雪銀の吸血鬼   作:ぱる@鏡崎琴春夜

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煉瓦造の舘

 紅魔館は襲撃された。そして当主を含め、多くの者が死に絶えて弱体化したとした噂は妖魔の間を、憐憫や一攫千金の夢とともに駆け抜けた。

 

「いくらこんな噂流したところで・・・意味あるのかしら」

 

 どうでもいいとばかりに紅茶を飲むお姉様は、憂鬱げに呟いた。

 

「意味はありますよ。この噂を流しておけば逆らう者は逆らってきますし、力を貸してくれるような方はこちらにやってきます」

 

「にしては、ここ最近ならず者が頻発してるらしいじゃない」

 

 いたずらっ子の笑みを浮かべてお姉様はこちらを見てくるが、私は頬を膨らませて反論しておく。

 

「お父様の恩義が薄かったのか、薄情な妖魔が多いかのどっちかです・・・私は悪くありません」

 

 私の言い訳をお姉様は、ハイハイと流す。

 

「昼間は警備、夜は私たち自ら・・・忙しくてやんなるわ」

 

 そう言わないでくださいよと宥めて、私もココアをチョビチョビと飲む。

 夜は長く、そして涼しい春の夜更け。館の大部分は着実に修復されていき、今では見違えるような赤煉瓦の館になっている。

 早くの修復ができた理由は、妖精を雇用した事による人手が増加だ。自然が増えれば妖精が多く出現する事に気づいた美鈴はお手柄だ。

 今では立派な庭園を美鈴は管理している。庭園長の役職すらもらっている。

 

 

 

「・・・お姉様」

 

 賊の気配を感じてお姉様に告げる。

 お姉様は私が言うとともに立ち上がった。

 

「今日もまた馬鹿が一人・・・か」

 

 お姉様の手にはすでに朱槍が握り込まれている。

 場所はというお姉様の質問に、私は西の門付近だと言うとともに、お姉様はベランダから飛び降りた。

 

 

 

 月の光が照らす夜の庭に数人の獣人が降り立った。

 そしてその陰に応対する二つの陰が迎え撃つ。

 

 月の光は獣人の牙を妖艶に照らし、吸血鬼の方は朱槍を赤々と輝かせ、魔術式を煌びやかに飾り付ける。

 

「名を名乗りなさい賊、名乗る名もないほどの者がここに入ってこれるほどの防御術式じゃないわ」

 

 獣人はクックックッと一頻り笑った後、大顎を開いて高らかに名乗った。

 

「東の森の獣人カラル。カビカ族の長として貴様らを殺して、当主になる男だ」

 

 西の森は獣人が多く住まう森、そこに幾つか部族があると住人の一人が言っていた記憶がある。今は二、三人の族長が私たちに忠誠を尽くしていたはずだ。

 

「いいだろう。貴様らの挑戦受けてやる。こい」

 

 朱槍をクルクルと器用に回した後、その矛先を相手に向けた。

 カラルたちはその爪を立てて向かってきた。

 

 

 

 ギャリギャリギャリと金属をひっかくような音が耳に響くが、そんな物を気にしていたら私のお腹が引き裂かれてしまう。

 

第一術式再稼働(ワンコール)第二術式再稼働(トゥコール)第三術式再稼働(スリーコール)

 

 魔力吸収術式、行動阻害術式、生成術式の先に設定していた三つの術式を稼働させる。

 行動阻害と魔力吸収は私以外に効いてしまうが、お姉様をうまくフォローできれば問題はない。

 

 お姉様の槍はうまく間合いを調整して、カラルとその手下が懐に入り込まないようにしている。私が早く目の前の獣人を片づければ、二体二の戦いに持ち込める。

 

 手には短剣を握りこんで、相手の爪を弾く。

 獣全般に言えるが、相手に接近しなくては使えず、動けなくなる牙は諸刃の剣である。だから相手は絶対に有利な状況でなくては牙という技は使えない。

 

「憑依術式生成(メイク)、憑依開始(スタート)対象フランシス・ヴァーニー」

 

 すうっと頭の中に情報が入り込む。

 剣術や能力が元から自分の持っていた物のように感じる。

 あ?と獣人は疑問符を上げるが、即座に思考を切り替えたらしく、即座に爪撃を放った。

 

「永遠を貴方に」

 

 爪撃の軌跡に刃を合わせ爪を弾く、そして足下に短剣を生成し、弾いた時の反動でのけぞる力を利用して短剣を蹴り上げる。

 柄頭をつま先で押し上げ、獣人のお腹にずっぷりと刃が刺さる。

 獣人は鈍いうめき声を上げたが、その眼から闘志が消えることはなく、まっすぐこちらを見据えている。

 獣人は外傷に強いのは知れた話、いくらかの傷は軽傷にもならないだろう。

 

「嗚呼、生にこだわらない、その瞳は悲しい」

 

 私の一言に、闘志の瞳が怒りの瞳へと変わる。

 そして、うなり声を上げて向かってくる獣人の爪が私の頬を切り裂き、タラリと血が流れる。

 だが、感じるのは痛みではなく、生の充足感。血が流れて頬を伝わる感触はまさに喜びとなる。

 私は短剣を捨て、手に生成したロングソードを握りこむ。

 

 一切の隙間がない爪の連続攻撃をロングソードで受け流しつつ、次の一撃を畳みかける場所をねらう。

 そしていくらか弾いた時、フランシス・ヴァーニーの技術が爪と爪の隙間を見抜いた。

 爪の間をすり抜けた刃は獣人が動かしたもう一方の爪が阻もうとするが、その爪の間に刃を滑り込ませ、少し斜めに捻って活路を開く。爪が刃と擦れあって不協和音を奏でるが、そのまままっすぐ突き刺す。

 

 先ほどの短剣と同じ肉を突き刺す感覚が手に伝わる。

 ロングソードは爪と爪の間を切り抜けて喉を切り裂く。

 骨まで達した感覚を捕らえたら、即座に引き抜いて、のけぞった獣人を袈裟切りに切りつけた。

 

「先に行ってるといい。いつか私もそこに行く」

 

 私は血が付いたロングソードを投げ捨て、お姉様の救援に向かった。

 

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