血にまみれ、倒れ伏すジョセフ。奴は強かった。
オリジナルの「呼びかけ」に時を操る虚無、月光。悪夢的だ。
「我ら王族を嘲り、罵倒した者たち。それでいて忠臣ぶる汚物共。
イザベラ、シャルロット、お前達もきっと心当たりがあるだろう?
うんざりじゃあないか。故に余は狩り尽くした。余は余の狩りを全うした……」
全力を尽くした狩りだった。三人で挑まねばきっと負けていただろう。
しかしなるほどね。そういう個人的な復讐は嫌いじゃあない。すばらしいじゃあないか。
それとも、親心かね?風見鶏、宮廷雀どもを狩って悪役は全て自分が引き受けると?
まあこの大陸一の国が滅べば君らの娘はたいそう苦労するだろうが。
「狩人ならば、その激動の時代ですら、生き延びるのだろう?
お前達はそういう人間だ。
太陽が闇に没しても、獣に街が飲まれても、鋼鉄の鬼が緑の毒をばらまいても……
きっと、生き延びる。ならば、娘らもそうなるのだろう。案じてはおらん……
ああ、だが泥に浸かりもはや見えぬ湖。宇宙よ……たどり着くことはできぬのか」
ウィレーム先生ですら見ることしかできなかったものだ。そう簡単にたどりついてもらっても困る。
「ククク……それもそうか。
なあ、狩人よ。そろそろ、月の魔物を殺したまえよ……駒はもうそろっているだろう?
惜しい、なあ……余もそこに入れれば、なあ……フフフ、血を恐れたまえよ、狩人殿」
ああ、解っているさ。上位者の血を吸いすぎればどうなるかくらいは。
「待ちな……そいつを殺すのは、私だ!」
「いいえ、私たちが殺さなければいけない。狩人、あなたではない」
いいや、こうしたものを狩るのは助言者の役割というものさ。
君らが殺したとは公に言うが良い。
さようならだ。王様。優秀なメンシスの狩人よ。
■
「……あんたが親父を殺したのはまあいい。もう終わったことさね。
だけど、これは、この有様は何だ!?」
「月が二つとも赤い、それに空に浮かぶもう一つのヴェルサルテイル……!
あれは、宇宙に向けてとんでいっている……」
ごめん。一杯食わされた。あれは「悪夢」だ。
死ぬことで悪夢の主になったのか。しかし、どうしたものか……
「悪夢」自体が現実から視認できてなおかつ空を飛び移動するだと?
さすがにこれは初体験だな……とりあえずあそこにいるジョセフの本体を倒せばいいのか?
「いいえ、その必要は無いわ。ただ、今は静かにジョセフ様の成されることを見ていて。
赤い月の魔物も、あの悪夢と共に宇宙へと去るはずよ。
今は、だけれど……フフフ、ああジョセフ様。今、おそばに……」
君は、ああジョセフの愛人というか神の頭脳か。どういうことだ?
待て!ああ、しまった。まさか銃で自害とはな……
「師匠、一体何が起ってるんだい?説明、してくれるんだろうね?」
ああ、今ちょっと整理しているが……ふむ……
どうやらことはもう終わっている。
あのもう一つのヴェルサルテイルはいずれ空を飛び宇宙まで到達し、そしていずこかへと消える。
そうなったら赤い月も消える。月の魔物もいっしょに消える。
そういうことらしいが……うまくいくものかねえ。
「つまりアレを放置するのが一番?」
わからん。そうかもしれんし、いっそ狩ってしまうことも一つの手かもしれん。
本人達はこのまま消え去る気らしいが、ヤーナムの技術を使ってそう上手くいくものとも思えんし。
なによりこのまま勝ち逃げされるのもな。君らはどうしたい?
あの王は逃げる気らしいが、追ってもう一度殺すかね?
「私は……」
「あたしは狩り殺す。逃げるなら追い、隠れるなら暴く。
その覚悟なんざ、とっくにできている。お前はどうなんだ、シャルロット」
「私は倒す。それをもって復讐と狩りを終わらせる」
なら決まりだ。しかし悪夢は生半可じゃない。
この先仲間が必要だ。狩りを全うするために。
私も今宵、狩りに加わるとしよう。
私の全力をして、月の魔物とのケリをつける。
悪夢を終わらせるときだ。