雪銀の吸血鬼   作:ぱる@鏡崎琴春夜

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怒・哀・歓

 お母様が死んだことで、この館は多くの魔術的防御を失った。

 扉しか結界を越える場所はなかった。しかし、結界を設置したお母様がいない今、壁は防御力が普通の壁と同じだ。

 そして今、壁が破られる。

 

 扉という数人同時に入ることのできない障壁が無効化され、なだれ込む人間。数が更に減っていた妖魔はどうすることもできずに人の波に呑まれて消えていく。

 

 斬り伏せて、爆殺して、引き裂いて、吼えて、また斬り伏せて・・・いくらやっても減らない。妖魔の死体から溢れる魔力すら貪って、魔術を行使しても、その数は減ることなく増え続ける。

 

「刺し穿つッ!突き穿つッ!蹴散らせグングニル!」

 

 お姉様の投げ槍は魔力の放出をしながら一度に十人以上を屠る。

 

「■■■■■■ッ!」

 

 もはや声にならない咆哮を轟かせてフランは、人の波に入り込み、血の海を作る。

 

「我が紅魔の神髄しかと目に焼き付け、冥土の土産にせよ!」

 

 マントとして纏う翼を展開してお父様はいくつもの魔力弾を放つ。

 

 魔力回復のために、できるだけ皆の周りのエーテルは採らないようにしているが、それでも、部屋に満ちるエーテルの残量は、数を減らす。

 

「減るのはエーテルばかりってことですか・・・」

 

 もちろん、この中で最もその損害を被っているのは紛れもない自分であり、意識をいつ手放してもおかしくない。

 まずは、目の前の銀の槍をどうにか・・・そこまで考えたとき、足が床の血で滑る。

 

「しまっ!」

 

 上手くバランスがとれず、目の前に迫る銀の槍を回避する事は不可能だった。

 ごめんなさい、お父様、お姉様、フラン・・・私は先にお母様の元へ行きます。

 心で家族に謝罪を行い、死を覚悟して目をつむる。

 

 だが、致命傷を与える銀の槍は、いくら待てども私の体を傷つけることはなかった。

 不思議に思った私は、恐る恐る目を開ける。

 

 そして、眼前に広がる光景に息を呑み、瞬時になにがあった理解した。

 私に向かう槍を自らの体で受け止め、体を貫いた槍の穂先が、私に当たらないように翼でへし折り、防ぎきった。

 

「この馬鹿者!親より先に死に絶えようとは、なんたる不忠気者だ。アルジェント!」

 

 口から血を吐き出しながらもお父様は、私を叱る。

 

「スカーレット家の息女を名乗るのならば、私より先に死ぬことは許さん」

 

 お父様は私を叱りつけた後、槍の持ち主に向き直り、重々しい口調でいう。

 

「貴様のその勲功、まことに大儀である。冥土にて仲間内に誇るがいい」

 

 グチャリとお父様は相手の頭を握りつぶし、全てが済んだとばかりに、その場に崩れる。

 

 

 

 『私のせいでお母様もお父様も死んでしまった』

 

 ネーヴェはそう、自責の念にかられる。

 呼吸が苦しく、視界も歪み、数多の悔恨が頭の中を走り抜ける。そしてその心に宿った哀しみの感情が閉ざされようとしている心を表すかのように氷塊を生み出し、鳥かごのようになる。

 母の死から刻みつけられていた精神への傷が、父の死によって、なんとか気丈に振る舞っていた精神を崩壊させる。

 だが、精神を崩壊させたのはネーヴェだけではなかった。いや、ネーヴェの崩壊がほかの二人にまで伝播したと言うべきだろう。

 

 レミリアは、父と母、そして今心を閉ざし氷塊の中に消えようとするネーヴェを見て、また救うことができなかったと、自らと敵に対する灼熱の怒りを宿した。

 怒りの焔は魔力をたどって、槍を燃え上がらせる、手がジュッと音を立てて身を焦がすが、レミリアは気にすることなく、憤怒の焔の火力を上げた。

 

 フランは、復讐というものを感じ、敵を殺すことでそれを達成できた歓びを知る。それでは次の人間を殺す。また、歓びを知る。繰り返し、繰り返し、何人も殺す。そのたび歓びを感じる。

 そして結果、復讐という初志を忘れ、歓びの快感だけを記憶に残し、またその感情を感じるために殺す。

 狂気的なまでの歓び、その感情がフランに文字通り、狂喜を孕む。

 

「嗚呼・・・・・・何故・・・何故・・・私なんかのせいで・・・」

「私は、許さない。我が怒りを呼び起こせし者共を全て許さない」

「アハッ♪私の為に刺されて?殴られて?砕かれて?切り裂かれて?殺されて?」

 

 三者三様、どれも別のベクトルに向けられた感情は一切の躊躇なく人間を呑み込み、血肉と変え、完膚なきまで徹底的な蹂躙を行う。

 

 人は敵に回してはいけない何かを目覚めさせ、そして敵に回してしまった。

 憤怒に巻き込まれれば灼熱が傷口から、体の内側を焼き尽くす。

 

 悲哀に巻き込まれれば手足が凍り付き、氷塊の中に封印される。

 

 狂喜に巻き込まれれば圧倒的な暴力が、挽き肉へと体を変える。

 

 絶対的な何かと形容すべき悪魔は、人を殺し尽くす。館の中を疾走する氷塊と火焔が、人間も妖魔も、生と死も関係なく呑み込み、焼き焦がしていく。

 

「「「ああああああああああッ!」」」

 

 三つの咆哮が館を満たす。

 異なる方向へ向けられたものであったが、奇しくも三つは共鳴して響きわたった。

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