感想等、活力になるのでよろしくお願いします。
私が戦いを終わらせ、お姉様のもとに戻ったとき、すでに勝敗は決していた。
しかし、それはお姉様の勝利ではなく、闖入者による引き分けだった。
闖入者は動物の毛と肉片、血の海のなかでニコニコと法悦の笑みを浮かべていた。
「人の戦いに首をつっこんで、そのすべてを殺し尽くすなんて、よくもまぁ・・・」
返り血に汚れながら、お姉様は魔力の槍を解き、館に戻っていった。
怒りも呆れかえるように、闖入者のフランドール・スカーレットは血の海の中で肉片をいじっていた。
数日の後、私はフランの部屋へ向かって歩を進めていた。
右手に燭台、左手に数冊の本をもって、石でできた地下道を進んでいく。
自分の靴が鳴らす音が反響し、自分以外が後ろからついてきているような不気味さを感じさせる。
「まったく、フランもこんなとこに潜んでないで、もっと館の中にいてもいいのに」
ゆらゆらと揺れる自分の陰と足音に少し恐怖を感じるので、足早に部屋へと向かう。
コンコンコンとノックをすれば、「はーい、どなたー」と間の伸びた返事が返ってくる。
「私ですよふらーん。貴方の大好きなおねーちゃんですよー」
先ほどまでの怖さを吹き飛ばすため、ちょっとだけ声のボリュームとテンションをあげる。
私の来訪は、フランにとっては以外だったようで、少し待っててと待機を命じられる。できればさっさと入りたいんですが、妹とは言え乙女の部屋の前で待てと言われれば待たなければいけないと、心の中でフランシスさんが言ってる気がする。
しばらく、扉の向こうからドタドタという音が聞こえるが、次第に小さくなって、最終的に扉へ歩く足音しかしなくなる。
ガチャリと鍵の開く音がして、汗を掻いたフランが扉を開けてくれた。
「ネーヴェお姉様、どうしたの?」
来るなら先に連絡して欲しいなという言外の一言を私は無視して、用件を伝える。
「貴方の狂喜を慣らしましょう!」
燭台をおいて、私は持ってきた数冊の本を見せる。
小説と詩、そして魔術についての教本。
フランの癇癪である狂喜がどれほどのうれしさで発現するのか、あと、フランの興味がある分野を発見するために、ジャンルもバラバラに本を持ってきた。
喜びの物差しを作り、段階的に克服させていく、気の長い訓練だ。
「・・・私より、ネーヴェお姉様の睡眠についての方が」
「あちらは、レミリアお姉様が研究してるっぽいので大丈夫です」
明らかに口元をひくひくさせて、逃げ道を探しているフランを座らせて、本を並べる。
「どれでもいいんです。まずはおもしろいと思うものを探しましょう」
まず読みたくないとは言わせない。絵本だろうが魔術論文だろうが、まずはきっかけ。そしてそこから楽しさを知ってもらって引きずり込む・・・いや、これは本好きを作る方法ですね。
フランは少し迷った後、劇の本を手に取る。
「うぃりあむ・しぇーくすぴあ?」
イングランドの劇作家ですよ。と説明をして、早速1ページ目を開かせる。
内容はロミオとジュリエット、言わずと知れた名作である。
ロマンスは喜びの感情が高ぶるのものではあるが、どの程度なのかを推し量らせてもらおう。
部屋の中を静寂が支配する。
活版印刷のおかげで、こうして多くの書物が世界に溢れる。もちろん風説が広まる速度が増したりする悪い点もあったが、それを差し引いても画期的といえるだろう。
フランのしてくる幾つかの質問に答えながら、私たちは本を読み進めていく。
二人の出会いに、愛の語り合い、両家の軋轢・・・おおよその世界というものを内包したその物語は、次第に残りのページ数を減らしていく。
美男子と美女の墓から伸びた植物が結びつくいたところで、物語は終わっていた。
「・・・お墓まで離されてしまう・・・しがらみってめんどうだね」
パタンと本を閉じたフランが、ぽつりとつぶやいた。
私は、持ってきた本をまとめる手を止め、フランに向き直って口を開く。
「ロミオとジュリエットは、命を含めて全てを捨て去ったんです。命なんて大事なものすら捨ててるんですから、しがらみも一緒に捨て去ってますよ。だから、二人の木が結びついたでしょう?」
そうだねとうなずくフランの頭をなでてから、扉のノブに手をかける。
「それじゃあフラン、またきますから、ちゃんとした片づけしてくださいね。クローゼットは服をしまうところですよ」
私がウィンクをして扉を閉めると、部屋の中からは雪崩が起きる音が聞こえた。