剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 話数整理の前に、100話達成記念の小話をば。

 ネタ垂れ流しですが、皆様の暇つぶしになれば幸いです。


100話達成記念『妖精郷の日々(拡大版)』

 妖精郷日記 ●月 ×日

 

 今日、ガレスからあるゲームを勧められた。

 

 『ソードアートオンライン』というもので、なんでも疑似体験型のRPGらしい。

 

 妖精郷にいて現世のネット環境にアクセスできるようになっているとは、今更ながらフェアリー・ブレイバー様々である。

 

 

 さて件の『ソードアートオンライン』だが、なんでもナーヴギアというヘルメット型のゲーム機を被る事で脳波を使ってゲームの世界をリアルに体験するとか何とか。

 

 説明から魂魄転写を思い出して嫌な予感がしたのだが、愛娘がわざわざ勧めてくるのだから断るのも気が引ける。

 

 という訳で、ちょっとだけならとプレイする事となったワケだ。

 

 『ソードアートオンライン』はRPGにありがちな魔法という概念は存在せず、代わりに様々な剣技を駆使して戦うという俺好みなゲーム。

 

 チュートリアルに目を通し、街で最低限の装備を整えれば準備完了。

 

 いざ冒険開始と町を出てみれば、数分も経たない内にエネミーキャラが姿を現した。

 

 こちらの前に立ち塞がったのは小柄な猪のようなモンスター。

 

 先手必勝と間合いを詰めつつ剣に手を掛けた瞬間、バチッと何かが弾ける音と共にゲームは中断されてしまった。

 

 焦げ臭い匂いが鼻を衝くと同時に、ナーヴギアが妙に熱いので慌てて外してみると、なんと煙を吹いているではないか。

 

 『お父様が壊したぁっ!』と、久々にガチ泣きするガレスに焦った俺は、嘆く娘を鎮める為にニニューさんの元へ件の道具を持ち込んだ。

 

 相手は陛下を始めとするトンでもロボを造り上げた『妖精郷、驚異の技術力』の元締めである。

 

 こんな玩具程度ならすぐに直ると思いきや、ニニューさんから帰ってきたのは修復不可能という無慈悲な言葉であった。

 

 彼女が言うには、ナーヴギアは使用者の脳波を介して思考を読み取る事で、ゲームに反映する代物なのだという。

 

 そして今回の故障の原因はこの仕組みにあった。

 

 半壊したメモリから何とか拾い上げたログで分かった事だが、どうも俺の剣を振ろうとした際の思考速度が速すぎて、ナーヴギアが付いていけなかったらしい。

 

 その結果、内部の機構に過剰な負荷が掛かり、ナーヴギアはオーバーヒート。

 

 調査の為に外装を開けてみたところ、基板や配線などが軒並み焼き切れてしまっており、被害は本体だけでなくソフトにまで及んでいたそうだ。

 

 そういった訳なので、ニニューさんが下した診断はソフト・ハード共に全損。

 

 修理するくらいなら一から作り直した方が早いというものだった。

 

 家に帰って先の件を説明したのだが、やはりというべきかガレスは膨れて臍を曲げてしまった。

 

 どうも『ソードアートオンライン』は正式稼働前のβテスト作品だったらしい。

 

 テスターに選ばれるには倍率がかなり厳しいらしく、あの子もプレイできるのを本当に楽しみにしてたのだ。

 

 ワザとじゃないとはいえ、さすがにこれは申し訳ない。

 

 ゲームの最新ソフト一本に加えて、旅行に連れて行くという約束で何とか機嫌を直させる事が出来た。

 

 痛い出費ではあるが、こればっかりは仕方がない。

 

 ヘソクリで足りない場合は賞金稼ぎのバイトで賄うしかないだろう。

 

 それと八つ当たりの意味を込めて、ゲームとナーヴギアの発売元には不良品としてニニューさんから貰ったデータを添えてクレームを送っておいた。

 

『ゲーム・ハード共に軟弱極まりない。この程度で壊れるならプレイするに能わず』という一文を添えて。

 

 開発者の茅場晶彦よ。

 

 悔しかったら、俺の反応速度に耐えうるゲームを作ってみるがいい。

 

 

 妖精郷日記 ●月 ▲日

 

 

 先日のガレスとの約束を果たすため、旅行も兼ねて日本の首都に行ってきた。

 

 メンツは姉御と俺、お袋さんにガレスとモードレッド。

 

 ガウェイン達は仕事の予定が合わず、ギャラハッドはレンコンの栽培が大詰めなのでと拒否。

 

 ミユちゃんは常若の国だし、ニートに関しては一声かけた瞬間にマッハで拒否ってくれた。

 

 日帰りを予定してゲートを通った俺達は、まずは電気街で約束していたゲームを購入。

 

 娘の喜ぶ顔と財布に吹くすきま風に目頭を覆う事となったが、その辺は顔に出さないのが男というものだ。

 

 その後、モードレッドや姉上たちのリクエストに応えながら観光と洒落込んだ。

 

 このまま何もなければ楽しい旅行で済んだのだが、こういう時に限って厄介事が舞い降りるのが人生というモノである。

 

 なんと昼食を取る為に入ったレストランで殺人が起きたのだ。

 

 事件が起きたのは、こちらが料理を食べている真っ最中。

 

 関わり合いになどなりたくなかったが、事態が事態なのでブッチして帰るというのは無理がある。

 

 仕方が無いので子供達に死体を見せないように気を配りながら待つこと数分。

 

 ようやく警察の登場と相成った。

 

 橙色のトレンチコートをきた恰幅のいい警部の指示のもと、現場保存と店内の封鎖を行う警官たち。

 

 治安大国ニッポンと言われるだけあって機敏で無駄が無い。

 

 赤ら顔で現れては捜査もせずに、適当な奴2・3人へ徹甲弾をブチ込む上海のド腐れ警官とはえらい違いである。

 

 とまあ、ここまではよかったのだ。

 

 残念ながら、ここから俺達は日本の警察に首を傾げる事となる。

 

 鑑識や事情聴取と忙しなく動いている警察官たちだが、明らかにおかしな所が幾つかあった。

 

 まず、死体や犯行現場を衆目から隠そうしない。

 

 被害者の尊厳の保護や事件関係者の心理的配慮から、ブルーシートや何かで遺体を隠すのは常識である。

 

 現場の方も情報の漏洩を防ぐため、警察を始めとする捜査機関の人間には見せてはならないはずなのだ。

 

 しかし、店に現れた警官たちはそんなセオリーなど知らぬと言わんばかりに、現場を隠そうとも店内の参考人達を他へ移動させようともせず、そのまま現場の調査を続行したのだ。

 

 昼時のレストランは比較的子供連れも多い為、巻き込まれた顧客たちの心証はさぞや落ち込んだことだろう。

 

 さらには事件現場に子供が入り込んでいるのに摘まみだそうともせず、それどころか機密であるはずの事件の情報を漏らす始末。

 

 高名な探偵の連れ子だか何だか知らないが、言うまでもなく論外である。

 

 これに激怒したのは、旅行を台無しにされた事にイライラしていたお袋さんだった。

 

 妙に迫力のある笑顔と共に立ち上がったお袋さんは責任者の警部を捕まえると、子供に死体を見せる悪影響や被害者を衆目に晒す事の無礼さなどを矢継ぎ早に捲し立てたのだ。

 

 幇の一員であった経験から、警察相手に正面から文句を付けるのが悪手なのは知っている。

 

 しかし、今回に関してはお袋さんを止めようとは思わなかった。

 

 俺だって旅行を台無しにされた事に思うところがあったし、こっちに子供がいる事を把握しておきながら何の配慮も無い警察の対応にイラッとは来ていたのだ。

 

 だからこそ責任者の名前も抑えていたし、現場にいる警官の対応もおおよそのモノは携帯で撮影している。

 

 仮に揉めたなら画像をネットにアップしたうえで、警察庁に責任者の実名付きで対応の拙さを訴えようとも思っていたくらいである。

 

 さて、お袋さんの怒りは事件現場をチョロチョロしていた男の子や保護者の探偵にまで波及。

 

 探偵の方は何度か男の子を叱っていたようだが、それも本人が聞き分けなければ意味が無い。

 

 あの年の子どもは往々にして言葉だけでは止まらないのだから、手を上げるまでは行かなくとも抱き上げる等々で拘束して引き剥がすべきだったのだ。

 

 さて、穏やかで全く戦闘に向かない性格のお袋さんだが、あれでも女神の分霊である。

 

 その怒りをまともに食らえば、一般人などひとたまりもない。

 

 警部を始めとするその場にいた警察官、そして探偵や子供までもが完全に委縮してしまった中、シンと静まり返った店内で声を上げる者がいた。

 

 それは被害者の連れと名乗っていた女だった。

 

 彼女は酷く滑らかな口調で今回の犯行は自分の手で行われたと告白し、カバンの中から証拠を取り出しながら犯行の手口まで説明し始めたのだ。

 

 突然の事に皆が唖然とする中、俺は彼女が悔恨ではなく恐怖と絶望の表情を浮かべている事に気が付いた。

 

 女から伸びる魔力を辿ってみれば、その源はお袋さんと共に子供の耳を塞いでいる姉御。

 

 どうやらこの状況に怒り心頭だったのは俺達だけではなかったらしい。

 

 結局、自白に加えて取り出した証拠品から致死性の毒物が検出された事が決め手となり、その女性は逮捕された。

 

 俺達はというと、警察もお袋さんの剣幕がよほど堪えたのか、事情聴取もそこそこに解放される事となった。

 

 最後の最後でケチが付いたとプリプリと怒るお袋さん達を宥めながら、土産と家で摘まめる物を買って帰ったワケだが、実は一つ疑問が残っているのだ。

 

 はたして、日本の首都は東都だったろうか?

 

 

 妖精郷日記 ●月 ■日

 

 

 先日買ったゲームをみんなでやろうとガレスが言ってきた。

 

 妖精郷にいる内に読書に続く趣味としてゲームにハマっているあの子は、ちょくちょくこういう事を提案してくるのだ。

 

 しかし、今回は一つツッコミを入れさせてほしい。

 

 娘よ、買ったゲームは乙女ゲーとか言ってなかったか?

 

 さすがに1600歳のおっさんに女子的恋愛シミュレーションはキツイのだが、断ろうにも過日の大号泣が頭をよぎる。

 

 泣く子には勝てんとはまさにこの事か。

 

 ともあれ、やると決めれば前向きに取り組むのが俺の数少ない長所である。

 

 思えば乙女ゲーなるものがどういった物かは体験した事が無い。

 

 ならば、食わず嫌いを通すよりも知る機会を得たと考える方が建設的だろう。

 

 というワケで、後学も兼ねて家族全員でゲーム大会と相成った。

 

 さて、今回買ったゲームの概要を簡単に説明しよう。

 

 舞台は魔法(姉御が魔術だろとツッコんでいた)がある中世ヨーロッパによく似た世界。

 

 貴族の庶子である主人公は、とある事情で貴族たちが通う高等学校に入学する事となる。

 

 そこで彼女は同学年の第二王位継承者や大貴族の跡取り、騎士団長の長男に宮廷魔術師の息子、さらには国教の最高司祭の子息など。

 

 超格上の者達と出会った事を切っ掛けに、あの手この手でジャイアントキリングを繰り返していき、やがて学年の頂点へと……

 

 うん、違う?

 

 ああ、この中の一人と恋仲になるのが目的なのか。

 

 なんだ、つまらん。

 

 ともかく、そういった目的の為に各種訓練で自身の力を伸ばして行くゲームなのだ。

 

 さて、初回は持ち主であるガレスがプレイするワケだが、攻略対象に関してウチの女性陣は満場一致で一人の男を上げた。

 

 その男とは上記されていない攻略キャラ、主人公とは幼馴染の関係にある平民である。

 

 お袋さん『王族なんて絶対にダメ。地底深くまで続く人生の墓穴に自分から飛び込んでどうするの』

 

 ガレス『貴族もダメです。オークニ―にいた時、5歳の私をハァハァ言いながら見てた怪しいおじさんが多くいました。あんな変態達のところにお嫁に行くなんてできません』

 

 アルトリア『騎士もナシですね。忠義や名誉なんかで自分を粗末にして、残された人たちの悲しみも想像できない輩が実に多い。部下としてはともかく、伴侶にするにはリスクが高すぎます』

 

 姉御『魔術師なんて人心を捨てた外道よ。そんな奴の嫁になるなんて自殺行為以外の何物でもないわ』

 

 女性陣のセリフは実体験である所為か、説得力が半端ない。

 

 というか、愚妹よ。

 

 お前、仮にも騎士王って呼ばれてたのに騎士全否定ってどうなの。

 

 そんな感じで司祭の方も『宗教家なんて身内に置くのは疲れるだけよ』というお袋さんの言葉によって候補から外れる事に。

 

 コントローラーを握って数分でハイクラスなキャラとの付き合いをバッサリと切り捨てたガレスは、学校すらブッチして幼馴染と遊びまくった。

 

 その結果、学校は退学となったが、それを切っ掛けに幼馴染の家に嫁入りという結果に終わった。

 

 当然、父親である貴族との関係は断絶。

 

 主人公は幼馴染の家が経営するパン屋の看板娘として平凡な人生を送ったらしい。

 

 俺的には色んなチャンスを不意にした微妙な終わり方だと思ったのだが、女性陣にはハッピーエンドに映ったようだ。

 

 姉御やお袋さんも『やっぱり平坦で波風の立たない人生が一番よね』と力強く頷いてるし。

 

 二人の経歴を思えば、そういう結論に達するのも致し方ないのかもしれない。

 

 さて、2回目は男性陣全員でプレイする事に。

 

 野郎五人が雁首並べて乙女ゲーなど、なかなか見れない光景ではないだろうか?

 

 始める前にアルトリアから『絶対おもしろい事になると思うので、知り合いに動画配信してもいいですか?』との打診があった。

 

 その知り合いとやらが何者かはわからないが、あの子が親交を深めているなら悪人ではないだろう。

 

 息子達からも許可を得たアルトリアが機材の準備を終えたところで、いざプレイ開始。

 

 アルトリアと友人のオッキー氏が酸欠寸前まで笑っていたので、ここからは会話をダイジェストで書いていこうと思う。

 

剣キチ『さて、一年目だがどうすればいいと思う?』

 

三男 『そうですね……。学び舎に通う以上、まずは学力を一定にするべきかと』

 

長男 『甘いですよ、三男』

 

三男 『どういう事だ、長男』

 

長男 『ここは上流階級専用の学舎、そして主人公は平民出の少女です。身分を盾に無体を働こうとする悪漢がでる可能性は十分にあるでしょう。ならば───』

 

次男 『まずは身を護る武力を身に着けるべきって事だな! さすが兄貴、冴えてるぜ!!』

 

三男 『ふむ……そのリスクは無いとは言えんか』

 

剣キチ『ならば、この一年は鍛錬の年だな』

 

四男 『後ろで長女姉さんがひっくり返ってるんだけど、大丈夫かな?』

 

 

剣キチ『一年目を最低限の勉学以外を武術に割り振った結果、筋力がカンストしてしまった』

 

長男 『見事なゴリウーが誕生しましたね』

 

次男 『こいつ絶対腹筋シックスパックになってるだろ』

 

三男 『攻略対象とやらで唯一現れている騎士団長の息子だが、好感度が下限まで落ちてるのはどういう事だ?』

 

長男 『一年目の後半から申し込まれた模擬戦で連勝し続けてるからでしょうか?』

 

四男 『多分、勝った後に出る選択肢で父さんの選んだ答えが拙かったんじゃないかなぁ』

 

次男『「この程度も防げんのか、雑魚め」とか「そんなザマで騎士団を継ぐつもりか? 笑わせるな」とか、エキセントリックな選択肢ばっかり選んでたもんな』

 

剣キチ『奮起を促す為にやったのだが……裏目に出るとは根性無しめ』

 

長男 『こうなっては仕方ありません。軟弱者は捨ておいて他の者に目を向けましょう』

 

三男 『確かにその方が建設的だな。しかし現状では奴しか対象が出ていないぞ?』

 

長男 『長女からの情報では、能力を上げるとターゲットが現れるとか。ならば、再び己を磨けば良いのです』

 

剣キチ『ふむ。ならば、武を極めた以上は智に手を伸ばすべきだな』

 

四男 『今度は程々に周りと交流を持とうね』

 

 

剣キチ『知力カンスト完了。学生なのに大魔導士の称号を得てしまった』

 

次男 『武力があって魔術の腕も高くて、そのうえ言動がキツイ。これってスカサハじゃね?』

 

長男 『言われてみれば、たしかに』

 

モル子『恋愛要素を売りにしてるゲームなのに、色恋からもっとも縁遠い女が現れた件』

 

長女 『みんな、選択肢の選び方がおかしいんだよ! せっかく攻略対象が出てきたのに、一言で爆弾を爆発させてたじゃん!!』

 

剣キチ『う~ん。と言われても、父ちゃんの中ではもうキャラが固まってたからなぁ。今更ブレるのもおかしいだろ』

 

長男 『この二年間の言動を思えば、男に媚を売るような人間とはとても思えませんしね』

 

次男 『こんなキッツイ女が突然ギャル風になったら、俺だったらこの世の終わりかと思うわ』

 

お袋 『完全にゲームの趣旨から逸脱しているわねぇ。まあ、この子達には難しいと思っていたけど』

 

剣キチ『その、なんだ。主人公も男漁りの為に学校に入ったワケではないだろうからな。ここまで成長できたのなら本望だろうさ』

 

三男 『確かに優れた人材が育つのは学校の本分ですな。では、この後は───』

 

剣キチ『ここまで来たら目標は一つ、全能力カンストのパーフェクト・ヒューマンだ』

 

四男 『父さんはゲームの中でも修行から離れられないのか……』

 

 

剣キチ『学校を卒業してもゲームが続いてるんだが……』

 

次男 『長女の時は……退学になったんだっけか』

 

長男 『もしかしたら、卒業後に行われるのが攻略対象の持つ固有ルートというモノなのかもしれませんね』

 

剣キチ『固有ルートなんて知ってるとは、長男は詳しいんだな』

 

長男 『いえ、後ろで叔母上が引き付けを起こしそうになりながら、そう漏らしていたんですよ』

 

ニート『ダメです…笑い過ぎて…呼吸が……あとお腹痛い……』

 

オッキー『ニートちゃんの家族、面白すぎワロタwww みんなイケメンなのに、やってる事が残念すぎるwww』

 

次女 『叔母上ー! だいじょうぶかー!!』

 

末娘 『ニート叔母さんしっかりー! ほら、お水だよー!』

 

剣キチ『愚妹がエラい事になっているのはさて置いて、そんなルートに行ける相手がいたんだな』

 

三男 『軍人になってるところを見るに、相手は最も好感度が高かった騎士団長の息子のようです』

 

剣キチ『他の奴等はゲージ自体が木っ端微塵に吹っ飛んでたからな、奴以外には考えられまい』

 

四男 『あのキャラってさ。三年に入ってからは模擬戦に勝って心無い言葉をぶつける度に、なんでか知らないけど好感度がグングン上がってたよね』

 

長男 『罵倒され過ぎて被虐趣味に目覚めるとは、なんとも業が深い』

 

三男 『……話を戻しましょう。能力から考えれば当然なのですが、隣国との戦争が始まってから主人公が破竹の勢いで出世していますな』

 

次男 『そりゃあスカサハモドキだしな』

 

長男 『軍での地位が盤石になった事で、やはりと言うべきか騎士団長子息との結婚話が出てきましたね』

 

次男 『アイツ等の関係って男女の仲ってよりも飼い主と犬だろ。今じゃ罵倒する度に「ありがとうございます!」って返事が返ってくるんだぞ』

 

長女 『こんなルート、攻略サイトにだって少しも書いてないよぉ! どうやったら行けるの!?』

 

剣キチ『どうやったらと言われても、スカサハロールプレイとしか……』

 

モル子『要するに、普通にやったらどう頑張っても無理って事ね』

 

三男 『どうやら次の出撃が終われば挙式が待っている様子。ゴールは近いですな』

 

剣キチ『いや、結婚に合意した覚えはないんだが』

 

次男 『そこはシナリオの都合って奴じゃね?』

 

長男 『シーンが飛んだ途端に戦闘の決着がつきましたね』

 

剣キチ『アッサリしすぎだろ。最後の戦闘なら、ボスの一人くらいだせよな』

 

次男 『つーか、まだ残存勢力が残ってるのにこっちを口説きだしたぞ、あのボンクラ』

 

長男 『そして当然の如く奴の背後から槍を持った兵士が!』

 

剣キチ『お、選択肢が来たな。え~と【1.ボンクラを庇う】【2.声を掛けて注意】【3.敵に向けて蹴りだす】。相変わらず、三番目の選択肢が秀逸すぎるな。これはどうするべきか』

 

長男 『3でしょう』

 

三男 『3ですな』

 

次男 『3以外の何があるってんだ』

 

長女 『普通は1だよ!?』

 

剣キチ『多数決で答えは3、と。なになに……「この程度、自分で何とかしてみせろ。───できなければ死ね」か。セリフもまたハイセンス』

 

長男 『これはスカサハ』

 

三男 『まさにスカサハ』

 

四男 『あ……』

 

次男 『オイオイオイ、死んだわアイツ』

 

長男 『蹴られた勢いのまま串刺しとは情けない。あそこは前転で穂先を躱しつつ、素早く体勢を立て直して斬りつけるところでしょう』

 

剣キチ『もしくは相手の槍の上を渡って首を刎ねる、だな』

 

四男 『そんな神業出来るの、父さんだけだと思う』

 

 

剣キチ『いやはや、なかなか練られたエンディングだったな』

 

三男 『ボンクラを敵に蹴りだした場面を多数の兵に見られていた所為で、国に帰るなり裁判もそこそこに死刑囚として投獄されましたからな』

 

長男 『ですが、看守の一瞬の隙を突いて自力で脱獄。そのまま一夜で隣国までの距離を踏破して亡命し、復讐の為に軍へと志願する。まさに不屈の戦士ですね』

 

次男 『そんでもって、一年足らずで将軍にまで上り詰めて故国を攻め滅ぼしました、と。いくら何でもバーバリアンすぎるだろ、この女』

 

剣キチ『もどきとはいえ、スカサハの異名は伊達ではないと云うことか。ところで、これってグッドエンドなのか?』

 

長女 『バッドに決まってるでしょぉぉぉっ!!』 

 

 どうやら乙女ゲー初体験は苦い失敗に終わったようだ。

 

 その後、アルトリアのネット友達であるオッキー女史から、某動画サイトにこの時の映像をアップしてよいかと聞かれたが、さすがに不特定多数の人間に見せるモノではないので断っておいた。

 

 この答えに女史は大変残念がっていたが、次にこんな機会があった時はその様子を提供すると代案を上げると、あっという間に機嫌を直してくれた。

 

 しかし、こんな素人のプレイ動画など誰が好き好んでみるのだろうか?

 

 追伸

 

 事の発端になった『ソードアートオンライン』だが、正式サービスが開始された直後にプレイヤーのほとんどが仮想空間から戻ってこれなくなっているらしい。

 

 犯人は同ゲームの開発者。

 

 例のなんたらギアには着用者の脳を破壊する装置が付けられており、ゲームで死んだり正式な手段を踏まずにギアを外そうとしたら、プレイヤーの命は無いとか。

 

 いやはや、物騒な事件である。

 

 あの時に俺が壊していなければ、ガレスがゲームに囚われていたという事に……。

 

 これぞまさしく怪我の功名。

 

 自分の幸運に感謝しよう。

 

 

 

 

【後書きオマケ・サルベージ】

 

『妖精郷の日々』

 

【遊び】

 

チビモー『ガー姉ちゃん! 遊ぼう!!』

ガレス 『いいよ。何して遊ぶの?』

チビモー『なんかゲーム!!』

ガレス 『うーん、コンピューターゲームはモードにはまだ早いよね……』

コロ  (……クァッ)

ガレス (わぁ、おっきいあくび。それにしてもコロってば、気持ちよさそうに寝てるなぁ。……なんだか私も眠くなってきちゃった。……そうだ!)

ガレス 『じゃあね。コロのお腹にモフモフして、寝なかった方が勝ちってゲームする?』

チビモー『おう!』

ガレス 『コロ、お腹貸してくれる?』

コロ  (しっぽパタパタ)

チビモー『いいって言ってるぞ』

ガレス 『それじゃあ、いくよ? よーいドン!』

チビモー『コロ、モフモフだぁ』

ガレス 『気持ちいいねぇ』

コロ  (……)

チビモー(スヤァ……)

ガレス (スヤァ……)

コロ  (……クァッ) 

 

【ウチの母様】

 

モル子 『あら。ガレス、また新しいゲームなの?』

ガレス 『うん』

画面  『爆裂は土と風と火の超配合……爆ぜよっ! アース・ウインド・アンド・ファイア!!』

モル子 『ふーん。四大元素の内の三つをランダムに配合する事で混沌を作り出し、そこから反作用による爆発で威力を高めてるのか。……おもしろいわね』

ガレス 『母様?』

モル子 『ガレス。あとで面白いモノを見せてあげるから、庭に来なさい』

ガレス 『?』

 

―1時間後―

ガレス 『母様、来たよー!』

モル子 『えーと……。火を起点に土を延焼材として風で火力を増し、三つの元素が混沌になったら闇を加えて爆裂させるっと……。見よう見まねのアース・ウインド・アンド・ファイア!!』

ガレス (ゲームの魔法パクッてるーーー!?)

 

 

【ウチの父様】

 

剣キチ 『お。ガレス、また新しいゲームか?』

ガレス 『うん』

画面  『閃け、鮮烈なる刃! 無辺の闇を鋭く切り裂き、仇なすものを微塵に砕くッ! 漸毅狼影陣!!』

剣キチ 『ほー、高速移動からの斬り抜けを使った連続攻撃か。……やれるかな?』

ガレス 『父様、どうしたの?』

剣キチ 『いんや、なんでもない』

ガレス 『?』

 

―2時間後―

 

ガレス 『父様 ご飯───えぇ!!』

(四人に分身した剣キチの斬撃を四方から同時に食らって、バラバラに吹っ飛ぶ巻き藁)

剣キチ 『ふむ。セリフと斬り抜けた時の距離が無駄だから省いてみたんだが、どうもゲーム通りにはいかんな』

ガレス (パクるどころか別の技。っていうか、進化してるんですけどーーー!?)

 

【目標】

 

次男『三男、あの寝取り騎士にリベンジしたってマジか?』

三男『いいや。我々の世界にいる奴とは違うから、正確な意味で雪辱を晴らした事にはならん』

長男『そういえば、平行世界のランスロットと言っていましたね』

次男『よく分からんから、簡単に説明してくれ』

三男『モードレッドで例えるなら、私が倒したのはルーマニアで会った大きい方で、本命の小さい方はまだという事だ』

次男『なるほど……。だったらオレが一番乗りできる可能性があるってこったな!』

三男『そう言うからにはなにか新しい技でも覚えたのか?』

次男『そんなもんは無い! 真っ直ぐ行って全力でブン殴るだけだ!』

三男『……わかってはいたが、なんでこう考えなしなんだ』

長男『次男の怪力は知っていますが、奴が相手ではそれだけだと心許ないですね』

次男『大丈夫だ、父ちゃんに硬氣功を習ったから、聖剣一発くらいならガードできる! その間に思い切りぶっ飛ばせばいいだろ!!』

三男『なるほど、肉を切らせて骨を断つか。それなら勝ちの目はあるかもしれん』

長男『私は父上に教えてもらっていた一の太刀に磨きをかけました。いかに奴の防御が上手くとも、諸共に一刀両断してみせましょう』

次男『おお! すっげえ自信だな、兄貴!』

三男『ふむ、ならば私も六塵散魂無縫剣に磨きを掛けねばならんな。七連撃ではこっちのランスロットに届かんかもしれんし』

次男『なに言ってんだ。お前の目標は奴じゃねーだろ』

長男『ええ。少々違うとはいえ、三男はランスロットを倒したのは事実。ならばこちらの奴は我々に任せて、もっと上を目指すべきでしょう』

三男『上って、何処を目指せばいいのだ?』

次男『もちろん師匠越えだ!』

長男『男子として生まれたからには、父親超えも果たさねばならない宿命。まあ、長子としては先を越されるのは口惜しくもありますが、弟の成長の証と思えば……』

三男『待て、二人共! あのNTL騎士に勝った程度で父上とか、ハードルが高すぎるだろう!?』

次男『大丈夫だって! その六塵なんちゃらは必殺技なんだろ、それなら父ちゃんにも通用するかもしれんぜ!!』

三男『馬鹿者! 父上は私の数段上のレベルで体得している! それにこちらは未完成なんだぞ!?』

長男『大丈夫です。男を育てるのは逆境と何かの本で書いてありましたから。父上ーー!!』

三男『ヤメッ、ヤメローーーー!!』

 

 この後、メチャクチャ六塵散魂無縫剣を見せてもらった。

 

【恋愛ゲー】

 

剣キチ『ガレス、また新しいゲームやってるな』

モル子『今回は俗世の学校が舞台なのね』

ガレス『うん。高校三年間で彼女を作って、伝説の木の下で告白されるのが目的なんだ』

剣キチ『彼女? 彼氏の間違いじゃないのか?』

ガレス『そういうゲームもあるけど、セリフが恥ずかしくって……』

剣キチ『そうだな。ガレスにはまだ早い』

モル子『ウチの娘が千歳超えてる件……』

 

挑戦

 

ガレス『そうだ、お父さんやってみない?』

剣キチ『お父さんはマリオしかできないぞ』

モル子『無限にパタパタを踏んで空中歩行するのはやめてほしいんだけど……』

剣キチ『あれも軽功術のちょっとした応用だ。まあ、せっかくだから挑戦してみるか』

ガレス『うん、じゃあ初めからね』

剣キチ『ふむ、まずは生年月日と名前を入れるのか。生年月日は適当で、名前は剣キチ、と』

モル子『まずは入学式って、そう言えば私って学校行ったことないんだけど』

剣キチ『俺もな』

ガレス『……私も』

モル子『……』

剣キチ『………』

ガレス『…………』

モル子『まあ、実物に行けない分、ヴァーチャル体験を楽しみましょ』

剣キチ『そだな』

ガレス『うん』

 

ヒロイン

 

剣キチ『4月は学校に慣れるために勉強主体、と。ところでちょくちょく帰り道にあう赤毛の女は誰ぞ?』

ガレス『幼なじみのメインヒロインだよ』

モル子『一度一緒に帰ろうとしたら断られたわよね』

剣キチ『多分嫌われてんだろ。幼なじみでも仲がいいとは限らんし、ほっとけほっとけ』

ガレス『このゲームの趣旨……』

 

鍛錬

 

剣キチ『五月になって部活ができるようになったぞ』

モル子『一瞬の迷いも無く剣道部に入ったわ』

ガレス『お父様、ゲームでも剣士なんですね……』

剣キチ『初志貫徹は物事の基本です。これからは部活7:勉強3で行こう』

モル子『女の子とのお付き合いはどうするの?』

剣キチ『たわけ、未熟者に色は不要である』

ガレス『このゲームの趣旨!』

 

光陰

 

ガレス『たった三十分で二年が過ぎちゃった……』

モル子『本当にひたすら部活と勉強しかしてないわね』

剣キチ『失礼な。たまには身だしなみも整えてるだろ』

モル子『一週間に一回とか、本当にたまね』

ガレス『女の子関連のイベントが一回も出てないんだけど』

剣キチ『未だ未熟。色は不要である』

モル子『もうすぐ三年終わっちゃうんだけど……』

剣キチ『そんな事より夏のインターハイだ。今度こそ優勝してくれるわ』

ガレス『なんか目的変わってないっ!?』

 

成果

 

剣キチ『おっしゃ! インターハイ優勝!!』

モル子『あらま、本当に日本一になっちゃった』

ガレス『よかった。これで攻略の遅れを取り戻せるね』

剣キチ『何を腑抜けておる。日本を制覇したのなら、次は世界だろ!』

ガレス『そういうゲームじゃないよぉ!?』

 

変容

 

剣キチ『……なあ、モル子』

モル子『……なにかしら、剣キチ』

剣キチ『……日本一になったとたん、見知らぬ女が次々と群がってくるんだが』

モル子『なんというか、嫌なリアルさね』

ガレス『みんな、このゲームのヒロインだから! お父さん、誰かとデートしないと時間がないよ?』

剣キチ『……名前も知らん女とデート? ハニトラの匂いしかしない。そんな事より鍛錬だっ!!』

ガレス『ないから!? 高校でハニトラとかないから!!』

モル子『なんだろう、リアルな意味で剣キチの高校生活をトレースしているような気がするわ』

 

卒業

 

剣キチ『……終わった。剣道日本一で大学も合格、朋友も得たのに何故バッドエンド?』

ガレス『このゲームは恋愛シミュレーションだよぅ(涙)』

モル子『三年間剣道漬けで、女っ気の[お]の字もなかったわね』

剣キチ『いや、俺的にはグッドエンドだろ。俺が本当に学校に通ってたとしても、きっと同じような青春を送ってるはずだ』

モル子『……あの時の私の行動は間違ってなかったわ。剣キチ、貴方を手に入れるには強引な手が必要なのね』

剣キチ『その代償に、姉御はとってもチョロくなったけどな』

ガレス『チョロ?』

モル子『子供の前で変なこと言っちゃメッ!!』

 


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