剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 後書きオマケ用に書いていたのですが、思ったより文字数が多かったので普通に投稿させていただきます。

 グラブルの同名の別人に触発されて書いてみたのですが、何故拙作のランスロットは格好良くならんのでしょうか?





IF 剣キチ世界のランスロットが思い留まったら

 月明かりに薄く照らされた愛する女の裸体が覆いかぶさってくる。

 グィネヴィアの瞳に女の情念の炎を見たランスロットは、それがエレイン姫のような狂気に変わるくらいなら、と罪を承知で受け入れた。

 愛欲に溺れた恋人の顔を見たくないが為に閉じた瞼の奥、そこに浮かび上がるのはこれから裏切ろうとする人たちの顔だった。

 敬愛すべき王は自身の大きな後ろ盾を失くす覚悟で、自分達が共に歩む道を作ろうとしてくれている。

 皮肉や憎まれ口しか聞いた事のないような王の義兄は、文句を言いながらも自分達が不自由しないようにと、王に多くの献策(けんさく)をしてくれた。

 真っ先に処刑などと過激な事を口にした義兄の子である若き騎士は、見通しの甘いところや実現が難しい場所などを次々に指摘し、計画をより良い物へする事に協力してくれた。

 そしてなにより、大罪を犯した自分が王に謝罪する機会を設け、グィネヴィアと結ばれるなどという無茶な考えを現実のモノにしてくれた義兄。

 ここで自身の弱さに屈してしまえば、自分は彼等を最悪な形で裏切る事になる。

 騎士団を追われてもいい、不忠者と(ののし)られてもいい。

 全て事実なのだ、返す文句などあるはずがない。

 だがしかし、彼等の信頼を裏切る事だけはできない。

 自分の為に尽力してくれた、これから力を貸してくれる皆の決意に泥を塗る事だけは絶対にしてはいけないのだ!

 目を見開いたランスロットは、肌蹴(はだけ)た上着から覗く自身の胸に唇を落とそうとしていたグィネヴィアを、肩に手を当てて押し留める。

「やめてくれ、グィネヴィア。私はあの方達を裏切れない、裏切りたくはないのだ!」

「何故!? どうして貴方は私達を貶めようとする者の肩を持つのですか!? 王は私に誠意を見せようともせずに、権力地盤を固める為の駒としてしか扱ってくれない! あのアルガという男もそう! 凶状持ちの悪魔憑きの癖に、なんの関係も無い私達の事に口出しをして! あのような卑しい男が───」

「いいかげんにしろっっっ!!!」

 部屋中の空気が震えるほどの大声量で、ランスロットの怒号が響き渡った。

 今まで愛する男の怒りを見た事がなかったグィネヴィアは、何が起こったかわからないというような顔でベッドにヘタリ込む。

「グィネヴィア。貴女が罵ったのは、私が忠誠を誓った主君。そして心の底から尊敬し、義兄と呼んだ男だ! あの方達を悪し様にいうのは、たとえ貴女でも許さない!!」

 いつもの優しげな瞳とは違う、触れれば切れるような眼光に、グィネヴィアはただただ頷く事しかできない。

 その様子を見たランスロットは怒気を収めて、彼女に服をまとう様に声をかけた。

 もはや情事に(ふけ)る雰囲気ではなくなった為、大人しくその言葉に従ったグィネヴィアに、ランスロットは再び声を掛ける。

「王妃、貴女は勘違いをしている。王を(たばか)って私と関係を持った時点で、私も貴女も首を()ねられて当然の大罪人なのです」

「それは分かっています。……ですが、子を産めぬ石女という(そし)りだけは、どうしても堪えられません。王に嫁いで十年、常に私は多くの者から世継ぎを切望する声を投げつけられました。世継ぎが出来ないのは王に責任があるのに……」

「それは王も承知しておられます。ですが、王妃の責務を果たしてきた貴女と離縁するには、その一点しか理由が見当たらないのです。グィネヴィア、勘違いしないで欲しい。彼らは貴女を貶めるつもりはない。我々が結ばれる事を望んだが故に、無茶を承知でそのための道を模索してくれたのです」

「ですが……ですがッ! 子を産めぬと言う理由での離縁は避けたいのです!! だって、このお腹には貴方の子がいるのですから!!」

 その時、ランスロットに電流走る。

「わ……わわわわわわわっ、私の子ですか!?」

「そうです! 私が体を許したのは貴方だけ。ならば、この子は貴方の子です!」

 力強いグィネヴィアの宣言に、崩れ落ちるランスロット。 

 もちろん、愛する女性との間の子なのだから嬉しくないはずがない。

 しかし、タイミングが最悪過ぎた。

 王がグィネヴィアと離縁する理由は、世継ぎが生まれないからだ。

 なのにその王妃の懐妊が判明すれば、離婚なんて到底不可能になる。

 しかも家臣の一部は王が女性である事を知っている。

 となれば、ここから芋づる式に自分とグィネヴィアの不義が露呈してしまうことに……。

 というか、奇跡が起きてバレなかったとしても、その時は託卵した我が子がブリテンの次期王として育てられるという、洒落にならない展開が待っている。

(私はどうすれば……どうすればいいんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!)

「オボボボボボボボボボボボボボボボボ……」

 デスメタルのボーカルのようなデスヴォイスと共に、鬼のようなヘッドバンキングを繰り返すランスロット。

 突然の奇行に恋人のグィネヴィアもドン引きである。

 このまま理性の糸が切れていれば、白塗りの顔に悪魔的なメイクを施した、湖の騎士改めヨハネ・クラウザーⅡ世が誕生していたことだろう。

 SATUGAIせよ!!

 まあ、幸いにもそのような事はなかったわけだが、過酷な現実がランスロットの脆弱な精神を蝕む事に変わりはない。

 グィネヴィアが帰った後、ランスロットは独り考える。

 不倫告白で王や義兄に多大な迷惑を掛けた身としては、この件くらいは自分でケツを拭きたい。

 だがしかし、事の次第は一介の騎士風情には手が出せるものではなかった。

 そうやって三日三晩悩んだもののまったく妙案が出る事はなかった。

 その結果、押し寄せるプレッシャーによって、豆腐よりも柔いメンタルを誇る湖の騎士はあっさり発狂。

 兵舎を飛び出してケダモノの如く全裸で森を徘徊したが、一向に事態は好転しなかった。

 四日後、鹿の交尾を見たのを切っ掛け(きっかけ)としてグィネヴィアの事を思い出し、漸く彼は正気を取り戻した。

 自身になす術が無いと悟ったランスロットは、恥を忍んで義兄と慕うアルガの元を訪れて事の次第を説明。

 頼れる義兄は、彼にとてもイイ笑顔を向けてこう言った。

 

お前、ええ加減にせえよ

 

 次から次へと厄介事を持ってくるランスロットに内心ではお怒りモードのアルガであったが、なんと言っても自他共に認める弟分である。

 正直に白状されて助けを求められれば、手を差し伸べないわけには行かない。

 その後、王城に(おもむ)いた彼は、ランスロット問題の密談に参加したアルトリア・ケイ・アグラヴェインに声を掛けて、降って湧いたこの問題について話し合った。

 精力的に働いていたケイとアグラヴェインだが、今回ばかりは愛想が尽きたのか『2人纏めて処刑すれば?』と匙を全力投球する始末。

 昨日の今日でこの有様なのだから、こんな態度を取られても仕方がない。

 しかしアルトリアとアルガは『以前から性交渉があったのなら妊娠するのは当然であり、不倫を知った以上はそれを理由に見捨てるのは(しの)びない』と説得。

 深夜まで意見をぶつけ合った結果、『グィネヴィアの腹が膨らむ前に離婚を成立させてキャメロットから退去させる事』を目標に定めた。

 女性が懐妊を自覚してお腹が膨らみ始めるまで、多く見積もって二ヶ月。

 猶予期間が一気に六分の一になった為に形振り構う事が出来なくなった四人は、強硬手段に出ることになった。

 アルトリアがグィネヴィアの生家と正攻法で離婚交渉を行う(かたわ)ら、アルガが相手方の屋敷に忍び込み、王家に知れると都合の悪い機密情報を奪取。

 それをケイが調理して、交渉の武器に仕立て上げるという感じだ。

 こんなマネをすれば相手方の反感は必至なのだが、なにぶん四人も余裕が無い。

 グィネヴィアの腹が膨らんでしまえば、この策は失敗。

 待っているのは馬鹿二人の不倫暴露とそれに伴うケジメの処刑。

 そしてランスロット派の報復と、彼らに食糧輸入で餌付けされた諸侯による内乱だ。

 そうなってしまっては、ブリテンは確実に滅ぶ。

『こんなアホな理由で国を滅ぼしてたまるか!!』

 四人の心は一つになっていた。

 そんな彼等の頑張りが功を奏し、一ヵ月半という驚異的なスピードで離婚が成立。

 腹が目立つようになる前にグィネヴィアは城を出る事になり、アルトリアも後妻を押し付けられる事は無かった。

 その後、ランスロットは傷心旅行を装っていたグィネヴィアとフランスで合流。

 この際、白馬の王子様をプロデュースしようとした彼は、ボールスに本気で殴られた。

 そんな笑い話があったものの、新領主となったボールスの援助の下、第一子も無事に生まれて穏やかな余生を送る事になった。

 また、ランスロットの退去から一月ほど後に、円卓の筆頭騎士であったガウェインが退職。

 弟であるガヘリス、アグラヴェインも相次いで職を辞し、彼等は生家と共に忽然と姿を消したと言われている。

 さらに半年ほど後に、アーサー王はペレス王が暴露した性別詐称の責任を取って玉座を退いた。

 一時はアーサー王を処刑せよという声も上がったが、退位の夜を最後に本人の消息が途絶えた事でそれも鎮火した。

 王城に勤めていたある侍女からは、その夜に王が玉座の前で聖剣の鞘を手にすると、鞘は眩い光を発して王を光の中へと誘い、後には誰もいなかったという証言が残っている。 

 アーサー退位の後、フランス領はブリテンと袂を分かった。

 その関連で大小の外交問題が発生したが、活躍が残されていたのは領主であるボールスのみで、ランスロットは円卓を退去してからは表舞台に現れる事は無かった。

 ただ、ボールスが残した手記の中には、彼には年に数回訪れる銀髪金眼の歳若い友人がおり、病没する際に彼を看取ったのもその友人だと言われている。

 


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