紅い館はいつも騒がしい。それが私の一番最初の記憶に刻まれたことだった。
魔女は部屋で薬品実験をして爆発させるし、人狼はよく吼える。妖精はいつだって笑い声を響かせていた。
・・・そして、とある親子が言い争うのが、ここ最近の賑やかさの大部分を占めていた。
「アリーチェよ!」
ドアノブカバーにも似た帽子をかぶった私の姉が、羽をバッサバッサと羽ばたかせながらそう叫ぶ。
「いいや!ジャンヌがよい!」
翼を変化させたマントから魔力をあふれさせながら父がそう言い返している。
名前の類で争うのは、この二人だとよく見る光景だ。今回は妹の名前付けで言い争っている。だが、可愛い妹をジャンヌ・アリーチェ・スカーレットなどと言う珍妙な名前にするわけにはいかない。
私はスーっと息を吸い込み、大声を張り上げる。
「けんかはぁ・・・だめぇ!」
ビリビリと肌に感じる大声。二人は驚きの感情を乗せた目線をこちらへ向ける。
「「どっどうした、急に大声出して・・・」」
なかなか無いことに二人は固まるが、気にせず私は続ける。
「いもーとの、なまえはけっちぇー、ちました」
いつのまに・・・と言うように呆れと驚きを足した表情で私をみる。
「おかーたまときめまちた。ふらんどーりゅでしゅ」
この辺りになると二人は、しょうがない諦めようと言う雰囲気になる。この二人のネーミングセンスに若干の不安を感じながらも考えないように決めた。
ねぇアルジェ。と母が声をかけてくる。
なにと返せば、母はベビーベッドに眠る妹の頭をなでた後、こちらに目を向ける。
「貴方には妹ができました。だからこの言葉を言わなければなりません」
たとえ、呪詛のようなものになるとしても。と母は言った。
「今のところ家督の継承権は第二位、この世の中どう転ぶかわからないのですから、貴方が継いだとしてもおかしくありません。それを心に留めておきなさい」
わかりましたと答える。
「そして、今は家族が貴方やフランドールを守護しています。無論これからもする気ですが、もしもの時は貴方が妹を守りなさい」
わかりましたと答えるしかなかった。ここで拒否してもどうにもならないのはわかっている。
母は、さぁ部屋に戻りなさいと促す。私は頷いて、部屋を出た。
「あぁ、ネーヴェ。お母様と何を話していたの?」
部屋の前には姉が立っていた。顔色は少し暗く、質問の答えは答えなくても知っているだろうと思えた。
「かぞくの・・・かくごの、はなしでしゅ」
私はそう答えて、その場を立ち去った。