館の敷地を多くの妖魔が埋め尽くしていた。魔女、獣魔、妖精、その他たくさん・・・・・・付き従う妖魔は五百、全ての者が新天地に希望を見ていた。
「すごい人数ですね。昔の頃のようです」
棺桶から半身を起こし、窓から庭を見下ろしたネーヴェが言った。
「昔よりも強いわよ。もうあんなことは起こさせないんだから」
私はそういった後、ネーヴェの頭を撫でつつ、眠りにつくことを促す。
「さぁ、ネーヴェ、そろそろ限界なんでしょ? 大丈夫だから休んでいなさい」
わかりましたとネーヴェは、もう一度窓の外を見た後、棺桶に身を倒した。
「それで、どうやって幻想郷へ行くのかしら?」
「幻想郷の結界と陰陽の術式の応用よ」
パチュリー曰く、幻想郷は二重の結界を張り、外界と隔てている。そしてこの結界の片方は、忘れられていくモノを引き寄せる力があるらしい。その力を応用して、位置を特定し、陽である外界から陰である幻想郷に紅魔館を反転させてしまうという方法が今回の作戦らしい。
「一応聞くけど、これってちゃんと実験したのよね?」
パチュリーは静かに目をそらした。
「聞け、同胞よ」
テラスから、庭の妖魔たちに語りかける。
「我らが紅魔は、今、忘れ去られゆくこの地から去る!」
全ての種族が、人の地に見切りをつけ、新たなる地に居を移すと喝采を送る。
「人は愚かにも、幻想の恵みを忘れ、我らの存在を忘れようとしている。ならば、幻想の加護を絶ち、我らは去ろう!」
新天地の幻想の郷を支配し、新たなる故郷とする。もちろんそれも目的だ。だが、それはネーヴェのためだ。幻想の加護を誰より必要としているのは、ネーヴェ・・・・・・もしくは、ネーヴェのためと動く私なのだろう。
「さぁ、同胞よ! 幻想のための楽園は我らの手に握る!」
最大の喝采を背に、私は館に戻った。
沈んだ意識は、白い世界で呼び起こされる。
「起きるがよい。汝はこの愉快な催しを妾に説明する義務がある」
「ないですよ。女王はちゃんと聞こえていたでしょう」
つまらぬのうと、女王は言って、一人で独楽遊びをしている。いったいどこでその知識を手に入れたのか・・・・・・
「これからは、新天地ですって。ここよりも空気が綺麗で、魔力もいっぱいある凄い土地らしいですよ」
「それはよいのう。やはり、空気は綺麗なところに限る」
女王は、その後、にこにこした眉をひそめていった。
「じゃが、今死んでおると、不味いやもしれぬ・・・汝、しばし妾は、消費を最小まで押さえてやる、その意識を覚醒させよ」
私が何か言う前に、ではなと女王は消え、私は目が覚めた。
遠い過去の夢、しかし、最も身近に感じる過去。
断末魔の声に、怒号、雄叫び・・・・・・今、私は冷たい氷の中で泣いている。
ハッと目を覚ますと、棺桶は開いていた。
「私は・・・・・・」
時計は眠ってから、十数分しか経っていないことを教えてくれる。
窓の外には相変わらず妖魔の集団が、猛っていた。
コンコンと戸がノックされ、私が答える前に、戸が開いた。
「あれ、ネーヴェお嬢様、起きてらっしゃったんですか?」
「えぇ、もう少し、この館が幻想郷に行き着くまでは、見ていたいんです」
そうですか、では私もお供しましょうと、美鈴は言った。
「不安ですか?」
私は首を縦に振る。
「不安ではないとは言えません、なにせ引っ越しなんて初めてですから」
美鈴は、それだけじゃないでしょう。と聞いてくる。
「・・・・・・先ほど、少し悪夢をみたせいか、なんだか庭にいるみなさんが、あの人間たちと重なるんです」
今も窓の外では、野望に満ちあふれた猛りが感じられた。
そのとき、頭の上に暖かい手が触れた。
ゆっくり、ゆっくり、撫でられる感触は心地が良い。
「大丈夫です。私が、この門を、館を護りますから」
美鈴の手は、大きく、柔らかい、優しさを知る手だと思った。
「さぁ、始まるみたいですよ」
美鈴の声で、私は窓から庭の方を覗く。
窓の外では、庭や門の外にかけて、幾何学的な模様が光り出していく。
その光景に、私は美しさを感じていた。
「夢は現と切り離され、夢の道は万物を繋ぐ鎖となる。幻想の夢と繋がれ、我らが夢よ」
意識の底で、何かがつながった感覚を得ると、ほっと一息をつく。これで第一段階は完了する。
これで位置は捕らえた。あとは幻想郷まで、この館を繋がりにそって、移動させればいい。
「無情の現世に忘れられ、今形残さんと消える館のモノよ。我らが身は無常なれど、皆、妄執の一団なれば、夢上の鎖をたどれ」
現実にどれほどの間があろうと、夢の間は距離が無い。この館は今夢の世界に入り、幻想の園に着こうとしている。
ここまでが第二段階、着いたとしてもそれは現実の位置、それをひっくり返さなければならない。
外で歓声が聞こえる。ということは、到着したのだろう。小悪魔たちに逸って、外に飛び出す馬鹿がいないように、押しとどめさせているが、さっさとした方が早いだろう。
「我らは、幻想、現実にあらざる者たち。ならばその存在は、幻想の世界に逆転す!」
ぐるりと、体が180度回転する感覚を受ける。正直気持ち悪い。だが、この感覚があるのならば、それは成功に違いない。
「・・・・・・詠唱なんてもういやね」
幻想郷への到着を見届けると、私は棺桶に戻り、眠りについた。
「妾の予想道理じゃったな」
帰ってくる(?)と女王は、得意満面の笑みで、開口一番そういった。私はどう言うことですと尋ねた。
「あのまま眠っておったら汝は、そのままこの世に帰ってこれなくなっておったはずじゃ。逝ってきた場所に戻ってもその体が無くなっておれば戻れずじまいで、魂の消滅じゃな」
「やばいレベルで、生命の危機だったじゃないですか」
女王は笑ってごまかした。