誕生
とある辺境に紅い館があった。
その紅い館は、強大な力を持つ吸血鬼の根城として辺りの町は怖れを抱くとともに、畏れられていた。
そしてその紅い館、紅魔館の主ドラクル・スカーレットは今、廊下を右往左往する最中だった。
爪を噛みながらある部屋の前を行ったり来たりの繰り返しで、とても広大な地域の妖怪や魔物を従える存在には見えない。
其処を通りかかる館の住民は皆、一様に大人しくしておいてほしいと思っているが、誰も言い出す勇気はない。
そんな目を向けられていることに気づかぬまま、若干イライラしてきているドラクル公の裾を誰かがグイっと引っ張る。
いったい誰だと、ドラクル公が睨むために振り返るが、其処には誰もおらず、相手を捜して視線を下に動かす。そして視線が相手を捉えたとき、そこには自分と同じ青みがかった銀髪の童女が頬を膨らませて居た。
「おとーたま、おとなちく、ちて」
辿々しく声を出す童女に、つり上げかけていた眉尻を下げてドラクル公はしゃがんで目線をあわせる。
「すまないなレミリア。私も不安なのだ」
自分の娘におとなしくしていろと言われたことに、恥ずかしさを感じながら、近くに用意しておいた椅子に座る。
「それは・・・れみりゃも、わかりゅけど」
とてとてと近づき、膝の上によじ登ろうとするレミリアを抱き上げて、膝の上に座らせる。
不安を感じているのはこの子も同じか、ならば父として気を紛らわせるべきだなとドラクル公は感じ、レミリアに話題を振る。
「なぁ、レミリア・・・妹か弟かはわからないが、新しい子の名前はどんな名前をつけるべきかな」
不安が和らぐように、レミリアのサラサラとした髪を優しく手で梳きながらドラクル公が訊ねると、レミリアは待っていましたとばかりに目を輝かせていった。
「ネーヴェ!ネーヴェがいい!」
イタリア語で雪を意味する単語をレミリアが叫んだ瞬間、分娩室となっていた部屋から、けたたましい産声が上がった。
それは姉に呼ばれたから声を上げたと思う程のタイミングで、ドラクル公はその出来事に、何とも言い表せない不思議な感覚を覚えた。だが、ドラクル公は感じた感覚を表情に出すことなく、頭の片隅に追いやる。
「さぁ、レミリア。新しい家族に会いに行こう」
レミリアは父の誘いに満面の笑みで頷き、膝から飛び降りる。
ドラクル公には、レミリアの背中から生える、小さなコウモリのような翼がパタパタと羽ばたく様を可愛らしい感情表現だと感じた。