剣狂い転生漫遊記   作:アキ山

99 / 135
新年、あけましておめでとうございます。

一年も放置して本当に申し訳ありませんでした!

今まで全くネタが浮かんできませんでしたが、ようやくネタを完結させることができました。

それもこれもゲームに出演してくれたORT君のお陰です!

待っていてくれ、その内小説本編でも出番を作ってやるからな!! 


ネタ・もし剣キチが妖精國に生まれていたら(完結編)

女王日記 ●月▽☆日

 

 ノクナレアと会談を行った。

 

 もちろん能無しの臣下共には極秘でだ。

 

 今回の議題は女王の座の禅譲について。

 

 これは黒騎士と出会ってから今までよくよく考えた末の結論だ。

 

 黒騎士…いやアルガが妖精國に存在していると知ったのも要因の一つだが、決め手になったのは子ができた事だ。

 

 今はまだいいとしても、これからお腹の子が大きくなれば隙一つも見せられない女王職は無理だろう。

 

 この国にしか縋るモノが無かった汎人類史のモルガン、この国に理想を見出したものの何度も裏切られてきた事で圧政を選択したトネリコ。

 

 その二つの私の認識を覆したのは亜流を生きるモルガンの記憶だった。

 

 王族たることを嫌い、女として母として生きる事に幸せを見出した彼女。

 

 伴侶が存在しなければ、この記憶もただの可能性として脳の片隅で埃を被っていただろう。

 

 しかし何の因果か、この世界にも彼が存在して色々と醜態を晒したものの結ばれる事が出来た。

 

 そのうえバーヴァン・シーが幼児になり実子まで孕んだとなれば、最優先とすべき物が変わるのも仕方ない。

 

 今の私が護るべきは家族というコミュニティだ。

 

 全てを救おうと手を伸ばし、全てを取りこぼす虚しさはウンザリするほど体験してきた。

 

 だからこそ妖精國まで抱え込む余裕はない。

 

 彼女の前世であり王の氏族長だったマヴとの約定があったので、ノクナレアはあっさりと王座を引き継ぐ事を同意した。

 

 その際に問題となったのはモースと元凶たる神の躯だったが、それらに対しては私達が対処すると伝えておいた。

 

 王の氏族でも後ろ暗い形ではあるがモースや呪い対策を行っているのは知っている。

 

 だが、例の獣神が相手となれば荷が重いと言わざるを得ない。

 

 かく言う私も聖槍が通用するかの分からないし、さらに言えば例の毒虫も駆除し終えたとは思えない。

 

 やはり鍵を握るのはアルガだろう。

 

 決行日まであと二日。

 

 はたして私は大事なモノを取りこぼさずにいられるだろうか?

 

 

家畜日記21年と345日

 

 

 予言の子の死と反乱軍の壊滅が伝えられて数日、妖精共は見事に反発しやがりました。

 

 妖精國の各都市で住人が暴徒になって、思うがままに暴れ回っているという。

 

 奴等の要求は一つ。

 

 圧政を続けてきたモルガンの処刑だ。

 

 税で魔力を吸い取られ続けていた妖精達にとって、予言の子は現状から自分達を救い出す希望だったんだろうさ。

 

 それが御破算となれば、我慢弱く自分勝手な奴等がブチキレてもおかしくはない。

 

 政府も牙の氏族を中心にした兵を送って鎮圧を行っているが、国中で起こっているとなればどうしても手が足りない。 

 

 モルガンは内密に北に領土を持つノクナレアに禅譲を進めていたらしいが、この有様ではそれもできない。

 

 この有様ではそれもご破算となるだろう。

 

 というか、マンチェスターを任せていたガウェインの奴まで裏切ってるらしいし。

 

 奴の言い分だと女王は妖精を救う気はないということなんだが、これに関しては事実なので仕方がない。

 

 こちらとしてはあれだけの事をしておいて救ってもらえると思っている事がお笑いだ。

 

 とりあえず同族という事でマンチェスターのほうにも牙の氏族を向かわせているが、最悪の場合は俺が出張らないといかんだろう。

 

 こういう時が出番のウッドワスのおっさんは私用でグロスターに行ってるしな。

 

 神の再殺が控えてるってのに、まったくもって忙しいことだ。

 

 

女王日記 ●月▽ー日

 

 

 愚か愚かだと思っていたが、妖精どもがここまで低脳だとは思わなかった。

 

 エディンバラの領民どもが反乱を起こし、ノクナレアを殺害したのだ。

 

 使い魔越しに彼女が処刑台に乗せられる光景を見たときは、思わず我が目を疑ってしまった。

 

 彼女が民の信用を失った原因はモース病患者の治療方法が民の間に喧伝されてしまったことだ。

 

 北の国では回復の見込みがないモノに他の患者の呪いを集中させる事で、一の犠牲で多くの患者を生かす方法を取っていた。

 

 そして犠牲となる妖精はモースと化す前に巨大ゴーレム兵器「巨人兵」の素体に改造する事で国内でのモース増殖を抑えていたのだ。

 

 この方法は遺族にも通達されており、彼らには相応額の補填も為されていた。

 

 モース病患者を追放して打ち捨てるだけのこちら側と比べれば十二分に手厚い対応だと思うのだが、それでも納得がいかない者がいたのだろう。

 

 各地に漂う反乱の空気に当てられる形で、奴らはノクナレアが秘密にしていた治療法を吹聴して回ったのだ。

 

 その結果、先代マヴからの家臣も含めて王の氏族だった妖精達は彼女の庇護から離脱した。

 

 力を与えた者を自らの眷属、王の氏族とする事で形成する組織こそがノクナレアの力の源泉であり真骨頂だ。

 

 故に臣下に裏切られた彼女は力と知性を失い、言葉を話す事も儘ならない状態で妖精達になぶり殺しにされた。

 

 改めて妖精共の醜悪さを目の当たりにしたうえに妖精國の後継者が消えたわけだが、思っていた以上に私はショックを感じなかった。

 

 何故かと自問するなか、すっと頭の中に浮かび上がる答えがあった。

 

 それは私が妖精たちはもちろんのこと、この國も嫌いだったという事だ。

 

 トネリコの時代から何度も裏切られた、何度も傷つけられてきた。

 

 努力が徒労に終わったことなど数えきれないほどにある。

 

 妖精も人間もこの國が薄氷の上にある事にも気づかず、事あるごとに私の政策を批判する。

 

 不眠不休で働き訪れるであろう災厄に備えても、あの子以外に労いの言葉も感謝の言葉もない。

 

 私がこの國に固執していたのは、これしか私の寄る辺がなかったから。

 

 この國を築くまでに手から零れ落ちていった大切な人達の犠牲を無駄にしたくなかったから。

 

 思えば我ながら現金なものだ。

 

 自分を受け入れてくれる人が現れただけで、あそこまで固執していた國に価値を見出せなくなるなんて。

 

 けれど、もういいだろう。

 

 私はこの巨大なモノを背負うのは疲れた。

 

 徒労も大切な人を国の礎にするのもたくさんだ。

 

 私は私として生きる。

 

 女王でも楽園の妖精でもない、ただのモルガンという女として。

 

 その為にはこの身を縛るしがらみを全て断ち切る必要がある。

 

 さあ、邪魔者を消し去るとしようか。

 

 

家畜日記21年と347日

 

 

 女王様がブチキレてしまった。

 

 こうなったのは女王の座を押し付けようとしていたエディンバラの領主が民衆に殺されてしまったのが原因だ。

 

 自国民を虐殺とか普通に考えればヤバ過ぎるのだが相手は暴徒と化したならず者。

 

 治安維持のために国家が武力制圧するのは往々にしてあることだ。

 

 まあ、他と違うところは国民の9割が暴徒になったことくらいか。

 

 この事を聞けば女王の所業を虐殺だと非難する者もいるだろう。

 

 だが暴徒共は女王の退位だけで済ませる気はなく殺す気で来ている。

 

 殺らねば殺られるのだ。

 

 こんな状況なので俺もアホ面下げて油を売っていたわけじゃない。

 

 奴等の中心戦力であるガウェインの首をしっかり取っておいた。

 

 軽功術で最前線に飛び込むと同時に新技である空間斬で番犬扱いの人間どもを蹴散らし、妖精には騒ぎを聞きつけて湧いて出たモース共を豪速球で投げつける。

 

 そして場がしっちゃかめっちゃかになった所で、女王様特製の光の槍で爆殺である。

 

 このコンボでキャメロットに寄って来た不届き者を次々にあの世へ送っていると、「これ以上、民草を傷つけることは許さん!」とガウェインが前に出てきた。

 

 奴は「國を守るのが妖精騎士の役目ではないのか!」と一喝してきたので、こちらも「國は女王。こいつらは反乱分子。そういう輩を始末するのが俺の仕事」と返すと「騎士の風上にも置けない外道がっ!」と襲い掛かって来た。

 

 ガウェインと手合わせするのは初めてだったが、実直な太刀筋に身の丈ほどの大剣を振り回す剛腕と見事なパワーファイターだった。

 

 そしてこんな輩は我が戴天流にとってはカモである。

 

 とはいえ相手は妖精騎士の一角、凡百のサイバネ武術家とは武は一線を画す。

 

 精神と時の部屋(仮)での修業がなかったら、奴の初太刀はいなすことが精いっぱいだったろう。

 

 だが本場のガウェインに加えて謎の剣士との戦いで俺の剣腕は著しく伸びている。

 

 なので打ち下ろしの初手を波濤任櫂で逸らし、その勢いのまま首を薙ぐ事が出来た。

 

 さすがに断頭は無理だったが、それでも俺の刃は首の半分まで切り裂く致命傷だ。

 

 これで終わりかと思っていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。

 

 狼のように天へ吼えると、ガウェインの身体は炎を纏った巨大な黒犬に変化したのだ。

 

 途端に周辺にいた妖精達が酸欠にでもなったかのようにくたばった。

 

 後で女王に聞いた話だが、奴の正体はバーゲストという犬の化け物で炎と呪いをまき散らしながら魔力を食いまくって国を亡ぼす「獣の災厄」なんだとか。

 

 妖精共が酸欠もどきで死んだのは、周辺魔力を奴が食い散らかしたからだろう。

 

 しかしこっちはどんな過酷な環境でも生きていくことに定評がある仙人様である。

 

 呪いは骨々様や獣神(死体)の方がキツいし、炎だって食らってやるほど鈍重でもない。

 

 むしろ獣になったことで訓練された動きが消えたので、退治するのは楽だった。

 

 振り下ろされた前足を波濤任櫂の応用で捌きながら宙へ飛び、炎の呪詛がミックスされたブレスを軽功術で奴が生み出した焦土から舞い上がる灰を足場に上昇して躱す。

 

 さすれば眼下に見えるのは無防備な素っ首というわけだ。

 

 鳳凰吼鳴で刃を縦に一閃させれば先ほどのリベンジとばかりに巨頭は落ち、奴の巨体はモースを滅したときと同じく黒い靄になって大地へと吸収された。

 

 そして頼みの妖精騎士が敗北した暴徒たちは散り散りになって退散したところを、女王の魔術で消し飛んだというわけだ。

 

 一仕事終えて戻ってみると女王とバーヴァンシーは例の子供部屋で籠城しており、部屋の前には案の定寝返った城内の妖精達が屍を晒していた。

 

 まあ、奴らが裏切るなど予想の範囲内なので気にもしなかったが。

 

 幸い女王様とバーヴァンシーは無事だった。

 

 この子供部屋は女王様があらゆる手を使って某国大統領専用核シェルターを上回る防御力を付与している。

 

 木っ端妖精なんぞが突破できるわけがないのだ。

 

 ともかく、妖精國はもう終わりだ。

 

 ウッドワスのおっさんはこんな騒ぎで死ぬようなタマじゃないので、彼が帰って来てから身の振り方を考えないとな。

 

 

女王日記 ●月▽&日

 

 

 妖精國が終わった。

 

 自ら手を下したし嫌悪していた事に気が付いておいて今更だが、人生の大半を維持に費やしてきた國の滅亡はやはり心に来るものがある。

 

 実際、気が遠くなるほど前にしか流したことのない涙も思わずこぼれたものだ。

 

 けれど、私には大切なものが残っている。

 

 私の涙を小さな手で拭いながら、つたない言葉で慰めてくれたバーヴァン・シー。

 

 感極まって愛おしい娘を抱く私の頭を優しく撫でてくれるアルガ。

 

 そして決死の覚悟で過去の清算を行い、生きて戻ってきてくれた忠臣ウッドワス。

 

 彼らがいる以上、私に膝をついている暇はない。

 

 この命はまだ終わっていないのだから。

 

 私が立ち直るとウッドワスが聞き捨てならないことを告げた。

 

 彼は過去に先代族長が率いる牙の氏族が翅の氏族を一人を除いて全滅させた際、その片棒を担いだ事を清算するためにグロスター領主のムリアンの下へ行っていた。

 

 そこでムリアンの妖精領域に捕らわれた彼は身体がアリ程度にまで縮められ、大きさが変わらないことで巨人もかくやといった風情になった彼女にいたぶられる事になった。 

 

 指で押されるだけで身体が砕けるほどの体格差の中、ウッドワスはムリアンの魔の手から逃げ続けた。

 

 結界内に水を満たされ、ある時は火を吹き付けられ、上から自分の身体の数十倍という大きさの石を投げつけられたこともあった。

 

 それでもウッドワスはムリアンに牙を剥くことはなかった。

 

 ムリアンの憎悪を受け切ったうえで生き残る。

 

 それこそが彼が己に課した過去の償いだったからだ。

 

 しかし如何に亜鈴百種の先祖帰りといえど、こんな不利な条件下で命をつなぐのは至難の業だ。

 

 屈強な身体と回復力を以てしても許容量を超えるダメージを受けたウッドワスは思わず死を覚悟した。

 

 しかしムリアンから致命の一撃が訪れる事は無く、それどころか結界が解けたのだ。

 

 本来の大きさでムリアンの私室に戻ったウッドワスが見たものは、何者かに背中から心臓を穿たれて死んでいる部屋の主の姿だった。

 

 ムリアンは非力といわれる翅の氏族だが、その族長というだけあって彼女もまた亜鈴返りだ。

 

 それを一撃で絶命させる存在がいる。

 

 この事実は私の胸に燻っていた疑念を核心に変えるものだった。

 

 急遽対策を練るべきなのだろうが、今はその時間は無い。

 

 私たちが駆逐した妖精たちの怨嗟が獣神ケルヌンノスの死体を呪詛の塊として蘇らせてしまった。

 

 あの獣神の躯に対して私にできる事は決して多くなく、ウッドワスもムリアンから受けた傷が癒えていない為に戦闘は無理だ。

 

 奴が大穴から出れば、このキャメロットは崩壊するだろう。

 

 果たして黒騎士は哀れな獣神に安らぎを与えてくれるだろうか?

 

 

 ◆

 

 

 大地が大きく揺れ、蒼天だった空を薄紫色の雲が覆う。

 

 長い歴史を誇っていた妖精國の死期が近づく中、大穴から巨大な影が立ち上がる。

 

 牡鹿のような角に白い体毛に覆われた巨躯、そして影から立ち上る無数の黒い御手。

 

 それは数多の憎悪と呪詛によって動く獣神ケルヌンノスの遺骸だ。

 

 というか、死体なのに目も首も治ってるんだけどどうなってんの?

 

「アルガ、気を付けてください。妖精國の者たちの断末魔を吸収したアレは、今までとは比にならない穢れを纏っています」

 

「わかってる。おっさん、女王様と子供を頼むぞ」

 

「この身が万全であれば私も参戦するのだがな……。いや、女王と姫は任せておけ」

 

 バーヴァンシーを胸に抱きながら忠告を飛ばすモルガンと、その前に立って警戒心をむき出しにするウッドワスのおっさん。

 

 そんな面々を残して俺はキャメロットのテラスから宙へ身を躍らせる。

 

 デカブツが巻き上げた粉塵を踏んで宙を渡れば、奴は細い眼から赤い眼光を発してこちらを見る。

 

「以前に預けた首をもらいに来たぜ、大穴の大将」

 

 そんな軽口に返って来たのは言葉ではなく呪詛で形成された黒い手だった。

 

 八艘跳びのように粉塵を踏んで宙を渡ってその一撃を躱す中、回避できない一本を手首から斬り飛ばすとガクンと身体に負荷が掛かったような感覚が襲う。

 

 どうやらあの手は武器越しだろうと触れるだけで呪詛が伝わるらしい。

 

 だが、俺とて未熟者のままではない。

 

「吼ぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 息吹と共に呪詛の元である陰の氣を周天させれば、それは体内をめぐる内に陽の氣へと変換される。

 

 こちらとて伊達や酔狂で邪仙になどなっていない。

 

 以前の討伐で奴の呪詛を浄化する術は構築済みだ。

 

 とはいえ、大穴の大将が放つ呪詛は初めて遭った時とは比べ物にならない。

 

 これは何度も食らうと浄化が間に合わなくなるな。

 

 気を引き締めなおした俺は戴天流独自の歩法と縮地術を使って、例の腕に的を絞らせないように立ち回る。

 

 それでも獣神の陰から生える手が四方八方からこちらへ牙を剥く為に、全てを躱し続けるのは困難だ。

 

 躱せない分は剣でいなすか断ち切るのだが、その度に呪詛が体内へ入ってこようとするので厄介極まりない。

 

「ハァッ!!」 

 

 それでもなんとか影の手の間を縫った俺は、本体を刃圏へと収めると呼気と共に剣を横薙ぎに振るう。

 

 しかし十分な内勁を込めた筈の一刀は奴の首の三割程度を断つに留まった。

 

「くそっ! 死んでいるときとは違うという事か!」

 

 予想外の結果に舌打ちしながら俺は後ろへ跳ぶ。

 

 それを追って延ばされる影の手。

 

 奴等は空を裂きながらさらに増殖・増強し、その指先から呪をレーザーのように放つ。

 

 薄紫の空を奔る黒い閃光。

 

 当たりそうなモノは切り払っているが、さすがに数が多い。

 

 それに奴から漏れ出した呪詛も周辺に蓄積され始めているし、このままだったらおっさんは兎も角女王やバーヴァン・シーが危険だ。

 

 先程は失敗したが物理的に断てないと分かればやりようが無いわけじゃない。

 

 しかし、今の俺ではあの技を使うには少しの溜めが必要になる。

 

 呪いの腕がポコポコ量産されている状況では、撃つのは正直厳しいか……。

 

 どうやって獣神に隙を作るかと苦心していると、キャメロットの外壁から蒼い光で出来た槍が放たれた。

 

 しかも一発じゃない。

 

 大穴に面した城壁に設置された槍全てによるつるべ打ちだ。

 

 都市を爆撃したのと同じものは獣神の巨体に食らいつくと、その白い毛皮を穿って腐肉をまき散らしながら爆散する。

 

「アルガ、今です!」

 

 そういえば女王様は言っていたな、キャメロットは大穴の大将を迎え撃つために作らせたと。 

 

 なにはともあれ、この千載一遇の機会を無駄にするのは間抜けだけだ。

 

 調息と共に峨眉万雷の構えを取り、練り上げた氣を全身の氣脈を周天させる事で勁と為す。

 

 それを洗練させて刀へと込めれば、この視境が捉えるは万物を紡ぐ因果。

 

 内家剣士が鋼の刃を持てば、其がもたらすは因果の破断。

 

 そして今の俺ならば其が齎す絶対不可避の破壊は物理のみならず概念にまで通ず!

 

「おおおおおおおっ!!」

 

 裂帛の気合と共に俺は渾身の力で一刀を薙いだ。

 

 鈍い光を湛えた刀身が空を割いて奔ると、凛と穢れに満ちた場にはそぐわない涼やかな音があたりに響く。

 

 そして次の瞬間、獣神に横一文字に斬線が走ると奴の巨躯は首と胴が泣き別れとなって牡鹿が生えた頭が大地へと落ちた。

 

 そして崩れていく獣神の遺骸。

 

 降り注ぐ腐肉と白い毛皮に真っ二つに割れた虹色の球が紛れていたのを俺は見逃さなかった。

 

『それはケルヌンノスの神核ですね。よくあの巨体の中から的確に狙い打てたものです』

 

 ありゃ何じゃいと首をかしげていると、女王様から念話が届いた。

 

 つまり神の再殺は成ったという事だな。

 

 ならば城へ戻るとしよう。

 

 何度か灰を蹴ってキャメロットのテラスに戻ると、残っていた3人が出迎えてくれた。

 

「まさか、あの山の如き獣神の腐肉を断ち切るとはな。貴様、いったいなにをした?」

 

「女王様のアイテムで修業していた時、別次元に閉じ込められかけたことがあってな。脱出する為に次元を斬る技を身に着けたんだよ」

 

 ウッドワスのおっさんに説明していると、何故か女王様が赤い顔でもじもじし始めた。

 

 いったいどうしたんだ?

 

 ほら、バーヴァン・シーも『お母さま、おしっこ?』と不思議そうにしているぞ。

 

「うるさいですよ、このエロス大魔王!」

 

 気遣っていたつもりなのに、こんな罵声を浴びせられる始末。

 

 解せぬ。

 

 さて、これで妖精國の面倒事は始末したわけだが……

 

「それでもハッピーエンドというワケにはいかんわな」    

 

「当然だろ、この裏切り者が」 

 

 俺の言葉に応ずるように、キャメロットのテラスに一つの影が降り立つ。

 

 それはグネグネと形を変えると以前に見たことがある姿を取る。

 

「やはり潰し切れていなかったか、クソ虫め」

 

「そんな言い方はやめろよ。俺にはオベロン・ヴォーティガーンって立派な名前があるんだぜ」

 

 モルガンの嫌悪に満ちた視線に、依然見た時は白だった髪を黒に変えた蛾の王子さまはやれやれと肩をすくめる。

 

「その気配、貴様はモースの王か!」

 

「ご明察だ、排熱大公。そこの女王様に二度もしてやられた負け犬さ。もっとも、あんなクズ共に先祖返りした君には同情するがね」

 

 女王様達の前に立って牙をむき出しにするウッドワスのおっさん。

 

 あの時は問答無用で切り殺したけど、こいつってモースの王だったのか。

 

「さて、クソッタレなまでに愚かな民衆のお陰で妖精國は終わりを迎えることになった。今まで守ってきた民を自分の手でブチ殺した気分はどうだい、女王様」

 

 厭味ったらしく問いを投げるオベロンに女王様は表情を変えずに答える。

 

「反逆者に同情などする趣味は無い。奴らは自ら破滅の運命を選び、死すべくして死んだ。それだけだ」

 

「たしかにな。この國で妖精が存在して死んでも次代に再誕できるのは、アンタが玉座を触媒にサーヴァントシステムの応用で召喚を行っているからだ。妖精國の存続には莫大な魔力を持ち、それを制御しうる女王が必要。奴らがやらかした革命紛いは文字通り自殺行為だった」

 

 流れるように妖精國の秘密を暴露するオベロン、奴の顔に浮かぶのは楽しくも無いのに笑う空虚な笑みだ。

 

「本来ならこの反逆は多くの氏族長が動く形で為されるものだった。アンタは忠臣に裏切られて死に、そこの娘も後を追う。犬ッコロの方もオーロラ辺りに上手く乗せられて反逆者の先鋒でも務めていたかもな」

 

「オーロラをはじめ、多くの氏族をたぶらかしたのは貴様だったか!」

 

「馬鹿言うなよ。これは民や臣下に心を向けない無慈悲な女王と性根が腐った妖精の自業自得さ。俺は少しだけ背中を押しただけだ」

 

 怒気で鬣を逆立て、女王様の制止が無ければ今にも飛び掛かりそうなウッドワス。

 

 そんなおっさんの怒気を受けてもオベロンの余裕は崩れない。

 

「計画とは随分と違った形になったが、無事に妖精國はあるべき姿に戻った。だから俺は最後の後始末に来たってワケだ」 

 

 そう言って窓の外に視線を向けるオベロン。

 

 その先には巨大で黒い靄をまとった透明な蟲がブリテンの大地を根こそぎ吸い上げ始めている。

 

 B級の終末モノ映画のような光景に憎悪が籠った視線を向ける女王様とおっさん。

 

 バーヴァンシーは分かっていないようで母親の後ろに隠れている。

 

 俺的にはこんな土地に未練は毛ほどもないので、産廃回収ご苦労さんってな感じだ。

 

 もっとも、口に出すと嫁さんの好感度が急降下するので言わないが。

 

「おいおい、そんな目で見てくれるなよ。ブリテンの滅びは確約されていた事、それを無理に引き延ばしたのは女王様だ。横紙破りはそっちが先、恨むのは筋違いってもんさ」

 

 普通の奴ならショック死しそうな殺気を向けられながらもニヤニヤと笑うオベロン。

 

 地球に滅びを望まれる國か、ここもずいぶんな業を背負ったもんだ。

 

「本来は妖精達を断罪する筈のアンタが自分勝手したから、こんな大事になっちまった。星が俺やそこの裏切り者を寄こすくらいにな」

 

 ため息交じりに俺を指さすオベロン、奴の言葉に女王やウッドワスの視線がこちらへ向く。

 

「さっきから裏切り者裏切り者ってうるせえけど、いったい何のことを言ってるんだ?」

 

「なんだよ、自覚がないのか」 

 

 俺の問いに深々とため息を吐くと、奴は汚物を見るかのような視線をこちらへ向けてくる。

 

「こことは別の次元で生まれた罪深き者。地球を資源の塊としか認識せず、共に生きるはずの自然や動植物を殺しつくした虐殺者。神秘に唾を吐き掛けて荒らしに荒らした地球を捨て去り、宇宙の浮島から死にかけた母なる星を石ころと笑う恩知らず。科学の力で魂という生命の根源すらも犯しつくしたド外道。この星に住む全ての者が唾棄するであろう星殺し。その一人がお前ってわけだ」

 

 オベロンの言葉に絶句する女王様達。

 

 逆に俺は頭の中で感心していた。

 

 奴がつらつらと並べたのは前世の世界と魂魄転写ではないか。

 

 どうやら裏切者云々はハッタリではないらしい。

 

「コイツは星が送り込んだこの國に対する爆弾だったのさ。星を亡ぼすモノ故に場にいるだけで妖精も人間も嫌悪を示す。そのうえ奴は殺戮の技しか頭にないと来た。首尾よく周りから迫害されれば、この國のモノ全てを恨んだ奴は『剣の災厄』として死ぬまで死を振りまき続けるはずだったんだ」

 

「だが、そうはならなかった」

 

「ああ、そうさ! あろうことか、妖精騎士として國を守る側についたからな!! そのうえメリュジーヌやオーロラ、カルデアの魔術師に予言の子まで殺しやがった! お陰でこっちの計画はほとんどご破算だ! 妖精共がアホじゃなかったら、クソッタレな國が残るところだったよ!!」

 

 俺の言葉に突然キレちらかすオベロン。

 

 随分と情緒不安定な奴だな。

 

 つーか、そんなん事前に打ち合わせもしてないのに上手くいくか、ボケ。

 

「で、俺等はこの國から去るわけなんだが……見逃すつもりは無いんだよな?」

 

「当たり前だろ。モルガンは楽園の妖精たる使命を捨てて星の意思を捻じ曲げた罪を償っていない。そこの犬ッコロも先祖の怠惰って負債がある。なによりこの星にとって最も不要なお前は消え去るべきだ」

 

 そう笑うとオベロンの周囲の景色がゆがむ。

 

 この感じ、空間……世界そのものに作用しているのか。

 

 コイツはヤバいな。

 

「さて、奈落の穴に放り込む前に聞いておこうか。どうしてお前はこの國を滅ぼさなかった?」

 

 そして、凄みのある笑みと共にこんな問いを投げてくるオベロン。

 

 随分と拘るな。

 

 つーか、俺を殺戮マシーンか何かと勘違いしてるんじゃないか?

 

 ……うん、間違ってないわ。

 

 とはいえ、知らぬ間に利用されそうになったうえボロクソに言われたのだ。

 

 こちらも一度くらい煮え湯を飲ませてもいいだろう。

 

「決まってんだろ。いい女が体張って俺を繋ぎ止めたからだよ。───俺にとってのティターニアがな」

 

 意趣返しにそう言葉を吐いた瞬間、オベロンの顔から表情が消えた。

 

 どうやら、先のセリフは奴の逆鱗に直撃したらしい。

 

「お前にティターニアだって? 悪い冗談だ、本当に笑えない。他人を好き放題に食らって殺す奴に彼女みたいな女が現れるわけねぇだろうが!!」

 

「知らないのか? 女はちょっと危険な匂いのする男に弱いんだぜ」

 

「黙れ! お前は奈落の最下層、光も差さない無限の闇に葬り去ってやる!!」

 

「お前にできるのか、童貞?」

 

 そう煽ればオベロンは憎悪をむき出しにして襲い掛かってくる。

 

 奴が振るうのは昆虫のような甲殻に覆われた大鎌。

 

 踏み込みの速度はなかなかのモノだが、肝心の奴の動きは素人丸出しのお粗末なものだ。

 

 波濤任櫂で受けるまでも無い一撃を紙一重で躱すと、そのまま回転した俺の身体は跳ね上げた右の踵を奴のこめかみへ叩きこむ。

 

「ぐはっ!?」

 

 戴天流剣法が一手、臥竜尾。

 

 十分に勁が籠って入ればサイボーグの強化頭蓋をも蹴り砕くそれを食らったオベロンは大きく右へ吹き飛ぶ。

 

 もっともこの程度で終わるほど奴は甘くは無いらしい。

 

「クソが! 羽蟲共!!」

 

 吐き捨てるようにオベロンがそう叫ぶと、奴の陰から身体に槍を括り付けたような蟲が現れる。

 

 左右に分かれてこちらの頭と心臓を狙って突撃してくる二匹の蟲。

 

 だが、俺の急所を穿つにはあまりにも速度が足りない。

 

「シッ!」

 

 鋭く呼気を吐きながら振るった剣戟は一刀のもとに二匹の甲虫を両断する。

 

「ああもう! 面倒くさい!!」 

 

 愚痴を吐きながら奴が打った次の手は、一抱えはありそうな呪いを纏ったダンゴムシを呼び出してこちらへ蹴りだす事だった。

 

 かなりの力で蹴られたのだろう、床材の石を削りながら突っ込んでくるダンゴムシ。

 

 俺はそれを軽功術で容易く飛び越えると、空中からオベロンめがけて打ち下ろしの一刀を放つ。

 

「うおっ!?」

 

 奴は咄嗟に召喚した甲虫を籠手のように纏わせて防ごうとするが、俺の一刀は虫けら如きに防げるほど安くは無い。

 

 甲高い音を立てて黄金の甲殻を持つ蟲は両断され、奴の前腕部も同時に宙を舞うことになった。 

 

「ぐ……行け、死骸共! 餌の時間だ!!」 

 

 そう叫ぶと今度は羽虫の群れを生み出すオベロン。

 

 小さいと侮ることなかれ。

 

 奴らの口についた凶悪な牙に食いつかれれば、あの数では数分ももたずに犠牲者は骨になるだろう。

 

 勿論、そんな奴らをいちいち切ってはいられない。

 

「かぁっ!!」 

 

 外法の錬氣によって練り上げた力を肺から呼気と共に吐き出せば、それは浸透勁の要領で万物を透過する強力な電磁パルスとなる。

 

 この氣を食らった蟲共はオベロンの指示とは全く別の方向へと軌道を変えると、フラフラと宙を舞ったかと思えば次々に地面へ落ちていく。

 

 これこそが戴天流氣功術の裏奥義、電磁発勁が一手である轟雷功。

 

 対人センサーやサーバールームなど広域に配置された電子機器を殺すのが本来の使い方だが今回は特別だ。

 

 遠い未来の最新鋭ハイテク機器の悉くを焼き切るほどの電磁パルス、それを羽虫が食らえば無事で済むはずがない。

 

 脳をはじめとする多くの器官が異常をきたすことになるだろう。

 

「この……ヴェスパぁッ!!」  

 

 物量攻撃も防がれたオベロンは巨大な蜂に似た昆虫に乗って突撃してくる。

 

 刺されば胴に大穴が開くであろう毒針、それを波濤任櫂で捌くと返す刀で奴の右脚ごと化け物蜂を両断する。

 

「ぐあぁっ!?」 

 

 黒く異臭がする血潮をまき散らして石畳に叩き付けられるオベロン。

 

 だが奴は残った左手で床を叩くと腕一本の力で後方へ跳ぶ。

 

「つまらん。虫を使うことを除いたら完全に素人じゃないか。よくそんな体たらくで挑もうと思ったな」

 

「お前と一緒にするな! 四六時中他者を殺める技の研鑽のみを考え、その実践として欲望のままに命を刈り取る! 貴様のようなモノを邪悪と言わずになんという!!」

 

 俺の煽りにオベロンは鬼の形相を浮かべると、左足一本で立ち上がる。

 

「星殺し! 貴様のような奴は存在してはいけないんだ!! 死ね! 死ね!! 死ね!!! 『彼方とおちる夢の瞳(ライ・ライク・ヴォーティガーン)』!!」

 

 絶叫に似た気炎をオベロンが吐くと、複数の蟲共を取り込んだ奴の身体は黒い靄の中で再び姿を変える。

 

 それは外でブリテンをセッセと削っている気味の悪い怪生物と同じだった。

 

『あれは俺の分身、全てを食らって永劫の闇に覆われた掃き溜めに送り込む奈落の蟲だ!』

 

 大気全てを打ち鳴らすような咆哮をあげると、こちらを丸呑みする為に上空から大口を開けて降り注ぐ奈落の蟲。

 

 俺一人なら躱せなくも無いが、これで女王様達を助けられないんじゃ本末転倒だ。

 

「邪悪! 死すべし!!」 

 

 そして俺達は奴の体内へと飲み込まれた。

 

 光が差さない暗闇の中、ひたすらに落ちていく感覚。

 

 幸いなのは女王やバーヴァン・シー、ウッドワスのおっさんの気配があることか。

 

「ところで、さっきから二人ともだんまりだけど。もう俺は信用できねえか?」

 

 俺は皮肉げに笑いながら3人がいるであろう方向へ声を掛ける。

 

 前世の俺…いや人間のやった所業はマジで最低の部類だ。

 

 自然の化身である妖精や精霊からすれば、腐れ外道なんてレベルじゃないだろうさ。

 

 あそこで驚くなり否定の言葉でも吐けばよかったんだろうが、俺的には心当たりがあり過ぎてそんな気も起きなかった。

 

 これは騎士や夫の契約も終了かな?

 

「知っていました。貴方が何処か遠い未来で生きて死に、この世界に生まれ変わったことは」

 

 だがモルガンから返って来たのは意外な告白だった。

 

「貴方が駆け抜けた世界があそこまで酷いモノとは思わなかった。けれど貴方はただ剣士として生きただけ。星を傷つけることなどしてはいないでしょう?」

 

「ああ、そうだな」 

 

 あの世界は俺が生まれた時にはすでに終わっていた。

 

 生きる為に強くなろうと必死だった。

 

 だから当時の俺には環境の事なんて考える余裕はなかった。

 

「私には他人の過去を非難する資格は無い。そして妖精騎士になってからの貴様の働きに疑うところは無かった。ならば奴の戯言など耳を貸す理由などある筈がない」

 

 ウッドワスのおっさんは不機嫌そうにそう告げる。

 

「私、チョコレートのお兄さんは嫌いじゃないよ」

 

 バーヴァン・シーも震える声でこう言ってくれた。

 

 ……やれやれ、俺らしくないな。

 

 敵のペラに乗せられるなんて修行が足りない証拠だ。

 

「悪かったな。ちょっとばかし妙な事を考えていた」  

   

 姿も見えない3人にそう返すと俺は手にした刀を正眼に構える。

 

「モルガン、さっきの槍はまだ使えるか?」 

 

「ええ。ですがキャメロットに装備していたものと比べれば威力は格段に落ちます。この虫の腹を内側から破ることは……」

 

「いや、剣にその力を込めてくれ。俺に考えがある」

 

 女王の言葉をさえぎってそう告げると、即座に応じてくれた彼女のお陰で刀身が淡い水色の輝きを宿す。

 

 例の精神と時の部屋(仮)で楽園の魔術師を叩き切った時、微かだが新たな領域に切っ先が触れた気がした。

 

 空間を裂き、次元を断ち、そして次は世界を斬る。

 

 荒唐無稽な領域に至らねば振るえぬ一刀、今の俺では無理でも力を借りれば届くはずだ。

 

 深く息を吐き、同時に限界まで氣を周天させる。

 

 妖精達のエゲツなさや神様にあそこまで恨まれていることを思えば、妖精國は滅んでしかるべきなのだろう。

 

 俺という存在も地球という星にしてみれば害悪以外の何物でもないんだろうさ。

 

 だが、そんな事は知ったことではない。

 

 俺は何時だって他人の都合を願いを命を踏み躙ってきた。

 

 それは全て生きるためだ。

 

 それを悪だというのなら俺は悪で構わない。

 

 邪悪は邪悪らしく、正しきを打ち砕いて自分の道を歩むだけだ。

 

「───星義、断つべし!!」

 

 気炎と共に大上段から振り下ろした刃、それは確かに暗闇を切り裂いた。

 

 腹を裂かれた蟲の耳障りな絶叫と共に宙へと放り出される俺達。 

 

 場所は例の大穴の真上、そして俺達の少し上には切り裂かれた腹から血と臓物をまき散らしながら目を見開くオベロンがいた。

 

「馬鹿な……俺の…奈落の腹を切り裂いたってのか」

 

 ウッドワスが女王とバーヴァンシーを助けるのを尻目に、俺は灰を踏んで跳躍し奴の上を取る。

 

「還ったら地球とやらに伝えてくれや」

 

「お前……」

 

 もはや憎まれ口の一つも吐けないオベロンに、俺はとっておきの笑顔を浮かべてみせる。

 

「───ほっとけってな!」

 

 そして放つは六塵散魂無縫剣。

 

 十の刺突がオベロンの身体をバラバラに切り裂いた後、俺は女王たちが待つ穴の淵へと降り立った。

 

「さて、これからどうする?」 

 

「この世界は汎人類史から独立したモノとなっていますが、ここまで破壊が進んでは復興は不可能でしょう」

 

 俺の問いかけに顔を曇らせるモルガン。

 

 壊れかけた世界の片隅でひっそり暮らすのも悪くないが、バーヴァンシーや生まれてくる子供を思うと流石に遠慮したいところだ。

 

 となれば、打つ手は一つ。

 

「それじゃあ他の世界に行くのはどうだ」

 

「別の世界だと?」

 

 怪訝な表情を浮かべるウッドワスのおっさんとは裏腹に、モルガンは俺がやろうとしている事に察しがついたらしい。

 

「奈落の蟲は本来内側から脱出することが絶対不可能な異世界というべきもの。そこから脱出する際、あなたは世界の壁を切り裂いてみせたという事ですね」

 

「ああ。そいつを使ってもう一度別の世界に行ってみようというワケだ」

 

 俺の案は満場一致で受け入れられ、モルガンの力を借りた俺は再び世界を切り開いた。

 

 そうして新天地へ足を踏み出した俺達を待っていたのは中世を思わせる街の光景だった。

 

 これだけなら清々しい気分で新生活を送れたのだろうが、そうは問屋が卸さなかった。

 

 その中で繰り広げられていたのは蝙蝠と人間が混ざったような化け物に捕らわれた金髪の女騎士と、半裸に剥かれた彼女が化け物に凌辱されそうになる様に生唾を飲み込む兵士たちという何ともアレな代物だったからだ。

 

「教育的指導!」 

 

「へべっ!?」

 

 即座に俺は豊満な胸を露にした騎士の下着に舌を巻きつかせた蝙蝠の化け物を縦に両断した。

 

 こっちには今は穢れも知らない幼女がいるのだ、その情緒教育に悪影響を及ぼす汚物は排除するに限る。

 

 そうして助かった女騎士は槍を杖代わりにしてこちらへ寄って来た。

 

「助けてくださってありがとうございます。あなた方は旅の方ですか? それにそちらの……」

 

「この者は私の忠臣、無礼な態度は許しませんよ」

 

「ご…ごめんなさい」

 

 装備の大半を破壊された彼女の様を見ていられなかったのだろう、モルガンは魔術で生み出した布を女騎士へ放り投げる。

 

 そうして落ち着きを取り戻したところで、俺は女騎士に尋ねることにした。

 

「助けた代価ってわけじゃないが、一つ教えてくれないか。ここは何処の町なんだ?」

 

「ここはエルアラド聖王国の王都になります。そして私はリッター・ルシフェルと申します」

 

 言葉と共に微笑むルシフェルなる騎士。

 

 この世界でもどうやら退屈はせずに済みそうだ。    




黒騎士・生育環境からか、本編剣キチに比べて人間性が上海の凶手に大きく傾いている。

 その為、性に関しても剣に関しても欲求に素直。

 精神と時の部屋(仮)の修行によってブリテン終焉時の本編剣キチと同等の腕に上り詰める。

 実はモルガンに惚れており、ガッツリ調教したのも他の男に取られないため。

 新たな世界がエデンズリッターというエロゲ基準なので、趣味と実益を兼ねて竿役の淫魔どもを皆殺しにすることを決意する。



モル子・剣キチの数々のやらかしによって、命を拾うことになった元女王様。

 実は本来のモルガンであれば、記憶を継承していても楽園の妖精が持つ習性から黒騎士の事をオベロン以上に嫌うはずだった。

 その結果、己が剣腕を上げる為なら神すら斬る『剣の災厄』とかした剣キチとキャストリアそっちのけで血みどろの戦いを繰り広げる結果となっていた。

 そうならなかったのは、どこぞの女神様が掛けたお呪いの効果によるもの。

 新たな世界では前に出ることなく母として女として家族と生きていくつもり。



ウッドワス・妖精であることも亜鈴返りであることも捨て、ただモルガンの臣下として生きることを選んだ漢。

 新たな世界ではモルガンや子供たちのボディガードを務めている。

 もちろん亜鈴返りの強大な力は健在で、ロード級のエデンズリッターでも真正面からでは勝つことは出来ない実力を誇る。

 最近の悩みはバーバンシーをはじめ、子供たちが自分のことをワンワと呼ぶこと



バーヴァンシー・色々ショックなことがあり過ぎて、心身ともに5歳児に還ってしまった元妖精騎士トリスタン。

 生き残るためにモルガンが植え付けた残虐性が消えた事で、生来の人の好さが顔を除くことになり、新たな世界ではご近所に可愛がられるプチアイドルとなった。

 エロゲワールドなので欲望のままに手を出そうとする下種もいるのだが、そういう輩は次の日に全身ズタボロの半死半生で憲兵隊の詰め所に送り届けられるという。

 趣味はお母さんに甘える事と弟の世話。

 好きなモノはチョコレート

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。