科学の『白』と魔術の『黒』の激突は一瞬で決着という訳ではなかった。
数瞬の攻防の後、突如黒ローブの男は身を翻し、学園都市最強に背を向けた。
普通ならば自殺志願にも思えるようなその行動は、
それだけでサブマシンガン以上の威力を伴った破壊が繰り出される。
「っっ⁉︎__‼︎」
思わず、驚愕に目を開いた黒ローブの男だったが、その行動は冷静だった。軽い詠唱を唱え、腕を十時に振る。すると、迫っていたはずのつぶてが左右の壁へと方向を変えてぶつかる。男はそのまま走り、路地から続く廃ビルの中へ入り、その姿を消す。
(…誘い込まれてるなァ)
廃ビルの入り口の前で、一方通行は思案する。
先ほどの攻防の中で、一方通行は敵にその思惑があることを見抜いていた。というか、分かりやす過ぎる。手がかりもない状態の一方通行の前に現れたことや、露骨に退路を明らかにした逃亡。敵には、それをするだけの意味があるのだと、そう仮定した。
だが、同時に疑問も湧いてくる。
そもそも何故、敵は一方通行の目の前に現れたのか?学園都市が舞台である以上、第一位の一方通行にも価値があるかもしれない。だが、『外』の人間である魔術師に一方通行を使う理由は?考えれば考えるほど、不明瞭な点が目立つ。
とはいえ、元凶が目の前にいるなら、それをみすみす見逃すわけにもいかない。廃ビルの中に入り、周囲を見渡す一方通行。
「よう」
背後で声がした。
「…ッ!」
後ろを勢いよく振り返る。そこに声の主はいた。
先ほどの黒ローブの男ではない。現代離れした、銀の鎧を纏い、軽薄そうな男。RPGにでも出てきそうな不思議な出で立ちだった。
しかし、それ以上に感じる違和感。胸を圧迫するかのようなこの感覚には覚えがあった。
海原光貴やバードウェイ、ハワイ諸島で相対した『グレムリン』、いわゆる魔術師と呼ばれる連中と同じ圧迫感。だが、ここまでのやつはいなかった。いたとすればそれは。
ロシアで戦った天使、
「学園都市ってのは、凄い街だな」
軽い、まるで親しい友人にでも話しかけるような口調で、男は喋る。
「俺が以前の聖杯戦争で呼ばれたのはもっと前の時代だが、にしたって数十年やそこらでこの進歩はないだろう。行き過ぎたオーバーテクノロジーは魔術と変わらん、というがあれも本当かもしれんな」
一方通行は先程の魔術師以上に、目の前の男を注視していた。気を緩めれば、こちらがやられかねない、一方通行にしてみれば、大変珍しい最大限の警戒を込めて。
「そして、この街の子供達は皆奇妙な力を使うそうだな。超能力、と言ったか。そこの第一位、しかもお前はこちら側の力も行使したと聞く」
「あン?」
「ならば見せてもらおうその牙。もしかしたらば、俺に届くかもしれん」
男の目つきが変わる。獰猛な戦士の目へと。
「だからまぁ、楽しませろよ?」
ヒュン という軽い音と聞こえると同時に、一方通行の頬が切り裂かれた。
頬を切り裂いたものの正体はすぐに分かった。いつの間にか男の手元に現れた銀の槍。それが一方通行が認識できないほどの恐るべき速度で突き出されたのだ。そう、つまり。
男はいとも容易く、一方通行の『反射』の壁を貫いた。
「っっ‼︎おらァ‼︎」
頭でその認識が追いつくよりも先に、一方通行は後ろへ飛び、片腕を振るう。風が、石のつぶてが、そしてコンクリートで出来た廃ビルの柱さえ巻き込んで、学園都市最強の能力『一方通行』によるベクトル操作が襲う。
男は避けるそぶりさえ見せなかった。ゴッシャァァ‼︎ と激しい音の奔流が周囲を爆ぜた。全身ズタズタになってもおかしくないような一撃だった。
土煙の中から立ち上がる影が見える。そこから反撃に転じる猶予すら与えぬよう、一方通行は近づき、横薙ぎに腕を振るう。触れた瞬間、男の体はベクトル操作によって自らが弾丸にでもなったかのような錯覚を覚えながら、吹き飛んでいく。
(チッ!やっぱりベクトル操作がイマイチ働かねェ)
触れた瞬間、一方通行は体内の血流を操作し破壊を促した。しかし、それは叶わず吹き飛ぶだけで済んでいる。
(人体の外側には間違いなく作用している。だが、内側への干渉が出来ない。一般的な人体構造と変わりがねェのにだ)
だが、攻撃は余すことなく、目の前の男に炸裂した。普通なら五体満足でいるのも奇跡に近い。
「おぉ、凄え凄え。魔術師でもない人間が、ここまでやるとはな」
だが、男は無傷だった。直撃を避けたわけでも、攻撃を相殺されたわけでもない。喰らったうえで、無傷だった。
口笛でも吹くような軽さで、男は一方通行の実力を讃える。その上で断言する。
「だが、ガッカリだ」
「…」
「超能力なんて聞こえはいいが、ようは物理法則を極めた結果だ。説明の出来ない何か、というわけでもあるまい。その街の頂点ならばと期待したが…蓋を開ければこんなものか」
「手札の一つ知っただけで随分お喋りじゃねェか。まさかもう勝った気でいやがるのか?」
「ああ、至極その通りだとも」
不敵に笑う。自身の力を誇示するかのように両手を広げ、男は笑う。
「この『ライダー』を倒したければ、それこそ神でも連れてくるんだな」
再び、2人の男は衝突する。
結果は不明。
だが、この時を境に、
学園都市最強の能力者、一方通行はその姿を消した。
◇◆◇◆◇◆
「超能力?」
藤丸の頭の中で疑問が生まれる。超能力というのは、あれだろうか。相手の頭の中を覗くテレパシーだったり、離れたところに一瞬で移動でする瞬間移動だったりが使えるあの。幼い頃見た創作物の中の曖昧な知識を思い出しながら答えた。
「ははっ、その認識で構わないよ。と言っても、そこまで夢と希望に溢れたところじゃないと思うけど」
笑いながら、ロマンは手元にある資料を読み上げる。
「科学が進化した街、学園都市。超能力という魔術とは異なる、別の力の法則を生み出しているこの都市は、人口の約4割がこの力を体得している」
「4割ですか?」
「全員が全員、才能溢れる者ばかりではないんだろう。同じ能力者でも、強弱の差はあるみたいだし。ここは魔術師も同様だと思うけどね」
そんな声が聞こえ、思わず視線を向ける。
そこには、カルデアに所属する男…ではなく女、それも自身の作品である『モナリザ』と同じ顔をしたサーヴァント 、レオナルド・ダ・ヴィンチがいた。
「ブリーフィングには遅れないようにねダ・ヴィンチちゃん」
「ふふっ、すっかり立香君もマスターらしくなったね。よきかなよきかな。さて、しかし超能力か…私的にも興味があるが、今回本題はそこではない。自重しよう」
「本題?」
「そうだね、まずは何よりもそれだ。藤丸くん、君に一つ質問だ。学園都市、この単語に聞き覚えはあるかい?」
言われてみて、気づく。
「確かに、聞いたことがありません」
隣にいるマシュからも、そんな言葉が聞こえる。
「学園都市…それは本来の歴史においては、存在しなかった世界なのさ。規模こそこれまでの特異点と比べると小さいが、正史とは異なる発展をした並行世界。そう考えるのが妥当だろう」
「並行世界?」
「パラレルワールド、という言葉に聞き覚えはないかな?数多に枝分かれした、あり得たかもしれない世界のことさ」
ロマンは、デスクに置いてあったコーヒーを手に取り、説明する。
「このコーヒーにいつもなら砂糖を入れるが、今日はミルクを入れよう。もしかしたら、その後にこぼしてしまうかもしれない。そんな何気ない変化でさえ分岐する、『If』の世界。それが並行世界と呼ぶものの正体だよ」
「極端な話、魔術王に人類史を滅ぼされなかった世界もある」
「だが、今回そんな世界のはずの学園都市が、人類史に混ざりこんだんだ」
まるでコーヒーに入り込んだミルクのようにね、とらしくない感じでロマンは嘯いた。
「似合わないねぇロマ二」
「似合いませんドクター」
どうやら、2人も同じことを思ったらしい。
気恥ずかしくなったのか、わざとらしくゴホンと咳払いをして、ロマンは話を戻した。
「という訳で、今回のレイシフト先はここだ。現代、と言っても冬木のように崩壊している訳じゃない。ちゃんと街として機能している場所な訳だから、藤丸くんとマシュ以外にも1人、現代に慣れているサーヴァントに同行をお願いした」
「なるほど、それで私に白羽の矢がたったというわけか」
新しい声が聞こえ、振り返るとそこには赤い外套を着た白髪の人物がいた。
「アーチャーのサーヴァント 、エミヤ。同行するからにはマスターとマシュの身の安全は保障しよう」
サーヴァント・エミヤ。カルデアにも古くからいる、頼りになるサーヴァントの1人だ。
「彼は古くから存在する偉人とは違い、藤丸くんと同じく、現代を生きた英霊だからね。きっと助けになると思って、声をかけたんだ」
「はい、そうですね。エミヤさんよろしくお願いします」
「無論だ。此度のレイシフト、全身全霊で臨むとしよう」
今回向かう特異点や同行するサーヴァントも決まり、皆士気が高まっている。
(そうだ。俺だけが弱気になる訳にはいかない)
マスターとして、みんなを引っ張らなくては。
「皆、行こう!」
かくして、カルデアの面々は新たな特異点に向かう。そこで待ち受ける
感想でいただくコメントの中で、物語に関わるコメントへの返答は本編で答えていこうと思います。沢山の感想をお待ちしてます。