雪銀の吸血鬼   作:ぱる@鏡崎琴春夜

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悩みと赤毛と月夜

 私は言葉を飾らなければ落第生だ。

 お姉様もフランも完全な形で能力が覚醒しているわけではない。だが私はその能力が片鱗を見せず、一切の糸口はつかめないままで、吸血鬼という種族としての能力もあまり使いこなせていない。

 お嬢様は魔力量が桁違い且つ複雑な回路なんです。だから能力の発露が遅いのですと美鈴は慰めてくれるが、そうだとしても発露が遅いことに違いはない。

 初めての飛行から一年経ち、そこそこの飛行ならできる様になったが、高速移動や精密な飛行はまだ少々心許ない。

 

「ネーヴェ、貴方の悩みはわかりますが、別段貴方ができていないと言うわけではありませんよ」

 

 お母様は私を呼んでそう話し始めた。

 

「まず、能力自体が種族の能力から派生したものと、その人・・・人?まぁいいです。その人固有の能力という場合があります。貴方のお父様の能力である血液を武器に変える能力も念力の派生によって生まれたのです」

 

 知らなかったお父様の話に私は驚く。お母様はその様子にカラコロと笑いながら話を続ける。

 

「貴方だって周りのものを変化させることはできるでしょう?」

 

 お母様の問いかけに頷き、手の平を広げてお母様が見たいであろう能力をどうにか行使する。

 パッと手の平の上に雪の結晶が生まれる。見た目は綺麗だが、なんと言うことはない。ただ、周りの熱を魔力に変換しただけである。そうすることによって、熱がなくなって、冷まされた空気中の水分が凍っただけである。

 

「貴方は内側の魔力を操るのが苦手なだけで、外側の魔力リソースは普通に使えるの。だから、何の引け目もないの」

 

 お母様はそう言って、まっすぐ私を見つめる。私はその眼差しをキチンと受け止めきれずに目をそらした。

 

「・・・・・・まだ、受け止めきれないのかもしれないわね。いいわ、少しずつ向き合っていけばいいのだから」

 

 

 

 とぼとぼと廊下を歩く私に声がかかる。

 

「少し、星を見ませんか」

 

 美鈴ははにかみながらそう言った。

 私は少しだけですよと返しながら、差し出された手を取った。

 

 

 紅魔館の屋上、見上げる空は真っ黒の皿の中に、いくつもの光が浮かぶ世界が広がっていた。

 美鈴は地面に座って、顔を上に向けて言った。

 

「・・・私は夜が好きなんです。星を眺める以外にも楽しみはいくつもありますから。ただ、部屋で耳を澄ますだけでも良いですし、涼しい空気に身をさらすのも、また乙なものです」

 

 星の世界に見とれる私に美鈴の言葉が響く。確かにそうですねと返すと美鈴は、後はお酒もいいんですけどねと続ける。いじけた子供のような横顔につい笑みがこぼれる。

 

 しばらくそのまま星を眺めていると、美鈴はぽつりぽつりと語り始めた。

 

「ネーヴェお嬢様に何か悩みがあるのはわかります。でも、それが私に話して解決するものでもないし、他人に助けてもらって良いものかも私にはいまいち判断できません」

 

 美鈴のスタンスはお母様の『話し合って妥協点を見つけ、方法を言って聞かせて、行動を承認する』というスタンスと異なり、『言い分に耳を傾け、一度言い分の方法でさせてみせ、できたら誉める』がスタンスだ。だからその分、同じ問題でも別種の回答がでる。

 

「私は、お姉様やフランと比べて、これと言って目立つところもありません。この貴族社会では、私はお姉様のスペアです。だから、もし私がそういうときに直面すれば自分の役目が果たせることはできないです」

 

 私は中途半端な存在、完全なスペアになることはできず、かといって全く別な存在になることもできない。

 

「では、ネーヴェお嬢様・・・貴方がしてみたいこと、何かありますか」

 

 美鈴がそう問いかけるが、私は首を横に振る。何かできる才能は持ち合わせていないのだ。

 

「私にはできることはないですし、してみたいことも今はありません」

 

 美鈴は、顔をこちらに向けてにっこりと笑う。

 なんですかその顔と言うと、美鈴は一回胸に手を当てて考えてみてください。できることもしたいこともないのなら何をすべきか、聡明なお嬢様にはわかるはずですよ。と言った。

 

 できることもなく、やりたいこともない。ならばどうすべきか。深呼吸をしながら、思い浮かべる。

 

「・・・・・・わかりましたよ美鈴。できることもなく、したいこともない私がするべきこと。知見を広げる。そうでしょう?」

 

 美鈴は、それが正解と言わずに、ただ、やってみましょう。とだけ言った。

 

 

 

「・・・さぁ、夜は冷えますから。ここらで部屋に戻りましょう」

 

 自分なりの答えを得てから少しして美鈴が言った。私はその言葉に同意して屋上から屋内へ戻る。

 

「ネーヴェお嬢様、貴方は私が腹を痛めて産んだ子ではありませんが、それでも私の子供のようなものです。何かあれば私に命じてください」

 

 別れ際に美鈴はそう言った。

 

 

 

「こんな感じでいいんですかね・・・なんか奥様に反逆するような台詞回しな気がしましたけど・・・」

 

 赤毛の乳母は愛しい主と分かれてから、一人つぶやく。

 廊下の陰で上出来だったと幽かに賞賛したレミリアの言葉に気づかぬまま・・・

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