目の前に現れた黒の大槍を携えた黄金の男に、上条は気圧されそうになった。
(なんだっ 、この全身を焼かれるような威圧感⁉︎)
おそらく目の前にいる少女が喚んだのだろう。少女は、その男の方へ向かって走り出し、その隣に並び立つ。
「ランサー、ウニ頭はどうでもいいからセイバーの方をやっちゃいなさい」
「心得た。が、いいのか?奴は確か学園都市側の鬼札だと聞いているが」
「いいのいいの。サーヴァントをすぐに消せない時点であの右手はもう警戒する意味ないし。けど、セイバーの方は真名もまだ分かってないから油断しないように」
「了解した。それがマスターの命ならば俺は従おう」
会話をしているだけなのに、緊張から目を離せない。相対してこんなすぐにヤバいと感じるのは、久しぶりの体験だった。
(トウマ聞いてくれ)
(…?)
いつの間にか肩にかけていたギターケースの中から、豪奢な作りの剣を取り出したセイバーがそんなことを言ってきた。
(
(そ…っ ‼︎)
そんなことできる訳ないだろう‼︎ と上条が声を上げる暇もなく。
ゴグッッッシャァァアア‼︎‼︎ という激しい轟音と共に。
赤が入り混じった黄金同士が激突した。
「…‼︎」
視界が霞むほどの眩さを覚えるその対決は、様々な強者と戦ってきた上条にも割り込めるようなものではなかった。
「…ふッ‼︎」
空を裂くような槍による突きを輝く剣で受け止め、槍の下に上半身を後ろに反るような形で潜り込み攻撃を受け流すセイバー。そのまま下から薙ぐような逆袈裟斬りを打ち込む。
「その程度では俺には届かんぞセイバーよ」
だが、ランサーがその身に纏う黄金の鎧には傷一つつかない。一度ランサーの攻撃範囲から離れるために離れようとするが。
「逃がさん」
「…⁉︎」
ランサーは手に持つ槍をセイバーに向けて振るう。すると神々しく燃え盛る炎が狙い撃つかのように走る。
直撃を避けるため、輝く剣を地面に思い切り振り下ろす。ゴッシャァア‼︎という轟音が鳴り響き、炎の閃光と光の衝撃波が互いにぶつかりあい相殺された。ここまで両者は一進一退の攻防を繰り広げており、実力は伯仲しているように見える。
「隙だらけだぞセイバー」
だが、そこまでだった。
ランサーの目が怪しく光る。それが宝具による攻撃の前兆だとセイバーは認識した。
(まずい…真名解放、いや間に合わないか‼︎)
直撃は避けられない。そしてそれを食らえば唯では済まない。時間としては一秒にも満たない一瞬の静寂の後、必殺の一撃が来る。
「
ランサーの瞳から槍同様に突き刺すような光線が放たれる。
決着が決まる。運命が定まった。
ただし、上条当麻がその
セイバー達の間に割り込むように入り、ランサーの『梵天よ、地を覆え』を右手の
「おぉ、ぉぉおおお‼︎」
だが、その強力な一撃をすぐに打ち消すには至らない。咄嗟にそう判断した上条は、正面に構えていた右手の手首を捻り、その光線の下に手を添えるような形で滑り込ませる。光線は上条達の斜め上空にずれる。一瞬危機を脱したかのように思えたが。
「その判断は悪手だぞ『幻想殺し』よ」
しかし、光線は軌道を変え、再び上条達を狙いを定め襲い掛かってきた。
「我が宝具、『梵天よ、地を覆え』は必中の一撃。如何に攻撃を避けようともその事実は変わらない」
「…っ、なら‼︎」
上条は背後から迫る光線にもう一度右手を合わせるように構える。再び衝突する一撃の余波に仰け反りそうになるが、今度はその光線を右手で掴むようにし、そのまま地面に叩きつける。
ゴッッッ‼︎‼︎ という爆音が鳴り響き、地面が割れる。
アスファルトの大地にクレーターが現れ、その衝撃に吹き飛ばされそうになるが、なんとか両足を踏み込んで耐える。
「ほう、凌いだか」
「ッ…!」
関心したようにランサーはそう呟く。
だが、上条はそんな言葉に反応することも出来ず、右手を抑え込む。
(なん、て重い一撃だよ⁉︎受け止めるだけで一苦労だっつうの!)
「へぇ〜、意外とやるもんだね」
桃色の髪をした少女は、口元に笑みを浮かべそう言う。
「でも、なんで邪魔すんのよ。あなたこっち側の事情なんて知らないでしょう」
「…ああそうだよ」
躊躇うことなく上条当麻はそう語る。事情なんて知らない。少女やランサーと呼ばれる人物がセイバーを狙うのはそれ相応の理由があるのかもしれない。会ったばかりの上条には理解できない領域かもしれない。
「
この時、この場にいる全員が、上条当麻という人間を理解した。誰かの為に戦うという、当たり前だが誰もが持っているわけではない善人、いや英雄の気質を備えたその男のことを。
「ははっ」
セイバーは隣でそう吠える上条を見て笑う。
「民草を守るのは王の役目なんだけどな」
「…王様ってなんだよ。凄い自己中な奴ってわけじゃないよな」
「そこの説明はおいおいさせて貰うさ。さっきは助かった、トウマ」
「一緒に戦ってくれ」
「おう、当たり前だろ」
「…ふぅ〜ん」
対して桃色の髪の少女は、上条当麻を一瞥する。そして、並び立つカルナを見る。
「…?どうかしたか、マスター」
「…いーや、なんでも」
口ではそう言うが、少女は内心こう思っていた。
施しの英雄・カルナと上条当麻。根っからの英雄であるこの2人はどこか似ているな、と。
(とはいえ英雄として完成されたカルナと発展途上とも言えるあいつとじゃ比べても劣ることはないけど)
「ランサー、ちょっと魔力の消費抑えて。私も戦いたくなっちゃった」
「マスターが出張らずとも、俺なら奴ら2人がかりでも倒せるが?」
「いーのいーの」
シュルシュルと絹がずれるような音が聞こえる。
その音の正体は光る金属でできた糸が形を変え、鳥のような形状に変化したものだった。そして、いつの間にか少女の両手には、鳥同様に光金属が変化した中華刀が備わっている。
「久しぶりに遊び甲斐がありそうだし」
そう言って、少女…クロエ・フォン・アインツベルンは駆け出した。
再び戦火が上がる。
上条とセイバーも駆け出し、2人はそれぞれ上条はクロエと、セイバーはランサーと向かい合う。
「はぁッああ!」
自身の周りを旋回するように飛ぶ二対の鳥を躱しながら、クロエの剣を捌く。刃に触れないよう側面の部分に裏拳のような形で右手の甲を当てる。崩れるように剣が瓦解するが、その隙を突きクロエはもう一方の刀を振り下ろす。
「…‼︎」
右手が間に合わないと判断した上条は、クロエの腹部に蹴りを叩き込む。クロエは空いた腕でその蹴りを防ぐと同時に、その勢いを利用して後ろに跳ぶ。ある程度の距離をとると、再び構え直す。武器を1つ潰したことでアドバンテージを得た上条だったが、違和感に気づきクロエの手元を注視する。
すると崩壊したはずの剣が再び形を取り戻し、クロエの手に収まっていた。
「魔力を流し込むことで自動再生する代物よ。そう簡単には崩せないわ」
「みたいだな」
ちらりと、少女の後ろの先で戦うセイバーとランサーを見る。先ほどのように危なげな場面はないようだが、未だ押され気味のようだ。加勢に行きたいが目の前の少女も軽く流せる相手じゃない。
「視線を外してる時点で十分油断だっつの!」
「⁉︎」
少女のその言葉で意識を再び向けた時には遅かった。
剣や鳥と同様の光金属でできた糸が上条の足を絡めとり、宙に上げる。逆さ吊りのようになった上条は、地面がだんだん離れていくのが分かった。
「上条当麻が異能に関して抜群の反射を見せるのは知ってる」
「ぐっ…!」
「でも、こんな風に見えない範囲からの攻撃には働かないのね。そうそう、今右手で足の拘束を解けば頭から落下して死ぬわよ」
頭に血が上った状態で上条は打開策を考える。するとクロエの口元が動くのが見えた。
幾多の戦闘経験がある上条はそれが魔術師が行使する詠唱だと分かった。その声に反応してクロエの体から這い出る光金属の糸が束なり、巨大な槍のようになった。
「____。バイバイ、おにい〜ちゃん♪」
「‼︎」
上条の腹を貫かんとばかりに迫る槍に右手を構え、防御する。しかし、唐突に足の拘束を外されバランスを崩す。右手を再び構え直す暇もなく落下した体に槍が接触する。
「
その声が聞こえると共に輝く銀の槍が右に逸れ、壁に激突する。
「!」
クロエが気づく。見れば自分の視界の先、より正確には上条当麻の後方に銀の修道服を身に纏った少女がいた。
「やばいやばいやばい‼︎ぶつかるー‼︎」
しかし、落下の結果は変えられない。重力に従って地面に衝突することを覚悟した上条は思わず目を瞑るが。
「……?」
ぶつかる衝撃が来ない。いや、どころか誰かに抱き抱えられている感覚すらある。
「お怪我はありませんか?」
目を開けると、すみれ色の髪をした少女が自分を受け止めていた。傍らに持つ大楯や露出の激しいダークカラーの服が目立つが、一先ず助かったのだと認識した後、少女に礼を言う。
一方クロエは戦場に増えた部外者に警戒する。修道女の方は話に聞いていた
「杜撰な人払いの結界だね。素人は兎も角、本職である僕ら魔術師には通じないよ」
しかし、考えを巡らせていたところにもう1人。銀髪の修道女と対をなすかのように赤髪の神父が現れた。
「インデックス…それにステイル⁉︎お前らどうしてここに⁉︎」
「どうしたじゃない、何この子1人街に放り出しているんだ焼き殺すぞ!しかも既に厄介ごとと出くわしやがって…まぁ巻き込む手間が省けたからそれはそれで良かったが」
「ていうかとうまはいつまでましゅにデレデレしてるんだよ!早く離れるんだよ!」
「ええ⁉︎インデックスさん私は別に…」
いきなり賑やかになった戦場に新たな声が響く。
「ドクター、あの2人が?」
『あぁ、サーヴァント反応もある。間違いない、というか凄いな!どちらもトップクラスの霊基反応だ!』
最後に現れたその人物はカジュアルな服装に身を包んだ、一見この場に一番相応しくない人物にみえる。
だが、クロエは悟った。彼こそがこの中の最重要人物。即ち、この街の異常をただしに来た、
「カルデアのマスター…!」
藤丸立香、その人だった。
◇◆◇◆◇◆
「ふむ、此処がいいか」
カルデア側からただ1人、戦場に駆け付けなかった男、エミヤは自分の仕事を全うしようとしていた。
彼はアーチャー、弓兵だ。
その本分は遠距離からの狙撃にある。前衛とマスターの護衛をマシュに任せ、彼は狙撃に適したポイントを探していた。
遠く離れた戦場を俯瞰する。
敵サーヴァントは2人。ランサーと思わしきサーヴァントは此処からでも凄まじさが伝わってくるが、彼が注視するのはもう1人の人物、セイバーの方だ。いや、正確にはその剣。
(似ている…あの剣と)
思い返すは、生前の記憶。彼としては思い出したくもない記憶だがその中で出会った彼女を思い浮かべる。
(別人には違いないだろうが…円卓の関係者か?モードレッドやガウェインのように宝具にその関係が現れるタイプは珍しくないが…)
気になるが、私情を抜きにして戦場を見る。いつ如何なるタイミングでも放てるように矢をつがえて待つ。
しかし、ゾワリと。
背筋を撫でるような悪寒が彼に走った。
「…‼︎⁉︎」
戦場の遥か前方。
5000mにも満たない距離から凄まじい速度で、戦場に接近する影が見える。
(なんだあれは…?)
このままではあと5分もたたないうちに接触する。迎撃を考えるエミヤだが、戦場のランサーとセイバーも無視できる者じゃない。
(どうする…)
エミヤは考える。彼にしては珍しい焦りが頭の中を支配していた。
(どうすれば奴らから無事にマスター達を逃がせる⁉︎)
しかし、そんな思考とは関係なく。
時間は刻一刻と迫っていた。
◇◆◇◆◇◆
「カルデアのマスター…!」
戦場に到着した立香は少女を見る。
立香としては、その少女は知らない仲ではなかった。
クロエ・フォン・アインツベルン。
いつかの魔法少女の特異点で助けたイリヤの姉妹だった少女だ。カルデアにも彼女の霊基が登録されており、自分達の危機には助けに来てくれると言っていたが。
『彼女は君の知る人物とは別人だよ藤丸君』
モニター越しのロマンの声が耳に届く。
『来る前に言っただろう?此処は並行世界の特異点、サーヴァントが特異点によって立ち位置が変わるように、
「…はい」
そう言われて気を引き締める立香。
「なぁアンタ達はいったい…」
「上条当麻さん、私達はカルデア。詳しい説明は省きますが、この異常事態を解決するためにやってきた組織です。ここから先は私達が引き受けますから貴方はここから逃げてください」
マシュはこれ以上巻き込むまいと上条に逃亡を促すが。
「悪いけど、それはできない」
「えっ…?」
「ここまで関わった以上見て見ぬ振りなんて出来ねぇし、見ず知らずのアンタ達に押し付けて行くなんてこともしたくない」
「でも…」
「諦めろ。そいつはそういう
「もう、とうまは相変わらずなんだよ」
上条を知る2人が呆れたようにそういうので、マシュも半ば無理だと悟る。
「わかりました。でも、無茶はしないでください」
「無茶ばっかしてきた毎日だから、保障しかねるなぁ」
軽口のように会話を繰り広げているとランサーと戦っていたセイバーが此方側まで後退してきた。
「っ …!援軍…という認識でいいのかな?流石に彼の相手は俺1人では堪えるのだが」
『セイバーのサーヴァント…!どうやら仕掛けてきたのは向こうのようだし、こちらの目的の人物はどうやら君寄りだ。味方という認識で構わないよ』
「そうか、心強い」
士気が高まる中、ステイルはただ1人状況を冷静に観察していた。
(不味い…
蘇る記憶は一週間前。辛酸を舐めさせられた遠くない思いがふつふつと湧き立つ。
その
(どうする…あいつは『聖人』の神裂を含めた
援軍である自分達が到着したからといって、事態は好転したわけではない。一対一で押されていたセイバーに加えてもマシュは防御寄りのサーヴァント、エミヤも弓兵という立ち位置から分かる通り、本質は援護が主軸の戦士だ。決め手にはもう一歩届かない。
ステイル自身も本来は拠点を置いて、相手が来るのを迎え撃つ、いわば籠城戦に特化した魔術師だ。炎剣だけでは心許ない。せめて
ジョーカーとして期待していた上条も、こうなってはあまり使えそうにない。そもそもあれだけの神秘の塊だ、触っても消滅させるには時間がかかるだろう。そして、敵が素直にそうさせるとも思えない。
インデックスに戦闘能力を求めるのは論外。唯一の未知数は、カルデアのマスターだが、人間である以上サーヴァントに肉薄する実力というわけではないだろう。
「お話は終わった?」
残された勝ち筋はマスターであるこの少女を狙うことだが、ランサーが側にいる以上それも難しそうだ。となると取るべき戦略はサーヴァント達でランサーを引きつけ、その間にステイルがこの少女を殺すことだろう。少女自身もかなりの実力がありそうだが、やるしかない。
「じゃあランサーみんなまとめてやっちゃって!」
「っ…来るぞッ‼︎」
全員が構え、中断された戦いの幕が再び上がる。
その時だった。
ォォオオオオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎ と。
唸り声と共にそれは来た。
『!?』
全員が一斉にそちらを振り向く。
両者の激突する一歩手前、彼らの間遥かその先にそいつはいた。
『サーヴァント反応⁉︎この荒れ狂った霊基、バーサーカーか!いやでもこれは…?』
ロマンの焦った声が聞こえる。
立香はそいつが視界に入った瞬間恐怖した。マシュは体が震えそうになるのを堪えた。ステイルとクロエは警戒レベルを最大にしてそいつを見ていた。セイバーとランサーは向かい合うようにそいつの前に立った。
「えっ…?」
インデックスは口から出た戸惑いを隠そうともしなかった。
「…⁉︎」
そして、上条当麻は。
そいつの名を口にした。
「
黒い翼を携え、『破壊』がそこに立っていた。
学園都市の聖杯戦争
セイバー:不明
アーチャー:未召喚
ランサー:カルナ
ライダー:不明
キャスター:不明
アサシン:不明
バーサーカー :一方通行?