ソードマンと呼ばれた者について   作:諸葛ナイト

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明星作戦(中)

【1999年 8月5日 神奈川県】

 

 1機のF-15Eが向かってくる要撃級の一撃を回避しながら横に回り込み、右手に持っている長刀を振り下ろした。

 吹き上がる鮮血を浴びながら左から集まっていきている戦車級の群れへと36㎜を放ち、肉片へと変える。

 

 その後ろから2体の要撃級が迫るが別のF-15Eが1体へ120㎜滑腔砲を2発、もう1体は長刀を振るい切り殺した。

 

「まだか……!」

 

『通信は、ないですね……』

 

 作戦開始からすでに5時間。彼らの戦闘が始まってから1時間。30分ほど前に日本帝国軍、斯衛軍、大東亜連合軍が軌道降下でハイヴに突入したとの報告は受けている。

 しかし、その後の定期報告が全く上がって来ない。

 

 BETAの数も少しずつだが増えてきている。

 国連が行なった光線級吶喊も成功しており光線級がほとんどいないため艦砲射撃はまだ続けられているが、それもいつまで持つか分からない。

 

(このままだと、すり潰されるな……)

 

 突撃級集団の突進を跳躍ユニットを吹かし、飛ぶことで回避。その後、そのまま進む突撃級の無防備な背中を突撃級で撃ち抜く。

 

 先にナフト機が着地、寄ってきた戦車級に36㎜をばら撒き、長刀を振るって片付けたタイミングでシルヴィ機も着地して同じように戦車級を肉片へと変える。

 

『前衛、交代だ。今のうちに補給を!』

 

「『『了解』」」

 

 ナフトとシルヴィ含めた4人がエヴァリスへと返事を返し、ターゲットにしていたBETAを倒すと後方へと下がる。

 その穴を埋めるように別の4機が前に出てBETAの駆逐を始めた。

 

 その間に燃料と弾薬を補給する。

 それと同時に管制ユニット内にある水筒で水を飲む。

 

「ふぅ……」

 

 あとどれだけこの戦闘が続くのかわからない。

 

 ゆっくりと呼吸を繰り返していると頭上を艦艇から放たれた砲弾がいくつも飛び、群がるBETAへと着弾、それと同時に爆発し大量のBETAを吹き飛ばす。

 

『はは……どうしたんですか?中尉。数あんまり変わりませんよ?』

 

「持久戦だからな。いきなり飛ばすと後が続かないぞ?」

 

 そう言いながら心の中で安堵する。

 まだ軽口を言える余裕がある。ギリギリだがまだどうにかなる。

 

「補給が終わったらまた俺たちで前に出る。少し押され始めたからな。ここが踏ん張りどころだ」

 

『了解。任せてください』

 

 その後、補給を終えた2機は再び前線へと舞い戻り、迫り来るBETAをなぎ倒していく。

 

◇◇◇

 

 それから約1時間ほどが経った時だった。

 ちょうどナフトとシルヴィが補給へと戻ろうとしていた時、CPからの通信が響いてきた。

 

『こちらCP。全部隊へ通達。ハイヴへの進攻部隊全滅。繰り返す。ハイヴへの進攻部隊全滅』

 

「ッッ!!?」

 

 それは薄々予想していたとはいえ彼らに衝撃を与えるには充分過ぎる情報だった。

 

 しかし、それだけではない。

 

 突如として地面が揺れ始めた。

 一瞬地震かとも思ったがこれは違う。帝都防衛の頃にも経験した揺れ方だ。

 すぐに戦術機のレーダーを使って確認するがやはり同じ結果を導き出している。

 

「地中……進攻!」

 

 ナフトの言葉を肯定するかのように地面に大穴が開くとそこから大量のBETAが現れた。

 

『ちゅ、中尉!BETAの数が……』

 

 レーダーへと視線を移すとハイヴがある方向はあまりの数で真っ赤に染まっている。

 あっという間に測定不能を表す表示が現れた。

 

『全機!このポイントを一時的に放––––』

 

 エヴァリスが全てを告げる前に警報音がけたたましく鳴り響き、彼らの網膜に表示を映し出す。

 

「照射––––」

 

『––––警報!?』

 

『全機!散開ぃいい!!』

 

 その声と同時に動き出せたのは11機。1機は補給中であったため、わずかに動きが間に合わずレーザーに撃ち抜かれた。

 

(まずい……ここで光線級はまずいぞ……)

 

 まだかろうじて光線級吶喊は出来るがそれでも確実に戦力は削られる。

 そんな状態からハイヴへ突入するなど至難を通り越してもはや無謀だ。

 

 全艦が対光線級用のAL弾頭に切り替え、重金属雲の濃度を上げようとしているが完全に展開し終えるのはいつになるか分かったものではない。

 

 そんな時に通信が入った。

 そこに映るのは部隊のCPオフェンサーでなく米国部隊を統括する者だった。

 

『我々はこれよりG弾を使い、BETAを一掃する。予想効果範囲をこれより送る。全部隊はこの範囲より900秒(15分)以内に離脱せよ。繰り返す––––』

 

 送られてきた情報を表示させ、部隊員は息を飲んだ。

 

「なん、だ?この範囲は……」

 

『こんなの……戦術核よりも、ずっと広い』

 

 表示されている情報は明らかに何かの悪ふざけか希望的観測となじられても仕方がないような広さだった。

 どうやら2発使うようだがそれでも範囲が明らかに大き過ぎる。

 

(第1に光線級はどうする?どれほどの物であれ光線級がいたらどうしようもないはず……)

 

 それは上層部もわかっているはず。

 しかしそれでも何も指示してこないというのはおかしい。

 

『全機、これより我々は効果範囲外まで後退する。フォーメーション、アローヘッドワン。先頭はドッグ3。いけるな?』

 

 気にする様子もないエヴァリスにナフトは少したじろぎながらも返答を返す。

 

「りょ、了解」

 

 ナフトが移動を始めると他の機体もそれぞれのポジションへと並び、移動を始めた。

 

◇◇◇

 

 度々BETAの生き残りが数体出て来るがこの調子なら問題なく後退ができる。

 

 そんな時、自機を低く飛ばしながらナフトは考えていた。

 

(にしてもアメリカは何をするつもりだ?)

 

 詳しい情報は何一つとして与えられなかった。ただ逃げろと言われ、素直にそれに従って動いているだけだ。

 

 嫌な予感がする。本能が訴え続けている。

 

 ただ逃げろ、と。

 

「ん?」

 

 そんな時だった。中隊の横を2機の戦術機が通り過ぎた。

 

(青い、不知火(Type94)?)

 

 不知火。

 それは世界で初めて実戦投入された第3世代戦術機だ。

 しかし、開発に時間がかけらなかったのか別の理由からか拡張性がほとんどなく。また、日本製戦術機の特徴が強く現れ過ぎ、あまり国連仕様の機体は見たことがない。

 

「ッ!あの2機!!」

 

 だが問題はそこではない。問題はその2機の向かう方向。

 その方向はG弾と言われるものの効果範囲内へと入る方向。少なくとも後退命令が出ている者が取るルートではない。

 

(まさか!米軍のみへの通達?)

 

 浮かんだ瞬間、一蹴しようとしたがすぐにやめた。

 米軍のみに通達されているのであれば他の軍が、例えば先ほどの不知火のように前へと進むのにも納得が行く。

 

 中隊各機は動く気配がない。もしかしたら重金属雲の影響でレーダーに支障が出ているのかもしれない。

 そしてそれは彼も同じ。ただ目視(カメラ)で偶然に見えただけだ。

 

 だから彼も無視しようとも考えた。だが、妙に頭にチラつく。気になって仕方がない。

 

「……クソ!」

 

 ナフトは悪態をつき、操縦桿を握りしめると自機を今まで進んでいた方向とは真逆へと変えた。

 

『なっ!?』

 

『ちょっ!』

 

「先ほど国連軍の戦術機を見つけました。後退を知らせてきます!」

 

『待て!中尉!』

 

 エヴァリスの静止の声を振り切り一気に跳躍ユニットを吹かす。

 

『私が追います!皆さんはこのまま後退を!』

 

 その後に続くようにシルヴィは言うと機体を反転、ナフト機を追い跳躍ユニットを吹かした。

 

◇◇◇

 

「……おい!そこの2機!聞こえるか!」

 

 ナフトはF-15Eを駆りながらオープンチャンネルで呼びかける。

 だが、返答はない。

 

 重金属雲が厚くなり通信状況がかなり悪くなっているのだ。おそらくここからでは通信は届かない。

 レーダーにも自分は写っていない可能性まである。

 

(もう少し近づかなければダメか)

 

 ナフトが奥歯を噛み締めているとノイズ混じりの通信が入ってきた。

 

『ま、待ってください!中尉!』

 

 叫ぶのはシルヴィだった。

 

「少尉!?なぜ付いてきた!」

 

『こんな状況で1人にできるわけないじゃないですか!中尉こそどうして急に。国連軍機なんて……レーダーには!』

 

「重金属雲でレーダーは役に立たない!たまたまカメラで見えただけだ。国連はG弾の投下を知らないかもしれない。全部は救えなくとも、目に付いた奴はどうにかする」

 

 早口でまくし立てると速度を上げる。

 それに続くようにシルヴィも速度を上げ、ナフト機の隣に並んだ。

 

『まさか!なんでそんな!』

 

「米軍がこれに首を突っ込んできたのはあの兵器を試すためだ。他国が反対したとしても強行する!いや、したんだろう。だとしたら他の国へは無通告でやっている可能性が9割だ」

 

 佐渡ヶ島にハイヴが出来てからアメリカは日本への援軍はほとんど送っていなかった。横浜にハイヴが出来た時もそうだった。

 しかし、なぜかハイヴ制圧という時になってようやく腰を上げた。G弾というよくわからない兵器とともにこの作戦に介入した。

 

 それは米軍は最初からこの作戦を実験場としか見ていなかったと考えられないだろうか。

 もしそれが事実だとしたらだ。米国は他国を切り捨てることだってやりかねない。

 例え日本やその他の国から責められようともハイヴを攻略した。という実績があればそう大きな声で言うものは少ない。

 確実を期すために2発も持ってきたのだろう。

 

(クソ!自国主義もここまでこれば感に触る!)

 

 怒りをぶつけるように要撃級の横っ腹通り抜けざまに叩き切る。

 わずかに止まったナフト機へと戦車級が飛びかかるがそれを36㎜をばら撒くことで肉片に変えた。

 それを一瞥すると再び跳躍ユニットを吹かし飛ぶ。

 

『でも!だからって中尉が言いに行く必要はないはずです!』

 

「救える者がいるのに切り捨てろというのか!目の前に、手を伸ばせばそこにいるんだぞ!」

 

『ッ!中尉は偽善者にでもなるつもりですか!』

 

「偽善がなんだ!動かなければ何も変わらない!それにな、それでも善であることに変わりはない」

 

 息を飲むシルヴィを無視してナフト機は速度を上げ、BETA集団の間を縫うように進む。

 しかし機体の性能差が影響してかとてもだが追いつけない。

 

(もっと早く動け。もっと、もっと!)

 

 焦っていたせいだろう。

 

『ッ!中尉!!』

 

「ッッ!!?」

 

 BETAの死骸かと思っていた場所から要撃級の腕が伸びてきたことに気が付かなかった。

 

 声をかけられて気がつきはしたがもう間に合わない。このまま攻撃が当たれば管制ユニットに直撃する。

 とっさに判断できたがかなりの速度で動いていたため急ブレーキをかけても止まらない。

 

 その時だった。横から衝撃が訪れた。

 自機が横から何かに突き飛ばされたのだとすぐにわかったが目の前の光景の意味がわからなかった。

 

「な、ん……」

 

 吹き飛ばされるナフトの網膜にはシルヴィ機の管制ユニットに要撃級の腕が当たり、装甲が散らばる姿が映されていた。

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