼の触れ合うばかりの剣戟が猛スピードで展開する形になる。

 一見すれば切っ先を合わせるばかりのなれ合いに見えるだろうが、その本質はまったく逆だ。

 見る者が見たならば、両者の間で(せめ)ぎ合う気迫の熾烈さに総毛立つことだろう。

 ともに秒間数十手に及ぶ打ち合いの中、一手でも読み損なえば、それが必殺の決め技へと化ける。

 アルガは封じられた感覚を酷使して相手の『意』を読み取ろうとし、翁は担い手の意思に先んじて振るわれる白刃を、己が経験と技量によって封じに掛かる。

 両者の間で振るわれる絶技と緊張の密度は尋常ではない。

 そうして互いの血煙の中で剣を振るう両者に、霊廟の中にいる者は言葉を発する事ができなかった。

 立香やマシュはそのあまりの苛烈さに言葉が出ず、藤太やアルトリア、呪腕のハサンは両者の卓越した剣腕に舌を巻く。

「なあ、Xの。お主、あの立ち合いにどれだけ耐えられると思う?」

「……一手も無理でしょう。あの二人の中にある技量はケタが違いすぎる」

 興奮か畏怖か、己が背中を流れる汗の種類も分からない武人二人の前で行われていた応酬は、一際甲高い金音を残して中断する。

 申し合わせたように間合いを取った彼等は、双方共にその身を血に染めていた。

 全身傷に塗れていても、致命に至る物がないのは流石というべきか。

「───怖い、怖いな」

 不意にアルガの口から言葉が漏れる。

「こっちの読みのタネに気付いた途端に、俺の周囲を強烈な殺意で囲うとはなぁ。木を隠すのは森とはよく言ったものだが、こんな無茶なマネされたのは初めてだ」

 そう言いながらもアルガの顔に浮かぶのは笑みだった。

 それもただの笑顔ではない。

 見る者を凍りつかせるような鬼のそれだ。

「……それが汝の身の内に飼うモノか」

 言葉と共に大剣を正眼に構える翁。

 その口調は平坦だが、かの魔人が眼前の相手への警戒を一段階引き上げたのを全ての者が感じ取った。

 それと同じくして、アルガもまた剣を構える。

 正眼と峨眉万雷。

 呼び名は異なるが、その構えは鑑写しの様に同じ。

 そしてそれは互いの必殺の一手を放つ為の布石となるものだ。

 互いの間にある剣氣が渦巻く中、ヒロインXの懐に抱かれていたモードレッドは言い知れない不安を感じていた。

 このまま行くと、勝敗に関わりなく大好きな父親が帰ってこなくなる。

 何の根拠もない直観的なものだったが、笑みを深めるアルガの顔が不安を証明していると思えてしまう。

 眦に涙の玉を浮かべ始めた彼女を他所に、膨れ上がる剣氣を合図に互いが動こうとした瞬間───

「ちちうえぇぇぇぇっ!!」

 モードレッドの叫びが霊廟の中に響き渡った。

 出鼻を挫かれて動きを止める二人の剣士。

 その片割れであるアルガは、娘の泣き顔を見ると纏っていた鬼氣を収めて戦闘態勢を解いた。

「あの子の前であんな物を出しちまうとは、俺もまだまだ修行が足りんな」

 重傷を負っているとは思えないほどに自然な態度で頭を掻いた彼は、未だ剣を構える魔人へと視線を走らせた。

「初代殿、試しとやらはここまでにしないか? これ以上やれば、お互いに最後まで行くしかなくなるだろ」

 床に転がっていた鞘を拾って白刃を仕舞い込む相手を見て、山の翁もその大剣を収めた。

「絆を刻みし家族の存在、それが汝を人に繋ぎ留める鎖か」

「かもな。少なくとも、娘を泣かせてまで斬った張ったを続ける気にはならんよ」

「よかろう。その言葉を以て解と為す」 

 翁の言葉に一息吐いたアルガは、傷を感じさせない足どりでカルデアの面々の下へ戻っていく。

 その後、立香は山の翁からアトラス院の情報と、人理焼却と獅子王の聖槍の真実を見極めるという課題を与えられる事になる。

 訪問者が去り無人となった霊廟の中で、その主は身に刻まれた傷痕に目を向ける。

「よもや、我が武に心を揺り動かされる事になろうとはな……」

 戻った静寂の中、その呟きに言を返す者はいなかった。 




 対象の難易度は兎も角として、久々に全力の戦闘描写が掛けたのは楽しかったです。

 執筆中は鬼哭街OSTの『Soul for the Sword』『Supersonic Showdown』『SworddancerⅠ』を掛けまくり、描写の方も原作鬼哭街を参考にさせていただきました。

 こんなん脊椎反射で書けるとか、虚淵はスゲエや。

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