剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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どうも書いていたら長ーく、長ーくなって焦っている作者です。

ランスロとの戦闘シーンを入れたら一気に文字数がががが……

戴冠式も来たし、次で終わりにできたらいいなぁ。

え、コヤンスカヤ?

何をおっしゃる、ウチは正義のカルデアですよ。

リンボも女狐もいるわけねーだろ!!(御大将風味)


ネタ・もし剣キチが妖精國に生まれていたら(下・前)

女王日記●月×∴日

 

 黒騎士がノクナレアの領土からチョコレート畑の一部を刈り取ってきた。

 

 修行や暇つぶしなんて理由で軍の一角を半壊に追い込まれた奴には少し同情する。

 

 当の黒騎士は北軍と戦えた事でご満悦だったようで、『トリスタンにやってくれ。虫歯と食い過ぎには気を付けてな』と大量のチョコレートを置いていった。

 

 本人にいらないのかと聞いたが、なんでも甘いものが苦手らしい。

 

 お言葉に甘えてバーヴァン・シーに与えてみると、あの子は『美味しい! 美味しい!』と喜んで食べてくれた。

 

 彼が我が娘の事を気にかけてくれていると分かったのは少しうれしい。

 

 よく考えれば彼を王配に据えれば、バーヴァン・シーも義娘となるのだ。

 

 こうして明るい家庭を築くのも悪くないだろう。

 

 ところで娘の容態を安定させるためにもう一度ベリルを生産したらどうかと黒騎士に提案したのだが、あえなく却下されてしまった。

 

 曰く『ゲロシャブレベルの人間の屑なので、あんなの傍にいたらいい様に利用されて捨てられるのがオチ』だそうだ。

 

 ふむ、それは私があの子に最も辿ってほしくない未来だ。

 

 ならば奴のデータは二度と復活できないように完全に消去しておこう。

 

 

家畜日記19年と313日

 

 氣功術の腕が上がってきた所為か、以前に増して鋭敏になった感覚が妙なものを捉えるようになってきた。

 

 具体的に言うと風だ。

 

 キャメロットにいても、妖精騎士の任務で色んな町を巡っていても風の中に不自然な『意』を感じるのだ。

 

 こういう形で風が使える奴等と言えば、真っ先に上がるのが風の氏族。

 

 この頭の奥がチリチリする感覚は前世でお馴染みの厄ネタの前兆だ。

 

 そう判断した俺は風の氏族の一匹を地下へと拉致し、ちょいと口を割らせてみた。

 

 なに、手荒なことはそんなにしちゃいない。

 

 氣脈……奴等でいうところの妖精紋様だったか? 

 

 その中枢に浸透勁の応用でモースの呪詛を植え付けただけだ。

 

 モースの呪詛は妖精を食らい、その存在を貶める。

 

 これに汚染された場合は通常の死のように次代は生まれない。

 

『この呪詛は一月を掛けてお前の存在を食いつくす。助けてほしかったら知っていることを全て話せ』

 

 そう脅しを掛けたら、奴の舌はそりゃあもう滑らかに動いてくれた。

 

 奴等風の氏族は族長であり、ソールズベリーの領主でもあるオーロラによってブリテン島各地の情報を奴に送っているらしい。

 

 尋問した氏族は下っ端ゆえか、その理由については知らなかったがコイツはかなり面倒なことになる。

 

 何か事を起こそうとする際、最も重要になる物は情報だ。

 

 敵対する相手の動向、その者は周りからどう見られているのか、不満を持つ者や寝返る輩はいないか、そして自分に賛同する者はどこにいるか……

 

 どういう風に動くにしても、情報はその大きな指針となる。

 

 風の氏族が行っていることが事実なら、手紙程度しか通信手段が無いブリテンで奴等は無線か電話レベルで情報のやり取りを行っている事になる。

 

 そういえば宮廷スズメの中にも風の氏族は少なからずいた。

 

 となれば宮廷の動向もオーロラの元に行っていると考えるべきだろう。

 

 とりあえず、女王サマに報告とオーロラの裏を探らにゃあならんか。

 

 やれやれ、兇手時代の杵柄を取る羽目になりそうだな、こりゃ。

 

 

女王日記 ●月×☆日

 

 黒騎士からかなり面倒な状況になっている事を知らされた。

 

 まさか風の氏族とオーロラがあのような情報ネットワークを張り巡らせているとは思わなかった。

 

 これも私が妖精共の動向に関心を向けていなかった弊害だろう。

 

 奴等に足を掬われない為にも見直す必要がある。

 

 当面の対策として奴等の『風の知らせ』を傍受する礼装を与えたのだが、そこから集まった情報には思わず閉口するしかなかった。

 

 オーロラは予言の子を妨害するどころか、その価値を示せば支援を約束する形で見逃したのだ。

 

 さらにはウッドワスまでも懐柔せんと手を伸ばしていた。

 

 オーロラめ、私の唯一の忠臣というべき者に手を出すとは……

 

 だが黒騎士から提示された情報だけでは奴に叛意ありと決めつけるのはさすがに弱い。

 

 それにオーロラに手を出せばランスロット……いやメリュジーヌが牙を剥いてくる。

 

 ウッドワスの忠心が揺らいでいる状態で国内有数の氏族を敵に回すのは危険だ。

 

 少なくともあの馬鹿者をこちらへ引き戻す必要があるのだが、いったいどうしたものか……

 

 そう思い悩んでいると黒騎士が自分が話をしてくると提案してきた。

 

 先のキャメロット崩壊の件もあるし、場合によっては私の過去も話すと言われると許可を出すのは戸惑われた。

 

 しかし事後で火照った体を抱きしめられながら真剣な目で言われたので、つい頷いてしまったのだ。

 

 説得が失敗するのは仕方がないとしても、オックスフォードが更地にならなければいいけど……

 

 

家畜日記19年と317日

 

 忠犬ウッ公ことウッドワスの説得に成功した。

 

 俺にしては珍しく刃傷沙汰を伴わないスマートな解決方法だ。

 

 こうしてみると力づくで事を進める虚しさを……いや、感じんわ。

 

 モルガン、やっぱり暴力はいいぞぅ!

 

 とまあ、こっちの所感は置いとくとしてどうやってあの石頭を説得したかを説明しよう。

 

 オックスフォードへ出向く時点で、俺はオーロラの叛意や犬の大将があの毒蛾女と繋がっている証拠を手にしていた。

 

 でもって、モルガンに用意してもらった風の氏族からの盗聴対策の礼装を起動させたあとでソイツを突き付けたんだ。

 

 コイツには風の氏族から吐かせた暗号表と俺がモース狩りのついでに収集した『風の知らせ』でオーロラへ送られた各都市の機密や不穏なやり取り。

 

 さらにはモルガンが極小の水鏡をオーロラの執務室へ繋げた際に聞こえた『ウッドワス様、貴方こそ妖精たちを統べる王に相応しいと私は思っています』なんて問題発言まで録音されていた。

 

 こっちへ向けていたウッドワスの敵意が一発で萎むのも当然だろう。

 

 氏族の長、しかも軍事を統括する立場の人間がここまでやらかしたのだ。

 

 バッサリ首を取られても文句は言えんのだが、今回はそういう訳にはいかない。

 

 なので奴さんがヤケクソになってオーロラへ走る前に、俺は言葉巧みに奴の忠心をモルガンへ引き寄せた。

 

 どうしたかと言えばモルガンが救世主トネリコであることや、その活動のさなかに妖精達から手ひどい裏切りを繰り返されたこと。

 

 その過去によって根深い妖精不信が心に刻まれ、今の圧政もそれが原因の一つである事。

 

 さらにはトリスタンを特別扱いする理由など、女王サマの過去を話しながら奴の疑問に答えたのだ。

 

 ぶっちゃけモルガンは超絶が付くほどのコミュ障なので、信頼を維持するには言葉も態度もまるで足りないのだ。

 

 そこに妖精嫌いからの家臣団への冷たい態度とトリスタンへの特例措置である。

 

 そりゃあ事情を知らんかったらどんな忠義に厚い奴でも不信を抱くわ。

 

 しかし逆に言えばその辺のことを解消してやれば信用回復は容易い。

 

 そうして不信を解いたところで最後に女王サマが水鏡から現れて、『そんな妖精の中で唯一私が信を置くのが貴様だ。幼き勇者、勇敢なウッドワス』と言ってやれば、奴さんはコロリと転んでくれた。

 

 最後の異名は1000年前のモース戦争の時に排熱大公ライネックの次代として生まれて間がない奴が、敵の頭を打倒した時にモルガンが称えたものらしい。

 

 ちなみにウッドワスにダメ押しをしたモルガンは本物ではなく魔力で作った分身。

 

 本人はとある理由で基本的に玉座から離れるわけにはいかないそうな。

 

 さて女王様の頭痛の種を一つ解決したところで、次に来るのはあの毒蛾女である。

 

 現地の諜報員が消えた事や今回の会合に盗聴対策が使われたことから、こちらが叛意を掴んだのを奴が知るのも時間の問題だろう。

 

 予言の子に与するか、それとも自分で兵をあげるか。 

 

 どちらにせよ、奴が動く前にカタを付けたいところだ。

 

 

女王日記 ●月◆●日

 

 黒騎士がウッドワスの信頼を取り戻してから数日が経った。

 

 まさかあの忠義に厚い男がオーロラの甘言に惑うほど不安を感じていたとは……

 

 そこまで私の態度が拙かったという事だろう。

 

 妖精共に関わるのは虫唾が走るほど嫌とはいえ、この辺は反省せねばならない。

 

 あれからウッドワスの黒騎士への態度が少し柔らかくなったように思える。

 

 その辺を聞いてみると『我等牙の氏族は強き者に一定の敬意を示すのが習わしですので。ええ、奴を認めたという事では断じてありません』と返ってきた。

 

 奴は憮然とした顔でそう言っていたが、黒騎士が軍部ではなく暗殺や粛清などの汚れ仕事へ回ると宣言した事も大きいのだと思う。

 

 妖精ではなく穢れに満ちた彼がそちらで名を馳せれば軍部で頭角を現す事は不可能になり、同時に王配になっても民の目が厳しくなるから権力を振るう目も消える。

 

 ウッドワスにしてみれば、ポッと出の成り上がり者が高い地位に就くのが目障りなのだ。

 

 それが日の目を見ない裏方に回るのなら、彼の実力も相まって文句はないというところか。

 

 実のところ黒騎士は社会的地位や権力には一ミリも興味を持たない人間なので、ウッドワスの懸念は無駄なのだけど……まあ、これは言っても無駄だろう。

 

 さて、現在我が妖精國が抱える懸案事項は多岐にわたるが、その中でも優先順位が高いのは円卓軍に合流した我が同胞とオーロラの件だ。

 

 例の予言がある以上、同胞が一定の軍事力を持てば支援に動く氏族も出てくるのは確実。

 

 それらを率いて北のノクナレアに合流されれば、無視できない勢力へと成長する。

 

 普段なら軍を派遣して円卓ごと踏みつぶすのだが、ここで邪魔になるのがオーロラと風の氏族共だ。

 

 北にノクナレアがいる状況で、奴等のような内憂をそのままに軍を動かすのはいくら何でも無茶が過ぎる。

 

 個人的にはソールズベリーごと消し飛ばしてやってもいいのだが、後々の影響を思えばあまりいい手とは言えない。

 

 あそこはこの國唯一の自由都市で人口だって20万はいる。

 

 それに風の氏族は妖精國全土へ散らばっているのだ。

 

 その本拠を問答無用で吹き飛ばしては、たとえ叛意があった証拠を提示して粛清の正当性を示しても奴等が反抗勢力へ流れるのは止められまい。

 

 では、叛意の証拠を公表して逆徒として正面から叩き潰すのはどうか?

 

 いや、これも得策ではない。

 

 こちらが正当性を掲げれば奴等は予言の子を担ぎ出して円卓軍と結託するだろう。

 

 今の国民は私が敷いた圧政から潜在的に予言の成就を望む者が多い。

 

 そこでオーロラほどの大物が動けば一気にクーデターが起こりかねない。

 

 となれば奴を秘密裏に葬るしかない。

 

 そうなれば領主を失ったソールズベリーはこちらへ何らかのアクションを起こすはずだ。

 

 その後に治安維持として軍でソールズベリーを抑えればいい。

 

 風の氏族などオーロラがいなければ恐るるに足らない。

 

 何か言ってくるようなら今まで集めた風の氏族による叛意の証拠を見せればいいのだ。

 

 となれば、やはり黒騎士に動いてもらうしかないだろう。

 

 氏族の長の暗殺など、ほかに為せる者はいないのだから。

 

 できればこんな危険な事など頼みたくはない。

 

 私が玉座を退けば……いや、違う。

 

 こちらが手放せば、この國の妖精達は私に牙を剥くだろう。

 

 そうなれば氏族の長という立場があるウッドワスは向こうに回り、あの子とアルガにも危険が及ぶ。

 

 やはりまだ奴等の手綱を離す事は出来ない。

 

 ならば、私は女王の仮面を被らねばならないだろう。

 

 雇用者として、彼の主として私情を殺して無理難題を言い渡すのだ。

 

 うん、メリュジーヌが来ると伝えたらメチャクチャ嬉しそうな顔をする彼が目に浮かんだ。

 

 これが女性との逢瀬が理由なら悔しいけどまだ理解はできる。

 

 けど、彼の場合は竜殺しの機会を喜んでるんだろうなぁ。

 

 なんだかなぁと思ってしまうけど、これも惚れた弱みだ。

 

 ここは彼を信じて無事を祈ることにしよう。

 

 

 見た事のないようなメルヘンチックで煌びやかな部屋の中、部屋の主たる女が俺の目の前で力なく椅子に体を預けている。

 

 今のオーロラの姿を給仕の人間が見れば、うたた寝をしているとでも思うだろうか。

 

 しかし奴はもう目を覚ます事はない。

 

 外傷は見当たらなくとも、その心臓と脳は完全に破壊されているのだから。

 

 今回のミッションはなかなかに困難だった。

 

 氏族の長の暗殺、しかも自然死に見せかけるようにとのお達しだからだ。

 

 ウッドワスのおっさんを見れば分かるように、氏族の長ってのは強大な力を備えているうえにしぶとい。

 

 それを言われたとおりに始末するのは骨なんてレベルじゃない。

 

 しかし外ならぬ女王サマの命令だ、無理なんてセリフはみっともなくて吐くわけにはいかん。

 

 そんなワケで前世ぶりの暗殺ミッションへ身を投じた訳だが、潜入に関しては人間の衛兵が出入りをしていたから簡単にいった。

 

 身の内の呪詛と竜氣を抑えつつ、風の氏族を欺くために体術で大気の揺れを最小限に抑える。

 

 いやはや、いい鍛錬になったわ。

 

 そしてコーラルとかいう妖精が奴の部屋へ入ったのに合わせて侵入し、一人になったのを見計らって戴天流の内功掌法が一つ『黒手裂震破』であの世に送ったってわけだ。

 

 いや、本当に今回の暗殺には気を使ったわ。

 

 バレた日には町全体が敵になるんだもんなぁ。

 

 それはそれで面白そうだけど、これ以上女王サマの苦労を増やしたらウッドワスのおっさんに喉笛を食い千切られかねん。

 

 仕事も終わったし、そろそろ撤退しようかと思った時だ。

 

 見知った気配が超高速で突っ込んでくるのを感じた。

 

 慌てて物陰に隠れた次の瞬間に轟音を立てて吹っ飛ぶ外壁。

 

 土煙の中から息を切って現れたのは、やはりランスロットだった。

 

 モルガンの言う通り、ヤツはオーロラの手先だったってわけか。

 

「オーロラ! しっかりして、オーロラ!!」 

 

 オーロラの遺体に縋り付いて涙ながらに呼び掛けるランスロット。

 

 だが小さな手の中で眠る女が返事を帰す事はもうない。

 

 その光景をしり目にトンズラしようとしたその時だ。

 

「───待て」

 

 今まで聞いた事がないような冷たい声がランスロットから漏れた。

 

 気のせいかと思ったんだが、奴の視線は圏境で姿を消しているこちらへ向いている。

 

 いかんな、こりゃあバレてるわ。

 

「……気配は完全に殺していたはずなんだがな」

 

 ため息交じりに圏境を解けば、ランスロットから向けられる視線はさらに厳しい物になる。

 

「前にも言ったけど、君は末席の出涸らしとはいえアルビオンの眷属だ。他の物の目は欺けても同じ仲間の僕の目は騙せない。それよりオーロラを殺めたのは君なのか?」

 

 隠形の腕が落ちたのかと内心ヘコんでいたが、幸いな事にそうではないらしい。

 

「ああ。オーロラには反逆と国家転覆罪の疑いが掛っていたからな。処断される理由としては十分すぎて釣りがくる」

 

 そう言って右手に付けた礼装からウッドワスのおっさんを誑かしたセリフを再生してやる。

 

 普通の臣下ならこれで少しは戸惑うんだろうが、どうやら奴さんには無駄骨だったようだ。

 

「そんな下らない理由でオーロラをぉぉぉぉぉっ!!」

 

 絶叫と共に突っ込んでくるランスロット。

 

 その姿は先ほどまでの藍色の鎧から黒い翼と身体のところどころを鱗が覆う半身半竜へと変わっている。

 

 なんとか雲霞渺々で奴のブレードを捌きはしたが、壁の穴から飛び降りようとしていた時を狙われた所為で足場がヤバい。  

 

 一瞬の浮遊感で宙へ投げ出された事を悟った俺は、軽身功を練り上げると共に舞い散る瓦礫を足場に空を駆ける。

 

「すまん、モルガン! オーロラは仕留めたがランスロットの奴に感づかれた! プランはBへ変更してくれ!」

 

 礼装へ怒鳴ると少しのノイズを挟んでモルガンの声が聞こえてくる。

 

『わかった。ランスロットを撒くことはできるか?』 

 

「あああああああああっ!!」

 

「───ッ! 無理だ。聞いての通り、奴さんは頭に血が上っているからな。俺がトンズラしたらウッドワスのおっさん達が標的になる」 

 

 幾何学的な軌道を描いて突撃してきたランスロットが両手を交差して放つエネルギーの斬撃を切り払いながら、俺はモルガンに答えを返す。

 

 プランBはオーロラの排除に成功した後、暗殺が露呈した場合の対処案だ。

 

 その内容はモルガンの認識阻害でソールズベリー郊外に潜んでいる国軍が、礼装で証拠となる会話や発言を流しながら反逆を理由に街を鎮圧するといったもの。

 

 なんだかんだ言ってもソールズベリーは大都市だ。

 

 モルガン的には無傷とはいかなくとも少ない損害で手に入れたいらしい。

 

 さて、ウッドワスのおっさん達が動いたとなれば、俺の仕事は目の前の竜を仕留める事だ。

 

 弧を描きながら蒼穹の中を旋回する奴に、俺は風を踏んで間合いを詰める。

 

「シッ!」 

 

 宙を舞う灰を足場にして踏み込みと共に刀を横薙ぎに振るえば、刃を受け止めようとした奴の左腕に生えたブレードは甲高い音を立てて宙を舞う。

 

 因果の破断……いや、そこまで高めなくても概念斬りでも奴の鱗は断てるようだ。 

 

 超高速でヒット&アウェイ戦法を取るヤツを相手に内勁を練り上げて斬撃を放つのは骨が折れるから、これは色々とありがたい。

 

「私の鱗がッ!?」

 

「なんだ。最初に手合わせした時、左腕を千切られかけたのを忘れたか?」

 

「───ッ! あの時は手加減していたんだ!!」 

 

 随分と舐めたセリフと共に瞬く間に再生させたブレードを合わせるランスロット。

 

 すると纏わり付いたオーラがブレードを核に巨大な竜の顎を作り出す。

 

「そうかい!」

 

 だが、斬れるとなればそんなコケ脅しは通用しない。

 

「一口で──潰す!」

 

 こちらに食いつかんと大きく口を開けた瞬間、俺は深く身を沈めた体勢から全身のバネを使って手にした刀を斬り上げた。

 

 戴天流が一手である沙羅断緬の変形。

 

 足が灰を強かに蹴る事で飛び上がりながら放った一撃は甲高い音を立てて上顎を断つ。

 

 そこから天地を返し、今度は頭上を舞う灰を蹴りながら振り下ろした鳳凰吼鳴による二の太刀が下顎を斬り落とした。

 

 これで少しは大人しくなるかと思っていたのだが、本物の竜を相手にこの考えは甘かった。

 

「跪け!」

 

 地上へ落ちる刃など見向きもせずに翼を羽ばたかせると、奴はバク転の要領で鋭い爪が光る足を振り上げたのだ。

 

 適当な塵を足場にしようとしていたこっちは回避が間に合わず、鳩尾から胸にかけて肉と皮を削がれる事になった。

 

 致命傷には程遠いが、それでもこっちは一撃でも直撃を食らえば終わりの身だ。

 

 念のために間合いを開けると、奴は即座に再生した両ブレードの先端を大砲のように構える。

 

 あれは穴の中の神の肉体を焼いた砲撃か?

 

「死ねぇっ!」

 

 こちらへ向けた明確な殺意と共に放たれる黒い光の本流。

 

 内勁を込めた刀を切り上げれば、刃に触れた部分から砲撃は両断されてソールズベリーの街の一角を吹き飛ばす。

 

 そして息を吐く間もなく、高速で間合いを詰めたランスロットは腕に生えたブレードを容赦なく振るってくる。 

 

「刻め!」

 

 袈裟斬り、逆風、胴薙ぎ、逆袈裟。

 

 瞬間的に襲い来る連撃を雲霞渺々で捌きカウンターを合わせるように貫光迅雷を放てば、切っ先が漆黒の鱗で覆われた胸に届くより先に奴は高速で間合いを離してしまう。

 

 そして襲ってくるのは先ほどと同じ砲撃だ。

 

 何度もあんなものを正面から受ける気はないと軽身功で躱せば、それを狙って再び超高速の斬撃が牙を剥く。

 

 鱗と村正の刃が数十度目の火花と刃鳴を散らせば、奴は再びジェット機のように遠ざかっていく。

 

 空は相手のホームグラウンドなので防戦一方だが、さすがにこのまま攻め続けられるのはヤバい。

 

 となれば、アレをやるしかない。

 

 遠方に見えるランスロットへ切っ先を向けると、俺は刀を戴天流にある構えの一つ峨媚万雷、剣術で言うところの正眼に構える。

 

 深く息を吸い、そして(はら)に溜めて吐く。

 

 調息によって練り上げた氣は経絡を通して全身を駆け巡り、内勁として刀へと宿る。

 

 十分に氣を練り上げて目を閉じれば、大周天で内勁となった氣と共に身の内にある感覚を周囲の全てへと散じていく。

 

「目を閉じた? 敵わないと知って覚悟を決めたか」

 

 訝しむランスロットを他所に俺は自分の意識を少しずつ高めていく。

 

 ───眼だけで見るな、音だけを聞くな。六塵の全てに魂を散じ、剣は迷わず、囚われず、無縫を取る。

 

 そして研ぎ澄まされた感覚は刀と一つになり、その意識を更なる高みへと押し上げる。

 

 この一刀の切っ先に、刹那よりもなお疾く、六徳よりもなお細く…… ───『虚』よりなお『空』 ───『空』よりなお『静』───『静』よりも、その果ての『浄』。

 

「なら終わりにしよう。お前はオーロラの仇だ、たとえアルビオンの魔力を取り込んでいても一切を焼き尽くしてやる!!」

 

 視界が無くても分かる。

 

 ヤツは今までとは比較にならない速度で飛んでいる。

 

 そして纏う竜氣は知りうる限りで最高、その姿も竜人ではなく完全な竜なのだろう。

 

「この名はアルビオン、境界を開く最後の竜!」

 

 竜の咆哮と共にあふれ出す骨々さまによく似た膨大な氣。

 

 それが向く先はもちろん俺だ。

 

「ジョフロワからフロモンへ、時を示せ!『デュケイダイト』!」 

 

 気合一閃、ランスロットの声と共に放たれる砲撃。

 

 それは先ほどまでの物とは明らかに一線を画す強大な一撃だ。

 

 直撃……いや、かすったとしてもこの身が跡形もなく消し飛ぶだろう一手を前にしても、俺の心は一つも揺らぎはしない。

 

 何故なら確信があったからだ。

 

 かつて立ったあの頂にもう一度至る事ができると。

 

 瞼越しに両の眼が捉えた万物万象の因果。

 

 眼前まで迫った暴力にあるソレを刀でなぞれば、それは絶対不可避の斬線となって最後の純粋竜を継ぐ者の息吹を両断する。

 

「まさか!? このぉぉぉぉっ!」

 

 しかしそれでもランスロットに勝ったことにはならない。

 

 奴は砲撃が引き裂かれる様を見ると同時にブレードを前面に突き出しながら、音を超える速度でこちらへ突撃してくる。

 

「これで終わらせる! 切開剣技開始! 繋げ、今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)!!」

 

「ハァッ!!」

 

 奴がこちらの刃圏へ踏み込んだ瞬間、俺は練り上げた氣の全てを込めて剣を振るった。

 

 それは十条の斬光。

 

 音を遥かに上回る速度で放たれたそれは、周囲に残る憎悪に塗れた竜の氣を取り込んで更なる加速を見せる。

 

 一閃目は奴の突き出した左の刃をからめとり弾き飛ばした。

 

 二の太刀は右をいなし、奴の身体を丸裸にした。

 

 そして残る八の刃は竜の躯が放つ瘴気と神が漏らした妖精への怨嗟、そして鬼の殺意を宿して脳、喉、左右の肺、肝臓、左右腎臓、そして心臓を食い破る。

 

 放った刃は全て音速を超え、この上ない精妙さで狙った場所を穿ち抜いた。

 

 戴天剣法が秘奥技、『六塵散魂無縫剣』。

 

 今ここに……絶技開眼。

 

「ぐはぁ……はぁ……あぁ、あぁぁ……!?」 

 

 鱗と同じく黒に近い血を撒き散らしながら地上へと落ちていくランスロット。

 

 舗装された道路に足を下ろせば、そのすぐ横には潰れたトマトのように血を撒き散らしたランスロットが大の字で横たわっていた。

 

「どうして……私は…あなたを眷属として…目を掛けていたのに……」

 

 息も絶え絶えにこちらに非難の視線を向けてくるランスロットにため息が出る。

 

「こっちを裏切者みたいに言うなよ。今回の件はオーロラに咎があった。罪状は反逆と国家転覆準備、あとは内乱扇動未遂か。これだけあれば氏族の長だって排除されても文句は言えん。だから俺が殺した」

 

「陛下は…モルガンは私に契約したんだ。オーロラには手を出さないって……」

 

「相手がこっちを殴る準備をしているのを知っていて、ソイツを守れって? そんなモン通るわけないだろ」

 

 今回は一から十までオーロラの自業自得だ。

 

 これだけの野心を持っていたんだから、バレたら破滅する事も覚悟の上だったろうさ。

 

 まだ何か言いたいことがあったのだろうが、ランスロットが言葉を発するよりも早く俺は奴の首を刎ねた。

 

 オーロラは死に、ランスロットも敗北した。

 

 そしてソールズベリーは女王直轄領になる。

 

 これ以上は無駄口だ。

 

 血振りの後で刀を鞘に納めると、奴の遺体は骨々さまの湖の底に沈んでいる黒い汚泥へと変わった。

 

「ランスロット……メリュジーヌを討ち果たしたか」

 

 その様子を冷めた目で見ていると、俺の隣に黒犬面の巨体が現れた。

 

「しくじって悪かった。そっちに被害はないか?」

 

「問題ない。奴の砲撃の余波に住民の一部が巻き込まれたようだがな」

 

「なら、そこはオーロラが仕込んでいた兵器の事故って事にしといてくれ。どうせ死人だ、いくら罪をかぶせても文句は言えん」

 

 そう言ってその場を後にしようとすると、ランスロットの遺骸がある辺りからズルリと何かが体に入ってくる感覚があった。

 

 害がある物かと念のために氣を周天させてみると、それが何であるか合点がいった。

 

「貴様…その目は……」

 

「あとは頼んだ。俺はいったん女王サマへ報告に行くわ」 

 

 ウッドワスのおっさんにそう言い残して、俺は胸糞の悪い街を後にした。

 

 妙に速度と精度が上がった軽身功による空中移動を少し苦々しく感じながらキャメロットへ付いた俺は、私室でモルガンと顔を合わせていた。

 

「わかりました。妖精騎士ランスロットは離反の末に黒騎士によって誅殺された、オーロラの反逆も含めて国内にはそのように流しておきます」

 

「了解だ。次は誰を殺ればいい?」

 

「それについては追って伝えます。それよりその目はどうしたのですか?」

 

「ウッドワスのおっさんも言ってたな。どういう風に変わってる?」

 

「───瞳が黄金の竜の目になっています」

 

 モルガンの答えに俺は盛大にため息を吐きながら頭を掻く。

 

 やっぱりあの時ランスロットから入って来たのは骨々さまが持っていた竜の因子なんだろう。

 

 アイツも骨々さまから生まれたとか言ってたし、俺も出涸らしと端っことはいえ眷属って認定してたもんな。

 

 推測の域を出ないが、ランスロットが死んで行き場を亡くした因子が俺を宿主に選んだってとこか。

 

 頭によぎった持論を告げると、モルガンは何とも言えない表情を浮かべたものの次には意を決したように口を開いた。

 

「アルガ、あなたはこれから黒騎士ヴォーディガーンと名乗りなさい」

 

「なんだよ。ギフトとかいうのは断ったはずだぜ?」

 

「力を与える事が目的ではありません。今の貴方はアルビオンの直系というべき存在、万が一の事を考えれば真名偽装は必要でしょう」 

 

 なるほど、よく分からんが本名を知られるのは拙いって事か。

 

「それでヴォーディガーンって名には由来があるのか?」

 

「こことは異なる歴史を辿ったブリテンで、アルビオンの力を得ながらも真なる王に倒された卑王の名です」

 

 負け犬の名を送るとは、随分といい趣味をしてる。

 

「ソイツを名乗るってことは俺も破滅して死ねって事か?」

 

「いいえ。破滅した者の名を敢えて名乗る事で非情なる運命を斬り落としてほしいのです、私達の物も含めて。───貴方ならできるでしょう?」

 

 挑発的な笑みを浮かべるモルガンに俺は口角を吊り上げた。

 

「上等。まとめて面倒を見てやるよ」

 

 

 それから名を改めた俺に女王サマはある物を渡してきた。

 

 それは原色に彩られた異国情緒溢れる悪魔の面。

 

 前世でバリ島に行った幹部が土産に持って帰ってきてたな。

 

 どうして彼女がこんなの知ってるのかは不明だが、いざ付けてみるとフィット感が半端なかった。

 

 さて、そんな俺に下された次の指令は城砦都市シェフィールドを治める反女王派の領主ボガードの暗殺。

 

 そしてもう一人の『予言の子』を見定める事だ。

 

 予言の子が二人ねぇ、面白そうじゃないか!

 

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