雪銀の吸血鬼   作:ぱる@鏡崎琴春夜

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姉の思い

 少し悪趣味に感じる紅い壁紙の続く廊下を、ある一カ所を目指して進む。

 目的地の部屋の前につくと、その小さい体を精一杯のばして扉をノックする。耳を澄まして返答を待つと、扉の向こうからはどうぞと優しい母の声がする。

 ノックしたときと同じように体を限界までのばし、ドアノブを回す。

 

「おかーたま。ネーヴェは?」

 

 そう訊ねると母は、こっちよと手招きをする。

 ベビーベッドに横たわる小さな命。父や自分のような水色よりの銀髪ではなく、正真正銘の銀髪であることを伺わせる産毛が蝋燭の明かりで少し輝いていた。

 父との意見のぶつかり合いと母による調停の末にアルジェント・ネーヴェ・スカーレットと命名された妹はすやすやと眠っている。

 なお、未だに名付け騒動は尾を引いており、父はアルジェント、私はネーヴェと呼んでいた。・・・母は気分によりけりと言うところだ。

 

「アリシア、アルジェントの様子はどうだ」

 

 ノックとともに父の声がする。母はどうぞと返し、その声の後に扉が開かれる。

 父は私に目を向けた後、ネーヴェに目を移す。今は愛すべきものの順番が違うのはわかっているからあまり寂しくはない。

 

「銀髪・・・私の血が若干濃いと言うことだな」

 

 ネーヴェをベビーベッドから抱き上げた父は独り言に近しい言葉をこぼす。それに母は、そうですねと頷く。

 私の髪の毛は父そっくりで、ネーヴェはその色が薄くなっている。母は太陽のような金髪なので、もし次の家族が増えるときは金髪にもっと近くなっているのでは無かろうか。

 そんな風に考えていると、騒がしくなってきた周りに反応して、ネーヴェはぐずりだす。父は慌て、母はその様子をニコニコ見つめている。母は少し気質がマイペースというかおっとりしている。私は仕方なく四苦八苦して扉を開け、外で立ちながら熟睡するという奇妙な妙技を持つ乳母を呼ぶ。

 飛び起きた乳母は、目元をこすりながら部屋に突入していく。

 だが、私がこれで大丈夫かなと思ったとき、部屋の中からネーヴェの鳴き声のほかに父の驚く声がプラスされ、こちらへ走ってくる音が聞こえる。そして、バンッと力強く開けられた扉から父が顔を真っ赤にして飛び出していく。

 私がその隙間から見たのは、トロンとした目で、搾乳のために片方の乳房を露出する乳母と、お腹を抱えて大爆笑している母の姿だった。

 走っていった父の顔が壁紙に勝るとも劣らぬ赤さになってたのは、怒りからか恥ずかしさからなのか、私には理解する気にならなかった。

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