雪風と狩人様   作:照喜名 是空

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狩人と古い大きな物語

 

おや、こんな使い魔小屋に何の用かな?ん?なぜ私がここにいるのかって?

何、そのへんの獣を狩って手土産に持って行ったら料理長とやらがここの獣の世話係の仕事を恵んでくれてね?

私がいると獣共がおとなしいそうだ。まあ、どうせ染みついた血のにおいを恐れているのだろうがね。

 

何、よかった?ふーん、私の食い扶持を心配してくれるのかい。ありがとうよ。

ふむ、その竜を小屋にね。いいんじゃないか?ああ、竜よそんなにおびえるな。何もとって食いはしない。

 

まあ座りたまえよ。暇ならしゃべろうじゃないか。

たいしたもてなしはできないが、干し肉とワインくらいはある。

どうせそろそろ馬鹿弟子が騒ぎでも起こしただろう?

ははは、やはりそうか。ふーん、小間使いをいじめる貴族を相手に素手で挑み?ぶん殴って勝った。

剣あり魔法ありで複数戦やって青銅のゴーレムをバターみたいに切り裂いた?

 

まあ、狩人たる者そのくらいはできるものさ。恐ろしい、人ならぬ獣を狩るのだからね。

 

ほうほう、その後その貴族と馬が合ってしょっちゅう鴨狩りや鹿狩りに行ったり、鍛錬試合を?

事の発端である小間使いや他の迷惑をかけた者にもきちんと謝った?

ふーん、なかなか気さくな貴族もいるものだな。若き紳士、騎士の卵といったところか。

なかなか奴は対人関係に恵まれているらしい。若いとは素晴らしいものだな。

 

ん?私も若いだろうって?20そこそこ?まあ、肉体はね。魔の深淵にはいろいろあるのさ。

魔法とは、人の可能性とはそういうものさね。

 

ふむ、今日も賭けを?今度は一回再戦ごと1エキューの参加料を支払う?

勝てばその日の分は賭けた倍額もらう?ふむ、かまわないが・・・・・・そうさね、コンティニューするならば1スゥにしたまえ。

たしかパン1個分くらいの価値だっただろう?1スゥ。そのくらいがちょうどいいというものさね。

 

そのかわりあの棒は大鎌と戦斧の二種類の振り方を使い分けよう。

やはり狩人たるもの、武器の変形か、使い分けくらいはしないと、らしくない。

そういうこだわりなり美学なりが、人を人にとどめる最後のよすがなのさ。

 

でないと人は簡単に堕ちる。獣なり、人でなしなり、いろいろなものにね。

『かねて血を恐れたまえ』狩人に伝わるもっとも有名な警句だ。

自らから流れ出る血ではなく、獲物の返り血に酔いすぎれば、あっというまに獣になる。

いやそもそも我々から言わせれば人も獣も大差ないのだ。どっちが表に出ているかというだけのコインの表裏にすぎん。

 

だから、我々は人らしさを忘れてはいけないのだ。もともと獣だからな。

君の杖もそういうものだろう?いや、言い過ぎたかな。まあ流してくれ。

 

さ、腹もふくれただろう。軽く腹ごなしに運動しようか。

 

 

ま、こんなものだ。一日に二〇回挑む。頑張ったほうじゃないかね。

一時休むことをおすすめするよ。聖歌の鐘を使ってやろう。

これはコストが重い代わりに何の代償もなく体力と毒を癒やす。心までは無理だが。

代償は多少力を使うのでひとときに二回は使えない。しばらくの休息が必要になる。そういうものだ。

 

さて、傷が癒えるまで昔話でもしてあげよう。私の故郷に伝わる、もっとも古い天地開闢の話だ。

 

古い時代。世界は何も分かたれていなかった。

昼も夜もなく、晴れも雨もなく。ただ霧に覆われた灰色の世界に朽ちぬ古竜だけがいた。

 

だが、ある時「最初の火」がおこり、世界を照らした。

灰色であった世界に色がついたのだ。あたたかさとつめたさ。生と死、光と闇に。

世界に差異がもたらされたとも言う。

 

幾人かがこれを果敢にも手に入れた。全く知らぬ、それまで見たこともない触れればやけどするようなものをだ。

それは間違いなく勇気であっただろう。

 

最初の死者ニト。イザリスの魔女。太陽の王グウィン。そして名も知らぬ小人。

 

彼らは竜達に挑んだ。壮絶な戦いだったそうだ。

グウィンの操る雷が鱗を砕き。魔女の炎は嵐となり、ニトの死の呪いが解き放たれた。

 

やがて鱗のない白竜シースが人の味方となり勝負はついた。

火の時代。明るき人類の黎明がはじまったのだ。はるか昔、神代のことだ。

 

それが私たちの故郷では世界の始まりだと言われていたよ。

いまや知る人も少ない、古い古い昔話さ。

 

異端?なに、ただの昔話。おとぎ話さね・・・・・・ふむ、続きか。

とても、とても長い話になる。夜が明けてしまうよ。

また次の機会にとっておきなさい。いつでも話してやろう。

 

一つだけ質問?いいとも。

それで彼らはどうなったのかって?それはもちろん、いつかは皆死んださ。

それまでにどう歩んだかは、次の話だ。

 

だが、そうさね・・・・・・私も少しは炎を操れる。私の遠い祖先はそれはすさまじい炎の魔法の達人だったそうだ。

 

これはただの願望、とりとめもない妄想だが・・・・・・

きっと、彼らの火はひどく弱まってでも誰かに継いでいかれたのさ。私もひょっとしたらその末端にいるのかもしれない。

そして、いつか私の火を継ぐ者もまた現れるだろう。

 

狩人は血の遺志を継ぐことで強くなる。死者に敬意のあらんことを。

私も、かつて言われたものさ。狩人とは古い遺志を継ぐ者だと。遺志とは意思。

親から子へ、師から弟子へ。時には敵からすらも。

 

最初の火を手に入れた王達の勇気や気高さは、薄れて穢れながらでもきっと誰かが受け継いでいくモノなのさ。

私を若いと言ったね?私がそんな若さで狩人の助言者などやって隠居してるのもそのためだ。

私もまた、親から、師から、先達からその使命と役割を継いだのさ。

 

人とはそういうものだろう。たとえ世界が闇に包まれようと。たとえ地が割れ天に浮かぼうとも・・・・・・

人はどんな時代であっても生き延びようとあがき、続いていくものなのだ。

 

さ、長話になってしまったな。これで今夜の昔話は本当に終わりだ。

水でも飲んだら帰りたまえ。ああ、竜よかしこまるな。一時とて、ここは君の家で私はその世話係にすぎないのだから。

 

 

さて、姫君は帰ったか。なあ、幼き竜よ。君ほんとうは喋れるんだろう?

何、私の前で隠すことはない。姫君にはよく言っておくから気にせず楽に喋り給え。

 

ふむ、青き血を持つ赤き月の御方?ああ、それは私の雇い主だ。私ではない。

私のことはただ狩人と呼べば良い。

 

狩人様、か・・・・・・まあいいさ。懐かしい呼び名だ。嫌いではないよ。

ふふふ、元々の君はけっこうなおしゃべりのようだな。何、私も話は嫌いではないとも。

 

ふむ、話が聞きたい?さてね、本筋の話は姫君にとっておくとして・・・・・・

枝葉となる話でも語ろうかね。そうさね・・・・・・たまねぎ兜の騎士カタリナのジークバルドと巨人の王ヨームの話などいかがかな。

本当は姫君が好みそうな英雄譚なのだがね。

 

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