クリスマスは我らが敵、聖キリストの生誕を祝う日である。ただし、クリスマスには生まれていないらしい。ホントは九月か十月頃なようで、ややこしいことこの上ない。
まぁ、そんな聖なる光あふれる祝祭には、悪魔の影もまた濃く浮き上がるのである。
「今年こそは、ネーヴェと一緒にクリスマスが過ごしたいの。ということで、今年もやります。あいつの封印作戦!」
「「おぉー!」」
美鈴やパチェ、フランなど館の住民が一斉に鬨の声を上げる。
「降誕節に現れる吸血鬼、化け物。ロバの耳と赤い目、長い爪を持つ・・・・・・それがカリカンザロスじゃ。降誕節以外は虚数の世界を漂っているというが、真偽は不明、観測できぬからのう」
女王はケーキをケーキナイフで切り分けつつ、解説を行う。
「それがどうかしたんですか?」
紅茶をカップに注ぎながら私は、女王の発言の意味を探る。
「ふむ、言ってなかったがな。そのカリカンザロスのうちの一匹が、降誕節の間、汝が眠っているのをよいことに、その体で好き勝手しておる」
「大問題じゃないですか! なにのんきにケーキ切り分けてるんです!」
「いや、妾は困らぬし、楽しいから・・・・・・」
ティーポットを置き、頭を抱える。
「館の奴らも最初は手を焼いていたが、最近は撃退して汝を呼び戻しておるの」
「道理で、部屋が荒れてるわけですね・・・・・・」
ほれ、汝にじゃと切り分けたケーキを女王は渡してくる。
「汝の能力は妾の権能、今は楽しいからよいが、賊が勝手に使うようでは困る」
「善処いたします」
白い世界のクリスマスパーティーは続く・・・・・・
ギィと蝶番が軋み、中から影が起きあがる。
「白い髪が台無しね。茶髪もかわいいけど、やっぱり似合わないわ」
声に反応して影は、棺桶から飛び出し、臨戦態勢を作る。
腰を落とし、力を抜いた両椀が揺れるのに合わせ、大きな鍵爪がふらふらとしている。
頭部から生えるロバの耳についたリングが、キラリと光った。
瞬間、声の主を見据えていた紅い両目がカッと開かれ、姿がフッと消える。
ガキンッという爪と槍がぶつかり合う音が響く。
そして、一歩下がった影が床を蹴る。
爪と槍がぶつかり合う音が五度続く。
爪を弾かれ、蹴りをいなされたカリカンザロスは、飛び上がって天井を蹴り、重力と速度を掛け合わせた一撃をレミリアに浴びせる。
レミリアは膝をつき、槍を横にしてその大きな鍵爪を受け止める。
カリカンザロスは咆哮を上げ、さらに力を込める。
「いくらやっても同じことよ、このアンポンタン!」
押し込まれた爪を、馬鹿力で押し返す。
「・・・・・・う、る。らど・・・てぃーる。け、ん」
なっ、と驚く暇もなく、押し返した爪が再び押し込まれる。
「ルーン魔術なんていつの間にッ」
学んでいるのか、ネーヴェの知識を流用したのか、どちらかは分からないが、厄介なことに代わりはない。
「魔女はまだかしらねッ!」
槍を傾け、爪を滑らせる。
ワンホールぺろりと平らげた女王は、ティーカップを置き、ため息をつく。
「獣風情がルーンまで・・・・・・妾は、少しばかり頭に来た。叔父上が犠牲を払った物を畜生に使われるのが我慢ならん」
なにをする気か聞く前に女王は魔術を行使する。
「氷の茨が汝を縛り、その一時の勝利を崩壊させる。汝を縛る妾は冥界の王、死と再生の管理者である!」
女王の指が空間に文字をつづる。すると、白い空間の地面から太く透き通った茨が空へ突き上がって行った。
「・・・・・・ルーン魔術なら刻むだけでいいのでは?」
「雰囲気じゃ雰囲気。大した血統もない獣畜生には威圧が必要であろう」
突然地面から氷の茨が生え、カリカンザロスが支配するネーヴェの体へ絡みついていく。
「これは・・・・・・」
茨から逃れようと体を動かしもがくカリカンザロスだが、堅く太く作られた茨はその動きを完全に縛り続ける。
「レミィッ! 封印の礼装できたわ・・・・・・ってなにこの状況」
「私にも分からない。ただ、こうなったとしか」
理由は分からないが、動きがとれないなら好都合。
「それで、いったいどんなのができたの?」
これ、と差し出されたのは靴下、私は思わず疑いの眼差しを向ける。
「カリカンザロスの予防として人間は踵に焼き印をするのよ。でもそこは吸血鬼の回復力で回復されちゃいそうだから、靴下にしたわ。クリスマスにぴったりでしょ?」
「えぇ、時期的にはぴったりね。だけど一つ忘れているわ。誰が履かせるの?」
パチェはしまったという顔を、ゆっくりと笑顔に変えて、グッドラックとハンドサインを送ってきた。
私は溜め息をついて、机に置かれたペン置きから五、六本のペンを取り床に投げる。
「数えなさい。カリカンザロス」
目を点にしたカリカンザロスは、ネーヴェの口を通して、一、二と数えるが、三を数えることができない。
「さっ、今のうちに履かせるわよ」
二進法なんてものを思いつかない内に履かせなくてはならない。
なんだかシュールだなと思うが口には出さないことにした。
「体の節々が痛い・・・・・・」
起きあがると身に覚えのない怪我がいっぱいついている。
「悪いとは思うけど、仕方のない犠牲よ。コラテラルよコラテラル」
「コラテラルならしょうがありませんね」
よっこいしょと立ち上がると、怪我に気を取られて気づかなかった足の暖かさに気づく。
「今年のクリスマスプレゼントは靴下ですか? あっ、素敵な柄ですね」
「えっ、えぇ、暖かいでしょ? 踵の部分にも柄が入っているから、必ず位置に気をつけてちょうだい。それと、替えのに履き替えるときも片足は必ず履いてる状態にして」
「・・・・・・? まぁ、わかりました」
姉の伝える注意事項に、少し困惑しながらも、折角のプレゼントなのだしありがたく受け取っておく。
「さぁ、着替えてパーティーよ。 準備は万端なんだから」
「えぇ、楽しみにしておりますお姉さま」
我々はキリストの敵、賛美歌は歌わないし、お祈りなんか死んでもする気はない。
クリスマスの夜は豪華な魚料理に、おいしいパンと葡萄酒をお腹いっぱいになるまで食べ、贈り物をして富を蓄える。
これはとある大工とその父親への当てつけで行うお祭り。
盛大に、とっても賑やかに行う当てつけである。
「「「ハッピー! ホリデー!!」」」