大どんでん返し連打の本編、ネタにするにはどうしたらよかんべぇ。
ベンベン
家畜日記6年と23日
なんとも面倒な事を思い出した。
切っ掛けは兵士になる為の訓練中に頭を打ったこと。
これは言うなれば前世の記憶だろう。
この前世という奴では、俺は中国の上海という島で生まれた。
記憶の中の上海はこの島とは天と地の差ほどに文明が発達していて、領主のワンコロが自慢している屋敷なんて掘っ立て小屋に見えるような天を衝く建物がそこら中に生えていた。
馬がいらない鉄の馬車も空をブンブン飛び回っていたし、住人たちは体を鉄の機械に置き換えたサイボーグってのがほとんどだ。
でもって、そんな世界で俺が何をしていたかと言えば、笑っちまうことに今と変わらない虫けら同然だ。
ゴミや死体が溢れた路地裏に捨てられたガキを拾って戦い方を教え、使い物になったら死んで来いと鉄砲玉。
うん、今と全然変わんねえや。
違いがあるとすれば、教えられた武術の質だろう。
戴天流剣法。
神仙へ至る道筋の一つである氣功術と数千年の歴史の中を綿々と精錬されていった内家武術を組み合わせた殺戮の絶技。
それを極めれば超音速で飛ぶ弾丸を斬り払い、鋼の刃を手にすればその斬撃は因果律すらも破断する。
自慢になるが前世の俺は十代で免許皆伝に至り、戴天流の長い歴史の中でも会得した者は数えるほどしかいないという秘剣にすら開眼した。
そんな俺がどうしてくたばったのかと言えば、組織の裏切りである。
如何に剣の腕を上げようと所詮は番号で呼ばれる使い捨ての殺し屋、邪魔になったらあっさりとポイ捨てだ。
俺もただでは死なんと組織が抱えるサイバネ武術家の3割をブチ殺したものの、そこが限界だった。
最後はNо2に上り詰めていた兄弟子に首を刎ねられてあの世に逝きさ。
うん、めっちゃ悔しい。
野郎の太刀筋は見えていたのに体が付いていかなかったとか、剣士としてあるまじき失態である。
とはいえ、この辺は今更言っても詮無き事。
こうなったら今生でも剣の腕を磨いて更なる高みへ登ってやるか!
家畜日記6年と87日
そんなワケで兵舎からトンズラこいた俺です。
さて二度目の生を受けたこの妖精國では人間の地位はとっても低い。
ぶっちゃけると妖精のペット、もしくは家畜というべき存在だ。
でもって俺は奴等の先兵となるべく兵士として鍛えられる場所へ召し上げられていた。
俺の武の才を見極めてそこへ放り込んだのは、妖精國における六つの氏族「牙の氏族」の長にしてオックスフォードの領主ウッドワス。
記憶を取り戻す前の俺は遠間から見ただけでブルっちまっていたが、今思い出すと腕を上げるのに良さそうな獲物だと思う。
もう少し体が出来上がったら奴の首を取るのも悪くない。
基本的に妖精は戦闘に向かない種族だとしても人間よりはるかに強い。
では何故そんな弱小である人間から兵士を養成するのか?
それは妖精國に蔓延るモースと呼ばれる敵対種に充てる為だ。
奴等が言うにはモースは妖精を侵す呪いが生物になったような存在らしく、よほど力を持つ者でないかぎり妖精は一方的に食われてしまうらしい。
そこで人間に妖精が苦手とする鉄の武器を持たせて駆逐させているというワケだ。
もちろんモース自体も強力な存在なので、武装させたところで人間にも当然被害が出る。
しかし妖精にとっては人間なんて家畜も同然。
死んだら補充すればいい的なノリでバンバン投入されているわけだ。
まあ、ほかにも妖精騎士とかいう女王が子飼いにしている戦闘に特化した妖精がいるらしいが、見た事がないからわからん。
奴等の管理の下で兵士業をするのも悪くないんだが、前世の事を思えば誰かに使われるってのは御免被る。
実際、訓練だって集団戦がメインで個人の技を磨けるような感じはしないしな。
そんなワケで段平一本を拝借して軽身功と氣殺を頼りに兵舎をオサラバしたわけだ。
すまんな、パーシヴァル。
お前には義理も面倒を見てもらった恩もあるが、今の俺には剣の腕を上げる方がはるかに重いのだ。
家畜日記8年と124日
妖精國の中を漫遊武者修行中の剣キチです。
モースとか謎の野生動物とかを狩りまくったおかげで、腕がメキメキあがってきました。
秘剣も三連なら音速に至ったしまだまだ五体満足で成長中だ。
ちなみに食料に関しては傭兵まがいの事をしたり行商人の護衛を受けたり、あとは野生動物を狩り殺して喰ったりしてる。
妖精と揉めることもあったけど、俺の基本は来る者拒まず皆殺しである。
ちなみに味に関しては牙の種族と風の種族は割と美味かった。
土の種族は鉄臭くてダメだったので、遺体はモースを釣る道具に使わせてもらった。
今俺が根城にしているのはブリテン島の北部にある湖水地方って呼ばれる場所だ。
モースの数も程よい感じで他に比べて強いし、面倒な妖精どももあんまり来ないので修行の場としては使い勝手がいい。
特に湖に浮かぶデカい骨こと『骨々さま』の傍だと氣の巡りも断然良くなるのだ。
なんか人懐っこい妖精亡主から昔話を聞くのも楽しいしな。
そんなワケで今日も今日とて修行の日々だ。
そろそろ4連目が音速を超えるのが見えてきたぜ!
家畜日記17年と235日
今日は初めて妖精騎士とやらに遭遇した。
俺の胸くらいしかないチビの癖に妙に強いソイツの名はランスロット。
この辺は奴の縄張りか何からしく、何をしているのかと難癖をつけてきた。
剣の修行と答えると何が気に入らなかったのか、だったらその腕前を見てやると手合わせすることに。
空中を飛び回る奴を軽身功で追いすがり、超スピードを意を読む事でなんとか対処する。
なんとか面とカタールごと左腕を半ば斬り落としたが、その代償として脇腹を大きく抉られてしまった。
悔しいが完全にこちらの負けである。
あのまま続ければこちらの首を取れたはずなんだが、何故かランスロットは刃を収めた。
『君の腕は人……ううん、妖精の域も超えている。単純な剣の勝負ならガウェインにも勝るだろう。剣術を磨いているというのは本当だったんだね』
負けたところにこんな言葉を掛けられるのは何ともアレな気分だが、命を繋げるのなら次がある。
リベンジを成し遂げるためにも大人しく話を聞いていると、奴は妙な事を言い出した。
『それに君はもう人間じゃない。まさかアルビオンの遺骨が放つ瘴気を吸収して存在の階位を上げるなんてね』
なんと知らないうちに俺は人間を卒業していたらしい。
これにはビックリである。
道理でこの頃は氣功術使っても反動が来ないわけだよ。
さっきの戦いだって超音速なランスロットに合わせて動いてたら、普通は足がイカれるからな!
『今の君は僕に近い存在だ。できれば、ここでアルビオンを護っていてほしい』
なんか好き勝手言ってランスロットは飛んで行ってしまった。
アルビオンってのが亡霊さんが言う『骨々さま』の事を言っているのは分かったが、こっちは了承するなんて言ってないんだが……
そんな話はどうでもいいとして、折れた俺の剣を弁償せんかい。
家畜日記17年と237日
ランスロットに抉られた腹が完治しました。
抉られた日の夜には肉が盛り上がって傷口を塞ぎ、次の日には薄く皮が張ってました。
どう考えても人間の治癒速度じゃないっすね。
どうやらランスロットの言っていた人間卒業はマジらしい。
なんでこうなったかを俺なりに考察した結果、可能性が高いのは氣功術を使いまくっていたのが原因じゃないかとあたりを付けた。
前にも書いたが氣功術は道術の一つで天然自然と一体となって神仙へと至る手段の一つだ。
前世では壊滅的に環境汚染が進んでいたために合一する天地が使い物にならず、氣功術もただの暗殺術の一つとなっていたが今生はそうじゃない。
亡霊ちゃんは『骨々さま』は最後の純粋な竜とか何とか言っていた。
それは亡骸でも周辺環境へ及ぼす影響はトンデモない。
実は『骨々さま』の周辺にいると、普通なら瘴気やここで死んだ妖精の怨念であの世に逝くらしい。
なんでそれを教えなかったのかと聞いたところ『呪いや瘴気に侵されるどころか、ドンドン吸収して変わっていっていたから面白いと思ったー!』とのこと。
亡霊ちゃん、ちょっと待てやとツッコんだ俺は悪くない。
ともかく、俺は『骨々さま』の瘴気や呪いなんかを取り込んで神仙へ至ってしまったという事だろう……たぶん。
脱人間をしてしまった事には色々と思うところはあるが、なってしまったものは仕方がない。
ここは寿命が延びたことを前向きに捉えて、修行にまい進することにしよう。
まずは剣を確保する事が肝要だな。
家畜日記19年と242日
最初は剣を何とかしようと思っていたのに、木刀を作ったら満足してしまった剣キチです。
自分のものぐさ加減は分かっていたつもりだったが、モースが斬れるならこれでいいやと納得してしまうとは……。
特に必要性がないモノだったりすると、今度行こうって思ったまま延び延びになるのはしかたないよね。
さて、亡霊ちゃんから『何時になったら鉄の剣にするの?』と聞かれて一念発起した俺は人里に降りた訳だが、すると妙な格好の奴がモースに絡まれているのを見かけた。
赤銅色の髪をしたアジア系の兄ちゃんで、服も前世で見た和装に近い。
そして何より俺の目を引いたのは、奴さんの得物が倭刀だったことだ。
前世では濤羅師兄に倣って俺も倭刀を使っていたのだが、突いて良し斬って良しなうえに使い方を誤らなかったら丈夫と大変重宝した。
ここで借りを作っておけば倭刀の入手ルートを教えてくれるかもと思い、早速助太刀することに。
腰に差していたのは湖の倒木を使った木刀だったが、因果率の破断に至った今の俺ならコイツでも斬鉄くらいはお手の物。
バッサバッサとモース共を斬り殺し、助けた和装のアンちゃんに交渉を持ち掛けてみると奴さん刀鍛冶というではないか。
おお、なんたる僥倖か。
今日の俺はきっと占いに掛かったらラッキーボーイと言われるに違いない。
早速『倭刀を一本打ってくれ』と頼んでみると、刀鍛冶は驚いた顔で『太刀をそういう風に呼ぶたぁ、お前さんは大陸の人間か?』と問われてしまった。
その辺はややこしいのではぐらかしたのだが、刀鍛冶は『儂の刀を欲しいってんならそれなりの腕を見せてみな。ファッション侍の腰に下げる物を打つほど耄碌してないんでな』と襲い掛かってきた。
衝撃波を飛ばしてきたり、いきなり刀を呼び出したりと戦い方は面白いのだが、生憎と剣腕自体は二流の域を出ない。
相手の面打ちを打ち落とす際に木刀で刀を斬り飛ばしてやると、奴さんは折られた刀を見て大笑いした。
『都牟刈の試作品とはいえ、木刀で儂の刀をこうまで綺麗に断っちまうとはな。いいだろう、お前さんに一本拵えてやるよ』
このアンちゃんの腕がどれほどの物かは知らんが、倭刀が手に入るのはうれしい。
これでランスロットの奴にリベンジして、前の屈辱を込めてチービチービと馬鹿にしてやろう!
家畜日記19年と251日
祝・俺の刀、完成!
ノリッジくんだりまで行ったり、俺の手の形を見たり剣の振り方を見たりと随分と手間暇が掛ったが、ようやく倭刀が手に入った。
試しに襲ってきたブラックドッグに振るってみたが、素晴らしい切れ味である。
例の刀鍛冶、ムラマサは完成すると用があるからと何処かに行ってしまった。
こちらとしても倭刀さえ手に入れば用はないのだが。
さて、得物も手に入ったしこれからどうするか……
もう少し鍛錬を積むのもありだし、ランスロットに挑むためにキャメロットに乗り込むのも悪くない。
とりあえずは骨々さまの湖に帰ってから考えることにしよう。
家畜日記19年と254日
家路に帰る途中、何故か妖精騎士から喧嘩を売られた。
こちらに因縁を付けてきたのは赤い髪の女でトリスタンと名乗った。
曰く、ランスロットに似た気配を垂れ流すのが気に入らないらしい。
常在戦場をモットーな俺としては挑戦者は来る者拒まずである。
そんなワケで立ち合ったのだが……コイツ本当に妖精騎士か?
なんというか、ランスロットに比べたらメチャクチャ弱いんだけど。
魔力で編まれた糸を使った鋼糸術も魔術も中途半端。
攻撃を打つ時だって殺気が強すぎて、どこに罠を張っているかどの軌道で攻めてくるかなんて事が丸わかりである。
お供にいたチンピラっぽい奴もあっという間に首を刎ねちゃったしさ。
さすがに女王の懐刀をぶっ殺すのは拙いと思ったので、実戦練習のつもりで首とか心臓に殺気込みで刃を寸止めしまくっていたら、ビビりすぎて小便をもらしやがった。
そういえば亡霊ちゃんが言ってたっけか。
今の俺はモースの呪詛や骨々さまの瘴気が籠ってるから、妖精や人間にとって肉も骨も魂も腐り落ちる猛毒だって。
結局、トリスタンは泣きながらチンピラの遺体を回収して帰っていった。
これってもしかして反逆になるんだろうか?
剣キチとしては正当防衛を主張するところでございます。
家畜日記19年と257日
いつもの通り『骨々さま』の畔で鍛錬を積んでいるとランスロットがやってきた。
曰く、俺に女王の王配殺しの嫌疑が掛かっているとのこと。
そんな事をした覚えはないので首をかしげていたら、先日首を刎ねたチンピラの絵を見せられた。
なんと奴がモルガン女王の王配だという。
そういう事ならたしかに俺が犯人だが……喧嘩を売ってきたのはあっちでござりますことよ?
トリスタンも精神的に参っているし、とりあえず弁解くらいはするべきというランスロットの言葉に考えることしばし。
これを切っ掛けにしてコイツにリベンジしてキャメロットにカチコミを掛けるのも悪くないんだが……それをやっちまうとただのならず者なんだよなぁ。
今回はマジでこっちが被害者だし、どうせ暴れるなら正当性ってのを主張するのも悪くない。
そんなワケでキャメロットへ行くことしました。
ところで俺みたいなカッペが王都に行って引かれない?
念のために湖で水浴びをしようとしたら、ランスロットに止められたし。
一応女王に失礼が無いようにしたのに解せぬ……
◆
その日、妖精國の王宮たるキャメロットの謁見の間は静寂に包まれていた。
その原因は妖精騎士ランスロットが引き連れた一人の人間。
いや、あれは人間などではない、
死と呪詛、そして純粋種たる竜の残滓に塗れていながら、その一切を外部へ影響を及ぼさぬほどに制御するナニカ。
宮廷スズメ達はモースの化身か死神かとボソボソと陰口をたたく。
そんな中、当の青年は退屈を隠そうともせずに大きく欠伸をもらしていた。
「少しは緊張したらどうだい? 一応女王との謁見なんだよ」
「悪いな。生憎とこっちは剣の振り方しか知らんカッペでね、そういうのには縁がないのさ」
見かねたランスロットの注意もどこ吹く風と青年は小指で耳をほじっている。
「貴様、なんだその態度は!? 薄汚いモースモドキが不敬に過ぎるぞ!!」
その態度に怒りを爆発させたのは牙の氏族の族長たるウッドワスだ。
人間……いや軍務に就く妖精であってもすくみ上る一喝を受けても、青年はチラリとウッドワスの方に目を向けるだけで気にした様子もない。
妖精からしてみれば人間の形をした汚物としか言いようのないモノに無視され、怒りのあまり紳士的な態度を投げ捨てて牙をむき出しにするウッドワス。
しかし彼が青年へ飛び掛かる前に政務官とガウェインを引き連れたモルガンが姿を現した。
「……貴様が我が王配を殺め、妖精騎士たるトリスタンの心に傷を負わせた者か」
「因縁を吹っかけてきたのはあの騎士様さ。俺は自分の身を護っただけだ」
『それともお偉い妖精騎士様には首を差し出さなきゃならんのか?』と肩をすくめてみせる青年。
黒いヴェール越しに見据える女王の氷のような視線を前にこの態度、ふてぶてしさもここまでくれば一級品である。
「……お前はなんだ?」
しかし女王はそんな態度を罰することなく別の問いを投げかける。
「純粋種たる竜の遺骸から漏れ出る瘴気を、妖精たちを呪い続けるアレの呪詛を、身の内に取り込み存在を昇華させるなぞ人間に為せる業ではない。貴様は何者だ? 何故このような真似ができる?」
「気が付いたら出来てたんだ、難しい事は分からんよ」
警戒心を露にする女王の詰問に青年は首を横に振ってみせる。
「それでアンタの旦那っていうチンピラを殺った罪はどうなるんだ? 死刑だってんならこっちも全力で抵抗させてもらうぜ」
「ずいぶんと大言を吐く。貴様一人で何かできると思っているのか?」
「甘くみないでくれや。たとえ僻地に引っ込んだカッペでも、命を捨てる気ならアンタの首とここにいる奴の半分は殺れるだろうさ」
その言葉と同時に青年から噴き出したモノに謁見の間にいる全ての者は戦慄した。
それはノリッジを覆う物を遥かに超える瘴気であり、かつての戦争で現れた如何なるモースも及ばない妖精への呪詛であり、そして巨大な竜種が牙を剥くような殺気だった。
戦闘員ではない者達はその余波だけでバタバタとその場に倒れ、何とか呪詛を跳ね返したウッドワスやガウェイン達も濃密すぎる殺気に足を縫い付けられている。
「君はいつの間にそこまで……」
そして青年の横にいたランスロット、いやメリュジーヌはアルビオンの遺骸から漏れ出た瘴気と竜の素地をここまで我が物にした彼に戦慄を覚えた。
「……よかろう。正当防衛という貴様の言を信じて、我が王配殺しに関しては不問とする」
その言葉にキャメロットとその障壁を揺るがす程の力の本流はピタリと止む。
「なら帰らせてもらおう。もう俺に用はないだろうからな」
そうして踵を返そうとした青年だったが、それを呼び止める声があった。
振り返れば女王が彼に視線をピタリと留めている。
「なにか?」
「契約を結びたい。貴様のその力を我が妖精國の為に振るってほしいのだ」
「陛下!?」
「貴様等も見たであろう、あの者の力を。あれを野に放つなど愚の骨頂だ」
ウッドワスの非難の声を切って捨てる女王。
振り返り胡乱な目を向ける青年に玉座の主は言葉を重ねる。
「貴様が組織に属するのを好まぬのは知っている。だからこそ契約だ。その力を貸してくれるなら、こちらもそれに見合う報酬を支払おう」
「報酬……ね。いったい何をくれるんだ?」
「敵だ。我が支配を覆し新たな王とならんとする『予言の子』、それにはこの世界の外から現れる異邦の魔術師が付くという。その者は汎人類史に名を刻んだ英雄達を従えている。貴様が剣を極める事を望むなら手合わせの相手として不足はあるまい」
女王の言葉に再び玉座へと向き直る青年。
その顔を見た謁見の間の者たちは一様に肝を冷やす事になった。
それはおおよそ人の浮かべる表情ではない。
言うなれば鬼相。
生まれながらの鬼では絶対に至ることがない、人から堕ちた者だけが浮かべる悪鬼の笑みだった。
「いいだろう。アンタに雇われてやるよ、女王サマ」
「契約成立だ。ならば貴様を今より妖精騎士に任命する。名は───」
「ああ、妙な力はいらん。この腕一つで挑まなけりゃ意味がないんでな」
「わかった。ならば黒騎士と名乗るがいい」
「あいよ」
騎士の叙勲にしては何とも軽い言葉を返して、剣鬼は再び謁見の間から出ていこうとする。
それに女王は最後の問いを投げる。
「ところで貴様の名は?」
「ランスロットから聞いてなかったのか? アルガだ」
振り返ることなくそう言い残して、アルガは謁見の間から姿を消した。
暴風のような男が去ったあと、いまだ正気に戻らない面々の中で女王は小さく肩を震わせる。
「どうなさいました、陛下?」
その変化に気が付いたガウェインが声を掛けたところ、返って来たのは今まで聞いたことがない玉座の主の笑い声だった。
「まさかこの世界にも生まれ落ちているなんて……」
目にたまった涙を指で拭いながら笑いを嚙み殺す女王。
彼女は汎人類史やその亜流のモルガンの記憶から黒騎士が最後に残した名の男の事を知っていた。
一人は幼くして父親の手により命を落とした彼女の弟。
もう一人はブリテンで比肩する者はいない世界すら断ち切る神域の剣士だ。
先ほど見せた力やあの若さでランスロットと戦える剣腕を思えば、彼はこの異聞帯で生まれた後者という事になるだろう。
今はまだ記録にあるような超絶の剣士ではないだろうが、数多の経験と戦場を切り抜ければそこに至る目も十分にある。
あの者は味方であればこの上なく頼れる存在だが、敵に回れば最悪の障害となりうる。
「となれば契約だけでは弱いですね。ちょうど主人面をする犬コロも消えたことだし、彼をそこに据えるのも悪くないでしょう」
もしそれで足りなければ、この体を使って繋ぎ留めるというのもありだ。
男というのは初めての相手に特別な情を抱くともいうし。
人払いを行った玉座の上で、女王は一人静かにほくそ笑むのだった。
その後、ベットに誘ってアへ顔ダブルピースを晒すのがモルガンクオリティ