雪風と狩人様   作:照喜名 是空

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子爵に啓蒙を

やあ、こんにちわワルド子爵。ずいぶんと熱心に神学のしらべごとかね?

ああ、申し遅れた。私はパルファン・ド・リュンヌ・ラ・シャスイーズ・ド・カインハースト。

山奥の没落貴族さね。

 

しかし君・・・・・・ずいぶんと聖地に関心があると見える。

虚無や始祖に興味が?古い時代の神秘とその秘密・・・・・・私も少々詳しくてね。

よければ語り合わないか?優しげな神とその愛のひけらかしについて、とか。

 

まあそんなに邪険にするな。君は知りたいんだろう、聖地になにがあるか。

母が危惧していたものとは何か・・・・・・あるいは、婚約者の本当の属性、とか。

秘境の貴族だからこそ残っている古い知識もあるものさ。

 

ははは、なぜ知ってるかって?君が気づいたんだ。ほかの者も気づくこともあろうさ。

私に言わせれば教職についておきながらアレに気づかないのは思考の次元が低いか、あえて黙ってるだけだ。

 

ああそうだよ。彼女の使い魔、左手の師だ。

どうかね?それでも語り合う気はないかね?

 

よろしい。ならば語り合おうじゃないか。神々の秘密、そして超次元を。

 

何からがいいかな・・・・・・そうだ、君が一番気になっている、母君の言葉、「聖地に行け」の意味から行こうか。

 

君の母君は研究者だったね?ならばこんな話は聞いたことはないかな。

地震というものを知っているかね?ごくたまに地面がゆらゆら揺れるあれだよ。

母君も地質に関する調査をしたことがあるはずだがね。

 

まあ聴き給え。地震というのはざっくり言うと自然の流れでね。

季節ごとの嵐や海の満ち欠けと同じ、定期的に来るものなのさ。ただ、その尺度がとても長いだけだ。

 

おそらく君の体験したことのある地震はかすかな揺れだろう。

だが、数百年に一回くらいは嵐の海の船のように揺れることもまれにある。

そういうのはどこかに記録されてるはずだよ、多分。

 

ああそうだよ、母君の言っていたのはだいたいそれさ。

数千年に一度、それよりもう少しばかり大きな揺れが起きるのさ。

 

そんなことで、って?まあ考えてみたまえよ。

トリスティンで船の上の如き揺れが起ったら果たしてどれだけの建物が無事かね?

建物そのものは魔法で強化されていても、地面が割れたり陥没すればもう使えない。

財政が傾きかけのこの国が物理的に傾いたら、さあどうなるね?

 

ゲルマニアやガリアあたりが野心出してこないかね?少なくともロマリアはすごく法外な貸し付けをしてくるぞ?

ああ、まあ国はどこかしらに乗っ取られ、国土は荒れ果てる。

果たして母君はそれに耐えられるかね?他人に言ってもまあ信じられまいよ。

あるいは異端審問が怖かったのかもしれん。

 

一人で抱えねばならず、何も手を打てない。かといって何も行動しないこともできない。

まあ普通はおかしな言動に見えるだろうさ。

 

だから君に「聖地に行け」と言ったのさ。あそこにはエルフという自然に関わりが深い魔法を使う人々がいる。

あるいは始祖が残したなんらかの強力なマジックアイテムがあるかもしれない。

どれも空振りだったとしても、少なくとも地震による災害からは君は守られる。

サハラまでは揺れは多分とどかないだろうからね。

 

そうだよ、それが真実のほとんど全てだ。言葉にすればすごく簡単だっただろ?

まあ、裏付けは自分で取りたまえ。信じるも信じないも君の自由だ。

 

ふむ、今度は婚約者の虚無について語ってみろって?いいとも。

 

まあ、あれが何故虚無なのかと言えば四属性のどれでもない、しかし確かに魔法である。

そんなものはコモンか残りの一つしかあるまい。

王家の傍系だし資格は十分ある。あの両親のそれはそれは濃い血を受け継いだのだ。

魔法が使えないはずはなく、使えないならばそれは力が大きすぎるだけにすぎんのだ。

 

ま、君も似たような事を考えたんじゃないかね?

 

なぜ目覚めないのかって?そりゃ本人が自覚してないからだ。

知らないものを使うことはできない。道理だろ?

 

まあ、王家には始祖の知識があるはずだが・・・・・・秘密には常に隠す者がいる。気をつけたまえよ。

そしていずれは忘れ去られるのだ。今のようにね。

 

まあ、一見役に立たないマジックアイテムでしかし王家の家宝である、なんてのはいくつもないだろう。

だいたいどれが必要そうなものか察しがついてるんじゃないかね?

 

なぜって?彼女の覚醒には始祖の知識が必要だ。そしてそのための物品は王家にある。

ならばヴァリエール伯が知らないのは妙だ。覚醒させる気ならとっとと使っている。

 

ああ、彼女を国事に関わらせたくないからあえて使ってない線もあるだろう。

だが、それならばどこか不自然だ。あんな状態で学園なんて行かせはしまいさ。

 

ならば答えはいくつもない。簡単だ。

覚醒のために必要なアイテムの使い方が忘れられているのだ。

故にその品は役に立たない品だと思われている。それだけだよ。

 

今度はクロムウェルについて?まあいいとも。

あれが本物か偽物かなんてどうでもいいよ。実際にそれなりの力と支持はあるんだから。

まあ偽物だとしたら古いマジックアイテムだろうな。古い時代のはそういうのあるだろう?

 

もっと手っ取り早くて簡単な方法もある。ギアスの魔法を使いまくれば良い。

あとはそれをごまかす手を考えれば良いだけさ。

いくらでも見た目を取り繕う方法なんてあるだろ?

 

というか私に言わせれば別段、洗脳とか裏切りに神秘はいらん。

常人はそれほど苦痛に耐性はない。一週間も拷問すれば屈するよ。

あとは丁寧に忠誠を誓わせ、傷を秘薬で直すだけだ。

 

信じられない?まあやり方にコツがあるんだ。

酒や薬、眠らせないことで判断力や耐性を大幅に削れる。

痛めつけ、屈した頃に組織の理念を言わせたり忠誠を誓えと良い、従えば休息を、逆らえば鞭を。

 

これを適度にやるだけで一月くらいでどうとでも塗り替えられる。

短くて一週間だ。その間スキルニルでも何でも代役を立てればまずばれない。

 

うん?それでどうすればいいのかって?辞めといた方が良いんじゃないかな。

だって考えてもみたまえ。いくら実力があったとしても一司教にできることかな?

どこか外国の支援あるに決まってるだろ?金はどうあっても必要だ。

つまりクロムウェルも傀儡か、すくなくとも頭が上がらない人がいるのさ。

 

あと単純にあの軍隊は兵站が悪すぎる。凶暴な亜人とか常にたらふく食わせなきゃならん。

腹が減ったら食われるのは自分たちなのだからな。そして島国でそんなの維持するのは相当な難易度だぞ。

 

支援が打ち切られればそれまで、それでもがんばるならこれはもう民草から略奪するしかない。

もっとはっきりいえば、いずれ民を亜人や竜の餌にするか、それら全てを処分して負けるか。

それしかなくなるのだ。控えめに言って地獄絵図だよ。そんな時に異国から来た外様とかどうなると思うね?

 

自国の簒奪、革命まではいいだろうさ。まずうまくいく。トリスティンまでは多分とれるだろう。

だがその後他国に仕掛ければいずれ詰む。そういう所だよ。

 

まっ、そういうことだ・・・・・・トリスティンに生まれた時点でわりと詰んでる。

嫌と言うほど自覚したからあんなのも魅力的に思えるんだろうがね。

現実はどこまで行っても同じと言うことさ。

 

だからまあ、いっそ素直に聖地巡礼をしたいと暇乞いをしてだね。

聖地や遠国で宝を持ち帰って一攫千金なんてのも悪くはあるまいよ。

少年よ荒野を目指せってね。

 

私から言えるのはそんなくらいだ。今はね。

 

さあ、鬱々とした話で疲れただろう。一つ野試合でもして体を動かさないかね?

気になるだろう、神の左手の力。師である私と戦ってみればさわりだけでも解るのではないかね?

 

 

さてと・・・・・・良い野原じゃあないかね?え?なんで練兵場でしないのかって?

君、あんなところで魔法を使って本気で大暴れしてみろ。建物ごとふっとぶぞ。

ホラかどうかはこれから確かめたまえ。

 

さて、決闘には賭ける者と口上が必要だな。

私からは君のそのいかした帽子が欲しい。

それが思い出の品ならば、同じデザインのものを近日中に贈ってくれ。

 

君が勝てば願いを実現可能な範囲でなんでも聞いてやろう。

 

正気かって?いやあどうだろうね。自信はない。

だけど帽子を賭けて命がけの決闘は私の故郷では珍しくないし、私自身よくやったとも。

 

条件はそれでかまわないかね?よろしい。

 

『君のいかした帽子を賭けて、君にわたしを殺害する機会を与えようわたしは今ここで君に決闘を申し込む』ってね

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