一番最初に、パーティの要、重戦士のセルジュが欠けたのが痛打だった。
それでも、敵が一体だけだったなら、みな切り抜けただろう。
無意味な仮定だった。現実に、
「そいつに構うんじゃねえ、もう死んでる!」
「クソっ、何だってこんなことに!」
「逃げろ、森に走れ!」
「ぎゃあああ――ッ!」
「いやああ! ヴィクター! ヴィクターあああっ!」
「馬鹿野郎、立って走れ!」
冒険者たちの声が聞こえる。彼らがいまどんな状態かは、リョウには分からない。
眼前の一体の注意をそらすので精一杯だった。
「このやろっ、そっちいくなクソっ、こっち向けって!」
すでに折れ曲がった槍で、
でも、それがリョウにできる精一杯だった。
セルジュに続き、シモンがやられた直後、ヴィクターが撤退を宣言した時に、リョウは決意した。
ひとりでも多く、みんなを助けてみせる、と。
それがこのザマだった。敵に気付かれないというだけでは、誰も助けられない。
――いつの間にか、みんなの声も止んでいる。
(逃げ切った? それともみんなやられた?)
リョウはふと我に返って手を止めた。
それから、あたりを見渡した。
崖下の泉のすぐ側だ。開けた場所で、周囲に木々が散見するが、森というほどではない。
散々邪魔してやった一体は、未だ周囲をきょろきょろしている。
ほか二体の姿が見えない。木々の間に分け入ったか。微かに足跡が見える。
(追わないと。でもその前に、こいつは殺す)
リョウは決意に満ちて
まずは落ち着く。焦っても良いことはない。
次に武器だ。手元の槍はもう使い物にならない。
「シモン先生。これ、お借りします」
一声かけ、千切れた手が握ったままの槍を取る。持ち主の指を剥《は》がし、血を制服の袖で拭う。
そしてもう一度、
無闇に衝いても疲れるだけ。急所を狙わないと。
以前に目星をつけていた後頭部は、ちょっと無理だった。
それ以外にパッと思いつくのは目だ。眼底を深く穿《つらぬ》けば、脳髄を壊せるだろう。
だがこれも、狙うのはかなり難しい。
「うーん」
リョウは思案しつつ、
――そう言えば。
さっきヴィクターが、足にダメージを与えていた。おかげであの個体は、かなり動きが鈍くなっていた。
あの時は腱を断ったのだと推察したが、実際はどこだったのか……。
何となく、人間と大して変わらないんじゃないか、と思って、アキレス腱の辺りを撫でてみた。獣脚で踵を高く浮かせているが、狙えなくはない。
むしろ、ナタを振り下ろすには絶好の位置だった。
「そりゃっ!」
カコンっ。
マヌケな音がして見事に足が裂け、怪物の巨体がこちらに倒れてきた。
「うわっ!」
慌てて避ける。何とか下敷きにならずに済んだ。
転げた
無茶苦茶に身体を揺すり、いったん身を起こしてはまた転がり、翼を広げてバタつかせる。
とにかく、立ち上がるのは無理そうだが、とても急所に狙いを付けるどころじゃない。
「とりあえず翼が邪魔だな。えいっ」
付け根の部分を
(こいつの壊し方、分かってきたかも)
逆の翼も同様に壊す。
そしてめちゃくちゃに、地面を顎で攻撃し始めた。
(何かがいる、ってのは気付いてるか)
だがまったく見当違いの場所だ。
しばらく眺めていると、
そこには何も見えない。少なくとも、リョウでないのは確かだ。
(死神でも見えてるのかな?)
苦笑し、槍を構えて近づく。何にせよチャンスだ。
「いまさら情けとかないから。恨んでくれていいよ」
リョウは
ペキョッ。
深々と突き刺さる。同時に「ぴくっ」と全身が跳ねた。
リョウは驚き、いったん槍を手放したが、再び握り直し、突き刺したままぐりぐりと動かした。
また、
やがて完全に動かなくなった。
「そういや、ぼくが分からないんだっけ。恨みようもないね」
リョウは呟いた。自分の声がひどく冷たかった。
それから短く合掌し、槍を難なく引き抜いてから、足跡を追った。
○
ロロットは走っていた。
足元も不確かな夜の山を、木々の間を縫うように駆ける。
幸い、視界に不自由はない。先だってみなに施していた【暗視】の魔術のおかげだ。
だがそれが何になるのか。
振り返れば、
彼らの腹に収まるのも時間の問題だろう。
「いちいち振り返ってんじゃねえ! 走れ!」
怒鳴るのは、すぐ後ろを駆けるベルナール。
彼が背におぶったヴィクターは、利き手を食い千切られている。血が吹き出し、息も絶え絶えだ。このまま止血もできなければ、長くないだろう。
生き残ったのはこれだけ。セルジュもシモンもクレスも死んでしまった。もうじき、自分たちも後を追うことになる。
――いいえ。
おそらく、ベルナールだけは生き残る。呆れるほどの体力だ。ヴィクターを背負って駆け、なおも余裕があるように見える。ロロットの前に出ないのは、
――いますぐ、私たちを見捨てて逃げて。
さっきから何度も、その言葉が口を突いて出ようとしている。そのたびに喉の奥に呑み込んだ。
(結局、私は生き残りたいのね。少しでも長く、他人を犠牲にしてでも。なんて浅ましい女なの)
惨めさのあまり視界がゆがむ。
「おいロロット、左を見ろ!」
ベルナールが怒鳴った。
反射的に言われた方を向く。すぐになんのことか分かった。
巨木の根本に、ぽっかりと口を開けた洞穴が見えたからだ。
「潜り込め!」
再び後ろから怒鳴り声。
一も二もなく従った。勢いのまま転がり込むと、すぐにベルナールも駆け込んできた。
一瞬だけ間をおいて、
「奥へ!」
叫んで、ロロットはベルナールの手を引いた。
すぐに突き当たったかと思えば、下って続いていた。予想外に深い。
察するに、巨木の根が岩石を押し広げてできた空洞である。のちに土砂が崩れ、入り口がぽっかりと開いたのか。
「ここまでは入ってこれないでしょう」
ロロットは適当な場所で立ち止まった。奥はまだ続いているが、探索している場合ではない。
「だといいがな」
ベルナールは忌々しげに背後を睨む。
入ってこれないにしても、入り口を崩されたら終わりだ。
「奥がどこかに続いてりゃいいんだが」
「探索はあとよ。ヴィクターを手当しないと」
ヴィクターは意識を失っていた。まだ息があるが、おそらくそれも奇跡に近い。
まずは腕の出血を止める。
この傷はロロットの魔法では癒せない。原始的な方法に頼るしかない。
切断面をきつく縛って油を塗り、炎の魔法であぶる。
ヴィクターは悲鳴を上げてのたうち回った。ベルナールが顔をしかめて押さえつける。
焼けた肉で傷口が塞がると、軟膏を塗りたくって包帯を巻く。
あとは、強い鎮静効果のある薬を飲ませ、魔石の所持分が尽きるまで、回復魔法をかけ続けた。魔力を生命力に変換する単純な魔法。この状況では焼け石に水だが、やらないよりはマシだ。
処置が終わると、ヴィクターは静かに寝息を立て始めた。
しかし、顔色は死人と変わらない。
「助かるか?」
「分からない。祈るしかないわ」
「神さまか? ヤツは肝心な時に限って助けちゃくれねえ」
「知ってるわそんなこと。でも、ほかにできることがないの!」
ロロットは思わず怒鳴った。
ベルナールは舌打ちし、ひとりで奥に入っていった。
それを横目で見届けて、ロロットは顔面を手で覆った。
――どうしてこうなった?
分かっている。自分の力が足りないせいだ。
多少の魔法を修めていい気になっていた。
冒険者として活動を始めてからも、どこへ行っても重宝され、得意げだった。
挙句、箔でも付けようと〝竜殺し〟に挑んだ結果がこのザマだ。
ヴィクターはおそらく死ぬ。
馬鹿な男だ。たった一晩身体を重ねただけの女をかばって、剣士の命である利き腕を失って、挙句こんな穴蔵の中で死ぬ。
「こんな行き遅れなんかに構ってないで、ひとりで逃げれば良かったのよ。あなたなら出来たでしょう?」
膝に乗せた青い顔に問いかける。
だが知っている。彼にはできない。能力でなく、信念がさせない。
「本当に馬鹿な人」
ロロットは呟いて、ヴィクターを抱きしめた。
その時、奥からベルナールの声が聞こえてきた。
「こっちに来てくれロロット!」
切羽つまった声だ。何事かと訝しんでいると、もう一度。
「何してる、早く!」
「どうしたの?」
声を返しつつ奥へ向かうと、ベルナールが引きつった笑みを浮かべていた。青白い光に照らされて。
戦慄した。
光源は岩肌だ。それもあたり一面。鈍く青白い光を放っている。
「魔石だな?」
「……ええ。間違いない」
「よしっ!」
破顔し、ベルナールは斧を振り上げた。嬉々として岩肌に打ちつけ、粉砕していく。
「ははっ、俺たちはツイてる。神のご加護に感謝だ!」
その様子を、ロロットは冷めた目で見守った。状況が分かっているのだろうか。こんなものがいくつあっても……金などいくらあっても、死んでしまえば何の意味も――。
「おいロロット、ボケっとしてないで拾え。いくつ必要なんだ?」
「――何ですって?」
「だから、ヴィクターのやつを助けるのに、魔石がどれだけ要るかって聞いてんだ」
ロロットは弾かれたように動いた。
破砕した魔石鉱の欠片を、両手いっぱいに拾い集める。魔石がいくらあったところで、ヴィクターの傷は完治しない。
でも回復魔法をかけ続ければ、容態が安定するまで命を繋ぐことができるかもしれない。
「これで足りるか?」
「全然足りないわ! ありったけ持ってきて!」
「お、おう!」
再び斧を振るうベルナールを尻目に、ヴィクターの元に駆け戻った。
魔石の欠片を握りしめ、回復魔法の詠唱を始める。
だが――。
「――どうして!?」
悲鳴を上げる。魔法が完成しない。いまさら、こんな魔法に手こずるなんて――。
いや。違うのは分かっていた。答えは分かりきっていた。
「どうして……」
ヴィクターの胸に手を当て、ロロットは力なく呻いた。
その時、巨石を抱えたベルナールが戻ってきて、はしゃいだ声で告げた。
「どでかいのを持ってきたぜ。まだたんまりある、いくらでも使え」
虚ろな目で見上げた巨漢は、無邪気な笑みを浮かべている。まるで、いたずらに成功した子どものような――。
「おい、どうしたロロット?」
「死んだわ」
自分の声が遠く響く。全身の感覚が奪われ、世界から遠のくような錯覚。
ロロットは、ヴィクターの遺体を抱きしめたまま、しばし呆然としていた。皮肉なことに、体温が急速に失われていくのだけは、はっきりと分かった。
ヴィクターは、足にも裂傷を負っていた。
そこからも大量に出血していたのだった。もっと早く気付いていれば、ロロットの魔法でも塞ぐことができた傷だった。
全身の傷の確認という、応急手当の初歩の初歩を
「私が殺したようなものよ」
「馬鹿言ってんじゃえ。あんたは良くやった。運が悪かっただけだ」
「奇跡は起きたわ。でも活かしきれなかった。そもそも私をかばって傷を負ったのよ。本当なら私が死ぬはずだったのに――」
「なら、生きるしかねえな。それがヴィクターの意思なんだろ」
ロロットは声を押し殺して泣いた。
ぶっきらぼうな巨漢は、無言でそれに背を向け、入り口の方向を睨みつけている。
そこからはまだ、
○
(さっきより身体が軽くなってる? アドレナリン出っぱなしとかかな?)
理由はともかく、すこぶる快調なのは間違いない。
まだ余力がある。もっと速く走れそうだ。
試しにスピードを上げた。流れる景色も速くなるが、思考は追いつくし、身体も反応している。
(もっと行けそ)
徐々に徐々に速度を上げ、しまいには全力で駆けた。足場も不確かな、夜の山道を、全速力で走り抜けた。
もはやそこに、インドア派ネットゲーマーの面影はなかった。
「いた!」
リョウの視界がついに敵影を捉えた。
二体の
ほくそ笑み、そのまま突っ込む。直前で勢いのまま飛び上がり、ナタを振り上げた。
狙いは獣脚の踵、そのすぐ上。アキレス腱。
怪物の泣き所を容赦なく断つ。
「ガァアアッ!?」
同時に、ナタが根本から折れた。勢いを付けすぎたか、酷使しすぎて寿命が尽きたか。
「まいったな」
どうしようか悩んでいると、突然に横合いから衝撃を受けた。
(――は!?)
一瞬、意識が飛んだ。
一瞬だけで済んだのは、すぐに地面に叩きつけられて、その激痛で目が覚めたからだった。
(何がおこったの?)
激痛をこらえながら辺りを見渡す。真っ暗だ。少し離れた場所に、ペンライトの灯りが見えた。
滑り込むようにして拾う。
「えっ!?」
驚愕した。
眼前に、大口を開けた
がちん!
顎を打ち鳴らす音を背後に聞きながら、間一髪逃れる。
しかし、
(何で!? どうして!? ぼくが見えてる!?)
恐慌に陥りながら、とっさにペンライトを向ける。
「ガァアアッ!」
そのスキに逃げる。全身がぎしぎしと痺れて動きにくいが、泣き言を言っている場合ではない。
だが、
(初心者ボーナスおしまい、ってこと? こんなの死ぬって――!)
不意に、怪物たちが一斉に横を向いた。
――ん?
ふと、ペンライトを振る。
すると、怪物たちはビーム光が照らす方向を向いた。
「これかあああ……」
リョウは慌ててスイッチを切った。
途端に辺りが真っ暗になる。空を見上げても何も見えない。さっき「ちらり」と巨大な木の根本が見えた。あの木陰に入ってしまっているのだろうか。
闇に対する本能的な恐怖が、リョウをさらなる恐慌に陥れた。
(ヤバいヤバいヤバい!)
反射的にライトのスイッチを入れようとして、すんでのところで思いとどまった。
――待て、慌てるな。落ち着け。
何度か深呼吸を繰り返す。
彼らはペンライトの光に反応している。ならば灯りを付けるのは愚策だ。
ではどうすればいい?
(音だ、音。あんなでっかいのが動けばすぐ分かる。今までだって聞こえてたじゃないか)
必死に心を落ち着かせて、耳を澄ます。
ずんっ……ずんっ……。
ゆっくりとこっちに近づいてくるのが分かる。注意深く、足音を回り込むように移動する。
すると、背後で「ズシンッ」とひときわ大きい振動があった。それから、ばたばたと翼を羽ばたかせる音。
(最初のやつがコケたな)
近づいてきていた足音は、今度は遠ざかっている。よし、と内心でガッツポーズし、リョウは背後を振り向いた。
だんだんと目が慣れてきている。何か巨大なものが暴れているのが、おぼろげながら見えた。
(このまま目を慣らせば、もう少し見えるようになるかな?)
思いついて、じっと待つ。
逃げようとは思わなかった。
なぜなら、怪物どもがまだ動いているからだ。
「いいぞ。だんだん見えてきた」
闇に慣れた視界は、いまやくっきりと
その、目元に狙いを定める。
シモンの槍を力強く握り、身体に芯を通して構える。
そして、衝――。
「おいおい、なんで倒れてる? 仲間割れでもしたのか?」
飄々とした声が、リョウの動作を
声の主はベルナールである。戦斧を構えてにじり寄ってくる。
彼に反応して、
「ベルちゃん邪魔――!」
言うが早いか、ベルナールの強烈な一撃が、
すると、
(一発KO!?)
信じがたい光景に驚愕する中、ベルナールはなおも頭部に打撃を浴びせ続ける。ぐちゃ、べちゃ、と不穏な音が響き渡り、肉片やら血しぶきやらが飛び散るのが見えた。
「ふう。これで死んだろ」
巨漢は清々しく、額の汗を拭った。呆気に取られていると、背後から地響きが聞こえてきた。
(しまった、そう言えばまだ一体――)
振り向けば、
「【
背後からの凛々しい声と共に、幾筋もの光の矢に穿かれた。
「まだよ。【
再び、光の雨。
振り返れば、そこには詠唱を続けるロロットの姿。
「トドメよ」
告げ、ロロットは魔法の短剣を高く掲げた。
その先に浮かび上がったのは巨大な炎の塊。周囲を赤々と照らしながら、なおも膨張する。
「――死ね。【
短剣を振り下ろす。灼熱の炎が
こうして、戦いは終わった。
「今のは凄かったな。とっておき、ってやつか?」
「これのおかげよ。ここまで運ぶのに苦労したけど」
こつん、とロロットが叩いた巨石は、もう光を失っている。
「そう言えば、もう一体はどうしたのかしらね」
「もう死んでるよ、倒したのぼくね」
「さあな。ま、出て来たらぶっ殺してやりゃいい」
ふたりはリョウを無視して笑いあった。リョウは苦虫を噛み潰したような顔で見ていた。
それから、ヴィクターの遺体を手厚く葬った。
彼の死は、リョウにとっても無念だった。思えば、この世界に来て初めて一緒に戦った(と勝手に思っている)男だ。あの時、敵に立ち向かおうなどと思ったのも、セヴランを見捨てず戦った、ヴィクターの勇姿に心打たれたからだ。
もし彼らに出会わなければ。
不慣れな山中をひとり
(どうか安らかに。あなたはカッコいい人だった)
万感を込めて合掌する。
それから、魔石の鉱脈があるという洞穴の入り口を埋め、ロロットが簡易的な封印を施した。
魔石の欠片はいくつか持っていくらしい。
これから、夜の山道を移動しなくてはならないからだ。この程度の備えは必要だろう。
「あなたのことを誤解していたわ」
不意にロロット。
「へえ。どう思ってたんだ?」
「粗野で下品で、勇敢と無謀を履き違えた大きな子ども」
「はっ、言うじゃねえか。でもそいつは間違ってねえぜ」
「大間違いよ」
ロロットは断じたが、結局、その先を続けようとはしなかった。
「あんたは、俺の思った通りだったがな」
「ふーん? どういう意味かしら」
「クソ真面目だがいい女だ。ヴィクターもあの世で鼻高々だろうさ」
ロロットは一瞬、悲しげに瞳を伏せた。
何を思ったのか、ベルナールがいきなり、彼女の頭を乱暴に撫で回した。
「いつまでもシケた面してんじゃねえ。いい女が台無しだぜ」
「……生意気言わないで、坊や。十年早いわ」
「ははっ。ならあと十年ご指導頂かないとな、ロロット
ロロットは一瞬の間をおいて破顔し、ベルナールの肩に身を寄せた。
その様子を、リョウは血を吐く想いで見つめていた。
(なにこれ? もしかしてこの物語の主人公はベルナールなの?)
思わず顔が引きつる。今日一日の出来事と、自分自身の奮闘、それから、死んでいった者たちの顔が脳裏をめぐって――。
――そっか。ぼくは結局誰も守れなかったんだ。
ロロットとベルナールは自力で生き残った。力を合わせて窮地を脱した。
それにくらべて自分はどうだ?
敵に気付かれないという圧倒的なアドバンテージを持ちながら、何も誇れるような働きをしていない。自分がもっと上手くやれば、誰も死なずに済んだかもしれないのに――。
リョウは無力感に苛まれ、ずっしりと身体が重くなった。
――いや、考えるのはよそう。
何にせよ、いまは二人の無事を喜ぶべきだ。そう思い直して顔を上げると。
ベルナールがロロットの肩を抱き寄せるのが見えた。
ロロットも黙って身を預けていた。
リョウは思わず叫んだ。
「リア充爆発しろ――っ!」
魂が上げた悲鳴は、誰の耳にも届かぬまま、あたりに木霊していた。