三つの咆哮が響きわたった暁の頃から、妖魔の時間となる黄昏になるほど時間が経った。
普段ならば、何か騒ぎが起きている紅い館も、今宵は一切の音が無くなっていた。
激闘の末に勇士がいくつも倒れる戦終わりとも言うべき景色はなく、その場にあるのは、焼け焦げた死体か、氷漬けの死体しかなかった。
本来の紅さは失われ、舘の半分が崩壊し、瓦礫の山となっている。
当主の執務室があった部屋、そこは最も紅く、最も被害がなかった場所だった。
舘唯一の生き残りがいる場所と言っても過言ではないその場には、舘を破壊した元凶の三人がいた。
虚空を見つめる、青みがかった銀髪をまだらに染めた少女と、ふふふ、とうれしそうに真っ赤に染まった自らの手を眺めている金髪の少女。そして、魂が抜けていったかのように動かない銀髪の少女。
「ネーヴェ?」
青みがかった銀髪の少女レミリアは、一回パチリと瞬きをしてから、倒れている妹に近づく。
レミリアは気付く。倒れる妹に青あざのような模様が顔を斜めに線を引くように、走っているのを目にする。切れて隙間となった服の合間からも青くなった肌が見える。
心配になったレミリアは、治療魔術を行おうとするが、ふと、ネーヴェの周りに一切のエーテルが存在しないことに気付く。
いったいなにがと呟くが、到底わかるはずもなく、とりあえずネーヴェを起こそうと体を揺する。しかし、呻くことせずに何の抵抗もない。いやな予感をレミリアは感じ取る。
口元に手を当て、呼吸を確認する。だが、空気の流れを感じ取れない。嘘でしょと小さく漏らすが、誰も助けの手をさしのべてくれることはない。最後の希望と言うにはちっぽけな楽観をもって、首から脈を計ってみるが、その指に感じる鼓動は無かった。
「ネーヴェ・・・貴方まで去ってしまうの?」
先ほどまで流すことができなかった涙が、自然とこぼれる。ポタリポタリと滴る水滴がネーヴェの顔を濡らす。
どうせ死んでしまったのなら、ネーヴェも弔うために燃やしてしまおう。妖魔の遺骸は人間に辱められることも多い。とくに吸血鬼についてはよくあることだ。
ネーヴェの横たわる床に、自分の魔力で術式を描く。そして、火をつけようとしたとき、その手をフランがつかんで止める。
「ネーヴェお姉様は死んでない。だから、燃やすのは待って」
それはどういうことなのか問いかけようとするが、レミリアは質問をする前に違和感を感じ取る。
術式を通して、私の魔力が吸い取られている。ハッとしてネーヴェを見ると、術式が輝いている。その輝きが術式からネーヴェの体に移っていく。
「・・・さぁ、レミリアお姉様。魔力つぎ込むの手伝ってくれる?」
縋る希望が見つかったとばかりに、レミリアは頷いた。