夜明けの頃、館がにわかに騒ぎだす。
誰かの叫び声が響き、その音で飛び起きる。
「ネーヴェ!起きたのね。見ての通り緊急事態よ!」
魔力で作った朱槍を携えたお姉様が、私を棺桶のベッドから引っ張り出す。
一体なにがと問いかけると、お姉様はそれは後と叫び、扉を蹴破って部屋を脱出する。
叫び声が聞こえていた時点で覚悟はしていたが、部屋の外は凄惨な状況が広がっていた。
死屍累々、目に映るのは、人妖入り乱れた死体と、どす黒く濁った魔力だまり、そして壁や床をさらに紅くする血の流れ。
呆然とする私が立ち止まらなかったのは、ひとえにお姉様が手を引っ張ってくれていたからだろう。
やがて、襲いかかる人間をなぎ倒しお姉様が突入した部屋は、当主の部屋だった。
「一応ここなら安全よ」
お姉様は呼吸を整えながらそう言った。
「今のうちならと言う但し書きがつくがね。レミリア」
ガチャリと扉を開けて入ってくるお父様は、小脇にフランを抱え、背中にお母様を背負っていた。
一体なにが起きているのか、私はお姉様に訊ねる。だが、その質問はお姉様よりも先にお父様が答えた。
「人間の襲撃だ。教会勢力がいよいよ本腰を入れて、この辺りの妖魔を滅ぼしにかかったらしい」
この辺りの村々の住民は全て襲いかかってきてるぞ、とお父様は続ける。
夜が明けてしまった今では、我々は外に打って出ることもできない。後に吸血鬼の弱点として余りにも有名となった日の光がある状態では館から追い出すことが限界だろう。
当主の部屋に逃れてきた住人は、ほとんどの者が手傷を負っていた。ウェアウルフにウィッチ、ドワーフ、エトセトラ・・・それらの者が負った傷の多くは下半身に集中していた。それを見て、元々人であったお母様は、人の恐ろしさを数と残虐さだと言っていたが、その通りであったと痛感する。動けなくさせて、ゆっくりととどめを刺す。残虐さを強く示す行動だ。
避難してきた住人に、獣人の妖魔が多いのも、手傷を負っても力強く動ける獣の因子が、その命を生きながらえさせているからだろう。
「そういえば、美鈴はどこです?」
ふと、気付いたことを口に出す。自分がここへやってきてからそろそろ一時間経つが、自分によくしてくれるもう一人の母的存在である美鈴の姿は今だにない。
「お嬢様、美鈴殿は勇敢にも、お一人で外に打って出られました。この数です・・・恐らく命は・・・・・・」
近くにいたおそるおそる魔女が告げる。
仕方ないと言う諦観が見て取れる言葉に、私はそうですかとしか返せなかった。