ソードマンと呼ばれた者について   作:諸葛ナイト

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明星作戦(下)

 

「シルヴィイイイイ!!!」

 

 ナフトはすぐさま自機の姿勢を直すと突撃砲を投げ捨て長刀で要撃級を突き刺した。

 間髪入れず膝装甲ブロックから短刀を取り出し、逆手で持つとそれでも突き刺し、確実に息の根を止める。

 

「シルヴィ!シルヴィ!!」

 

 通信を必死にかけてようやく声が返ってきた。

 

『ちゅ……い……』

 

 しかしその声は弱々しいものだった。内部カメラも破壊されたのか声のみで内部映像は入ってきていない。

 

 だが、それでも彼が安心するには充分だった。

 

「ま、待っていろ。今––––」

 

『だめ……です』

 

 一瞬その言葉が理解できなかった。できなかったたが視界の端にあるタイマーが目に入った習慣、理解してしまった。

 

 残り約360秒。

 その時間では彼女の機体を抱えながら飛ぶのは無理だ。一機が全力で飛ばせばギリギリ離脱できるかもしれないという時間。

 機体を抱えていれば絶対に間に合わない。

 

「いや!管制ユニットを切り、離……せ、ば」

 

 言葉は出たが無理だと悟る。

 シルヴィのF-15Eの胸部は完全に歪んでいる。

 そんな状況で中にいる者を傷つけずに管制ユニットのみを取り出すなど無理だ。同じ理由で緊急脱出(ベイルアウト)も無理。

 

 そもそも胸部のこの凹み具合を見れば中の衛士の状態など容易に想像できた。

 おそらく下半身は潰されている。かろうじて上半身と顔が無事というところだ。

 もし離脱できたとしてもその時にはもう死んでいる。

 

 その考えを否定し、何か策はないかと考え込むナフトにシルヴィの声が届く。

 

『私を……殺、して……』

 

 息を飲むナフトにシルヴィは続ける。

 

『最後は……好きな人に、殺され、ゴホッ』

 

 彼女の苦しげな言葉は水っぽい咳が入ってしまい最後まで言われることはなかった。

 

 ナフトは奥歯を噛み締めながら操縦桿を強く握りしめる。

 

◇◇◇

 

 なんて酷なことを言うんだろうとシルヴィは思う。

 しかし同時にもしナフトに同じことを言われれば自分はどうするだろうと考える。

 

 悩むはずだ。戸惑うはずだ。もしかしたら諦めることに怒りを感じるかもしれない。

 

 そして、結局は何もできないような気がする。

 

 「殺して」と言ってから彼の答えは聞こえない。

 かろうじて見えるナフトのF-15Eを見つめながら答えを待つ。

 

 それからどれほどだったのだろうか。ほんの数秒であったはずなのにとても長い間待っていたような気がする。

 

 ナフトは答えることなく兵装担架に残っていた長刀を装備、それの切っ先をシルヴィへ向け両手で握りしめた。

 

(ああ、よかった……)

 

 彼は決められた。

 多くを語れない自分の意志を汲み取り実行に移してくれた。

 

(あ〜あ、なんで、また好きにさせるんですか……)

 

 本当に仕方のない人だと思う。

 

 何にでも真面目に取り組み、細かいことにもすぐに気が付き、善悪がはっきりしている上に自分の意見を臆面なく言う。しかもそれらに加えて行動力まである。

 

 そのくせ自分に向けられる感情には無関心ときた。

 

 でもそこが好きだった。

 1人で大概のことをしてしまえる。自分の進むべき場所を知っている。

 

 シルヴィにはナフトが完璧な人間に見えた。まだ彼は戦う理由を見出せていないのに。

 

(あ、でも……)

 

 心配事がある。

 彼はなんでもできてしまう。しようとしてしまう。

 だからかも知れないが、彼はなんでもかんでも1人で背負いこみすぎてしまう。それを少しでも楽にさせる者が必要だ。

 

 自分には無理だった。

 ただ彼の背中を追い、支えることしかできなかった。

 

 しかし、彼に必要なのは隣に立てる者だ。背中にある物を無理矢理下ろせるだけの強さを持つ者だ。

 自分よりももっと強い。本当の意味で隣に立てる者が彼には必要なのだ。

 

 薄れゆく意識の中はナフトについていっぱいだった。

 

(初めて、私を愛してくれた人……)

 

 彼だけは自分を愛してくれた。

 体にある傷を見せても驚きはしていたがすぐに柔らかい笑みを浮かべて優しくそこに触れてくれた。

 

「生き……て」

 

 本来ならもっと言いたいことがある。

 だが、時間と自分の体がそれを許さない。

 四肢は潰されて内臓もいくつか潰されているせいで這い上がってきた血が口から伝い落ちる。

 そのせいで続く言葉が言えない。

 

 ナフトが駆るF-15Eは長刀を掲げた。

 

(あ〜あ、でも––––)

 

 最後に脳裏に走るのは彼との記憶。

 ほんの半年と少し。彼の彼女になれたのは半年程度。

 親にすら愛されることなく生きていて幸せだったのはほその時だけだった。

 

(––––もっと)

 

 最後にただ望むのは彼が生き続けてもっといい人を見つけること。

 

「生きていたかったなぁ」

 

 そう小さく呟き、少女は力なく笑い、その目からは涙が伝い落ちた。

 

◇◇◇

 

「……」

 

 ナフトは胸部の管制ユニットに長刀が突き刺さっているF-15Eを見下ろす。

 彼の目に涙はない。苦悶の表情もない。

 いつもの彼の顔がそこにはあった。

 

 視界の端になるタイムリミットは330秒を表示していた。

 離脱できるかどうかはギリギリというところだ。

 

 しかしなんとしてでも離脱しなければならない。生き残らなければならない。

 

 それが彼女が最後に望んだことだから。

 

 ナフトは跳躍ユニットに火を入れると離脱ポイントへ向けて飛ぶ立つ。

 BETA集団が所々に残ってはいるが迂回する時間はない。一直線に突き抜けて行く。

 

 F-15Eを駆る彼の顔はいつもと同じ。だが、その手は怒りをぶつけるかのように、悲しみを押し込めるかのように強く握りしめられていた。

 

◇◇◇

 

 ナフトがG弾の予測効果範囲から離脱できてから約30秒後。それはハイヴへと落とされた。

 

 ハイヴを飲み込み、BETAを飲み込んだ黒い半球。それにより明星作戦は成功を収めた。

 人類が初めてBETAに一矢報いた作戦であったことなど言うまでもない。

 

 しかし、離脱の通達を受けていたのは米国軍、国連軍のみだった。

 何者かの活躍により帝国軍、斯衛軍の一部も離脱できていたがそれでもほとんどの部隊を失ったことに変わりはない。

 

 特に酷かったのか大東亜連合軍だ。

 こちらは前線に出ていた部隊の8割を消失。壊滅的被害を受けることとなった。

 

 人類側の被害は相当ではあったがこれにより西日本に残っていたBETA集団は大陸への移動を開始。

 それに対し残存部隊並びに日本帝国軍、斯衛軍の戦術機甲大隊の追撃によりBETA集団に大きな被害を与えて明星作戦は終了した。

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