図書館の扉を開けると、そこは見慣れた図書館ではなくなっていた。
「いったいどうなっているんですか・・・・・・?」
見たこともない蔵書が、本棚に詰め込まれ、場所が足りなかったのか、床や本棚の上に積み上げられている。
「あら侵入者かしら?」
本の壁の向こうから声がする。
聞いたことのない、か細い声だが、私にはその声の主に心当たりがあった。
「パチュリーさんですか?」
「あら、私の名前を知っている侵入者なんてびっくりするわね。誰でもいいわ助けてちょうだい」
なんのことかわからずに、本の壁を移動させて、声の主を捜したが、崩れた本の山から片腕だけでている誰かを見つけた。
「親指だけ突き立てて、なにしてるんですか?」
「あいるびぃばぁっく」
脳裏に何故か『デデン、デンデ、デン』という音が響くが、気にせず本の山から遭難者を救助する。
「あら、友人そっくりの侵入者」
もう一回埋めてあげようかなという気持ちを抑える。
「侵入者じゃありません。私はレミリア・スカーレットの妹、アルジェント・ネーヴェ・スカーレットです。お好きにお呼びください」
「妹は、死んでるのと頭おかしいのと二人だって聞いたのだけれど。まだ生きてるのね。お墓の下かと思ったわ」
「・・・・・・悪いのは、お姉さまですか? それとも貴方の口ですか?」
「しいていうなら、性根かしらね」
アハハと笑った後、魔女はせき込む。事前に聞いていた情報通り気管が弱いらしい。
あまりにもせき込むので、肩をかし、近くのテーブルまで運ぶ。
コホッと最後に少し大きめの咳をして、魔女は落ち着いた。ふと、机の上の新聞に二人して、目を向ける。日付は一週間前、私が眠りについて数日後であり、パチュリー・ノーレッジがこの館に移り住んだ次の日の新聞だ。
見出しには、火災で家屋全焼と書かれていた。
「・・・・・・やっぱりあの選択で正解だったのね」
魔女は、少しもの悲しそうに言った。その言葉になにか形容できない悲しさを覚えたが、それを問うことはできなかった。
「貴方妹がいるのよね」
「えぇ、とってもかわいい娘が二人、片方は一度眠ると死んだように、数日は起きてこない子。もう片方は、地下にこもりっぱなしの子よ」
紅茶をティースプーンでかき混ぜながら友人の吸血鬼は答えた。
「・・・・・・地下の子は時期を見て会わせるわ。少し精神が不安定なの」
友人は少し眼をそらす。これは、なにか言いたいことがあるときのサインだが、だいたいはやっかいごとのため、突っつかない方が吉である。
「蔵書の件はありがとう。あそこまで運び出せたのは幸いだったわ。それと、図書館の管理はこれから私が行うわ。前任者の作った目録とかがあると嬉しいのだけど、無いなら無いでいいわ。後、助手として何人かの悪魔を使い魔として召喚させてもらうわね。妖精じゃあ、埒があかないの」
レミィは少し、気圧されたような表情だったけど、気にしない。
「要望だけはいっぱいあるのね。まぁ、好きにしてくれていいわ。ただし、図書館は私のテリトリーじゃないの。詳しいことは妹たちに聞いてちょうだい」
私はわかった。とだけ返して、紅茶を楽しむ。
しかし、すぐに紅茶を楽しむどころではなくなってしまう。
「あと、これについてあなたの見解を聞きたいの」
そういってレミィは私に数枚の紙を渡してくる。
これはと目線で問うと、レミィは説明し始めた。
「一枚目が私の妹で、よく眠ってる方の体内魔力量の測定結果よ。右が起きているとき、左が寝ているときよ。二枚目はあの子の周りの空気中魔力量の変化。一枚目と同じで寝ているときと、起きているときの二つ。そして最後が、あの子のパーソナルデータよ」
「・・・・・・睡眠中の空気中魔力量は相当薄いわね。時間が経つにつれて体内魔力量が増加しているから、おそらく吸収して貯めているのかしら。逆に起きているときは、体内魔力量が減少している。なんというか、電池で動く玩具みたいね」
それからいくつかの見解を述べた結果、レミィは私にとっても大きいやっかいごとを背負わせた。
「おもしろいじゃない。手を貸してあげるわレミィ。魔女との契約なんてどうなるかもわからないのによくやるわね」
数日後、レミィの言っていた妹と出会った私は、よりその奇妙さに興味を注がれた。しかし、レミィに本人にはこのことが秘密だと言われてしまったからには、おおっぴらに聞けない。まぁ、時間はあるでしょうし、気長にやりましょう。