剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

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 新年、あけましておめでとうございます。

 昨年は拙作を見て下さり本当にありがとうございました。

 スランプと年末進行の忙しさが重なってこんなに伸びてしまった……

 コヤンスカヤもグダグダ最新イベントも本当に最低限しかしてないし、スパロボ30もまだクリアしてないぜ!!

 まだ待っていてくださる方がいるかは分かりませんが、新年を迎えたので投稿ペースも上げていこうと思います。


ネタ・もし剣キチが妖精國に生まれていたら(下・後)

家畜日記19年と337日

 

 獣神再殺の大役を請け負った黒騎士です!

 

 この妖精國の根幹を揺るがす巨大毛玉だが、嫁さん(内縁)曰くあれはモースの発生源にしてこの地を覆う妖精への強大な呪いの塊なんだそうな。

 

 俺も騎士就任初日に穴へダイブした時に接触したが、たしかにアレは並大抵の方法で始末できる代物ではなかった。

 

 女王サマの話では奴を仕留める為の兵装がキャメロットに用意しているらしい。

 

 ちなみに試射は二度行っており、その成果はオリュンポスに生えた空想樹なるものを吹き飛ばし、さらには次元のはざまから出てこようとしたヤバいモノ(モルガンはカオスとか言ってた)を元の場所へ追い払う事が出来たそうな。

 

 あと、俺が首を刎ねた王様っぽい蛾の兄ちゃんを消し飛ばしたのもこれなんだってさ。

 

 さて、そんな戦略兵器が備わっているのなら俺がミスっても一安心なのだが、これだけ期待されているのに斬れないのも癪に障る。

 

 しかし今の剣腕では不安が残るのもまた事実。

 

 こういった場合、どうすればいいのか?

 

答えはシンプル、剣キチは修行で解決する。

 

 そんなワケでモルガンに無茶を振ってみた。

 

 こちらの要求は一つ、現実よりも長く時間を体験できる結界か道具を作ってくれというモノだ。

 

 例えるなら現実世界の一日で一年分の修行が出来る的なアレだな。

 

 割とダメもとで聞いたところ、返ってきた答えはあるという朗報だった。

 

 さすがは2000年も女王をやっているだけあって、引き出しの多さが素晴らしすぎる。

 

 なんでもモルガンは『庭』という特殊な魔術道具を幾つか持っており、それを使えば俺の望みを叶える事ができるのだとか。

  

 定めた期限は2日、体験時間に換算すると2年である。

 

 はてさて、その短い時間でどこまで仕上げられるか?

 

 少なくとも因果律の破断はもう一段階上に引き上げたいものである。

 

 ちなみに『庭』を使う前、モルガンは嬉々として準備をしている俺に頬を膨らませてこう言った。

 

『貴方は2年も私に会えないのに寂しくないのですか?』と。

 

 ウチの嫁さんは本当に可愛い。

 

 昔ならばいざ知らず、色を知った今の俺なら2年も修行漬けの日々を送れば性欲だってバッチリ溜まる。

 

 その辺は帰ってきたら存分に発散させてもらうとしよう。

 

 そう伝えると真っ赤な顔で半泣きになりながら『お腹には赤ちゃんがいるのですよ!? こ…こわれちゃう』とうろたえていた。

 

 心配ご無用、そんなヘマはせんよ。

 

 というワケで修行の日々へダーイブ!!

 

 

女王日記 ●月▽〇日

 

 

 黒騎士から予想だにしない提案があった。

 

 修行がしたいので体感時間を引き延ばす結界はないかというのだ。

 

 神の躯を始末する為らしいのだが、どうしてそこで強力な礼装や武具ではなく修行という方法へ行きついたのか?

 

 とはいえ亜流の彼はその修練を積み重ねた末に農具で神を斬り殺せるようになっていた。

 

 そこを踏まえると妥当なのだろうか……

 

 まあ、例に挙げたトンデモ行為は千年に及ぶ修練の成果なので、あの域まで極めるとは無理だと思う。

 

 それでも本来の得物である剣を使うなら、短い期間でも神殺しを為せるレベルにまで達する事も可能かもしれない。

 

 なので私は今まで秘匿していた礼装『庭』の一つを使用する事にした。

 

 本当はこんな使い方をするものはではないのだが、緊急事態なので多少の事は目をつむろう。

 

 ベースは『昏い淵』を選び、そこに亜流の記憶を基に敵を用意する。

 

 肉体ではなく精神に作用する礼装なので、仮に致命傷を負っても気力と引き換えに復活できるように救済措置も組み込んだ。

 

 調整自体は半刻ほどで終わったが、嬉々として準備をしている黒騎士を見ていると何やら胸がモヤモヤする。

 

 体感時間とはいえ2年も私と会えないのに、彼は平気なのだろうか?

 

 その辺の事を女王の仮面を外して愚痴ってみると、黒騎士は不穏な笑みを浮かべながらこう言った。

 

 修行の間に貯めた性欲は戻ってきてぶつけると。

 

 それを聞いた瞬間、頭に過ったのは夜伽で施された手練手管の数々。

 

 数日間を置いただけでも泣いておもらしする目に遭わされたのに、それを二年分……

 

 思わず下腹部を押さえて逃げた私を誰が責められようか。

 

 あと、思わず頬が熱くなったりお腹がキュンとしたなんてことはないったらない。

 

 私に被虐趣味など無い……はずだ。

 

 ともかく2日後については何らかの対策を立てねばならない。

 

 いざ本番という時に腰が抜けて動けませんでは格好が付かないもの。

 

 最悪の場合は子供がいるからという理由で拒否ってみよう。

 

 けれど黒騎士の性知識はクソザコナメクジな私では到底及ばない。

 

 拒否したら予期せぬ方法で発散させられて、また新しい扉を開くことになる気が……

 

 た、助けてウッドワス!

 

 

家畜日記19年と338日

 

 

 久々のガチ修行にテンション爆上げな剣キチです!

 

 この修行場は本当に素晴らしい!

 

 周辺の氣の密度はそのままに高温多湿で10倍近くの重力負荷が付いた環境!

 

 調息するのも一苦労だが、氣功術のように肺を鍛えられる空気の薄さ!

 

 そして何処からか湧いて出る真っ黒な藤丸君の出した英霊によく似たナマモノたち!!

 

 人間成長するには逆境が必要だ!

 

 この素敵な地獄なら身体も技も更なる強さを得られることだろうさ!

 

 ナマモノについてだが、女王サマ曰く並行世界のブリテンで最強を誇った円卓の騎士とかいう奴等のデッドコピーらしい。

 

 なので、1匹2匹ならともかく5.6匹一度に相手をすると歯ごたえが半端ない!

 

 ぶっ殺しても何度だって湧いてくるし、予言の子に似た騎士はビームまでぶっ放してきた。

 

 そして一番驚いたのは円卓共を倒したら俺を遥かに超える腕前を持つ剣士が現れた事だ。

 

 何が凄いかって、一合も刃を交えることも出来ずに首を落とされたのである。

 

 こんな圧倒的な敗北は久々だ。

 

 こちらに影すらも踏ませない精度の一刀には脱帽である。

 

 これが現実ならこの世とオサラバしているところだが、幸いな事にこの庭だと気力がある限り何度でも復活できるらしい。

 

 まあ、気を付けないと現実世界に戻ってからもポンポン命をぶん投げる癖が付きそうだが、その辺は匙加減。

 

 もう円卓の騎士なんて眼中にない!

 

 まずは件の剣士の太刀筋を確かめる事から始めようか!

 

 

家畜日記20年と334日

 

 

 いやはやあの剣士、メチャクチャ強いわ。

 

 円卓勢は片手であしらえるようになったのに、あの剣士には十合持たずにぶった切られている。

 

 この一年余り、寝る間どころか食う間も惜しんで剣を振り回してるってのに、この程度とはねぇ。

 

 やっぱり俺って才能ないのかなぁ……

 

 それでも収穫が全く無いわけじゃない。

 

 奴が使う剣術が俺と同じ戴天流だという事は突き止める事が出来た。

 

 なるほど、そりゃあ『意』を取ることができんわけだわ。

 

 しかし女王サマはこの化け物みたいな剣士をどこで知ったのか?

 

 目つきは悪いものの顔はアルトリアやモルガンに似てるし、もしかしたら楽園の妖精的なご先祖様か何かなのか?

 

 だとしたら戴天流を使うのはおかしいし……もしかしたらよく似ているけど別の流派とか?

 

 けどあっちも六塵散魂無縫剣を使ってきたうえに俺より6発も多かったもんなぁ。

 

 う~ん、分からん!

 

 まあ、あの剣士の正体なんてどうでもいいや。

 

 越えるべき壁は高ければ高いほどモチベーションも上がるってもんだ!

 

 というワケで手数で圧倒的に負けてるのならこっちは質で攻めるしかない!

 

 その為には因果律の破断に磨きを掛けなければ!!

 

 まずは骨々サマ由来のパワーを一旦ゼロにして、内勁の練りを基本から鍛え直してみよう。

 

 このごろは世界や空間なんかの不確かな物の因果も感じ取れるようになってきたし、当面はそこに刃を立てる事を目標にしてみるか。

 

 

家畜日記21年と342日

 

 

 ……非常事態発生である。

 

 二年が過ぎたのに何故か庭の効果が解除されませぬ。

 

 最初はモルガンが調整をミスったと思ったけど、修行によって鋭敏さを増した感覚を刺激する『意』がそれを否定した。

 

 魔術に関しては門外漢なのでどういう原理かはさっぱりだが、この空間に何者かが手を出しているようだ。

 

 ダメ元で誰だと問いを投げてみれば、『君はこの世界のバグだ。あの子の為にもここで大人しくしてもらうよ』と軽薄そうな野郎の声が返ってきた。

 

 腕に自信があるのか、それともこちらを甘く見ているのか。

 

 なんにせよ、ご丁寧に言葉を返したのは大失態だ。

 

 魔術ってのはどうしても『意』を消す事ができないらしい。

 

 モルガン曰く妖精共の力と違って、体内で生成した魔力に明確な指示を与える必要があるからだそうな。

 

 今回はそのお陰で奴の居場所を大まかだが掴む事が出来た。

 

 犯人が修行場たる『庭』へ手を加える事が出来たのは奴自身も似たような場所、おそらくは楽園の中にいるからだろう。

 

 運がいい事に2年に及ぶ修練のお陰で、位置さえわかればどうにかできる術も手に入れている。

 

 さて、修行の仕上げを邪魔した無粋な野郎に新技を拝ませてやるとするか!

 

 

女王日記 ●月▽□日

 

 

 今日は色々な事が起きて大変だった。

 

 最初に驚いたのは妖精郷からマーリンが『昏い淵』へ干渉してきた事だ。

 

 施された術式は奴が引き籠っている塔と同じ封印。

 

 以前から奴がアルトリアに接触していた事を考えるに、黒騎士を封印する事が目的だったのだろう。

 

 あのクズは亜流の記憶でも彼を危険視していたからな。

 

 『庭』は星の内海から共に流れ着いた事もあり、その所有権は私が持っている。

 

 しかしそれ自体が妖精郷に由来している以上、縁を辿れば楽園にいる奴の方でも手を加えるのは可能だ。

 

 なので先手を取られたのは痛恨だった。

 

 施された術式は本気で向かい合えば数日で解除できるものだったが、現状ではそれは容易ではない。

 

 妖精共に隙を見せない為の政務に加えて、大穴の躯が復活するまで間がない事を思えば聖槍の調整も手が抜けない。

 

 ロンディウムの円卓軍と合流してノリッジの鐘を鳴らしたアルトリアの対処もあるし、さらにはバーヴァン・シーの世話だってせねばならない。

 

 いかに私と言えど、これだけの事をこなしながら黒騎士を救うのは無理がある。

 

 しかし彼が私にとって必要なのもまた事実。

 

 余計な事しかしないグランドクソ野郎に思わず呪詛が口をついたが、私はまだ黒騎士のことを甘く見ていたらしい。

 

 なんと日が落ちる頃に彼は自力で庭から脱出してきたのだ。

 

 政務を終えて部屋に帰ってみれば、そこにあったのは両断された『昏い淵』の礼装とボロボロの服を着た血塗れの黒騎士。

 

 正直『ふぁっ!?』と変な声が出たのは仕方がないと思う。

 

 あまりの事に呆然とする私を他所に、何事も無かったかのように『ちょっと身を清めてくる』とシャワールームへ消える黒騎士。

 

 見れる姿になった彼の説明によると、マーリンが庭を封印した事を察した彼はその『意』を辿って次元を断つ斬撃を放つ事で奴に一矢報いたらしい。

 

 さらには『昏い淵』の中に奔る因果を見極め、そこへ刃を立てる事で封印ごと仮想世界を断ち切って戻って来たというのだ。

 

 ……一つ言わせてもらっていいだろうか。

 

 これはナイ。

 

 いや、亜流の記憶から並行世界の彼が世界を斬るなんて馬鹿な真似ができるのは知っている。

 

 しかし実際にやられてみればショックは絶大だ。

 

 だって、それは世界の在り方や私が必死に学んだ魔術に真っ向から喧嘩を売っているも同然なのだから。

 

 というか、因果を見切るってなんなのか?

 

 魔眼や神造兵器から加護を得ての事なら納得ができるけど、それを技術で成し遂げるなんて理不尽にも程があるだろう!

 

 などと憤っていた私だが、すぐにそんな場合じゃない事を思い知らされた。

 

 黒騎士は修行を始める前に言っていたではないか、二年間の欲をぶつけると!

 

 危機感を憶えて部屋を出ようとした時には遅かった。

 

 手を掴まれたと思った途端にベッドへ引きずり込まれた私は、そのまま彼の玩具にされてしまったのだ。

 

 日頃の情事で私の弱点を知り尽くしているせいか、魔術はおろか抵抗する暇も与えてもらえない。

 

 お腹の子供を気遣ってくれたのは嬉しいけど、だからって胸やお尻を開発する事はないんじゃないかな!?

 

 以前、彼の事を『ベッドテロリスト』と称したが、その表現は甘すぎた。

 

 あれは『エロス大魔王』だ!

 

 お陰で腰が抜けて、ベッドからまともに動けないし!

 

 明日も政務があるのに、どうしたらいいのですかっ!?

 

 

家畜日記21年と343日

 

 

 昨夜はお楽しみでした!

 

 欲望を出し切って賢者ならぬ剣キチに戻ったロクデナシです!!

 

 目を覚ますと俺を待っていたのはモルガンからのクレームでした。

 

 やり過ぎだとか後先を考えろとか言ってる事は至極もっともなんだが、真っ赤な顔で涙を溜めた上目づかいはやめてほしい。

 

 そんな顔で怒っても男にとっては誘っているのと変わらないのですよ、女王サマ。

 

 まったく、発散していなかったらもう一戦交えているところである。

 

 とはいえイチャイチャできるのもここまで。

 

 モルガンと一緒に謁見の間に戻ってみると、ウッドワスのおっさんから救援依頼が来たのだ。

 

 現在おっさんはロンディウムを拠点としている反乱軍討伐の為に軍を動かしているらしい。

 

 そして敵の旗頭は鐘を鳴らした予言の子。

 

 ……やれやれ、あの嬢ちゃんは運命とやらに殉ずる覚悟を決めちまったわけか。

 

 哀れと思う心はあれど、こうなってしまっては情けは無用。

 

 こちらにも護るべき物がある以上は肚を括るだけだ。

 

 オッサンからの伝令が言うには、ロンディウムの城跡にはアルトリアや藤丸君など反乱軍の主力がいるそうだ。

 

 ただ円卓軍の将であるパーシヴァルの姿がない。

 

 そこからおっさんは奴さんが精鋭を率いて戦場を迂回し、国軍の背後を衝くのではないかと予測した。

 

 なので援軍にはそのパーシヴァルの相手をしてほしいとの事だ。

 

 そんなワケで俺が派遣される事になりました。

 

 女王サマ曰く凡百の妖精共を送るより俺一人の方が信用が置けるんだとさ。

 

 そういえばパーシヴァルと顔を合わせるのは何年振りかねぇ。

 

 再会がそのまま永遠の別れになるだろうが、それも戦場の習いって奴だ。

 

 不要な縁はバッサリ斬り落とすとしますか。

 

 

 

 反乱軍の拠点であるロンディウムの廃都へと侵攻してきたウッドワス率いる女王軍。

 

 都市の護りをアルトリア達に任せて敵の背後を衝こうとしたパーシヴァル率いる円卓軍の精鋭であったが、彼等が訪れた時には女王軍の野営地はもぬけの殻だった。

 

 自分たちの作戦を読まれていた事に気付いてロンディウムへ急ぐ彼等であったが、その前に空から一人の男が舞い降りる。

 

 カラスの羽のようにはためく黒い外套に黒づくめの服装、そして顔を覆い隠す極彩色の悪魔の面。

 

 妖精國第四の騎士、ヴォーディガーンだ。

 

 彼は円卓軍に視線を向けると流れるような動作で腰に差していた刀を鞘から抜き放った。

 

 居合と呼ばれる東洋に伝わる抜き打ちに似た一撃、それは凛という涼やかな音を奏でる。

 

 同時にパーシヴァルの頭の中に特大レベルの警鐘が鳴り響いた。

 

 ほぼ反射的に宙へと飛び上がったパーシヴァルは眼下の光景に驚愕した。

 

 たった今足場となった愛馬を始めとして、自分の後ろを走っていた精鋭達が不可視の斬撃によって腹から横一文字に両断されたのだから。

 

「さすがはパーシヴァルってところか。まぁ、まだ技の練度が低いってのもあるだろうが」 

 

 地面へ降り立ったパーシヴァルを見ながら黒騎士は軽く肩をすくめてみせる。

 

 その余裕な態度に白銀の騎士は手にした聖槍の穂先を突き付ける。

 

「貴様が黒騎士か」

 

「いかにも」

 

 事も無げにそう答える黒衣の男にパーシヴァルは音が鳴る程に歯を食いしばる。

 

 その胸に渦巻くのは彼に最も似合わない感情、憎悪だ。

 

 彼の姉代わりにして剣の師、そして愛する女性でもあったメリュジーヌ。

 

 養成所時代のある夜、雨に打たれて後悔の念を噛み殺す姿を見たパーシヴァルは思った。

 

 彼女の顔から悲しみを消したいと。

 

 その為に必要な事は何なのか?

 

 延々と考え抜いた彼が行きついたのは、望まぬ任務を与える女王から彼女を解放するという答え。

 

 この決意こそがパーシヴァルの反逆の原点だった。

 

 しかしメリュジーヌは彼の知らぬところで反逆者として討たれてしまった。

 

 人々の噂で彼女の死を知った時、パーシヴァルが受けた悲嘆と絶望は筆舌に尽くしがたいモノだった。

 

 彼にとって愛する者の喪失は人生の目的がゴッソリと抜け落ちるのと同義だったからだ。

 

「よくも……よくもメリュジーヌをぉぉぉぉっ!!」

 

 気炎と共に溜まりに溜まった憎悪を吐き出してパーシヴァルは黒騎士へ挑みかかる。

 

 突撃の勢いを乗せた刺突を紙一重で躱されると、突きだした穂先を強引に振るって横薙ぎへ。

 

 更には振り抜いた反動をそのままに回転し、悪趣味な仮面ごと黒騎士の顔をカチ割らんと下から石突きを跳ね上げる。

 

 兵舎にいた頃に叩き込まれ、数々の実戦の中で研ぎ澄ました槍術。

 

 しかし担い手の激情を糧に冴えに冴えわたるそれらは、たった一度も黒騎士を捉える事は出来ない。

 

「お前、ランスロットと通じていたのか? だとしたらアイツはトンでもないスパイだったんだな」

 

「彼女はそんな人じゃない! 昔に縁があっただけだ!!」

 

 愛しい人へと掛けられそうになる疑いを振り払うように、手にした選定の槍を突き出すパーシヴァル。

 

 しかしその一撃を紙一重で掻い潜った黒騎士は、勢いのままに間合いを詰めて一刀を放つ。

 

 大きな踏み込みから繰り出される袈裟切りの一撃は彼が身に着けていた白銀の鎧の胸当てを大きく断ち割り、浅くない傷口から鮮血が迸る。

 

「くぅっ!?」

 

「浅かったか。庭での修行が長かったせいで少しばかり勘がズレてるな」   

 

 そう呟くと黒騎士は一気呵成に刀を繰り出す。

 

 刺突、唐竹、横一文字、逆袈裟、逆風。

 

 その一刀一刀は巧緻にして雷光の如き速さを秘めており、さらには振るう型はその終わりが次の技の初動となっている。

 

 これこそが戴天流が誇る連環套路。

 

 襲い来る刃の嵐をパーシヴァルはギリギリのところで急所を外す事ができたが、攻撃を躱すまではいかず全身に次々と傷を刻まれていく。

 

「ぐぅ!? ま…まさか……」

 

 なんとか黒騎士の刃圏から逃れる事ができたものの、思わずその場に膝をつくパーシヴァル。

 

「この程度か。これならランスロットの方が歯ごたえがあったな」

 

 赤く染まったその身を見ながら黒騎士は落胆の声を漏らす。

 

 しかし黒騎士が放ったその名がパーシヴァルの戦意を蘇らせた。

 

「貴様が! 貴様がっ!! 彼女を語るなぁ!!!」

 

 普段の彼なら決して浮かべないであろう憤怒と憎悪に染まった顔で、パーシヴァルは萎えかけた足に活を入れて立ち上がる。 

 

 もはや今の彼の頭の中には後先の事など残ってはいない。

 

 あるのは眼前の男を打倒して愛する人の仇を取る事だけだった。

 

「槍よ! 私の全てをくれてやる!! だからあの男を……彼女の仇を取らせてくれぇぇぇっ!!」

 

 だからこそ彼はかつてトネリコが所持していた、そして今は使用者の寿命を食らって力とする呪われた槍に自らの全てを注ぎ込む。

 

 妖精國の人間の寿命はその出自から25年、よく生きて30年と酷く短い。

 

 彼の肉体年齢で全力の一撃を放てば間違いなく寿命は尽きてしまうだろう。

 

 しかしそれでもパーシヴァルは構わなかった。

 

 何故ならこの瞬間の彼は円卓軍の騎士でも英雄でもない、愛する者を奪われた憎悪に身を焦がす一人の復讐者だったからだ。

 

 寿命と共に注ぎ込まれた負の想念によって、楽園の槍は軋みを上げながら普段とは真逆の黒いオーラを纏う。

 

 共に駆けるべき愛馬には先立たれ、一歩ごとに身体がから力が抜けていく。

 

 それでもパーシヴァルは駆けた。

 

 愛する女性の無念を、自身の怒りを仇へ叩き付ける為に。 

 

 星の内海で鍛えられた楽園の武器に英雄がその命を注ぎ込んだ必殺の一手、それは運が味方すれば神や悪魔すら討ち滅ぼせるだろう。

 

 その圧倒的な力の奔流を前に、黒騎士は雲霞渺々の構えを取る。

 

 調息と共に意識を研ぎ澄ませば、彼の目が捉えるのは万物の因果。

 

 刻一刻と迫る楽園の遺産もその視境からは逃れる事はできない。

 

 そしてパーシヴァルが彼の刃圏へと入った瞬間、黒騎士は動いた。

 

 流れるような動きから放たれる清流のような一振り。

 

 それが槍の切っ先に触れた瞬間、全てを砕かんと猛威を振るっていた槍のオーラは嘘のように霧散する。

 

「な……!?」

 

 何が起こったか理解できないパーシヴァルを置き去りにして刀の切っ先は踊るように槍を誘い、釣り上げ、本来の目標から大きく逸らせていく。

 

 彼が咄嗟に立て直そうと力を込めても、奇妙な事にブレた穂先はいう事を聞かない。

 

 それどころか力めば力むほど逆に逸れる勢いが増す始末だ。

 

 そしてパーシヴァルの身体が前に大きく泳いだ瞬間、再び黒騎士の白刃が煌めいた。

 

 閃光を思わせる一刀は彼に抵抗どころかその軌跡を見せる事もなく、その首を刈り取った。

 

(ごめん、メリュジーヌ。僕は……)

 

 宙を舞いグルグルと回転する視界に彼が最後に見たのは悲しそうな顔をする愛しい女性の幻影だった。

 

「全霊を懸けた一手がこれか。あの剣士の一刀に比べたら子供だましもいいところだな」

 

 パーシヴァルだったものが地に伏せるのをよそに刀を血振りと共にため息を漏らす黒騎士。

 

 その言葉には期待外れという感情がありありと込められている。

 

 彼の見立てではパーシヴァルの力量は、『庭』で手を合わせた円卓の騎士より一段劣るほど。

 

 十数年でそこまで練り上げた才は称賛に値するが、鉄火場で物を言うのは結果だ。

 

 高尚な志も誰かを一途に思う純愛も、こうして屍を晒しては何の意味もない。

 

 黒騎士は地面に転がったパーシヴァルの首を手にすると、軽く地面を蹴って軽身功で空を駆ける。

 

 魔都上海にいた頃のように敗者を振り返る事は無く。

 

 一方、ロンディウムで防衛戦を繰り広げていた円卓軍主力は本領を発揮したウッドワスを相手に劣勢を強いられていた。

 

「つ…強い……」

 

「氏族の長とはいえ、ここまでの力を持っているなんて……」

 

 自らの力に慄く藤丸やアルトリアをウッドワスは当然とばかりに鼻で笑う。

 

「私を誰だと思っている。女王陛下第一の忠臣にしてこの國の軍事を統括する者、亜鈴百種───いや、これは恥ずべきであり誇れることではなかったな」

 

 反乱軍の面々が漏らした苦渋の声を鼻で笑おうとしたウッドワスは、自分の吐いた言葉に気が付くとその笑みを自嘲へと変える。

 

 彼はこのブリテンへ最初に降り立ったこの國に存在する全ての妖精の祖たる6体の妖精、その先祖返りと言うべき存在だ。   

 

 その力は星の触覚たる真祖や精霊種にも匹敵する。

 

 如何に人霊の頂点たるサーヴァントとはいえ、彼を前にしては格が違うと言わざるを得ない。

 

 しかしウッドワスはその出自に誇りを持てなくなっていた。

 

 主であるモルガンから聞いたこの大地の成り立ち、それは先祖の愚行が原因だった。

 

 怠惰により星を滅ぼし、恩人である獣神を謀殺してその巫女の命を辱める。

 

 全ては自らの欲望を叶えるための所業。

 

 戦士として女王の臣として高潔たらんとしたウッドワスにとって、それ等は唾棄すべき悪であった。

 

 故に彼は先祖返りたる我が身を恥じる。

 

 それもあって今回の遠征へ出る前に牙の氏族の長を降りてきた。

 

 それどころか氏族から自らの名を抹消までしたのだ。

 

 今の彼が誇るのはモルガンの臣であるという一点のみ。

 

 その圧倒的な自負は亜鈴百種の権能以上にウッドワスを強くしていた。

 

 しかし隔絶した差を持つ強敵を前にしても、アルトリアを始めとする反乱軍の戦意が揺らぐことはない。

 

 彼等にはまだ逆転の希望が残っているからだ。

 

 女王軍の背後を衝く為に別行動をしているパーシヴァル率いる円卓軍の精鋭達。

 

 彼等が間に合えばこの戦局を覆す事も夢ではない。

 

 しかし、そんな希望は脆くも砕け散る事になる。

 

 音もなく天から降り立った黒衣の剣士によって。

 

「黒騎士ヴォーディガーン……」

 

 女王軍の中でも指折りの力を持つ妖精騎士の一角が現れた事に藤丸は苦虫を噛み殺す。

 

 彼には手合わせと称して、信頼するサーヴァントの一体を打ち砕かれている。

 

 反乱軍の中で唯一黒騎士の力を肌で感じた人間だ。

 

 それ故に身がすくむのを押さえられなかった。

 

「まさか貴様が送られてくるとはな」

 

「随分だな。せっかく救援依頼を受けて来たってのに」

 

「ふん。それで首尾は? まさかしくじってはいまいな」

 

 隣に立つウッドワスの問いに黒騎士は左手に持ったモノを掲げてみせる。

 

 その物体が何かを知った時、ウッドワスはニヤリと笑い反乱軍の面々は驚愕した。

 

 何故なら黒騎士の手に髪を掴まれてぶら下がっているのは、パーシヴァルの生首だったからだ。

 

「この通り反逆の英雄はくたばった。もうウチがケツを掘られることもないさ」

 

 下品な言い回しと共にパーシヴァルの首を投げ捨てる黒騎士。

 

 絶望に顔を曇らせる反乱軍の中、ただ一人だけ怒りを激発させる者がいた。

 

 それはロンディウムの城塞跡に入り込んだ敵を掃討して救援に来たガレスだった。

 

「よくも…よくもパーシヴァルさんをぉぉぉぉぉっ!!」

 

 怒号と共に弾丸のような速度で黒騎士へ襲い掛かるガレス。

 

 並の妖精を上回る腕力に加速、そして装備の重量を加味した必殺の突撃───

 

「粗削りに過ぎるな」

 

 それは黒騎士が振るう剣閃によって、驚くほど簡単にいなされてしまう。

 

「あ…………」

 

 宙を踊る刀によって穂先を吊り上げられ、無防備な姿をさらすガレス。

 

 直後に雷霆のごとく降り注いだ袈裟斬りは、ロンディウムの民が心血込めて創り上げた防具を以てしても防げなかった。

 

「ガレスちゃん!?」

 

 アルトリアの悲鳴と共に響く凛という鈴の音のような音色。

 

 暗色の闇を纏った一撃は民を想って槍を取った女騎士の身体を容易く両断する。

 

 黒騎士の攻撃は妖精であるガレスとの相性は最悪だ。

 

 如何に彼女が鏡の氏族の次代であろうと命を拾う道理はあろうはずがない。

 

 血飛沫と身体の内容物を撒き散らしながら地面に転がったガレスの身体は、瞬く間に呪詛によって黒い汚泥へと還っていく。

 

 鎧袖一触、先ほどの戦いを評するなら、まさにこの言葉が相応しいだろう。

 

 しかし彼女の突撃は無駄ではなかった。

 

「ガレスの……ガレスの意志を無駄にするな! 俺達が負ければロンディニウムの皆も終わるんだ!!」 

 

「ガレスちゃんやパーシヴァルさんの為にも諦めないで! 私達はまだ戦える!!」

 

 何故なら彼女の犠牲は味方を覆いつつあった絶望の闇を払ったのだから。

 

 藤丸とアルトリアの檄によって闘志を新たに武器を構える反乱軍、その姿に黒騎士は深々とため息を付いた。

 

「やれやれ、降伏でもしてくれれば楽だったんだがな」  

 

「馬鹿な事を。奴等は女王陛下に仇為す賊徒だ。降伏したところで刑場の露と消えるだけであろう」

 

「それもそうか。それじゃあオッサンはカルデアの面々と残党の左半分を頼む」

 

「お前は予言の子というワケか」

 

「相性的にはそっちの方が効率的だろ。それにあの鍛冶屋には妙な絡繰りがあるから、俺じゃないと始末できんし」

 

「いいだろう。不覚を取ったら笑ってやる」

 

「そっちこそな」

 

 そんな彼等を他所に世間話のように言葉を交わすと、ウッドワスと黒騎士は同時に地を蹴った。

 

 藤丸の簡易召喚によって呼び出され、マシュの代わりに防御の要となっている前衛を務めるレオニダス王。

 

 そしてレオニダスが盾ならば矛として現界したジークフリート。

 

 さらには未だ戦場で踏みとどまる30人にも及ぶ反乱軍の精鋭。

 

 彼等のいずれにも油断は無い。

 

 慢心などあろうはずもなかった。

 

 にも拘わらず、前線を担っていた彼等は女王の臣が振るう爪と刃によってロクな抵抗も許されずに打ち倒された。

 

 レオニダスの盾はウッドワスの爪によって貫かれ、ジークフリートは獣の俊敏さによって背後を取られたうえに本能で見抜かれた急所を背後から抉られた。

 

 そしてアルトリアの警護に付いていた反乱軍の兵士たちも、黒騎士が放った空間斬によって一刀の下に上半身と下半身が泣き別れる羽目となった。

 

 英霊の眼すら置き去りにする神速の一撃によって天へと舞い上がり、血の雨のごとく降り注ぐ反乱軍の騎士達のなれの果て。

 

 その先から現れた黒騎士の姿に対し、村正は投影した刀を手にアルトリアを庇うように立つ。

 

「悪いがあの嬢ちゃんを取らせるワケにはいかねえな」

 

「だろうな。予言の子は反乱軍の旗頭、担いだ神輿を差し出す馬鹿はいないだろうさ」

 

 言葉と共に血に濡れた切っ先をアルトリアへ向ける黒騎士、その姿に村正は言いようのない不快感を覚えた。

 

「その刀は返してもらうぜ。儂の打った物を悪事に使われるのは我慢ならねえ」

 

「事の善悪なんて立場によって簡単に変わるもんだろう。自分の視点だけでそれを口にするのはナンセンスだぞ」

 

 鼻で笑う黒騎士へ村正が放つ打ちおろしの一撃、振り上げた黒騎士の刀と刃を合わせた瞬間に村正の剣は甲高い音を立てて斬り落とされる。

 

「チィッ!」

 

 舌打ちと共に新たな一刀を投影した村正は抜き放つと同時に逆風に刀を振り上げる。

 

 しかしその刃が肉を食むよりも早く、黒騎士は軽やかな足取りで空へと逃げている。

 

 そして宙を舞う黒衣の剣士が放つは戴天流が一手、鳳凰吼鳴。

 

 音すら置き去りにする一刀は、防御に掲げた村正の剣を食い破ると勢いのまま肩を割った。

 

「ぐおっ!?」

 

「村正!」

 

 血飛沫を上げながら下がる村正を援護しようと風の魔術を放つアルトリア。

 

 しかし彼女が放った旋風のチャクラムは視線と共に放った黒騎士の剣氣によって音もなく両断された。

 

「うそっ!? なんで!!」

 

「面倒だな。先に予言の子から始末するか」

 

「そうは問屋が卸さねえってな!」

 

 アルトリアに目標を切り替えようとする黒騎士だが、それを阻むように横合いから村正が斬りかかる。

 

 黒騎士は再生を続けている村正の肩の傷に仮面の奥で目を細める。

 

「異界の神とやらが仕組んだ絡繰りか」

 

「応よ。霊基を好き勝手に弄られるのは業腹だが、今だけは感謝してやるぜ!!」

 

 唐竹、横薙ぎ、逆袈裟と両手に刀を持ち次々と振るう村正。

 

 しかしその全てが黒騎士の鉄壁を誇る防御によって誘い、吊り上げられ、目標を見失って空を切る。

 

「クソッたれめ、やっぱり当たる気がしねえ!」

 

「お前さんは刀鍛冶としては一流だが剣の腕は二流だ。本職のこっちが負ける道理があるわけないだろう」

 

「ならその刀鍛冶として勝負を挑んでやらぁ! 受けてみるか、大剣豪!!」

 

「面白い、受けてやる」 

 

 そう答えて間合いを取った黒騎士に村正はしてやったりと笑みを浮かべる。

 

 目の前の男を前に宝具を展開する自信は村正には無い。

 

 下手に奥の手を投影しようとすれば、その間を狙って首を刎ねられかねない。

 

 今の彼はその程度でくたばる身体ではないが、さすがに頭を失えばしばらくは動けなくなる。

 

 そうなればアルトリアの命は無い。

 

 ならばこそ、このチャンスを引き寄せなければならない。

 

 自らが生み出した刃であの少女が死ぬなど、あってはならないのだから!!

 

「其処に到るは数多の研鑚、築きに築いた刀塚」

 

 村正の詠唱によって周辺が熱気と共に炎を湛えて赤熱化するタタラ場の窯へと変わる。

 

 鉄を鍛える槌の音が響き、その度に村正の周囲へ彼が生涯かけて生み出してきた刀が一本、また一本と焼けた大地へと突き立っていく。

 

「縁を斬り、定めを斬り、業を斬り 我をも断たん、都牟刈村正。即ち──宿業からの解放なり!!」

 

 そして彼が右手を突き出せば突き立った数多の刀はその姿を膨大な魔力へと変え、束も鍔も無いむき出しの刃を形成する。

 

「冥土の土産に拝みやがれ! これが儂の──『都牟刈村正』だぁぁッ!!」

 

 裂ぱくの気合と共にいまだ生誕の熱が冷めやらぬ、彼が生涯追い求めた至高の刃を振り下ろす村正。

 

 人が抱える縁や運命といった重荷を断ち、本当の意味での自由を与える為の一振り。

 

 人斬り包丁でしかない刀で人を救おうとした馬鹿な男の理想の具現。

 

「ハッ!!」

 

 だがそれは黒騎士が振り上げた一刀によって、半ばから無残にも斬り落とされてしまう。

 

「な……」

 

「捉えたぞ、村正。お前の魂を!」

 

 そして返す刀で放たれた戴天流・放手奪魂。

 

 大きな踏み込みから振り下ろされた袈裟斬りの刃は村正の身体の左肩に食らいつき、体内の臓器と宝具解放で心臓部に浮き出た彼の霊核を断ち切って右の脇腹へと抜けた。

 

「が…はぁ!?」

 

「村正ぁっ!?」 

 

 血飛沫と共に仰向けに倒れる村正の姿に、アルトリアの口から悲鳴が上がる。

 

「……まさか、打ち負けちまうとはな」  

 

「縁に定め、そして宿業か。形の無いモノを刀で斬ろうなんて凄い事を考える。だが、ソイツにたどり着くのは少しばかり遅かったな」

 

「なんだと?」

 

 黒騎士の言葉に瀕死でありながら村正は眉根を寄せる。

 

「内勁を込めて振るわば布の帯は剃刀に、木の棒は鉄槌と変じる。そして鋼の刃が変じる先はただ因果律の破断のみ」

 

「なんでぇ、ソイツは?」

 

「我が戴天流に伝わる口伝だよ。つまりお前さんの求めていた物は技術として確立されているのさ。それを体得した俺がお前さんの打った刀を振るえば、この結果は必然だ」

 

 あとは生涯を懸けて追いかけた理想を振るうとなれば、異星の神の小細工を押しのけて魂が現れると踏んだ。

 

 黒騎士の言葉を全て耳にした後、村正は思わず動く左手で顔を覆った。 

 

「なんてこった、儂と相性最悪じゃねえか」

 

「戦いで生き残るには値踏みが重要になる、目の前にいる敵は自分より強いのかってな。二度も顔を合わせておいて、それに気づかないお前さんが悪い」 

 

 そう笑う黒騎士の声が耳に届くと同時に村正の霊基が崩壊を始める。

 

 消えゆく彼の脳裏を掠めたのは、アルトリアの助命を嘆願する事だった。

 

 しかし口をつきそうになるそれを村正は呑み込んだ。

 

 言ったところで無駄なのが分かっていたからだ。

 

 彼とて戦国の世を生きた身、國に反乱を起こした勢力の首魁が助かるなどと考えるほど愚かではない。

 

 万が一アルトリアを見逃せば今度は黒騎士が裏切者と見なされるのだから。

 

(身体を借りといてこの体たらくか。すまねえな、若いの) 

 

 アルトリアを救えと脳内で訴えかける声に詫びたのを最後に、村正はこの世界から消滅した。

 

 それに一拍子置いて自分へ視線を向けた黒騎士にアルトリアは息を呑んだ。

 

 仮面の奥に光る眼光を見た瞬間、彼女は理解したのだ。

 

 目の前に立つ者が自分にとって絶対不可避の死であるという事が。

 

 それでも彼女は歯を食いしばって手にした杖を向けた。

 

 成り行きとはいえ、自分は女王に抗うと決めたのだ。

 

 ここで心を折ってしまっては犠牲になった人や今も戦っているであろう藤丸達に顔向けができない。

 

 そんなアルトリアに黒騎士はおもむろに問いを投げる。

 

「アルトリア。鐘を鳴らしたって事は、お前さんは女王サマとは違う手段でこの國を救う方法を見つけたんだな?」

 

「え?」

 

 それはキャメロットで黒騎士に問われたことだった。

 

 あの時に何も答えられなかったアルトリアの意識は、それ故に一瞬戦いから離れた。

 

 あのときから自分は何を見つけたのだろう、と。

 

 しかし兇手として生きてきた黒衣の剣士には、その刹那の間で十分だった。

 

 次の瞬間にアルトリアが感じたのは軽い衝撃、そして胸に広がる灼熱感だった。

 

「あ……」

 

 何が起こったか分からない。

 

 そんな表情を浮かべるアルトリアを一瞥した黒騎士は、彼女の心臓を串刺しにした切っ先を無慈悲に引き抜く。

 

 確実に葬る為に獣神の呪詛と竜の瘴気を十分に込めた一刺し、楽園の妖精とはいえ未だ本来の力が解放されていない彼女に耐えられるはずがない。

 

「結局、運命とやらの操り人形だったってワケか。お前さん、何かしたい事はなかったのか?」

 

 仰向けに倒れるアルトリアに憐憫の視線を向ける黒騎士。

 

 仮にアルトリアが確固たる信念やビジョンを持っていたなら、呆けることなく即座に言い返していただろう。 

 

 あそこで思考に意識を取られるという事は、彼女の中にそれが無かった何よりの証明だ。

 

 周囲から向けられる予言の子への期待、楽園の妖精として植え付けられた漠然とした使命感。

 

 それらは結局彼女から己の為に生きるという選択肢を奪ってしまった。

 

 組織の道具として育成され、修羅に堕ちるという褒められた形ではないものの己の道を見出した彼からすれば、アルトリアの存在は哀れというしかなかった。

 

 そして倒れながら黒騎士にの言葉を耳にしたアルトリアは、固い地面の感触が薄れる中で思考していた。

 

 自分のやりたい事はなんだったのか?

 

 拾われた村では迫害され、いいように利用された。

 

 村が女王軍に滅ぼされた時は、唯一の恩人を助けることもできずに逃げるしかなかった。

 

 『お前は予言の子だ』と言い聞かせられていたのに、世間に出て突き付けられたのは如何に自分が非力な存在なのかという現実だった。

 

 何もかもを忘れたいと忘却の森へ行ったのに、予言の子だからか記憶を失うことも出来ない。

 

 妖精國は誰も彼もが嘘に塗れていて、内側に抱えたヘドロのような本音を聞かされるのは本当に嫌だった。

 

 まるで他人の醜悪な心によって自分が穢されていくかのようだったから……

 

 今までアルトリアが辿ってきた道は本当にロクな事が無かった。

 

 そんな寒風吹き荒ぶ夜道のような人生において、彼女の導となったのは星だった。

 

 嵐のごとき悪意で視界が塞がれても遥か彼方で微かに光る星。

 

 思えば自分はその星を掴みたくて生きてきたのかもしれない。

 

 汚泥のような呪詛が全身へと回る中、アルトリアが霞む視界の先に見える星へと手を伸ばす。

 

「ああ、わたし…は……」 

 

 しかし、彼女の手は最後までその光に届くことはなかった。

 

 胸の傷から湧き出るように黒い染みが全身へと広がり、アルトリアの身体はガレスと同じく汚泥となって土に還る。

 

 それを見届けた黒騎士は手にした剣を血振りして鞘に納めると、振り返ることなくその場を離れる。

 

 前世の上海において彼は裏切りを始めとする青雲幇へ不利益を齎す仲間の粛清も請け負っていた。

 

 世話になった先人も、背中を預けた戦友も、自分を気に掛けてくれた恩人も、共に地獄のような修練を潜り抜けた同胞も、組織の命令があれば眉一つ動かさずに斬り捨ててきた。

 

 だからこそ哀れとは思っても運命に翻弄された少女が黒騎士の胸に残る事はない。

 

「ゆっくり休みな。もうお前さんに何かをさせようとする奴はいないさ」

 

 最後まで運命の傀儡でしかなかった少女への手向けの言葉は荒野に吹く風に消えた。

 

 黒騎士がウッドワスと合流した時には、すでに勝負はついていた。 

 

「さすがだな オッサン」

 

「この程度、賞賛になど値せん。貴様の手を借りなくとも賊など私一人で一掃できたのだ」

 

 フンと鼻を鳴らすウッドワスに仮面の内側で苦笑いを浮かべると、黒騎士はまだ辛うじて息がある藤丸へと歩いていく。

 

 右胸から心臓の半分をごっそりと抉られている以上、彼が助かる可能性はないだろう。

 

 この傷でまだ生きているのは、手に刻まれた令呪が無理やり命を繋いでいるからだ。

 

「おれは…しね…ない……せかいを……マ…シュを……」

 

 うわ言のように呟く藤丸の曇り始めた青い目を見下ろすと黒騎士は言葉を紡ぐ。

 

「諦めな、藤丸君。お前さんは今まで他の世界を踏み潰して生きてきた。今回はそれがお前さん達に降りかかっただけの事だ」

 

「あ……」

 

 自身の良心に深く突き刺さった楔に触れられて息を詰まらせる藤丸。

 

「ここまでやったのならお前さんに文句を言う奴はいないさ。納得できないならあの世で俺達に恨み言を言えばいい。───汎人類史の代表じゃなく他の奴等と一緒にな」  

 

 言葉と共に鞘走った一刀は藤丸立香の意識を永遠に断ち切った。

 

「放っておいても助からんだろうに。わざわざ止めを刺す必要はあるのか?」

 

「万が一って事もある。ここで生き残られて盤上をひっくり返されたら堪らんからな」

 

 諦めの悪い人間の怖さはよく知っている。

 

 なにせ前世の彼がまさにそれだったのだのだから。

 

 役目が終わった二つの人影は雑談をしながら血生臭い戦場に背を向けた。

 

 この時点で汎人類史の滅びが確定したが彼等に思う事はない。

 

 所詮この世は弱肉強食、力のない者が滅ぶのは生物でも世界でも変わらないのだ。

 

 

 

 

女王日記 ●月▽☆日

 

 ノクナレアと会談を行った。

 

 もちろん能無しの臣下共には極秘でだ。

 

 今回の議題は女王の座の禅譲について。

 

 これは黒騎士と出会ってから今までよくよく考えた末の結論だ。

 

 黒騎士…いやアルガが妖精國に存在していると知ったのも要因の一つだが、決め手になったのはお腹の子の存在だ。

 

 今はまだいいとしても、これからこの子が大きくなれば一つも隙を見せられない女王職は無理だろう。

 

 この国にしか縋るモノが無かった汎人類史のモルガン、この国に理想を見出したものの何度も裏切られてきた事で圧政を選択したトネリコ。

 

 その二つの私の認識を覆したのは亜流を生きるモルガンの記憶だった。

 

 王族たることを嫌い、女として母として生きる事に幸せを見出した彼女。

 

 伴侶が存在しなければ、この記憶もただの可能性として脳の片隅で埃を被っていただろう。

 

 しかし何の因果か、この世界にも彼が存在して色々と醜態を晒したものの結ばれる事が出来た。

 

 そのうえバー・ヴァンシーが幼児になり子まで孕んだとなれば、最優先とすべき物が変わっても仕方ない。

 

 もはや私が護るべきは家族というコミュニティだ。

 

 全てを救おうと手を伸ばして全てを取りこぼす虚しさはウンザリするほど体験してきた。

 

 だからこそ妖精國にまで手を回す余裕はない。

 

 彼女の前世であり王の氏族長だったマヴとの約定があったので、ノクナレアはあっさりと王座を引き継ぐ事を同意した。

 

 その際に問題となったのはモースと原因たる神の躯だったが、そこは私達で対処すると伝えておいた。

 

 王の氏族でも後ろ暗い形ではあるがモースや呪い対策を行っているのは知っている。

 

 だが、例の獣神をどうにかするとなれば荷が勝ちすぎるだろう。

 

 かく言う私も聖槍が通用するのか分からないし、さらに言えば例の毒虫も駆除し終えたとは思えない。

 

 やはり鍵を握るのはアルガだろう。

 

 決行日まであと二日。

 

 この國の存続と家族、私はその二つをこの手に抱くことができるだろうか?

 

 

家畜日記21年と344日

 

 神の屍対策も大詰めを迎える中、骨骨サマからSОSを受けて実家である湖水地帯へ帰る事に。

 

 到着するとピンク色の髪の毛をしたファンキーな女がいた。

 

 美人ながらも女狐という呼び名が死ぬほど似合いそうなこの女は、あろう事か骨骨サマを盗もうとしていたのだ。

 

 出汁は湖の水に出切っているとはいえ、一応は修行に協力してくれた恩人だ。

 

 義理もあるので守ってやろうと思ったら、コヤンスカヤと名乗った女はモースをけしかけてきた。

 

 この俺相手にモースを使うなど笑止千万。

 

 適当な奴を捕まえた俺は鉄鞭の要領でヤツを振るい、他のモース共をホームランしてやった。

 

 その際にコヤンスカヤに一匹直撃したのは事故ということで。

 

 これに怒ったコヤンスカヤが襲い掛かって来たのだが、意外な事に奴のスタイルはライフルを使った軍隊格闘っぽい戦闘術だった。

 

 その動きは基本に忠実なものの、研鑽も経験もなく教科書通りにやってます感プンプンで酷く薄っぺらい。

 

 もちろん上海でゴリゴリのロシア軍サイボーグを相手取っていた俺にそんな物は通じない。

 

 というか軍格使うなら目からビーム、最低でも腕や腹に隠し銃くらいは用意しとけよ。

 

 そんな感じでライフルをぶった切って傷を付けると、絶叫を上げながら後ろに下がったヤツはピンク色の重機と戦車が混ざったようなメカを呼び出しやがった。

 

 全身特殊装甲っぽいうえに迎撃用の銃口も満載と、さすがにこれを斬るのは骨が折れる。

 

 ならどうするかといえば、こういう時の裏奥義である。

 

 轟雷功で呼気と共に巨体へ電磁パルスを叩き込むと、目に見えて動きがおかしくなる巨大メカ。

 

 そこへ電磁発勁を叩き込めば蒸気と火花を散らしてスクラップの一丁アガリというワケだ。

 

 この身体になったお陰で内傷も負う事はなくなったんだが、ぶっちゃけ妖精國では使い道が無かったんだよなぁ。

 

 実戦使用は20年ぶりだったんだけど、上手くいって万々歳である。

 

 こうして切り札を葬ってやるとコヤンスカヤは白旗を上げた。

 

 曰く骨骨サマは奴の目的には使えないそうな。

 

 あと星の断末魔で魂が染まった化け物が竜の瘴気に獣神の呪いで仙人になるとかどんな冗談だとか。

 

 貴方、本来の役目を間違えてません?などなど、エラい文句を付けられた。

 

 この辺は意味が分からないので聞き流していたのだが、最後に言われた言葉は印象的だった。

 

『悪い事はいいません、今の内に自刃しておきなさい。貴方はアレに目を付けられています。このまま進めば未来永劫、死ぬことも出来ぬ修羅地獄に巻き込まれる事になりますよ』

 

 何の事かはさっぱりだが、どうも悪意からの言葉ではないようだ。

 

 そう言うとふわりと浮かびあがったコヤンスカヤは空の向こうへ飛んで行ってしまった。

 

 意味深なセリフを残すあたりは悪の女幹部っぽかったが、行きずりの女のたわ言を気に掛けている余裕はない。

 

 明日はこの國に埋まった特大の地雷を除去する日だ。

 

 女王サマと子供の為にも気合を入れようじゃないか!    

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