「
突如目の前に現れた『災厄』に戸惑いを隠せない上条。
「……」
対して一方通行、いや、バーサーカーは身じろぎひとつせずその場に留まっている。いつ暴れてもおかしくない凶暴性を発しながらも、何の動作も見せないその姿は酷く不気味だった。
(あの翼は…?)
俯き表情が分からずにいる一方通行が背に携えている翼に上条は注目した。
(詳しい事情は知らねぇがあいつの翼はデンマークの時点では白だった筈だ。自在に使い分けでも出来るのか?)
いつだかのロシアでの激闘を思い出す。これまで一方通行と激突した数は少なくない上条だが、あの黒翼を見るのはこれで2度目だ。だが。
あの翼はあそこまではっきりと翼の形をしていただろうか?
『気をつけてくれみんな!サーヴァントとしてはセイバーやランサーにも引けを取らない!が…何だこの不自然な霊基は?上条君君はバーサーカーのことを知っている口振りだが…』
「知ってるも何も…」
苦虫を噛み潰したような表情で上条は答える。
「あいつは学園都市第1位の一方通行。この街で最強の超能力者だ」
『‼︎』
立香はその言葉を聞き、1人のサーヴァントを思い出す。
諸葛孔明、またの名をロード・エルメロイⅡ世。彼は確かⅡ世の身体に諸葛孔明という英霊を憑依させサーヴァントとして現界するという特殊な事例だったはずだ。
デミ・サーヴァントではなく擬似サーヴァントと分類されるそれは英霊そのものではないにしろ、ほとんど遜色ない力を発揮していた。現代の人間である一方通行に霊基反応が出たということは、それは目の前の人物は紛れも無いサーヴァントということを示している。
「ちょっと不味いわねこれ…」
クロエは冷や汗を垂らしながら呟く。しかし、その動揺は上条やカルデアとはまた別種のもの。バーサーカーというサーヴァントの危険性を知るからこその動揺だった。
「…ァア」
「「「‼︎」」」
一言。
たった一言発しただけで、バーサーカー以外のサーヴァントはその唸りにも似た声に釣られ動く。
ランサー、セイバー、シールダーの3人がバーサーカーの首を取らんと動く。迅速に、的確に。対して、バーサーカーがとった行動はシンプルだった。
背に携えた黒翼を振るう。
それだけで圧倒的な『破壊』が繰り出される。
ゴッッガッシャアアア‼︎ とアスファルトの地面ごと抉り取るようなシンプル且つ強力なその一撃は彼の周りに迫っていたサーヴァント三騎を一瞬で振り払う。
「くっ…っっ!」
「これは…!」
「…!」
幸いにも最も遠い位置にいたセイバー、そして防御に秀でたシールダー・マシュは致命的なダメージを受けずに済んだ。そして、ランサーは直撃こそ避けれなかったものの、その身を守る黄金の鎧によって被害は見た目より少ない。せいぜい一瞬怯んだ程度だろう。
「ipgno跳baxgk…!」
だが、その一瞬がサーヴァント同士の戦いにおいて戦況を左右する。
一瞬でランサーの懐に潜り込んだバーサーカーは左手の悪手を突き出す。すると、ランサーの体が宙に浮きそのまま弾丸のような速度で後ろへ飛ばされた。
「…‼︎」
咄嗟に身を捻り、槍を地面に突き刺すことで減速を試みたランサーだが、勢いはそのままに飛んでいく。
「まずっ…!ランサー‼︎」
しかし、ランサーも唯では終わらず、槍から魔力を放出した焔を吹き立たせる。その焔は導火線の如く、バーサーカーめがけて走る。
ボワァ‼︎と神秘を纏ったその焔はバーサーカーの体を包む。苦しむ様子を見せるバーサーカーだがその様子は炎に包まれていてよくわからない。
クロエは一瞬逡巡し、ランサーを追った。サーヴァントが揃っているこの場では自分の身を守れないかもしれないという考えからの判断だった。
「…これは」
一瞬の内に起きた攻防に唖然としていた立香だが、その隙を逃すまいとロマンから通信が入る。
『藤丸君!ぼさっとしてないで早くそこから離れるんだ!』
「…!どういうことですかドクター!」
『バーサーカーはおそらく見境なしに攻撃している。だけど、マシュだけでその攻撃を捌ききるのは不可能だ!ランサーもその場を離れたとはいえ距離自体はそう遠くない、すぐに戻ってくるかもしれないぞ!』
「っ!でも…!」
何処からか聞こえる謎の声に上条も確かに、と思う。
出会いこそ死闘を繰り広げ互いに敵として見ていた2人だが、上条は本来一方通行が理知的な人物なのはうっすらとだが分かっていた。けど何も見えずただ破壊を繰り返す今の彼と会話することは難しいだろう。
制圧するにしても黒翼やベクトル操作といった脅威的な力を掻い潜るのは至難の技だ。一方通行を知らないカルデアは勿論、上条自身にもそう簡単にできることじゃない。とりあえず距離を取るために後ろに下がろうとする。
しかし、唐突に。
上条当麻すら知らない攻撃が既に発生していた。
「な…っ⁉︎」
足を引こうとした上条は凄まじい速さで迫ってきたそれのせいで身動き1つ取れなかった。
その正体は氷。
炎を振り払ったであろうバーサーカーを中心に、足元から広がった強力な冷気によって彼らの足は凍結されていた。
「くっ!何だこれ‼︎」
立香やマシュは凍結によって痛む足を無理やり動かしどうにか振り解こうとするが、ロマンが慌てて止める。
『待つんだ藤丸君!その凍結はバーサーカーの攻撃だ。そこまで強力な凍結ならサーヴァントのマシュは兎も角、君は下手に動いたら凍りついた足を持っていかれるぞ‼︎』
「…‼︎」
思わずゾッとする。
そして、無理な動きをいきなり止めたせいで、空を足掻くように手を動かしながら後ろに尻餅をつく。そのせいで足への痛みが増したが、どうやらロマンの言ったようなことにはなっていない。
だがこのままでは凍傷で足が壊死してもおかしくない。どうにかして氷の凍結を解こうと考える立香だが。
「……」
「…!⁉︎」
バーサーカーと目があった。
その燃えるような赤い目を見た瞬間、立香は一瞬呼吸が止まった。目の前の怪物は自分を狙っているのだと判断できてしまった。
黒い翼の片方を立香めがけて振るうバーサーカー 。
「…せんぱっ」
マシュは急いで立香の元へ駆け寄ろうとするが、足の凍結から未だ逃れられていない彼女では間に合わない。
命が刈り取られる。立香自身がそう認識した瞬間。
黒いツンツン頭の少年が自分の前に立っていた。
真上から振り落とされた黒翼を右手で掴み取り消滅させる。以前よりも強力なそれは打ち消すにも時間がかかったが、どうやら成功したようだ。
「…大丈夫か」
こともなげに言うが、その体はこの短時間の間にぼろぼろだった。足の凍結は右手で打ち消したが、凍傷の痛みはすぐに消えるようなものでもない。
「…あぁ、ありがとう」
それでもこの少年は其処に立っていた。会って間もない立香を助けるために行動する彼に、立香は感謝の言葉を口にする。
仕留め損なったと認識したのか、次の挙動に移ろうとするバーサーカー。しかし、その前に動きがあった。
ズバッァァン‼︎という音ともにバーサーカーの体が爆ぜた。
「Ahh…!」
苦悶の表情を浮かべるバーサーカーを襲った攻撃の正体はここから離れた場所にいるアーチャーの狙撃だった。正確にバーサーカーの体を貫いたその攻撃は、彼自身を倒すには至らなかったがダメージは与えた。
「灰は灰に、塵は塵に」
そしてその隙を赤き魔術師は見逃さなかった。
炎を得意魔術とするステイルは上条同様、一足先に氷の拘束を解きバーサーカーに狙いを定めていた。そして、バーサーカーがそちらに意識を割く頃にはもう手遅れだった。
「吸血殺しの紅十字‼︎」
交差するように放たれた炎の剣は正確に人体の急所である首を焼き切らんと放たれる。しかし、
バーサーカーに炸裂するはずだった炎の衝撃が寸分の狂いもなくステイルに跳ね返ってきた。
「がっ…はっ‼︎」
炎が自身の体を焼く感覚に陥るが、痛みで体が悲鳴をあげるその前に急いで距離を取るステイル。
彼自身は知る由もないがそれはバーサーカーの依り代になった一方通行のベクトル操作による反射だった。アーチャーの狙撃もこの能力により幾らか逸らすことができたバーサーカーは、ステイルの攻撃によって倒れることはなかった。
バーサーカーは翼を振ろうとしたが、ステイルが距離を取ると深追いはせず、自身の体を不思議そうに見ている。
(くそ、駄目元の攻撃だったが歯牙にもかけないか!サーヴァントってのはどいつもこいつも規格外だな!)
だが、ここでステイルは違和感に気づいた。
バーサーカーの行動がおかしい。確かに強力な存在には違いないが隙が多い。ランサーの反撃やステイルの攻撃を問題なく跳ね除けたとはいえ、直撃自体は避けていない。そこの無駄さえなければ確実に反撃で手痛い一撃を加えられるのにだ。
(いや、そもそもこいつ…
例外としては、立香への攻撃はバーサーカー自身の判断によるものだったようだが、ステイルにはそこまでは分からなかった。
そして、上条もステイルとは別の違和感に気づいていた。
(能力の使い方がぎこちない。翼や氷なんかは問題なく行使してるように見えた。だけどあいつ本来のベクトル操作能力はあそこまでおざなりなもんだったか?)
見たところベクトル操作を使った回数は4回。一度はランサーを突き飛ばした突き出し。残る三回は攻撃に反応する自動反射能力だ。今思えばランサーへの攻撃直後、その能力にバーサーカーは戸惑っている様子すら見えた。反射能力もサーヴァントの攻撃には鈍いように見えたが、ステイルの攻撃は問題なく反射は作用していた。だが、その能力自体にも、よくわからないが戸惑いを覚えているようだった。
(なんていうか、初めて使う武器を手探りで探ってるような感じだ。だからこそ隙が多いとも言えるが…)
いづれにしろバーサーカーに手こずっていたら、直にランサーが戻ってくる。そうなる前にこの場を離脱しなければならないのだが。
『バーサーカーが藤丸君を狙っているならその隙すらもないか…』
カルデアのマスターだからか、それとも他の理由があるのか。バーサーカーは他のサーヴァントには目もくれず、立香1人を見据えている。離脱するには難しい状況だが。
「なら先にバーサーカーの方から退場してもらおうか」
不意にそんな声が聞こえた。
声の主はステイルの炎で拘束からセイバーだった。バーサーカーの正面に立つと、剣を天に掲げ宣言する。
「トウマやカルデアには借りができた。ここで何もしないのは最優であるセイバーのクラスや王としての俺自身の名が泣くのでな」
その剣が光り輝く。
「いづれ機会があれば再び相見える機会もあるだろう。だが、今はおとなしく退場しておけバーサーカー」
かつてブリテンを統べた騎士王アーサー。
彼の王は其の者に憧れ自身の持つあらゆる物に彼と同じ剣の名を名付けたという。
其の者が持つ剣の名はあまりにも有名だった。
その名を。
「『
光の奔流がバーサーカーを呑み込んだ。
◇◆◇◆◇◆
「おーい生きてる?ランサー」
「…マスターか」
バーサーカーの突きによって飛ばされたランサーはマスターのクロエと合流した。
「随分飛ばされたみたいだけど大丈夫だったの?」
「あぁ、咄嗟のことで判断を少し見誤ったが致命的なものではない。サーヴァントの力…というよりは依り代の能力故に手こずったがな。魔力放出を使えばもう少し復帰も早くできただろうが…マスターの指示を優先させてもらった」
「律儀ねぇ」
ランサーはバーサーカーの攻撃を結局受け流しきることは出来ず、ビルへの激突という形で止まった。急いで戦場に戻ろうとしたが、クロエから急ぎでも取らなくても良いとの命を受け、その場を動いていた。
「先ほどのあれは…おそらくセイバーの宝具か」
「みたいね。んでもってそれを出したってことはもう戻っても誰もいないでしょ」
ランサーとクロエからも見えていた大きな光に2人はある程度の正体を予測した。
「バーサーカーの奴にはまだ自由に動いてもらわないとだし、私たちが積極的に関わってもいいことないからね。セイバーを倒せなかったのはちょっと勿体無いけど仕方ないか」
「これからどうする?」
「もう遅いしアジトに戻るわよ。ランサーは一応霊体化しといて」
「了解した」
マスターからの命令を聞き、大人しく霊体化しようとするランサー。
「ランサー」
「…?どうしたマスター」
「勝つよ、絶対。この聖杯戦争を」
「もとより承知の上だ。それが我がマスターの望みなら、俺はそれを叶えるだけだ」
「…ありがとう」
激闘の1日目が終わる。
そしてこの日を境に、多くの者が舞台に上がることだろう。
上条のセリフや一部では一方通行と表記してますが、基本的に行動などはバーサーカーで統一してます。見辛いとは思いますが、これからもよろしくお願いします。