ソードマンと呼ばれた者について   作:諸葛ナイト

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2人の過去とこれから

【1999年 3月10日 カリフォルニア州】

 

 ナフトがBETAの考察。もとい妄想を話してから30分。

 その間に彼らに会話はなかったが悪い雰囲気ではなかった。

 しかしその心地よい静寂を先に壊したのはシルヴィだった。

 

「……その、中尉」

 

「ん?どうかしたか?」

 

「え、えーっと、その……よかったら、で良いんですけど……中尉のご両親ってどんな人ですか?」

 

 その唐突な質問に疑問符を浮かべたが特に答えにくいこともないのでナフトは素直に事実を口にする。

 

「かなりの反日家だよ」

 

「え?そうなんですか?てっきり親日家だと……」

 

 本当に驚いたような表情を浮かべるシルヴィにナフトは苦笑いを浮かべながら首を横に振る。

 

「何かあれば日本を引き合いに出す人達だったよ。罵倒や侮蔑の言葉もセットで。……だが、そのせいかもな。日本に興味を持ったのは」

 

 両親がそこまで蔑む国、それに興味を持ったから調べ始めたのは事実。

 そして、それが原因で74式長刀や戦術機の近接戦闘を映像で見るようになった。

 

 少したち、訓練校に入学すると一般人よりも少し詳しく調べることができ、そこで日本人の異常さを知った。

 

 一体どういう生き方をすれば戦術機も含んで初めて完成する長刀などを設計できるのか。

 しかもその汎用性と完成度の高さは異常としか言えない。

 

 BETA戦では弾切れは日常茶飯事だ。無駄撃ちを避けてもどうしても長期戦になることが多いため弾はなくなる。

 そこで74式長刀を使い始めた。

 

 突撃砲よりも確かにリーチは劣るが耐久性はピカイチだ。

 最初こそその独特な特性に四苦八苦していたが元々個人的に調べていたため半年ほどで使えるようになった。

 

 しかし、それを知った両親は今まで見たことがないぐらいに怒った。

 

「あんな卑怯者どもが作った物を使うなど貴様はアメリカ人の面汚しだ!」

 

「なぜBETA相手に近接戦などを仕掛けるのか!あんなことはバカがすることだ!」

 

 などなど罵倒の言葉がいくつもぶつけられた。

 

「まぁ、そのまま言い合いになってな。くだらない理由で何くだらない事言ってるんだって言ってしまってな。それからは親とはほぼ疎遠だ」

 

 確かに日本にも責められるところはある。だが、それはこのアメリカも同じではないのか?

 いや、アメリカだけではない。どの国にも良いところと悪いところはある。

 そうやって悪いところばかり見て良いところを全く認めないなど、子どものわがままと何が違うのだろうか。

 

 ナフトはそうやって話していたところでふと思い至った。

 

「もしかしたら、私は親に反発したかっただけなのかもしれない」

 

 子どものわがままのようなことしか言わない両親に辟易していたのかもしれない。そんな親の言葉など信用したくなかっただけなのかもしれない。

 今更そんなことに至って何になる。と小さく自虐的な笑みを浮かべる。

 

 何も感想が返ってこないのを不思議に思い隣を見るといつのまにかシルヴィがカウンターに突っ伏し、眠っていた。

 

 ナフトは肩をすくめると会計を済ませてバーを出た。

 

◇◇◇

 

 バーを出てからナフトは基地の通路をシルヴィを背負いながら歩き、彼女の部屋の前に来ていた。

 

「少尉。鍵はどこだ?」

 

「むぅ〜」

 

 しかしシルヴィは頭の位置を少し変えただけで鍵を取り出す様子はない。

 

 おそらく服のポケットを探れば出てくるのだろうがいくら寝ていたからとはいえそんなことをして良いのだろうか?と疑問が生まれた。

 悩むナフトのすぐ後ろから気持ち良さそうな寝息が変わらず聞こえている。

 

「……仕方ない、な」

 

 ナフトは息を吐き、肩をすくめると自室へと向かった。

 

 

 

 シルヴィの部屋から少し歩き、自室の前に来るとズボンのポケットからどうにか鍵を取り出すとそれを使い部屋へと入る。

 

 入ってすぐにあるパイプベッドにゆっくりとシルヴィを寝かし、掛け布団をかけた。

 

「これで……よし、と。さて、私はどこで寝るかな」

 

 いや、とりあえずはシャワーでも浴びて酔いを少し覚ますべきか。と思いベッドから離れようとした時、服の裾を掴まれた。

 ゆっくりとその方向を向くとそこには目を開けたシルヴィがいて、ナフトを見上げていた。

 

「中尉は、何もしないんですね……」

 

「何かを期待していたような言い方だな」

 

「ダメ……ですか?」

 

 シルヴィの目は確かに潤み、その顔は酒以外の理由で真っ赤になっている。

 ゆっくりと上半身を起こしナフトの目をしっかりと見つめながら意を決して言った。

 

「私は、私は中尉が好きです」

 

「……とりあえず、シャワーでも浴びないか?少し酔いを覚ました方がいい」

 

「はぐらかさないで下さい!」

 

 シルヴィは叫んだ。

 ナフトの服の裾をさらに強く握りしめながら続けて言う。

 

「私は中尉が、ナフト・アーリストが大好きです。それに対する答えは、ないんですか?」

 

 言葉でつめられているというのに、酒を飲んだ後だというのに不思議と思考は比較的冷静だった。

 

「……私は本気で誰かを好きになったことがない。軍に入る前にも何人かと付き合ったことはあるが、好きという感情がわからない。だから君が私のことを好きだと言っても私は君をどう思っているのかわからない」

 

 どう思っているのか自分ですらわからない。

 それがシルヴィの問いに対するナフトの答えだ。

 

「……中尉。今付き合ってる方は?」

 

「いないが、それがどうかッ!!?」

 

 ナフトが全てを答える前にシルヴィは素早い動作で起き上がると体術を用いてナフトをベッドへと押し倒した。

 その足捌き、体捌きは明らかに酔っている者ができたものではない。

 

「酔っていなかったのだな。君は」

 

「私、アルコールにはかなり強いんですよ?あれぐらいじゃ酔えません」

 

 シルヴィは笑みを浮かべるとゆっくりと顔を近づけナフトの耳元に口を近づける。

 

「嫌だったら突き飛ばして下さい」

 

 言ってすぐにナフトの唇を奪った。

 ほんの少しの時間だった。軽く触れる程度のキス。

 

 ナフトは突き飛ばすことはしなかった。

 それを見て少し安心したように笑みを浮かべるとシルヴィはゆっくりと服を脱ぎ始めた。

 

 そして、彼女の上半身がブラだけになった時、それが目に入った。

 

「……幻滅、しちゃいましたか?」

 

 彼女の腹には火傷の跡のようなものが腹にあった。腕の方には何かで切られたような跡も見える。

 綺麗な肌に踊るようにあるそれらは禍々しく見えてしまう。

 

「私、母親に虐待されていたんです……」

 

 父親は衛士だった。

 しかしユーラシア大陸でのBETA戦で死んだ。

 

 それから母親は変わった。

 優しい笑みを浮かべる母だったのに目の下にクマを作り、痩せ細り、母親としての面影などなくなってしまった。

 

 それと時を同じくして突然癇癪を起こしたように暴れ出すようになった。

 その矛先は物などではなく、娘であるシルヴィ。

 

 熱湯をかけられ、カッターや包丁などでも切られた。彼女の体にある傷はその時につけられたものだ。

 

 母親の虐待は近所の人たちが気が付き、シルヴィが保護施設に行くことで逃れることができた。

 

「それから私は軍に志願しました。軍に入れば1人で生きていける。母とは違い、誰にも頼らずに1人で……」

 

 母はたぶん色々な人に頼っていた。父にも娘であるシルヴィにも……。

 そうはなりたくなかった。誰に頼りきって生きていたくなかった。母と同じような生き方だけは絶対にしたくなかった。

 だから軍に志願した。

 

 そして、訓練校に通っている時だった。日本の帝都防衛時の映像が流された。

 

「勇敢なる我が軍の衛士たちの姿を参考にせよ」

 

 ほとんどの候補生はその映像を嫌々ながらに見ていた。

 こんな映像を見せるぐらいなら訓練をさせろ、休ませろ。それが彼らの本音だった。

 

 それはシルヴィも同じ。退屈そうな目でそれを見ていた。

 だが、それもある戦術機の動きを見て変わる。その機体、米軍所属のF-15Eが長刀を持ち、BETAへと切りかかっていた。

 

 周りからは小さく失笑が聞こえてきたがシルヴィは違う。

 素直に、見惚れていた。綺麗だと思った。

 

 BETAの血を浴びながらも華麗に戦場を舞う戦術機。戦術機にあんな動きができるのかと現実を疑った。

 

 それから教官に聞いて回った。

 どうすればあんな動きができるのか、と。しかし、誰も答えられなかった。

 

「それからは苦労しましたよ。長刀の扱いは難しいし、他の人からは笑わられるしで……でも、成績だけはよくてこの部隊に着任できたんです」

 

 シルヴィは胸もとに両手を添えると優しく笑みを浮かべる。まるで、長年探し続けていたものを見つけたかのような安心した笑みだ。

 

「初めて中尉を見たとき、やっぱりこの人だって思いました……一目惚れって本当にあるんですね」

 

 今度は恥ずかしそうな笑みを浮かべた。

 コロコロと表情が変わるのはいつもと同じだ。そのまま彼女は続ける。

 

「一緒にいるうちにもっと好きになって……わたッ!?」

 

 シルヴィが全てを言い切る前にナフトは口で彼女の口を塞いだ。

 先ほどとは違い、少し深いキス。

 それを終えるとゆっくりと顔を話してシルヴィの頭を撫でる。

 

「もういい……もう、わかった。あまり言ってくれるな。恥ずかしくなる」

 

「中尉……?あの、私、こんな体ですけど……その」

 

「自分から押し倒しておいて何言ってるんだ?」

 

 冷静なナフトのツッコミにシルヴィは自分がした事を思い出し顔を赤くさせ、ナフトの胸に顔を埋めた。

 

「少尉の気持ちはわかった。私も、君の気持ちに答えよう」

 

「……名前で呼んでください」

 

「シルヴィ少尉」

 

 茶化すように呼ぶとシルヴィはバッ!と顔を上げた。

 その頬を膨らませ、視線で遊ぶなと訴える。

 

 ナフトはその頬を優しく撫でると笑みを浮かべて呼ぶ。

 

「シルヴィ」

 

「はいッ!!」

 

 その返事は今までのどの返事よりも大きいものだった。

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