『極東の島國に幻想郷という隠れ郷あり。この地、特殊な結界をもって現世と切り離し、妖魔の存在を守りし土地なり。文明遅き東方の地故、妖魔文明の光から逃れること成功す。彼の地、妖魔の幻想の郷なり』
紅魔館地下図書館所蔵 【東方世界ノ妖術ニツイテノ風聞】 より
「極東の島国の隠れ里? それもまだ残っている?」
馬鹿馬鹿しいと一笑に付すこともできるが、文明の開きが遅かった東洋、それもあまり列強と接することなく、生きていた島国なら、神秘の力は強く残っているだろう。
だが、今はだいぶ文明が進み、眠り獅子をはり倒して、局地戦なれど、氷の皇帝の尻をけっ飛ばした。文明の光は、力強く輝いているのではないか。
「その風聞録、かかれたのはだいぶ前でしょう。今も残っているの?」
「少なくても作者は消えてる。幻想郷への干渉の術式は残ってはいるし、試しに術式を起動して干渉先を調べてみたけど、確かに反応は返ってきている。書かれた頃の理想郷から変わっているかもしれないけど、この国に居続けるよりはマシじゃないかしら」
「マシかもしれないし、マシじゃないかもしれない。この件は慎重に歩を進めるべきことよ」
確定していないものに命を張る段階ではない。だが、希望は見えた。
「東洋の地ですか? 行ってみたことはないですよ。でも美鈴なら何か知っているかもしれません」
本を読んでいた私に、パチュリーが東洋の地について聞いてきた。どうしてなのか聞いてみると、何でも新しい研究の為に必要らしい。
「東洋の吸血鬼を憑依させる・・・・・・? いえ、全く知らないものは喚んだりできないので何とも。やっぱりこの館で東洋について知るなら美鈴が一番です」
確かに憑依したら、一定の記憶は流れ込んできますが、ほとんど断片的で、役に立たないんですけどね。
パチュリーは、今研究に役立ちそうな情報をくれないでほしいわねと言って、美鈴のもとに行ってしまった。
「幻想郷ですか? えぇ、名前だけなら何度か耳にしました。割と最近ですけど・・・・・・」
ネーヴェの助言に従って、この館の古株である美鈴に話を聞くが、聞けたのはいなくなった魔法使いの話だけだった。
「その魔法使いがあなたに何度か聞きにきたっていうことは、あなた、東洋の術式とかは詳しいの?」
「一応それなりには。陰陽道とタオと八卦はわかります」
「上出来じゃないの。しばらくの間、手伝ってもらうわよ」
助言だけとはいえ、聞きにきた内容から何か手がかりがつかめるかもしれない。
幻想郷が本当に妖魔のユートピアであることを祈ろう。